藤戸レポート 欧米超緩和策の「終わりの始まり」 債券相場の「歴史に残る夏」 (グラフ1) 歴史的な低水準となった 日本・ドイツ・スイスの長期金利 2016 年 9 月 20 日 2008 年 9 月のリーマン・ショック以来、世界の中央銀行は一貫して超緩 和策を推進してきた。昨年 12 月には、FRB(米連邦準備制度理事会)が利 上げに転換したものの、ECB(欧州中銀)、日銀、中国人民銀行等は、「な お超緩和政策を強化せざるを得ない」というのが、マーケットの一般的な見 方だった。IMF(国際通貨基金)のラガルド専務理事は、「今年の世界の成 長率は、長期的平均(1990~2007 年の 3.7%)を 5 年連続で下回ることにな ろう」と警告しており、グローバルな景気動向からも、中央銀行の緩和策が 続くと見るのは論理的な見通しだ。こうした予測を背景に、各国の 10 年国 債利回りは、今夏に一時日本で▲0.300%、ドイツも▲0.205%までのマイナス 金利となり、スイスに至っては▲0.640%に沈んだ(グラフ 1)。スイスは、一時 50 年国債でさえマイナスとなる珍事もあった。2011~2012 年のユーロ危機 に際して、10 年国債金利が 7%を超えた南欧重債務国でも、イタリアが 1.033%、スペインも 0.900%にまで低下する局面があった(グラフ 2)。象徴的 なのは、ユーロ危機の張本人であったギリシャでさえ、2012 年 3 月の 44.212%から今夏には 8%台での安定推移となった。世界の投資家のマネー は、国債に奔流となって押し寄せていたのだ。最初は国債の「質」を重視し ていたが、次第に金利があれば「多少のリスクは厭わない」という状況に変 質した。狂騰債券相場が、「歴史に残る夏」となる可能性が極めて高い。 (%) 10年国債利回り推移(日本・ドイツ・スイス) 1.000 ドイツ 0.800 日本 0.600 Brexit (6/23) スイス 0.400 0.200 0.000 -0.200 -0.400 -0.600 (出所)BloombergのデータをもとにMUMSS作成 -0.800 15/7/1 15/8/31 15/10/29 15/12/29 巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。 16/2/26 16/4/27 16/6/27 16/8/25 2016 年 9 月 20 日 ストラテジー マーケット分析 (グラフ2) 南欧重債務国の 金利も急低下 (%) 10年国債利回り推移(イタリア・スペイン) 9.000 ECBがマイナス 金利導入 (2014/6/5) 8.000 7.000 6.000 スペイン イタリア 5.000 Brexit (6/23) 4.000 3.000 ECBドラギ総裁 「何でもする」 (2012/7/26) 2.000 1.000 (出所)BloombergのデータをもとにMUMSS作成 0.000 2011/1 2011/9 2012/5 2013/1 2013/10 2014/6 2015/2 2015/11 2016/7 ドラギECB総裁の醒めた発言 このユーフォリア(熱狂的陶酔感)に水を掛けたのが、ドラギECB総裁で ある。リーマン・ショック、ユーロ危機と続いた難局を、「私を信じて欲しい。 やれることは何でもやる」と言いながら、超緩和策を連発することによって克 服した。偉大な成果であることは間違いない。しかし、追加緩和を予測する 向きも少なくなかった9/8のECB理事会では、「当面、追加刺激策は必要な い。資産購入プログラムの延長は協議しなかった」と、醒めた発言が目立っ た。最大のリスクと思われたBrexit(英国のEU離脱)では、いまだに英メイ首 相が正式な離脱のアプローチを行っていない。口では、「英国の離脱は決 まったことだ」といいながら、躊躇する姿勢を継続している。1939年9月のナ チス・ドイツによるポーランド侵攻後、英仏両国はドイツに宣戦布告したにも かかわらず、1940年5月の独軍フランス侵攻作戦まで、陸戦がほとんど無い 状況が続いた。後に「フォウニー・ウォー」(Phoney War。まやかし戦争)と呼 ばれるが、独軍部が「仏侵攻作戦には準備不足」と反対したことが背景にあ るとされている。一部では、ヒトラーが英国に畏敬の念を抱いており(皇室が 親密という歴史もあった)、この時点でも直接衝突を避け、外交的解決を模 索していたとの見方もある。どうも、メイ首相の行動を見ていると、「フォウニ ー・ネゴシエーション」(まやかしの交渉)の気配が漂っており、「急遽残留」 の目もあるのではないか。 