相場展望レポート (2016 年 10 月) 2016.9.30 江守 哲 氏

相場展望レポート (2016 年 10 月)
2016.9.30
江守 哲 氏
ドル円(95.00 円~102.50 円)
ドル円は引き続き上値の重い展開が想定される。9 月 20・21 日の米連邦公開市場委員会(FOMC)では政
策⾦利が据え置かれた。事前に FOMC の関係者が利上げの可能性を繰り返し⽰唆していたが、利上げが⾒送
られたことを考えると、これらの発⾔が市場の反応を⾒極めるものだった可能性が⾼いといえる。米連邦準
備制度理事会(FRB)のフィッシャー副議⻑やダドリーNY 連銀総裁といった、従来であればハト派と呼ばれ
る主要⼈物が、突然利上げに⾔及し始めるなど、違和感があったのは、そのような背景があったからであろ
う。今回の FOMC では、決定に対して 3 名が反対票を投じていたことが明らかになった。これは、米国経済
の実態⾯では利上げが妥当である⼀⽅、それ以外の要素を背景に利上げが⾒送られたことを意味するだろう。
世界的な低⾦利を背景に、米国株と米国債に投資資⾦が流⼊する中、利上げによりこれらの市場に悪影響を
与えることは避けたいと考えていたものと推察される。昨年 12 月に利上げを実施して以来、利上げができ
ない状況が続いていることは、かなりの異常事態と考えられるが、これ⾃体が、FRB が市場の反応に政策運
営を縛られていることの証左であろう。FRB の政策決定プロセスに⼤きな⽋陥が⾒られる点はきわめて憂慮
されるべきで事態である。今回の FOMC と同時に公表された、FRB 関係者の利上げ⾒通しは、年内1回、来
年は 2 回ときわめて緩やかなペースを⾒込んでいる。市場にショックを与えないようにしたいとの意図が鮮
明であるが、⼀⽅でこれが低⾦利バブルの延命を促すようであれば、今後の⾦融市場動向にはむしろ警戒が
必要になると考えられる。市場は 12 月の利上げをすでに織り込んだ状態にあり、利上げ実施となった場合
でもドル安基調が続くことになりそうだが、⾦融市場でリスクオフの動きが⾒られれば、むしろドル⾼に転
じる可能性も⼗分にある。逆に、利上げできない状況に追い込まれれば、リスクオフのドル⾼となることも
あり得る。
⼀⽅、日銀は 20・21 日の⾦融政策決定会合で、⼤きな転換を⾏った。つまり、これまでの量的緩和策を中
⼼とした政策から、⾦利重視の姿勢に転換した。マイナス⾦利幅をマイナス 0.1%に維持する⼀⽅で、マネ
タリーベース目標を撤回し、10 年⾦利がゼロ%になるよう国債を買い⼊れることとした。これを「⻑短⾦利
操作付量的・質的⾦融緩和」とし、⻑短⾦利の操作を⾏う「イールドカーブ・コントロール」を導⼊すると
した。国債買い⼊れは年間 80 兆円の現状ペースめどとしつつ、⾦利⽅針を実現するよう運営するとし、消
費者物価上昇率が安定的に 2%目標を超えるまで、マネタリーベースの拡⼤⽅針を継続するとした。ただし、
「できるだけ早期に物価 2%を実現する」とし、達成時期をあいまいにした。またマイナス⾦利の深堀余地
を残した。さらに上場投資信託(ETF)の買い⼊れ⽅式を⾒直した。⿊⽥総裁は会⾒で、
「イールドカーブの
操作は⼗分できる」との認識を⽰し、
「リーマン・ショック後には⻑期国債を購⼊してきて、貸出⾦利の低下
などの効果が出ており、⾦利を動かしてきた実績がある」として、⻑期⾦利の操作は可能との認識を⽰して
1
相場展望レポート (2016 年 10 月)
2016.9.30
いる。その⼀⽅で、
「国債の購⼊ペースが年 80 兆円から増減する可能性については、ずっと固定するわけで
はない」とし、実質的なテーパリングにつながるリスクが露呈した。⿊⽥総裁はこの点を否定しているが、
市場関係者はそのようにはとらえていない。これらの決定内容は、市場では円⾼圧⼒を緩和するものではな
いとの評価になっており、この日の市場では、発表後こそ円安に進み、ドル円は⼀時 103 円に迫る動きにな
