環境問題を巡る動向と 環境総合性能評価システム

Special
特
集
環 境 不 動 産 考 察
環境問題を巡る動向と
環境総合性能評価システム
の活用について
篠﨑 由果
三井住友信託銀行株式会社
不動産コンサルティング部
環境不動産推進チーム 調査役
(ARES マスター M1205000)
1.はじめに
昨年 12月のCOP21( 国連気候変動枠組条約第
(1)建築物省エネ法の施行
21 回締約国会議 )
において「パリ協定 」が採択され
2015 年 7月に「 建築物のエネルギー消費性能の
たことにより、世界の平均気温の上昇を2 度未満に抑
向上に関する法律 」
(建築物省エネ法 )
が公布され、
える「 2 度目標 」の達成に向けて、170カ国を超える
2,000㎡以上の非住宅建築物( 特定建築物 )
の新築
すべての協定参加国が温室効果ガスの削減目標を5
時等には建築物のエネルギー消費性能基準( 省エ
年ごとに設定する必要がある。
ネ基準 )への適合が、2 年以内の施行を目処に義務
本年 5月に開催されたG7 伊勢志摩サミットにおいて
化される。300㎡以上 2,000㎡未満の建築物において
も経済問題のみならず、気候変動 、エネルギー、資源
も新築・増改築時の省エネ計画について届出義務が
効率・3R(リデュース、
リユース、
リサイクル)
について
課され、省エネ基準に適合しない計画は所管行政庁
首脳宣言で合意するなど、環境問題は世界的な課
より指示や命令が行われる場合がある。
題として議論されており、今後もその流れはますます
加速するものと予想される。
エネルギー消費量が産業部門や運輸部門など国
内の他部門では減少する中、不動産を含む民生部
このように環境問題が注目されている状況を踏ま
門は増加傾向が続いており、国内全体のエネルギー
え、本稿では不動産にも影響すると思われる環境関
消費量の約 3 分の1を占めることから、不動産におけ
連の国内における動向と、不動産の環境配慮状況を
るエネルギー消費量の削減に向けて、省エネ関連の
示す環境総合性能評価システムの活用方法につい
規制は今後も段階的に強化されていく可能性があ
て紹介したい。なお本稿での見解は筆者の私見であ
る。
り、筆者の所属する企業の見解を示すものではないこ
とを予めお断りする。
22
2.環境問題を巡る国内の動き
ARES 不動産証券化ジャーナル Vol.33
●特集 環境不動産考察
(2)
コーポレートガバナンス・コードと
日本版スチュワードシップ・コード
2
証 」注(内訳は「グ
リーンビル認証 」
と「省エネルギー
格付 」)があり、保有床面積に対するグリーンビル認
2015 年に上場規程として制定されたコーポレートガ
証物件の床面積割合について記載する必要がある。
バナンス・コードでは、図表1のとおり上場会社は社
この部分での評価が全体の約 11%を占めることから、
会・環境問題をはじめとするサステナビリティーを巡る
当該部分での評価アップを企図し、参加企業がグリー
課題については、重要なリスクの一部と認識して適切
ンビル認証を取得する動きも数多く見受けられるように
な対応を行うべきであるという原則が明示されている。
なってきた。
その前年に導入された日本版スチュワードシップ・コー
ドにも同様な規定があり、環境問題への適切な対応
図表1 コーポレートガバナンス・コードと
日本版スチュワードシップ・コード
は企業の持続的な成長に欠かせないものであるとい
コーポレートガバナンス・コード
う認識が取引市場において示されると共に、各企業
【原則2-3.社会・環境問題をはじめとするサステナビリティー
における環境配慮の状況などもこれまで以上に注目さ
れることになると考えられる。
を巡る課題】
上場会社は、社会・環境問題をはじめとするサステナビリティー
(持続可能性)を巡る課題について、適切な対応を行うべきで
ある。
(3)
企業における環境配慮状況等の評価
日本経済新聞社による「 環境経営度調査 」が上
場企業などを対象に例年実施され、そのランキングや
取組内容が公表されているが、CDP 注 1 が実施する
世界的な評価など国内外の機関による企業の環境
補充原則
2-3① 取締役会は、サステナビリティー(持続可能性)
