全国環境研会誌 - 環境展望台

ISSN 2424-1083
季刊
全国環境研会誌
Vol.41 No.3 2016 (通巻第 140 号)
季刊
全国環境研会誌
第 41 巻
2016 年
目
第 3 号(通巻 第 140 号)
次
[巻頭言]
協力関係の強化と検査技術の継承
[特
……………………………………………………… 大金由夫/ 1
集/第5次酸性雨全国調査報告書 (平成26年度)]
はじめに
1. 調査目的
2. 調査内容
2.1 調査概要/2.2 調査方法
3. 気象概況および大気汚染物質排出量の状況
3.1 2014年度の気象概況/3.2 SO2,NOXなどの排出量のトレンドと分布
4. 湿性沈着
4.1 データの精度/4.2 pH,ECおよびイオン成分濃度/4.3 イオン成分湿性沈着量
5. 乾性沈着(フィルターパック法)
5.1 データ確定/5.2 大気中のガス状および粒子状成分濃度/5.3 乾性沈着量の推計
6. パッシブ法によるガス成分濃度
6.1 測定地点/6.2 測定結果
7. まとめ
7.1 湿性沈着/7.2 FP法によるガス状およびエアロゾル濃度/7.3 乾性沈着量/
7.4 ガス成分濃度(パッシブ法)
…………………… 全国環境研協議会 酸性雨広域大気汚染調査研究部会/ 2
堀江洋佑,岩崎 綾,友寄喜貴,木戸瑞佳,山口高志,多田敬子,
川下博之,河野明大,濱村研吾,山添良太,松本利恵,横山新紀,
野口 泉,家合浩明,甲斐 勇,濱野 晃,吉田芙美香
[報
文]
近年の宍道湖におけるアオコの原因種 Microcystis ichthyoblabe の塩分・水温耐性
………………… 神門利之・大城 等・神谷 宏・野尻由香里・崎 幸子/ 38
[資
料]
川底表面底質中のダイオキシン類濃度測定を目的とした吸引式採泥装置の開発
………………… 野尻喜好・茂木 守・大塚宜寿・蓑毛康太郎・堀井勇一/ 42
支部だより=九州支部/ 46,編集後記/ 47
JOURNAL OF ENVIRONMENTAL LABORATORIES ASSOCIATION
Vol.41 No.3(2016)
C
O
N
T
E
N
T
S
Acid Deposition Survey in Japan, Phase 5 (2014)
………………………………… Environmental Laboratories Association/ 2
Salinity and Water Temperature Tolerance of the Causative Species Microcystis ichthyoblabe of Blue-green
Algae Bloom (Aoko) in Recent Years of Lake Shinji
…………………… Toshiyuki GODO, Hitoshi OHSHIRO, Hiroshi KAMIYA,
Yukari NOJIRI, Yukiko SAKI/ 38
Development of Suction Sediment Sampler for the Measurement of Dioxin Concentrations
in Riverbed Surface Bottom
………………… Kiyoshi NOJIRI, Mamoru MOTEGI, Nobutoshi OHTSUKA,
Kotaro MINOMO, Yuichi HORII/ 42
◆巻頭言◆
◆巻
頭
仙台市衛生研究所長
大
金
由
夫
言◆
協力関係の強化と検査技術の継承
仙台市衛生研究所長
大
金
由
夫
仙台市は,先の東日本大震災において,全国の皆様か
した職員が減少する課題に直面しました。また大きな公
ら,たくさんのご支援や応援をいただきました。心から
害問題の発生も見られなくなり,検査に対するニーズも
御礼申し上げます。早いものでその震災からも5年が経過
減少してきました。追い打ちをかけるように,行財政改
しました。仙台市がここまで順調に歩んできたのは,阪
革の一環として,守備範囲の見直し,職員数の削減等々
神大震災や中越地震を経験された先輩自治体を含む全国
の課題も発生して,当所の場合,昭和の末期に約60名い
の自治体の皆様から,沢山のご支援やご協力をいただい
た職員は,現在は約40名まで減少することになりました。
た賜物です。
検査に従事する職員配置については,当所の場合,市
しかし,本年4月には新たに熊本県を中心に地震が発生
役所のルールに従って,通常は3~5年のサイクルで異動
しました。報道された災害の傷跡や避難所の様子を見る
となりますが,一般行政職を想定したこの仕組みは検査
につけ,かつて応援をいただいたことのある仙台市職員
技術継承の点ではマイナス要因です。
としては,震災の経験者としてお役に立たなければ・・
更にパソコンの使用方法を見ましても,昭和60年代は,
