FOREX WEEKLY

2016 年 10 月 7 日
市場営業統括部
FOREX WEEKLY
チーフ・エコノミスト
山下えつ子
Tel: +1-212-224-4561 (ニューヨーク)
[email protected]
【本号のポイント:リスクオン or リスクオフ ?】
・ドル円が今週、大幅にドル高、円安へ動いた。
・米国の経済指標は上振れ、利上げ観測が早くも高まってきた。
・一方、米国の大統領選や欧州の政治には不透明感が残っている。
【為替相場の予想レンジ】
今週のレンジ
来週の予想レンジ
12 月末の予想レンジ
3 月末の予想レンジ
ドル/円
100.75-104.16 円
102.90-105.20 円
102.00-105.00 円
105.00-110.00 円
ユーロ/ドル
1.1138-1.1251ドル
1.1100-1.1200ドル
1.1000-1.1300ドル
1.0000-1.1500ドル
ユーロ/円
112.60-116.28円
115.00-117.00 円
110.00-120.00 円
105.00-120.00 円
(今週のレンジは先週金曜日東京午前 5 時~本日東京午前 5 時(データ:Bloomberg)、
予想レンジは本日東京午前 5 時~来週金曜日東京午前 5 時)
・本号はニューヨーク時間木曜日午後3時までの情報をもとに作成しています。
・FOREX WEEKLYに関するお問い合わせは、現在お取り引き中の営業部/支店にお願い申し上げます。
・FOREX WEEKLYは弊行ホームページでもご覧頂けます。(http://www.smbc.co.jp/ 外国為替情報→フォレックス・ウィークリー)
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告なしに変更されることがあります。また、データや数値の抽出範囲や基準は任意で設定している場合があります。弊行は本資
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ら直接提供されたお客さま限りでご使用くださいますようお願い致します。
1
FOREX WEEKLY 2016/10/7
【リスクオン or リスクオフ?】
10 月に入って相場の様相が変わり、債券利回りは上昇し、一方、為替相場はドル円は今週、101
円台前半から 104 円台まで大幅にドル高・円安に動いた。米国の経済指標が強めとなり、利上げ観測
が強まったことが背景にあるが、それだけが理由ではないだろう。
過敏なグローバル債券市場
これまでも繰り返し取り上げてきたが、低成長の長期化に対して、金融政策のみでは対応できない
として、先進諸国は財政政策と構造改革を促すスタンスに傾いている。この流れの中で、先般の日銀
の政策フレームワーク変更が国債購入の量から金利へとターゲットを移行するものだったため、日本
のみならず、グローバルに債券市場が過敏になっている。
国債の買取りが長期化すれば、物理的に量の限界に近づく。これを金利ターゲットという方法に変
更し、併せてフォワード・ガイダンスを強化することで緩和を強化する、というのが日銀の新フレー
ムワークである。だが、買取り量が減少することを「テーパリング」だとして、債券市場は金利上昇
を目指している。「テーパー(剥がす)」という言葉は、米国が国債購入額を段階的に減額していっ
た時に用いられた俗語である。国債購入額が減少する、という現象を捉えれば、日銀の買い入れ額が
減少すれば、テーパーだ(実質テーパーだ)と言われるのは間違いとは言えない。だが、米国が現在
の利上げ、つまり出口に向かう前段階としてまず量的緩和を縮小したこととは位置づけは全く異なる。
また、フレームワーク変更によって今後も緩和が強化される方向を辿る点でも、米国の方向性とは反
対である。このため、国債購入額の減少を捉えて「テーパーだ」と米国と同じ言葉で言われることに
は日銀には抵抗があるだろう。黒田総裁は何度か「テーパーではない」と説明している。
しかし、今週は「ECB もテーパーに向かう」との観測が浮上して債券市場の材料となったように、
グローバルに債券市場は中銀による国債購入の減少を金利上昇イベントとして意識する(したい)時
間帯にあるようだ。6 日に公表された ECB 理事会の議事録(9 月 8 日理事会分)でも、金融緩和の継
続が議論されており、テーパリングや出口の議論は出てこない。だが、債券市場は今、過敏なのであ
る。
米国景気指標は良好
そこに加わったのが、米国の利上げ観測の高まりである(と筆者は位置づけている)。今週発表さ
れた製造業 ISM と非製造業 ISM は、
いずれも弱かった前月からリバウンドし、予想以上の改善だった。
前回は目立った理由がないのにデータが下振れ、今回も目立った理由はないがデータは上振れた。前
