生産システムの間接モニタリング

計測フロンティア研究部門
生産システムの間接モニタリング
-メタモデルアプローチIndirect monitoring of manufacturing system
– a metamodel approach -
国立研究開発法人 産業技術総合研究所
製造技術研究部門
近藤 伸亮
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計測フロンティア研究部門
内容
• 本研究の背景
– CPPS実現へ向けて
• ボトムアップでのCPPSモデル作成
– 生産システムのメタモデル
• ユースケース
– 間接モニタリング
• まとめ
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計測フロンティア研究部門
はじめに
• Cyber Physical System (CPS)とは?
– 実世界の情報をサイバー空間に取り込んで、サイバー空間内
で様々な計算を行い、その結果を実世界へと反映するシステ
ム
– CPS=センサーネットワーク+サイバー空間+エフェクタネット
ワーク
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計測フロンティア研究部門
本研究の背景
• Cyber Physical Production System(CPPS)へ
– CPSを活用した高付加価値、高効率なモノ・サービス生産
• モデル作成・解析技術がCPPS実現のカギ
– CPPSにおいて取得可能な情報は多岐にわたるので, すべて
の情報を一律に蓄積し, 分析していては効率的にCPPS構築・
運用のための知識を獲得できない.
– 多数のパラメータを含む解析結果は, その意味内容を人間が
理解することが難しいので, そのままでは意志決定に利用でき
ない.
– リアルタイムに取得・蓄積される様々な情報を適切な粒度に「
間引き」, 様々な技術者が振る舞い(すなわち, あるコントロー
ル可能なパラメータ値を変更すると, 目的とするパラメータにど
のような影響が及ぶか)を理解可能な粒度で, CPPS上で生起
する様々な事象をモデル化し, これらの複数のモデルに基づい
て生産システム全体のアーキテクチャや振る舞いを設計・計画
することが不可欠
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計測フロンティア研究部門
本研究の背景(続)
• モデル統合化手法の不足
• 個別目的に応じた様々なシミュレーションモデルは存在する
が、それらをある目的(ユースケース)のもとで相互接続・統合
するための手法が十分に整備されていない
• 多大な時間、労力、技術力、コスト
• 様々な変動に適応した動的制御可能なシステムを設計するた
めには、一つの設備から社会とのつながりかたに至るまでの
幅広い範囲をモデル化する必要
• 不確実・不完全情報下での運用
• 複数のステークホルダ間の情報流通、利害調整、リスク配分
をめぐる大きな壁
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計測フロンティア研究部門
本研究のアプローチ
• トップダウンアプローチの課題
– 多大な時間、労力、技術力、コスト
• 様々な変動に適応した動的制御可能なシステムを設計するためには、一つの設備から社
会とのつながりかたに至るまでの幅広い範囲をモデル化する必要がある。RAMI4.0に則っ
てきっちり書くのにはかなりの手間暇と技術が必要
– 不確実性下での動作
• スマート製造という概念が未成熟であるときに、スマート製造の機能や構成要素が満足する
べき仕様を全て書き下すことは困難
• 複数のステークホルダ間の情報流通、利害調整、リスク配分をめぐる大きな壁
• メタモデルを用いたボトムアップアプローチ
– トップダウンにすべてを書き下すのではなく、既存の様々な設計、製造、保守・運
用のための情報を相互に意味をもたせて相互接続しながら、RAMI4.0の3軸を
カバーする、ユースケースに必要な最小のモデルを作成
– ユースケース毎にモデル作成手法を形式化・ライブラリ化
• ユースケース:
– 各事業主体がある観点のもと、CPPSで利用可能になる情報から、詳細度や粒度を適切にコントロ
ールしながら複数の生産システムモデルを組み合わせて, 意思決定を行う事態
– モデル作成・適用のコンテキスト・意味を表現し、様々な生産システムモデルの
相互に接続する方法を開発
• 多様な観点から構成されている様々な生産システムモデルを「メタモデル」を用いて, 相互に
関連付けることで, 生産システムモデル作成プロセスを可視化し, ライフサイクル全体にか
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かわる多様な技術者の様々な知識を集約する
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メタモデルの表現
(1) Bulb component
Parameter
Relation
(3) Degree of
vacuum
(2) Number of
pinholes
Entity
(4) Proportional
(6) Area of welding
surface
(5) Residual gas in pinhole
deteriorates degree of
vacuum
(10) Rationale: degree of vacuum
is an important feature
(8) Welding machine
(9) Applicability
(7) Welding machine
shouldn’t be used.
