矢掛高校(岡山・県立)

 町 内の施 設に到 着 すると 、生 徒た
ちは慣れた様 子で﹁ 業 務 ﹂に取り掛か
る。図 書 館では本を配 架し、
カウンタ
ーで 接 客 、老 人 福 祉センターでは一緒
に健 康 体 操 。保 育 園ではお昼 寝 時 間
木曜の5・6限に町内の各施設で実習を行う。毎回報告書を書き、教科担
当者に報告をして終了となる。12月には体験の内容・今後の課題とその
解決策などをまとめて中間発表。
矢掛町の歴史文化や経済など、町を知ることか
ら始め、施設の希望調査や、
マナー講習、
自己
紹介カードの用意など実習に向けて準備を行う
町 内の公 共 施 設で週 回の実 習 を 行 う﹁ やかげ学 ﹂。
﹁ 町の人に育て
ても ら う ﹂
つもりでスタートした 取り組みは 年 目 を むかえ 、今 、生
徒たちは﹁ 町にな くてはならない﹂存 在 として活 躍しています 。
毎回のワークシートで
2年間のポートフォリオ
はかなりの厚みになる
中に会 議 をする先 生に替わって園 児
を 見 守 る 。お兄 さんお姉 さんは小 学
校で も 大 人 気 だ 。ある 小 学 校では 、
授 業の補 助などその日の仕 事が終わ
ると 、校 長 室 で 振り 返りの 場 を もつ
のが恒 例となっている。帰 校 後 、業 務
報 告 書 を 作 成し、担 当 教 員と面 談し
中間発表時
の資料
て一日が終 了する。
﹁体験報告﹂から﹁提案﹂
へ
2年 生の8月から3年 生の7月 ま
で 、毎 週 木 曜の5・6 限 、1 年 間の実
旧 矢 掛 商 業 高 校 と 旧 矢 掛 高 校が
合 併し2004 年に誕 生した 新しい
Ⅰ 準備期間 2学年4月∼7月
7
これから実習に入る2 年生への引継ぎを行い、
時間をかけて振り返り発表会へ
毎回の面談。振り返りの内
容が不十分だと突き返され
ることもある
業務報告書はA4表裏に「本時
の活動目標」
「活動内容」
「特に
頑張ったこと」
「反省事項」
「今
後活かせそうなこと」
などを書く
習を伴う﹁やかげ学 ﹂は矢掛高校の学
校設定教科。現在の実習先は小学校
7校 、
保育園2園 、
高齢者福祉施設2
か所 、郷 土 美 術 館 、図 書 館 、自 然 体 験
施設の か所。ここに普通科総合コー
スの クラスの生 徒が通っている。
言 葉 を 交 わ し て か ら 出 かけ て ゆ く
るいは 制 服 で 、昇 降 口に 立つ教 員 と
が次々と出てくる。ブルーの体 操 服あ
毎 週 木 曜 日の昼 休みが終わるころ 、
矢 掛 高 校からは自 転 車に乗った生 徒
取材・文/江森真矢子
矢 掛 高 校は、他に国 公 立 進 学 希 望 者
のための 普 通 科 探 究コースと 、商 業
Ⅱ 実習期間 2学年8月∼3学年7月
1
役場担当者など外部講師
による授業も多い。中間・期
末 考 査では座 学で学んだ
内容を問う
「出勤」時の風景。補助
金も活用して購入したや
かげ学用の自転車が駐
輪場に並ぶ
小学校で授業補助
Ⅲ 振り返り・発表期間 3学年8月∼2月
図書館勤務中
自ら企画して授業をし
た生徒も
14
矢掛高校(岡山・県立)
第 8回
﹁ 出 勤 ﹂姿はこの6年で矢 掛の町に馴
染みの風 景となった。
地域との連携を重視した様々な形態の学習活動を通して、他人との関係性、社会との関係性、
自然環境との関係性を認識し、
「かかわり」
「つながり」
を尊重する態度を養う。また社会に積極的に関与する能力を育成し、持続可能な社会が実現できるよう
な価値観と態度を養う
■ 目標
2
