地方創生における地方銀行の動向を調査(2016 年)

2016 年 9 月 30 日
プレスリリース
地方創生における地方銀行の動向を調査(2016 年)
-事業性評価を伴う融資の推進や銀行同士の広域連携、幅広い事業者との協業がカギ-
【調査要綱】
矢野経済研究所では、次の調査要綱にて地方創生における地方銀行の動向調査を実施した。
1.調査期間:2016 年 6 月~2016 年 8 月
2.調査対象:メガバンクや地方銀行、官民ファンド、大手 SIer、IT ベンチャー企業等
3.調査方法:当社専門研究員による直接面談、電話・e-mail によるヒアリング、ならびに文献調査併用
【調査結果サマリー】
‹ 地方銀行において、事業性評価を伴う融資額の割合が徐々に増加すると予測
融資の面では、ローカルベンチマーク※1 の活用が広がり、事業性評価を伴う ABL(動産担保融資)
※2
や「地方創生私募債」などの私募債による融資事例が、地方銀行において増加すると考える。その
結果、融資額全体としては、横ばいではあるものの、事業性評価を伴う融資額の割合が徐々に増え、
従来の担保を伴う融資額と同等、もしくはそれ以上の割合を占めていくと予測する。
‹ 地方銀行同士の広域連携から緩やかな統合へと展開、地方銀行再編の可能性も
DMO※3 や従来の地方銀行の情報システム共同化などをきっかけとした、地方銀行同士の広域連
携がより活発化していくと予測する。また、広域連携をきっかけとしたホールディングス(持株会社)の
設立など、緩やかな統合が増えていく可能性がある。更に、メガバンクによる地方銀行の買収、統合
も始まる可能性があるほか、ホールディングスを設立するなど大型化した有力地方銀行による積極的
な買収・統合が進む可能性もあると考える。
‹ 大手 SIer やベンチャー企業との協業が活発化、FinTech 活用の加速化を予測
特にリレーションシップバンキング※4 を掲げる地方銀行を中心に、DMO※3 や農林水産業の 6 次産
業化、医療・介護など、ICT と関連性の強い、幅広い分野において大手 SIer との協業が活発化してい
くと考える。また、多くの地方自治体が、地方版総合戦略においてベンチャー企業支援を掲げており、
地方創生関連領域でのベンチャー企業の参入が進み、これらのベンチャー企業と地方銀行との協業
が活発化すると考える。FinTech は、地方銀行とベンチャー企業の協業に直結する代表的な分野で
あり、特にクラウドファンディングや決済、クラウド会計などの領域において、活用がより一層加速する
可能性がある。
◆ 資料体裁
資料名:「地方創生における地方銀行/IT 事業者の戦略と展望 2016」
発刊日:2016 年 8 月 31 日
体 裁:A4 判 259 頁
定 価:150,000 円(税別)
‹ 株式会社 矢野経済研究所
所在地:東京都中野区本町2-46-2 代表取締役社長:水越 孝
設 立:1958年3月 年間レポート発刊:約250タイトル URL: http://www.yano.co.jp/
本件に関するお問合せ先(当社 HP からも承っております http://www.yano.co.jp/)
㈱矢野経済研究所 マーケティング本部 広報チーム TEL:03-5371-6912 E-mail:[email protected]
本資料における著作権やその他本資料にかかる一切の権利は、株式会社矢野経済研究所に帰属します。
本資料内容を転載引用等されるにあたっては、上記広報チーム迄お問合せ下さい。
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2016 年 9 月 30 日
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【 調査結果の概要 】
1.調査の背景
地方創生とは、従来からの東京一極集中を改善するとともに、地方の人口減少に歯止めをかけ、日本
全体の活力向上を目的とした一連の政策である。政府は、2015 年末にまち・ひと・しごと創生総合戦略
(2015 改訂版)を公表している。(図 1 参照)
本調査では、新たなプロジェクトへの投融資を担う、地方経済の基盤である地方銀行を対象とし、地
方創生における動向や今後の見通しについて、とりまとめた。また、①金融庁や経済産業省の政策のイ
ンパクトの大きさと内容、②メガバンクと地方銀行の地方創生をきっかけとした協業意欲、③地方銀行間
での統合意向、④FinTech やデビットカードなど新しいトレンドへの対応動向、⑤変革実現のスピードの
5 項目を考慮しながら、予測する。
2.地方創生による地方銀行の動向や今後の見通し(図 2 参照)
2-1.ローカルベンチマークを活用した事業性評価を伴う融資が、地方銀行において活発化
