Economic Monitor

Oct 3, 2016
No.2016-048
Economic Monitor
伊藤忠経済研究所
主席研究員 武田
淳
03-3497-3676 [email protected]
日銀短観(9 月調査):景況判断は製造業、非製造業とも底堅い
が収益環境悪化により設備投資は抑制気味
9 月調査の日銀短観では大企業製造業の業況判断 DI に変化なく、企業景況感は総じて底堅いこ
とが確認された。一方で、経常利益の見通しは円高の影響もあって下方修正され、設備投資計画
は伸び悩んだ。さらに、前提とした為替相場は現状に比べ円安であり、これらのギャップを日銀
がどのように評価し対応するのか注目される。
景況感は底堅く推移
本日、発表された 2016 年 9 月調査の日銀短観では、景気の代表的な指標である大企業製造業の業況判断
DI が前回(6 月)調査の+6 から変わらずであった。事前予想では小幅改善がコンセンサスであり、それ
との比較では弱含みということになるが、ドル円相場が 1 ドル=100 円近くまで円高となる中で、輸出企
業が多くを占める製造業大企業において業況判断 DI がプラス圏で横ばいにとどまったことは、むしろ底
堅いと評価すべきであろう。
業種別の内訳を見ると、改善が目立つのは鉄鋼(6 月▲12→9 月 0)や非鉄金属(+3→+8)、自動車(▲2
→+8)、木材・木製品(+29→+41)であり、それぞれ鉄鋼・非鉄金属市況の改善や熊本震災の影響で一
時的に落ち込んだ反動、住宅建設の好調などが背景とみられる。一方で、造船・重機等(+4→▲18)が
大幅に悪化しており、円高進行が景況感を悪化させた一因と考えられる。
一方、非製造業(大企業)の業況判断 DI は 6 月
業況判断DIの推移(大企業、%Pt)
調査の+19 から 9 月は+18 へ悪化した。悪化し
30
た業種は運輸・郵便(6 月+16→9 月+6)や情報
20
サービス(+27→+19)
、対事業所サービス(+34
10
0
→+29)、小売(+11→+7)であり、運輸・郵便
▲ 10
は人手不足による悪影響、小売は物販の不振を反
▲ 20
映したものとみられるが、残る 2 業種は悪化した
▲ 30
▲ 40
とはいえ高い水準であり、引き続き好調と評価す
▲ 50
べきであろう。そのほか、建設(+36→+39)や
▲ 60
2007
不動産(+32→+35)、通信(+44→+44)が一
製造業
非製造業
製造業(新系列)
非製造業(新系列)
※最近期は見通し
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014
2015
2016
( 出所) 日本銀行
段と水準を高め、対個人サービス(+11→+26)が持ち直すなど、改善した業種も少なからずあるため、
非製造業は総じて良好な景況感を維持していると言える。
業績は悪化し設備投資計画は伸び悩み
しかしながら、景況感の裏付けとなるべき業績見通しは芳しくない。2016 年度の経常利益は、大企業(全
産業)で前年比▲9.2%と減益が見込まれており、さらに 6 月調査と比べると 2.0%下方修正されている。
なかでも製造業が▲14.6%(6 月から 3.3%下方修正)と二桁減益、
特に輸出比率が高い加工業種は▲19.4%
(5.3%下方修正)と悪化が目立っている。業績見通しの前提となる 2016 年度の想定為替レートが 6 月調
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、伊藤忠経済研
究所が信頼できると判断した情報に基づき作成しておりますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告
なく変更されることがあります。記載内容は、伊藤忠商事ないしはその関連会社の投資方針と整合的であるとは限りません。
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査の 1 ドル=111.41 円から 9 月調査では 107.92 円と円高方向へ修正されていることを踏まえると、円高
進行が製造業の業績見通しを悪化させている模様である。また、2016 年度下期(10~3 月)の想定為替レ
