間違えてもいい「頭を濃密に使う」授業で 深く考え続ける力や、創造する力

数学
どんな授業なのか
知識習得から課題解決まで
とにかく頭を使う授業を
県 内 有 数の進 学 校 、浜 松 北 高 校に勤
務 する大 村 勝 久 先 生は、昨 年 度 受けも
レット端 末 を 操 作して入 試 問 題 を 自 分
用 意 されたタブレットでその 情 報 を 共
なりに解 説し、
ほかの生 徒も二人に1台
有し、さらに話し合う 、といった授 業だ。
今 年 度 、1年 生 を 受けもった 大 村 先
生は、この2つの流れをさらに加 速させ
とはいえ、受 験のためだけに数 学を学
んでほしいのではない。
﹁ 大 学に受かるだ
もう一つの理 由は、
けじゃダメなんだと。受かったあとも、社
会に出てから も 、活 躍できる 人にな ろ
﹁ 暗 記した知 識で問 題を解 くだけでは、
う ﹂という思いがあるからだ。
大 学で 学 問の研 究はできません。警 戒
た。
﹁ 授 業の密 度 をいかに濃 く するか﹂
を 徹 底 的に考 え 、限 られた時 間でも 生
題の解 決 もできません。そこで 求 めら
される 東 海 地 震への対 策 など 、社 会 課
れるのは﹃ なんでそうなるのか﹄を 深 く
徒が﹁ とにかく 頭 を 使って ﹂教 科 書の内
知 識の習 得をしやすくすることを目 指
考 え 続けて 追 究していくことです 。生
容や 問 題 演 習に向 き 合 えるようにし 、
した︵ 左ページのカコミも参 照 ︶。
ていない課 題 を 解 く ﹂
﹁ 自 分で 新しいも
そのう えで 、単 元 学 習 の 時 短によっ
て生み出した時 間 を 使い、生 徒が﹁ 習っ
てもらえたら、と思っています ﹂
そこで 創 造したこと を 、社 会に還 元し
いのです 。そしてそこでつかんだ知 見や
分たちで学び合う 学 問 研 究をしてほし
徒には、進 学 後 、自 主ゼミのように、自
のを 作 る ﹂ことに挑 戦 する 機 会 も 増や
授業中に意見も述べれば
自分たちで考えも深めていく
生 徒はどう 変わったか
したのだ。それも、個 人で考えたり、
ペア
やグループで 話し 合ったりと 、様々なス
タイルで。生 徒が、正 弦 定 理と三角 形の
性 質 を 応 用 すれば解ける問 題 をやって
浜 松 北 高 校の生 徒は、勉 強はきちん
とやるが、以 前は授 業 中に自 ら 発 言 す
みる。その問 題の解き方を足がかりに、
作ってみる︵ 正 弦 定 理から 下 方 定 理 を
学んだことを応 用して深 く 考える授 業
ることはまずなかった。でも 、教 科 書で
いつでも 成り 立つ新 たな 定 理 を 自 分で
導き 出せる︶。正 弦 定 理やチェバの定 理
﹁ 生 徒には﹃ 間 違えてもいい、できなく
口にしたりするようになった。
かければ、生 徒が手 をあげたり、考えを
を 進めていく と 、
﹁ ど う 思 う? ﹂と 投 げ
を 使って 解 く 問 題 を 生 徒が自 作し 、隣
同 士で解きあってみる。
こうした授 業に取り 組んでいる 理 由
は二つあり 、大 村 先 生 はその 意 図 も 生
徒に日 頃から伝えている。
数 年 前と比べると、
生 徒がすごくアクテ
そこが狙いなんだ ﹄と言っているんです。
正 弦 定 理を使って
° を求める問
sin75
てもいい。みんながどれだけ頭 を 使うか、
うもの、両 方の問 題が出るよ﹂と考えて
﹁みんなが受 験 するときには、
一つは、
たぶん、知 識を問うものと、思 考 力を問
ィブになりました﹂
った3 年 生に、東 大 ほか大 学 入 試 対 策
の授 業や補 習をみっちり行ってきた。
いるからだ。大 変だが、どちらの学 習も
おろそかにはできない。
その一方で、生 徒が自 分たちで考え 、
学 び 合 う よう な 授 業 も 意 図 的に差 し
挟んできた。例 えば、
一人の生 徒がタブ
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2016 OCT. Vol.414
1894年創立/普通科・国際科/生徒数1209人
(男子701人・女子508人)
/進路状況
(2016年3月実績)
/大学260人・短大1人・専門学校1人・留学1人・進学準備146人
学校データ
間違えてもいい「頭を濃密に使う」授業で
深く考え続ける力や、創造する力を育む
浜松北高校(静岡・県立)
大村勝久先生
