マイナス金利環境下の投資適格債券投資

年金コンサルティングニュース
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2016.10
マイナス金利環境下の投資適格債券投資
直近国内債券利回りは一部マイナスを含む低水準となっており、投資家にはインカム収益獲得ニーズから国内債券
をヘッジ付外国債券等へ資金を移す機運も高まっている。一方、外国債券へ投資する際の為替ヘッジコストは対米ド
ルを中心に上昇しており、多くの企業年金が外国債券のベンチマークとするシティグループ世界国債インデックス(日
本除く)のへッジコスト考慮後利回りも低位に留まる。こうした環境下、投資適格債券は、信用リスクを一定以上に
担保しつつ国債対比上乗せ利回りを獲得できる資産として、投資家の注目が高まっている。そこで今回は、非国債を
含む代表的指数であるブルームバーグ・バークレイズ・グローバル債券総合インデックスの特徴をまとめる。
過半を占めているため、WGBIと比較してより収益源
■ブルームバーグ・バークレイズ・グローバル総合イ
泉が多様となっており、8月末時点の最終利回りは
ンデックスの概要
外国債券の代表的なベンチマークであるシティグル
WGBI が 0.85% な の に 対 し 、 BG 総 合 の 最 終 利 回 り は
ープ世界国債インデックス(日本除く)
( 以下「WGBI」)
1.40%と高く、またBG総合のクーポンが相対的に高い
と、ブルームバーグ・バークレイズ・グローバル総
ためデュレーションはWGBIと比較して短い。一方で
合インデックス(日本除く)(以下「BG総合」)の概
BG総合の平均格付けはAA2/AA3とWGBIと比較して1ノ
要は図表1のとおりである。BG総合は、WGBIと比較し
ッチ低い水準である。以下①から③で、国債以外の
て組み入れ債券が多様であり、構成国数も多く、WGBI
債券種別について概観する。
に比べ時価総額は2倍、銘柄数は20倍超の規模である。
①
政府関連債
(図表3) BG総合における 政府関連債の債券種別内訳
(図表1)WGBIとBG総合の概要(2016年8月末時点)
(2016年8月末時点)
(2016年8月末時点)
シティグループ世界国債
インデックス(除く日本)
ブルームバーグ・バークレイズ・
グローバル総合インデックス
(除く日本)
算出機関
シティグループ
組入れ債券
自国通貨建て国債
時価総額
164,493億USドル
バークレイズ証券
国債/政府関連債/
社債/資産担保証券
390,640億USドル
銘柄数
743銘柄
16,220銘柄
国・通貨数
23か国/14通貨
71か国/23通貨
通貨数
14通貨
23通貨
平均残存年数
8.27年
8.42年
修正デュレーション
7.37年
6.40年
最終利回り
平均格付
0.85%
AA
1.40%
AA2/AA3
最低格付
採用:Moody'sまたはS&Pの
A-以上
除外:上記2社でBBB-未満
国際機関債
20%
エージェン
ソブリン債
11%
地方債/州債
23%
政府
関連債
13%
格付
エージェン
シー債
1.27%
5.1年
6.2年
AA2/AA3
地方債/
州債
1.56%
8.0年
11.2年
AA2/AA3
ソブリン債
2.48%
7.5年
11.2年 A3/BAA1
0.53%
5.9年
6.7年
国際機関
債
AAA/AA1
債とは、政府系機関(代表的な発行体は、ドイツ復
興金融公庫、フランス社会保障基金、米国の連邦住
Moody's、S&P、Fitch3社の
平均格付けがBBB-以上
宅抵当公庫(ファニーメイ)等)の発行する債券で
ある。政府との結びつきが強いことや、その役割に
よって政府から支援を受ける可能性が大きい(ただ
(2016年8月末時点)
国債
47%
平均残存
年数
政府関連債のうち約半分を占めるエージェンシー
(図表2)BG総合の債券種別割合
社債
22%
修正
デュレーション
(出所:バークレイズ証券HPよりみずほ総研作成)
(出所:シティグループ及びバークレイズ証券のHPよりみずほ総研作成)
資産担
保証券
18%
シー債
46%
最終