ったが、その後は 100 円台前半に戻すなど、効果は限定的との⾒⽅が⼤勢を占めている。
また米⼤統領選挙の動向にも注意が必要である。26 日には第 1 回目のテレビ討論会が実施されたが、メディ
アの調査では⺠主党候補のクリントン⽒が共和党候補のトランプ⽒を上回ったもようである。市場では、ク
リントン⽒はリスクオン、トランプ⽒はリスクオフとの扱いになっており、クリントン⽒優位となれば株⾼・
ドル安になりやすい。しかし、テレビ討論会はあと 2 回⾏われることや、今後の情勢は全くの不透明である。
トランプ⽒が巻き返し、株安・ドル⾼となれば、
「悪いドル⾼」が他の主要通貨の押し下げにつながる可能性
がある。
いずれにしても、上記のような背景から、今後もドル円の下落圧⼒が和らぐことはないものと思われる。100
円ちょうどの⽔準は、過去にも重要な節目だったとの認識が市場にあり、簡単に割り込みにくい⽔準となっ
ている。しかし、過去のドル円の推移をみると、100 円ちょうどではなく、むしろ 101 円前後が重要な節目
になっている。すでにこの⽔準を下回っていることから、いまはむしろ、100 円割れに向かう準備を⾏って
いる可能性がある。また日米の⾦融政策はドル円の下落を誘うものであり、⾦融当局からもドル安・円⾼の
お墨付きを得たともいえる。ドル円は、今後 1 ヶ月は 102 円台半ばを抵抗ラインとして、何度か 100 円割
れを試すことになろう。その結果、100 円を割り込めば、まずは直近安値の 99 円を試し、さらにこれを割
り込めば、95 円程度までの円⾼リスクが⼀気に⾼まることになろう。
ユーロ円(111.00 円~116.50 円)
ドイツ銀⾏問題を背景に、ユーロドルが下落するリスクが⾼まる中、ドル円が円⾼で推移しすい地合いでも
あり、ユーロ円は引き続き下落基調で推移することになろう。ドル円の上値の重さもあり、ユーロ円も同様
に 114.50 円を上値のめどとした下落基調が続くものと思われる。9 月末時点では 112 円ちょうどがサポー
トになっているが、これを割り込めば 7 月に付けた安値⽔準である 111 円ちょうどを目指すことになろう。
111 円を割り込むと、6 月 23 日の英国の EU 離脱決定時の 110 円が視野に⼊ることになろう。
ユーロドル(1.1050 ドル~1.1300 ドル)
FRB による利上げ⾒送りを背景に、ユーロドルは下げ渋りの動きにある。欧州中央銀⾏(ECB)の政策に手
詰まり感が強まる中、政策の⽅向性がユーロ⾼に向かいやすいこともあり、ユーロの下値は堅い。また米国
がドル安政策を志向していることも、ユーロ⾼につながりやすい。⼀⽅で、市場ではドイツ銀⾏への関⼼が
⾼まっている。同⾏の株価が上場来安値を更新し、年初から半値以下に沈む中、同⾏の経営不安が台頭し、
2
相場展望レポート (2016 年 10 月)
2016.9.30
⾦融市場が混乱するのではないかとの懸念が⾼まっている。報道によると、2007 年に発覚したサブプライ
ム・ローン問題が依然として同⾏の経営を不安定なものにしているもようである。またイタリアの主要銀⾏
の株価下落も顕著であり、欧州発の⾦融危機への懸念は徐々に⾼まっている。これを受けて、ユーロが売ら
れる可能性もあり、その場合にはリスクオフのドル買いが強まり、ユーロドルは⼤きく値を下げるリスクが
ある。9 月末時点では 1.12 ドル前後で推移していたが、⻑期トレンドが位置する 1.1150-60 ドル⽔準を
割り込むようだと、地合いは⼀気に弱気に傾き、1.1050 ドル程度まで下落することも想定される。当⾯は
欧州の銀⾏問題が材料視されやすいため、今後の報道には注意が必要である。
豪ドル円(75.00 円~78.00 円)
豪ドル円は、円⾼圧⼒が強まる⼀⽅、豪ドル/米ドルが堅調に推移することで、引き続き狭いレンジ内での
推移が想定される。9 月は月初から調整基調となったが、月中に豪ドル/米ドルは 0.7450 米ドルが堅いサ