教員歴27年。深い思考をする
授業の研究に力を入れつつ、
入試対策の問題作成にも燃え
る。どの問題とどの問題の組み
合わせがベストか延々と悩むこ
ともよくあるという。
【Report 04】数学
「授業」で社会を生きる力を育む
授業で活用するポリドロン
大村先生の授業デザイン
題に挑んだときのことだ。わかった生 徒
が手 を あ げて 発 表 すると 、それを 聞い
たある 女 子 生 徒は、うしろの席の男 子
° も求められるかな?﹂と
sin15
投 げかけた。彼 女は中 学 生のときは数
生 徒に﹁
大 村 先 生が願っている、自 主ゼミのよう
学んだことを 基に生 徒が自 分たちで
問いを 見つけて 、さらに学 びを 深める。
を 学ぶ楽しさを 伝えきれない﹂と思って
よう な 授 業で ないと 、生 徒 たちに数 学
のも﹁ 自 分 も 挑 戦して 面 白いと 思 える
授 業をできないか検 討している。という
日 常 生 活の生データを 分 析 するような
﹁どういう授 業がいいと思う?とこちら
に創ってきたのだ。
るには﹂
について意 見を求め、授 業を一緒
業の﹁ 良い点 ﹂
﹁ 今 後の課 題 ﹂
﹁より深め
や授 業 後の雑 談で 、生 徒から 今 回の授
導 入してみて、そのつど振り返りシート
てくれたりするので﹂
な空 気が芽 生えつつある。
いるからだ。
が真 剣に問 う と 、生 徒 も 真 剣に返して
今後行いたい授業
たやりたい、説 明したり説 明されたりす
学に苦 手 意 識をもっていたという。
ただし、挑 戦 するだけで満 足はせず 、
生 徒からのフィードバックも 必 ずもらう 。
ると 理 解しやすい﹄
﹃一人で 考 える 時 間
く れるんで すよ 。
﹃ グループワークを ま
そ もそ も 今の1年 生の半 数は、中 学 校
も ないと 、話し 合っても 中 身がない ﹄な
﹁ 中 学では定 理 を 覚 えこんで 、ひたす
では講 義 形 式の授 業 を 中 心に受けてい
どと。学び合いですね。この子たちに私
ら問 題を解 くだけだったので。今は、な
て、生 徒 同 士の学び合いに慣れていなか
①「振り返りシート」
「 授業の感想」
を生徒に書かせ、気づいたことや学んだことを振り返らせると同
時に、授業の良かった点や課題もあげてもらう。
②「タブレット端末」
で3年前から授業を時おり撮影。当初の目的は生徒の様子の把握だったが、
今では先生自身の授業中の言動の振り返りにも活用している。
教師として挑戦を続け
生徒と一緒に授業を創る
んでそうなるのか、そういう 過 程からや
った。だから大 村 先 生は、隣 同 士で話し
4 生徒と共に授業改善・授業創造
と創る授 業 ﹂を目 指したいという。
①「教科書の課題学習」のアレンジ問題に挑み、既存知識を組み合わせて考えることで新しい定
理を導いたり、東大入試を解いたりと、生徒が新たな知見を創造。
②「ヒントの紙片」
を大村先生が持ち歩き、問題に行き詰まった生徒から求められれば個別に渡
す。自分で考えたい生徒は時間ぎりぎりまで粘っていい。
も教わっています ﹂
3 深い思考や創造に生徒が挑む
合 うことやグループワークを 少 し ずつ
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るので 楽しいです 。
° も 自 分 だけ
この先 、大 村 先 生 としては今 以 上に
sin15
では求められないかもしれないけれど 、 ﹁ 教 師 と 生 徒にマッチした 授 業 ﹂
﹁生徒
①「様々な授業手法」
( 他人の見方にふれるグループワーク、全員理解を目指すグループワーク、
問題を自作して解き合うワーク等)
で視野を広げる。
②「教具」
( 三角定規、平面模様や立体を形作れるポリドロン等)
を積極的に活用、生徒が実物を
さわったり見たりしながら考える時間も重視。
例 えば、場 合の数 と 確 率の単 元では、
2 多様な見方や表現を生徒が学ぶ
みんなと学び合いながらやると、私では
①「学習計画」
(写真左)
を毎週配布、生徒に予習をしての授業参加を求める。
②「移動黒板」
(写真右の奥)
に事前に数式などを記述、板書時間をカット。
③「ストップウオッチ」
を片手に「3分で考えよう」
「 30秒で相談」
などタイムキーパー役を務め、個々
のワークの間延びを防ぎ、集中を促す。
思いつき もしないこと を 、まわりが言っ
1 時短をして生徒の思考時間を増やす
取材・文/松井大助