を巡る課題への対応は重要なリスク管理の一部であると認識し、
適確に対処するとともに、近時、こうした課題に対する要請・
関心が大きく高まりつつあることを勘案し、これらの課題に積極
的・能動的に取り組むよう検討すべきである。
配慮状況等に関する評価が活発化すると共に、これ
らの評価結果により環境問題への適切な対応を行っ
ていないと見なされた企業については、投資家等か
ら説明を求められる可能性や投資先としての適格性
判断への影響なども考えられる。
不動産分野に特化した評価としては2009 年に欧
日本版スチュワードシップ・コード
【原則3】
機関投資家は、投資先企業の持続的成長に向けてスチュワー
ドシップ責任を適切に果たすため、当該企業の状況を的確に把
握すべきである。
指針
3-3.把握する内容としては、例えば、投資先企業のガバ
州の主要年金基金のグループを中心に創設された不
ナンス、企業戦略、業績、資本構造、リスク(社会・環境問
動産セクターのサステナビリティ・パフォーマンスを測る
題に関連するリスクを含む)への対応など、非財務面の事項を
GRESB(グローバル不動産サステナビリティ・ベンチ
かについては、機関投資家ごとに運用方針には違いがあり、ま
マーク)があり、この評価に参加する国内不動産投
資法人や不動産会社も年々増加傾向にある。
また、このGRESBの評価項目において、後述する
CASBEE- 不動産などを対象とした「グリーンビル認
含む様々な事項が想定されるが、特にどのような事項に着目する
た、投資先企業ごとに把握すべき事項の重要性も異なることか
ら、機関投資家は、自らのスチュワードシップ責任に照らし、自
ら判断を行うべきである。その際、投資先企業の企業価値を毀
損するおそれのある事項については、これを早期に把握すること
ができるよう努めるべきである。
注1
ロンドンに本部を置く非営利組織。旧名称はカーボンディスクロージャープロジェクト。
注2
グリーンビル認証には LEED(米国)、BREEAM(英国)、
Green Star(オーストラリア)等、省エネルギー格付には ENERGY STAR(米国)、NABERS(オー
ストラリア)などがある。
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23
Special
(4)
GPIFの責任投資原則への署名
世界最大の機関投資家である日本の年金積立金
② 環境負荷の低減
地球温暖化 、資源の枯渇化 、ヒートアイランド現
管理運用独立行政法人( GPIF )
が2015 年 9月に責
象 、オゾン層破壊 、大気汚染 、騒音・振動・悪
任 投 資 原 則( PRI:Principles for Responsible
臭 、生物多様性喪失等に影響を及ぼすような環
の署名機関に加わった。責任投資原
Investment )
境負荷の低減に繋がる設備や取組。
則( PRI )
とは、2006 年に国連環境計画金融イニシ
③ 非常時の継続性
アティブ( UNEP FI )
と国連グローバル・コンパクトが
2011 年 3月の東日本大震災以降 、特に日本にお
提唱した、資産運用においてESG(環境・社会・ガバ
いて環境性能として論じられる傾向となった耐震
ナンス)
の取組に優れた企業へ投資を行うESG 投資
性 、災害対応力など、非常時の継続性を高める
に関する投資原則とその前文におけるステートメント
ための機能や取組。
のことであり、世界の機関投資家 、運用会社、コンサ
ルティング企業など1,500 社以上( 2016 年 7月末時
以上のような環境性能に加えて「良好なマネジメン
点)
が当該原則に沿った投資を推進するために署名
ト」がなされている環境不動産について、その便益を
している世界的なプラットフォームである。今後 GPIF
表すと次のようなイメージになる。
は既に新聞等で報道されているようなESG 投資の手
エネルギー効率の高い空調設備やLED 照明など
法を整備しながらESG 投資を強化していくことも予想
を設置した場合 、設備コストの負担は通常より余分に
され、またこのようなGPIFの取組が他の企業年金や
発生するものの、エネルギー消費量の減少による省
機関投資家等の投資方針に対して及ぼす影響など
