サウジアラビア:乗用車燃費規制認証 に係る実証事業

経済産業省委託
平成 27 年度
新興国市場開拓事業
(技術実証を通じた相手国での新技術等の
普及促進事業)
「サウジアラビア:乗用車燃費規制認証
に係る実証事業」
成果報告書
平成 28 年 3 月
一般財団法人日本自動車研究所
平 成 27 年 度 新 興 国 市 場 開 拓 事 業 ( 技 術 実 証 を 通 じ た 相 手 国 で の 新 技 術 等 の 普 及 促 進
事 業 )「 サ ウ ジ ア ラ ビ ア : 乗 用 車 燃 費 規 制 認 証 に 係 る 実 証 事 業 」成 果 報 告 書 ( 概 要 )
平 成 28 年 3 月
( 一 財 ) 日 本 自 動 車 研 究 所 ( JARI)
本 稿 は 、 経 済 産 業 省 ( METI) の 委 託 を 受 け 、 サ ウ ジ ア ラ ビ ア の 乗 用 車 燃 費 規 制 認
証に係る実証事業の成果をまとめたものである。
1. 背 景 と 目 的
近年、サウジアラビアは、豊富なオイルマネーによる経済成長と人口増の下、自動
車 や 電 化 製 品 な ど の 市 場 が 拡 大 し 、エ ネ ル ギ ー 消 費 量 が 急 増 し て い る 。こ の た め 、2030
年代には石油輸入国に転落する懸念が指摘されており、①先進国並みの省エネ制度の
確 立 、② 脱 石 油 依 存 を 目 指 し た 産 業 育 成 、お よ び 、③ 増 え 続 け る 若 年 層 の 雇 用 確 保 が 、
重要な国策となっている。その中で自動車産業は中核分野の一つであり、省エネ対策
の一環として乗用車の燃費規制の導入が検討され、サウジアラビア当局自らによる燃
費の計測・審査の体制作りが計画されている。
燃費の計測・審査にあたり、精緻かつ精度が担保された体制を構築することは、サ
ウジアラビアにおいて、燃費性能に優れた日本車のさらなる普及、省エネ政策への支
援による良好な関係の維持と制度設計への影響力の確保、日本製試験設備導入による
インフラ輸出の拡大、湾岸諸国等のイスラム周辺国への波及効果、につながることが
期待される。
以上の理由から、本事業は、わが国の燃費規制に係る知見や経験を活用し、サウジ
アラビアにおける乗用車の燃費認証の適切かつ実効性のある実施に向けた技術支援を
行うことを目的とする。
2. 実 施 内 容
本事業では、昨年度事業に続き、サウジアラビアへの専門家派遣を通じて、規定燃
費試験法に基づく試験実施のための技術的支援および燃費試験に必要な設備導入・運
用についての技術的支援を実施した。主な実施項目は下記の 2 点である。
①燃費試験に必要な設備導入・運用についての技術的支援(専門家派遣)
2016 年 2 月 20~ 26 日 、サ ウ ジ ア ラ ビ ア へ の 専 門 家 派 遣 を 実 施 し 、リ ヤ ド に て 、サ
ウ ジ ア ラ ビ ア 標 準 化 公 団 SASO の 燃 費 ・ 排 出 ガ ス 試 験 棟 視 察 、 SASO へ の 試 験 設 備 ・
試験研修・燃料品質について説明し、今後の進め方等を協議した。その後、ジェッダ
に て 、通 関 や デ ィ ー ラ ー を 訪 問 し 、燃 費 ラ ベ ル 制 度 の 実 態 を 聞 き 取 り 調 査 し た 。ま た 、
i
SASO 燃 費 ・ 排 出 ガ ス 試 験 所 設 立 に 伴 い 試 験 員 に は 車 を よ く 知 る 整 備 員 相 当 の 人 材 も
必 要 と 考 え 、 整 備 員 育 成 に 実 績 の あ る 日 本 自 動 車 技 術 高 等 研 修 所 SJAHI を 訪 問 し 、
意見交換した。
②サウジアラビアの自動車政策に関する現状および動向調査
2015 年 12 月 10 日 、 本 田 技 研 工 業 品 質 改 革 セ ン タ ー 栃 木 を 訪 問 し 、 燃 費 ラ ベ ル と
燃 費 基 準 に 関 す る SASO ポ ー タ ル の 実 態 を 確 認 し 、 実 務 担 当 者 と の 意 見 交 換 を 行 い 、
課題を抽出した。
また、上記の国内調査、サウジアラビアへの専門家派遣の前後に、適宜、文献調査
および試験設備メーカーや自動車業界団体との意見交換を行った。
3. 今 後 の 技 術 支 援 の 方 向 性
SASO 燃 費 ・ 排 出 ガ ス 試 験 所 へ の 技 術 支 援 の 展 望 と 想 定 さ れ る ス ケ ジ ュ ー ル 感 は 、
以下の通りである。技術支援は 2 つのフェーズに区分される。
第 1 フ ェ ー ズ は 、2016~ 18 年 の 3 年 間 で 、試 験 所 の 確 実 な 立 ち 上 げ を 目 指 す 。2016
年 に 支 援 事 業 の 枠 組 み を 定 め た MOU を SASO と 支 援 機 関 の 間 で 締 結 し 、 支 援 機 関 の
提 言 に 基 づ い て 、 SASO は 支 援 機 関 お よ び 試 験 設 備 メ ー カ ー と の 契 約 を 進 め る 。 試 験
設 備 の 納 入 は 2017 年 か ら 始 ま り 、2018 年 中 に 試 運 転 と 運 用 の 研 修 を 終 え る 。同 時 に 、
2017 年 か ら 試 験 技 術 の 包 括 的 な 研 修 ( 基 礎 研 修 ) を 開 始 し 、 2018 年 に 試 験 員 の 技 量
に関するクロスチェックを含めた長期の研修(個別研修)を日本およびサウジアラビ
ア で 実 施 し 、2018 年 に 試 験 所 が 稼 働 で き る 状 態 に す る 。た だ し 、SASO 側 の 予 算 の 制
約や試験員確保の状況により、5 年程度に長引く可能性がある。
第 2 フ ェ ー ズ は 試 験 所 の レ ベ ル ア ッ プ を 目 指 し 、次 期 規 制 強 化 や 国 際 基 準 調 査 に 伴
う設備の拡張を行う。また、サウジアラビアの燃費規制では、国際試験所認定協力機
構 ILAC が 認 定 し た 試 験 機 関 の デ ー タ を 採 用 す る こ と に な っ て お り 、 SASO 燃 費 ・ 排
出 ガ ス 試 験 所 で も ILAC に よ る 認 定 、 す な わ ち 、 ISO 17025 の 取 得 が 必 要 と 考 え る 。
さ ら に 、高 価 な 試 験 設 備 の 有 効 利 用 と 試 験 員 の 能 力 向 上 の た め 、省 エ ネ・CO2 排 出 削
減に関する政策評価や研究開発に貢献する事業を、大学等の公的機関と連携して進め
ることも検討することを提案する。
以 上 の 研 修 ・ ク ロ ス チ ェ ッ ク に よ り 、 SASO 試 験 員 が 自 ら の 設 備 を 用 い て 、 燃 費 ・
排出ガス試験を実施できる技量を獲得し、経験を積むことにより、精緻かつ精度が担
保された審査体制が構築されることを期待したい。
ii
- 目
次 -
〔概要〕
〔本論〕
1. は じ め に ......................................................................................................... 1
1.1 背 景 と 目 的 ................................................................................................ 1
1.2 実 施 概 要 .................................................................................................... 1
2. 活 動 報 告 ......................................................................................................... 4
2.1 国 内 聞 き 取 り 調 査 ...................................................................................... 4
2.2 専 門 家 派 遣 ................................................................................................ 5
3. 技 術 動 向 調 査 ................................................................................................ 21
3.1 エ ネ ル ギ ー 事 情 と 省 エ ネ 政 策 .................................................................... 21
3.2 自 動 車 市 場 と 燃 料 供 給 体 制 ....................................................................... 23
3.3 自 動 車 の 燃 費 ・ 排 出 ガ ス 規 制 .................................................................... 27
3.4 自 動 車 の 燃 費 ・ 排 出 ガ ス 認 証 試 験 と 設 備 ................................................... 31
4. お わ り に : 技 術 支 援 の 方 向 性 ......................................................................... 34
iii
本
論
1.