融資の面では、ローカルベンチマーク※1 の活用が広がり、事業性評価を伴う ABL(動産担保融資)
※2
や「地方創生私募債」などの私募債による融資事例が、地方銀行において増加すると考える。その
結果、融資額全体としては、横ばいではあるものの、事業性評価を伴う融資額の割合が徐々に増え、
従来の担保を伴う融資額と同等、もしくはそれ以上の割合を占めていくと予測する。また、現在ベンチ
ャー企業は事業性評価を伴う融資による恩恵を十分に受けられていないものの、中小企業への融資
事例が増えるにしたがって、ベンチャー企業が恩恵を受ける可能性が出てくるとみる。
※1.ローカルベンチマーク・・・経済産業省が公表した、財務情報に関する指標と、非財務情報に関する視点から、企業
の健康診断を行うためのツール。
※2.ABL(動産担保融資)・・・企業の事業活動を形成する在庫や売掛金、機械設備などに担保を設定する融資手法。
2-2.地方銀行同士の広域連携から緩やかな統合へ展開すると予測
広域で連携していく DMO※3 や従来の地方銀行の情報システム共同化などをきっかけとした、地方
銀行同士の広域連携がより活発化していくと予測する。また、広域連携をきっかけとしたホールディン
グス(持株会社)の設立など、緩やかな統合が増えていく可能性がある。更に、メガバンクによる地方
銀行の買収、統合も始まる可能性があるほか、ホールディングスを設立するなど大型化した有力地方
銀行による積極的な買収・統合が進む可能性もある。
※3.DMO(Destination Management Organization)・・・欧米で普及している、自然や食、芸術など地域にある観光資源を
活用し、観光地域作りを行う取組み。
2-3.株式取得制限の緩和など銀行法改正の可能性
現状、銀行法上では一般事業会社の株式取得を制限されているが、地方銀行が連携し系列の投
資ファンド経由で一般事業会社を買収する事例が増えてきた場合には、制限緩和に対する声も高ま
ってくる可能性があり、銀行法の改正に向けた議論が始まると考える。現状、ファンドの組成や移住ロ
ーンなどの金融商品、融資などに留まっているが、銀行法が改正された場合には、地方銀行による
取組みの幅が広がり、地域への資金流入を更に後押しする効果に繋がることが期待されている。
2-4.デビットカードを活用した地方創生プラットフォームの構築を予測
地方創生にデビットカードを活用する事例が登場している。一例として、地方銀行が地域内のさま
ざまな小売店舗をパートナーとして巻き込んで、地域活性化に取組むなど、地域経済の活性化に繋
げる事例が出てきている。多くの地方銀行がデビットカードの発行を開始もしくは開始を予定しており、
地方創生への応用事例が今後、更に増えていくことが期待される。
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2016 年 9 月 30 日
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2-5.幅広い分野において、大手 SIer との協業が活発化
特にリレーションシップバンキング※4 を掲げる地方銀行を中心に、DMO※3 や農林水産業の 6 次産
業化、医療・介護など、ICT と関連性の強い、幅広い分野において大手 SIer と協業が活発化していく
と考える。また、地方銀行と大手 SIer の協業により、大手 SIer が地方創生をテーマとして一部地域で
手掛けるハッカソンやアイデアソン※5 をソリューション化して全国で展開する動きや、そこで生まれた
アイデアなどから業界横断型もしくは業界特化型のソリューションが生まれてくると予測する。
※4.リレーションシップバンキング・・・金融機関が顧客との間で親密な関係を長く維持することにより、顧客に関する情報
を蓄積し、この情報をもとに、貸出等の金融サービスの提供を行うビジネスモデル。
※5.ハッカソン、アイデアソン・・・アメリカの IT 企業やスタートアップで始められた、ある特定のテーマについて多数のエ
ンジニア、デザイナー等を集めて、アイデア創出やビジネスモデルの構築などを短期間で行うイベントのことを指す。
2-6.地方創生関連領域でのベンチャー企業との積極的な協業や FinTech 活用の加速化
多くの地方自治体が、地方版総合戦略においてベンチャー企業支援を掲げており、DMO※3 や
CCRC※6 などの地方創生関連領域においてベンチャー企業の参入が進み、これらのベンチャー企業
と地方銀行との協業が積極化すると考える。その結果、地方創生をきっかけに、地方銀行と幅広い事
業者との協業が活発化し、イノベーティブな事業やソリューションが創出されていくとみる。