• パラメータネットワークモデルとしてメタモデルを記述
– パラメータ: なんらかの物理的存在物の属性・特徴など
– 関係: パラメータ間で考えることができるすべての関係
– 実体: 存在可能なすべての物理的存在物
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計測フロンティア研究部門
ユースケース:間接モニタリング
• 間接モニタリング
– 直接取得することが困難なパラメータ(例えば, 切削加工時の
刃先摩耗量など)について, 他の取得可能なパラメータとの関
係からその値を推定することで, 間接的にこれを管理する行為
専用センサ/計測機器による直接モニタリング
•
•
•
•
振動
磨耗
精密値
高コスト
低ロバスト性
低構成自由度
汎用MEMSセンサとデータモデルに基づく間接モニタリング
電流
データ
モデル
温度
加速度
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振動
磨耗
•
•
•
•
近似値
低コスト
高ロバスト性
高構成自由度
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間接モニタリングの手順
Step1:課題の定義
• 最終的に達成したい設計改善目標(例: 省エネルギー化)と、その達成度を評価
するためのパラメータ(以下、目標パラメータ)を定義
Step2:パラメータネットワークモデルの作成
• Step1で定義した目標パラメータに大きな影響を及ぼしていると考えられる因子
を、設計、製造、運用、保守等の製品ライフサイクル全体で利用可能な情報から
列挙
• 設計情報、制御情報、メンテナンス・操作情報等をすべて一枚のパラメータネット
ワークモデルとして表現
Step 3:間接モニタリング経路探索
• 測定、推定の確からしさ、それらの値を得るためのコスト等を考慮し、パラメータ
ネットワークを探索し、どのパラメータ、関係を用いて目標パラメータを推定すれ
ばよいかを決定
• 大規模なパラメータネットワークモデルに対して、AND/OR木を用いて経路探索
を支援
Step 4:測定と評価
• Step3で決定したパラメータを測定し、目標パラメータを推定し、妥当性を評価
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計測フロンティア研究部門
間接モニタリング経路探索のアルゴリズム
求めたい
パラメータ
• Step 3-1:
– パラメータネットワークモデルをAND/OR木に書き換え
• Step 3-2:
測定・取得
可能
– AND/OR木の組み合わせ(間接モニタリング経路)を数え上げ
• Step 3-3:
関係
– 各経路毎の評価値計算(コスト、精度など)
入力から出力
が求まる
MA6
R4
FP1
FP2
MA1
R7
R1
A4
R5
MA2
A5
A1
R2
R6
FP3
R8
MA3
MA4
A2
MA7
R3
MA5
MA8
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計測フロンティア研究部門
間接モニタリング経路探索のアルゴリズム
求めたい
パラメータ
• Step 3-1:
– パラメータネットワークモデルをAND/OR木に書き換え
• Step 3-2:
測定・取得
可能
– AND/OR木の組み合わせ(間接モニタリング経路)を数え上げ
• Step 3-3:
関係
– 各経路毎の評価値計算(コスト、精度など)
入力から出力
が求まる
MA6
R4
FP1
FP2
MA1
R7
R1
A4
R5
MA2
A5
A1
R2
R6
FP3
R8
MA3
MA4
A2
MA7
R3
MA5
MA8
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計測フロンティア研究部門
間接モニタリング経路探索のアルゴリズム
求めたい
パラメータ
• Step 3-1:
– パラメータネットワークモデルをAND/OR木に書き換え
• Step 3-2:
測定・取得
可能
– AND/OR木の組み合わせ(間接モニタリング経路)を数え上げ
• Step 3-3:
関係
– 各経路毎の評価値計算(コスト、精度など)
R4
FP1
FP2
MA6
MA1
R1
A4
R5
R7
入力から出力
が求まる
MA2
A5
A1
R2
R6
FP3
R8
MA3
MA4
A2
MA7
R3
MA5
MA8
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間接モニタリング経路探索
FR1の推定方法をすべて
