Sep 26, 2016 伊藤忠経済研究所 日本経済情報 2016 年 9 月号 Summary 【内 容】 1. 日本経済の現状 4~6 月期 GDP2 次 速報は上方修正 設備投資の持ち直し 期待高まる 賃金は増加基調を 維持するも個人消費 は停滞 企業収益の悪化が 今後の景気下押し 要因 輸出も足踏み状態に ありデフレ・リスクを 払拭できず 2. 日本経済の見通し 経済対策は成長率 を 0.2~0.3%Pt 押し 上げ 日銀は「長短金利操 作付き量的・質的金 融緩和」を導入 金融政策の枠組み は概ね予想通りなが ら円高進行が懸念 材料 量的金融緩和は 2018 年度中も続く 伊藤忠経済研究所 主席研究員 武田淳 (03-3497-3676) takeda-ats @itochu.co.jp 日本経済の改定見通し~政策効果により底割れは回避 ここ 1 ヵ月間の日本経済を振り返ると、景気の改善を期待させる指標が 幾つか見られた。まず、2016 年 4~6 月期 GDP の 2 次速報値は、0.3% と試算される潜在成長率を上回る成長に上方修正された。ただ、政策頼 みという状況は何ら変わっていない。 また、設備投資の先行指標である機械受注は 7 月に非製造業を中心に内 閣府予想を上回る勢いを見せた。しかしながら、製造業を取り巻く環境 は厳しく、現時点で設備投資が持ち直すと見込むのは早計であろう。 賃金についても、夏のボーナスが予想外の増加を見せ、基本給も増加基 調を維持するなど 7 月は良好であったが、主要小売業の売上が総じて低 迷しており、個人消費の動きは冴えない。 さらに、年初来の円高進行により企業業績が一段と悪化、個人消費や設 備投資の先行きが懸念されるほか、輸出も停滞している。日本経済は、 成長と分配の好循環が逆回転しデフレへ後戻りするリスクが依然とし て残っている。 こうした現状に対し、政府は既に 28 兆円規模の景気対策を打ち出し、 その一部を具体化した補正予算案が臨時国会において速やかに成立、実 行に移される見込みである。その効果により、2016 年度の成長率は 0.2% Pt 程度、2017 年度は 0.3%Pt 程度押し上げられると推計される。 注目された日銀の金融政策は、その操作目標をこれまでのマネタリーベ ースの増加ペースから長期金利(国債 10 年物利回り)に変更した「長 短期金利操作付き量的・質的金融緩和」へ移行したが、追加緩和を見込 む向きが多かった市場の期待に反して事実上の「現状維持」となり、円 高圧力が強まった。ただ、今回の枠組み変更により短期の政策金利につ いてはマイナス幅を拡大させ易くなったとみられ、1 ドル=100 円を大 幅に割り込む円高進行のリスクは低下したと考えられる。 当研究所では、今後の日本経済について、当面は円高の影響もあって停 滞が続くものの、年末頃からは景気対策の執行が本格化すること、米国 の利上げにより円安傾向に転じることなどから、景気は底割れを回避 し、徐々に持ち直すと予想する。ただ、需給ギャップの解消は 2017 年 度終盤となり、量的金融緩和は 2018 年度中も継続を余儀なくされよう。 日本経済情報 伊藤忠経済研究所 1. 日本経済の現状 4~6 月期 GDP2 次速報は上方修正 ここ 1 ヵ月間の日本経済を振り返ると、景気の改善を期待させる指標が幾つか見られた。まず、9 月 8 日に発表された 2016 年 4~6 月期 GDP の 2 次速報値(QE)は、1 次速報値の前期比+0.0%(年 率+0.2%)から前期比+0.2%(年率+0.7%)へ上方修正された。内閣府の試算する潜在成長率は前 年比+0.3%であり、これに基づくと、日本経済の成長ペースは 1~3 月期の前期比年率+2.1%に続い て 4~6 月期も潜在成長率を上回ったことになる。これは、需給ギャップが着実に縮小し、日本経済 がデフレ脱却に向けた動きを維持しているという意味で、明るい材料と言える。 