CO2 効果やエネルギーコストの削減が期待できる。ま
も注視する必要がある。
た将来にわたって設備機器の適切なメンテナンスを行
うことは、設備の長寿命化や省エネ効果の維持にも
3.環境不動産とは
して冷暖房の温度管理や電灯の間引き運転などを実
このように国内において環境問題を巡る動きが活
施することや、植栽管理 、窓ガラスの清掃なども「良
発化している中、前述のとおりエネルギー消費量が国
好なマネジメント」になり、これらの取組に時間や人的
内全体の約 3 分の1を占める民生部門に属する不動
建物
コストが掛かっても、省 CO・
2 省エネ効果を始め、
産においても環境への配慮は無視できない状況にな
全体の美観の維持にも影響するものと思われる。
りつつある。
このように環境性能が高く良好なマネジメントが行き
不動産の環境配慮を考える上でキーワードになると
届いている不動産については、それらが充分ではな
思われる「 環境不動産 」とは、国土交通省による環
い、同じ築年数 、最寄り駅からの距離の不動産との
境不動産懇談会の定義では「 環境性能が高く良好
比較において、テナント候補先による選好面でのプラ
なマネジメントがなされている環境価値の高い不動
ス効果と、その結果 、安定的な収益の確保も期待で
産 」とされている。
きる可能性がある。このように定量化・定性化された
ここで言う「 環境性能 」については、次の①~③
便益が将来にわたって実現 、もしくは期待できるもの
の要件を備えているものと考えられる。
が環境不動産であり、それを“ 見える化 ”
したものが、
① 環境品質
建築物の「環境総合性能評価システム」であると考
えられる。
そこに住まい、あるいは働く人のための快適性あ
るいは生産性の高い場としての品質。
24
繋がることになる。不動産の所有者とテナントが協同
ARES 不動産証券化ジャーナル Vol.33
海外においてはLEEDやBREEAM 、NABERS 、
●特集 環境不動産考察
ENERGY STARなどのグリーンビル認証や省エネル
年より認証を開始している「 CASBEE- 不動産 」が
ギー格付を取得していることにより、賃料が4.8~ 8%
ある。従来のCASBEE- 建築(新築・既存等 )
につい
程度高く、売却価格も9~ 13%程度のプレミアムが付
ては評価項目が100 項目前後あって評価時の手間や
いているという調査結果が示されているが 注 3 、日本に
コストが大きいこと、また建物の外皮等の構造や設備
お い て も 後 述 す るCASBEE- 不 動 産 な ど の
機器などが標準以上を備えていないと高ランクの獲得
CASBEE 認証等を取得している建物の賃料が、そ
が難しいことなどが支障となり、特に築年数の経過し
れらを取得していない建物や都市全体の平均賃料よ
りも上回る傾向が見られるという調査が進みつつあり、
図表 2 CASBEE- 不動産の評価項目
分類
項目
は、以上で述べた環境不動産のプラス効果が経済
エネルギー・
温暖化ガス
性に反映した可能性が推察されるものである。
目標設定とモニタリング/省エネ基準/運用管
理体制、使用・排出原単位(計算値)
、使用・
排出原単位(実績値)
、自然エネルギー
水
目標設定とモニタリング/運用管理体制、水
使用量(計算値)
、水使用量(実績値)
資源利用/
安全
新耐震基準適合等、高耐震・免震等、再生
材利用、躯体材料の耐用年数、主要設備機
器の更新必要間隔/設備(電力等)の自給
率向上/維持管理
生物多様性/
敷地
特定外来生物等を使用しない、生物多様性の
向上、土壌環境品質・ブラウンフィールド再生、
公共交通機関の接近性、自然災害リスク対策
屋内環境
建築物環境衛生管理基準等クリア、昼光利
用、自然換気性能、眺望
このような賃料調査における環境不動産の優位性
4. 建築物の環境総合性能評
価システム~ CASBEE- 不
動産について~
環境不動産を“ 見える化 ”する環境総合性能評価
システムの1つに、築1年以上の事務所と商業施設
注4
を対象として国土交通省支援の下に開発され、2013
※下線は必須項目(評価のためには必須項目をクリアする必要あり)
※色の文字は UNEP SBCI が検討する世界共通指標に関連する項目
図表 3 CASBEE- 不動産のイメージ