はじめに
本 報 告 書 は 、 経 済 産 業 省 ( METI) の 委 託 を 受 け 、 サ ウ ジ ア ラ ビ ア の 乗 用 車 燃 費 規
制認証に係る実証事業の成果をまとめたものである。ここでは事業の背景と目的,実
施内容・体制・日程など概観する。
1.1
背景と目的
近年、サウジアラビアは、豊富なオイルマネーによる経済成長と人口増の下、自動
車 や 電 化 製 品 な ど の 市 場 が 拡 大 し 、エ ネ ル ギ ー 消 費 量 が 急 増 し て い る 。こ の た め 、2030
年代には石油輸入国に転落する懸念が指摘されており、①先進国並みの省エネ制度の
確立、②脱石油依存を目指した産業育成、および、③増え続ける若年層の雇用確保、
が重要な国策となっている。その中で自動車産業は中核分野の一つであり、省エネ対
策の一環として乗用車の燃費規制の導入が検討され、サウジアラビア当局自らによる
燃費の計測・審査の体制作りが計画されている
1),2),3),4)。
燃費の計測・審査にあたり、精緻かつ精度が担保された体制を構築することは、サ
ウジアラビアにおいて、燃費性能に優れた日本車のさらなる普及、省エネ政策への支
援による良好な関係の維持と制度設計への影響力の確保、日本製試験設備導入による
インフラ輸出の拡大、湾岸諸国等のイスラム周辺国への波及効果、につながることが
期待される。
以上の理由から、本事業は、わが国の燃費規制に係る知見や経験を活用し、サウジ
アラビアにおける乗用車の燃費認証の適切かつ実効性のある実施に向けた技術支援を
行うことを目的とする。
1.2
実施概要
本事業は、昨年度事業に続き、サウジアラビアへの専門家派遣を通じて、規定燃費
試験法に基づく試験実施のための技術的支援および燃費試験に必要な設備導入・運用
についての技術的支援を実施した。主な実施項目は下記の 2 点である。詳細は、次章
以降で報告する。
①燃費試験に必要な設備導入・運用についての技術的支援
日本の試験機関や設備メーカー等、試験および試験設備に関する専門家をサウジア
ラビアに派遣し、サウジアラビア試験機関等の職員等を対象に、試験および設備の基
礎知識に関するセミナーを開催し、さらにサウジアラビアが導入する設備の検討およ
び設備管理体制構築の支援を行う。
②サウジアラビアの自動車政策に関する現状および動向調査
サウジアラビアが導入する自動車に関する規制(燃費・排出ガス・燃料品質等)お
よび関連試験設備・技術について、文献や聞き取り等を通じて現状および動向調査を
1
実施する。また、サウジアラビアで燃費規制制度導入に伴い、日系自動車メーカーが
サウジアラビア当局との間で行う実務上の課題を整理等するため、日系メーカーから
の聞き取りおよびサウジアラビアでの現地調査を実施する。
本 事 業 の 実 施 体 制 と 主 な 活 動 概 要 を 、 図 1.2.1 に に 示 す 。
【実施体制】
(委託)
METI
(専門家派遣等の協力)
JAMA( 燃 費 規 制 に 関 す る 専 門 家 )
JARI
堀 場 製 作 所( 試 験 設 備 に関 する専 門 家 )
明電舎(同上)
(カウンターパート)
SASO( 試 験 設 備 導 入 、 試 験 実 施 )
現地コンサル・施行会社
※ SASO: サ ウ ジ ア ラ ビ ア 標 準 化 公 団 ( Saudi Standards, Metrology and Quality Organization )
図 1.2.1
実施体制図
【主な活動概要】
(国内聞き取り調査)
2015 年 12 月 10 日 、 本 田 技 研 工 業 品 質 改 革 セ ン タ ー 栃 木 を 訪 問 し 、 燃 費 ラ ベ ル と
燃 費 基 準 に 関 す る SASO ポ ー タル の実 態 を 確 認 し 、実 務 担 当 者 と の 意 見 交 換 を 行 っ た 。
(サウジアラビアへの専門家派遣)
2016 年 2 月 20~ 26 日 、サ ウ ジ ア ラ ビ ア へ の 専 門 家 派 遣 を 実 施 し 、リ ヤ ド に て 、SASO
燃 費 ・ 排 出 ガ ス 試 験 棟 視 察 、 SASO へ の 試 験 設 備 ・ 試 験 研 修 ・ 燃 料 品 質 に 関 す る 説 明
と協議を行った。その後、ジェッダにて、通関やディーラーを訪問し、燃費ラベル制
度 の 実 態 を 聞 き 取 り 調 査 し た 。 ま た 、 SASO 燃 費 ・ 排 出 ガ ス 試 験 所 設 立 に 伴 い 試 験 員
には自動車をよく知る整備員相当の人材も1名は必要と考え、整備員育成に実績のあ
る 日 本 自 動 車 技 術 高 等 研 修 所 SJAHI を 訪 問 し 、 意 見 交 換 し た 。
(技術動向調査)
上記の国内調査、サウジアラビアへの専門家派遣の前後に、適宜、文献調査および
試験設備メーカーや自動車業界団体との情報・意見交換を実施した。
2
【第 1 章の引用文献】
1) 平 成 25 年 度 国 際 エ ネ ル ギ ー 使 用 合 理 化 等 対 策 事 業( サ ウ ジ ア ラ ビ ア に お け る 省 エ ネ 制 度 確 立 ・
普 及 支 援 事 業 ) 報 告 書 、 三 菱 総 合 研 究 所 ( MRI)、 2014 年 3 月
2) 平 成 26 年 度 国 際 エ ネ ル ギ ー 使 用 合 理 化 等 対 策 事 業「 サ ウ ジ ア ラ ビ ア に お け る 省 エ ネ 制 度 確 立 ・
普 及 支 援 事 業 」 報 告 書 、 日 本 エ ネ ル ギ ー 経 済 研 究 所 ( IEEJ)、 2015 年 3 月
3) 中 東 に お け る 人 材 育 成 に つ い て 、 経 済 産 業 省 、 2011 年 7 月
4) 平 成 26 年 度 新 興 国 市 場 開 拓 事 業 ( 技 術 実 証 を 通 じ た 相 手 国 で の 新 技 術 等 の 普 及 促 進 事 業 ) 「サ
ウ ジ ア ラ ビ ア : 乗 用 車 燃 費 規 制 認 証 に 係 る 実 証 事 業 」 成 果 報 告 書 、 日 本 自 動 車 研 究 所 ( JARI)、
2014 年 3 月
3
2.
活動報告
ここでは、本事業の主な活動として、燃費ラベル等の国内実務者への聞き取り調査とサ
ウジアラビアへの専門家派遣について報告する。
2.1
国内聞き取り調査
サウジ燃費ラベル、燃費規制に係る現場の実態(問題点)を把握するため、本田技研工
業の四輪認証室を訪問し、情報収集・意見交換を実施した。
日時:2015 年 12 月 10 日、13:30~夕方
場所:本田技研工業、品質改革センター栃木
出席:森山室長・國分氏・岡田氏・浅村氏・天野氏・ほか
(本田技研工業・品質改革センター・認証法基部・四輪認証室)、
小西氏(METI)、猪口氏(資源エネルギー庁)、船崎(JARI)
目的:JAMA の燃費向上の活動と技術に関する意見交換
資料:内部資料につき、省略。
内容:
1)湾岸諸国標準化機構 GSO の型式認証
・SASO の上部団体である GSO のポータル入力画面を確認した。
・ポータル上から申請から認可まで1~2ヵ月かかる。
(フルモデルチェンジで2ヵ月、テ
ストレポート確認を含む)
・排出ガス規制は Euro2 だが、Euro3 以上の欧州走行モード NEDC(New European Driving
Cycle)で測定している。今後、サウジ燃費規制に合わせ、燃費については米国走行モー
ドに変更する予定。
・日本から湾岸諸国向けの輸出額は、自動車が6割を占めるため、円滑な貿易体制が非常
に重要。(日系メーカーの海外生産国からの輸出額も含めると、さらに膨大)
2)サウジ燃費ラベル
・燃費ラベル導入の目的は、ユーザーへの燃費周知(啓蒙)、不正輸入車の排除(通関時ま
でに貼り付け義務)。将来、燃費規制に係る実績台数の把握にも利用する可能性あり。
・第1フェーズ(2014 年 8 月~)は、ディーラー展示車の貼付、第2フェーズ(2015 年
1 月~)は、通関までに輸入車に貼付。すなわち、第2フェーズでは、工場出荷時に、左
後部ドアガラスにラベルを貼っておく必要がある。
・SASO が、ラベルの電子ファイル(JPG、PDF)を発行(ダウンロードして入手)する
が、申請後、入手までに 25 日以上かかることが問題視された。また、電子ファイルの解
像度が悪く、二次元バーコードの読み取り不良の懸念あり。
・ラベル発行費用(1 種類毎に、当局の審査料 5,000 リアル(約 16 万円)、当局の発給手
数料 500 リアル(約 1.6 万円))の支払いは、サウジ国内からの振込のみを指定。このた
め、販売会社が立て替え。
・メーカー登録はポータルで行うが、並行輸入業者の参加も念頭においているためか、誰
4
でも登録できる仕組み(SASO の確認はあるが)。
・メーカー選択メニューで他社の車両情報も閲覧できるなど、規制当局のポータルにして
は、情報セキュリティが配慮されていない。システム構築に十分な予算を確保しない、
適切な技術者が少ないなどが要因と考えられる。