回分の落ち込みも今回分の上振れも、どちらも割り引いて見るべきだろう。
今回の ISM の数字は改善しているが、製造業でも非製造業でも大統領選や地政学リスクが懸念材料
となり、経済活動が抑制されている面もある。ただ、2 か月連続悪化が回避されたため、米国景気が
秋にかけて減速トレンドとなったわけではないことは確認できた。7-9 月の実質 GDP は 2.0%~2.5%
と潜在成長率を幾分上回る水準となると予想されるが、10-12 月も同等の成長スピーを確保できそう
だ。
2
FOREX WEEKLY 2016/10/7
マーケットは経済指標の上振れを受けて、利上げ観測を高め、ドル高、また株安、債券安、の動き
になっている。12 月の FOMC で利上げが実施されるとすると、まだ雇用統計だけでも 7 日発表分も含
めて 3 回も発表がある。ダンディールとするのは早い。しかし Fed からは年内利上げの可能性を示唆
されているため、利上げを織り込んでも誤りではないだろう。
また、雇用統計は非農業部門雇用者数で十数万人程度の増加があれば、失業率が上昇しない水準で
あり、年内にあと 3 回も発表があるとは言え、利上げに対するハードルは低い。ただ、11 月の利上
げについては、日程が大統領選の直前であること、マーケットの大半も 12 月と予想していることか
ら、攪乱となるような 11 月利上げ実施の可能性は低い、と考える。
7 日の雇用統計の後、9 日に第 2 回大統領候補討論会がある。これらを経て、来週のマーケットが
米国の経済と政治の不確実性が小さいと判断すれば、一段とドル高、債券安にバイアスがかかること
になるだろう。その場合、ドル円は来週中に 105 円台まで乗せる可能性があると思われる。
米大統領選は討論会で盛り上がり
9 月 26 日の大統領候補のTV討論会に続き、10 月 4 日には副大統領候補のTV討論会も行われた。
民主党候補のケイン氏と共和党候補のペンス氏が経済や安全保障について討論したが、どちらも本人
の意見よりも大統領候補の代弁の役割を担った。ケイン氏は何度も相手の持ち時間中に割り込み、印
象を悪くしたが、ペンス氏は落ち着いて反論し、結果、討論会直後の CNN もよる世論調査では、ケイ
ン氏が勝ったとの見方が 42%、ペンス氏が 48%だった。しかも世論調査の対象は民主党寄りだった
ため、見た目以上にペンス氏が支持を集めたことになる。また、ペンス氏がトランプ氏の発言の真意
を代弁したことで、この副大統領討論会はトランプ氏にとっても有利となった。
副大統領候補の討論会はこの 1 回のみだが、大統領候補の討論会はこの後、9 日、19 日の 2 回残っ
ている。1 回目はトランプ氏は大統領らしく振舞おうと暴言を慎んだが、逆にクリントン氏からトラ
ンプ氏の過去の連邦税の不払いや女性蔑視発言などを攻撃され、クリントン氏が圧勝して終わった。
2 回目の 9 日の討論会ではトランプ氏がクリントン氏を個人攻撃することが予想される。これをクリ
ントン氏がどのように防衛するか。またその 2 回目を経て 3 回目の討論会はどう収束するか。各人の
戦略と手腕が問われる。ただ、個人攻撃のネガティブ・キャンペーンが主流となると、ややレベルの
低いところでの戦いとなり、選挙結果にもどう反映されるのか読み難くなる。1 回目の討論会はクリ
ントン氏の勝利だったが、その後の世論調査ではそれほどの差は付いていない。つまり、討論会の結
果がそのまま大統領選に向けての支持の変化に繋がるとは限らない。
米国の経済指標の上振れはリスクオンの相場を後押しするが、米国の政治は必ずしもリスクオンの
材料とは言い難い。依然として、不確実性として残っている。
欧州にも不確実性が残る
一方、欧州では、ドイツの銀行セクターに対する特定の懸念は薄れたが(リスクオフは和らいだ)、
欧州の銀行セクター全体への不安心理は払拭されていない。併せて、ドイツではメルケル首相の支持
3
FOREX WEEKLY 2016/10/7
率の悪化や地方選での与党敗退など、来年の総選挙を前にドイツの政治には不透明感が漂う。イタリ
ア、スペインも然りである。
英国ではメイ首相が来年 3 月までに Brexit を始動するための Article50 を発動すると発表した。6
月の国民投票の後、この Article50 の発動、つまり EU 離脱を正式に申請する手続きを始めることは
困難だとの見方や、国民投票のやり直しといった後戻りの可能性への期待がマーケットにはあった。
しかし、今回の発表で来年 3 月までに Brexit を目指して EU との交渉が正式に始まることが明確にな
った。ポンドは国民投票の直後に一旦大幅に下落した後、横ばいだったが、この発表を受けて再度下
落した。
7/2016
8/2016
9/2016
10/2016
7/2016
8/2016
9/2016
10/2016
6/2016
