学長式辞 - 東京海洋大学

平成 28 年 9 月期東京海洋大学学位記授与式(学部・乗船実習科・大学院)
学長式辞
御卒業・修了、おめでとうございます。今日の良き日を迎えるにあたり、陰日
向になってご支援、ご指導を賜りましたご参列の皆様に、まず、心より御礼申
し上げます。さらに、本日お忙しいところ、ご臨席賜りました独立行政法人海
技教育機構 野崎理事長、本学の同窓会であります海洋会の山本会長、楽水会の
田畑会長、並びに日本郵船株式会社 江崎様、株式会社商船三井 遠藤様、川崎
汽船株式会社 竹内様に厚くお礼申し上げます。
本日、学位記を授与されたのは学部卒業生 5 名、水産専攻科修了生 2 名、乗船
実習科修了生 44 名、大学院博士前期課程修了生 32 名、博士後期課程修了生 15
名及び論文博士授与者 3 名の計 101 名の皆さんです。皆さんの門出に際し、大
学を代表して一言お祝いを申し上げます。
学部及び水産専攻科の皆さんは、様々な理由で年限を上回って学んでこられま
した。他の同級生とは異なる選択をして、ここに出席されているわけですが、
これまでの時間をぜひ前向きにとらえて、今後の人生に役立てていって欲しい
と思います。
乗船実習科の皆さん、この 6 か月間学部で学んだことの集大成として、十分実
習がこなせたでしょうか? 多くの皆さんは海技教育機構の海王丸に乗船して
帆船による約 50 日間の遠洋航海を行いました。ホノルルではアメリカの文化を
少しですが学ぶことができたのではないでしょうか? 7 月からは銀河丸に乗船
し、函館など国内の港に立ち寄りながら実習を行いました。一方、社船実習を
選択した 15 名の皆さんは、日本郵船、商船三井、川崎汽船の大型商船でアメリ
カ、シンガポール、オーストラリア、中国と多方面への航海を経験されたと伺
っています。
実習や訓練は高等教育になじまないといった意見がありますが、モンテーニュ
が書いた「エセー」の中の一つ「実習について」では、
「理性と教育だけでは我々
を行為に導くのに十分ではない。経験によって精神を我々の欲するような状態
に訓練し、鍛え上げなければならない。さもないと精神はいざ実行という時に
戸惑ってしまう。」と述べています。理性と教育だけでは決断と実行ができず、
経験によって精神を訓練し、鍛え上げることによって決断と実行が可能になり
ます。今回、皆さんが乗船実習を通して経験し、習得したことは、これからの
人生において価値ある財産、生きていく力となることを期待しています。そし
て、皆さんはこれから、様々な職場でご活躍すると思いますが、船舶職員、海
上技術者として海運界で活躍してください。
修士あるいは博士の学位を取得した皆さん、十分な実験と研究はできました
か?本学はグローバル化推進の一環として、授業の英語化及び海外での発表を
支援しています。そこで、ここでは、英語により皆さんにスピーチします。
Have you ever heard the word “planetary
皆さんは、プラネタリー・バウンダ
boundaries”? Today, it is said that the
global environment is being destroyed by
factors such as depletion of the ozone
layer, climate change, and the
overexploitation of biological resources
that undermines biodiversity. The concept
of “planetary boundaries” was proposed
by a team of scientists led by Dr. Johan
Rockstrom, a Swedish environmental
scientist and the Executive Director of the
リーという言葉を知っていますか?
現在地球はオゾン層の破壊やそれに
伴う気候変動、生物多様性を損なう乱
獲などにより、環境が破壊されつつあ
るといわれています。人類が地球環境
を持続可能にするためには、プラネタ
リー・バウンダリー:人類が共存でき
る範囲の限界、を把握することで、人
類にとって破滅的な変化が起こるこ
とを回避できるのではないか、そのよ
Stockholm Resilience Center. Dr.
Rockstrom et al. wrote a paper arguing
that, by identifying planetary boundaries
within which humanity can continue to
develop and thrive for generations to
come, we can avoid changes that would
prove catastrophic for humanity, and
asserted the importance of understanding
where the tipping points of such changes
lie. Last year, Dr. Rockstrom won the
うな限界(臨界点)がどこにあるのか
を知ることが重要であるという考え
方があります。この考えを論文にした
のは、スウエーデン出身の環境学者で、
ストックホルム・レジリエンス・セン
ターのヨハン・ロックストローム教授
です。彼は昨年、コスモ国際賞を受賞
されました。プラネタリー・バウンダ
リーは 9 つのシステムから構成される
人類が生存できる範囲の限界を定め
International Cosmos Prize in recognition
of his accomplishments. The idea of
planetary
boundaries
defines
the
boundaries for nine planetary systems
which should not be crossed by humanity.
Specific assessment items include climate
ていますが、その中に、気候変動、海
洋酸性化、淡水利用、生物地球科学的
フローとしての窒素とリンの循環、生
物圏の完全性を損なう生物多様性の
損失、新しい物質の導入、例えば化学
物質による汚染、などが評価項目とな
change, ocean acidification, freshwater
use, nitrogen and phosphorus cycles
as biogeochemical flows, biodiversity
lost that could undermine biosphere
integrity, and chemical pollution that may
result from the introduction of novel
entities.
っています。海洋・海事・水産という
実学を学ぶ者にとってこのような実
証科学の基本は忘れずにいてくださ
い。そして、立派な科学者や高度専門
技術者になるように努力してくださ
い。
When studying practical science -
whether it be oceanography, marine
technology, or fisheries science- do
not forget the fundamentals of these
substantiated science. And do your best to
become a respected scientist and highly
skilled specialist.
論文博士を授与された方は、長年の努力が報いられたことと存じます。改めて、
お祝い申し上げます。本学の博士の称号を有効にお使いいただければ幸いです。
最後にみなさんに、お話ししたいことは、大学の理系人材を採用する際の企業
の選考で重視している点として「コミュニケーション能力」が強く言われてい
ることです。社会に出れば大人としての対応が求められます。コミュニケーシ
ョンをいつも心がけてください。そして、相手から“できる”と思われるため
には、迅速かつ正確な仕事をする必要があります。一日一日を精一杯過ごして
ください。明日には明日にやらねばならないことが必ず出てきます。仕事をた
めることは疲労やミスにつながりかねません。ぜひ、一日一日しっかりとした
目標と方向性を定め、人生を切り開いてください。皆さんがグローバルな研究
者、船舶職員あるいは技術者として羽ばたくことを期待しています。
2016 年 9 月 28 日
東京海洋大学長
竹 内 俊 郎