3)サウジ燃費規制(サウジ版 CAFE)
・2016 年 1 月より、企業平均燃費 CAFE が導入されるため、燃費と予想販売台数による
平均燃費値を算定済み。しかし、メーカー側と SASO 側で不一致あり(10%もの乖離)。
ポータル上で CSV ファイルをアップロードして計算する仕組みのため、SASO 側がどの
ような処理をしているか不明。
・燃費認証が、国際試験所認定協力機構 ILAC(International Laboratory Accreditation
Cooperation)認定としているため、新たに燃費試験が必要。しかし、準備期間が限られ
る中、シェアトップメーカーだけでも 100 モデルほどあり、世界の ILAC 認定試験機関
の数が限られる中、現実的でない。2014 年 11 月、各社は SASO と燃費規制に従う MOU
を締結しており、SASO はあくまで ILAC 認定を要求している。
・GSO への型式認定申請時に、排出ガス試験データと同時に燃費データも提出できるので、
ILAC 認定は不要と考えられる。
以上、実務上の不合理がある上、電子システムの信頼性も懸念されることから、実態と
問題点をまとめ、改善に向けた対応策を検討する必要があると強く感じた。
2.2
専門家派遣
今回のサウジアラビアへの専門家派遣の目的は、下記の 2 点である。
①燃費・排出ガス試験の技術支援に関する協議
SASO の試験設備導入・技術研修について、進捗状況を確認し、今後の進め方について
協議する。最近の原油安、隣国との関係悪化(軍事費増加)などにより、SASO にとって
大幅な予算削減となり、限られた条件下で何ができるか、検討する必要がある。
②燃費ラベル・燃費規制に係る現状調査
関係機関(SASO、GSO、通関)やディーラーを訪問し、情報を収集する。また、規制
導入に伴い、実務上の問題が発生しており、対策を検討するための情報を収集する。
JARI 訪問団メンバーは、次の通りである。自動車関係は、郷間和也氏(トヨタ)、岡田
隆晴氏(ホンダ)、船崎敦(JARI)、試験設備関係は、山田隆大氏(堀場製作所)、Volker
Leismann 氏(HORIBA Europe、ドイツ)、また、通訳として、Nassim JEBARI 氏(日
本国際協力センターJICE)。なお、郷間氏、岡田氏は、同時期にリヤドを訪問した JAMA
訪問団一員であり、連携のため JARI 訪問団にも参加し、助言をいただいた。
日程は、下記の通りである。
5
2 月 20 日(土): 成田空港/関西空港発(夜行便)。
2 月 21 日(日): ドバイ等経由、リヤド空港着、燃費・排出ガス試験所建屋を視察、
ホテルにて事前打ち合わせ(日本側のみ)。
2 月 22 日(月): SASO 会議。稼働中のエアコン試験所を視察希望も、停電で中止。
2 月 23 日(火): SASO 副総裁と面談、日本国大使館を表敬訪問。
2 月 24 日(水): JARI・JICE のみ、ジェッダに移動、ディーラーを視察。
2 月 25 日(木): 通関と面談、SJAHI を訪問、ジェッダ発(夜行便)。
2 月 26 日(金): ドバイ経由、成田空港。
成果と課題の概要は、下記の通りである。
・SASO では、試験員候補 3 名を採用、2016 年度予算も増額、燃費・排出ガス試験所に関
する MOU 締結の障害が予想以上に改善され、新副総裁、担当顧問とも面談できたこと
から、今後、委託元と相談して MOU 締結の準備を進めることを検討する。
・ジェッダでは、日系販売会社および通関において、燃費ラベル導入に係る状況と課題に
ついて聞き取り調査したが、新車納入の遅れやラベル偽造といった問題はないとの回答
で、日本ほどの危機感は感じられなかった。なお、並行輸入車は第三国経由の中古車扱
いとなり、燃費規制に基づく燃費試験が課せられるとのことで、容易には輸入できない
状況と思われる。
(燃費試験の現状は不明、3 つの担当ラボ(SASO を含む)あり、今後、
その調査が必要)
・SJAHI では、整備士教育の現況を把握し、SASO 燃費・排出ガス試験所で必要な整備士
を兼ねた試験員について意見交換した。今後、SASO との具体的な交流や支援活動を検
討する必要がある。
以下、専門家派遣の詳細を報告する。
1.燃費・排出ガス試験棟の視察(1 日目)
日時:2016 年 2 月 21 日(日)、16:00~16:45
場所:SASO 旧検定試験棟脇の空き地(SASO から南東へ約 20km、リヤド駅周辺)
出席:Sami A. Mirza 氏(SASO)、Muhammad Yousuf Mysorewala 氏(現地コンサル会
社 AJ Miller、Project Manager)、Nabil M. Al-Mazlom 氏(現地施工会社 Kingdom
Design、General Manager)、JARI 訪問団(山田氏、Leismann 氏、Jebari 氏、船崎)
内容:
・目的は、試験棟建設現場の視察から、燃費・排出ガス試験設備設置に係る課題を抽出。
・幅 70m×奥行き 80m×高さ 8~10m(中央 10m)の建屋(体育館のイメージ)に、燃費・
排出ガス試験、タイヤ試験、断熱材試験、LED 試験(新規)の各設備を設置する計画。
LED 試験設備が新たに追加されたことから、不足している予算への影響を懸念。
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・Leismann 氏から、10 トン級クレーンの耐荷重、断熱材の耐火性への懸念を伝え、改善
を助言。翌日の SASO 会議において、現地施行会社の図面を下に、詳細打ち合わせする
ことになった。
・試験棟建屋の位置、写真を下記に示す。
ホテル
SASO
キング・サ
ウード大学
4.64 km
試験棟建屋
リヤド鉄道駅
(a) 試験棟建屋の位置(GPS ロガーのデータを、Google Earth 上に表示)
図 2.2.1
試験棟建屋の視察(2016 年 2 月 21 日)
7
リヤド鉄道駅
旧 SASO 試験棟
試験棟建屋の敷地
コンテナ置き場
270 m
(b) 試験棟建屋の周辺(GPS ロガーのデータを、Google Earth 上に表示)
(c) 試験棟建屋前の看板
(d) 試験棟建屋の全景
上から、SASO、工業団地公団 MODON、施行会社 AJ Miller、設計会社 Kingdom Design
8
図 2.2.1
試験棟建屋の視察(2016 年 2 月 21 日)
(e) 試験棟建屋の骨組み(柱・壁)、規模感
(g) 試験棟建屋の骨組み(屋根を支える柱)
(f) 試験棟建屋の骨組み(屋根)
(h) 試験棟建屋の骨組み(同左拡大)
(i) 設備搬入の部屋(外観)
図 2.2.1
(j) 設備搬入の部屋(内側)
試験棟建屋の視察(2016 年 2 月 21 日)
9
2.SASO との会議(2 日目)
日時:2016 年 2 月 22 日(月)、9:30~15:00
場所:サウジアラビア標準化公団 SASO、P.O. Box 3437 Riyadh 11471
出席:AbdulMohsin M. Al-Yousef 顧問(前副総裁、技術部門担当)、Sami A. Mirza 氏(エ
ネルギー効率コンサル)、Abdulaziz Al-Ohaidib 氏(ラボ総務部長)、A. Ibrahim 氏・
J. Al-Hussain 氏・他 1 名(研修員候補)、JARI 訪問団(山田氏、Leismann 氏、Jebari
氏、船崎)
資料:①設備仕様等に関するプレゼン資料(HORIBA Europe)
②燃費・排出ガス試験棟建屋、設備のレイアウト図(SASO、HORIBA Europe)
③Summary of Proposal for SASO’s Fuel Economy and Emission Laboratory(JARI)
④ Summary of Plan for Training and Crosscheck for SASO’s Fuel Economy and
Emission laboratory(JARI)
内容:
1)試験担当者の紹介と概要説明(Mirza 氏)
・前副総裁の Al-Yousef 氏が、燃費・排出ガス試験所設立の責任者とのこと。
・試験員候補として、3名を紹介(2名は新人)。現在、SASO 内で全体研修中。
2)試験設備の概要説明と意見交換(Leismann 氏)
・HORIBA Europe から、レイアウト、設備の詳細説明あり(建屋の建設業者も同席)。
・2016 年度予算は増額されたが、未だ、フルセット(4WD+2WD)の概算には満たない。
設備の分割導入を検討する必要がある。
・SASO から空調設備の現地調達の打診があり、可能性を検討することとした。
3)SASO 総裁との面談(Jebari 氏、船崎)
・SASO 総裁(Dr. Al-Kasabi 氏)への表敬訪問(JAMA 申し入れ)は、総裁が急の出張
のため中止。
4)エアコン試験棟の視察
・韓国納入済みのエアコン試験棟は稼働中とのことだが、停電のため視察中止。
5)MOU および試験研修の概要説明と意見交換(船崎)