・と考えますが,限られたマンパワーでもありますので,
データ処理装置としての使用でしたが,現在は分析機器
自治体間の連携協力の大切さを改めて痛感したところで
を制御する使い方に進化してきました。
す。
総合的に見ますと,短い期間での検査技術のノウハウ
さて職場としての衛生研究所は,一般の事務所と違っ
修得に加えて,ガスマスや,ICPマス等のメーカーごとに
て,個別の検査室に分かれているので,朝礼や昼休み以
異なるパソコン操作に習熟した職員を養成し続けなけれ
外の時間は,自分の仕事に没頭することが可能です。気
ば,技術レベルの維持は困難な状況です。
になるのは,個別に分かれた職場環境という特性から,
今後は人口減少の要因も考慮する必要が生じてきます
家庭や仕事上の行き詰まりを一人で抱えているのではい
ので,人員配置の状況はさらに厳しくなるものと予想さ
ないかなど,人との関わりが薄れることによる職員の心
れます。
の健康への影響です。
昨年6月に山形県で,全国環境研協議会の北海道東北支
例えば,自分の親は元気だけど,隣にいる職員は乳幼
部総会が開催され,その席上でも検査技術の継承の件が
児を抱えている,別の職員は認知症の親を抱えているな
話題になり,大なり小なり個別事情の差はあるものの,
どという点です。今,自分自身がそのような状況に置か
概ね同じような状況にあることが推測されました。
れてなくても,いつか自分にも降りかかってくるかもし
当面は,人事当局に相談して配慮を求めるなど,検査
れないので,個室的な職場だからこそ,自分が一人で向
技術の継承に努力していきたいと思いますが,将来的に
き合うことにならないよう,職員同士「お互いの協力関
は検査技術に魅力を感じるような職場にして,「異動し
係」を強めておくことが大切です。
た職員が再度戻ってきたい」と思えるようにしていきた
次に検査技術の継承です。昭和50~60年代は,当所に
おきましても団塊の世代で育った諸先輩方が各方面で頑
いと考えています。
最後に,全国環境研協議会の皆様とは,共通する課題
張っていらっしゃったので,検査技術面で心配なことは,
が多々ありますので,課題解決に向けて今後もお互いの
ありませんでした。ところが,数年前に団塊の世代で活
協力関係を強めてまいりたいと考えます。引続きご指導
躍された方々は定年退職なされ,検査のノウハウに精通
・ご助言等をお願い申し上げます。
〔 全国環境研会誌 〕Vol.41
No.3(2016)
1
<特集>
<特
第5次酸性雨全国調査報告書(平成26年度)
集>
第5次酸性雨全国調査報告書(平成26年度)
全国環境研協議会
酸性雨広域大気汚染調査研究部会
堀江洋佑,岩崎綾,友寄喜貴,木戸瑞佳,山口高志,多田敬子,川下博之,河野明大,濱村研吾,
山添良太,松本利恵,横山新紀,野口泉,家合浩明,甲斐勇,濱野晃,吉田芙美香
は じ め に
当報告書では,第5次調査の6年目である2014年度の調
全国環境研協議会による酸性雨全国調査は1991年度か
査結果を報告します。この成果が,各地域でのデータ解
らの第1次調査に始まり,現在2016年度からの第6次調査
析評価の一助となれば幸いです。また,調査結果の解析
を実施しています。
では広域大気汚染についても検討を行っており,今後も
この間の調査を振り返ると,第1次調査(1991~1993年
継続したデータ収集および解析により,東アジア酸性雨
度)では,ろ過式採取法(バルク)による調査を行い,全国
モニタリングネットワークの充実に貢献したいと考えて
的な降水の酸性化を明らかにしました。
います。
第2次調査(1995~1997年度)では,夏季および冬季に日
このように,本部会の取組は,日本における酸性雨調
単位調査や流跡線解析を行いました。この結果,冬季に
査を面的および項目的に補完しており,環境省および国
日本海側で沈着量が多く,硫酸イオンを多く含む気塊が
立研究開発法人国立環境研究所と連携して,全国的な情
中国や朝鮮半島を通過していたこと,カルシウムイオン
報・知見の集積を行う上で,地方環境研究機関の役割・
を多く含む気塊は,モンゴルや中国北東部を起源とする
貢献が極めて大きいことを示していると思われます。加
場合が多かったことなどを明らかにし,酸性物質の移流
えて,最近ではPM2.5による大気汚染等の問題により,環
の可能性が示唆されました。
境行政に対する国民の関心が非常に高くなっております。
第3次調査(1999~2001年度)では,湿性沈着(降水時開
このような中で,われわれ地方環境研究機関が中心とな
放型捕集装置法)に加えて,乾性沈着を把握するために,
って独自の調査研究を行っていくことは,環境行政の推
4段ろ紙法(フィルターパック法)によるガス・エアロゾル
進に必要不可欠であり,今後も継続していくことが重要
調査を実施しました。この結果,都市部における酸性雨
であると思われます。