世界の環境総合性能評価システム
( 例 BREEAM, LEED, Green Star
…)
CASBEE- 建築
(新築・既存等)
の評価項目(100 項目前後)
UNEP SBCI が検討する
世界共通指標
(エネルギー/ 温室効果ガス、
水、資源、室内環境、
生物多様性、経済性)
CASBEE 不動産の
評価項目
(21項目)
出所:CASBEE- 不動産 評価マニュアル( 2014 年版 )
より作成
注3
国連環境計画金融イニシアティブ不動産ワーキンググループ[2014]、『商業用不動産:省エネ改修投資機会の展開(日本語版)』P9
注4
2016 年版(改訂版)より物流施設の認証評価が追加予定である。
September-October 2016
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Special
た建物において普及が進みにくいという実情があっ
時の電力や通信などの自給率向上 、水害等の自然
た。
災害リスク対策 、環境問題を考慮したマネジメント体
このような背景を踏まえ、CASBEE- 不動産につい
制など、前述した「環境性能 」と「良好なマネジメン
ては、建築物環境衛生管理基準 、住宅性能表示制
ト」いう総合的な視点で環境不動産の評価を行うた
度など既存の法律や基準の枠組みを活用することで
め、従来のCASBEE- 建築(新築・既存等 )
のように
評価項目を図表 2 のように5 分類 21 項目まで減らしな
建物の構造や設備仕様が必ずしも標準以上である
がらもUNEP SBCI 注 5 で検討中の国際的な共通項目
必要はない。また評価結果は4 段階( S、A、B+、B
を網羅すると共に、
CASBEE- 建築(新築・既存等 )
でSが最高位 )
のランクで示され、エネルギー消費量
やLEED、BREEAMなど他の環境総合性能評価シ
等の数字データや各評価項目ごとの点数 、評価した
ステムとの読み替えが可能な項目も設定して、不動産
ポイントなどがそれぞれ簡記された評価結果シート
マーケットでの普及を目的に開発されたものである
はCASBEEのホームページ上でも公
( 図表 4 参照 )
。
(図表 3 参照 )
CASBEE- 不動産の評価項目は単位床面積あた
開されて誰でも閲覧できるよう
“ 見える化 ”されている
点において透明性の高い評価制度と言える。
りのエネルギー消費量や水使用量、耐震性能、非常
図表 4 評価結果シートのイメージ
出所:CASBEE- 不動産 評価マニュアル( 2014 年版 )
注5
The United Nations Environment Programme's Sustainable Buildings and Climate Initiative(国連環境計画 持続可能建築と気候変動イニシアティブ)の
略称
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ARES 不動産証券化ジャーナル Vol.33
●特集 環境不動産考察
5.環境総合性能評価システム
の活用について
図表 5 株式会社三越伊勢丹ホールディングスの CASBEE不動産認証取得
環境総合性能評価システムについては、認証取得
のメリットがわかりにくいという声が不動産関係者など
にあることから、本稿第 2 項で述べたような環境問題
を巡る国内の動きへの対応等を含め、本項では環境
総 合 性 能 評 価 システムの 活 用 方 法 に つ い て
CASBEE- 不動産の内容を中心に例示したい。
(1)
GRESB 等の評価対応
不動産の所有者や投資家が環境配慮の取組を
GRESB 等の評価で示す手段として、CASBEE- 不
動産などの環境総合性能評価システムによる認証の
取得が挙げられる。特にGRESBの場合は「グリー
ンビル認証 」(「グリーンビル認証 」と「省エネルギー
格付 」)
の評価が全体の約 11%と高いことや、現時点
( 2016 年評価 )
において環境総合性能評価のランク
はGRESBの回答要件ではないため、後述する課題
発見ツールとしての活用なども考慮しながら認証取得
出所:株式会社三越伊勢丹ホールディングスのニュース・
トピックス