・SASO は、各メーカーの組み合わせ、あるいは一本化を検討中。それに合わせて、MOU
の文面や実施体制図の修正が必要になると考えられる。
・試験員の訪日研修は、2017 年度から、基礎研修(10 日程度)、個別研修(4 週間程度)
を計画、設備納入後の SASO での研修(5 週間程度)を計画していることを伝えた。ま
た、基礎研修について、MOU 締結と研修員確保(5 名)の前提条件で、METI による支
援を要請する可能性もあることを伝えた。
・燃費および排出ガス試験にあたり、燃料品質が重要であることから、日欧米の自動車工
業会が発行している資料(WorldWide Fuel Charter 5 th edition)を、Mirza 氏に提供し
た。試験用に規格化された燃料を用いることがベストだが、難しい場合、カテゴリー4( Euro4
相当、硫黄分 50ppm 以下)の市販燃料を採用することを提案した(JAMA 岡田氏と協議
10
した結果)。
(a) レイアウトを説明する Leismann 氏
図 2.2.2
(b) 試験員候補 3 名と施行会社(左端)
SASO 会議の様子(2016 年 2 月 22 日)
3.SASO 副総裁との面談(3 日目)
日時:2016 年 2 月 23 日(火)、10:45~11:45
場所:サウジアラビア標準化公団 SASO、P.O. Box 3437 Riyadh 11471
出席:Abdullah A. Al-Gahtani 副総裁(標準化・ラボ担当)、
AbdulMohsin M. Al-Yousef 顧問、Sami A. Mirza 氏(SASO)、
JARI 訪問団(山田氏、Leismann 氏、Jebari 氏、船崎)
資料:なし
内容:
1)設備導入について、口頭説明(Leismann 氏)
・予算不足により、一気にすべての設備を導入することは難しく、まず、4WD 設備(空
調含む)を納入し、追加予算を確保次第、据付、試運転、保守(5 年分)を進める方向。
それでも、SASO 予算は 4WD 設備費に満たないため、副総裁にさらなる増額を要請。
・SASO 側から打診された空調設備の現地調達について、重要設備は、結局、欧州から輸
入するため、コスト削減にはあまり貢献しない可能性があることを回答。
2)MOU 締結の方向性について、口頭説明(船崎)
・MOU 締結のための3条件(十分な試験員の確保、十分な予算、仕様を満たす試験棟建
屋の建設)が整いつつあることから、締結の準備を検討することを伝えた。
・今後、MOU 修正、契約内容の検討を経て、SASO 事業が本格化することが期待される。
11
図 2.2.3
SASO 本部、副総裁との記念撮影(2016 年 2 月 23 日)
4.日本国大使館との面談(3 日目)
日時:2016 年 2 月 23 日(火)、15:00~16:00
場所:在アラビア日本国大使館、P.O. Box 4095 Riyadh 11491
出席:矢崎氏・佐藤氏(日本国大使館)、JAMA 訪問団、船崎
資料:①Summary of Proposal for SASO’s Fuel Economy and Emission Laboratory
内容:
・JAMA 訪問団からの報告の後、JARI から、MOU 締結の障壁(予算、人材、建屋)が低
くなり、締結に向けた準備を進める必要があることを報告した。
・JAMA 訪問団は、その進展を歓迎するも、設備稼働後、メーカー測定燃費と SASO 測定
燃費の乖離が次の懸念材料と指摘。JARI からは、日欧米自動車業界発行の燃料品質に関
する提言書 WWFC 第 5 版を研修用テキストとして用い、適切な試験実施を目指し、自動
車メーカーの足を引っ張らないようにしたいと回答した。
5.販売会社への訪問(4 日目)
日時:2016 年 2 月 24 日(水)、16:30~18:00
場所:ホンダ現地販売会社 Abdullah Hashim Company Ltd.、P.O. Box 44 Jeddah 21411
出 席 : Syed Shakibuddin Haider 氏 ( General Manager)、 F. M. Zakaria 氏 ( Sales
Manager)、Abdullah Al-Nahdi 氏(Dealer Sales Manager)、Mohammad Abdullatif
氏(Showroom Manager)、Jebari 氏、船崎
資料:①2014/2015 年販売車カタログ(City、Accord、Odyssey、CR-V、Pilot)、
英語・アラビア語並記
内容:
・訪問の目的は、燃費ラベル、燃費規制について、販売店、顧客の認識、課題を聞き取り、
その導入・定着への影響を分析すること。(翌日の通関訪問の打合せも含む)
1)販売会社への聞き取り
12
・販売車の基本情報(車種、台数、比率:2WD/4WD、MT/AT/CVT)、カタログ確認
サウジ全土で 13 千台(2015 年)、アコードが 85%、2WD は 90%、ほとんど CVT。
(所感)販売車カタログの諸元欄には、未だ、燃費値の記載なし。
・展示車への燃費ラベル貼り付けは、いつから始めたか?
2015 年モデル車から開始、貼ってないと展示不可。SASO の査察あり(写真も撮影)。
ただし、展示車のみが対象なので、2014 年以前の車は販売できる。
・顧客の反応は?
ラベルへの関心は高いか?
目立つので顧客の関心を引いている。
・燃費の良いディーゼル乗用車の要望は?
ホンダでは要望なし。いすゞ製ピックアップトラックには、ディーゼル仕様あり。
・販売への影響は?
8 気筒の大型車(GMC)は減少傾向、6 気筒の車も少し影響があると予想している。
・ラベル導入に伴う問題は?
1 月からの通関でのラベル検査の影響は?
今のところ、入荷遅延の問題は発生していない。
2)商談中の顧客(ユーザー)1名への聞き取り
・所有、あるいは購入予定の車種は?
現在、ヤリスのレンタカーを利用。アコードを購入したい。薬の販売に使用(営業車)。
・車種選定理由のベスト3は?
スタイル、価格、馬力、乗車定員、乗り心地、燃費?
①走行安定性(信頼性)、②燃費、③スタイル
・今の燃料単価は?
どのくらい高くなると深刻か?
例)日本は 4 SAR/L(120 円/L)
(販売店が回答)RON 91 が、0.75、RON95 が、0.90 SAR/L(昨年 1 月調査、0.45、
0.60)。ホンダ車は、全て、RON91。現状の価格さえも、値上がりし心配している。
・所定の走行距離は、ざっと、どのくらいか?
営業車なので、200 ㎞/日。(昨年 1 月のリヤド聞き取りは、一般乗用車 100 ㎞/日)
・自分の車の燃費は、把握しているか?
把握していない。
・定期点検の頻度は、半年、1 年、2 年?
実施は、ディーラー/他の整備工場?
レンタルカーなので不明。なお、ホンダでは、1000 ㎞ 無償、以降、5000 ㎞ 毎に有料。
13
(a) 販売店の全景
(b) 展示車(City)の一例
(c) 燃費ラベルは、左後方のドアガラスに貼る
図 2.2.4
(d) 燃費ラベルの一例
展示車と燃費ラベル(2016 年 2 月 24 日)
6.ジェッダ通関への訪問(5 日目)
日時:2016 年 2 月 25 日(木)、9:45~10:45
場所:ジェッダ通関事務所
出席:Abdellatif Al-Husamy 氏、Abdelmohcen Al-Shuneifi 氏(ジェッダ通関の管理職)、
Ahmed 氏(ホンダ販売会社 Abdullah Hashim Company Ltd.、ジェッダ通関担当)、
大野信夫氏(SJAHI、通勤車を提供)、Jebari 氏、船崎
資料:①燃費ラベル見本(ジェッダ通関事務所のパソコンから印刷)
内容:
・訪問の目的は、今年 1 月から、通関での燃費ラベル検査が始まったが、今まで通り、滞
りなく、輸入されるか、現状と課題を、聞き取りと現場確認から把握し、改善策を検討
すること。
1)通関管理職への聞き取り
・燃費ラベルの検査は、SASO 2857-2015(タイヤ転がり抵抗&ラベル)に基づき、乗用
14
車とピックアップトラックが対象(注:SASO 2847-2015(燃費ラベル)の誤りと推察)。
ここでは、指示書により動いているだけなので、詳細は、通関本部(リヤド)に聞いて
ほしい。
・輸入車台数は、サウジ全体で 2015 年は 90 万台(乗用車 71 万台)、ジェッダ通関は?
正確な台数は不明だが、全土の 55~60%がジェッダ通関を通る。港の作業は休日なし、
事務手続きは、金曜休み、土曜は半休(週 5.5 日)。ラベル確認は、目視による。
→
1 日当たり、71 万台/(365 日×(5.5/7))≒ 2,500 台/日の事務処理と推計。
・通関での燃費ラベル検査の目的は?
不正輸入車の排除、販売車と燃費の紐づけ?
SASO 指示書には、燃費を良くする、官民一体で取り組むため、と記載。
・1~2月の審査状況は?
滞りなく通ったか?
ラベル偽造等の問題は?
特に問題は発生していない。ラベル偽造もない。
・ラベルが貼っていないと、どうなるか?
