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奥多摩町の元気づくり計画~若者の定住支援と子育て支援~
伊藤久雄(認定NPO法人まちぽっと理事)
さる 9 月 28 日、東京自治研究センターの月例フォーラムで、標題について奥多摩町企画
財政課課長補佐の新島和貴さん(少子化・若者定住化担当兼務)が講演された。本稿はそ
の際のレジメや資料などをもとに、奥多摩町の取り組みの現状を報告するものである。な
お奥多摩町には、7 月 4 にも東京自治研究センターの研究会の一員としてヒアリングにも行
っている。
1.奥多摩町の概況
(1) 奥多摩町の環境
奥多摩町は 1955 年(昭和 30 年)に、古里村、氷川村、大河内村の 3 村の合併により成
立し、今日に至っている。奥多摩町の位置は、東京都の西北端にあって全域が秩父多摩甲
斐国立公園にふくまる地域である。面積も東京都の 10 分の 1 を有している。
公共交通機関は、JR青梅線と西東京バスである。
(2) 奥多摩町の人口動向
国勢調査による人口は、1960 年(昭和 35 年)には 13,785 人であったが、その後は一貫
して減少し、2015 年(平成 27 年)には 5,248 人まで減少している。住民基本台帳による今
年 9 月 1 日現在の人口は 5,314 人(世帯数 2,685 世帯)で、年少人口(0~14 歳)334 人(6.3%)、
生産年齢人口(15~64 歳以下)2,407 人(45.3%)、老年人口(65 歳以上)2,573 人(48.4%)
となっており、まさに少子・高齢社会の典型のような町である。
自然動態と社会動態をみると、自然動態は 1995 年以降から死亡数が出生数を上回る自然
減少が続いている。年により違いはあるものの、出生数は減少傾向、死亡数は増加傾向に
ある。なお合計特殊出生率は、2014 年度は 0.94 と 1.0 を下回っている。この 10 年でみて
も、1.0 を上回ったのは 2012 年と 2013 年の 2 か年に過ぎない。
これに対して社会動態は、年によって転入数が多い年、転出数が多い年がある。ただし
ここ 10 年でみると、転入数が多かった年が 9 か年あり、転入数の多い年が多くなっている
(その前の 10 年は、転出数の多い年が多い)。断定的には言えないが、町による若者の定
住支援と子育て支援の取り組みが実を結んできているとみることができる。なお、転入数・
転出数とも減少する傾向にある。
1
2.今までの子ども・子育て等に関わる主な事業と課題
(1) 事業の沿革
・
1993 年(平成 5 年)
奥多摩町手出産祝金支給事業(第1子 5 万、第 2 子 10 万、第 3 子目以降 20 万)
2006 年度(平成 18 年度)で廃止し、子ども医療費の助成に切り替える。
・
1996 年(平成 8 年)
若者住宅利子補給事業(年額 30 万円を限度に 3 年間支給)
・
2008 年(平成 20 年)
子ども・子育て支援事業(保育料などの助成)
・
2010 年(平成 22 年)
若者定住応援事業(新築・改築等に最大 160 万円支給、現在 200 万円)
空家バンク事業
・
2014 年(平成 26 年)
いなか暮らし支援住宅事業
・
2015 年度(平成 27 年)
空家等活用推進事業
・
2016 年
若者用空家バンク事業、若者定住応援住宅事業
(2) 奥多摩町の現状と課題
課題
▷ 出生数の低下(自然動態による減少)
▷ 子どものいない地域・自治会の増加
▷
2015 年度(平成 27 年度)から中学校が統合され1校(奥多摩中学校)に減少
▷ 子育て家庭の減少(生産年齢人口の減少)
▷ 活動できる人材の流出
▷ 空家などの増加
問題点
▷ 地域活力が低下(昔からの支え合いや伝統文化の継承が困難な地域が発生)
▷ 空家などの増加による防犯・防災力の低下
2
3.元気づくり計画の推進
奥多摩町は、住民が住みたい、住み続けたいと思えるまちづくりを実現するために、第 5
期長期総合計画と連携し、奥多摩町まち・ひと・しごと創生総合戦略「元気づくり計画」
を推進している。
将来人口の目標
奥多摩町は、将来の総人口について 2040 年(平成 25 年)には 3,130 人程度、2060 年(平
成 72 年)には 2,060 人程度をめざす。これは、社人研推計(パターン 1)に対して、2040
年(平成 25 年)では 630 人程度、2060 年(平成 72 年)で 78 人程度の上積みをめざすこと
になる。
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4.元気づくり計画の2つの柱と各種施策
元気づくり計画の各種施策の設定及び実行にあたっては、
「第 5 期奥多摩町長期総合計画」
を基本とするとともに、特に、『明日の奥多摩を創る「奥多摩創造プロジェクト」』で設定