4/2016
3/2016
5/2016
6/2016
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6/2016
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4/2016
3/2016
100
4/2016
120
3/2016
140
2/2016
160
2/2016
ユーロ/円
135
130
125
120
115
110
105
100
180
1/2016
2/2016
1/2016
10/2016
9/2016
8/2016
ポンド/円
200
ユーロ/ドル
1.18
1.16
1.14
1.12
1.1
1.08
1.06
1.04
1.02
7/2016
6/2016
5/2016
3/2016
2/2016
1/2016
4/2016
ポンド/ドル
1.55
1.5
1.45
1.4
1.35
1.3
1.25
1.2
1.15
1.1
リスクオンかリスクオフかを円相場から判断すれば、リスクオンのように見える。実際、米国の良
好な経済指標や OPEC 減産合意(9/30 号参照)などはリスクオン材料と言える。だが、前述のように、
債券市場の金利上昇の背景はリスクオン・オフとは別次元のものであり、また、欧米の政治には不確
実性が残り、リスクオフの素地は消滅していない。10 月に入って、マーケットではグローバルに新
たなポジションが構築されている。それは 10 月の相場を支配するだろう。だが、経済と政治の多岐
に渡る材料のリスクオン・オフの動きには別途、目配りをしておいた方が良さそうである。
4
FOREX WEEKLY 2016/10/7
ディーラーに聞きました(来週のドル円相場の方向性~ブルベア)
週
8 月 29 日~
9 月 5 日~
12 日~
19 日~
26 日~
10 月 3 日~
10 日~
予想
+4
±0
±0
-6
-2
+2
-2
実績
ブル
中立
中立
中立
中立
ブル
≪見方≫
当行の為替ディーラー(マーケット、カスタマー)8 名を対象に、来週の相場予想を聴取。ドルブル(終値から1円以
上のドル高)、中立(終値から上下1円内)、ドルベア(終値から1円のドル安)の三択で、結果を(ドルブル人数-ドルベア人数)
で表記。+(プラス)は円安ドル高、-(マイナス)は円高ドル安を示す。
主要 3 通貨の動き(2015 年 1 月~)
ドル/円
ユーロ/ドル
140
1.20
135
115
130
1.15
125
110
1.10
115
110
9/1/2016
7/1/2016
5/1/2016
3/1/2016
1/1/2016
9/1/2015
9/1/2016
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5/1/2016
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9/1/2015
11/1/2015
7/1/2015
5/1/2015
105
1/1/2015
9/1/2016
7/1/2016
5/1/2016
3/1/2016
1/1/2016
9/1/2015
11/1/2015
7/1/2015
1.00
5/1/2015
95
3/1/2015
1.05
1/1/2015
100
120
3/1/2015
105
11/1/2015
120
145
7/1/2015
1.25
5/1/2015
125
ユーロ/円
150
3/1/2015
1.30
1/1/2015
130
(データ出所:Bloomberg)
その他通貨の中期的な動向(2011 年 1 月~)
ドル/人民元
英ポンド/ドル
6.8
ドル/インドルピー
80
1.80
6.7
75
1.70
6.6
70
6.5
1.60
65
1.50
60
6.4
6.3
6.2
55
1.40
6.1
50
1.30
45
7/1/2016
1/1/2016
7/1/2015
1/1/2015
7/1/2014
1/1/2014
7/1/2013
1/1/2013
7/1/2012
40
1/1/2012
7/1/2016
1/1/2016
7/1/2015
1/1/2015
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1/1/2014
7/1/2013
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7/1/2011
1/1/2011
7/1/2016
1/1/2016
7/1/2015
1/1/2015
7/1/2014
1/1/2014
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1/1/2013
