米国マーケットの最前線

米国マーケットの最前線
-経済動向から日本への影響までフィナンシャル・インテリジェンス部
2016/9/23
益嶋 裕
利上げが見送られた FOMC~12 月利上げが有力に~
連邦公開市場委員会(FOMC)
■市場の予想通り利上げを見送り
20日から21日にかけて行われた連邦公開市場委員会(FOMC)で、大方の予想通り利上げは見送られた。
ただし、声明文に「利上げの論拠は強まったと判断するがさらなる証拠を待つことに決めた(The
Committee judges that the case for an increase in the federal funds rate has strengthened but
decided, for the time being, to wait for further evidence)」との文言が追加されるなど、利上
げの時期が近づいていることをはっきりと示唆し、近い会合での利上げ実施が有力であることを表明
した。
冒頭に記された経済状況認識では、
「労働市場の改善は続き、経済活動は今年前半の緩慢なペースか
ら加速した。
(the labor market has continued to strengthen and growth of economic activity has
picked up from the modest pace seen in the first half of this year.)
」と、これまでの表現よ
りも米経済に対する認識を上方修正した。
また、
「短期的な経済見通しに対するリスクは概ね安定的である。
(Near-term risks to the economic
outlook appear roughly balanced.)
」と前回会合の「低下した(have diminished)」という表現よ
りも楽観的な表現を採用した。
これまでFOMCは新興国の経済不安、英国のEU離脱など世界経済にとってのリスクに配慮を示してきた
が、それらへの懸念が大きく後退したことを示唆した。では米経済への認識が上方修正され、さらに
リスクが後退したことを示しているにも関わらずなぜ利上げが見送られたのだろうか。それは、足元
で発表されている米国の経済指標が軟調なものがあるということ、また物価上昇率に加速の気配が見
られていないということだろう。
例えば企業景況感を示す8月分のISM景況感指数は製造業が52.6→49.4に、非製造業が55.5→51.4にそ
れぞれ大きく悪化した。また、FRBが重視する物価指標であるPCEコアデフレーターは1.6%と目標の
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2%を下回った状態が続いており足元で上昇ペースが上がっているということもない(グラフ参照)。
ISM製造業指数と非製造業指数の推移
PCEコアデフレーターの前年同月比上昇率
(%)
3
60
ISM製造業
ISM非製造業
55
FRBが目標とする2%
を下回る状況が続く
2.5
2
1.5
50
1
45
2014
2015
2016
(出所)トムソン・ロイターデータよりマネックス証券作成
0.5
2000
2004
2008
2012
2016
(出所)トムソン・ロイターデータよりマネックス証券作成
これらの指標を受けFOMC内のハト派たちは利上げを急ぐ必要はないと主張し、利上げ実施がコンセン
サスにならなかったとみられる。なお、今回の利上げ見送りに対してカンザスシティ連銀のジョージ
総裁、クリーブランド連銀のメスター総裁、ボストン連銀のローゼングレン総裁は反対票を投じて今
回の会合で利上げを実施するべきと主張した。FOMC内の3人のメンバーが反対票を投じることはかな
り珍しく、FOMC内で意見が割れていることが伝わってくる。
■プロジェクションでFF金利の見通しが大きく下方修正
3月・6月・9月・12月のFOMC後には、メンバーの経済予測(プロジェクション)が発表される。今回
特徴的だったのは、FF金利見通しの中央値が6月に続いて大きく下方修正されたことだろう(表参照)
。
2016年、2017年、2018年、長期ともに6月時点の予想から下方修正された。2017年、2018年、長期に
ついては昨年12月のFOMC以降下方修正され続けている。
中央値
項目名
GDP成長率
2016年
2017年
2018年
2019年
今回の見通し
1.80%
2.00%
2.00%
1.80%
6月時点の見通し
2.00%
2.00%
2.00%
なし
3月時点の見通し
2.20%
2.10%
2.00%
失業率
今回の見通し
4.80%
4.60%
4.50%
4.60%
6月時点の見通し
4.70%
4.60%
4.60%
なし
3月時点の見通し
4.70%
4.60%
4.50%
コアPCEインフレ率
今回の見通し
1.70%
1.80%
2.00%
2.00%
6月時点の見通し
1.70%
1.90%
2.00%
なし
3月時点の見通し
1.60%
1.80%
2.00%
FF金利
今回の見通し
0.575%
1.075%
1.875%
2.575%
6月時点の見通し
0.875%
1.575%
2.375%
なし
3月時点の見通し
0.875%
1.875%
3.000%
(出所)FRB発表よりマネックス証券作成
赤字は6月から上方修正 青字は下方修正
長期
1.80%
2.00%
2.00%
4.80%
4.80%
4.80%
2.875%
3.000%
3.205%
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また、通称「ドットチャート」と呼ばれるFOMCメンバーそれぞれの今後のFF金利予測のチャートにも
顕著な変化があった。全体的にドットが下方に移動していることはもちろん、2016年のFF金利を
0.375%と予想しているメンバーが3人表れた。これは、この3人は2016年に利上げが一度も行われな
いと予想していることを示している。
2016年6月時点のドットチャート
5.0
4.5
4.0
●●
●
●
●
●●●●
●
●●●
●●●●●●
3.0
●●●
●
2.5
●●●●●
●
●
●
3.5
●●●●
2.0
●●●
●●●●
1.5
●●●●●●
●
●
1.0
●●●●●●●●●
●●●●●●
●
●
2016
2017
0.5
2018
長期
2016年9月時点のドットチャート
0.0
5.0
4.5
4.0
●
●
3.5
●
●●●
●●●●●●
3.0
●
●●●●●
●●●●●
●
●
●
●●
●●
●
●●●
●●●
●
●●
●
●●
●●●●●●●
2.0
●●
1.5
●
●
●●●●●●●
●●●
1.0
●
●●●●●●●●●●
●●
2.5
●
●
●
●
0.5
●●●
2016
2017
2018
(出所)FRB発表よりマネックス証券作成
2019
長期
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0.0
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これまで見てきた今回のFOMCのメッセージを総括すると、
「追加利上げの時期は近づいている。ただ
し、今後も利上げは非常に慎重に行う」ということではないか。
当然今後の利上げ判断は引き続き経済指標次第となる。次回のFOMCは11月1日・2日の開催であり、そ
れまでに最も重要な判断材料の1つである雇用統計の発表は9月分の1度しかない。さらにFOMCの約1週
間後に米大統領選の開催を控えていることを考えれば、利上げを実施してマーケットが混乱し大統領
選に影響をあたえるようなことは避けたいとの配慮も働くとみられる。現時点では、11月は利上げが
見送られ12月開催(12月13日・14日)での実施が本命ということになろう。
重要なのは、いずれの開催で利上げが実施されたとしてもその後の米経済の推移をFOMCメンバーは慎
重に見極める可能性が高く、利上げペースはゆっくりとしたものになる可能性が高いということだろ
う。それは米経済や世界経済の成長、また米国株にとっては望ましいと考えられるが、こと米ドル円
については円安ドル高圧力がかかりにくいということを意味する。もちろん米ドル円は日米双方の要
因によって動くため今後の日銀の追加緩和策などによっても大きく変化するが、短期的に大幅な円安
進行は期待しづらいかもしれない。それは日本株にとっては追い風が吹かないことを意味するだろう。
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