英国メイ首相の「言語明瞭・行 たしかに、Brexit 直後には、7 月の英消費者信頼感指数が▲12 まで悪 化し、同マークイットの PMI(購買担当者景気指数・総合)も 47.6 に落ち込 んだ。しかし、8 月のデータでは、消費者信頼感指数が▲12→▲7 へと改善 し、マークイットの PMI も 47.6→53.6 と景況判断の分岐点である 50 を超え てジャンプアップしている(グラフ 3)。雇用環境も良好で、7 月の失業率は 4.9%となった。これで 3 ヵ月連続の 4.9%であり、2005 年 10 月以来の低水準 にある。ショック状況が落ち着けば、今の「フォウニー」な状況は居心地がいい 動曖昧」 巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。 2 2016 年 9 月 20 日 ストラテジー マーケット分析 (グラフ3) 英国の景況感が 持ち直しの動き 英国の景況感推移 15.0 65.0 10.0 60.0 53.6 (2016/8) 5.0 0.0 55.0 50.0 47.6 (2016/7) 5.0 45.0 消費者信頼感指数(左) ▲7 (2016/8) マークイット PMI(右) 10.0 40.0 ▲12 (2016/7) (出所)BloombergのデータをもとにMUMSS作成 15.0 2014/1 2014/7 2015/1 2015/7 2016/1 35.0 2016/7 ことになる。輸出関連業種の中には、ポンド安による恩恵さえ報道されてい る状況だ。さすがに 6 月の国民投票の大騒ぎが記憶に新しい間は、メイ首 相の「言語明瞭・行動曖昧」のスタンスが続くことになろうが、来年以降に 「やっぱり残留がいい」との声が高まった時点で、「再国民投票」→「残留」 の可能性が漸増しているように思える。もし、英国の離脱問題が EU 諸国へ も大きなネガティブ・インパクトを与えないとすれば、当然 ECB の匙加減も 変容することになる。実際、9/8 に発表された ECB スタッフによるユーロ圏 の成長率見通しは、今年 1.6%→1.7%に僅かながら上方修正された。来年は 1.7%→1.6%に若干下方修正されたものの、合わせてみれば 1%台後半の成 長は堅いことになる。「さらなる追加刺激策は必要ない」とのドラギ総裁の解 釈も、ある意味では当然と思われる。 ドラギ緩和策の「終わりの始 まり」 このドラギ発言が示唆するものは、ECB超緩和策の「終わりの始まり」であ る。もちろん、直ちに引締めに転じるわけではない。しかし、中銀預金金利 の4回にわたる引き下げ、月間800億ユーロの量的緩和、地方債・社債を含 めた購入プログラムの多様化、銀行に対する潤沢な長期資金供給策 (LTROⅡ)等々のフル緩和策に、さらなる拡大は必要ないと考えるのも自 然であろう。つまり、当面フル緩和策は維持されるものの、さらなる地平線の 先には「出口」が見え始めていることになる。満月の後には、月が欠け始め るのが道理である。長期的な視野に立てば、壮大な緩和策がターニング・ ポイントを迎える可能性が高まっていることは否定できない。この事態に最 も驚いたのは債券投資家である。独10年国債利回りは、7/6の▲0.205%か ら9/14には0.079%にまで急騰する局面があった(グラフ4)。少なくとも、10年 国債はマイナス金利から脱却したことになる。欧州債の指標となる独国債の 金利が上昇すれば、各国債に波及して行く。そして、株式においても、好配 巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。 3 2016 年 9 月 20 日 ストラテジー マーケット分析 (グラフ4) マイナス金利を脱した 独10年国債利回り (%) ドイツ10年国債利回り推移 0.400 0.307 (4/27) (出所)BloombergのデータよりMUMSS作成 0.300 ECB 理事会 (9/7) 0.200 0.079 (9/14) 0.100 0.000 0.100 ▲0.127 (9/7) 0.200 ▲0.205 (7/6) 0.300 4/1 4/29 5/27 6/24 7/22 8/19 9/16 当で買われていたエーオン(税前配当利回り7.58%。ブルームバーグ)等の 電力株が売られる展開となった。独DAX指数構成の30銘柄の騰落率を見 ると(ECB理事会の9/8~15)、エーオンは▲8.2%でワースト・パフォーマー である。7/14の高値8.56からは、9/15安値6.51で下落率は▲23.9%に達して いる。ドラギ緩和策の「終わりの始まり」を読んでいる(グラフ5)。 (グラフ5) 「好配当株」のエーオンが急落 (ユーロ) エーオン(EOAN)の株価推移 9.000 8.56 (7/14) 8.500 ECB 理事会 (9/7) 8.000 7.500 7.000 ▲23.9% 6.500 ▲6.51 (9/15) (出所)BloombergのデータよりMUMSS作成 6.000 4/1 4/25 5/18 巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。 4 6/9 7/1 7/25 8/16 9/7 2016 年 9 月 20 日 ストラテジー マーケット分析 世界の投資家を躁鬱病に陥れ るFRB (グラフ6) 米長期金利上昇で NYダウが急落 さて、世界の投資家を躁鬱病に陥れているのがFRBだ。9/9には、ハト派 (金融引締め策に慎重)色が濃かったローゼングレン・ボストン連銀総裁が、 「利上げを長く待ち過ぎれば米経済が過熱する恐れがあり、金融安定をリス クにさらしかねない」と述べ、マーケットは「タカ派(引締めに積極的)に転向 した」と解釈した。ローゼングレン総裁が、FOMC(公開市場委員会)の投票 権を有していることも、インパクトを大きくした要因と思われる。この発言を受 けて、米10年国債利回りは9/8引値の1.599%から9/13には1.749%まで急上 昇する局面があった。つまり、「欧米同時長期金利上昇」の様相を呈したの だ。当然ながら、株価にとってはネガティブだ。ダウ工業株30種平均は9/9 に394ドル安・▲2.1%と久々の大幅下げになった(グラフ6)。そしてDAX構成 銘柄と同様に、S&P500種指数の産業グループ株指数(24業種)では、好配 当を評価されていた不動産▲3.9%、公益事業▲3.7%がワースト・ワン・ツー を占めた。極めてロジカルな動きである。つまり、欧米で、債券・株式の同時 下落が鮮明になったのだ。ユーフォリアに酔っていた投資家は、急速に覚 醒せざるを得ない状況に追い込まれた。 米長期金利とNYダウの推移 (%) (ドル) 2.800 19,500 (出所)BloombergのデータをもとにMUMSS作成 英国民投票 (6/23) NYダウ(右) 2.400 19,000 18,668 (8/15) 2.600 18,500 18,000 2.200 ECB理事会 (9/8) 2.000 17,500 17,000 1.800 16,500 1.600 米10年国債利回り(左) 16,000 1.400 15,500 1.318(7/6) 1.200 15,000 4/1 「9月利上げ」は時間切れ 4/28 5/25 6/22 7/20 8/16 9/13 週明け9/12には、ハト派の代表であるブレイナード理事の講演があった が、市場はローゼングレン総裁の「転向」があっただけに、警戒感を強めて いた。しかし、同理事は、「緩和政策の解除には慎重さが求められる。予防 的な利上げの論拠は弱まっている」と従来の意見を繰り返し、投資家はホッ と胸を撫で下ろすことになった。ブレイナード理事は、①インフレが従来より も労働市場の回復に反応しにくい、②労働市場のスラック(弛み)は持続す ると見られる、③海外需要の弱さやドル高を背景にした物価低下圧力は、し ばらく米経済の重石となる、④早過ぎる利上げによるショックよりも、遅すぎる 利上げによる需要増への対応の方が容易である、等々明瞭に早期利上げ 巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。 5 2016 年 9 月 20 日 ストラテジー マーケット分析 への反対意見を述べた。私も諸手を挙げて賛成したい(彼女が美人だから ではない)。このブレイナード発言を受けて12日のダウは239ドル高、10年国 債利回りも1.662%まで低下する局面があった(前掲グラフ6)。ただし、フィッシ ャー副議長を始めとする早期利上げ派は、利上げ志向のスタンスは維持し たままと思われる。物理的に9月利上げは時間切れの可能性が高いが、今 回FOMCでは12月利上げへの地均し的な文言が並ぶことになろう(グラフ 7)。したがって、ブレイナード発言による切り返しは一時的に終わり、米株 式はその後も激しい騰落を繰り返している。米株相場の本質は「金融相場」 である。企業業績の回復見通しの後ズレが続いているだけに、中央銀行の 引き醒め示唆が最も株価への悪材料となる。ローゼングレン総裁の「転向」 以来の騒動は、FRBの早過ぎる利上げへの警鐘と解釈できよう。「金融政策 のノーマル化」の命題は、決して容易ではない。 (グラフ7) 確率からみても 9月利上げは時間切れ 米国の利上げ・利下げ確率とNYダウ (ドル) 260.0 19,000 (出所)BloombergのデータをもとにMUMSS作成 240.0 18,500 NYダウ(右) 220.0 18,000 200.0 17,500 180.0 160.0 英国民投票 (6/23) 140.0 ブレイナード FRB理事 講演(9/12) 17,000 16,500 16,000 120.0 (%) 15,500 100.0 利上げ確率(12月・左) 利上げ確率(9月・左) 15,000 80.0 14,500 60.0 40.0 14,000 利上げ開始 (12/16) 13,500 20.0 0.0 11/2 再び「タントラム」のリスク 12/7 1/12 2/17 3/22 4/26 5/31 7/5 8/8 9/12 13,000 欧米以上にインパクトが大きかったのがエマージング市場である。年初来 高値の更新が続いていたブラジル・ボベスパ株価指数は、9/9だけで▲ 3.7%の急落となった。9/13にも▲3.0%の下落で、50日移動平均線も割り込 んでしまった。通貨レアルも、9/8引値1ドル=3.214レアルから9/14には 3.344レアルまで売られた。▲4.0%の下落である。つまり、株価、通貨の合計 では、「ローゼングレン騒動」で1割以上の下落だ。基本的スキームは、2013 年5月の「テーパー・タントラム」(バーナンキ前FRB議長の量的緩和の段階 的縮小示唆による急落)と同工異曲である。メキシコのボルサ指数も同様 で、8/15高値48,956から9/14安値45,700まで▲6.6%下落である(グラフ8)。年 初来高値を更新してきた両指数に、ピークアウトの気配が出ている。アジア 株も同様で、インドネシア・ジャカルタ指数は、8/9高値5,476から9/14安値 5,128で▲6.3%、タイSET指数も8/16高値1,556から9/12安値1,410で▲9.3% 巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。 6 2016 年 9 月 20 日 ストラテジー マーケット分析 (グラフ8) エマージング市場の株価急落 ボベスパ(ブラジル)・ボルサ(メキシコ)指数の推移 (p) 56,000 (p) 65,000 (出所)BloombergのデータをもとにMUMSS作成 60310 (9/8) 54,000 60,000 ボベスパ指数(右) 56459 (9/13) 52,000 48956 (8/15) 50,000 55,000 50,000 48,000 45,000 ボルサ指数(左) 46,000 40,000 45700 (9/14) 44,000 35,000 42,000 30,000 4/1 4/28 5/25 6/21 7/18 8/12 9/8 の下落だ。債券、株式を含めたグローバル・マネーフローの変化となれば、 震源地である米国以上に、流動性の乏しいエマージング市場がダメージを 受けることになる。実際の利上げではなく、フィッシャー副議長を始めとした 幾人かの発言で、このトレンド転換だ。市場の意図せざるタイミングでの強 引な利上げとなれば、世界で再び「タントラム」(癇癪を破裂させたような大 変動)が起きることになろう。 「マイナス金利」策が今後の 軸? こうした世界的な流れの中で、日銀のみは追加緩和策を志向すると報道さ れている。それも、マイナス金利政策が軸になるとのことだ。エコノミストや債 券ストラテジストの声も、概ねマイナス金利策に傾斜している。しかし、株式担 当の立場から言えば、「マジっすか」というのが正直な気持ちだ。1/29以降に 何度も指摘したが、マイナス金利の深堀となれば、これは銀行株に巨大な重 石となる。本来業務たる融資の利鞘が潰れてしまえば、収益が大きく圧迫さ れるのは当然だ。これは今夏に金融庁が、「2017年3月期の決算で、メガバン ク3行で少なくとも3,000億円程度の減益要因になる」との調査結果を発表し たことで裏付けられている。また、先達であるECBは、過去に中銀預金金利を 4回下げているが、まさに利下げの階段をトレースするように、ユーロストックス の銀行株指数は鋭角的な下落を演じている(グラフ9)。ドイツ銀行のような大 銀行でさえ、昨年リーマン・ショック以来の赤字決算に陥ったのも、本業で稼 げなくなっているためだ。となれば、投資銀行業務、トレーディング業務、流 動性の低いデリバティブでリスクテイクして稼ごうとしたが、ものの見事に裏目 に出てしまった。ドイツ銀行の株価は、昨年高値33.4ユーロから今年8/3安値 11.0ユーロまで急落してしまった。足下では小幅リバウンドしているが、単なる アヤ戻しに過ぎない。CDSスプレッドも200ベーシス・ポイント台で推移してい る(グラフ10)。 巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。 