量販車で、1000 台中、1~2 台ならば、貼り忘れ、あるいは途中で剥がれたことが推察
されるので、そのまま通す可能性あり(公には言えないが)。
全く貼っていないと、発行まで倉庫保管し、時間が経てば返送。費用は販売側の負担。
・並行輸入車は、第三国で登録済みなので中古車扱いとなり、燃費規制に基づき、民間ラ
ボ等で燃費試験が課せられる。ラボは3つあり(Tahaqoq、Motabaqah、SASO)。燃費
試験の内容は、通関では不明。ラボに確認してほしい。
(所感)シャシーダイナモメーターを用いた試験ならば、未だ実施不能と思われるので、
実質、並行輸入車は通関を通らないと推察される。
・今年 3 月 1 日から、中古車の燃費ラベルの検査も開始するとのこと。
2)通関現場の視察
・通関現場への見学は可能だが、港湾に入るには、事前申請し、許可証を取っておく必要
があり、今回は断念。次回訪問の機会があれば、販売会社を通して申請しておくと良い。
15
(a) ジェッダ通関
(b) 通関 1 階の燃費ラベル展示物
(c) 通関管理職への聞き取り
(d) 記念撮影
(e) 港湾入口(許可証必要)
図 2.2.5
(f) トラック・トラクター輸送の一例
ジェッダ通関訪問の状況(2016 年 2 月 25 日)
16
7.SJAHI 訪問(5 日目)
日時:2016 年 2 月 25 日(木)、13:30~15:00
場所:サウジアラビア日本自動車技術高等研修所 SJAHI(Saudi- Japanese Automobile
High Institute)、P.O. Box 54257 Jeddah 21411
出席:Fauzi Seraj A. Al-Thiga 副校長、Suhail Lqbal Shaikh 氏(Training Manager)、
大野信夫氏、水谷千治氏、長谷好文氏(技術専門官)、Jebari 氏、船崎
資料:①SJAHI パンフ(英文)
内容:
・訪問の目的は、SASO 燃費・排出ガス試験所設立に伴い、設備導入・保守&試験要員養
成が必要だが、試験要員には車をよく知る整備員相当の人材も1名は必要と考えており、
整備員育成に実績のある SJAHI の状況を把握し、助言を得ること。
1)SJAHI の概要紹介、その後、設備や教室を見学
・SJAHI は、JICA 事業により、2001~2004 年の準備期間を経て設立。2002 年 9 月、開
校。日サウジ政府間の事業だが、JAMA が 50%を出資。
・学生数 500 名(2 年制、各年 250 名)。英語の授業が 25%、3 級整備士を目指す。
・2004 年から第 1 期生が卒業、今年は第 13 期生が卒業予定(卒業生は、累計 2,500 名強)
・教員は、1 学年当たり 10 人程度、2 学年で、20 人ほど。主任クラスは外国人だが、副
主任はサウジアラビア人。
・整備実習用車両は 90 台、設備は日本の整備士養成学校よりも充実しているとのこと。
・技術の基本を教えるので、例えば、マイクロメーターはアナログ式(ディーラーの整備
工場では、デジタル式だが)。
・授業に 5~9 分遅れで遅刻扱い。10 分以上遅れると欠席扱い。規律遵守を心がけている。
3)質疑&応答、意見交換
・卒業生は、全員、日系ディーラーに就職。女性はいない。二輪車は扱っていない。
・高卒を教育しているので、自動車の安全・環境規制までは教えていない。
・SASO の燃費・排出ガス設備導入計画を紹介、整備もできる試験員が必要とされること
を説明。
→
以前、SASO から、日本製以外の車について、整備のトレーニング依頼があった
が、SJAHI の実習コースでは日本製しか扱っていないので断った。燃費・排出ガス
試験所には関心があり、これを機会に SASO との交流が進むことは望むところ。
17
(a) SJAHI 付近の荒野
(b) SJAHI の建物
(c) SJAHI 面談の様子
図 2.2.6
(d) 記念撮影
SJAHI 訪問の状況(2016 年 2 月 25 日)
最後に、リヤド、ジェッダにおける移動ルートを図示する。
18
リヤド空港
GSO
ホテル
SASO
9.68 km
試験棟
大使館
リヤド鉄道駅
図 2.2.7
移動ルート(リヤド、2016 年 2 月 21~24 日)
↓ルート 539
図 2.2.8
ホテル~リヤド空港間(帰路)の走行状況(2016 年 2 月 24 日)
(約 9 分の渋滞あり、その間、平均 8.6 km/h)
19
ジェッダ空港
ホテル
販売会社
紅海
通関
8.87 km
図 2.2.9
SJAHI
移動ルート(ジェッダ、2016 年 2 月 24~25 日)
20
3.
技術動向調査
ここではサウジアラビアのエネルギー・自動車事情を通して省エネ政策の必要性を述べ、
その重要な政策である燃費ラベル・燃費規制および認証等の現状と課題について報告する。
3.1
エネルギー事情と省エネ政策
最初に、日本とサウジアラビアの規模感を比較する。表 3.1.1 は、日本とサウジアラビ
アについて、2014 年時点の人口、経済、エネルギー消費、自動車保有の規模に関する比較
をまとめたものである
1) ~ 3)
。サウジアラビアの人口は約 3,000 万人(内、外国人が約 1,000
万人)と日本の 1/4 程度、一人当たり名目 GDP は約 25,000 米ドルと日本の 1/1.5、一
人当たり購買力平価 GDP では日本を超える。また、一次エネルギー消費を見ると、一人
当たりでは日本の 2 倍と大きく省エネ推進が必要なことが判る。一次エネルギー消費の内
訳は、自国産の石油が約 60%、天然ガスが約 40%、とすべて化石燃料に依存している。自
動車保有台数は約 620 万台で日本の 1/12、1000 人当たりの保有台数は約 200 台と日本
の 1/3 であり、公共交通機関が未整備であること、若年層が厚いことから、まだ大きな
伸びしろはあると考えられる。
表 3.1.1
日本とサウジアラビアの人口、経済、エネルギー、自動車保有
に関する比較(2014 年)
比較指標
日本
サウジアラビア
日本/サウジ
人口 (100万人)
127.061
30.770
4.1
名目GDP (10億米ドル)
4,602.37
746.25
6.2
36,222
24,252
1.5
4,767.16
1,609.63
3.0
一人当たり購買力平価GDP (米ドル/人)
37,519
52,312
0.7
一次エネルギー消費 (Mtoe:石油換算100万トン)
456.08
239.53
1.9
3.589
7.784
0.5
石油
43.2%
59.3%
-
天然ガス
22.2%
40.7%
-
石炭
27.7%
0.0%
-
一人当たり名目GDP (米ドル/人)
購買力平価GDP (10億米ドル)
一人当たり一次エネルギー消費 (toe/人)
一次エネルギー消費の構成比率
原子力
-
-
水力
4.3%
-
-
再生エネ
2.6%
-
-
自動車保有台数 (乗用車+商用車、千台)
1000人当たり自動車保有台数 (台)
-
77,188
6,240
12.4
607
203
3.0
出典
IMF world economic
outlook database 2015年10
月版
BP Statistical Review of
world energy workbook
2015年6月版
国際自動車工業連合会
OICA、自動車統計2015
サウジアラビア国内の石油生産量は日量 1,150 万バレル(2014 年)、石油消費量日量 319
万バレルであり、国内消費が 30%近くを占める
2) 。図
3.1.1 に示すように、国内消費比率
は年々増加傾向にあり、1990 年代は平均 15%、2000 年代は平均 20%、2010 年以降は平
均 27%と、特に近年、消費量の増加が加速している。
21
出典:BP Statistical Review of world energy workbook 2015 年 6 月版
図 3.1.1
サウジアラビア国内の石油消費量/石油生産量の比率推移
サウジアラビアでは、2000 年以降の石油価格の上昇に伴う歳入増(経済成長)と人口増、
および安価な自動車燃料価格(ガソリン RON91:0.45 リアル(14.0 円、1 リアル=31 円)
/L、ガソリン RON95:0.60 リアル(18.6 円)/L)により、エネルギー消費量も増加の
一途をたどっており、国民福祉の一環としてガソリン、軽油、電力、水道料金の世界最安
レベルに抑えるための国庫補助金も 1,000 億米ドルを超え膨らみ続けている。しかし、最
近の石油価格の暴落による財政悪化により、2015 年 12 月 29 日から自動車燃料価格の改
定(ガソリン RON91:0.75 リアル(23.3 円)/L、ガソリン RON95:0.90(27.9 円)リ
アル/L)が実施された。それでも、日本のレギュラーガソリンに比べ、ガソリン RON91
は、1/4 以下の低価格である
4) 。
サ ウ ジ ア ラ ビ ア の 省 エ ネ 政 策 は 、 2003 年 に 国 連 開 発 計 画 UNDP( United Nations
Development Programme)の協力により開始した国家エネルギー効率化プログラム NEEP
(National Energy Efficiency Program)が最初で、それ以降、2011 年にサウジアラビア
省エネルギーセンターSEEC(Saudi Energy Efficiency Center)を設立し、2012 年には
石油鉱物資源省を中心に SEEC や関係省庁・国営企業をメンバーとした省エネルギープロ
グラム SEEP(Saudi Energy Efficiency Program)の活動が開始された
5)
。省エネの重
点分野は、産業、ビル、輸送の 3 分野で、輸送については、SEEP の運輸チームが担当し
ている。
輸送部門のエネルギー消費比率は全体の 23%を占めるとされており
エネ推進の取り組みは、表 3.1.2 に示す 5 段階で実施される
22
7) 。
6) 、自動車に係る省
表 3.1.2
段階
サウジアラビアにおける自動車に係る省エネ推進の取り組み
取り組み
目的
進捗状況