しかしながら、個人消費は前期比+0.2%の低い伸びにとどまっており(1 次速報から不変)、民間企 業設備投資は前期比マイナスから脱せず、輸出の前期比マイナス(▲1.5%)も変わらずと、民間需要 の 3 本柱はいずれも低迷している。そうした中で潜在成長率を上回ったのは、昨年度補正予算の本格 執行による公共投資の拡大と、低金利政策を背景とする住宅投資の大幅増によるものであり、2 次速 報においても政策頼みの成長という状況は何ら変わっていない。 実質GDPの推移(季節調整値、前期比年率、%) 機械受注と設備投資の推移(季節調整値、年率、兆円) 15 6.5 6.0 10 実質GDP 公共投資 5.5 その他 5.0 個人消費 4.5 純輸出 4.0 5 0 ▲5 設備投資 ▲ 10 3.5 製造業 3.0 非製造業 ※最新期は7月単月 2.5 ▲ 15 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2016 ( 出所) 内閣府 ( 出所) 内閣府 設備投資の持ち直し期待高まる 設備投資の先行指標である機械受注(船舶・電力を除く民需)が、6 月の前月比+8.3%に続き 7 月も +4.9%と増勢を維持したことも明るい材料ではある。その結果、機械受注の 7 月の水準は 4~6 月期 を 10.1%も上回り、内閣府が予想する 7~9 月期の前期比+5.2%という拡大ペースを超える出足とな った。 業種別に見ると、製造業からの受注は円高による企業業績の悪化や輸出の伸び悩み(詳細後述)を受 けて頭打ち気味であるが、非製造業からの受注は 4~6 月期の落ち込みを埋めて拡大基調を維持して いる。つまり、好調な非製造業が製造業の不調を補い、直近 2 四半期連続で前期比マイナスと軟調に 推移している設備投資が持ち直すのではないかという期待を高めているわけである。 しかしながら、円高地合いが続く中で製造業からの受注が回復に向かうとは見込み難く、非製造業に ついても単月のブレが大きい機械受注の特性を踏まえると 8 月以降の動向を見極める必要がある。現 時点で設備投資の基調が持ち直し傾向だと判断するのは早計であろう。 2 日本経済情報 伊藤忠経済研究所 賃金は増加基調を維持するも個人消費は停滞 平均賃金が予想外の高い伸びとなったことも、好材料と言える。7 月の平均賃金(現金給与総額)は 6 月と同じ前年同月比+1.4%と比較的高い伸びを記録した。内訳を見ると、特別給与(ボーナス)が 6 月の前年同月比+3.7%から+4.1%へさらに伸びを高めたほか、所定内給与(基本給)が+0.4%と 明確なプラスとなった(6 月は 0.0%) 。夏のボーナスが予想以上の伸び 1となったことに加え、賃金 のベースとなる基本給の増加基調が維持されたことは、デフレ脱却に向けて好材料である。 1人当たり平均賃金の推移(前年同月比、%) 小売販売額の推移(前年同期比、%) 1.5 15 ※最新期は7月単月 1.0 10 小売業計 コンビニ スーパー 百貨店 0.5 5 0.0 ▲ 0.5 0 ▲ 1.0 ▲ 1.5 特別給与 所定外給与 所定内給与 総額 ▲5 ※直近期は7月単月。 百貨店、スーパーは店舗調整済、コンビニは既存店。 小売計のみ消費税含む。 ▲ 10 2010 ▲ 2.0 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2011 2012 2013 2014 2016 2015 ( 出所) 経済産業省、 各業界団体 ( 出所) 厚生労働省 しかしながら、個人消費の動きは冴えない。8 月の百貨店売上(既存店ベース)は前年同月比▲6.0% となり、7 月の▲0.1%からマイナス幅が大きく拡大した。また、スーパー売上高(既存店ベース)は 7 月の前年同月比+0.2%から 8 月は▲2.9%とマイナスに転じている。天候不順の影響などによって 衣料品が不振だったほか、百貨店はインバウンド、スーパーは食料品の落ち込みが目立った。