1 小牧市監査公表第18号 地方自治法(昭和 22 年法律第 67 号。以下

小牧市監査公表第18号
地 方 自 治 法 ( 昭 和 22 年 法 律 第 67 号 。 以 下 「 法 」 と い う 。) 第 2 4 2 条
第1項の規定に基づき提出された住民監査請求について監査を実施したの
で、同条第4項の規定によりその結果を次のとおり公表する。
平成28年9月30日
小牧市監査委員
伊
藤
二
三
小牧市監査委員
小
島
倫
明
1
1
監査の請求
(1)
請求人
小牧市
(2)
●●●●
他4名
請求の受付
平成28年7月29日
(3)
補正の実施
平成28年8月5日~平成28年8月12日(8日間)
具体的に証する書面の添付及び請求書の記載内容に不足があったた
め。
2
請求の要旨
(1)
平 成 2 8 年 7 月 7 日( 木 )午 後 7 時 よ り 、参 議 院 議 員 通 常 選 挙 愛 知
県 選 挙 区 に 立 候 補 し て い る 自 由 民 主 党 愛 知 県 選 挙 区 公 認 候 補 者 (以 下
「 A 候 補 者 」 と い う 。 )の 個 人 演 説 会 が J A 尾 張 中 央 本 店 で 開 催 さ れ
た。
小 牧 市 長 (以 下 「 市 長 」 と い う 。 )は 特 段 の 出 席 要 請 を 受 け て い な い
(2)
が 、こ の 個 人 演 説 会 に 出 席 し た 。な お 、A 候 補 者 と は 互 い に 元 愛 知 県
議会議員という繋がりがあった。
(3)
選 挙 活 動 は 正 し く 政 治 活 動 で あ り 、A 候 補 者 の 個 人 演 説 会 に 公 用 車
を 使 用 し て 出 掛 け 、応 援 演 説 を し た 行 為 は 、市 長 の 公 務 と は 解 し 難 く
政治活動である。
(4)
小 牧 市 公 用 車 管 理 規 程 第 9 条 に は 、公 用 車 は 市 の 行 政 上 必 要 な 業 務
以 外 に 使 用 す る こ と は で き な い と 規 定 さ れ て お り 、政 治 活 動 に 漫 然 と
公用車を使用することは、違法な行為である。
(5)
し た が っ て 、違 法 な 公 用 車 の 使 用 に よ り 発 生 し た 委 託 料 は 、違 法 又
は 不 当 な 公 金 の 支 出 に 当 た る こ と か ら 、市 が 違 法 、不 当 に 支 出 し た 金
額 に つ き 、市 長 に 対 し 返 還 請 求 等 必 要 な 措 置 を と る よ う 勧 告 す る こ と
を求める。
(6)
請求書に添付された事実を証する書面
ア
7月7日分運行管理報告書(日報)の写し
イ
特別職車運行管理業務委託契約書の写し
ウ
7月7日分運行管理報告書(日報)をもって返還請求額の支出に
2
関する事実証明書とする旨の申立書
エ
3
小牧市公用車管理規程
請求の受理
本件請求について法第242条の要件を具備しているものと認め、平
成28年8月17日に受理した。
4
監査の実施
(1)
監査対象部署
市長公室秘書政策課
(2)
請求人の陳述及び証拠の提出
法第242条第6項の規定に基づき、平成28年8月31日に監査
会 議 室 に お い て 、請 求 人 に 対 し 、証 拠 の 提 出 及 び 陳 述 の 機 会 を 設 け た 。
請求代表者他2名が出席し、請求書記載事項の補足として以下の内
容の陳述があった。なお、請求人から新たな証拠の提出はなかった。
ア
請求書に記載した時間外運行実施時間3時間30分は、午後5時
15分から午後8時45分である。
イ
市長は自由民主党を除名されている。個人演説会の案内状は自由
民主党小牧支部長名で送付すること及び案内状を市長に送付してい
ないことを同支部長に確認した。
ウ
市長は公務についてどのような判断の幅を持っているのか。本件
については裁量の幅を逸脱している。
エ
市長としての立場ではなく、個人として自らの気持ちを表すため
に出席したと思われる。
オ
参議院議員選挙に当たって、全ての候補者に等しく応援演説を行
えば、当選のあかつきには、小牧市と中央のパイプができると想定
される。しかし、市長は別の日に同じ場所で開催された他の候補者
の個人演説会には出席しておらず、特定の候補者のみ応援演説をし
た 行 為 は 政 治 活 動 で あ る 。政 治 活 動 を 公 務 と 捉 え る こ と は で き な い 。
(3)
監査対象部署の陳述の聴取
平成28年8月31日に監査会議室において市長公室長他1名の職
員より、以下の内容の陳述を聴取した。
3
ア
A候補者の個人演説会についての出席依頼、案内状等は届いてい
ないが、小牧市内で開催されるとの情報を得たので、他の公務と重
な っ て お ら ず 、出 席 可 能 な 日 程 で あ っ た た め 、出 席 す る こ と と し た 。
出席の最終判断は市長である。なお、案内状等が届いていない理由
については確認していない。
イ
市長が行う公務は、市民福祉の増進や行政の円滑な執行のため、