している施策・事業を推進するとされている。
(1) 施策の体系
【明日の奥多摩を創る「奥多摩創造プロジェクト」】
□
活力ある地域づくりの推進!「少子化対策の推進」
▷ 出会い・暮し
・婚活相談の充実
・補助制度の充実
・医療機関の充実
▷ 子育ち・教育
・子育て相談の充実
・経済的な負担軽減
・教育環境の充実
□
住みたい方が住める町!「定住化対策の推進」
▷ 仕 事
・就労相談の充実
・企業等との連携
・起業の支援など
▷ 住まい
・定住相談の充実
・若者住宅等の整備
・各種制度の充実
〔推進する分野別施策〕
□
出会い・暮らし
①ふれ愛サポートセンターの拡充
②奥多摩の魅力発信事業の推進
③定住サポーターの設置・推進
④若者定住応援補助金等制度の充実
⑤良質で満足度の高い医療サービスの提供
□
子育ち・教育
①子ども家庭支援センター事業の充実
②母子保健の充実
③子ども・子育て支援推進事業の充実
④子どもの考える力を育む教育の充実
4
⑤国際交流活動の充実
□
仕事
①就労相談窓口の設置・推進
②企業等と連携した就労支援の実施
③起業者や事業おこしの支援
④町有地や町有財産を活用した企業等の誘致
⑤女性に魅力ある職場・地域づくりの推進
□
住まい
①空家相談窓口の充実
②いなか暮らし支援住宅
③町営若者住宅及び分譲地の整備
④若者定住応援補助金等制度の充実
⑤空家等の有効活用(空家バンク制度等)
(2) 主な施策
1 出会い・暮らしの
○
ふれ愛サポートセンターの設置
・
○
「ともだち」「なかま」をつくる「交流の場事業」の実施
おせっかい支援員の設置
・
町内に居住する未婚の男女に情報提供や婚活事業をお節介支援員が推進
*ふれあいの場事業参加者(平成 27 年 12 月 23 日実施)
男性:26 名(町内・26 名)
20 代:9 名、30 代:9 名、40 代:8 名
女性:26 名(町外:26 名)
20 代:7 名、30 代:11 名、40 代:8 名
2 子育ち・教育
○
子ども家庭支援センターの充実
・
○
保護者の不安の解消、専門相談員による相談・支援
子ども・子育て支援の充実
・
子育て家庭への経済的な負担の軽減
・
不安を取り除く医療体制の整備、保育施設などの充実
5
<子ども・子育て支援事業 15 項目>
根拠:奥多摩町子ども・子育て支援推進条例(平成 20 年 4 月施行)
奥多摩町子ども・子育て推進事業交付金要綱(同)
①
不妊検査・不妊治療助成事業
・
不妊検査
年:50,000 円助成を助成
・
不妊治療
年:150,000 円助成を助成
②
不育治療助成事業
・
③
不育症治療
年 150,000 円を助成
産後健康診査等充実事業
・
④
乳幼児 1 か月健診の費用を含め
1人1回
10,000 円助成
インフルエンザ予防接種事業
・
⑤
満 1 歳以上 19 歳未満の子どもに 1 人 1 回
2,000 円助成
高校生等医療費助成事業
・
⑥
高校生などの子どものいる世帯の保護者を対象に、医療費の自己負担分全額助成
ファミリー・サポートセンター利用助成及び病後保育児預かり助成事業
・
⑦
子ども 1 人につき、7,000 円の助成券を配布
保育園保育料助成事業
・
⑧
第1子からの利用者負担額(保育料)を全額助成
入園・入学・進学支援事業
・
保育園入園者
10,000 円を支援
・
小学校入学者
20,000 円を支援
・
中学校入学者
40,000 円を支援
・
高等学校進学者
⑨
50,000 円を支援
中学校制服等支援事業
・
⑩
町立中学校に入学する保護者を対象に全額助成
学校給食費助成事業
・
⑪
町立小・中学校の児童・生徒の給食費を全額助成
高校生等通学定期代助成事業
・
高校生等の電車・バス等を全額助成
*ただし、バスは町内に限る。
⑫
高校生等通学支援事業
・
タクシー
・
ガソリン券
⑬
年間
年間
1人
5,000 円助成
1人
5,000 円助成
学童保育会育成料助成事業
・
ひとり親家庭の 1 人目
半額助成
・
多子家庭の 2 人目
半額助成
6
・
ひとり親家庭の 2 人目以降
全額助成
・
多子家庭の 3 人目以降
全額助成
⑭
ひとり親・多子家庭ごみ処理支援事業
・
⑮
500 円×12 か月/世帯=12,000 円を助成
多子家庭水道料金一部支援事業
・
1,000 円×12 か月/世帯=12,000 円を助成
*なお、住民税等未申告者である者などは助成を受けられないなどの条件がある。
3 仕事
①
遊休施設の活用による企業誘致
○
旧古里中学校の活用
「奥多摩日本語学校」として活用…平成 29 年 10 月開講予定
○
見込まれえる効果
・
若年層の定住化
・
新たな定住による地域の活性化
4 住まい
①
町営若者住宅の建設
・
②
平成 27 年度から毎年おおむね 10 戸整備(5 か年で 50 戸)
