みんなで目指そう 自立と循環の宝の島 対馬

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みんなで目指そう 自立と循環の宝の島 対馬
寄 稿
みんなで目指そう 自立と循環の宝の島 対馬
∼ 国境離島:対馬市の挑戦 ∼
対馬市長 比田勝 尚 喜
昭和52年 4月 上対馬町役場奉職
平成13年10月 上対馬町水産振興課長
平成16年 1月 上対馬町水産観光課長
平成16年 3月 対馬市上対馬支所産業振興課長
平成17年 4月 対馬市政策部情報政策課長
平成22年 1月 対馬市農林水産部長
平成25年 7月 対馬市役所退職
平成25年 8月 対馬市副市長就任
平成27年10月 対馬市副市長退任
平成28年 3月 対馬市長就任
はじめに
内の多くの地方自治体と同様、過疎化が進み、
産業も停滞し、今ひとつ閉塞感から抜け出せ
対馬市は平成16年3月の誕生以来、第1次
ないのが現状です。
対馬市総合計画において「アジアに発信する
平成25年に公表された国立社会保障・人口
歴史海道都市 対馬」を将来像として掲げ、
問題研究所による対馬市の将来人口推計では、
国境という特異性と各地域の個性を活かした
20年後の平成47年には約2万人にまで減少す
まちづくりを進め、市の発展を目指してまい
ると予測されております。また、高齢化もさ
りました。しかし、人口減少の波により、国
らに進み、確実に限界集落も増加する見込み
図表 人口統計データ:総人口と世帯数の推移
ながさき経済 2016.10
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です。このまま手をこまねいていれば、人材
不足が及ぼす産業の低迷などにより雇用の場
と所得の減少、さらに子育て環境や教育環境
の悪化等という負の連鎖により、さらなる人
口減少・過疎化に拍車がかかることが懸念さ
れます。
その一方、
「市民協働のまちづくり」の取
り組みは市民に徐々に浸透しつつあり、対馬
(しま)を元気づけるため一念発起した若者
たちが、地域の祭りの復活や対馬のアピール
活動等を展開し、「地域」のみならず「全国」
のステージにおいて、その心意気を見せつけ
ています。対馬の豊かな未来を築くための若
総合計画表紙イラスト
い力が育ち、結集しつつあることは心強い限
りです。
を担います。
「ひとづくり」
、「なりわいづく
り」、「つながりづくり」、「ふるさとづくり」
対馬市の挑戦①
市民とともに作り上げた総合計画
の4つの挑戦により、①「若者でにぎわう希
望の島」、②「地域経済が潤い続ける島」、③
「支え合いで自立した島」、④「自然とくらし
このような中、平成26年度から2カ年間を
が共存した島」を目指すべき将来像とし、
かけて、市民の思いや地域の課題を共有し、
『みんなで目指そう
その解決に向けた施策をオール対馬で協働し、
自立と循環の宝の島 対馬』
創造していくための第2次対馬市総合計画を
を合言葉に、対馬らしい施策を進めてまいり
策定しました。この計画は、これまでの10年
ます。
間の成果や新たな課題を踏まえたうえで、行
政区ごとに市民と地域マネージャー(※)が
作り上げた「地域づくり計画」「地域づくり
※地域マネージャー:各行政区において、地域を担当
する市職員が、地域と一緒に汗を流し、生活に身近
な課題の解決や地域の将来について話し合い行動す
る、対馬市独自の制度
宣言」
「地区単位のアンケート調査結果」な
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ど市民の想いや誇りをしっかり反映させると
1)ひとづくり
ともに、市民と行政が対馬のあるべき姿を共
⇒「若者でにぎわう希望の島」へ
有し、それに向かって協力しあって取り組ん
現状のまま進めば、対馬市では2025年まで
でいくための「道しるべ(手引書)
」の役割
に若い世代の人数が極端に減少し、高齢者が
ながさき経済 2016.10
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増加するため、人口構成のバランスが悪く、