1年間、毎週2時間の
実習体験を将来に生きる
経験に変える「やかげ学」
やかげ学の2年間
50
2016 OCT. Vol.414
集 まる 総 合コースに大 き な 教 育の柱
ある。最も人 数が多 く 多 様な生 徒の
科 目 を 中 心に学ぶ地 域ビジネス科が
ざと失 敗させたり ﹂。その思いに応え
るために業 務 内 容 を工 夫したり 、わ
徒に愛 情 を 注いで くれる 。成 長 させ
るのかと思うぐらい、地 域の方々が生
生 方は言う 。
﹁ なぜここまでしてくれ
﹁いろんな 奇 跡 があるんで す ﹂と 先
ず 、予 想以上の成 果が生まれた。
後 、町 内に戻って就 職したり、小 学 校
す るようになったことだ 。大 学 卒 業
に 触 れた 小 学 生 が 矢 掛 高 校 を 志 望
学 者も増えた。もう一つは
﹁やかげ学 ﹂
とがある。行 政 、教 育 、福 祉 系への進
いて考え 、提 案 をするようになったこ
予 想 外の成 果の一つに、生 徒たちが
自 分のことだけでな く 地 域 課 題につ
年からスタートした﹁やかげ学 ﹂は、旧
商 業 高 校 と 地 域 との強いつながりを
引 き 継 ぎ 、生 徒 を 地 域に育ててもら
おうという主 旨で構 想された。
やかげ学発表会
寧に書 くことや 文 字の大 切 さについ
を 伝 えたい生 徒が、小 学 校で 字 を 丁
り公 立 大 学に進 学した。自 分の情 熱
行 政 職 員になりたいと 思 うようにな
ディスカッションや発 表の機 会 。毎 回
2年 生への業 務の引 継ぎ、ディベート・
の定 着 を 促 す 定 期 考 査 、
3年 生から
る。礼 儀 作 法 、働 くことの意 味 、座 学
これら生 徒の成 長を促す仕 掛けは、
実 習 外での教 員の関わりや座 学にあ
的 な 取り 組みには視 察 者が絶 え ず 、
営の一部 と なった﹁ やかげ 学 ﹂。先 進
今では﹁ 矢 高 生がいなければ 仕 事
が回らない﹂と言われるぐらい町の運
がいた。そして﹁ 次はどうする ?﹂と
くわかった﹂と深い内 省を伝える生 徒
ニケーションが大 切だということはよ
たかどうかはわからない、でも 、
コミュ
はコミュニケーション能 力 が身に付い
行われるやかげ学 発 表 会で昨 年 、﹁ 僕
と向き合う指 導で育まれている。
して捉え 立ち向かう 力は、
一人ひとり
ひくが、周 囲の課 題 を 自 分の課 題 と
す ﹂。ダイナミックな地 域 連 携が目を
活 動は生 徒の成 長のためにあるんで
先にあってはいけません。学 校の教 育
来 校 す ること も ある 。そんな 時 、矢
に変わってきた。
けでなく 考 察や提 案の含まれるもの
て 、得 意の書 道 を 生かして 授 業 をし
の報 告 書 提 出 時の面 談では、目 標に
人いれば 通りの成 長がある。
地 方 創 生における教 育の役 割に注 目
た⋮
対 する成 果や、具 体 的 な 場 面でどう
が集 まる 中 、自 治 体 と 学 校 が一緒に
に役立つ
1月
を 立てるべく 、 年 より 検 討 され
るように生 徒 たちは責 任 感や 自 信 、
で 実 習 した 生 徒 が 高 卒 で 学 校 事 務
3年生から2年生への引継ぎ(3回)
考えどう行 動したのかを問われる。
徹底した内省が成長を生む
循 環が起こり始めている。
職 員になるなど 、地 域 内での教 育の
社 会 人としての力を培っていった。
老 人 福 祉センターの﹁お達 者 教 室 ﹂
企 画を任された生 徒たちが自 主 的に