7 2016 年 9 月 20 日 ストラテジー マーケット分析 (グラフ9) マイナス金利拡大で 欧州の銀行株指数が下落 ユーロストックス銀行株指数とECBの政策金利 (%) 1.00 (p) 180.0 (出所)BloombergのデータをもとにMUMSS作成 中銀預金金利 ⇒▲0.1%(2014/6/5) ⇒▲0.2%(2014/9/4) ⇒▲0.3%(2015/12/3) ⇒▲0.4%(2016/3/10) 0.80 C 160.0 0.60 140.0 0.40 120.0 ユーロストックス銀行株指数(右) 0.20 100.0 0.00 80.0 -0.20 中銀預金金利(左) 60.0 -0.40 -0.60 2014/1 (グラフ10) ドイツ銀行の株価急落 CDSスプレッドは200bp台に 40.0 2014/4 2014/8 2014/11 2015/3 (bp) 2015/7 2015/10 2016/2 ドイツ銀行株価とCDSスプレッド 40.00 (出所) BloombergのデータをもとにMUMSS作成 33.42 (4/14) 35.00 ドイツ銀行(右) CDSスプレッド(左) 250 30.00 200 25.00 150 20.00 100 15.00 11.06 (8/3) 50 0 2015/1 回る」 (ユーロ) 350 300 「コストがベネフィットを上 2016/6 10.00 5.00 2015/3 2015/6 2015/9 2015/12 2016/3 2016/6 2016/8 9/15、國部全国銀行協会会長は、「①マイナス金利政策は、7ヵ月が経 過する中で、実体経済への効果があまり表れていない。②企業や個人に運 用収益の減少をもたらしている。③顧客企業から前向きの活動を促進する という声は聞こえてこない。④マイナス金利のコスト(弊害)がベネフィット(恩 恵)を上回りかねない」とシビアな評価を下している。①の実体経済に関し ては、大きな意味では若干のプラス効果があることも事実だろう。しかし、期 巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。 8 2016 年 9 月 20 日 ストラテジー マーケット分析 待された低金利による住宅促進は不発と言っても良い状況だ。首都圏マン ションの販売戸数は、8 月も前年比▲24.7%となり、これで昨年 12 月から 9 ヵ月連続の二桁マイナスだ(グラフ 11)。また、販売の好不調の分岐点となる 契約率 70%も、8 月は 66.6%と 3 ヵ月連続で割り込んでいる。「マイナス金利 は不動産株にプラス」との一般的な概念はあるが、TOPIX33 業種の年初来 騰落率では、不動産セクターは▲22.7%とワースト 8 位である。TOPIX が▲ 15.9%であることを考えると、イメージと実際のギャップは大きい(9/15 時点。 ブルームバーグ)(グラフ 12)。特にマンション・デベロッパーとしての性格が 強い野村不動産 HD(プラウド)、東急不動産 HD(ブランズ)は、昨年 6 月 高値から右下方 45 度の調整波動が継続している。これから竣工の物件も 多いだけに、今後の在庫増のピッチには要注目となろう。 (グラフ11) 首都圏マンションの販売戸数 9ヵ月連続の二桁マイナス 首都圏マンション販売戸数(前年同月比) (%) 100.0 80.0 60.0 40.0 20.0 0.0 -20.0 -40.0 -60.0 (出所)BloombergのデータよりMUMSS作成 -80.0 2007 (グラフ12) 年初来騰落率 不動産はワースト8位 (全33業種) 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 東証33業種(ワースト・パフォーマンス・2015年末~9/15) 銀行 -30.6 鉱業 -29.7 証券 -27.9 空運 -26.0 海運 -25.6 電気ガス -24.7 保険 -22.8 不動産 -22.7 輸送用 -22.3 陸運 TOPIX -40.0 -19.2 (出所)BloombergのデータよりMUMSS作成 -35.0 -30.0 巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。 9 -25.0 -15.9 -20.0 -15.0 -10.0 -5.0 (%) 0.0 2016 年 9 月 20 日 ストラテジー マーケット分析 「逆資産効果」は消費マインド を冷却させる *三菱UFJモルガン・スタンレー証券株式会社 の役員(会社法に規定する取締役、執行役、監 査役又はこれに準ずるものをいう。)