「なぜ?」「だから何?」を繰り返し 結果の学問から原因の学問へ

生物
どんな授業なのか
り、﹁ 結 果の学 問 ﹂から﹁ 原 因の学 問 ﹂
へ
の転 換を図っている。
例 え ば眼の構 造に関 する 授 業では、
各 部 位 の 名 称 と 役 割 の 解 説 だ けで な
く 、﹁ここに盲 斑がある理 由は?﹂
﹁ 視細
胞のうち 錐 体 細 胞は視 界の正 面 、かん
体 細 胞は端に多いのはなぜ?﹂と 、その
原 因にまで 踏み込 む 。テストは論 述 問
題が多 く 、そこでも 原 因 を 重 視 。採 点
には時 間 をかけ、テスト用 紙が赤ペンで
真っ赤になるぐらいコメントを書き込む。
﹁ 生 物 分 野には原 因が2種 類あります。
例えば、髪が黒いのはなぜ?
化 学 的に
はメラニン色 素があるからです 。さらに、
黒 だから 何 なの?と 考 え る と 、強い紫
外 線から細 胞 を 守るためという 生 物 学
的 な 原 因 も 見 えてきます 。その違いを
意 識 し 、思 考 で き る 道 筋 をつけたいと
考えています ﹂︵ 遠 藤 先 生・以下 同 ︶
遠 藤 先 生が﹁ 原 因の学 問 ﹂に取り 組
む 理 由 の1つは 、生 徒 の 進 路 実 現 のた
めだ。ただし、それだけではない。
強 が楽しいと 思 わせることが大 切かを
遠 藤 先 生は授 業の成 立すら困 難だっ
た初 任 校での経 験から、
いかに生 徒に勉
﹁ 生 物 ﹂の成 績を引き上 げた。そうして
いポイント を 的 確 に 押 さ え た 授 業 で 、
徹 底 と 、生 徒 との対 話による 躓 きやす
題 を 発 見し解 決できる人 材 を 育てたい。
生 をどう 生 きるかを 見 据 えて 、自 ら 課
そ う 強 まりました。大 学の先にある 人
発 事 故の混 乱を経 験し、その思いはいっ
学んだ。進 学 校に転 勤 後は基 礎 知 識の
プクラスの進 学 校 、県 立 福 島 高 校で﹁ 生
生 徒の進 路 実 現に大きく貢 献するなか
それが福 島の復 興の1つの支 えになる
なぜそうなるかを考えさせ
思考力を養う
物 ﹂を 教える遠 藤 直 哉 先 生の決まり文
で 、改めて 進 路の先に目 を 向ける 必 要
と考えました﹂
東 北でトッ
句だ。教 科 書にはほぼ物 事の﹁ 結 果 ﹂し
を感じるようになったという。
﹁ なぜ?﹂﹁だから何 ?﹂
か書かれていない。遠 藤 先 生はそれを丸
原 因に踏み込 む 授 業の実 践には、教
員 側の 知 識の 深 さが必 要 だ 。その 点 、
﹁ 受 験 学 力をつけて○ ○ 大 学に受かれ
刺身を弁当に入れないのは「当たり前」
?
暗 記させるのではなく 、なぜそうなるの
遠藤直哉先生の昼食はたいていカップ麺。ある生徒
が健康を心配して「カップ麺ばかり食べているとガンに
なっちゃうよ」
と声を掛けると、遠藤先生は「本当にカッ
プ麺が原因でガンになるの? なぜ?」
と突っ込みを入れ
る──このやりとりのように、遠藤先生が授業で大切
にしているのは、結果ではなく原因である。
なぜ刺身は弁当に入れないのか。
「生は腐りやすいから当たり前で
す」
という生徒に、遠藤先生は「じゃあ、
なぜ刺身は腐りやすいの?」
と
問う。生徒は、細菌の数が多いからではないかと予想するが、
「それ本
当?実験してみたら?」。刺身と煮魚の一定面積の表面組織を採取
し、時間経過で細菌数の変化を見る実験を行うことに。すると、最初
は同等だった細菌数が、数日後は刺身だけ激増した。
「なぜ刺身の
細菌だけこんなに増えたの?」。両者の違いは何かを話し合ううち、生
徒は水分の違いに気付く。そこで、刺身の水分を抜いて同様に実験
を行ったところ、細菌の増殖は大幅に抑えられた。これにより、刺身が
腐りやすい原因は、生であることではなく水分量の多さだとわかった。
ばそれで 良いのか。東 日 本 大 震 災で 原
授業エピソード
かという﹁ 原 因 ﹂も 理 解させる授 業によ
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2016 OCT. Vol.414
1898年創立/普通科/生徒数959人
(男子558人・女子401人)
/進路状況
(2016
年3月実績)
大学218人・短大1人・専門学校3人、就職2人、
その他88人
学校データ
「なぜ?」
「だから何?」を繰り返し
結果の学問から原因の学問へ
福島高校(福島・県立)
遠藤直哉先生
教師歴17年。東日本大震災後、
「 教育によって福島を復興させ
たい」
と、生徒が企業や大学と
連携して取り組む「福島復興プ
ロジェクト」や「医療系セミナー」
などを立ち上げてきた。型破りな
行動力から「暴走特急」の異名
をもつ。
【Report 05】生物
「授業」で社会を生きる力を育む
夏期特別講習後、
生徒に囲まれて。
し 、遠 藤 先 生 はすべて を 教 え るわけで
知っている ﹂と 生 徒は口を 揃 える 。しか
﹁ 遠 藤 先 生は﹃ 生 物 ﹄のことなら何でも
題 も 広 く 取り 上 げ 、
﹁ なぜ? ﹂
﹁ だから
が高いのか ﹂な ど 経 済 や 地 域 社 会 の 話
のか﹂﹁ なぜ福 島の子どもの体 重 増 加 率
年の授 業では、﹁ なぜあの書 店は潰れた
