医療機器産業研究所 「ジャパン・バイオデザイン第 1

MDSI 医療機器産業研究所
Medical Device Strategy Institute
医療機器産業研究所 スナップショット No.15
「ジャパン・バイオデザイン第 1 期の修了 -医療現場でのニーズ発見の拡大を-」
東京大学工学系研究科 バイオエンジニアリング専攻
ジャパン・バイオデザイン 共同プログラムディレクター
前田祐二郎
2016 年 7 月ジャパン・バイオデザイン 2015~2016 フェロ
ーシップコース修了式を開催した。2015 年 10 月より東京大
学、大阪大学、東北大学の 3 大学がスタンフォード大学と連
携して開始したジャパン・バイオデザインフェローシッププロ
グラムの第1期目のフェロー(受講生)10 名が 10 か月のプロ
グラムを修了した。ジャパン・バイオデザインは文部科学省
からの助成とともに、日本医療機器産業連合会および会員
企業を中心とした産業界からの支援を受けて、産官学で日
本メドテックイノベーション協会を設立し運営を行っている。
バイオデザインは、スタンフォード大学で 2001 年に始め
られた医療機器のイノベーションを担う人材を育成するため
に設計されたプログラムである。フェローは 20 代後半〜30
代前半の医師、エンジニア、ビジネスマンなどで少人数のチ
ームを構成し、10 か月の期間で、ニーズの特定、製品コン
セプト開発、事業化戦略作成を行い、プログラム終了時の起
業・資金調達を目指す。チームはデザイン思考をベースとし
て綿密に定義されたマイルストーンに沿ってプロセスを進め
て行く。実践的に起業を目指すものであり、現実は必ずしも
教科書通りとは行かないものの、非常に詳細に具体的なプ
ロセスが記載されたテキストが出版されている。スタンフォー
ド大学では 15 年間で 40 社程のスタートアップ企業の創出
に成功している。
最も特徴的なのが、“A well-characterized need is the
DNA of a great invention”というバイオデザインのマントラ
もあるように、ニーズ発であるという事を最重要視している点
である。ニーズの発見は、観察を行う現場、すなわち病院の
理解と協力を得て、フェローのチームが医療従事者のチー
ムの一員のように、朝のカンファレンスから、手術室、病室ま
で観察して、医療現場に存在する大量のニーズを抽出して
行くクリニカルイマージョンと呼ばれるプロセスで行う。つまり、
フェローたちが医療現場で観察した生の体験に基づいてい
る事が重要であり、これを医学的なデータや調査によりブラ
ッシュアップしていく。今期、東京大学のチームは脳神経外
科・リハビリテーション科に領域を絞り、約1ヶ月半、臨床現
場に入り、200 個以上のニーズを発見した。
ここで御理解頂きたいのは、医療機器の創出において
は、臨床発のニーズが重要である事は読者の皆様には釈
迦に説法であるが、バイオデザインで言う“ニーズ”とい
うのは、
「どのように解決したいか」でなく「どのような
変化をもたらしたいのか」であり、ソリューション(例え
ば、カテーテルで、ステントで、メスで、等)は含まない。
近年、医療機器創出を促進する目的で行われる臨床医・
研究者が開発したい医療機器の研究に必要な要素技術を
提示し、要素技術を持つ企業とのマッチングを行うニー
ズ・シーズマッチングが成果を上げているが、こうした
マッチングの“ニーズ”は、バイオデザインで言うところ
でのコンセプト(ソリューション案)に近く、バイオデザイ
ンで言う“ニーズ”はニュアンスが異なっている。
製薬業界では既に上市された商品の販売拡大が主眼と
なるのと異なり、医療機器の世界では患者・医療従事者・医
療機関が何に困っているのかを拾い上げるための医療現場
の観察・対話が欠かせない。東京大学ではニーズ発見のた
めの観察場所(臨床現場)の確保で、複数の病院にご協力頂
いた。この活動を通して、ニーズ探索の場所としての臨床現
場の開放に理解を示して頂ける病院との良い関係性が築か
れ、興味を示してくれる病院が増えてきた事は意義があると
考えている。私としては Patient First(患者第一)を大切にし
ながら、この医療現場と企業の正しく良好な関係性を拡大す
る事にも今後尽力していきたい。
バイオデザインは実際にプロジェクト立ち上げを行うこと
により“走る人材”を育成するものであり、これまでに整備さ
れてきた日本発の革新的医療機器創出をサポートする組
織・制度はすべからく本プログラムにとって大きな助けとなっ
た。特に事業計画の作成にあたっては医療機器分野のエキ
スパートからのメンタリングが不可欠である。医療機器領域
への新規事業展開を計画する企業に向けて、基礎的な内容
から応用的な内容まで様々なセミナーを提供しており、豊富
な人的ネットワークを有する医療機器センターは本プログラ
ムの実施にあたり、最もご協力頂いた組織の一つであり、こ
の場を借りて感謝の意を示したいと思います。
スタンフォード研修にて創始者ポール・ヨック先生とフェロー
本スナップショットに記された意見や考えは著者の個人的なものであり、公益財団法人医療機器センター及び医療機器産業研究所
の公式な見解ではありません。連絡先 E-mail: [email protected] 電話:03-3813-8553 FAX:03-3813-8733