最優秀賞 研究事例 PDF - 日本音楽レ・クリエーション指導協会

Music Gymnastical により脳の活性化を促した認知症予防プログラム
~認知症予防プログラムを用いた支援への基礎的検討~
発表者:堀口直子 所属:一般社団法人日本音楽レ・クリエーション指導協会
■目的
現在日本では、65 歳以上の認知症高齢者は約 550 万人、軽度認知障害の高齢者は約 450 万人存在すると推計されている。今後の超高齢社会対策の一つとして、介護予防、認知症予防活動が急務で
あり、音楽や歌唱、頭と体を同時に行うデュアルタスク等が脳の活性化に効果があると期待されている。富山大学の笹岡利安 ※1によれば自己充実的達成動機が高いと、覚醒作用や自律神経調節、
糖代謝調節などのオレキシン作用により抑うつに陥りにくいとされている。そこで、実施前と実施後の自己充実的達成動機の変化を測定し検証することを目的とし、Music Gymnastical(音楽レクリ
エーションプログラム)を 60 分間実施した。
また、このプログラム実施に必要なインストラクター育成について、キョウメーションケア基本観察 13 項目を基本とした指導の方法とテクニックを用いた。
■対象
A 都 B 区の老人会に参加した 65 歳以上の健常高齢者男女 のべ 602 名、有効データは男性 156 名、女性 446 名、平均年齢 78.2 歳
データ取得期間:平成 27 年 7 月~平成 28 年 2 月(8 か月間)
実施日数:26 日(月 3 日~4 日実施)
■倫理的配慮
本研究における個人情報の取り扱いについては、倫理規定に基づき事前に本人に趣旨を伝え文書にて了承を得た。
■方法
本研究を行う前後に、達成動機測定尺度(24 項目7件法)による「自己充実的達成動機」の項目への回答を比較し調査し回答は7段階評定で求めた。※2
② 音楽レクリエーションプログラムの実施前後に行った、達成動機測定尺度「自
① Music Gymnastical(音楽レクリエーションプログラム)の実施例 (表1)
己充実的達成動機」に基づくアンケート項目と回答群
実施場所:A 都B区老人会
時間
プログラム
内容
1. いつも何か目標を持っていたい
2. 決められた仕事の中でも個性を生かしてやりたい
3. 人と競争することより、人と比べることができないようなことをして自分を活かし
たい
4. ちょっとした工夫をすることが好きだ
5. 人に勝つことより、自分なりに一生懸命やることが大事たと思う
6. みんなに喜んでもらえる素晴らしいことをしたい
7. 何でも手がけたことには最善を尽くしたい
8. 何か小さなことでも自分にしかできないことをしてみたいと思う
9. 結果は気にしないで何かを一生懸命やってみたい
10. いろいろなことを学んで自分を深めたい
11. 今日一日何をしようかと考えることは楽しい
12. 難しいことでも自分なりに努力してやってみようと思う
13. こういうことがしたいなあと考えるとわくわくする
目的
00'00
挨拶・自己紹介
出身地・趣味・特技等
場を和ませる
02'00
物覚えクイズ
5 つの品物を覚える
即時記憶強化
05'00
ウォーミングアップ
上・下半身ストレッチ
けが防止
15'00
脳の領域の話
脳の領域の話
なぜ指を動かすと脳にとって良いのか理解を深める
17'00
うさぎとかめ
指上げ運動
指レク・集中力アップ・脳の活性化
うさぎとかめ
パラレル親指小指
指レク・集中力アップ・脳の活性化
21'00
顔の体操
顔の表情筋を動かす運動
脳の活性化
25'00
浦島太郎
肘膝交差
下肢筋力アップ・腹筋力アップ
29'00
うみ
重ね拍子(指)
手指血流量アップ即時記憶力アップ
うみ
重ね拍子(腕)
腕全体血流量アップ即時記憶力アップ
回答群
点数
35'00
春の小川
タングータンパー
即時判断力強化
非常によくあてはまる
6
41'00
見上げてごらん夜の星を
歌唱
呼吸機能、肺活量強化
ほとんどあてはまる
5
44'00
見上げてごらん夜の星を
手話歌
即時記憶強化
少しあてはまる
4
52'00
物覚えクイズ答え合わせ
5 つの品物を覚える
即時記憶強化
どちらともいえない
3
あまりあてはまらない
2
55'00
認知症について
認知症について
予防の大切さ、挑戦することの大切さを伝える
ほとんどあてはまらない
1
58'00
挨拶
実施した内容のまとめ
参加者とのコミュニケーション
全然あてはまらない
0
回答群と点数配分(表2)
③ ①のプログラム実施前後に、②のアンケートを実施しそのポイントを比較した
音楽レクリエーションプログラム実施前後の
ポイント比較
80
78
【実施環境】
・データ取得期間:平成 27 年 7 月~平成 28 年 2 月(8 か月間)
・実
施 日 数:26 日(月 3 日~4 日実施)
・有 効 デ ー タ :男性 156 名、女性 446 名
・平
均
年 齢:78.2 歳
76
74
72
【ポイントの集計方法】
上記②表 2 のとおり、
「非常によくあてはまる」を最高ポイント 6 点、
「全然あてはまらない」を 0 ポイント、満
70
点 91 ポイントで集計したところ、左記のグラフのとおり、プログラム実施後には達成動機の上昇がみられた。
68
7月
8月
9月
10月
11月
27年
実施前
12月
1月
28年
・プログラム実施前ポイントの平均:73.82
2月
・プログラム実施後ポイントの平均:76.63
実施後
■結果
Music Gymnastical(音楽レクリエーションプログラム)を対象者が体感することにより、実施前自己充実的達成動機尺度の平均が 73.82 に比べて、実施後 76.63 となり、2.81 ポイント上昇した。リズ
ムストレッチや音楽脳トレ・歌唱等のデュアルタスク効果については、繰り返し実施することで、より効果が顕著となることが考察される。
本研究の基盤となる高齢者の自己実現を踏まえた達成動機において、本プログラムによって高められることが集計分析から得られた。
また、認知症予防プラグラムが実施できるインストラクターの人材育成については、音楽の専門知識と技術がなくても指導できる 6 時間の実践型指導要綱を作成し育成したところ、約 500 名の育成に
成功した。教育プログラムは、Kyomation care 基本観察13項目を元に、対応の方法を教え、教材には楽譜は使わず、ピアノ、ギターも使用しない。
セリフも全て書き込み「教え方を教える」ため、初めての人でも教えられる。
■考察
デュアルタスク効果をもたらす Music Gymnastical(音楽レクリエーションプログラム)は、脳を活性化し心身機能を高める効果によって、認知症予防活動に対する手段として有効であると考察できた。
日本の超高齢社会において、Music Gymnastical(音楽レクリエーションプログラム)を取り入れた、高齢者コミュニティーが増えれば、元気な高齢者が増加し地域コミュニティーの活性化につながる
と考察される。
さらに、人材育成という側面において、介護に携わる職員のキャリアアップはもとより、地域のボランティアや認知症サポーターの役割として、Music Gymnastical(音楽レクリエーションプログラム)
を実施できる人材を増やすことで、より多数のコミュニティーでの実施が可能となり効果が期待できると考えられる。
※1 参考文献:Hypothalamic orexin prevents hepatic insulin resistance via daily bidirectional regulation
※2 参考文献:達成動機の理論と展開
続・達成動機の心理学、第 1 版、金子書房 1995
of autonomic nervous system in mice:Diabetes, 2014.9