利回り
最終
利回り
デュレーション
修正
平均残存
年数
格付
国債
0.93%
7.6年
9.4年
AA1/AA2
政府
関連債
1.32%
6.2年
8.0年
AA2/AA3
社債
2.26%
6.8年
9.3年
A3/BAA1
資産
担保証券
1.66%
3.0年
5.0年
AAA/AA1
し政府による明示的な保証はないものもある)こと
から各国国債に準じる高い格付けを付与されており、
相対的に利回りは低い。
政府関連債のうち約4分の1を占める地方債・州債
は、地方自治体政府(州や郡)が発行する債券で、
発行体自身の信用力によって元利金の支払いを保証
(出所:バークレイズ証券HPよりみずほ総研作成)
図表2の通り、BG総合は国債以外の債券が時価総額の
する一般財源保証債と、自治体が運営する社会イン
1
フラ事業等からの収入のみを償還原資とするレベニ
ABSやCMBSは、企業などが保有する資産をSPC(特
ュー債(特定財源債)がある。オンタリオ州やケベ
別目的会社;証券化証券を発行するために設立され
ック州を中心としたカナダの州債やドイツの州債が
る)に売却し、SPCがその資産を裏付けに証券を発行
大半を占める。
するため、投資家への返済原資は裏付け資産のキャ
②
ッシュフローに限定されるのに対し、カバードボン
社債
社債の主要な市場である米国と欧州における債券
ドは金融機関により発行されるため、裏付け資産の
特性は図表4のとおりである。
キャッシュフローからの優先弁済権とともに発行体
(図表4)BG総合における社債の地域別特性
への請求権も持つ点が特徴的である。
(2016年8月末時点)
全体
市場規模
産業
公益
金融
修正デュレーション
利回り
対国債OAS
米国 ユーロ圏
(図表5)BG総合における資産担保証券の種別内訳
英国
85,114億ドル 58,441億ドル 18,429億ドル 4,961億ドル
55%
59%
50%
40%
8%
7%
8%
20%
37%
34%
43%
40%
6.79年
7.14年
5.39年
9.03年
2.26%
2.79%
0.62%
2.10%
132bp
139bp
108bp
142bp
(出所:バークレイズ証券HPよりみずほ総研作成)
CMBS
3%
ABS
1%
ユーロ社債の加重平均社債利回りはベース利回り
修正
デュレーショ
MBS
2.04%
2.4年
4.8年
AAA/AAA
ABS
1.54%
4.0年
6.0年
AA1/AA2
CMBS
1.95%
5.7年
6.8年
AAA/AA1
0.07%
4.9年
5.3年
AAA/AA1
カバード
ボンド
19%
エージェンシー
MBS
77%
(2016年8月末時点)
平均残
格付
存
最終
利回り
カバード
ボンド
(出所:バークレイズ証券HPよりみずほ総研作成)
の低さに加え、ECB(欧州中央銀行)の積極的な金融
資産担保付証券の約4分の3を占めるエージェンシ
政策等を背景にOAS(国債に対する上乗せ利回り)も
ーMBSとは、政府系機関(ジニーメイ(連邦政府抵当
米国と比較し縮小しており、8月末では米国2.79%に
金庫)、ファニーメイ(連邦住宅抵当公庫)、フレデ
対しユーロ圏は0.62%と2%以上の差異が生じている。
ィマック(連邦住宅金融抵当金庫))の引受ガイドラ
2016 年 6 月 か ら は ECB に よ る 社 債 購 入 プ ロ グ ラ ム
イン(ローン金額上限、LTV比率(Loan to Value;
(2016年3月公表、対象はユーロ建投資適格社債)が
住宅価値に対するローンの割合)等)を満たす適格
開始されており、各中央銀行による金融政策の社債
住宅ローンを集めて証券化し、元利金支払いについ
市場への影響は今後も見込まれる。
て各政府系機関が保証するものである。
( 保証のない
なお、社債利回りの低下は企業サイドからみると
社債の発行コストの低下であり、相対的に信用力の
民間(ノンエージェンシー)MBSも米国を中心に発行
はされているが、BG総合には含まれない。)
低い企業による発行も増加している。社債の平均格
債務保証を行う政府系機関のうち、ジニーメイは
