医政活動なくして医療政策は実現しない 今こそ大同団結を‼

医政活動なくして医療政策は実現しない
今こそ大同団結を‼
静岡県医師会副会長 徳永 宏司
篠原会長の下、新執行部も 2 期目を迎えます。
を変えていこうと作業が進められています。
医療を取り巻く環境は大きく変わろうとしていま
その一つが、急性期から慢性期に至るまで、患
す。成熟した果実は必ず枯渇していくもの、日本
者の症状に応じて効率的かつ質の高い医療を提供
も成熟国家として栄えましたが、少子高齢社会、
するため、病床の分化と連携を進め、地域医療の
人口が減少していくことは衰退期を迎えているの
提供体制を再構築しようとするもので、いわゆる
ではないのでしょうか。我々はこの衰えをいかに
「地域医療構想」の策定作業が進められています。
遅らせるか、創意、工夫、努力、協働、が必要な
もう一つが、地域の中で医師会や医療機関が行
時だと思っています。この大きな変革に医療に携
政や住民と協力しながら、住まい、医療、予防、
わる者も先んじた意識改革が要求されていると思
生活支援のサービスを一体的に提供する「地域包
います。2011年に日本は国民皆保険制度の施行か
括ケアシステム」の構築であり、今後はこの 2 つ
ら50年を迎え、比較的に短い期間で、日本は平均
を車の両輪として、それぞれの地域で積極的な取
寿命など、多くの健康指標に於いて世界一位とな
り組みが行われています。
り、さらに、低コストで公平性を担保しながら健
康水準を実現させてきました。
こうした中、在宅医療の充実は最優先課題とさ
れており、その中心的役割を担うのが「かかりつけ
THE LANCET 2011年 9 月号では、
“国民皆保
医」でありその重要性はますます高まっています。
険制度から50年”というタイトルで記念号が発刊
「かかりつけ医」とは、なんでも相談できる上、
され、日本の医療制度の過去の総括と今後の課題
最新の医療情報を熟知して、
必要な時には専門医、
が紹介されました。
専門医療機関を紹介でき、身近で頼りになる地域
しかしながら、日本の保険医療制度は、継続す
医療、保健、福祉を担う総合的な能力を有する医
る急速な少子高齢社会、経済の低迷、財政赤字の
師、と定義されています。かかりつけ医機能とし
深刻化、雇用形態の変化によりその堅持と持続可
て、日常行う診療においては、患者の生活背景を
能性が脅かされ始めていると記述されています。
把握し、適切な診療及び保健指導を行い、自己の
我が国は世界でも類のない超高齢社会を迎え、
専門性を超えて診療や指導を行えない場合には、
団塊の世代が75歳を迎える2025年には認知症や一
地域の医師、医療機関と協力して解決策を提供す
人暮らしの高齢者、年間死亡者数などが大きく増
る。自己の診療時間外も患者にとって最善の医療
加し、社会構造や地域社会の在り方そのものが変
が継続されるよう、地域の医師、医療機関と必要
化すると言われています。
こうした変化へ対応し、
な情報を共有し、お互いに協力して休日も夜間も
すべての人が住み慣れた地域で自分らしい暮らし
対応できる体制を構築する。
を最後まで続けられるよう、現在、医療供給体制
かかりつけ医は、日常行う診療の他に、地域住
静岡県医師会報 第1542号 平成28年10月
3
民との信頼関係を構築し、健康相談、健診、がん
毎年約 1 兆円の社会保障費の自然増分を2016年
検診、母子保健、産業保健、地域保健等の地域に
度から 3 年間で 1 兆 5 千億円に抑えることであ
おける医療を取り巻く社会的活動、行政活動に積
り、医療に於いては、入院時の食事代の患者負担、
極的に参加するとともに保健、介護、福祉関係者
紹介状なしの大病院で窓口負担、これは今年 4 月
との連携を行う。
より実地されています。さらに「かかりつけ医」
また、地域の高齢者が少しでも長く地域で生活
以外の受診時の窓口負担増、入院時の居住費の負