数え上げる
(7種類のうち4種類表示)
18個(含む、関係6個)
16個(含む、関係5個)
モニタリング経路をコストで比較
(属性ノードの取得、関係ノードの計算でコスト発
生と考える)
17個(含む、関係6個)
14個(含む、関係4個)
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計測フロンティア研究部門
間接モニタリング経路探索
複数のFRの値を推定したい場合、それぞれのFR推定のためのモニタリング経
路をすべて求め、
それらの組み合わせのなかで一番有利なもの(例えばコストが低いもの)を選
択(以下の場合は480通りのなかから選択)
ある関係や、属性は複数のFRの値の推定に利用可能なことがある
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計測フロンティア研究部門
MEMSセンサによる製造設備モニタリング
-冷蔵倉庫における現場計測とデータモデル-
冷蔵倉庫に対する要求
• 庫内の食品を健全な状態に維持 → 庫内温度を一定範囲に維持
• 電力消費量の抑制 → コンプレッサ負荷の抑制
仮説
扉の開放
→ 外気流入
→ 庫内温度上昇
→ コンプレッサ負荷増大
→ 電力消費量増大
扉の開閉を適正に制御することにより電力消費量の抑制が可能か?
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MEMSセンサによる製造設備モニタリング
-冷蔵倉庫データモデル (1)-
想定管理対象(関係しそうなパラメータ)
• コンプレッサ負荷
• 庫内温度
• 庫内湿度
• 庫外温度
• 庫外湿度
• 扉の開閉頻度
• 扉の開放時間
計測対象(計測可能なデータ)
• 電流
• 温度
• 湿度
• 気圧
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計測フロンティア研究部門
冷蔵倉庫のメタモデル記述
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計測フロンティア研究部門
冷蔵倉庫のメタモデル記述
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計測フロンティア研究部門
MEMSセンサシステム
電流計測用クランプ (16φ)
交流 0 ~ 120 [A]
サイズ 30 x 30 x 50 [mm]
(ケーブル除く)
温度・湿度・気圧センサ&発信器
温度 0 ~ 50 [℃] 精度±0.1 [℃]
湿度 0 ~ 100 [%RH] 精度±5 [%RH]
気圧 300 ~ 1100 [hPa] 精度±1.0 [hPa]
サイズ 45 x 40 x 15 [mm]
Wi-Fiルーター
無線送信
(60秒間隔
15m以内)
• 電流(AD値)
10秒間隔計
測値の平均
• 温度
• 湿度
• 気圧
受信器ルーターパッケージ
電源アダプタ
有線LAN送信
受信器
20個以内のセンサ
からのデータを処理
パッケージサイズ
200 x 150 x 90 [mm]
(把手部分含む)
センサ取付状態
(配電盤への取付)
Webブラウザでデータ参照
&CSVダウンロード
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Webサーバーへ
データ送信
計測フロンティア研究部門
MEMSセンサによる製造設備モニタリング
-冷蔵倉庫計測データー
庫内温度とコン
プレッサ電流の
ピークは一致
温
度
電
流
庫外温度が低いときは
扉が開閉されても庫内
温度変動は小さい
庫外温度
庫内温度
コンプレッサ電流
定常電流値が
案外高い
扉開放時間
20
扉の開閉頻度が
高いときは庫内温
度変動も小刻み
計測フロンティア研究部門
まとめ
• 本稿ではCPPSの効率的構築・運用のためには複数
のモデルをCPPSの文脈のなかで統合して様々な意
思決定に利用することの重要性を論じ, モデルの統合
的利用方法開発への最初の試みとして, 生産システ
ムを表現する様々なシミュレーションモデルをパラメー
タ間の関係をグラフ構造として表現したパラメータネッ
トワークモデルを用いて表現し, これを生産システムモ
デルのメタモデルとして用いることを提案.
• 今後は様々なユースケースを対象に様々な抽象度,
粒度のシミュレーションモデルのメタモデルを記述す
ることで, それらの統合的活用への課題を明らかにす
るとともに, CPPS実現へ向けた有効性を評価する予
定.
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