ただ、 週末が 1 回少なかった影響も多分にあり、逆に週末が多かった前月 7 月と均して見ると、百貨店売上 の 7~8 月平均は前年同期比▲2.7%となり 4~6 月期の▲4.1%に対してマイナス幅が縮小、スーパー は 4~6 月期の▲0.8%から 7~8 月平均▲1.4%と小幅な悪化にとどまっている。一方で、週末の影響 を受け難いコンビニ売上高(既存店ベース)が 7 月の前年同月比+0.3%から 8 月は+0.6%と若干伸 びを高め、7~8 月平均で見ても前年同期比+0.4%と 4~6 月期の+0.5%から若干伸びが鈍化した程 度であったことも踏まえると、小売販売は 8 月に大きく落ち込んだというよりも、4~6 月期に続いて 7~8 月も同様に低迷していたと評価するのが妥当であろう。 なお、新車販売台数(乗用車)は 8 月に前年同月 比+2.9%(年率 419 万台)と 4 ヶ月ぶりのプラス 乗用車販売台数の推移(季節調整値、万台) 20 に転じ、下げ止まりつつある。当研究所試算の季節 18 調整値でも、7~8 月平均の水準は 4~6 月期を 16 0.4%上回っており、底固めの動きと言える。小型 車は増勢に一服感があるものの、普通車が堅調に推 普通車 小型車 軽自動車 14 12 10 8 移、軽自動車がようやく持ち直しつつある。 6 また、消費者マインドは緩やかな改善傾向にある。 ※当研究所試算の季節調整値 4 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 ( 出所) 自動車工業会 主に上場企業を対象とした日経新聞の調査(7 月 13 日集計)では、今年の夏のボーナスは前年同期比+1.03%にとどまっ ていた。一般的にボーナスの伸びは大企業が中小企業を上回ることが多いため、全企業合計で 1%を超える伸びは期待でき ない状況であった。 1 3 日本経済情報 伊藤忠経済研究所 消費者マインドの代表的な指標である消費者態度指数は、4 月の 40.8 を底として 6 月には 41.8 へ、7 月は若干低下したものの 8 月には 42.0 へ上昇した。内訳を見ると、「暮らし向き」は上昇が続き(4 月 39.8→8 月 40.9) 、 「収入の増え方」 (4 月 40.8→8 月 40.9)や「雇用環境」 (42.8→44.5)も 7 月に 一旦悪化したものの、8 月は改善している。 以上を総括すれば、個人消費は、賃金や消費者マインドは改善しており、乗用車販売など一部に底入 れの動きが出ているものの、全体として見れば依然として停滞気味に推移しているということになる。 企業収益の悪化が今後の景気下押し要因 さらに、年初来の円高進行を受けた企業業績の悪化が個人消費や設備投資の先行きを懸念させる。法 人企業統計によると、製造業の経常利益は 1~3 月期の前年同期比▲20.4%から 4~6 月期には▲ 22.4%へ減益幅が拡大、非製造業(1~3 月期▲4.5%→4~6 月期▲3.1%)はやや改善するも引き続き 前年同期比マイナスである。企業業績の悪化は、明るさを見せた設備投資や賃金を抑制し、さらには 個人消費の回復を遅らせる要因となる。 経常利益の推移(前年同期比、%) 輸出数量指数の推移(季節調整値、2010年=100) 150 60 製造業 50 130 30 120 20 110 10 100 0 90 ▲ 10 80 ▲ 20 70 ▲ 30 2011 2012 2013 2014 2015 米国 合計 140 非製造業 40 60 2008 2016 ( 出所) 財務省 EU アジア ※当研究所試算の季節調整値で最新期は7~8月平均 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 ( 出所) 財務省 輸出も足踏み状態にありデフレ・リスクを払拭できず そのうえ、輸出が停滞しており、それ自体が景気を冷やすだけでなく、製造業の設備投資に対しても 下押し圧力となる。