小 牧 市 の 代 表 者 と し て の 立 場 で 行 う 行 為 と 捉 え て い る 。A 候 補 者 は 、
現職の国会議員であり、市長として地元選出の国会議員と友好・信
頼関係の維持増進を図ることを目的に、また市内で開催される個人
演説会への出席は社会通念上儀礼の範囲内であると判断したことか
ら公務として出席した。
ウ
市長の演説は、A候補者がこれまで小牧市の発展について、国と
地方とのパイプ役として尽力されたこと、併せてこれからの小牧市
の発展への尽力もお願いした内容であった。
エ
A候補者の個人演説会は、衆議院議員、県議会議員、市議会議員
な ど 100 人 程 度 の 出 席 者 が あ っ た 。
オ
出席に際して祝儀等の公費の支出はなかった。
カ
平成24年の衆議院議員選挙、平成25年の参議院議員選挙にお
いても、候補者の個人演説会に公務として出席をしている。
キ
特別職車運行管理業務委託に係る基本外委託料については、四半
期ごとの支払いとなっており、7月7日分は7月から9月分として
支出する予定である。
(4)
監査の対象事項
A候補者の個人演説会に出席するために要した公用車の運行に係る
委託料について、違法又は不当な公金の支出にあたる事実があるかど
うかを監査の対象とした。
(5)
ア
認定した事実
7月7日に公用車を使用した市長の行動は以下のとおりであるこ
とが確認された。
(ア) 午 後 6 時 2 0 分 に 市 役 所 を 出 発 し 、 J A 尾 張 中 央 本 店 に お い て
4
個人演説会に出席
(イ) 個 人 演 説 会 終 了 後 、 市 長 宅 に 送 り 、 午 後 8 時 3 5 分 に 市 役 所 到
着
(ウ) 随 行 者 は 、 市 長 公 室 秘 書 政 策 課 秘 書 係 長
表1
平 成 28 年 7 月 7 日 の 公 用 車 運 行 管 理 状 況
使用時間
経
路
走行距離
午前 8 時
~ 8 時 15 分
(始業点検)
午 前 8 時 25 分
~ 10 時 15 分
市役所~市長宅~名古屋市内~市役所
71km
午 後 2 時 35 分
~ 4 時 10 分
午 後 6 時 20 分
~ 8 時 35 分
( 終 業 : 8 時 45 分 )
イ
市役所~市内~市役所
市役所~JA尾張中央本店(市内)
~市長宅~市役所
特別職車運行管理業務について
市は、市長車及び他の特別職車の車両運行管理を委託しており、
委託車両の運行は、午前8時15分から午後5時15分までを基本
とした契約としている。
時間外、土・日曜日、国民の祝日に関する法律に定める休日及び
12月29日から翌年1月3日までの間の運行については、基本外
とし内容は以下のとおりであることが確認された。
なお、委託料の支払いは四半期ごととなっている。
表2
基本外の委託料の取り扱い
項
目
単
価
備
考
午 後 10 時 か ら 午 前 5 時 ま で は
休日業務委託料
2,300 円 /時 間
2,600 円 /時 間
午 後 10 時 か ら 午 前 5 時 ま で は
時間外委託料
2,100 円 /時 間
2,600 円 /時 間
800 円 /回 又 は
業 務 が 午 後 5 時 15 分 以 前 か ら
現物支給
始まり、午後 8 時を超えた場合
時間外(食事)加算料
5
ウ
特別職車運行管理業務基本外委託料の本件に係る支出
平成28年7月から9月分の委託料の支出に係る行為は契約上、
10月以降に行われる予定であり、現時点では本件に係る支出行為
は行われていないが、運行管理報告書(日報)及び陳述より、本件
に係る支出行為が行われることが相当の確実さで予測されることが
確認された。
5
監査委員の判断
請求人の陳述、監査対象部署の陳述の聴取、認定した事実並びに関係
書類に基づき、本件請求について次のように判断する。
(1)
普通地方公共団体における首長の公務の範囲について判例では、
「普通地方公共団体が住民の福祉の増進を図ることを基本として地
域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を広く担うもの
と さ れ て い る こ と( 法 第 1 条 の 2 第 1 項 )な ど を 考 慮 す る と 、そ の 交
際が特定の事務を遂行し対外的折衝等を行う過程において具体的な
目 的 を も っ て さ れ る も の で は な く 、一 般 的 な 友 好 、信 頼 関 係 の 維 持 増
進 自 体 を 目 的 と し て さ れ る も の で あ っ た か ら と い っ て 、直 ち に 許 さ れ
な い こ と と な る も の で は な く 、そ れ が 、普 通 地 方 公 共 団 体 の 上 記 の 役
割 を 果 た す た め 相 手 方 と の 友 好 、信 頼 関 係 の 維 持 増 進 を 図 る こ と を 目
的 と す る と 客 観 的 に み る こ と が で き 、か つ 、社 会 通 念 上 儀 礼 の 範 囲 に
と ど ま る 限 り 、当 該 普 通 地 方 公 共 団 体 の 事 務 に 含 ま れ る も の と し て 許