また、FinTech は、地方銀行とベンチャー企業の協業に直結する代表的な分野である。特にクラウ
ドファンディングや決済、クラウド会計などの領域において、地方銀行での活用が加速する可能性が
ある。クラウドファンディングについては「ふるさと投資」が、一方、決済については訪日外国人客によ
るインバウンドマーケット対応に向けたスマートフォンやタブレット端末を活用したクレジットカード決済
などが、それぞれ広がっていくと予測する。加えて、クラウド会計の領域では、銀行と融資先の間で財
務データを共有する事例も一部にあり、クラウド会計を通じて融資に繋げていく動きも今後、増えてい
くであろう。
※6.CCRC(Continuing Care Retirement Community)・・・高齢者が集まって街を形成し暮らすコミュニティ、高齢者住宅、
生活サービス、介護・看護・医療サービスなどを一箇所で総合的に提供していく取組みを指す。
図 1.地方創生の総合戦略について
まち・ひと・しごと創生総合戦略(2015 改定版)(~2019年度)
基本目標(成果指標、2020年)
主な重要業績評価指標(KPI)
中長期展望
(2060年を視野)
農林水産業の成長産業化
地方にしごとをつくり、安心して働けるよう
にする
観光業を強化する地域における連携体制の構築
Ⅰ.人口減少問題の
克服
地域の中核企業、中核企業候補支援
地方移住の推進
国
地方への新しいひとの流れをつくる
内閣官房まち・ひと・
しごと創生本部
企業の地方拠点機能強化
◆人口減少の歯止め
◆「東京一極集中」の
是正
地方大学活性化
若い世代の経済的安定
若い世代の結婚・出産・子育ての希望をか
なえる
妊娠・出産・子育ての切れ目ない支援
Ⅱ.成長力の確保
ワーク・ライフ・バランス実現
◎2050年代に実質
GDP成長率1.5~2%
程度維持
「小さな拠点」の形成
時代に合った地域をつくり、安心な暮らしを
守るとともに、地域と地域を連携する
「連携中枢都市圏」の形成
既存ストックのマネジメント強化
内閣官房まち・ひと・しごと創生本部資料をもとに矢野経済研究所作成
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2016 年 9 月 30 日
プレスリリース
図 2.地方創生における地方銀行の動向(~2019 年度)について
施策(例)
地方にしごとをつくり、安心して働けるようにする
・税制優遇措置による本社機能の誘致
・テレワークなど新たな働き方の提示
地方への新しいひとの流れをつくる
・二地域移住などスタイルの普及促進
・駅前などの再開発
若い世代の結婚・出産・子育ての希望をかなえる
・出会いの機会の提供、婚活支援
・県営住宅を多子世帯向け住宅に整備
時代に合った地域をつくり、安心した暮らしを守る
とともに、地域と地域を連携
・災害時に備えたバックアップ体制の確保
・買い物/交通弱者向け公共交通の維持、支援
全ての地方自治体
連携
DMOなどを
きっかけとし
た広域連携
アクティブシニア
の活躍を促す
CCRC
新たな動きが次々に登場
基本目標
テレワークなど
を活用した新た
な生活スタイル
Ⅰ.ローカルベンチマークを活用した事業性評価を伴う融資が活発化
― 融資全体のうち、事業性評価を伴うABLや私募債な どによる融資の割合が増加
― 特に減反政策の廃止が予定されるコメなど、1次産業の大型化、6次産業化を後押しする融資活発化
- 中小企業への融資に留まらず、 ベンチャー企業への事業性評価に伴う融資事例も出てくる可能性も
Ⅱ.地方銀行同士の広域連携から緩やかな統合へと展開
― DMOのほか、システム共同化をきっかけとした地方銀行同士の広域連携が積極化
― 地方銀行同士の広域連携をきっかけにホールディングス の設立な ど、緩やかな統合に向けた可能性
Ⅲ.株式取得の緩和など銀行法改正の可能性も
地方銀行
― 有力地方銀行の連携による系列ファンドを活用した一般事業会社の買収が増加
― 株式取得の緩和に向けた銀行法改正の議論→改正により融資以外に新たな選択肢が追加、地方へ
の資金流入を後押し
Ⅳ.デビットカードを活用した地方創生プラットホームの構築
- デビットカードを活用した自治体などとの連携による事例が増加
Ⅴ.幅広い分野において、大手SIerとの協業が活発化
- リレーションシップバンキングを掲げ、大手SIerと幅広い分野において 協業
― 一部地域でのアイデアソン、ハッ カソンをソリュ ーション化、全国展開へ
Ⅵ.地方創生関連領域でのベンチャー企業との積極的な協業やFinTech活用の加速化
- 地方版総合戦略における創業支援を通じて起業・参入したベンチャー企業との積極的な協業
矢野経済研究所作成
Copyright © 2016 Yano Research Institute Ltd.