大中口径下水道管きょの修繕は 内面補強工法で

特集 大中口径管路の修繕・更生技術
大中口径下水道管きょの修繕は
内面補強工法で
キーワード
内面補強工法、部分補修、FRP、大中口径管、止水性、耐久性
近藤 昌司
長倉 享司
FRP内面補修工法協会
事務局長
エスジーシー下水道センター
(株)
技術部長
KONDO
1.
Shouji
NAGAKURA
まえがき
Takashi
作業主任者および作業員2名で、地上より測定する。
全国の下水道管きょの総延長は45万kmに達し、平成24年
(上部、中間部、底部)
度末では、下水道管きょの耐用年数50年を経過した管きょは約
③換気(送風機による換気)工の実施(作業中は換気継続)
1万kmに達していて、年々増加する老朽管きょをいかに維持・
換気実施中にマンホール内に作業主任者が入り、酸素濃度、
継続させていくか、行政の大きな課題となっています。
特に、管きょの中でも、大中口径管きょは、改築・更新事業費
硫化水素濃度、有毒ガス濃度の測定をマンホール内、既設管
きょ内で実施し安全を確認する。
は、膨大な費用、時間が必要であり、人孔間の管きょ全体を改
④監視用安全器具類の設置(マンホール内)
築、更新では無く、損傷している管きょ部分を限定した、大中口
警報機、連絡用無線器具等
径管用の内面補強工法による修繕を実施して、予防保全、管き
⑤水替え工準備(必要による)
ょの延命化を図ることが求められます。
仮締切り治具、水中ポンプ、ホース等
本稿では、FRP内面補修工法により、φ800∼1500mmを
⑥洗浄工 補修箇所の洗浄
内面補強した施工について報告するものです。
2.
FRP内面補修工法について
3-2 硬化工
①補修機組み立て工
FRP内面補修工法は、補強繊維(耐酸ガラス繊維)材にビニ
②樹脂含浸工
ルエステル樹脂を現場含浸後、その未硬化材をマンホール内で
③補修機に補修材を巻き付け工
組み立てた専用補修機に装着し、既設管きょ補修位置まで移
④補修機移動工
動させ、位置確認後に補修機内に加圧空気を挿入し、未硬化補
⑤拡径・硬化工
修材を管壁面に加圧密着させた状態で常温硬化させて、強固
なFRP内面補修材を形成するものです。
3.
3-3 分割補修機の組み立て
FRP内面補修機は、既設管径φ750以上の補修機は、マンホ
施工手順
ール上部より投入出来ないため、全て補修機は口径により3∼5
3-1 施工手順
分割としていて、マンホール内での組み立てとなるため、事前研
①作業帯設置工
修が大切である。
②マンホール内 酸素濃度、硫化水素濃度、有毒ガス濃度測定
写真−1 地上組み立て研修
写真−2 マンホール内組み立て中
φ800
φ900
φ1500
写真−3 補修機
3-4 水替え工(必要による)
既設管きょは下水供用中であり、事前
調査により水深・流速等を調査して、施
工計画書に水替え工計画を作成する。
①仮締切りの計画
施工中(補修機移動、拡径作業)の一
時締切り、量の多い場合は、ポンプによ
る水替え計画。
写真−4 水替え状況
写真−5 水替え状況
人孔部
補修予定箇所
補修機
上流
水替え用ホース
土のう
図−1 水替え図
3-5 施工管理
①使用材料 ビニルエステル樹脂および耐酸ガラス繊維(BMマ
④下水の水深、流速について
・施工可能な水深は、補修機移動・拡径時は約10cmぐらい
ット)
とし、それ以上となる場合は、短時間仮締切りとするかポ
硬化剤は、主剤温度、外気温度、施工距離、必要ゲル時間等
ンプによる水替えを選定する。
を考慮して決める。
②材料構成 呼び厚さ 4.0mm
平成20年(公財)日本下水道新技術機構技術審査取得。
③脂量、硬化圧力、硬化時間等は、施工マニュアルによる。
・施工可能な流速は約3m/分以下とし、それ以上の場合は、
一時仮締めあるいは、ポンプによる水替え等を選定する。
・既設管きょのたるみによる水深は、補修機移動時に補修材
の樹脂が水により洗われないような対策を選定する。
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大中口径下水道管きょの修繕は内面補強工法で
4.
