チ ー ム 医 療と 薬剤師 地域包括支援センターとの連携による 保険薬局の在宅医療への貢献 株式会社アインホールディングス 運営統括本部 在宅医療部 在宅医療課長/薬剤師 阿久津 勝則 先生 保険薬局は、在宅医療を含む地域包括ケアシステムにおける多職種連携の一角として位置付けられてい る。 しかし現実は、保険薬局がそのシステム内に入れていないことが少なくない。株式会社アインホールディング ス (本社:北海道札幌市)在宅医療部在宅医療課の阿久津 勝則先生らは、新宿区(区内5店舗)において地 域包括ケアシステムへの保険薬局の参入を目指し、アプローチ方法を模索。地域の高齢者を支えるために 様々な取り組みをしている地域包括支援センターと連携することで、保険薬局の役割について認知を高め、地 域医療に貢献できる可能性を見出している。その実際と今後の展望について、阿久津先生にお話を伺った。 地域包括支援センターにアプローチ 保険薬局の地域医療貢献をアピール 医療介護関係機関、社会福祉協議会、警察、消防、NPO 法人、飲料メーカーや警備会社などの民間企業)が各事 業所から1名ずつ、2∼3ヶ月に1回集まり、高齢者の孤独 −地域包括支援センターと連携するようになったきっか 死、災害時の高齢者ケア、障害者に対する地域サービスと けを教えてください。 いったテーマについて話し合ったり、参加者各々の活動を 阿久津 昨今、保険薬局が在宅医療に貢献することが 紹介したり、情報の交換・共有をする場です。 強く求められるようになっていますが、実際は十分に応えら れていません。弊社ではその実現を目指し、 アプローチを 模索しています。一端として新宿区では、地域の介護を担 地域情報交流会への参加をきっかけに 地域の多職種や高齢者と顔が見える関係に う居宅介護支援事業所を訪問したところ、地域医療連携 −地域情報交流会への参加が、 どのように多職種と連 の取り組みに熱心な地域包括支援センター(以下、 センタ 携を深めることにつながっていったのですか? ー) をご紹介いただき、 「薬剤師ができること」についてアピ 阿久津 地域情報交流会では様々な医療・介護従事者 ールする機会を得ました。訪問薬剤管理指導の案内パン の方々に対し、保険薬局が訪問薬剤管理指導などを通じ フレットも用いながら「薬剤師は薬の説明や配達だけに留 て地域の高齢者や障害者の見守りに貢献できることを説 まらず、薬の管理を支援したり、体調を確認して医師や看 明しました。 さらにケアマネジャーなど医療関係者には、訪 護師と連携の上で薬を服用しやすくしたりと、皆さんと一緒 問薬剤管理指導の流れや手続き、費用などについて講習 に地域を支えていく役割を担えます」 と説明すると、意気 を行いました。居宅療養管理指導サービスの利用料は支 投 合したセンターから『 地 域 情 報 交 流 会( 地 域ケア会 給限度額に含まれないこと、回数単位で算定するため薬 議)』に誘われ、初めて参加したのが2013年頃です。以 後、交流会に参加する様々な職種の方やセンターとの関 図1. 新宿区における見守りネットワーク概略図 係を深めてきました。 −地域情報交流会とはどのような会ですか? 阿久津 厚生労働省では、地域で安心して暮らすための 支援(見守りや買い物支援)が必要な方に漏れなく提供さ れるよう、市区町村を実施主体とした『 安心生活創造事 業』 を所管しています。漏れなくカバーする方法として 『見 守りネットワーク』の構築が推奨され、新宿区も身近な事業 通報・情報提供 専門職的見守りと定期的な接触介入 ①生活圏 地域住民 見守り 地域企業 地域高齢者 NPO 援助 民生委員 など 者を対象とした『高齢者見守り登録事業』 を推進し、 『見 守りネットワーク』 ( 図1) を整備・強化してきました。交流会 は、 この見守りネットワークの関係者(新宿区役所、地域の 3 専門職的見守り ②専門職 行政 地域包括支援センター 医療 (薬局) ・介護・ 警察・消防など 図2. 新宿エリアにおける訪問薬剤管理指導の実績 2013年 8月 2 実施店舗数(店) 15 訪問対象人数(人) 22 訪問薬剤管理指導件数(件) 24 訪問回数(回) 対象 2014年 前年比 8月 (倍) 5.5 11 2.7 41 3.4 74 3.7 89 剤師のサービスには時間制限がないこと、 それにより訪問 看護師やヘルパーは薬に関わる時 間を減らして看護や介 図3. 保険薬局・薬局薬剤師に対する意識調査結果(n=70) 講習会・交流会 開始前(マイナス意見のみ抽出) 聞きたいことがあっても、忙しそうで聞きづらい。 医師の指示通りに薬を揃えるだけ。 