付けは米国・ユーロともに2012年3月末のA2/A3から
政府機関であり、またファニーメイ及びフレディマ
直近ではA3/BAA1に低下している。
ックは政府支援企業(政府による明示的な債務保証
③
はないため限定的ではあるが信用リスクは存在)で
資産担保証券
資産担保証券は、米国を中心としたMBS (Mortgage
あるため、エージェンシーMBSの信用力は高い。一方、
Backed Security)、ABS(Asset Backed Securities)
、
エージェンシーMBSは、パス・スルーという仕組みを
CMBS(Commercial
とるため期限前償還リスクが存在し、当該リスクに
Mortgage-Backed Securities)
及び欧州を中心としたカバードボンドで構成される。
見合う上乗せ利回りを享受できるのが特徴である。
MBSは住宅ローン、ABSは銀行・クレジットカード会
(なお、パス・スルー及び期限前償還リスクについ
社等の消費者向けローンや売上債権、CMBSはオフィ
ての詳細な説明は補論を参照されたい。)
スやホテル等の商業用不動産をそれぞれ担保とし、
担保資産から得られるキャッシュフローを裏付けと
■ パフォーマンス推移
して発行される債券をいう。また、カバードボンド
BG総合の計測開始時点(2000年9月)からのWGBI
とは、住宅ローンや地方公共団体向け債権などを担
及びBG総合(ヘッジ付)の累積パフォーマンスは図
保に金融機関が発行する債券をいう。
表6のとおりである。2008年以降、金融危機を受けた
2
各国中央銀行の積極的な金融政策を背景に、債券利
■まとめ
回りは概ね低下の一途を辿っており、WGBI及びBG総
各国の国債はマイナス利回りの債券の占める割合
合ともにパフォーマンスは堅調である。BG総合のOAS
が増え、その平均利回りは1%に満たない水準となっ
(オプション調整後スプレッド;将来金利予測を考
ており、インカムを生む信用力の高い資産に対する
慮した国債に対する平均利回り差)は、2007年8月の
需要は世界的に強い。
パリバショックから2008年9月のリーマンショック
(図表8) 過 去 5年 間 の 各 債 券 の 上 乗 せ 利 回 り 水 準
に続く金融危機や2011年の欧州債務危機に代表され
(2011年9月~2016年8月)
る信用収縮の局面で大きく拡大しており、BG総合は、
400
信用リスクが高まる局面でWGBIに対して劣後するこ
300
とが確認できる。
(ただし、同期間における株式との
200
相関は、国内株式-0.14、外国株式-0.22とともにマ
100
2016年8月末のOAS
135
65
15
0
イナスである。)
政府関連債
(図表6)WGBI及びBG総合(ヘッジ付)の累積収益率
180
2.0
リターン(年率)
標準偏差(年率)
140
WGBI
BG総合
3.3%
3.7%
3.5%
3.2%
米投資適格
社債
欧州
投資適格
社債
エージェンシー
MBS
(出所:バークレイズ証券HPよりみずほ総研作成)
(2000年9月=100)及び平均OASの推移
160
108
1.6
1.2
投資適格債券の、国債と同水準のボラティリティ、
相対的に高い利回り、ポートフォリオの分散効果(株
120
0.8
式との低相関)等を勘案すると、国債に代わる選択
100
0.4
肢として今後も高い需要が見込まれると考えられる。
80
0.0
6%
3%
0%
-3%
-6%
WGBI-BG総合(1年ローリング)
2000/10
2003/10
WGBI(左軸)
2006/10
2009/10
2012/10
2015/10
BG総合(左軸)
平均OAS(右軸)
(出所:Bloombergデータよりみずほ総研作成)
図表7はヘッジなしの累積収益率を示した。米国市
場は他国の市場に比べ非国債取引が活発であるため、
ただし、既に述べたとおり、投資適格債券への投
資は、債券種別毎に国債とは異なる固有のリスク(信
用リスクや期限前償還リスク等)を伴うため、当該
リスクとそれにより得られる上乗せ利回りの水準を
十分に精査した上で投資を検討することが重要であ
ると考える。