できるよう在宅医療を推進する。患者や家族に対
担増、保険給付は後発医薬品価格までとし先発医
して、医療に関する適切かつわかりやすい情報の
薬品との差額の負担、70歳以上の患者負担上限額
提供を行う、とあります。
引き上げ、
75歳以上の窓口負担が 1 割から 2 割へ、
静岡県医師会としても今年度より、かかりつけ
医機能強化研修会を開催することになりますが、
さらに、国保の都道府県移行による、都道府県単
位の診療報酬を設定、等の負担増計画。
各研修の修了要件の概要は、
「基本研修」日医生
介護では、利用料の 1 割から 2 割、要介護 1 、
涯教育認定証の取得、
「応用研修」規定の座学研
2 の生活支援サービスを市町ごとの事業に移行、
修を10単位以上取得、
「実地研修」規定の活動を
「軽度者」の福祉用具貸与などの保険外し、など
2 つ以上実地が条件となり、修了した医師には、
が今後の国会で議論され、2018年の診療報酬改定
静岡県医師会より修了証書または認定証が授与さ
には実地される事が予想されます。
れ、有効期間は 3 年間となります。
今後、急激な高齢社会、雇用環境の変化、経済
会員の皆様にはこの機能を全うするのは非常に
成長の停滞、家族のあり方の変容、などの原因で
タイトな取り組みとなりますが、郡市医師会とか
財源が伸びる事は考えられないことから、今後の
かりつけ医が地域の包括ケアの中心的存在となり
50年、現在の国民皆保険制度を堅持、維持する為
他職種との情報を共有し、連携を強化し、地域医
に我々が今成すべき事は、先ずは医師会、病院勤
療の活性化に貢献して頂きたいと思います。しか
務医の先生方、医療関係者の方々が団結し強力に
しながらこの改革を速やかに実行するには、医療
国に訴えていく事が必要です。
提供者の自主的取り組みに加え、制度的、財源的
国民皆保険制度の下では医療は、政府の管理下
支援は必要不可欠であり、中長期なビジョンと医
にあり全てがそこで決定され、誘導されます。そ
療法をはじめとする制度の整備、必要な体制作り
こに政権与党、関係議員が互いに牽制しあう関係
に取り組む医療機関の経営を支える適正な診療報
にあり、我々が医療政策を実現するためには、全
酬改定を行う事が必要かつ必須条件であると思い
国的に医政活動を展開することが不可欠であり、
ますが、前回、前前回の診療報酬改定からすでに、
開業医、病院勤務医、共に、全て共通の皆保険制
「かかりつけ医機能」に沿った改定内容が盛り込
度の下で診療を行っているわけですし、共通の認
まれていますが条件の厳しさもあり県内において
識を持って医政活動を展開していく事が必要であ
は未だ条件を満たし実際に診療している診療機関
ります。
は多いとは言えません。静岡県医師会では医師会
横倉日本医師会長は、就任 3 期目を迎えますが
内の静岡県在宅医療推進センターに於いて在宅医
いずれも基本方針の一つに「強力な組織づくり」
療体制整備事業を進めています。会員の先生方に
を掲げ、医療政策をリードし続けると強く訴えて
もご理解とご協力をお願いしたいと思います。
います。
医療供給体制が大きく変わろうとする中、
「骨太
静岡県医師会も、会員加入促進による組織力強
の方針2016」が閣議決定し、社会保障においては
化活動を展開しております。会員、勤務医の先生
「経済・財政再生計画」
を掲げた改革項目について、
のご理解と、ご協力を強く強くお願い致します。
改革工程表に沿って改革を速やかに実行していく
「医政なくして医療なし」をモットーに、今こ
事が表現されています。その中心的内容は、給付
そ大同団結を。
削減と負担増です。これは消費税増税再延期で財
参考文献:
「ランセット」日本特集号
源確保はさらに困難になり、社会保障費抑制が急
「国民皆保険達成から50年」
務になっていることが背景にあると思われます。
2011年 9 月 1 日発行 監修 渋谷健司
4
静岡県医師会報 第1542号 平成28年10月