自 ら 問いを 立てて 考 え るようになった
先 生 。受け身で頭に詰め込むのでな く 、
授 業に遅 れそ うになること も ﹂と 遠 藤
う。
﹁ 授 業 終 了 後 、質 問への対 応で次の
ま ずたく さん質 問 するようになるとい
なって 成 績が上がった。
﹁ 原 因 も 含めて
子は、遠 藤 先 生の授 業 を 受けるように
﹁ 生 物 ﹂が苦 手 だったというある3年 女
また、内 容を深 く 理 解することは、成
績 だけでな く 学ぶ意 欲にも 効 果 的 だ 。
理 解できるようになって、
初めて
﹃ 生物 ﹄
何 ?﹂を徹 底 的に繰り返す。
ことの表れといえる。
﹁ あえて自 分も知らないことを問い、こ
﹁まず当たり前を疑う思 考 力を付けて
はない。
ういう 可 能 性はあるけれど 本 当の原 因
ほしい。思 考 力が身に付けば、大 学 受 験
﹁ 最 初は基 礎 的な知 識や学び方をがっ
遠 藤 先 生 がこの 先 に 思い 描 く のは
﹁ 教えない授 業 ﹂だ。
自ら学んでいく
生徒の育成のために
今 後 行いたい授 業
現すべく 受 験 勉 強に励んでいる。
が楽しいと思えた﹂と、看 護 師の夢 を 実
のための﹃ 生 物 ﹄の勉 強は3年になって
の授 業は進 度が遅 く 、たいてい模 試の出
しょっちゅう 話が横 道に逸れる1、
2年
次に、教えていない単 元がテストに出
ても 得 点できる生 徒が出てくる。特に
え調べさせることも 。生 徒の思
からでも十 分 間に合いますから﹂
は先 生 も 知 らないよ 、と 生 徒に自 ら 考
考 を 膨 ら ませるのが 教 員 の 役
生徒はどう変わったか
題 範 囲が終わらない。しかし、試 験 結 果
は良い。知 識のない問 題でも 生 徒は原
※福島・安積・いわき・白河高校の合同で、
2泊3日で自分自身のゲノムDNAを抽出して
アルコール代謝遺伝子の遺伝子診断を行った際の生徒感想コメントから一部を抜粋。
コメントは他校生含む。
割だと考えています ﹂
3日間で最も大切だと思ったことは、
「 不思議に思うこと・考えること」
だ。教科書
で教えられるものは事実であるが、その事実が導き出された経緯を一歩踏み込
んで調べてみるとより深く理解できるということを学んだ。
(中略)
日頃から常に
周りの者に対して興味・関心をもち、考える癖をつけていきたいと思う。
遠 藤 先 生の狙いは、生 徒 自 身
に原 因 を 追 究 す る 思 考 力 をつ
今回の合宿を通して、
自分はなぜ今まで勉強ができなかったのかを根本的な部
分から知れたと思います。というのも、今までは教科書や参考書などに書いてあ
ったことを鵜呑みにして、
「なぜこの部分はそういった結果になるのか?」
といった
疑問をもたずにいたからです。だから、直哉先生の「何でも疑問をもち、本質的
にとらえてつながりを見出すことで格段に理解が深まる」
という言葉に感銘を受
けました。実際、直哉先生の講義はとてもわかりやすく有意義なものでした。
理から考え 、﹁ 問 題 文 を 読めばこれしか
ない﹂と正 解を導き出すからだ。
今回のセミナーを受けるまで、
私は生物という学問に対して苦手意識をもってい
ました。
しかし、様々な講座や実験を重ねるごとに、生物にだんだんと惹かれてい
きました。生物の定義や、物事の考え方、起きている現象などに対して「どうし
て?」
と疑問をもち、その疑問の解明を、受動的でなく能動的に行うなど、生物だ
けではなく、他の教科に当てはめることのできる様々なことを学ぶことができまし
た。私は実は来年度の理科科目選択では、物理を選ぼうと考えていました。
(中
略)私はどちらの科目をとっても十分たちうちできるよう学習に励み、物理、生物
と分けるのではなく、理科という教科を愛していきたいと思います。
教えなくても
問題が解けるように
生の
遠藤先 ナー」に
ミ
セ
物
声
「生
生徒の
参加した
けること。そのための素 材は生
遠 藤 先 生の授 業 を 受けると 、生 徒は
つり教える必 要がありますが、
最 終 的に
はそ れら を 使って 生 徒 が自 ら 学 んでい
くようになるのが理 想です ﹂
しかし ながら 、個 人 で 教 え られる 生
徒の数には限りがある 。遠 藤 先 生 らは
3年 前から 、授 業 と 外 部 講 師 講 演 など
の特 別 講 座 を 校 内 ネットワークに公 開
しており、現 在 、 人の教 員の授 業を閲
切 磋 琢 磨 するよう な 、教 員 育 成のプラ
です 。今 後 、全 国 規 模で 授 業 を 共 有し
ことが、多 くの生 徒の力 を 伸 ばす 近 道
﹁ 質の高い授 業ができる教 員 を 増やす
考にしている。
使 うだけでな く 、教 員 も 授 業 実 践の参
覧 可 能だ。遠 藤 先 生は YouTube
で一般
公 開 も 行う 。これを 生 徒が自 学 自 習に
7
ています ﹂
ットフォームができ ないものかと 画 策し
2016 OCT. Vol.414
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物 分 野に限 ら ない。特に1 、2
夏季特別講習の授業をビデオカ
メラで録画。校内のネットワーク
にアップしている。
取材・文/藤崎雅子