8 月の通関輸出数量指数は、当研究所試算の季節調整値で前月比▲1.1%となり、 7 月の▲2.2%に続いて減少した。6 月に前月比+5.7%と比較的大きく増加した反動という部分はある にせよ、それでも 7~8 月平均の水準は 4~6 月期から横ばいであり、均してみると輸出は数量ベース で足踏み状態にある。 主な仕向地別に 7~8 月平均の水準を見ると、 4~6 月期に比べ EU 向けが 0.7%、アジア向けが 0.8%、 それぞれ上回っており、4~6 月期の落ち込みから若干戻している。その一方で、米国向けが 4~6 月 期を 0.8%下回っており 2、他の地域に比べて弱含んでいる。 以上の通り、現在の日本経済は、一部に明るい動きが見られるとはいえ、基本的に財政・金融政策に よってかろうじて潜在成長率を上回る成長を維持している状況であり、さらには円高の進行が企業業 績を悪化させ、アベノミクスが目指した成長と分配の好循環が逆回転しデフレへ後戻りするリスクが 依然として残っていると言える。 2 財別の輸出数量の動向から判断すると、自動車は下げ止まり、鉄鋼は持ち直しているが、半導体や映像機器が落ち込んだ 模様。 4 日本経済情報 伊藤忠経済研究所 2. 日本経済の見通し 経済対策は成長率を 0.2~0.3%Pt 押し上げ 前号 3で詳説した通り、底割れリスクを抱える日本経済の現状に対し、政府は事業規模 28 兆円の景気 対策(未来への投資を実現する経済対策)を打ち出した。対策の一部は本日(9 月 26 日)召集される 臨時国会において補正予算に盛り込まれ、10 月中旬にも成立、速やかに実行に移され、景気を下支え する見込みである。 補正予算の歳出規 模は、各種報道によると GDP の約 2016年度一般会計2次補正予算のイメージ 0.9%に相当する 4.5 兆円程度(左図) 1億総活躍社会の実現加速 とみられるが、今年度から来年度にか 21世紀型インフラ整備 けて実施されることや、 需要拡大に直 英国の欧州連合離脱に伴うリスク対応等 結しないものが含まれていることを 踏まえ、今回の補正予算による実質 GDP 成長率の押し上げ効果を 2016 年度 0.2%Pt 程度、2017 年度 0.3% 震災からの復興、防災 (億円) 7,119 建設国債 2,544 4,307 その他 2,825 19,688 熊本地震復旧等予備費の削減 ▲ 7,000 既定経費の減額(国債費など) ▲ 5,301 歳出計 2 7 ,5 0 0 14,056 前年度剰余金 3 2 ,8 6 9 歳入計 3 2 ,8 6 9 (注)各種報道により当研究所にて作成 Pt 程度と当研究所では見込んでいる。 日銀は「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を導入 注目は、日銀の「総括的な検証」を踏まえた金融政策の枠組み変更による影響であるが、結論から言 えば、米国 FOMC で 9 月の利上げが見送られたことと併せて、ドル円相場において円高圧力を高め る要因になったと考えられる。 9 月 20~21 日に行われた金融政策決定会合の結果を整理すると、日銀は金融緩和の「総括的な検証」 を公表、その中で、これまでの「マイナス金利」と「国債買い入れ」を軸とした「量的・質的緩和」 はデフレ回避に一定の効果があったと評価した。また、マイナス金利については、市場金利を十分に 引き下げたとした一方で、期間の長い金利ほど大きく下がったことや、預金金利は貸出金利ほど下が らなかったことが、年金・保険の運用や金融機関の収益に悪影響を及ぼした可能性を指摘した。その ほか、①2%の物価目標を 2 年以内に達成できなかった主な理由は、原油価格の下落や消費増税の影 響、新興国経済の低迷、金融市場の混乱といった外部要因の影響であること、②日本の場合、将来の 物価上昇期待(インフレ予想)が強まるのは、実際の物価が上昇してからとなる傾向が強いため、金 融緩和によりインフレ期待が高まり経済活動が活発化する効果が弱いこと、③10 年超の金利を引き下 げてもデフレ脱却への効果は相対的に低いこと、が指摘されている。 