【相談 69】複数の医療機関が関与した死亡事例における報告義務者 【回答】

【相談 69】複数の医療機関が関与した死亡事例における報告義務者
キーワード:医療事故、医療事故調査制度、医療事故調査・支援センター、転送元、転送先、急性期医療、救急病院、医療事
故調査、院内調査、報告、届出、医療法、医療法施行規則
急性期医療を主とする総合病院の医師です。
過去につぎのような事例がありました。肺血栓塞栓症の疑いと診断した高齢の患者さんが、治療の結果、
容体が安定したため、リハビリ等のために別の医療機関(A 病院)へ移っていただきました。しかし、そ
の患者さんが、A 病院で急性増悪期と診断されて血栓溶解療法を受けたところ、脳内出血が出現したため、
当院へ転送されてきましたが、まもなく死亡されました。患者さんは、死亡原因は、A 病院で実施された
血栓溶解療法であると考えますが、このような場合でも、医療事故調査制度のもとでは、当院が医療事故
として、医療事故調査・支援センターに届け出る必要があるのでしょうか?また、当院に転送されてまも
なく死亡されたので院内調査のしようもありませんが、それでも、当院にて院内調査を実施する必要があ
るのでしょうか?
【回答】
医療事故調査制度の目的は、医療の安全を確保するために医療事故の再発防止を行うことにあります。
そのため医療事故が生じた病院等の医療機関は、医療事故調査・支援センターに医療事故を報告し、かつ
自主的に医療事故調査を行うことが義務化されています。医療事故とは「その医療に起因し、または起因
すると疑われる(A:起因要件)死亡で、当該管理者が死亡を予期しなかった(B:予期不能要件)もの」を
いいます。
本件のような致死性疾患を救急受け入れしたような場合では、A:起因要件は転送元、転送先ともに充足
しますが、B:予期不能要件は転送先には該当しにくいので(死亡を予期していたといえるでしょうから)
、
報告、調査義務は転送元医療機関が負うのが一般的になると思われます。
もっとも、複数の医療機関にまたがって治療を受けた患者が死亡したすべてのケースで、転送元のみが
報告、調査義務を負い、転送先は義務を負わないわけではありません。厚生労働省の「医療事故調査制度
に関する Q&A」(Q3.複数の医療機関にまたがって医療を提供した結果の死亡であった場合、どの医療機関
の管理者が報告するのでしょうか?)によりますと、
「
(転送元と転送先の)両者で連携して判断していた
だいた上で、原則として当該死亡の要因となった医療を提供した医療機関から報告していただくことにな
ります。
」と書いてあります。
複数の医療機関にまたがって治療を受けた患者が死亡した例では、相互に診療情報提供を行っているの
が普通なので、どの医療に起因した死亡であるかは事前の情報提供から判明することも多いのではないで
しょうか。また、実際には事故の報告及び調査に際して、転送元からの診療情報提供(依頼)と転送先か
らの診療情報提供(報告)を勘案して行うことになるので、双方の医療機関が事前に協議すれば、いずれ
の医療が死亡に起因したのか、また転送先の医療開始時点で死亡が予期されたのかどうか判明するでしょ
うから、いずれの医療管理者が報告、調査を行うのか決まることになります。
(回答者:石川寛俊 弁護士)
(2016 年 9 月執筆)
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Medical-Legal Network Newsletter Vol.69, 2016, Sep. Kyoto Comparative Law Center
*会員用ウェブサイトの「知恵袋(相談コーナー)」には、もう少し詳しい説明を掲載しております。
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