「自分」と「他者」の違いを考察する授業で ものの見方・考え方を鍛えていく

国語
どんな授業なのか
解を記したノートを持ってくる。何 人か
生に前 回の授 業で 出された課 題への理
生 徒が自 ら 学 ぼう として 、生 徒 自 身の
の邪 魔をしないよう気 配を消している。
に脳 味 噌を使っていて、先 生はその思 考
国語という教科学習を通じて、
生きて働く高次な学力を培う
ペースで進んでいる授 業だった。
の生 徒は、その際 声をかけられる。
渡 邉 先 生は現 在3学 年の4クラスで、
118人の生 徒の授 業 を 担 当している 。
現 代 文 と 古 典 を 合 わせると 、どのクラ
スもほぼ毎 日 授 業があるため、
100人
前 後 のノートを 毎 朝 見 ていることにな
授 業デザインについて先 生に聞いた。
﹁ 学 習 活 動 を 通じて 、自 身のもつ知 識
そして 、このノートが学 びの肝 となっ
ている。渡 邉 先 生は、生 徒が書き留める
と考えています。私の目 的は、生 涯にわ
=﹃ 生きて働 く 高 次の学 力 ﹄を育てたい
や技 能 を 意 図 的に使いこなす 高い能 力
ための板 書は一切しない。ノートは授 業
を育てることです。国 語で育む力は
﹃話
たって学びを続ける﹃ 自 立した学 習 者 ﹄
る。
中の課 題に対する理 解を書 くためだけ
す ﹄﹃ 聞 く︵ 訊 く ︶﹄﹃ 書 く ﹄﹃ 読む ﹄の4
ではな く 、自 分が思ったこと 、授 業 中に
仲 間の意 見で 気 付いたこと な ど 、生 徒
立した話し手・聞き︵ 訊き︶手・書き手・
読み手にな ろ う ﹄と 、毎 年 最 初 の 授 業
︵5︶技 能と定 義されている。だから﹃ 自
日 確 認 することで 、先 生は生 徒の頭の
で年 間 目 標 を 示しています︵ 図1︶。そ
自 身の思 考の変 遷を自 由に書 くメモ帳
中 を 覗 き 込み、心の 機 微 を 把 握 し 、そ
とを理 解します ﹂
の目 標を示せば、生 徒たちはやるべきこ
と位 置づけられている。そのノートを 毎
の日の授 業の展 開を臨 機 応 変に変えて
アクティブ・ラーニング=グループワー
クによる 学 び 合いと 思 わ れがちの 中 、
だ 。その授 業の様 子は今 まで 見たこと
の 設 定 や 、語り 手 の 心 情 をつかむ 内 容
んな 人 と 協 働しても 、相 手や 場に応じ
社 会に出れば様々な 人々との関わり
の中で生きていかなければならない。ど
いく 。生 徒たちが﹁ 今 ﹂足りないもの、培
うべき ものに合 わせた 授 業 を するため
だ 。それができるほどの教 材 を 準 備し
ている、教 材 研 究 力に驚かされる。
この 日 は 海 洋 科 学 科 と 国 際 探 究 科
の現 代 文の授 業を見 学 。クラスによって
題 材に使 用した教 材︵ 小 説 ︶
は異 なって
﹁ 静かなるアクティブ・ラーニング﹂を 実
がないものだった。
︵ 左ページ﹁ 渡 邉 先 生
先生が存在感を消し、
生徒が思考を続ける授業
践しているのが若 狭 高 校の渡 邉 久 暢 先
いたが、授 業の進 行は同 様で、登 場 人 物
生だ。
するとき も 、とにかく 生 徒 たちは猛 烈
の授 業 デザイン﹂参 照 ︶。 ひとりで 課
題に向かうときも、
仲 間と意 見をシェア
先 生の授 業 を 受ける生 徒たちは、毎
朝 登 校 時に、廊 下で待 ち 受ける渡 邉 先
朝の廊下での宿題提出。
「ノートを持ってくる生徒
の表情で、どれくらい書けているかだいたいわかる」
と渡邉先生は語る。
16
2016 OCT. Vol.414
1894年創立/普通科・文理探究科・海洋科学科/生徒数926人
(男子437人・女子489人)
/
進路状況
(2015年度実績)
大学190人・短大28人・専修その他60人、就職20人、
その他4人
学校データ
「自分」と「他者」の違いを考察する授業で
ものの見方・考え方を鍛えていく
若狭高校(福井・県立)
渡邉久暢先生
教員歴25年。母校である若狭
高 校に初 任で着 任 。藤 島 高
校、福井県の指導主事などを
経て2015 年から再び若狭高
校に。授業実践を通した研究
で多数の論文を執筆。全国か
ら見学が後を絶たない。
【Report 01】国語
「授業」で社会を生きる力を育む
【図1】
渡邉先生の授業デザイン
●毎回席を変える
とが求められてくる。そこにひとつの正
て 言 葉 を 選 び、自 分の考 え を 伝 えるこ
り 変 化したりすることもある 。文 章 を
徒たちは自 分の思 考パターンが揺らいだ
た他 者 との対 話 を 繰り 返 すう ちに、生
力もついて、 学 期だけで模 試の点がす
削 して く れるのがいい。読 解 力 も 表 現
ノートで一人ひとりに意 見 を 言ったり添