( 2016 年5月6日)
にチャレンジすることが有効ではないかと考えられる。
店)
はいずれも築 80 年以上になるが、適切な建物管
理や運用体制の構築などにより、古い建物であっても
(2)
コーポレートガバナンス・コード等に基づく
環境配慮対応
コーポレートガバナンス・コードの各原則への対応
は、全ての企業に当てはまるような模範解答があるも
高評価を受ける可能性があるCASBEE- 不動産の
認 証 取 得に取り組んだ結 果 、デパート初となる
CASBEE- 不動産の認証を3 店舗全てにおいて最
。
高位のSランクで取得している(図表 5 参照 )
のではなく、原則に対応するための取組を各社が模
このSランクは耐震改修など計画的な修繕工事の
索している状況にあり、それは本稿第 2 項の( 2 )
で
実施により建物の長寿命化を計っている点や、組織
示した環境問題に対する原則への対応についても同
的な節水・省エネルギー・廃棄物処理の取組 、屋上緑
様である。そのような原則対応やCSR 戦略の一環と
化等が総合的に評価されたことによる。
して、上場企業を含む一般事業会社において環境
コーポレートガバナンス・コードへの対応やCSR 戦略
総合性能評価システムを活用する動きもある。その
として環境総合性能評価システムを活用することは、
一 例として、自社 が 運 営 するデパートにおいて
一般事業会社等が賃貸不動産を所有するケースを
CASBEE- 不動産の認証を取得した株式会社三越
始め、自社の本社等における活用、さらに賃貸不動
伊勢丹ホールディングスの事例を紹介したい。
産のテナントがCASBEE- 不動産等の認証取得物
株式会社三越伊勢丹ホールディングスの基幹 3 店
舗( 伊勢丹新宿本店 、三越日本橋本店 、三越銀座
件に入居していることを対外的に示していくケースな
どが想定される。
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Special
コーポレートガバナンス・コードについては原則への
常用発電機の稼動時間( 24 時間以上 )
や非常時に
対応状況を示すことが必要なため、必ずしも高ランク
おける通信系の途絶対策状況など、また「自然災害
の認証でなくとも、認証取得の過程で判明した環境
リスク対策 」として液状化 、水害 、斜面災害等の各
総合性能上の「 弱み」( 以下(3)参照 )
を改善す
種災害ハザードマップに基づき、発電機等の重要機
るための取組を計画的に実践していくことなども原則
器の設置階数状況や基礎の強化状況などのチェック
対応になり得ると考えられる。
項目がある。これらは新規テナントとして事務所ビルを
選定する際に重視する災害対応力などの確認項目と
(3)
不動産の課題発見ツールとしての活用
重なることから、新規テナントは事務所ビル選定時の
CASBEE- 不動産の評価結果は図表 4 のように5
指標として、また不動産の所有者や投資家は自社の
項目の評点が満点の点数と比較したレーダーチャート
対応状況を対外的に示す手段として、それぞれ
でも示されるため、レーダーチャートの高低により環境
CASBEE- 不動産の評価結果を活用する方法も考え
総合性能上の「強み」や「弱み」を把握できる。こ
られる。
の評価結果によって判明した「 弱み」をもとに、環境
なお、現状のCASBEE- 不動産の評価結果シート
価値向上に向けて設備等の改修計画や運用レベルで
は図表 4 のとおり災害対応力などに特化した表示内
の改善策を検討する際の課題発見ツールとして活用
容ではないため、以上のような活用を行う場合には、
することが可能である。
特にテナントが事務所ビルを選定する際に重視する項
またCASBEE- 不動産の評価項目には、不動産
目に応じて充足のレベル感を示す必要がある。
売買やM&Aなどの際に行う「環境デューデリジェン
ス」やエンジニアリングレポートの調査では通常は含ま
れていないような非常時の電力や通信などの自給率
6.おわりに
向上 、水害等の自然災害リスク対策 、環境問題を考
本稿では主に不動産の所有者や投資家の観点で
慮したマネジメント体制など、物件取得後の運営に影
環境関連の国内動向や環境総合性能評価システム
響する項目が多く含まれていることから、これらを課題