自宅に来る必要性を感じない。 自宅に来るのは抵抗がある。 など 講習会・交流会 終了後 薬剤師が薬局で何をしているのかが理解できた。 薬局の外で仕事をしている薬剤師を見て、薬局のイメージが変わった。 薬剤師が家に来て、薬の管理を行う必要性が理解できた。 もっと多くの薬剤師にも自宅の訪問に行ってほしい。 薬剤師の講習会をたくさん開催してほしい。 護など本来の業務に集中できるので全体的なケアの向上 につながることなど、薬剤師の介入がもたらすメリットにつ いて認知が広がるにつれ、相談件数も増加しました。 このような活動を通じ、他の職種は薬剤師の、薬剤師は 線の重要性を再認識しました。 さらに、 センターとも良好な 他の職種の取り組みを理解することで連携が深まり、意見 関係の下、質の高い連携ができるようになり、薬局内だけ 交換がしやすくなります。密な意見交換で得られた明確な でなく、地域の高齢者・認知症患者に対する見守りに貢献 情報を基に処方提案などを行い、患者さまのADL向上に できるようになりました。 貢献できるケースも増えてきました。最近では、 ケアマネジャ ー同士のつながりで近隣の中野区や港区などにも拡大 し、新宿区だけでなく近隣区内店舗における訪問薬剤管 薬剤師の地域包括ケア参画による 高齢者の医療・介護依存度抑制の実証を目指す 理指導実績も向上しつつあります(図2)。 −センターとの連携を皮切りに成果が得られているよう −センターを通じ、 地域の高齢者や認知症患者へのア ですが、今後の展望を教えてください。 プローチも生まれたそうですね。 阿久津 これまで薬剤師は、医師や訪問看護師がすでに 阿久津 センターや地域情報交流会参加者の紹介で、新 介入している地域包括ケアへ「最後に」入っていました。 と 宿区が50歳以上の区内在住者に集会、娯楽、 ボランティア ころが今は、 センターが巡回先において薬の管理や服用 などの場として提供しているシニア活動館(区内4ヶ所) で に問題があれば、 まず薬局に相談が入り、私たち薬剤師 『お薬講座』 を開催したり、地域の高齢者や認知症患者の が当該患者さまを訪問し、薬剤師の介入が必要だと判断 家族・介護者が交流の場として自主開催しているお茶会 すれば、かかりつけ医へ訪問薬剤管理指導を提案し、指 や認知症カフェなどに顔を出したりするようになりました。 お 示を得て介入する―すなわち、薬剤師が「最初に」地域 薬講座では、55∼84歳の区内在住者約40名/回を対象 包括ケアへ参入するケースが増えつつあります。 に、薬の基礎知識、認知症、薬剤師の在宅医療への取り 今後、弊社では、新宿区でのグループ薬局とセンターと 組みについて情報を提供しました。お茶会や認知症カフェ の連携の取り組みをモデルケースとして、全国展開を進め では、 「遊びに来たついで」 という気軽なスタンスで来場者 ています。保険薬局が地域に貢献できることを理解しても からの薬に関する相談に応じました。その結果、地域の高 らう上でセンターとの連携は不可欠です。 センターや見守 齢者とその家族の保険薬局や薬剤師に対する理解が深 りネットワークは、地域によってあり方や活動方法などに若 まりました (図3)。 干の違いがあるものの各市区町村に必ずあるので、 ほか また、 センターでは、高齢者が利用するスーパーや郵便 の地域のグループ薬局には、 インターネットや行政の担当 局などの窓口から認知症疑い例の情報を得て当該者宅 窓口などで情報を得てアプローチするようにアドバイスして を巡回し、支援が必要と判断したら介入するというしくみ います。 また、地域包括ケアを構成する一員となり、地域に で、認知症の早期発見と孤独死の防止に努めています。 お住まいの方々の安心・安全な生活に貢献することが目的 薬局窓口もその特性から、認知症予備軍を発見する場と であることと伝えています。その上で、薬剤師が地域包括 して十分機能するはずです。そこで、私を含め新宿エリア ケアへ初期段階から介入することにより、高齢者の医療・ センターが開催している 『認 の弊社薬剤師のべ80名 は、 介護依存を予防できることを検証し、新オレンジプランの一 知症サポーター養成講座』 を受講しました。実践方式で学 環として市区町村が推進している 『認知症ケアパス』の早 んだことで認知症患者への対応力が向上し、患者さま目 期の段階に薬剤師が組み込まれることを目指しています。 ※ ※グループ全体では1,000名以上の薬剤師が認知症サポーター養成講座を受講しています。 4
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