施工事例
施工前(目地部の損傷)
施工前
施工前
クラック、取付管接合部損傷
施工中
施工後
施工中
施工後
写真−6 φ800
写真−8 φ1400
施工前
施工前(クラック)
施工前
樹脂含浸準備工
施工中
補修機組み立て
施工中
施工後
施工後
施工後
施工後
写真−7 φ1350
施工前(クラック)
写真−9 φ1500
5.
6.
FRP内面補修材の耐久性能について
5-1 耐久性50年を想定したFRP内面補修材
FRP内面補修材の切り取り調査の結果について
FRP内面補修材の切り取り調査の結果後の状況は、いずれ
の箇所においても、クラック、目地部の損傷箇所に樹脂が注入
表−1
使用樹脂(主剤)
ビニルエステル樹脂(SY-629T)
されて、止水機能および管きょの(クラック)補強を兼ね備え、
補強繊維
耐酸ロービングクロス(BMマット)
損傷管きょの延命化に寄与していると考察される。
5-2 FRP内面補修材の基本性能(FRP標準Ⅱ)
(更生材の切り取り調査の結果)
表−2
短期保証値
長期保証(申告)値
(N/mm 2)
曲げ強度
曲げ弾性係数
125.0
8,000
60.0
4,000
①∼⑧曲げ試験結果は、いずれも経年時曲げ弾性係数
(理論値)
を
上回る試験値である。
資料 供試体の採取場所
5-3 耐ストレインコロージョン性の確認
JIS K 7034(10,000時間)試験結果から求める50年後の
ひずみの外挿値が、JSWAS K-2に示されるひずみ値を下回ら
ないことを確認した。
①
札幌市厚別区内
②
宮城県富谷町内
③
福島県須賀川市内
④
埼玉県越谷市
⑤
愛知県豊明市
⑥
大阪府富田林市
⑦
愛媛県松山市
⑧
福岡県宗像市
経年
工法
10年 熱硬化
7年 熱硬化
9年 熱硬化
10年 熱硬化
20年 熱硬化
11年 光硬化
14年 光硬化
6年 熱硬化
経年
クリープ 経年時推定値 試験値
log分
保持率(%) N/mm2 N/mm2
6.720
67.8
4,000
6,600
6.565
68.5
4,041
7,210
6.674
68.0
4,012
7,970
6.720
67.8
4,000
8,820
7.021
66.5
3,923
7,790
6.762
67.6
3,988
8,470
6.866
67.2
3,964
6,840
6.430
69.1
4,076
9,050
※経年時推定値=短期保証値
(5,900)
×クリープ保持率
JIS K 7116 クリープ 回帰線
表−3
(N/mm2)
50年後のひずみ外挿値(%)
JSWAS K-2
0.481
FRP内面補修材
0.610
8,000
短期保証値
6,000
クリープ 回帰線
4,000
5-4 追跡調査より、FRP内面補修材の劣化性について
2,000
第5回追跡調査(平成23年10月∼平成24年11月)を実施し、
FRP内面補修材の切り取り調査を行い、経年によるクリープは
JIS K 7116試験の理論値をいずれの箇所でも、上回ることが
6
8
10
12
14
16
18
20
22年
経年
図−2 更生材の切り取り調査の結果(FRP第5回追跡調査報告書より)
確認された(図-2)。
経年10年
経年11年
写真−10
7.
おわりに
では、追跡調査を実施し健全性、劣化性等について、調査数は少
FR P内面補修工法は、部分補修での内面補強工法であり、
ないが20年の耐久性を確認しており、今後は修繕が長寿命化対
損傷箇所を修繕することにより長期的な耐力を考慮して現状よ
策として有効な工法となる可能性があると確信するものです。
りも強度増加、止水性、耐久性の向上を図る目的で修繕する工
大中口径管きょの下水道管きょ全体に占める割合は約20%
法です。
以下(下水道統計)であるが、改築・更新は多大な費用・時間
従来修繕(補修)
は施設の現状復旧を図る目的のため、
その補
を要し、TVカメラ調査等により陥没事故の危険がある緊急性
修材は耐久性を定められていませんが、内面補強工法は開発さ
のある管きょは、内面補強工法による修繕により予防保全、健
れてから20年以上の実績を有し、その耐久性については当工法
全な管きょの維持・管理に大いに貢献できると期待します。