1
燃費ラベル
消費者への燃費・経済性に関する
認知度向上
規制発表: 2013年12月
規制実施: 2014年8月
2
エコタイヤ
乗用車・トラック、大型車両の燃費向 規制発表: 2014年4月
上
規制実施: 2015年11月
3
乗用車燃費基準
車両総重量3.5t以下の乗用車・ピッ
クアップトラックの燃費向上
規制発表: 2014年11月
規制実施: 2016年1月
4
商用車・大型車両の燃費向上
アイドリング、空力向上パーツ装着
義務を通じた燃費向上
検討中
5
旧型車両の廃車促進
燃費の悪い乗用車、商用車・大型車
検討中
両の市場からの排除
出典:乗用車向け燃費基準は 2016 年から適用に、JETRO 通商弘報、2015 年 12 月 8 日
3.2
自動車市場と燃料供給体制
まず、サウジアラビアと周辺国(湾岸諸国、中東、CIS 諸国、エジプト、トルコ)の自
動車市場の規模感を整理する(図 3.2.1、表 3.2.1)。この地域の年間販売台数は 450 万台
前後と日本並みの市場規模である。その中で、サウジアラビア、イラン、トルコが三大市
場と言える。
図 3.2.1
サウジアラビアと主な周辺国
23
表 3.2.1
地域区分
サウジアラビアおよび主な周辺国における自動車販売台数の推移
2011年
国
2012年
2013年
2014年
2015年
2015比率
備 考
湾岸諸国
サウジアラビア
590,000
705,000
740,000
828,200
830,100
17.3%
日系シェア40%
(GCC)
アラブ首長国連邦
243,982
268,900
263,100
263,100
256,700
5.4%
日系シェア65%
クウェート
114,500
140,000
151,500
152,300
143,800
3.0%
中東
オマーン
169,500
204,500
215,000
208,400
167,600
3.5%
カタール
61,000
80,000
85,000
92,900
86,400
1.8%
バーレーン
31,000
47,000
53,000
61,100
58,300
1.2%
イラン
1,688,194
1,044,430
804,750
1,287,600
1,222,000
25.5%
イラク
131,500
120,000
117,500
87,700
49,200
1.0%
シリア
39,960
44,000
43,100
39,700
39,700
0.8%
イエメン
4,000
4,100
4,000
4,600
5,600
0.1%
ヨルダン
22,000
23,000
29,000
23,800
22,800
0.5%
イスラエル
227,000
206,500
215,500
242,400
260,200
5.4%
北アフリカ
エジプト
271,900
286,300
283,000
349,100
332,100
6.9%
南アジア
パキスタン
163,260
157,656
141,778
146,882
229,688
4.8%
CIS諸国
アゼルバイジャン
10,850
15,000
22,700
25,200
10,500
0.2%
ウズベキスタン
62,000
57,000
57,500
58,100
58,100
1.2%
タジキスタン
7,710
6,300
6,290
6,400
6,400
0.1%
トルクメニスタン
5,200
4,700
4,700
4,800
4,800
0.1%
トルコ
864,439
817,620
893,124
807,486
1,011,194
21.1%
合 計
4,707,995
4,232,006
4,130,542
4,689,768
4,795,182
100.0%
西アジア
自国生産あり
自国生産あり
FOURIN資料では、20万台前後
自国生産あり、日系シェア13%
450万台前後の販売市場
出典:国際自動車工業連合会 OICA ホームページ(http://www.oica.net/category/)
表 3.2.2 および図 3.2.2 に、サウジアラビアにおける自動車台数(新車販売、保有、抹消
登録(推計))の推移を示す
3)
。2005 年から 2009 年の間は、リーマンショックの影響も
あり、新車販売台数は伸び悩んでいたが、2010 年代前半の高水準の原油価格の恩恵を受け、
市場は順調に拡大している。最近の原油価格低迷、燃料価格の値上げによる伸び悩みも懸
念されるが、当面、年間販売台数 80~90 万台、保有 600~650 万台、抹消登録 20~30 万
台の市場規模と考えられる。なお、輸入中古車台数に関するデータは入手できていないた
め、その影響は考慮されていない。
表 3.2.2
サウジアラビアにおける自動車台数(新車販売、保有、抹消登録)の推移
データ区分
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014
2015
新車販売
乗用車(販売)
409
401
405
400
390
450
460
540
570
633
672
(千台)
商用車(販売)
157
159
151
140
130
150
130
165
170
196
158
566
560
556
540
520
600
590
705
740
828
830
合計
乗用車(保有)
2,160
2,290
2,450
2,620
2,830
3,110
3,410
3,689
3,868
4,110
-
(千台)
商用車(保有)
1,420
1,440
1,540
1,610
1,680
1,760
1,870
2,014
2,083
2,130
-
3,580
3,730
3,990
4,230
4,510
4,870
5,280
5,703
5,950
6,240
-
抹消登録
乗用車(抹消)
-
271
245
230
180
170
160
261
113
212
-
(千台)
商用車(抹消)
-
139
51
70
60
70
20
21
-43
79
-
-
410
296
300
240
240
180
282
70
291
-
保有
合計
合計
出典:国際自動車工業連合会 OICA ホームページ(http://www.oica.net/category/)
※ 当年の抹消登録台数(推計)
24
= 前年の保有台数+当年の新規登録台数(≒新車販売台数)-当年の保有台数
図 3.2.2
サウジアラビアにおける自動車台数の推移
サウジアラビアの石油精製は国営サウジアラムコが独占しており、現在、9 つの製油所
を保有し(ジーザーン Jizan を除く、8 ヵ所が稼働中)、精製能力は合計で日量 331 万バレ
ルである(図 3.2.3、表 3.2.3)。その中で、外資との合弁の製油所 4 ヵ所が、輸出用とし
て低硫黄燃料(Euro5 基準、硫黄分 10ppm 以下)を生産あるいは目指している(ペルシャ
湾沿岸の製油所はアジア・極東向け、紅海沿岸の製油所は欧州向け) 8),9),10) 。
将来、SASO による燃費・排出ガス試験を実施する際、試験用燃料として、上記の輸出
用低硫黄燃料を用いることを検討する必要がある。
25
出典:Saudi Aramco 2014 Annual Review
図 3.2.3
サウジアラビアにおける製油所の位置
表 3.2.3
サウジアラビアにおける製油所の概要
製油所 (都市)
ア
ラ
ム
コ
単
独
外
資
と
の
合
弁
精製能力
(千バレル/日)
立地
操業会社、アラムコ出資比率
ラスタヌラ (Ras Tanura)
550
ペルシャ湾沿岸
アラムコ 100% (Saudi Aramco)
ヤンブー (Yanbu)
240
紅海沿岸
同上
リヤド (Riyadh)
126
内陸部
同上
ジェッダ (Jeddah)
90
紅海沿岸
同上
ジーザーン (Jizan)
400 (輸出専用)
紅海沿岸
同上、2016年以降に稼働予定
ラービグ (Rabigh)
400
紅海沿岸
アラムコ 37.5%、住友化学
SAMREF ヤンブー (Yanbu)
400 (輸出専用)
紅海沿岸
アラムコ 50%、エクソン・モービル
YASREF ヤンブー (Yanbu)
400 (輸出専用)
紅海沿岸
アラムコ 62.5%、中国 SINOPEC
SASREF ジュベイル (Jubail)
305 (輸出専用)
ペルシャ湾沿岸
アラムコ 50%、シェル Shell
SATORP ジュベイル (Jubail)
400 (輸出専用)
ペルシャ湾沿岸
アラムコ 62.5%、トタール Total
出典:Saudi Aramco 2014 Annual Review、
サウジアラビアの石油・エネルギー産業、JPEC レポート、2014 年 12 月 12 日
ARC レポート サウジアラビア 2015/2016 年版、ARC 国別情勢研究会、2015 年 8 月 31 日
26
3.3
自動車の燃費・排出ガス規制
サウジアラビアの乗用車の車種構成は米国に類似し、大型車が多いため、乗用車の平均
燃費(km/L)は 8 km/L と、日本の 16 km/L に比べ、半分程度である
11)
。このため、サ
ウジアラビアでは自動車の燃費向上が重視され、乗用車および小型トラックを含めた LDV
(Light Duty Vehicle)に対して、2014 年 1 月に燃費ラベル要件が発行され、2014 年 8
月から、ショールームでのレベル提示、2015 年 1 月以降は車両への貼付義務付けが開始
された
12),13)
。燃費ラベルの導入により、省エネの啓発としてユーザーに燃費が見えるよ
うになったが、極めて安価な燃料価格のため、その実効性が懸念される。このため、サウ
ジアラビア政府は次の段階として、2014 年 11 月 16 日に、各国自動車メーカー78 社と燃
費規制遵守の覚書を結び、2016 年 1 月からは燃費規制が施行されることになった 7),14),15),16) 。
ここでは、燃費ラベル、燃費規制、排出ガス規制の 3 つの主要な規制について、その概
要と課題を述べる。
(1) 燃費ラベル
燃費ラベル規制(SASO 2847-2013)は、2013 年 12 月に導入決定、2014 年 8 月から施