3)つながりづくり
生産性の低い不健全な社会になるおそれがあ
⇒「ささえあいで自立した島」へ
ります。対馬に暮らす若者の育成と定住、島
対馬市の自主財源は行財政運営に必要な経
外で暮らす若者のUIターンの推進に対して、
費全体の16.4%であり、地方交付税や国県支
行政と市民がいかに力をいれていけるかが、
出金や市債等の財源に依存しています。今後
対馬の“ひと”に関する最大の課題です。
は地方交付税の減額等により、ますます財政
若者でにぎわう希望の島を目指して、若者
状況が厳しくなることから、自助・互助・共
が対馬に留まるように、あるいは、島外で成
助・公助をそれぞれ推進し、地域主導の取組
長し戻ってくるように教育・仕事環境を整え
を進めていくことが求められます。
るとともに、対馬3高校への支援、島外から
支え合いで自立する島を目指し、救急医療
の移住・定住支援、大学と地域との連携推進
体制の充実、対馬版地域包括ケアシステムの
などの施策を展開していきます。
構築、高齢者や障がい者の生きがいづくり、
地域単位での活動や人とモノを効果的につな
2)なりわいづくり
ぐための島内道路網の整備や島外への交通ア
⇒「地域経済が潤い続ける島」へ
クセスの利便性向上とともに、まちづくりの
このまま人口減少が進めば、各分野で担い
基盤となる「人と人とのつながりを守る」た
手が確保できず、一次産業の衰退に歯止めが
めの施策を展開してまいります。
かかりません。しかし、自然資源は適切に管
理すれば回復するため、持続可能な形で利用
4)ふるさとづくり
し、儲かる仕組みを作ることができれば、担
⇒「自然と暮らしが共存した島」へ
い手も確保でき、一次産業の復活は十分に可
対馬市は豊かな自然に恵まれている一方で、
能です。未開拓の資源利用や新しい産業の創
それらを保全するために市民の日常生活にお
出への期待も高まっています。
ける自然や生態系への悪影響をいかに少なく
地域経済が潤い続ける島を目指して、資源
していくかが課題です。
の持続可能性を追求しながら良質な対馬産品
市民一人ひとりの自然や生態系、ふるさと
の高付加価値化を目指すことはもとより、効
に対する意識の改善も必要です。現状では、
率的な流通システムの構築、一次産業の担い
豊かな自然や素晴らしい文化、建物等を大切
手確保・育成に加え、国内外への対馬の魅力
に思い、次世代に残そうと行動する市民が少
発信・認知度向上、対馬を訪れていただく方
ないと市民自身が認識しています。市民一人
の満足度向上を推進する施策などを展開して
ひとりが対馬の自然や文化・歴史に誇りをも
まいります。
ち、それらの保全に取組んでいくことが大切
です。
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持続可能な自然共生型の社会を目指して、
ツシマヤマネコに代表される生物多様性の保
全、シカ・イノシシ対策の推進、海洋保護区
の設定の推進に加え、現在の素晴らしい自然
対馬市の挑戦②
ふるさと納税を活用した
産業・所得・交流拡大
産業・所得・交流拡大
環境が大切に守られながら暮らしつづけるた
対馬市にとって、最優先課題は農林水産業
めの施策に取り組みます。
の活性化であります。対馬の豊かな水産資源
や林産資源を活用した「対馬ならではの特産
市民の声をもとに策定した本計画における
品」は数多く、知名度も徐々に向上しつつあ
今後10年間で取り組むべき主要施策を、市民
りますが、今後は「ふるさと納税制度」の運
の皆様と協働・市議会および各関係機関との
用において、対馬の特産品を返礼品として積
連携のもと、着実に実施することで市民協働・
極的に採用することにより、雇用の場の創出
市民主体のまちづくりをさらに進めてまいり
と所得の拡大を目指してまいります。本年7
ます。
月に行った機構改革により、ふるさと納税制
度の担当部局として「しまづくり推進部未来
創生課」を設置し、現在、返礼品の選定を市
役所内にプロジェクトチームを立ち上げ、年
森林の恵み 原木しいたけ
ふるさと納税返礼品で
水揚げ量日本一 対馬産あなご
全 国 へ
日本蜜蜂100% 天然はちみつ