ポートとなり、その後は反発基調に⼊った。豪州の経済状況については、底堅い推移が想定されている。設
備投資は低迷気味だが、消費や住宅関連は底堅い。第 2 四半期の消費者物価指数(CPI)は前年同期⽐でわ
ずか 1.0%増と、豪州準備銀⾏(RBA)のインフレ目標である 2-3%を下回っている。しかし、現状で RBA
がすぐに利下げを⾏う可能性は低いとみられており、豪ドル/米ドルは底堅さを維持しよう。ただし、豪州
の最⼤の輸出先である中国経済の失速リスクには常に注意が必要であろう。このような状況から、豪ドル円
は 76 円がサポートとなり、上値は 78 円程度と狭いレンジでの推移になろう。78 円を超えるには、相当の
豪ドル/米ドルの上昇が必要であり、豪ドル/米ドルが 0.7750 米ドルを超えるようであれば、豪ドル円も
レンジを上抜ける可能性はあろう。また 76 円を割り込んだ場合でも、75 円では下げ止まるのではないかと
考える。
3
相場展望レポート (2016 年 10 月)
2016.9.30
■ 江守 哲(えもり てつ)氏
てつ)氏プロフィール
エモリキャピタルマネジメント株式会社・代表取締役
大手商社、外資系企業、投資顧問会社等を経て独立。コモディティ市場経験は 25 年超。
現在は運用業務に加え、為替・株式・コモディティ市場に関する情報提供・講演などを行っている。
著書に「LME(ロンドン金属取引所)入門」(総合法令出版)など
共著に「コモディティ市場と投資戦略」(勁草書房)
■ ご留意いただきたい事項
マネックス証券(以下当社)は、本レポートの内容につきその正確性や完全性について意見を表明し、また保証す
るものではございません。記載した情報、予想および判断は有価証券の購入、売却、デリバティブ取引、その他の
取引を推奨し、勧誘するものではございません。当社が有価証券の価格の上昇又は下落について断定的判断を
提供することはありません。
本レポートに掲載される内容は、コメント執筆時における筆者の見解・予測であり、当社の意見や予測をあらわす
ものではありません。また、提供する情報等は作成時現在のものであり、今後予告なしに変更又は削除されること
がございます。
当画面でご案内している内容は、当社でお取扱している商品・サービス等に関連する場合がありますが、投資判
断の参考となる情報の提供を目的としており、投資勧誘を目的として作成したものではございません。
当社は本レポートの内容に依拠してお客様が取った行動の結果に対し責任を負うものではございません。投資に
かかる最終決定は、お客様ご自身の判断と責任でなさるようお願いいたします。
本レポートの内容に関する一切の権利は当社にありますので、当社の事前の書面による了解なしに転用・複製・
配布することはできません。
当社でお取引いただく際は、所定の手数料や諸経費等をご負担いただく場合があります。お取引いただく各商品
等には価格の変動・金利の変動・為替の変動等により、投資元本を割り込み、損失が生じるおそれがあります。ま
た、発行者の経営・財務状況の変化及びそれらに関する外部評価の変化等により、投資元本を割り込み、損失が
生じるおそれがあります。信用取引、先物・オプション取引、外国為替証拠金取引をご利用いただく場合は、所定
の保証金・証拠金をあらかじめいただく場合がございます。これらの取引には差し入れた保証金・証拠金(当初元
本)を上回る損失が生じるおそれがあります。
なお、各商品毎の手数料等およびリスクなどの重要事項については、「リスク・手数料などの重要事項に関する説
明」をよくお読みいただき、銘柄の選択、投資の最終決定は、ご自身のご判断で行ってください。
金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第 165 号
加入協会:日本証券業協会、一般社団法人 金融先物取引業協会、一般社団法人日本投資顧問業協会
4