解はない 。
渡 邉 先 生は課 題 を 解かせる際にはペ
アワークやグループワークをはさんだり 、
生 徒たちのノートのコピーを 配 布して 、
自 分 とは異 なる 意 見に触 れさせている 。
生 徒 が自 ら 他 者︵ 仲 間 や 文 章 の 作 者 ︶
との考えの違いに気 付き 、
﹁ なぜ違 うの
か?﹂と考えることで、自 分の思 考を深
﹁ 登 場 人 物や作 者の心 情 を 深 く 考える
ごく 上がった﹂︵ 国 際 探 究 科・女 子 生 徒 ︶
今 後 行いたい授 業
生徒が自発的にやりたいと
思ったことをする授業
圧 倒 的 な 教 材 研 究 力 、独 特に見える
授 業スタイルでも 、渡 邉 先 生 自 身は、自
読み込み、表 現 し 合 う 活 動 が、生 徒 自
から、小 説だけでなく 、評 論や新 書など、
﹁ 生 徒たちは自 分のためになると思え
ば、自 然 と一生 懸 命やります 。それだけ
分の授 業はシンプルだと語っている。
見 比べることで、
自 分のことや、﹃ 世の中
です。教 員としては、授 業 中に生 徒が寝
どんな 文 章でも 読むのがおもしろ く な
こう なってるんだ ﹄とわかるようになっ
った 。登 場 人 物や 作 者 と 自 分の違いを
身のものの見 方 考
・ え 方 を 鍛 えていく
ことにもつながっているように思える。
生徒はどう変わったか
文章を読む意義を知り
読解を楽しむ生徒たち
登場人物の関係性は図解することも
推奨。自分なりの思考で書くため、一
人ひとり書く内容が異なる。
プリン
5 時間が来たらペアでシェア。この後、②∼④を繰り返して、
トの内容によって、ペアワーク、
グループワークを行う。
仲間の考えを聞いて、
ノートに
書いてみた自分の意 見と比
べて、
お互いなぜそう考えたの
かを話し合い、それもノートに
メモしていく。
んでいけるようになったら理想ですね﹂
くなります。そうならないように心がけ
ているつもりですが、
今後は生徒が
﹃これ
たり 、つまら な そ う な 顔 をしたら 切 な
生 徒たちに授 業の感 想を聞いてみた。
﹁ 読 書は嫌いだけど 、この授 業は意 見
過 去に先 生の授 業 を一年 間 通して受
けた 生 徒が書いた 小 論 文 を 見て も 、読
てきた﹂︵ 国 際 探 究 科・男 子 生 徒 ︶
いくおもしろさに気 付いていく 。すると
を考えて、自 分の言 葉で伝える力がつい
問いを 解 決していくために主 体 的に学
やりたい! ﹄と 、自 分で問いを 見つけて、
めるサイクルを 繰り返し、問いを 深めて
新しい文 章に出 会ったときに、深 く 読み
解 力の深さや、小 説 を 読む作 業 を 通し
生徒が問いへの解をつくる間、先生
はフラッと廊下に出て行ったり、廊下
から生徒の様子を見ていたりする。と
にかく生徒の思考の邪魔をしない。
。
※ダウンロードサイト:リクルート進学総研 >> 発行メディアのご紹介 >> キャリアガイダンス(Vol.414)
2016 OCT. Vol.414
17
1
思考をフル回転させている生徒たちの表情
は、試験中のように真剣そのもの。
て 、生 徒が自 分 自 身 とも 向き 合 うよう
から設問にとりかかる。
書くのはノートに。プリン
トを解くポイントや制限
時間を板書する。
ておもしろい﹂︵ 海 洋 科 学 科・男 子 生 徒 ︶
4 プリントをもらった生 徒
﹁ 普 通の授 業で先 生の反 応をもらえる
渡邉先生は全員のノートに
「いいね!」
「どうしてそう思った?」など声をかけ
ながら、生徒一人ひとりの学習状況
を把握していく。
進めるようになっている 。また 、他 者 と
授業の流れ例
の 違いの 比 較 で 、自 分 と 向 き 合い自 分
1 宿題ノートの内容を隣の生徒とシェア。
相手の話を聴いて考えたことをノートに書く。
2 書けた生徒から一人ひとり先生に持って行く。
になっていることがわかる
全体に向けて先生が言葉を発することはほと
んどない。板書の文字は非常にラフな感じ。始
業・終業の挨拶をなくし、少しでも生徒が考え
る時間を確保する。
のは発 表した人だけ。渡 邉 先 生は毎 日
●板書に書くのは、授業の目標と
生徒にやってもらうことのみ
の思 考パターンにも気 付く。文 章を通し
6 振り返りシートを記入。
渡邉先生が演習用に作成して
いる長文読解のプリント。
3 先生のチェックを受けた
生徒は次のプリントをも
らう。徐々に難易度が上
がっていく。
毎年の最初の授業で配布する、
授業の年間目標。
「なぜ国語を
学ぶのか」
「どんな力をつけたい
のか」
という問いとともに、
「ノート
に『たくさん』
メモを取る。
『質より
量』」
と記されている。
先生が宿題ノートを置いた場所が今日の自分の席になる。
取材・文/長島佳子