「2017年 世界盆栽大会 in さいたま」に向けて 大宮盆栽村を訪ねる シリーズ第3回 寄せ植え盆栽の新しい魅力を見出して 芙蓉園 園主 竹山 浩 氏 芙蓉園は、大宮盆栽村の玄関口ともいえる大宮公園駅(東武アーバンパークライン)から 徒歩1分程、駅からもっとも近い盆栽園である。昔から「雑木の芙蓉園・寄せ植えの芙蓉園」 と言われてきたように、初代園主の竹山房造氏も現園主の浩氏も、雑木盆栽と寄せ植えに力 を入れてきた。真柏や五葉松などもたくさんあるが、寄せ植えの多さと質はいまなお他を圧 倒している。 しません。 そこで、大きな木、太い木を主木として中 心に据え、その周囲に中位な木や小さな木を 植えこんでいったのです。さらに、主木の左 右どちらかを空けて景色の広がりを出し、後 ろの方に小さな材料を使って奥行を出した り、木と木が重ならないようにといった工夫 もしました。そうすることにより寄せ植え盆 栽の新しい魅力を作り出していったのです」 ▲園主・竹山浩氏とお気に入りの寄せ植え盆栽 と語るのは、現園主の竹山浩氏である。 それまでの寄せ植えのイメージを大きく変 え、新しい作り方を確立したのである。 遠近法による寄せ植えの魅力 34 初心者が取り組みやすい「寄せ植え」 芙蓉園は、先代の園主が勤めていた郵便局 初代が作り上げた芙蓉園流の寄せ植えは、 をやめ、1939(昭和14)年に現在の地で創 今では一般的なやり方になっている。 業した。盆栽が好きで好きで転職した、今で 「寄せ植えは松柏・雑木でも作れますが、 言う脱サラである。なかでも雑木が好きだっ 雑木を使いますと、春の新緑から秋の紅葉と たようで、創業当時から寄せ植えに取り組ん いう流れを楽しめます。さらに、冬は葉を落 できた。 とすので小枝の柔らかな味わいと、四季を通 「私の父である先代が寄せ植えの技法を編 じて誰でも楽しめるのが特徴です。いろいろ み出したことが、現在の芙蓉園の基礎になっ な樹種がありますから、盆栽としてもわかり ています。父は遠近法をとらえた寄せ植えを やすく、金額面でも若木は安価で初心者向き 作り出しました。それまでの寄せ植えは、一 だと思います。盆栽を初めてやってみようと つの鉢に植林のようにただ植えていただけの いう方にも馴染みやすく、理解しやすく、入 ものが多く、それでは味がないし、見栄えも りやすいと思います。 ぶぎんレポート No.203 2016 年 10 月号 松柏が男性的なのに対し、雑木は女性的な 感じでしょうか、しなやかで柔らかな風情が 楽しめるのが寄せ植えです」と竹山氏は言う。 「ほとんどの盆栽は、すでに鉢などに植え られているものを求めて育てていくことにな りますが、寄せ植えは、最初は鉢があるだけ で盆栽としての姿は何もありません。そこに 素材を植えこんでいくことによって一つの盆 栽が出来上がる。無から有を生じる、とまで はいいませんが、それほど大きな変化がある ことがおもしろいわけです」。 よりよい寄せ植えを目指して ▲先代が50年以上前に作った春の芽出しが赤いモミジ (紅千鳥) しかし、本当によい寄せ植えを作ろうとす めてバラし、よい材料だけを選んで一つの作 ると、他の盆栽同様、手間も時間もかかる。 品に仕上げることもある。同じ木から取れた 「太い木、細い木、その中間くらいの木な 実生から育てた木だけで寄せ植えにするのが どいろいろな材料がないと、見応えのある寄 理想的である。 せ植えにはなりません。例えば、30本くら 「寄せ植えも盆栽の樹形の一つですから、 いの木でよい寄せ植えを作ろうとすると、倍 古いものは見応えがあります。うちにも父親 以上の材料が必要になります」と竹山氏。 が若い時に作った70年以上のものが一つあ 寄せ植えの材料として実生から5年、10 ります。ほかにも40年50年経っているもの 年と育てると、太さや高さにかなりばらつき もありますよ」 。 が出てくるので、太いものを主木に使い、他 また、寄せ植えは雑木、松柏などどんな樹 の木は脇や遠景として寄せていく。寄せ植え 種でもできるが、何十年と維持できる樹種と の素材には比較的若い木を使うことが多い なると、限られてしまうそうだ。 が、まったく別に育てた太い木を主木にする 「雑木林の中に赤松があるのはよく見られ こともある。古い寄せ植えをいくつか買い集 る風景ですが、それを真似て寄せ植えを作る ▲芙蓉園 園内の真柏 ▲園内の様子 ぶぎんレポート No.203 2016 年 10 月号 35 と長持ちはしません。実際の雑木林はいろい 樹形にするのが盆栽づくりです。 ろな樹種が混ざっていますから、同じような ただ、例えば五葉松なら五葉松、黒松なら 風景を作ることもありますが、あくまでも見 黒松の種を50本、100本と蒔いて鉢植えに 本的な寄せです。実際に盆栽として何十年も し、幹模様をとって枝作りをしていくと、み 培養し、仕上げていくとなると、モミジなら んな同じような樹形になってしまいます。そ モミジ、カエデならカエデのように同じ種類 れではあまりおもしろくないし、味わいもあ でなければ維持できません。樹種によって水 りません。 を好む木もあれば、嫌う木もありますから」 。 