こうした分析結果を踏まえて、日銀は今回、①量的金融緩和をインフレ期待が十分高まるまで、具体 的には物価上昇率が実際に 2%を超えるまで継続することとした。つまり、これまで「2%の物価上昇 が見通せるまで」としていたことと比べ、金融緩和の期間をより長期化することになる。そして、② 金融緩和を行う際の具体的な目標として、これまでのマネタリーベースの増加ペース(年間 80 兆円 程度)ではなく、長期金利(10 年物国債利回り)の水準とし、より直接的に金利の低下を通じて金融 緩和の効果を追及することとした。こうした手法を日銀は「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」 と称し、今後は主に「イールドカーブ・コントロール」によって金融面から景気刺激を試みることと 3 2016 年 8 月 26 日付け「日本経済情報 2016 年 8 月号」 。 5 日本経済情報 伊藤忠経済研究所 なる。そのほか、③これまで「2 年以内」としていた物価目標の達成時期については、外部要因に左 右され易いことを踏まえて目標から外している(物価目標の弾力化)。 金融政策の枠組みは概ね予想通りながら円高進行が懸念材料 上記のような金融政策の枠組みは、長期金利の目標水準を導入するとした当研究所の予想(前号参照) と概ね一致しており、特段のサプライズはない。むしろ気懸かりなのは、今回、金融政策の枠組み変 更と同時に追加の金融緩和を見込んでいた向きが多かったため、こうした市場の期待を裏切る結果と なったことの影響である。新たに設定された長期金利(10 年物国債利回り)の目標水準は「現状程度 (ゼロ程度)」であるが、発表時点で利回りは▲ 0.06%程度であったため、ゼロまで引き上げる ドル円相場の推移(円/ドル) 130 のであれば「利上げ(引き締め)」となる。「現 状程度」という表現を優先したとしても「現状 120 維持」であり、少なくとも追加緩和ではない。 115 そのため、決定会合当日(9 月 21 日)は東京市 110 量的質的緩和拡大 ( 2014.10.31) 105 場でこそ日銀ドル円相場が 1 ドル=102 円台ま 100 で円安方向に振れたものの、海外市場では 100 95 90 円台まで円高が進行、祝日明けの 23 日の東京市 場でも一時 100 円台を付ける場面があった。 マイナス金利導入(2016.1.29) 125 量的質的緩和導入(2013.4.4) 85 2013 2014 2015 2016 ( 出所) C EIC DAT A 今後もドル円相場は、12 月に予想される米国利上げを市場が織り込むまでの間、円高地合いでの推移 が見込まれる。ただ、今回の枠組み変更により 10 年超の期間の金利低下をある程度コントロール(抑 制)することができるため、日銀が追加緩和、より具体的には短期の政策金利についてマイナス幅を 拡大させ易くなったことは間違いない。そのため、今後、一段と円高が進むようであれば、日銀は次 回決定会合(10 月 31 日~11 月 1 日)で追加 日本経済の推移と予測(年度) 緩和を実施する可能性が高くなったと考え られ、そのこと自体が円高急進リスクを後退 させる要因となろう。すなわち、今回の金融 前年比,%,%Pt 景気持ち直しシナリオの実現可能性を高め 1.0 2.4 ▲1.5 0.7 0.9 0.9 民間需要 2.2 ▲1.9 0.8 0.5 0.7 2.3 ▲2.9 ▲0.2 0.7 0.8 8.8 ▲11.7 2.4 4.6 ▲8.6 2.1 0.0 1.5 (0.3) (▲0.1) (0.1) 所が想定していたドル円相場の円安基調へ 政府消費 公共投資 純輸出(寄与度) 輸 出 が日本経済にとって最大の下振れリスクで あることに変わりはない。 