容 さ れ る と 解 す る の が 相 当 で あ る 。し か し な が ら 、長 又 は そ の 他 の 執
行 機 関 の す る 交 際 は 、そ れ が 公 的 存 在 で あ る 普 通 地 方 公 共 団 体 に よ り
行 わ れ る も の で あ る こ と に か ん が み る と 、そ れ が 、上 記 の こ と を 目 的
と す る と 客 観 的 に み る こ と が で き ず 、又 は 社 会 通 念 上 儀 礼 の 範 囲 を 逸
脱 し た も の で あ る 場 合 に は 、当 該 普 通 地 方 公 共 団 体 の 事 務 に 含 ま れ る
と は い え ず 、そ の 費 用 を 支 出 す る こ と は 許 さ れ な い も の と い う べ き で
ある。
( 最 高 裁 平 成 1 8 年 1 2 月 1 日 第 二 小 法 廷 判 決 )」と し て い る 。
(2)
ま た 、国 は 、地 方 公 共 団 体 が 上 記 役 割 を 十 分 に 果 た す こ と が で き る
よ う に す る た め 、全 国 的 に 統 一 し て 定 め る こ と が 望 ま し い 国 民 の 諸 活
動 又 は 地 方 自 治 に 関 す る 基 本 的 な 準 則 に 関 す る 事 務 、全 国 的 な 規 模 で
又は全国的な視点に立って行わなければならない施策及び事業の実
6
施 等 を 行 う も の と さ れ て お り ( 法 第 1 条 の 2 第 2 項 )、 国 の 行 う 上 記
の よ う な 事 務 、施 策 及 び 事 業 が 、地 方 公 共 団 体 の 行 い 得 る 施 策 の 内 容
や社会的及び経済的な環境の整備拡充に多大な影響を及ぼし得るも
の で あ る こ と を 考 慮 す れ ば 、地 方 公 共 団 体 の 首 長 が 当 該 地 方 公 共 団 体
を 選 挙 区 と す る 国 会 議 員 候 補 者 の 個 人 演 説 会 へ 出 席 し 、応 援 演 説 を 行
う こ と は 、地 元 選 出 の 国 会 議 員 と の 間 に 良 好 な 関 係 を 築 き 、市 政 の 円
滑 な 運 営 や 維 持 発 展 を 期 す る も の で あ る と い う こ と が で き る 。( 平 成
22年5月7日東京地裁判決同旨)
(3)
し た が っ て 、市 長 に よ る A 候 補 者 の 個 人 演 説 会 へ の 出 席 等 は 、地 方
公 共 団 体 の 上 記 役 割 を 果 た す た め 相 手 方 と の 友 好 、信 頼 関 係 の 維 持 増
進を図ることを目的とすると客観的にみることができるものである。
ま た 、A 候 補 者 が 現 職 の 国 会 議 員 で あ る こ と 、今 回 の 個 人 演 説 会 が 市
内 で 開 催 さ れ た も の で あ る こ と を 考 慮 す れ ば 、出 席 要 請 が な か っ た と
は い え 、個 人 演 説 会 へ の 出 席 等 は 社 会 通 念 上 儀 礼 の 範 囲 を 逸 脱 し た も
のということはできないというべきである。
さ ら に 、請 求 人 は 、市 長 が A 候 補 者 に つ い て の み 個 人 演 説 会 へ 出 席
し、応援演説を行ったことを問題とするようであるが、地方公共団
体の長は、自らの政策を掲げて立候補し選挙によって選出された者
であるから、自らの政策実現への協力を期待し得る国会議員候補者
のみについてその支持を表明する等の行為を行うことは許容されて
いるというべきであって、どの候補者について支持表明等を行うか
については長の裁量にゆだねられているというべきである。そうす
ると、仮に、請求人の主張するとおり、市長がA候補者についての
み個人演説会への出席等を行ったものであったとしても、そのこと
のみでは、市長による前記の個人演説会への出席等が地方公共団体
の上記役割を果たすため相手方との友好、信頼関係の維持増進を図
ることを目的とすると客観的にみることができるとの前記判断を左
右 す る も の で あ る と い う こ と は で き な い 。( 平 成 2 2 年 5 月 7 日 東 京
地裁判決同旨)
(4)
以 上 の こ と か ら す れ ば 、市 長 に よ る A 候 補 者 の 個 人 演 説 会 へ の 出 席
等 は 、小 牧 市 の 事 務 で あ る と い う べ き で あ り 、そ の た め 、本 件 公 用 車
の使用も違法であるということはできない。
7
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監査の結果
以上の判断により、本件請求に係る違法な公用車の使用により発生し
た委託料が違法、不当な支出であるとの請求人の主張には理由がないの
で、請求人の請求を棄却する。
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