かといって、あまり手を加えて技工を凝ら 「盆栽は何の樹種でもそうですが、伸びて しすぎると、オブジェや工芸品のようになっ くれば芽切りをして、枝を詰め、できるだけ てしまう。その兼ね合いが、それぞれの作家 その大きさを維持するのが一つの作り方で のセンスや個性によって変わってきます。力 す。それでも10年、20年と経てば、鉢の中 強さを得意にする方もいれば、飄々とした盆 といえども太ってきます。木も大きくなりま 栽を作る方もいる。プロでも、それぞれ特徴 すから鉢を変えなければなりません。時間が がありますね。 経つことにより木が太り、力強さも出てくる 雑木盆栽でも枝の柔らかさなどを見ると、 し、時代感も出てきます。寄せ植えも盆栽の 『これは芙蓉園が作った雑木だな』とわかる 樹形の一つですから、目指すところは他の盆 人にはわかります。 栽と変わりません」と竹山氏は語る。 いずれにしても、鉢に木を植えこんで自然 紋切り型と技巧の狭間で を追求する、それが盆栽です。盆上により自 然を感じられる作り方、より自然に近づく作 では、盆栽が目指すところとは何だろうか? り方が大切です。盆栽はあくまでも自然をお 「盆栽が手本にしているのは“自然”です。 手本に、自然を追求し、自然美を求めていく 自然の樹木は、自生する環境によりさまざま ものだと思います」 。 な樹形が見られます。渓谷に見られる下に向 けんがい かって降りていく懸 崖というものもありま 世界の中の盆栽、世界の中の盆栽町 す。いろいろな樹形がありますので、それを 竹山氏は、一般社団法人日本盆栽協会の理 お手本にします。しかし、それを完全に真似 事 を30年 以 上 務 め、 そ の 後、2013年 ま で しただけでは盆栽になりません。鉢に植え込 10年間理事長も務めている。日本盆栽協会 み、幹模様をとり、全体のバランスがとれた は1967(昭和42)年に発足した盆栽愛好者 の全国組織で、今年で90回目を迎えた国風 盆栽展を開催するなど、盆栽芸術の普及と発 展に尽くしてきた。現在、約6,000人の会員 がおり、約250の支部が活動をしている。こ の会に40年以上関わってきた竹山氏は、全 国各地だけでなく、世界各国を訪れてきた。 そのためだろうか、竹山氏は世界的な視点で 盆栽を見ているようだ。 「盆栽は日本で始まったものではありませ ▲新たな構想のもと準備されている素材(カエデ) 36 ぶぎんレポート No.203 2016 年 10 月号 んが、日本が本場のように思われています。 ▲毎日のように外国人が訪れる。この日はドイツから それは日本人独特の国民性といいますか、手 平原に自生するような樹形を真似た盆栽も出 先の器用さや小さなものを丁寧に仕上げる気 てきました。各国の盆栽には、それぞれの国 性に合っているからだと思います。わびやさ の自然の形、自然との関わり方が出ています。 びといった日本の美的感覚もあるでしょう。 日本の盆栽人口が減る中で、盆栽村もこれ そうした日本の文化や日本人の特性が完成さ まで通りのやり方では難しいこともあるかも せたのが盆栽です。 しれませんが、最近では輸出に力を入れる業 その盆栽のメッカが大宮の“盆栽村”です。 者がかなり増えるなど、新しいチャレンジを ここで修行をして地方で独立した人も多いの 行っています」 。 で、いまでは力のある業者が各地方にいます 時代の大きな流れの中で、盆栽に関心を持 し、技術的に上手な方もおられます。そこに つ層も変化している。来年には世界大会が開 もよい盆栽がありますから、 『わざわざ大宮に 催され、世界中から大勢の方が訪れるだろ 来なくても』という状況になりつつあります う。しかし、自然を手本とし、自然を追求す が、それでも樹種の豊富な盆栽が揃っている る姿勢だけは変わらないに違いない。 のが盆栽村であることには間違いありません。 また、盆栽に関心を持つ外国人は年々増え ています。私の園にも、海外からの方が来な 芙蓉園アクセスマップ い日はありません。特に2010年3月にさい さいたま市北区盆栽町96 ☎ 048-666-2400 Bonsai Art Museum さいたま市大宮盆栽美術館 土呂駅 立って増え、現在では全体のお客様の2~3 ↑至宇都宮 たま市大宮盆栽美術館が開館してからは目 35 号 割くらいが外人さんだと思います。見に来る だけでなく、技術を勉強しにくる外国人もい 路 道 れた盆栽も生まれつつあります。中国だけで もみ 盆栽四季の家 じ通 り けや き通 り さく ら通 り 芙蓉園 駅 公園 号 214 線 野田 東武 → 日部 至春 り ぎ通 やな 〒 盆栽町局 かえ 漫画会館 で通 り 大宮 至大宮↓ それぞれのお国柄というか、地域性を取り入 業 盆栽が世界に広まっていくにしたがって、 産 かりした技術を持った方が増えています。 JR宇都宮線 ます。特にヨーロッパでは日本で習ってしっ 入口標識 大宮 ←至 見られる樹形もありますし、アフリカでは大 ぶぎんレポート No.203 2016 年 10 月号 37
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