ートは 107.42 円であり、足元の 101 円前後から大きく円安方向に乖離しており、今後、更に下方修正さ
れる可能性がある点に留意が必要である。
こうした業績の悪化や先行きの不確実性などもあり、
設備投資計画は伸び悩んでいる。2016 年度の設備投
設備投資計画の推移(前年比、%)
10
資計画(含む土地投資額)は、全産業規模合計で 6
8
月調査の前年比+0.4%から 9 月調査では+1.7%へ
6
小幅ながら上方修正された。ただ、9 月調査としては
2012 年度以降で最も低い伸びにとどまっている。製
2013
2
2012
▲2
9 月調査は+6.1%とほぼ横ばいであり、前年の 9 月
▲4
ため、2016 年度の設備投資は、最終的に 2015 年度の
2011
0
造業に限って見ても、6 月調査の前年比+6.0%から
調査(前年比+13.5%)と比べて見劣りする。その
2014
4
▲6
2016
2015
3月調査
6月調査
9月調査
12月調査
3月調査
実績
( 出所) 日本銀行
実績(日銀短観ベース)である前年比+5.0%(製造業+9.1%)を大きく下回る可能性が高く、下期の経
済情勢次第では前年度並み、更には前年を下回る水準に引き下げられることもあろう。
設備過剰は解消、人手不足感は強まる
一方で、設備過剰感は解消し、人手不足感は一段と強まっている。既存設備の過剰感を示す生産・営業用
設備判断 DI(過剰-不足)は、規模合計で非製造業(6 月調査▲2→9 月調査▲2)のマイナス(不足超過)
が続き、製造業(+4→+3)が若干改善したため、全産業でゼロとなり生産設備の過剰感がマクロ的には
解消した。また、労働力の過不足を示す雇用人員判断 DI は、全産業規模合計で 6 月調査の▲17 から 9 月
調査では▲19 へマイナス幅が拡大した。内訳を見ると、大企業(6 月▲10→9 月▲12)
、中小企業(▲19
→▲20)ともマイナス幅が拡大しており、景気停滞の下でも人手不足が広がっている。しかも、先行き(12
月)について特に中小企業で▲25 までマイナス幅が拡大、全産業でも▲22 へも拡大が予想されており、
人手不足が一段と強まる見通しとなっている。こうした状況下では、企業が設備投資を積極的に拡大させ
るはずであるが、上述のように設備投資計画が伸び悩んでいるのは、先行きに対する不透明感が強いため
であろう。
生産・営業用設備判断DI(規模合計、過剰-不足、%Pt)
40
雇用人員判断DI(規模合計、過剰-不足、%Pt)
40
製造業
35
製造業
非製造業
30
非製造業
30
製造業(新系列)
20
製造業(新系列)
25
非製造業(新系列)
20
※最新期は見通し
0
15
▲ 10
10
5
▲ 20
0
▲ 30
▲5
非製造業(新系列)
10
▲ 40
2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016
※最新期は見通し
2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016
( 出所) 日本銀行
( 出所) 日本銀行
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生産と所得の好循環は逆回転の兆し
以上の通り、9 月調査の日銀短観によって、企業の景況感が大企業を中心に底堅いことが確認された一方
で、設備過剰感が解消、人手不足がますます強まる見通しにもかかわらず、業績悪化見通しを反映して、
企業は設備投資に慎重であることが示された。すなわち、デフレ脱却に必要な「生産と所得の好循環」が
逆回転する兆しが見られたと言うことである。しかも、業績見通しの前提とされた為替相場は現状よりも
円安水準にあり、現在の 1 ドル=100 円程度という為替相場が続けば、上記の逆回転の可能性が高まるこ
とは言うまでもない。
そのため、日銀にとって今回の短観の結果は、景気の底堅さを確認したという点において追加の金融緩和
を見送る材料となるが、同時に、現在の為替相場の水準が維持される、ないしは一段と円高が進んだ場合、
景気にどのような影響があると判断し、それに対してどのようなスタンスで挑むべきかの検討を促す材料
ともなろう。
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