世界をリードする 水素エネルギー研究

世界をリードする
水素エネルギー研究
地球温暖化問題がますます深刻化する今、
世界中が水素社会の実現に向けて大きく動き出そうとしています。
水素研究で世界をリードする九州大学の実情について
水素エネルギー国際研究センターの佐々木一成センター長にお話を伺います。
水素エネルギー国際研究センター
佐々木 一成 センター長
九州大学の公用車である燃料電池自動車「MIRAI」
と佐々木センター長
水素エネルギーなどの新しい技術に対して
常に新しい芽を出し続けることが大学としての使命。
しかない画期的なシステム」だと
佐々木センター長は語ります。
「地球温暖化問題は、次の世代、
その ま た 次 の 世 代 に 快 適 な 環 境
本はとても進んでいて、2009
ほとんどを捨ててしまっているの
所では、その際に発生する排熱の
もあるエネファームは、
都市ガスの
水素エネルギーの一般普及型で
です。太陽光発電や風力発電から
取 り 組 まなければならない問 題
を残すためにも、私たちが真剣に
年に家 庭 用 燃 料 電 池であるエネ
にして蓄えることで、再生可能エ
の変 動しやすい電 気 を 水 素 ガス
り、地球の平均気温は上昇する一
が増えることで、温室効果が上が
しています。大気中の二酸化炭素
になっています。いずれはバスな
の燃 料 電 池 が実 用 化される予 定
事 業 所や工場 などで使 える大 型
が始まりました。2017年には
(水素ステ-ション前に設置、
水素ステ-ション内部も可視化、
実証燃料電池の発電状況も表示)
モビリティ実証用の
燃料電池車
水素は地球を救う
次世代のエネルギー
て、
同時に発生する熱でお湯を沸
エネルギーの約4割を電気に換え
方です。
どの公共の乗り物にも水素エネル
水電解装置設置
もできます」
▲
ネル ギ ー を 使 い や す く す る こ と
です。これから大 事になってくる
このまま温暖化が進めば、台風
ギーが使われることになるでしょ
ま た、佐々木 センター長 は、経
かすので
「ムダになるものが5%
のは、いかにエネルギーのムダを
な ど の 災 害 が 増 え、海 面 上 昇 に
う。化石燃料から水素ガスを作る
済 的 な 観 点から も 水 素エネル
減らすかということです」
月には燃 料 電池 自 動 車の市 販
エネルギ-可視化システム
ファームが発 売され、2014年
よって低い土地は失われてしまい
時には二酸 化 炭 素 も 発 生します
燃料は、世界の産業の発展に大き
ギーの必 要 性 を 語って く ださい
(水素ステ-ション内、水素タンク等の付属設備も含む)
地球温暖化問題は、年々深刻化
ます。また、異 常 気 象による生 態
効率が高いので、同じ量の電気を
く貢献してきましたが、同時に多
ました。
▲運転時のエネルギー収支を示す
「MIRAI」の液晶パネル。
「MIRAI」
は排気ガスの代わりに水しか出しません。
が、水素を介した燃料電池の発電
くの二酸 化 炭 素を大 気 中に排 出
「日 本 が 輸 入 し て い る エ ネ ル
倍 もの額 を 毎 年、エ
(水素ステーション横設置)
(水素ステーションおよびHY30棟屋上設置)
系の破壊や食糧難といったリスク
してきました。そこで次世代のエ
ギーの代 金は毎 年 約
作るために必要な燃料を減らすこ
ネルギーとして注目されているの
ります。私たちが普段支払ってい
兆 円です
27
2.7
風力発電機による再エネ発電と
水電解装置
(交流)
への接続
太陽光パネルによる再エネ発電と
水電解式水素発生装置
(直流)
への接続
を背負うことになります。二酸化
が、水素と空気中の酸素を化学反
る消 費 税の1% 分 が
炭素の排出量の削減こそが、これ
応させることによって電気と熱を
から、その
とができ、結果的に二酸化炭素の
作り出す水素エネルギーです。
ネルギーの輸出国、つまり海外に
排出量を減らすことができます」
長年、水素エネルギーの研究に
石 炭や石 油に代 表される化 石
携わってこられた佐々木センター
払っていることになります。さら
からの地球に必要なのです。
長は、次のように語ります。
に、国内で電気を作っている発電
10
●太陽電池または風力発電機で、再エネ発電
●再エネ電力で水電解し、水素で蓄エネ
●再エネ水素をFCVに充填
(ゼロエミッションモビリティ)
表示モニター
兆 円 もあ
「水素エネルギーに関しては、日
「水素社会」の具現化・見える化
12
水素社会をリードする
九州大学の役割
九州大学伊都キャンパスには、
佐々木センター長が所 属する水
素 エ ネ ル ギ ー 国 際 研 究 セン タ ー
を は じ め、水 素 材 料 先 端 科 学 研
究 セ ン タ ー、次 世 代 燃 料 電 池 産
学 連 携 研 究 セ ン タ ー な ど、世 界
をリードする研 究 拠 点が揃って
います。
「水素社会の実現という大きな
目標のためには、やるべきことが
本当にたくさんあります。国でも
個々のプロジェクトに分かれてい
は、それぞれのプロジェクトのマ
るので、このキャンパス内の組織
ネ ジメントに合 う よう な 形にし
ています。水素エネルギー国際研
ターは、素材が水素に触れるとも
水 素 材 料 先 端 科 学 研 究 セ ン
中的に取り組んでいます」
ニーのようなもので、各課題に集
ターは、会社でいうと事業カンパ
では、これからの水素社会にお
ています。
な ど を 企 業 と 連 携 し な がら 進 め
使う大型の燃料電池の開 発研究
研究センターは、工場や事業所で
ま す。次 世 代 燃 料 電 池 産 学 連 携
くことはありません。そこで大事
も、論文だけでは世の中に出て行
えています。いいアイデアが出て