が以下の会 社の役員を兼任しています。:三菱UFJフィナン シャル・グループ (グラフ13) 半値になった銀行株指数 私が強調したいのは②である。同じく年初来パフォーマンスで、銀行セク ターは▲30.6%とワースト1位である。日経平均構成225銘柄の年初来騰落 率を見ても、212位三菱UFJFG▲34.2%、209位千葉銀行▲33.8%、206位ふ くおかFG▲32.7%、204位静岡銀行▲32.1%、203位新生銀行▲32.1%、195 位みずほFG▲29.9%等、メガバンク、地銀を含めて下位グループを形成し ている(同)。日経平均は▲13.8%であるため、ポートフォリオに銀行株のウェ イトが高いと、痛みは大きくなる。また、個人投資家の富裕層も、銀行株を多 く保有している。みずほFGの株主構成では、個人投資家は金融機関の 28.0%とほぼ並ぶ27.8%のシェアを占めている(2016/3期)。地方の富裕層 は、地元地銀株の保有も多い。したがって、この「マイナス金利政策→銀行 株下落」の逆資産効果は、極めて甚大なものになる。TOPX銀行株指数 は、昨年6/1高値246.1から今年7/8安値121.4まで▲50.6%、つまり半値にな った(グラフ13)。9/15引値は143.5と若干戻しているが、その痛みは依然大き い。富裕層が逆資産効果に直面すれば、マンション、車や宝飾品、美術品 等の奢侈品の消費が急減することになる。昨年来の個人消費の低迷は、単 に消費増税によるものではなく、この株安に伴う逆資産効果が大きい。とこ ろが、デフレ脱却を目指す日銀が、一方で年間6兆円のETF(上場投信)を 購入しながら、他方では銀行株に冷水を浴びせ続けているのだ。しかも、 「深堀」となれば、今後も継続することになる。 (p) TOPIXと銀行株指数 (p) 1,800 400 1702(8/11) TOPIX(左) 1,600 350 1,400 300 246.1 (6/1) 1,200 ▲29.5% 250 1192 (6/24) 1,000 200 銀行株指数(右) ▲50.6% 800 150 (出所)BloombergのデータをもとにMUMSS作成 600 2015/4 自己資本以上のリスクアセッ トを抱える日銀 143.5(9/15) 100 2015/6 2015/8 2015/11 2016/2 2016/4 2016/7 2016/9 日銀の「総括」は、マイナス金利や量的緩和に話題が集中している。しか し、「ETF買入」にも言及が必要だ。今回は、日銀のクレディビリティ(信頼性) の観点からアプローチしてみたい。日銀のETF保有額は、9/15時点で9兆 6,908億円の巨額に達している。今年3月末時点の日銀の自己資本額は、 資本勘定3兆1,591億円、引当金勘定4兆2,754億円で、計7兆4,346億円で ある。つまり、現時点でもリスクアセットであるETFを自己資本以上に保有して 巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。 10 2016 年 9 月 20 日 ストラテジー マーケット分析 いることになる。しかも、年6兆円の買入を継続すれば、遠からず20兆円以 上に到達することになろう(グラフ14)。問題になるのは、日本株は過去数年 に一度、50%前後の下落を演じていることだ。日経平均は、 ① 1989年12月高値38,915円→1992年8月安値14,309円・▲63.2%。 ② 1996年6月高値22,666円→1998年10月安値12,897円・▲43.1%。 ③ 2000年4月高値20,833円→2003年4月安値7,607円・▲63.4%。 ④ 2007年7月高値18,261円→2009年3月安値7,054円・▲61.3%。 の大幅安を記録した。①平成バブル崩壊、②金融システム不安、③ITバブ ル崩壊、④リーマン・ショックだが、まるで大地震のように周期性を持って大 幅安が襲っている(グラフ15)。仮に、日銀のETF保有残高が20兆円の時に5 割安となれば、10兆円の評価損となる。つまり、自己資本以上の評価損とな るわけだ。これは新たな公的資金の投入が必須となる。幸いなことに、今年 3月末では日銀のETFは1兆1,984億円の評価益であり、保有国債の評価益 は15兆2,200億円と分厚い。これだけの含み益があれば十分バッファーとな るが、将来想定外の幅で「株安・債券安」の事態が起これば、世界の投資家 は日銀のクレディビリティに懸念を抱くようになるかもしれない。つまり、年間 6兆円のETF買入策には、再検討の余地があろう。 (グラフ14) 2018年中に日銀の ETF購入金額20兆円超へ (億円) (円) 日銀ETF購入と日経平均 300,000 270,000 240,000 26,000 (出所)AstraManagerのデータをもとにMUMSS作成 日銀 異次元緩和 (2013/4/4) 20868 (6/24) 日銀ETF増額 3.3兆円 ⇒6.0兆円 (2016/7/29) 24,000 22,000 20,000 日経平均 (右メモリ) 210,000 18,000 17兆3600億円 (2017年末) 180,000 16,000 14,000 150,000 日銀 追加緩和 (2014/10/31) 120,000 11兆3600億円 (2016年末) 10,000 8,000 90,000 60,000 12,000 6,000 日銀ETF購入額 (左メモリ) 4,000 9兆2,378億円 (2016/8末) 30,000 0 2012/1 2012/9 2013/5 2014/1 2014/9 2015/5 2016/1 2016/9 2017/5 2018/1 2,000 0 9 月第 1 週の投資主体者別売買動向は、外国人▲3,338 億円、個人(現 「グローバル・マネーフロー」の 金)▲1,268 億円、信託銀行▲444 億円で、買いは事業法人の 349 億円が目 変化には抗し得ない 立った程度だった(表 1)。日銀の ETF 買いは 1,526 億円で、実質的には中 央銀行が日本株の最大の買い手だった。日銀はヒートアップして、9/9 から 「745 億円×5 営業日連続買い=3,725 億円」の猛烈な動きだ。来週発表分 でも、事実上中央銀行が買いの筆頭となる可能性が高い(表 2)。この膨大 な買いにもかかわらず、日経平均は 9/9 高値 17,029 円から 9/15 安値 16,359 円まで下落した。おそらく外国人の大口売りが、日銀の ETF 買いの 巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。 11 2016 年 9 月 20 日 ストラテジー マーケット分析 (グラフ15) 平成の4大暴落 平均下落率は▲57.8% 日経平均(月足)推移 (円) 38915 (1989/12) (出所)AsatraManagerのデータよりMUMSS作成 金融 システム 不安 40,000 平成 バブル 崩壊 22666 (1996/6) ITバブル 崩壊 20833 (2000/4) 10,000 12879 (1998/10) ▲63.2% ▲43.1% 7607 (2003/4) 7054(2009/3) ▲63.4% 5,000 1988 (表1) 9月第1週の買い手は 事法が目立つ程度 日銀ETF購入金額 月週 (億円) 9月1週 1,526 9月2週 2,992 (出所)日銀のデータをもとにMUMSS 作成 1991 1994 1997 2000 2003 ▲61.3% 2006 2009 2012 2015 2018 ●投資部門別株式売買状況 区 分 年月 (海外 投資家) (億円) 法人 外国人 12年 28,264 13年 151,196 14年 8,527 15年 -2,510 3月 -19,588 月 8,604 4月 間 5月 -3,258 動 6月 -2,630 向 1,290 7月 8月 -4,698 7月3週 -1,262 788 7月4週 週 8月1週 -4,587 間 8月2週 484 動 8月3週 -1,667 向 8月4週 1,714 -642 8月5週 9月1週 -3,338 9月1週 69.3% 売買シェア 年 間 (表2) 20868 (2015/6) 18261 (2007/7) 20,000 14309 (1992/8) リーマン ・ショック 金融機関 生損保 都・地銀 信託銀 -6,978 -1,182 -10,193 -10,751 -2,830 -39,664 -5,038 -1,290 27,848 -5,841 -3,094 20,075 -986 -134 4,982 -624 -584 1,421 8 132 1,152 -669 -194 5,747 -1,396 -292 2,635 -467 -318 5,363 -181 -71 660 -308 16 506 23 -12 1,726 -164 -12 1,205 -193 -52 1,080 -136 -65 653 2 -176 700 -10 -238 -444 個人 事法 投信 信用 現金 3,804 6,297 11,018 29,632 -91 729 3,080 5,835 729 2,981 88 76 705 231 865 730 450 349 460 