シリーズ! 活躍する2016年度国際活動奨励賞受賞者 その3 ウリ A. ハプサリ 株式会社NTTドコモ https://www.nttdocomo.co.jp/ LTE及びLTE-Advancedの標準化活動において、 主に、 無線ネットワークのアーキテクチャ、 ノード間I/F、 緊 急災害警報(ETWS) 、 VoLTEの規制制御、(e)MTCの仕様策定において技術的な議論を主導して仕様策定 を積極的に行うとともに、 ラポータなどのとりまとめ役を務め、 3GPPでの標準化活動全般に対する多大な貢 献を行っている。 お客様視点を意識した標準仕様の実現 この度は、国際活動奨励賞という名誉な賞を頂き、誠にあ Tsunami Warning System)と呼ばれる仕様を、LTEの りがとうございます。本受賞は、3GPP(The 3rd Generation 初版の仕様(Release 8)から規定することに成功しました。 Partnership Project)における標準化活動として、LTE及 また、仕様として規定された機能を実際のサービスとし びLTE-Advanced向けの無線アクセスネットワーク(RAN: てお客様に提供するためには、標準仕様に基づきネット Radio Access Network)のアーキテクチャ、ノード間イン ワーク装置や端末の開発が行う必要があります。ただし、 タフェース、緊急災害警報、 VoLTE(Voice over LTE)に これらの開発を行う技術者は必ずしも標準化の議論を追っ おける規制制御、IoT(Internet of Things)の時代に向け ているわけではないため、明確で正確な仕様を作成する必 た無線インタフェースの仕様策定に対する貢献をご評価い 要があります。私がこの点を意識して活動したのは、LTE ただいたものです。 上で音声サービスを実現するVoLTEにおけるアクセス規 私は、標準化活動の中で次の2つのことを意識して対応 制制御の仕様策定でした。様々な条件の実運用下でも安 しています。それは、お客様が必要な機能の標準仕様を 定したLTEサービスを維持し、高信頼性のネットワークを 規定することと、標準化会議に出ていない技術者も実装で 提供するためには、トラフィックの輻輳制御の機能が重要 きる標準仕様を作ることです。この点について、これまで となります。私は、VoLTEの音声データとそれ以外のパ 私が取り組んできたトピックに合わせてご説明したいと思 ケットデータを区別して、独立した輻輳制御を適用するた います。 めの機能を実現するため、 要求条件の策定のフェーズでは、 3GPP標準化では、世界中の端末/ネットワークベンダ 世界各国のオペレータと協力して議論をリードしました。 や、オペレータが参加しており、それぞれの観点で様々な また、仕様策定のフェーズでは、各ベンダと協力しながら、 提案を行っています。お客様が必要とする機能を盛り込ん 3GPPの複数の仕様策定グループの会合に実際に参加し、 だという点では、日本発の機能として提案したLTEにおけ 明確な仕様が記載されるように対応を行いました。 る緊急情報配信基盤の仕様化があります。本仕様化に当 今後も、お客様が必要としている多様なサービス要求条 たっては、地震などに関する緊急情報をより多くのユーザ 件や、これまでの標準仕様策定の過程で感じた問題点を に、より早く・効率的に配信する技術が必要となりました 意識して、第5世代移動通信システム(5G)の無線アクセ が、私は、その配信速度を飛躍的に短縮するための技術 スネットワークの仕様策定に向け、標準化活動を推進して の提案を行いました。その結果、ETWS(Earthquake and いきたいと思います。 ITUジャーナル Vol. 46 No. 10(2016, 10) 57 この人・あの時 おお で さと し 大出 訓史 日本放送協会 放送技術研究所(テレビ方式研究部) http://www.nhk.or.jp/strl/ ITU-R SG6ブロック会合において、 従来のラウドネス測定法を22.2ch音響を含む任意のスピーカ配置に拡張 し、 8K放送に適用させる勧告BS.1770の改訂をはじめ、 主観音質評価法の勧告改訂や音響メタデータの新勧 告策定などに貢献した。 先進的音響システムに関する標準化の取組み この度は、日本ITU協会国際活動奨励賞功績賞分野とい ラウドネス値をある目標値に合わせることになっていま う栄誉ある賞を頂き、誠に光栄に存じます。日本ITU協会 す。勧告ITU-R BS.1770が規定するラウドネス測定法は、 並びに関係者の皆様に御礼申し上げます。 国内規格のARIB TR-B32だけではなく、諸外国でも採用 私は、ITU-Rにおいて放送業務を担当するStudy Group 6 されています。先進的音響システムを使わない国々は国内 (SG6)に2014年3月から参加し、主に先進的音響システムで 規格への影響を嫌って勧告改訂に否定的な態度をとり、オ 用いられる音響メタデータの新勧告ITU-R BS.2076、BS.2094 ブジェクトベース音響を推進している国々はオブジェクト や音声ファイル形式の新勧告ITU-R BS.2088の策定や、主 ベース音響用アルゴリズムも同時に標準化することを主張 観評価法に関する既存勧告ITU-R BS.1116、BS.1534など していました。そのため、既存アルゴリズムを完全に包含 を先進的音響システムにも適用させる勧告改訂に携わって しながら、任意のスピーカ配置にも対応可能なアルゴリズ 参りました。 ムを提案する必要がありました。各チャンネルの音声信号 先進的音響システムとは、5.1サラウンドを上回る次世代 に乗じる重み係数を、聴取者の頭部形状と音源位置との 音響方式であり、8K放送で採用されている22.2マルチチャ 関係によって生じる音圧レベル差から決定するアルゴリズ ンネル音響などのチャンネルベース音響や近年映画業界で ムを提案し、主観評価実験によってその妥当性を示しまし 採用されているオブジェクトベース音響が含まれています。 た。 先進的音響システムのスピーカ配置を規定する勧告ITU-R 最終的には、ほぼ提案に沿った形での改訂に至りました BS.2051は2014年2月に発行されましたが、オブジェクトベー が、諸外国と合意に達することができたのは、技術的な妥 ス音響の再生に必須であるレンダラーは現在も審議中です。 当性だけではなく、研究会期の節目だったという時期や説 4K/8K試験放送に間に合うように既存勧告を先進的音響 得して回った国の順番など様々な要因が上手く組み合さっ システムにも適用させる必要があり、チャンネルベース音 た結果だと思っています。また、有利に交渉を進めること 響だけを先行して改訂を進めて参りました。その中で最も ができたのは、共同議長を務めたラポータグループを始め 大きな課題は、ラウドネス測定法を規定する勧告ITU-R とした仲間作りが大きかったと感じています。先進的音響 BS.1770の改訂でした。 システムの実現に向けて課題はまだまだ残っていますが、 近年、デジタルテレビ放送では、番組が切り替わったと 今回の受賞を励みに、今後も国際、国内双方の標準化活 きに音の大きさが大きく変化しないように、各番組の平均 動に貢献して参りたいと思います。 58 ITUジャーナル Vol. 46 No. 10(2016, 10)
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