の活用などについて述べてきたが、環境不動産の要
として把握するための活用なども考えられる。このよう
件である環境性能の向上と良好なマネジメントを実現
な課題発見ツールとしての活用は、主に不動産の所
することは、テナントなど建物利用者の満足度にも大き
有者や投資家などが想定される。
く影響する内容であろう。建物利用者が満足する建
物でなければ、賃貸不動産の場合には安定的な収
(4)
事務所ビルの選定指標としての活用
CASBEE- 不動産の認証を取得するためには、耐
は、賃貸不動産の関係者全般にとって検討に値する
震性や環境問題を考慮したマネジメント体制の構築な
ものであると考えられる。また企業の本社や事務所と
ど、環境不動産の基本的な事項として5つの分類ごと
して自ら利用する不動産においても従業員等が快適
に設定された「必須項目」をすべてクリアしていないと
に、かつ安心・安全に過ごせる建物であるかどうかを
認証取得ができないことから、CASBEE- 不動産の認
重視することは、企業の生産性やステークホルダーと
証を取得していることは、環境性能と良好なマネジメン
しての従業員等に対する責務を考慮する上で必要な
トという環境不動産の基本条件を充足している目安に
視点ではないかと思われる。
なる。
さらに「設備(電力等 )
の自給率向上 」として、非
28
益の確保に繋がらないため、環境不動産への転換
ARES 不動産証券化ジャーナル Vol.33
環境不動産が広く普及するためには、不動産の所
有者による環境総合性能評価システムのさらなる導
●特集 環境不動産考察
入が期待されると共に、建物に入居するテナントや建
で述べたような災害対応力なども含めたわかりやすい
物利用者がそれらの認証取得を所有者側に求めるこ
表示制度の整備や、環境総合性能評価システムの
とも大きなポイントになると思われるため、前項の末尾
普及拡大に向けた官民共同の取組などが望まれる。
参考文献
◦
国連環境計画金融イニシアティブ不動産ワーキンググループ [2014] 、
『商業用不動産:省エネ改修投資機会の展開(日本語版 )』
http://www.unepfi.org/fileadmin/documents/CommercialRealEstate_jp.pdf(最終確認日:2016 年 8 月 8 日 )
一般社団法人日本サステナブル建築協会[ 2015 ]、
『スマートウェルネスオフィス研究委員会報告書(平成 26 年度 )』
◦ PRI HP https://www.unpri.org/signatory-directory/(最終確認日
:2016 年 8 月 8 日 )
◦ 国土交通省 HP http://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/jutakukentiku_house_tk4_000103.html(最終確認日
:2016 年 8 月 8 日 )
◦
EY Japan[2015] 、
『コーポレートガバナンス・コードとスチュワードシップ・コード 』、第一法規
UNEP SBCI HP http://www.unep.org/sbci/Activities/SBIndex.asp(最終確認日:2016 年 8 月 8 日 )
◦ 一般財団法人建築環境
・省エネルギー機構[ 2014 ]、
『 CASBEE- 不動産 評価マニュアル( 2014 年版 )』
◦ 株式会社三越伊勢丹ホールディングス HP http://pdf.irpocket.com/C3099/VuON/uwVN/UvZH.pdf(最終確認日
:2016 年 8 月 8 日 )
◦
◦
しのざき ゆか
住友信託銀行(現:三井住友信託銀行)入社後、不動産証券化、土地
信託業務等を担当。2011 年より不動産投資顧問会社(出向)にて
アセットマネジメント業務に従事し、2015 年 10 月より現職。
早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。CASBEE 不動産評価員。
September-October 2016
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