空家調査・活用システムの構築
奥多摩町定住サポーターが各自治会の空家を調査し、その調査データをもとに空
家・調査活用システムを構築
*定住サポーター:町の職員で、1 自治会 2 名から 4 名
*定住サポーター人員:43 名
<現在の空家情報>
2016 年 9 月 1 日
空家:440 件(調査待ち 15 件、土地のみ 8 件、土地・建物 300 件、建物のみ 117 件)
③
奥多摩町空家等活用促進事業交付金
空家を活用するための補助制度。空家を活用するために必要な経費(相続に関わる
費用・家にあるごみなどを処分する費用など)を助成するもの。
ア
町に寄付する場合
1 ㎡ 10,000 円を基準とし、2,000,000 円を上限
イ
若者空き家バンクに登録する場合
1 ㎡ 10,000 円を基準とし、500,000 円を上限
*45 歳以下の夫婦又は 50 歳以下で子どもがいる世帯
ウ
空家バンクに登録する場合
1 ㎡ 10,000 円を基準とし、100,000 円を上限
7
④
空家等寄附物件の活用
・
町に寄付された空家に 15 年間継続し、居住したものに住宅を無償で譲渡。
・
無償譲渡する物件は次の 2 つの種別がある。
◎
種別
ア
若者定住応援住宅(JR青梅線 5 駅の周辺地域)
イ
いなか暮らし支援住宅(JR青梅線 5 駅の周辺地域以外)
◎
条件
・
40 歳以下の夫婦又は 50 歳以下の方で子ども(中学生以下)がいる世帯
・
自治会に加入し、自治会の活動をはじめ、地域活動へ積極的に参加すること
等々
・
土地及び建物は現状で引き渡しのなるため、リフォームなどにかかる経費はな
どは定住者がすべて負担する(町のリフォーム補助あり)
⑤
若者定住応援補助金
ア
若者定住応援補助金(新築・改築)
住宅の購入・改築・増築・リフォームに最大 200 万円補助(事業費の 2 分の 1)
イ
若者定住応援補助金(利子補給)
年額最大 30 万円(借入利率の 2 分の 1)を 36 か月給付
◎
条件
40 歳以下の夫婦又は 50 歳以下で中学生以下の子どもがいる世帯、35 歳以下の単
身者
⑥
定住相談窓口等の充実
○
組織の再編
28 年度から新たに「若者定住化対策室」設置、重点的に若者の定住化を推進。
○
子育て相談・定住相談・就労相談、土地・建物などの総合窓口の機能を有してい
る。
⑦
少子化対策・定住化対策に係る費用(ソフト)
*
奥多摩町の 28 年度予算額(一般会計)
62 億 2000 万円
*
少子化対策・定住化対策事業費
*
今後、年少人口がさらに減少すると推計されるので、この金額が上限と考えられ
9,300 万円程度(予算に占める割合:約 1.5%)
る。
▽
*
単年度の助成では効果が薄いため、予算の範囲で事業を継続的に実施する。
▽
▽
奥多摩町は、このような施策によって「日本一の子ども・子育て支援策や若者支援策」
が周知され、奥多摩町のイメージがさらにアップすると考えている。これによって奥多摩
町に定住する方が増加し、地域の元気が復活することを期待している。
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私も、東京自治研究センターによるヒアリングと月例フォーラムの 2 回にわたって、奥
多摩町企画財政課課長補佐の新島和貴さん(少子化・若者定住化担当兼務)のお話を伺う
機会を得た。私はたまたま仕事の関係で奥多摩町に 3 年ほど通った経験があるが、通常は
なかなか訪ねる機会がないと思われる。しかし、奥多摩町の子ども・子育て支援策や若者
支援策は東京のみならず、日本においても最もすすんでいると思わずにはいられない。ぜ
ひ多くの皆さんが見学や視察に訪れ、奥多摩町の政策や施策を学んでいただきたいと思う。
<参考資料>
□
第5期
奥多摩町長期総合計画
http://www.town.okutama.tokyo.jp/gyose/sesaku/documents/choukisougoukeikaku.
pdf
(第 1 章. 明日の奥多摩を創る. 「奥多摩創造 プロジェクト」)
□
奥多摩町元気づくり計画(奥多摩町まち・ひと・しごと創生総合戦略)
http://www.town.okutama.tokyo.jp/gyose/sesaku/documents/genkidukuri-honpen.pdf
□
奥多摩町
子ども・子育て支援事業計画
http://www.town.okutama.tokyo.jp/life/documents/kakuteikou.pdf
□
奥多摩町
子育て支援・若者定住促進ガイドブック
http://www.town.okutama.tokyo.jp/hiroimachi/documents/h28-guide-book.pdf
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