行され、新車(乗用車、小型トラック、車両総重量 3,500 kg 以下)が対象となった。図
3.3.1 に、乗用車に関する燃費ランク(6 段階)と燃費ラベルの一例を示す。
出 典 : SASO 2847-2013、 Fuel Economy Labelling Requirements for new Light Duty Vehicles
図 3.3.1
乗用車の燃費ラベルの区分と一例
ディーラー展示場において燃費ラベルの提示が義務付けられており、2015 年 1 月(展
示パネルに貼り付け、SASO 2847-2013 版)と 2016 年 2 月(左後部ドアガラスに貼り付
け、SASO 2847-2015 版)の状況を、図 3.3.2 に示す。ユーザーが使用している車に燃費
ラベルを貼り付ける義務はないが、誇示するためか、物珍しさからか、貼り付けたまま走
行している車を時折見かけるとのことである。
燃費ラベルの登録・入手の仕組みは、次の手順による。まず、湾岸協力会議 GCC(Gulf
Cooperation Council)の型式認証後、SASO ポータルサイトからメーカー登録(有料)を
行い、SASO 承認後、ラベル購入申請(有料)し、SASO 確認後、燃費ラベルの電子ファ
27
イル(PDF、JPG)がダウンロード可能となる。
(a) 2015 年 1 月の時点では、燃費ラベルは展示パネル上に貼り付け(T 社)
(b) 2016 年 2 月の時点では、規制改定に則り、左後部のドアガラスに貼り付け(H 社)
図 3.3.2
ディーラー展示場の燃費ラベルの一例(乗用車用)
燃費ラベル規制の改訂版が 2015 年から施行されているが、日系メーカーへの聞き取り
によると、下記の問題が発生しており、SASO と GSO に改善を要求している。
①2016 年 1 月 1 日から、通関時に輸入車すべての燃費ラベルを確認することになり、輸
出国の工場出荷時に貼り付けておく必要が発生した。しかし、SASO ポータルへのメー
カー登録から燃費ラベル入手まで 25 日ほどかかるため、メーカー側の量産日程に影響を
与える(出荷遅延)懸念がある。
②SASO ポータルでは、他社の登録データが読める状態であり、情報セキュリティが担保
されていない。
③SASO 上部組織の湾岸協力会議標準化機構 GSO(Gulf Standard Organization)でも燃
費ラベル規制(GSO42-2015)が始まったが、燃費ランク 6 段階の定義は同じで、ラベル
のデザインの差もほとんどないことから(図 3.3.3) 17) 、統合化が望まれる。
28
(a) GSO 燃費ラベル
図 3.3.3
(b) SASO 燃費ラベル
GSO と SASO の燃費ラベル
(2) 燃費規制
2014 年、サウジアラビア政府は新車と中古車の燃費規制案を発表した。燃費ラベルと同
じく、乗用車と小型トラックが対象である。表 3.3.1 に LDV の燃費規制の概要をまとめる。
この燃費規制は別名 Saudi CAFE と言われる通り、米国燃費規制を参考しており、企業平
均燃費(Corporate Average Fuel Economy)、車両の投影面積であるフットプリント(前
後軸の距離×左右輪の距離)に基づく燃費区分(車両軽量化を促進する狙い)、米国走行サ
イクル(市街地走行と高速道走行の混合)を採用している。適用期間は、2016 年 1 月 1
日から 2020 年 12 月 31 日の 5 年間で、最終的には米国並みの燃費(米国 2017 年型値)
を実現することを目指している。なお、中古車に対しては個別車両燃費規制(最低燃費の
設定)である
6),7),14),15) 。
日系メーカーへの聞き取りでは、下記の問題点が指摘されている。
①SASO ポータルに登録した燃費データから算出した企業平均燃費について、SASO 側と
メーカー側で一致しない(例、10%程度の乖離あり)。しかし、ポータル上の算出過程が
不明のため、その原因がつかめない。
②2018 年 1 月 1 日 から、国際試験所認定協力機構 ILAC(International Laboratory
Accreditation Cooperation)による認定機関(実質、ISO 17025(試験所認定)あるい
は 17020(検査機関認定))による燃費データの提出が求められるが、世界的に認定機関
が少ないため、100 モデルもの販売を抱えるメーカーは対応しきれない可能性がある。
そもそも、GCC 型式認定を受けた段階で、排出ガス試験データと共に燃費データも提出
29
可能であり、新たな試験を実施することは不要と考えられる。
③SASO による燃費試験の測定燃費が、メーカーの測定燃費と乖離する懸念がある。
表 3.3.1
項 目
適用時期
サウジアラビア(KSA)の燃費規制(Saudi CAFE)の概要
最終法規案(2014年版)
備 考
2018年末までに、ステークホルダーと規制の評価
を実施。2021~2025年の延長を検討。
2016年1月1日~2020年12月31日 (5年間)
対象車
KSAに輸入されるすべてのLDV(Light Duty Vehicle)、すなわ
ち、車両総重量GVW 3,500 kg 以下の乗用車(乗員10人以下)
や小型トラック(SUV、ピックアップ)。新車だけでなく、中古車(現
状のモデル年より2年以上古い車か1,000 km以上走行した車)
も対象。
目標燃費
目標燃費(km/L)は、毎年、引き上げられる。乗用車(新車)の
目標燃費の試算例を、下記に示す(ICCT試算)。
2020年には、3年遅れで、米国並み(2017年型
2016年 14.2、 2017年 14.5、 2018年 14.9、
値)となる。
2019年 16.7、 2020年 17.0
中古車の最低燃費は、
乗用車 10.3 km/L、小型トラック 9.0 km/L。
燃費算定
新車に対して、企業平均燃費 CAFE (Corporate Average Fuel
年3回の報告義務あり。
Economy)、実際に販売した乗用車、小型トラック、それぞれの平
乗用車、小型トラック間のクレジット移転は可能。
均燃費を算出。中古車については、個別燃費規制。
燃費試験法
US EPA Federal Test FTP-75 (市街地走行燃費)、
US EPA Federal Test HWFET (ハイウェイ走行燃費)、
の複合燃費(単位: km/L)。
なお、上記の試験の代わりに、新欧州走行サイクルNEDCによ
る試験を行い、換算することも可能(換算表添付)。
複合燃費の計算式は、
1/[(0.55/市街地燃費)+(0.45/ハイウェイ走行燃
費)]
燃費基準ドラフトには、試験用燃料の規格の記述
なし。
試験の認定
2018年1月1日以降、SASO試験所、または、国際試験所認定
協力機構 ILAC (International Laboratory Accreditation
Cooperation) の認証を取得した試験所のデータを採用。
SASO試験所の稼働は、2017年以降と推測。当
面、SASO試験所だけで、各国LDVのすべての認証
試験は不可能であり、ILAC認証試験所との併用が
不可欠と予想される。
日米欧の燃費規制では、新車のみ。
警察、救急、消防、軍隊等の車両は対象外。
世界的な販売台数が、年1万台以下の少量生産
メーカーは対象外。
段階的な導入措置 規制対象の台数について、猶予あり。
(Phase in)
2016年 80%、2017年 90%、2018年以降 100% が対象。
クレジットの運用
エアコン効率クレ
ジット
黒字(目標達成)の有効期限 5年、
赤字(目標未達)の返済期限 3年
3年間未達の場合、輸入禁止の可能性あり。
乗用車 0.0026 L/km、 小型トラック 0.0037 L/km が上限。た
他に、オフサイクル(排熱回収、アイドリング低減、
だし、2018年以降の適用。効率計測は、米国EPA AC17 試験
エネルギー回生ブレーキ等)のクレジットあり。
法。
出典1:SASO 29242-2014, Saudi Arabia Corporate Average Fuel Economy Standard (Saudi Cafe) for
incoming Light Duty Vehicles (2016-2010)
出 典 2: Proposed Sudi Arabia Corporate Average Fuel Economy Standard for new Light-Duty
Vehicles (2016-2020), ICCT, December 2014
(3) 排出ガス規制
サウジアラビアにおけるガソリン乗用車および小型トラック(Light Duty Vehicle、車
両総重量 3,500 kg 以下)の排出ガス規制は GCC 規制として、現状、Euro2 である
18)
。
近い将来、ガソリン車には Euro4(あるいは Euro3)、ディーゼル車には Euro3 の導入が
検討される可能性がある。前述した通り、サウジアラムコは硫黄分 10ppm 以下(Euro5
対応レベル)の燃料を供給しているが、原則、輸出向けとしており、国内にはほとんど流
通していないと考えられる。GCC 諸国の燃料品質向上は遅々として進まず(サウジアラビ
30
アの硫黄分規制値は、ガソリン 1,000 ppm、軽油 500 ppm
19 ))
、GSO
は Euro4 導入(硫
黄分規制値 50 ppm)を諦め、Euro3(硫黄分規制値は、ガソリン 150 ppm、軽油 350 ppm)
の導入を優先することを検討しているとの情報があり、その実施可能性について日本側も
検討しておく必要がある。
3.4
自動車の燃費・排出ガス認証試験と設備
自動車の燃費・排出ガス認証試験は、試験室内において試験車をシャシーダイナモメー
ター上に設置し、所定の環境(室温 20~30℃、相対湿度 30~70%)の下、各国で定めら
れた走行パターンに基づいて模擬走行させ、排気管から収集した排出ガス(CO、HC、NOx、
CO2)の総量を測定し、排出ガス原単位(g/km)や燃費(km/L)を算出する(図 3.4.1)。