7/1/2012
1/1/2012
7/1/2011
1.20
1/1/2011
5.8
7/1/2011
5.9
1/1/2011
6.0
(データ出所:Bloomberg)
5
70
60
50
40
30
20
1500
原油(WTI 先物(期近物):ドル/バレル)
6
2016/10/1
2500
2016/10/1
3500
2016/7/1
4500
2016/7/1
5500
2016/4/1
株(上海総合指数)
2016/4/1
14000
2016/10/1
2016/1/1
2015/10/1
2015/7/1
2016/10/1
15000
2016/7/1
16000
2016/7/1
17000
2016/4/1
株(米ダウ)
2016/4/1
2016/1/1
16000
2016/1/1
18000
2016/1/1
18000
2015/10/1
19000
2015/10/1
20000
2015/10/1
20000
2015/7/1
株(日経平均株価)
2015/7/1
22000
2015/7/1
2.6
2.4
2.2
2.0
1.8
1.6
1.4
1.2
1.0
2015/4/1
2015/1/1
2016/10/1
2016/7/1
2016/4/1
2016/1/1
2015/10/1
2015/7/1
2015/4/1
2015/1/1
%
2015/4/1
2015/1/1
2016/10/1
2016/7/1
2016/4/1
2016/1/1
2015/10/1
2015/7/1
2015/4/1
2015/1/1
0.6
0.4
0.2
0.0
-0.2
-0.4
2015/4/1
2015/1/1
2016/10/1
2016/7/1
2016/4/1
2016/1/1
2015/10/1
2015/7/1
2015/4/1
2015/1/1
債券(日本国債・10 年債利回り)
2015/4/1
2015/1/1
2016/10/1
2016/7/1
2016/4/1
2016/1/1
2015/10/1
2015/7/1
2015/4/1
2015/1/1
FOREX WEEKLY 2016/10/7
通貨以外のマーケット動向(2015 年 1 月~)
債券(米国債・10 年債利回り)
%
株(ドイツ DAX 指数)
13000
12000
11000
10000
9000
8000
金(NY 先物(期近物):ドル/トロイオンス)
1500
1400
1300
1200
1100
1000
900
(データ出所:Bloomberg)
FOREX WEEKLY 2016/10/7
今週のプライスアクション(ドル円)
(出所:Reuters)
① チャートポイントを抜けた
こともあり、ドル円は上昇。
② 強い非製造業 ISM を受けて
ドル円は上昇。
③ 米金利上昇によりドル円は
上昇。
③
②
①
来週のチャ-ト分析
(出所:Reuters)
Daily JPY=EBS
2016/08/01 - 2016/10/24 (TOK)
Price
Daily EUR=EBS
2016/08/02 - 2016/10/24 (TOK)
Price
105
1.13
104
103
1.12
102
101
1.11
100
.12
0
01日
08日
15日
22日
2016年 8月
29日
05日
12日
19日
2016年 9月
26日
03日
10日
17日
2016年 10月
08日
24日
<ドル円、日足、一目均衡表>
・ 現在雲の上を推移。
・ 10/14 の雲上限は 103.52 円、下限は 102.35 円。
15日
22日
2016年 8月
29日
05日
12日
19日
2016年 9月
26日
03日
10日
17日
2016年 10月
24日
<ユーロドル、日足、一目均衡表>
・ 現在雲の下を推移。
・ 10/14 の雲上限は 1.1216 ドル、下限は 1.1159 ドル。
来週の主な材料
10/10(月) (日)市場休場(体育の日)(米)市場休場(コロンブスデー)
10/11(火) (日)8 月国際収支、9 月景気ウォッチャー調査(米)9 月労働市場情勢指数
(欧)10 月独 ZEW 期待指数
10/12(水) (日)8 月機械受注(米)FOMC 議事録
10/13(木) (日)8 月第 3 次産業活動指数(中)9 月貿易収支
10/14(金) (日)9 月マネーストック、9 月国内企業物価指数(米)9 月小売売上高、9 月 PPI、8 月企業在庫、
10 月ミシガン大消費者センチメント(速報)、イエレン FRB 議長講演(中)9 月 CPI、9 月 PPI
(時間は全て現地時間)
(本ページの担当:花木)
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