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新鮮で安心・安全な海の幸
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内を目途にスタート出来るよう指示を致して
さらに、交流人口の拡大を図る観点から、
いるところです。
高額な「ふるさと納税」をいただいた方を対
ふるさと納税の返礼品につきましては、
「原
馬市準市民と認定し、旅行優待券を贈呈し対
木しいたけ」や「あなご」に代表されます農
馬へ足を運んでいただくことで、島内の消費
林水産物だけではなく、未だ埋もれている対
拡大とその後の誘客に繋がるよう取り組みを
馬の特産品を掘り起こし、対馬そのものを特
進める予定です。
産品として選んで頂けるよう「オール対馬」
を掲げて島の特産品の創出に努めていきたい
と考えているところです。
政府は、
「制度の主旨から返礼品が過度に
なりすぎないように」と注意喚起を行ってお
対馬市の挑戦③
有人国境離島法を最大限活用した
島の浮揚
りますが、その活用が地域の産業振興の起爆
国境に面する離島において、領海・排他的
剤となっていることは、すでに県内の平戸市
経済水域の保全及び地域社会の振興を図るこ
が実証済であります。しかし、平戸市の成功
とにより、国境離島の役割を維持・強化する
も一朝一夕に実現できたものではありません。
ことを目的とした新法成立に向け、県下関係
生産者、加工業者、販売業者と行政が一体と
市町が共に連携しながら粘り強い活動が重ね
なって初めて、納税者の皆様に喜ばれるシス
られてきました。その活動が実り、去る4月
テムが構築できたものではないでしょうか。本
20日、参議院において可決成立し、平成29年
市も、生産者と行政がスクラムを組んで、新
4月1日から施行される運びとなりました。
たな産業の創出や所得向上の起爆剤となれる
新法成立にあたりましては、特に長崎3区
よう取り組んでまいりたいと考えております。
選出の谷川弥一代議士が先頭に立って国会の
韓国展望所からの釜山夜景
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最前線にて各党議員各位への説明や調整など、
ます。実現すれば、対馬の北の玄関として国
長年にわたりご尽力いただきました。この場
内外からの観光客の誘客に繋がり、地域の活
をお借りして、これまでのご尽力に対し、改
性化はもとより、市の施策にも波及効果が現
めて感謝申し上げます。
れてくるものと考えます。今後、国会議員、
同法により航空運賃及び航路運賃の低廉化
県議会議員の皆様のご支援をいただきながら
のほか、生活や事業活動に必要な物資費用の
実現に向け強力に要請を行ってまいります。
負担軽減や雇用機会の拡充策及び安定的な漁
業経営を図るための漁船の操業に要する費用
負担の軽減などのソフト事業が盛り込まれて
結びに
おります。これにより今後10年間の地域振興
「今」を生きる私たちの使命は、「先人が守
の後ろ盾を得ましたので、この千載一遇の機
り・育て・慈しんできたこの島を、未来に繋
会に産・学・官・金等関係団体とも連携し、
ぐこと」です。対馬の未来を決定づけるであ
地域社会の維持・発展のため、オール対馬の
ろう重要なこの時期に、対馬(しま)づくり
体制にて本市ならではの施策提案に向け、知
の船頭役を仰せつかった責任を意気に感じて、
恵を絞ってまいります。
ふるさと対馬を将来の世代にしっかりと自信
また、市長として権限が及ぶところではあ
を持って引き渡せるよう、市政の創造と革新
りませんが、現在、対馬北部の比田勝地区沖
に果敢に挑戦してまいります。
合を航行しておりますJR九州高速船ビート
関係皆様方におかれましては、引き続き対
ル(国際線)に国内客も乗船できるよう要望
馬市に対し深いご理解と力強いご協力を賜り
を続けており、政府においてもその実現に向
ますよう、心よりお願い申し上げます。
け、動き出しをいただいているところであり
烏帽子岳から見た浅茅湾
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