4,267 -2,105 2,429 932 1,182 -382 950 -1,337 -485 -147 -355 -27 -33 -276 -378 229 -91 5,774 -24,886 29,774 -117,282 13,189 -49,512 16,748 -66,744 2,419 407 -1,031 -5,917 1,024 -950 1,568 1,246 -61 -3,839 434 -2,560 847 -460 -50 -938 1,206 1,033 -622 -1,492 599 168 190 -4 -940 -2,264 247 -1,268 0.3% 0.3% 2.9% 1.1% 2.3% 15.6% 6.8% (出所)JPX(日本取引所グループ)のデータをもとに、MUMSS作成 効果を抹消したものと思われる。先物手口を見ると、マクロ系ヘッジファンド が利用する米系A証券、珍しい所では以前裁定商いに特化していた欧州 系B証券の大口売りが目立つ。欧米長期金利上昇に端を発したグローバ ル・マネーフローの変化は、日銀と雖も抗し得ない。今回は、日銀会合が FOMCに先行する珍しいパターンだ。慎重に見極める必要があろう。 藤戸 則弘 投資情報部長 巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。 12 【重要な注意事項】 (本資料使用上の留意点について) ・ 本資料は当社が信頼できると考える情報ベンダーから取得したデータをもとに作成されておりますが、機械作業 上データに誤りが発生する可能性があります。当社はその正確性、完全性を保証するものではありません。ここに 示したすべての内容は、当社の現時点での判断を示しているに過ぎません。本資料は、お客様への情報提供の みを目的としたものであり、特定の有価証券の売買あるいは特定の証券取引の勧誘を目的としたものではありま せん。本資料にて言及されている投資やサービスはお客様に適切なものであるとは限りません。また、投資等に 関するアドバイスを含んでおりません。当社は、本資料の論旨と一致しない他のレポートを発行している、或いは 今後発行する可能性があります。本資料でインターネットのアドレス等を記載している場合がありますが、当社自 身のアドレスが記載されている場合を除き、アドレス等の内容について当社は一切責任を負いません。本資料の 利用に際してはお客様御自身でご判断くださいますようお願い申し上げます。 (利益相反情報について) ・ 当社および関係会社の役職員は、本資料に記載された証券について、ポジションを保有している場合がありま す。当社および関係会社は、本資料に記載された証券、同証券に基づくオプション、先物その他の金融派生商品 について、買いまたは売りのポジションを有している場合があり、今後自己勘定で売買を行うことがあります。また、 当社および関係会社は、本資料に記載された会社に対して、引受等の投資銀行業務、その他サービスを提供 し、かつ同サービスの勧誘を行う場合があります。 ・ 当社の役員(会社法に規定する取締役、執行役、監査役又はこれらに準ずる者をいう。)が、以下の会社の役員を 兼任しております。:三菱UFJフィナンシャル・グループ、カブドットコム証券、三菱倉庫 (外国株に関する注意事項について) ・ 外国株式に関する資料は、Form 10-K 等当該外国法に基づく「有価証券報告書」と同等の公的書類、年次報告 書(Annual Report)、四半期報告書、アーニングリリース等の会社発表による公開情報をもとに作成しております。 当社によるレーティング、投資判断、業績予想等は含みません。また、データの取得・入力時期の違い等により、 本資料と外国証券情報の数値等が異なる場合があります。 ・ 本資料で取り上げられている外国証券は、我が国の金融商品取引法に基づく企業内容の開示は行われておりま せん(金融商品取引法上の情報開示銘柄を除く)。当該外国証券の開示情報は、主要取引所の所在する国の開 示基準に基づいています。 (リスク情報について) ・ 日本および外国の株式・債券への投資は、株価の変動や、発行者の経営・財務状況の変化及びそれらに関する 外部評価の変化、金利・為替の変動等により、投資元本を割り込むリスクがあります。 (手数料について) ・ 国内株式の売買取引には、約定代金に対し最大1.404%(税込み)の売買手数料をいただきます(ただし約定 代金が193,000円以下の場合は最大2,700円(税込み))。株式は、株価の変動等により、損失が生じるおそれ があります。 ・ 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