3.0 0.1 (▲0.3) (0.5) 1.6 0.1 1.6 1.4 0.9 10.3 ▲2.6 ▲2.7 4.4 3.7 (▲0.3) (0.8) (0.1) (▲0.1) (0.1) 4.4 7.9 0.4 ▲1.0 2.5 6.8 3.4 ▲0.0 ▲0.4 2.1 名目GDP 1.7 1.5 2.2 0.8 0.6 実質GDP(暦年ベース) 1.4 ▲0.0 0.5 0.5 0.9 鉱工業生産 3.3 ▲0.5 ▲1.0 ▲0.1 3.0 失業率(%、平均) 5.0 4.5 4.3 3.9 3.5 消費者物価(除く生鮮) 0.8 2.8 ▲0.0 ▲0.1 1.0 の業績悪化や設備投資抑制につながり、また、 することには留意が必要である。今後も円高 予想 国内需要 在庫投資(寄与度) 輸入物価の下落を通じて国内物価を下押し 2017 予想 0.7 設備投資 輸出の回復を後ずれさせるとともに、製造業 2016 実績 0.8 ただ、今回の日米の金融政策により、当研究 の反転を遅らせたことは事実であり、それが 2015 実績 ▲0.9 個人消費 住宅投資 たと評価できる。 2014 実績 2.0 実質GDP 政策の枠組み変更は、円高リスクを低下させ、 2013 輸 入 (出所)内閣府ほか、予想部分は当研究所による。 6 日本経済情報 伊藤忠経済研究所 量的金融緩和は 2018 年度中も続く 当研究所では、今後の日本経済について、当面は円高による下押しを受けて停滞状態が続くものの、 仮に円高が急速に進んだ場合は日銀の追加緩和によりその影響が緩和され、年末頃には政府の経済政 策が徐々に具体化し、景気の腰折れは回避されるという姿をメイン・シナリオとしている。 その場合、年内は円高や景気停滞を受けた企業業績の悪化が続き、設備投資は低迷、賃金も冬のボー ナスが抑制されるなど伸び悩み、個人消費の回復も遅れることとなろう。ただ、年末から年明けにか けては経済対策の執行が本格化することによって景気は底入れから持ち直しに向かうとみられる。そ の場合、2016 年度の実質 GDP 成長率は前年比+0.7%にとどまり、2015 年度の+0.8%から小幅なが ら減速すると予想する。 2017 年度に入ると、米国金利の上昇傾向と日本の超金融緩和状態の維持を背景にドル円相場は緩やか な円安基調が定着、米国を中心とする海外景気の好転も相まって輸出は緩やかに回復、景気対策によ る景気底上げが続く中で企業業績も持ち直し、日本経済はようやく成長と分配の好循環を再開しよう。 実質 GDP 成長率は前年比+1.0%へ高まると予想する。 この場合、仮に潜在成長率を内閣府が試算する 需給ギャップと消費者物価上昇率(前年同期比、GDP比、%) 年 0.3%としても、 2016 年 4~6 月期時点で GDP 2 比▲1.0%程度とみられる需給ギャップ(内閣府 1 推計)が解消する時期は 2017 年度終盤とみられ、 0 消費者物価上昇率の 2%達成が視野に入るのは 2018 年度以降となる。すなわち、日銀の量的金 融緩和は少なくとも 2018 年度中は続けられる ことになろう。 除く消費税・食料・エネルギー 予想 需給ギャップ(GDP比) ▲1 ▲2 ▲3 ▲4 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 ( 出所) 内閣府、 総務省 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、伊 藤忠経済研究所が信頼できると判断した情報に基づき作成しておりますが、その正確性、完全性に対する責任は負い ません。見通しは予告なく変更されることがあります。記載内容は、伊藤忠商事ないしはその関連会社の投資方針と 整合的であるとは限りません。 7 2018
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