この際、試験車の実走行状態にできるだけ近づけるため、テストコース上の惰行試験から
求めた走行抵抗(転がり抵抗+空気抵抗+慣性抵抗)をシャシーダイナモメーターからエ
ンジン負荷として与える。また、試験車両の駆動輪は回転しているが、実際に走行してい
るわけでないので(速度ゼロ)、車両冷却ファンにより走行パターンに合わせた風を送り、
エンジン等の冷却状態を実走行に近づけている。なお、燃費の算出には、排出ガス中の炭
素を含むガス成分(CO、HC、CO2)から炭素量を求め、試験燃料中の炭素量との関係か
ら燃料消費量を得るカーボンバランス法が採用されている。よって、燃費試験と排出ガス
試験は一体である。
シャシーダイナモメーターには 2WD 用と 4WD 用があるが、サウジアラビアでは大型
SUV(4WD 仕様)が多く、4WD 用シャシーダイナモメーターの導入は欠かせない
(図 3.4.2)。
よって、SASO の燃費・排出ガス試験では、2WD 用も併用できる 4WD 用設備を優先して
導入する方向である。
31
出典:世界の道路交通セクターにおける CO2 削減取り組みの提言, JAMA、2008
図 3.4.1
一般的な自動車の燃費・排出ガス試験方法(2WD 用)
出典:JARI 排出ガス・燃費試験パンフレット
図 3.4.2
4WD 用シャシーダイナモメーター試験設備の一例
32
【第 3 章の引用文献】
1) IMF world economic outlook database 2015 年 10 月版
2) BP Statistical Review of world energy workbook 2015 年 6 月版
3) 国際自動車工業連合会 OICA の自動車台数統計(http://www.oica.net/)
4) 燃料価格や水・電力の公共料金を値上げ(サウジアラビア)、JETRO 通商弘報、2016 年 1 月 19 日
5) 平成 25 年度国際エネルギー使用合理化等対策事業(サウジアラビアにおける省エネ制度確立・普及
支援事業)報告書、三菱総合研究所(MRI)、2014 年 3 月
6) 乗用車の燃費規制を導入、JETRO 通商弘報、2014 年 12 月 3 日
7) 乗用車向け燃費基準は 2016 年から適用に、JETRO 通商弘報、2015 年 12 月 8 日
8) Saudi Aramco 2014 Annual Review
9) サウジアラビアの石油・エネルギー産業、JPEC レポート、2014 年 12 月 12 日
10) ARC レポート
サウジアラビア
2015/2016 年版、ARC 国別情勢研究会、2015 年 8 月 31 日
11) Dr. Naif M. Alabbadi、Saudi Energy Efficiency Center(活動紹介)、SEEC、
2013 年 10 月、SEEC ホームページ(http://www.seec.gov.sa/)
12) SASO 2847-2013、Fuel Economy Labelling Requirements for new Light Duty Vehicles
13) SASO 2847-2015、Fuel Economy Labelling Requirements for new Light Duty Vehicles
14) SASO 29242-2014, Saudi Arabia Corporate Average Fuel Economy Standard (Saudi Cafe) for
incoming Light Duty Vehicles (2016-2010)
15) Proposed Sudi Arabia Corporate Average Fuel Economy Standard for new Light-Duty Vehicles
(2016-2020), ICCT, December 2014
16) Proposed Sudi Arabia Corporate Average Fuel Economy Standard for new Light-Duty Vehicles
(2016-2020), ICCT, December 2014
17) GSO 42-2015 Motor Vehicles General Requirements
18) 排気・燃費ハンドブック 2015、日産自動車、2015 年 3 月
19) International Fuel Quality Standards and their Implications for Australian Standards, Hart
Energy, Oct. 27, 2014
33
4.
おわりに:技術支援の方向性
ここでは、SASO 燃費・排出ガス試験所への技術支援について、今後の方向性を検討す
る。最初に、技術支援の全体像を示し、続いて、試験設備導入、試験研修とクロスチェッ
ク、ISO 17025 取得に分けて述べる。
(1) 技術支援の全体像
SASO 燃費・排出ガス試験所への技術支援の展望と想定されるスケジュールを、図 4.1
に示す。技術支援は 2 つのフェーズに区分される。
図 4.1
SASO 燃費・排出ガス試験所への技術支援に関する展望
第 1 フェーズは、2016~18 年の 3 年間で、試験所の確実な立ち上げを目指す。2016 年
に支援事業の枠組みを定めた MOU を SASO と支援機関の間で締結し、支援機関の提言に
基づいて、SASO は支援機関および試験設備メーカーとの契約を進める。試験設備の納入
は 2017 年から始まり、2018 年中に試運転と運用の研修を終える。同時に、2017 年から
試験技術の包括的な研修(基礎研修)を開始し、2018 年に試験員の技量に関するクロスチェッ
クを含めた長期の研修(個別研修)を日本およびサウジアラビアで実施し、2018 年に試験
所が稼働できる状態にする。ただし、SASO 側の予算の制約や試験員確保の状況により、
5 年程度に長引く可能性がある。
第 2 フェーズは試験所のレベルアップを目指し、次期規制強化や国際基準調査に伴う設
備の拡張を行う。また、サウジアラビアの燃費規制では、国際試験所認定協力機構 ILAC
34
が認定した試験機関のデータを採用することになっており、SASO 燃費・排出ガス試験所
でも ILAC による認定、すなわち、ISO 17025 の取得が必要と考える。さらに、高価な試
験設備の有効利用と試験員の能力・モチベーション向上のため、省エネ・CO2 排出削減に
関する政策評価や研究開発に貢献する事業を、大学等の公的機関と連携して進めることも
検討することを提案する。
(2) 試験設備導入
試験棟建屋には、燃費・排出ガス試験、タイヤ転がり抵抗試験、断熱材試験、LED 試験
の 4 つが入る計画である。燃費・排出ガス試験のレイアウトについては、4WD 用試験室、
2WD 用試験室、分析室、ソーク室、標準ガス保管室、作業部屋を確保し、将来の拡張と
して、二輪車試験室、大型エンジン試験室のスペースも確保する。空調システムと事務室
は 2 階に設置する。なお、試験用燃料を保管する給油スタンドは、試験棟近くの敷地内に
設置する計画である。
現状予算の制限から、まずは、4WD 用試験ができる体制を作り、その後、2WD 用試験
の設備を導入する可能性が高い。このため、予算規模により、第1フェーズは 3 年で終了
せず、5 年程度かかることも想定しておく必要がある。
(3) 試験研修とクロスチェック
試験設備導入と並行して、試験員養成のための研修とクロスチェックは次のように計画
している。
①研修員数は、最低 5 名程度。内訳は、管理者 1、試験員 4(2 名×2 チーム)。
試験員には、整備員の有資格者あるいは相当の技術を持つ者が 1 名含まれることが望ま
しい。また、試験員 4 名の理由は、試験員は最低 2 名(運転、計測)が必要で、2WD 用、
4WD 用の 2 つの試験を同時に実施することを想定しているため。この体制でフル稼働し
た場合、1 基あたり 1 日 2 台の試験が可能として、2(台/日)×200(日/年)×2 基=
400 台/年の試験が実施できるものと期待される。
②包括研修(基礎研修)(訪日)
まず、研修員に試験に関する基礎知識の習得(座学)、試験・データ解析の体験(実習)、
試験設備メーカーへの見学を通して、試験の全体像や流れを実感していただくため、早い
段階(設備納入前、2017 年)で、10 日程度の訪日研修を実施する(図 4.2)。
③個別研修・クロスチェック(訪日)
続いて、SASO 試験員の技量評価(支援機関試験員と SASO 試験員による、同一設備・
同一試験車に基づくクロスチェック試験)を実施できることを目指して、4 週間程度の訪
日研修を 2017~2018 年に計画する(図 4.2)。この段階では、試験だけでなく、試験設備
の運用・保守に係る基本も教える。なお、運用・保守の実務研修は、SASO への納入・試
35
運転後に、試験設備メーカーが担当する。
なお、上記の研修内容には、走行抵抗を測定する惰行試験の実習は含まれていない。惰
行試験を含める場合、1 週間程度の延長が必要である。
④個別研修・クロスチェック(SASO にて)
SASO への試験設備納入・試運転終了後、支援機関試験員等の専門家派遣(4 名程度)
による現地研修・クロスチェックを実施する。期間は、2018 年後半、5 週間程度を計画し
ている。
以上の研修・クロスチェックにより、SASO 試験員が自らの設備を用いて、燃費・排出
ガス試験を実施できる技量を獲得し、経験を積むことにより、精緻かつ精度が担保された
審査体制が構築されることを期待したい。
図 4.2
日本における技術研修の概要(訪日研修)
36
- 禁無断転載 -
経 済 産 業 省 委 託
平 成 27 年 度
新興国市場開拓事業
(技術実証を通じた相手国での新技術等の普及促進事業)
「サウジアラビア:乗用車燃費規制認証に係る実証事業」
成果報告書
平 成 28 年 3 月
発
行
一般財団法人 日本自動車研究所
〒305-0822
茨城県つくば市苅間 2530
TEL
029(856)1120
FAX
029(856)1124