ることが大学としての使命だと考
すから、常に新しい芽を出し続け
れた技術の芽が形になったもので
車にしても、大学の研究から生ま
▼
ろ く な る 問 題 を 集 中 して 研 究 す
ける大学の役割とは何でしょう。
になってくるのが産学連携です。
究センターが全体調整、他のセン
る組織で、国家プロジェクトをけ
「エネファームや燃料電池 自動
▼過去から未来の水素エネルギー
技術がわかる水素社会ショールーム
ん引 する重 要 な 役 目 を 担ってい
水素エネルギー関連の動画が観
れる水素シアター
水素社会をリードしていくために
総合大学としての強みをどれだけ活かせるか。
伊都キャンパスで発電する世界最新型の大型燃料電池
大学から生まれた新しい芽、つま
りアイ デア を 民 間 企 業 と一緒に
なって 形 にしていくこと も 大 学
の大きな使命のひとつです。そし
皆さんがこれからの主役です」
ルギーの研究の場としてだけでは
なく、社会実証の場としても活用
されているのです。
水素エネルギーの研究は、
一部
スマートハウスとは、エネファー
葉を耳にする機会が増えました。
最 近、スマートハウスという言
ター長は語ります。
点 が 増 え て く る と、佐 々 木 セ ン
九 州 大 学 の あ ら ゆ る 学 部 との 接
ん。水 素 社 会の実 現 に向けては、
の 学 部 だ け の も ので は あ り ませ
くことも大学の役割です」
ムや太陽光発電などのマイホーム
「冒 頭 に 経 済 の 話 を し た よ う
本格的なスマート
キャンパスの実現へ
さ らに 佐々木 センター長 は人
発電設備を備え、
エネルギーの自
に、エネルギーと経済は切っても
技 術 開 発 と 並 行 して 人 を 育 てて
がかかり ました。言い換 えれ ば、
試験的に運用されています。さら
し、世界最新型の大型燃料電池も
でエネファームを導入しています
「伊都キャンパスの複数の食堂
マート化が進んでいます。
実 は、伊 都 キ ャ ン パス で も ス
の 国 や 地 域の 文 化 や 資 源 も 関 係
と 思いま す。さらには、それ ぞれ
的 な もの を 整 備 す る 必 要 も あ る
なってくるでしょう。そこでは法
は、新たなルールづくりも必要に
なエネルギー 社 会 を 形 成 するに
切れない関係にありますし、新た
く解説するショールームを7月に
ル ギ ー や 水 素 社 会 を わか り や す
ターでは、センター内に水素エネ
水 素エネルギー 国 際 研 究セン
学です」
た、その車の給油所代わりとなる
を公用車として導入しました。ま
た 燃 料 電 池 自 動 車「MIRAI」
また、九州 大 学では、市 販され
わかるシステムも作っています」
ら い 削 減 し て いる か が ひ と 目 で
暖 化 問 題 や 水 素 社 会 に 興 味 がも
も し も、今 回 の 特 集 で 地 球 温
作っていきたいですね」
な が ら、さ ま ざ ま な 成 功 事 例 を
の先生方ともコラボレーションし
事 なのです。これからは、人 社 系
強 み を ど れ だ け 活 かせ る か が 大
昭和62年に東京工業大学工学部を卒業後、
スイス連邦工科大学チューリッヒ校
で工学博士号を取得。平成7年にドイツ・マックスプランク固体研究所の客員研究
員。10年間の在欧後、平成11年に九州大学大学院総合理工学研究院 物質科
学部門の助教授となり、工学研究院機械工学部門の教授を経て平成23年に主
幹教授。現在、次世代燃料電池産学連携研究センター長も兼務。
て、技 術 開 発 者 の 育 成 や 国 際 連
材育成の大切さを語ります。
給自足ができる住宅のことです。
いき、技術をバトンタッチしてい
に太 陽 光 や 風 力によって 作 られ
してくるでしょう。九州大学がこ
開設し、九州大学の学生および一
水素ステーションもキャンパス内
良いかもしれません。これからの
▲
伊都キャンパス内で作られ、
使われる電気が
ひと目でわかるエネルギーインフォメーション
携、将来のサイエンスを作ってい
年、 年といった歳月を要しま
「エネル ギ ーの 技 術 開 発 には、
き な が ら 初 め て 製 品 化 さ れ てい
た電気も活用していて、それらが
れか ら の 水 素 社 会 を リ ー ド し 続
す。トヨタさんでも燃料電池自動
く もの なので す。だからこそ、エ
どれくらいの電気を作り、キャン
けていくには、総合大学としての
般の方々に開放していきます。
に設置されています。
年 もの 時 間
ネルギー分 野での人 材 育 成はと
パス全 体で二酸 化 炭 素 をどれく
「夏 休みには、ぜひ 水 素 社 会の
リーンアジア国際戦略総合特区に
地 球 の た め、こ れ か ら の 世 代 の
がで き るのか を 考 えて み るの も
ですね。ここで水素社会の未来に
おける「スマート燃料電池社会実
ために、できることはきっとある
年 度にグ
触れることで、いずれ日本や世界
証」事業を実施し、伊都キャンパス
はずです。
九 州 大 学 は、平 成
を 変 えていくよう な人 材 が生ま
は水素エネルギーや再生可能エネ
ん に た く さ ん 来 てい た だ き たい
て た な ら、自 分 の 専 門 分 野 で 何
23
将 来 を 担 う 子 ど も た ち や 学 生さ
車 の 市 販 ま でに は
ても大事で、それができるのが大
30
れることを期待しています。若い
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佐々木 一成
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