第5章 t検定と分散分析の前提の検討

心理学研究法ⅢC 資料⑪ 第5章 t検定と分散分析の前提の検討 SPSS の結果は、なじみのあるtの値や分散分析表以外にも非常に多くの情報を含んでいる。
これらの中には、データの構造が分析を実施する際の前提条件を満たしているかを確認す
るための重要な情報が含まれている。 ( 1 ) t 検 定 と 分 散 分 析 の 前 提 条 件 ① データが間 隔 尺 度 以 上 であること。(順位などのデータはだめ) ② サンプルが無 作 為 に選ばれていること。 ③ 各サンプル内でデータが正 規 分 布 をしていること。 ④ 各サンプルの分 散 が 等 し い こと。 問題は③と④である。正規性と等分散性は、それぞれ検 定 す る 必要がある。これらは、「有
意ならばうれしい」のではないことに注意!正規性検定が有意ということは、データが正
規分布から有意に逸脱しているということ。等分散検定が有意ということは、分散が有意
に異なるということ。従って「 有 意 で な い と う れ し い 」 のである。有意な場合には、さ
まざまな修 正 を 行 う 必要がある。正規性や等分散性から大きく逸脱する場合には、t検定
や分散分析は使えず、ノ ン パ ラ メ ト リ ッ ク 検 定 を使わなくてはならない。ノ ン パ ラ 法 は、
特定の分布を前提としないオールマイティな技法だが、パラメトリック検定よりも検定力
が低い。 ( 2 ) 正 規 性 検 定 t検定と分散分析はこの条件の違反には「 頑 健 robust」とされるが、それでもやはり正
規性を確認する事は重要である。SPSSでは正規性検定はオ プ シ ョ ン である。正規性か
ら大きく逸脱している場合には、中央値検定やU検定などのノンパラを使用することにな
る。しかしSPSSでもオプションであることからもわかるとおり、ほとんどの人はこれ
を気にしていない。データ数をたくさん取れないとき、「たったN=8だけどt検定でだい
じょうぶかな」という感じで精神安定剤的に使うことがある。以下の例は、「先生と生徒」
のダミーデータを使って、先生の性別(V1)ごとで成績(V3)の正規性をみたもの。
結果は有意でないので、正規性は保証されたという結論になる。 ( 3 ) 独 立 デ ザ イ ン に お け る 等 分 散 検 定 t検定と分散分析は等分散性からの逸脱にも頑健で、従来の研究によれば分散の比が5く
らいまではOKだそうだ。しかしやはり等分散性を確認する事は重要である。 独立のt検定を実施すると、SPSSはデフォルトで Levene の等分散検定の結果を出力す
る。これはF検定で、もしこの検定結果が有 意 な ら ば 等 分 散 で は な い ことになる。等分
散性からの逸脱に対しては、昔からいくつもの修 正 法 が提案されている。SPSSでも自
由度を減らした修正検定を行う。これはたぶん Welch 法である(岩原、p186)。t値そのも
のは変わらないが、自 由 度 の 減 少 に よ っ て 検 定 が よ り 保 守 的 に な る 。 以下が、ダミーデータで先生の性別についてt検定をやったときに出力されるデフォルトの
等分散検定と自由度の修正である。Levine検定の結果はp=.069で、5%水準では有意ではな
い。従ってt検定の結果は上の段の「等分散を仮定する」のほうを見る。つまりt(18)=2.813,
SE=7.11, p=.012(両側)である。Levine検定が有意なら下の段を見る。
論文での書き方は、「t(18)=2.813, SE=7.11, p=.012(両側)であったが、Levineによる等分
散検定の結果が有意(F=???, p=???)であり、Welchによる自由度の修正を行った。その結果、
修正後の自由度は13.954となり、t検定の結果は再び有意であった(p>.014)。」などのよう
に、正確にプロセスを書く。 一元配置分散分析でもオプションで Levene の等分散検定の結果を出力する。しかし有意な
場合の修正は行わない。これにも Welch の方法があるが(岩原、p248)、あまり普及してい
ないようである。 一元配置分散分析における等分散検定のオプションを実行すると以下の表が出力される。t
検定の場合と同じ結果になっている。 * 岩原信九郎 「教育と心理のための推計学」1979,日本文化科学社 これは有名な名著で、本当に何でも書いてある。認知研にあるので参照のこと。