BG総合はWGBIと比較して米ドル建て債券の割合が高
い。(8月末時点で米ドル建て債券のWGBIに占める構
成割合は43%なのに対し、BG総合では53%である。)そ
のため、BG総合はより米ドル相場変動の影響を受け
やすく、ドル高局面ではWGBIの実績を上回る傾向に
あることが確認できる。
(図表7)WGBI及びBG総合(ヘッジなし)の累積収益
率(2000年9月=100)及びドルユーロの推移
300
1.20
250
1.05
200
0.90
150
0.75
100
WGBI-BG総合(1年ローリング)
2000/10
2003/10
2006/10
2009/10
2012/10
WGBI(ヘッジなし)
BG総合(ヘッジなし)
0.60
6%
3%
0%
-3%
-6%
2015/10
ドルユーロ(右軸)
(出所:Bloombergデータよりみずほ総研作成)
3
(補論)MBSのキャッシュフローの特徴と期限前償還リスクについて
基本的な仕組み
期限前償還リスク
MBSの基本的な仕組みは、本文中にも記載のとおり、
一般的に住宅ローンの借り手は任意に期限前償
政府系機関の引受ガイドライン(ローン金額上限、
還を行う権利を有しており、例えば市場金利水準
LTV比率(Loan to Value;住宅価値に対するローン
が低下すると、既存の住宅ローンを繰り上げて返
の割合)等)を満たす適格住宅ローンを集めて証
済し、より低い金利で借換えを行うインセンティ
券化し、元利金支払いについて各政府系機関が保
ブが高まる。パス・スルーの仕組みにより、MBS
証するものである。MBSの投資家は、毎月住宅ロー
投資家は、こうした住宅ローンの期限前償還の影
ンの返済金(元利金)を受取ることができ、住宅
響を受けることとなる。下図の通り、金利上昇時
ローン支払いに滞りがあった場合には政府系機関
には借換えが事前の想定より少なく発生するこ
から元利金支払いが保証される。
とにより、MBSのデュレーションが長期化するこ
(図表)エージェンシーMBSの基本的な仕組み
とで価格下落が通常の債券と比較して大きく
ローン債権
売却
金融機関
発行体
組成・
売却
なり、一方で金利低下時には同様にMBSのデュレー
投資家
ションが短期化することで価格上昇は通常の債券
と比較して小さくなるという特性を持つ。
MBS
ローン貸出
住宅ローン
債務者
(図表)市場金利とMBSの価格変化の関係
元利金保証
政府系
機関
(住宅ローン支払い
に滞りがあった場合
元利金支払いが保
証される)
金利上昇により、借換えが
減少することで、MBSの
デュレーションは想定より長
期化し、価格はさらに下落
パス・スルーとは
債
券
価
格
MBSの投資家は、上述のとおり毎月、住宅ローンプ
ールから生じるキャッシュフローはそのまま投資
家に通過(パス)させて支払われる。この仕組み
を「パス・スルー」という。住宅ローンは一般的
金利低下により、借換え
が増加することで、MBS
のデュレーションは想定
より短期化し、価格上昇
は抑制される
通常の債券
(一般的に下に凸)
MBS
(上に凸)
に「元利均等返済」
(毎月の元利金の支払額合計が
市場金利
一定となるような返済方法/下図ご参照)である
ため、当初は返済額に占める利息支払いの割合が
これは住宅ローンの借り手がコールオプションを
大きく、返済が進むにつれ元本返済部分の割合が
保有しているのと同等の効果であり、MBSの相対的
増加していくのが特徴である。
に高い利回りにはオプション・プレミアムに見合
(図表)元利均等返済のキャッシュフローイメージ
うスプレッドが上乗せされていると考えることが
通常の固定利付債
できる。
モーゲージ債
40
110
40
30
100
30
元本
20
20
利息
10
10
0
0
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料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります。
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