何 度 も ミーティングを する 姿が見 ら
11月
2年間のまとめ
(7回)
実習(5回)
2月
中間報告会準備/中間報告会
12月
当 初から実 習 期 間は1年 間 。地 域
に出 すためにま ず 座 学で 学 び 、 年
間の実 習が終わると発 表 会に向けて
の振り返り・考 察を行い、最 後は2年
れた。介 護 職 員 を 希 望していた生 徒
7月 自己紹介カード(2回)
問 われてきた 生 徒の発 表は、報 告 だ
6月 の福祉/まとめ/施設選択の説明/期末考査
実習(12回)
と文化/中間考査/町の観光/町の農業/町
5月 やかげ学とは/マナー / 町の行政/ 町の歴史
掛 高 校から 伝 えるのはこの 信 念 だ 。
が施 設に通 う う ち 、仕 組みを 整 える
9月
発表準備
(11回)
実習(13回)
10月
振り返り
(6回)
礼状書き等
施設打ち合せ
8月
3年生
2年生
面 談 で﹁ なぜ? ど う して? いか
に?﹂と問う教 員との問 答で、内 省の
教科指導
3月
1901年創立/普通科、
地域ビジネス科/生徒数423人(男子191人、
女子232人)
/進路状況(2015年度)
大学・短大67人うち国公立大25人、専門学校36人、就職26人、
その他2人/ユネスコスコール加盟校
間の総まとめという内 容だ︵ 下図︶。
職 場 体 験でもボランティアでも な
く 、継 続して一つの 職 場に約 回 、1
00時 間 通 うことで得られる成 長は
なにか。構 想 段 階で 立てていた 仮 説
がある︵ 左図︶。始めてみると 生 徒 指
■「やかげ学」構想段階での12の仮説
4月 座学(11回)
﹁ 地 域 課 題 解 決のため、という発 想が
進 路 指 導 に役立つ
⑪社会で働くためには様々な知識が必要なことを感
じ、教科学習、社会常識や言語能力育成の強い動
機付けになる。
⑫やかげ学で進路を達成しようとする意識が高まり、
学習意欲が高まり、
授業態度のさらなる向上が期待
できる。
1
導 、進 路 指 導 、教 科 指 導に役 立つとい
高木潤先生(総務課長・地域連携係)、宮地伸幸 先
生(やかげ学主任)、濱田好宏先生(教務課長)、關戸
章宏先生(教頭)
■スケジュール
力や 論 理 力 も 育 まれていく 。 月に
80
30
10
①服装、頭髪や言葉遣いなどの校則やマナーが、社
会でなぜ重要かを実感できる。
②やかげ学の時だけでなく学校生活全般でも、
自然に
それらに注意を払うようになる。
③地域から見られる意識が高まり、校外でのマナーが
良くなり、地域からの信頼を厚くすることができる。
④仕事に対する責任感が育つので、校内の清掃など
諸活動への取組も変わる。
⑤地域の方々に学ばせてもらうことで、感謝の気持ち
や問題意識を持って地域貢献活動に参加するよう
になる。
生 活 指 導 に役立つ
2016 OCT. Vol.414
51
12
80
⑥自分の進路と一致する施設に行った生徒は、
100
時間の実習によって専門的な体験と問題意識を得
ることができる。
⑦実習施設と進路が一致しなくても、普遍的な対人
関係や問題解決の経験を通して進路への動機付
けを強めることができる。
⑧基本的な職業観が養われるので、総合的な学習の
時間の内容を補強することになる。
⑨はきはきと話したり、考えたことを正確に伝えるなど、
基本的な対人関係の力が鍛えられるので、推薦AO
入試などに役立つ。
⑩指導者は推薦・AO入試の指導の際に、
これらの能
力を引き出す工夫が必要となる。
06
う 仮 説はすべて 実 証 されたのみなら
左から