の状況,硫黄酸化物や窒素酸化物の地域特性,さらに大
最後になりましたが,行財政状況の大変厳しい中,本
気中のガス成分,粒子状成分について全国的な濃度分布
部会の活動にご参加いただきました全国環境研協議会会
とその季節変化を明らかにするとともに,乾性沈着量の
員機関と調査担当の皆様,本調査の企画・解析等にご尽
推定を行いました。
力されました各委員,有益なご助言・ご指導をいただき
第4次調査(2003~2008年度)では,乾性沈着量の空間分
ました有識者の皆様,本調査に対し多大なご協力・ご支
布について,より正確に把握するために,フィルターパ
援をいただきました環境省,国立環境研究所,(一財)日
ック法では測定できない窒素酸化物やオゾン濃度等が測
本環境衛生センター/アジア大気汚染研究センター,な
定可能であるパッシブ法を導入しました。また,乾性沈
らびに,その他の多くの皆様に,この場をお借りしまし
着速度を算出するプログラムを共同開発し,乾性沈着量
て深くお礼を申し上げます。今後も引き続き,当部会の
の評価を実施しました。
活動に皆様のご支援・ご協力を賜りますようお願い申し
2009年度には部会名称を「酸性雨調査研究部会」から
上げます。
「酸性雨広域大気汚染調査研究部会」と改め,窒素成分
のより高度な沈着量の把握などを含めた第5次調査を開
始し,2015年度までの7年間実施しました。
2016年度からは第6次調査を開始し,フィルターパック
平成28年7月
全国環境研協議会
酸性雨広域大気汚染調査研究部会
法による乾性沈着調査において,従来の4段ろ紙法から5
部会長
藤井
幸三
段もしくは6段ろ紙法への移行を推奨し,さらに高精度か
(熊本市環境総合センター所長)
つ広域的な全国調査を実施しています。
〔 全国環境研会誌 〕Vol.41
No.3(2016)
2
<特集>
1.
第5次酸性雨全国調査報告書(平成26年度)
調査目的
2.
全国環境研協議会(以下,全環研)は,表1.1.1に示すよ
調査内容
2.1 調査概要
うに1991年度から全国調査を行ってきた。その結果,全
2014年度の調査参加機関は表2.1.1に示す51機関であ
国の湿性および乾性沈着について,地域特性,季節変化,
り,湿性沈着調査地点は65地点,乾性沈着調査地点は48
火山・大陸の発生源の影響,乾性沈着速度評価などの多
地点(フィルターパック法:33地点,パッシブ法:28地点)
くの知見を得てきた。第1次から第3次調査までは3ヵ年の
である。なお,一部には,他の学術機関との共同研究1, 2),
調査の後,1年間の準備期間を経て次の調査を行ってきた
国設局との共用データも含まれている。なお,環境省の
が,2003~2005年度の予定で開始した第4次調査では急速
データとは降水量の算出方法(気象データを用いる場合
に増大し始めた中国のSO2およびNOX排出量の影響などが
と貯水量を用いる場合)などデータの算出法が一部異な
懸念されたことから,追加調査として3ヵ年,2008年度ま
るため,数値が一致しない場合があることに注意が必要
で計6年間の調査を実施した。
である。
2009年度からは,これまでの調査に加え窒素成分のよ
2014年度の調査期間は原則として2014年4月7日~2015
り高度な沈着量の把握やバックグラウンドオゾン濃度の
年4月6日であり,季節および月の区切りは表2.1.2に示す
把握などを含めた第5次調査を実施している。本調査の目
とおりである。
的は,日本全域における酸性沈着による汚染実態を把握
本調査および報告書の作成は全環研・酸性雨広域大気
することであり,①国際標準の方法である降水時開放型
汚染調査研究部会が主導して行われた。2014~2015年度
捕集装置(ウエットオンリーサンプラー)による湿性沈着
の部会組織および報告書の担当を表2.1.3に示す。
の把握,②自動測定機,国際的モニタリングネットワー
2.2 調査方法
クでも用いられているフィルターパック法およびパッシ
ブ法による乾性沈着成分(ガス/エアロゾル)濃度の把握,
2.2.1
③インファレンシャル法による乾性沈着速度算出および
調査地点は1地点の場合は原則として都市域で実施し,
湿性沈着
乾性沈着量評価,以上の3つが主なテーマである。第5次
複数地点の場合は都市域および都市域から20~30km離れ
調査の特徴としては,①第4次調査から準備年をおかずに
た地点または(および)地方に特有の地点で実施している。
継続して実施していること,②パッシブ法を小川式(O式)
調査は,通年調査とし,1週間単位での採取を原則とす
に統一することにより,広域の解析・とりまとめを目指
るが,2週間あるいはそれ以上での採取も可とし,その場
すこと,③アンモニア・アンモニウムイオンの成分ごと
合,冷蔵庫の設置等による試料の変質防止対策を推奨し
の評価を目指すことなどが挙げられる。
ている。試料採取は原則月曜日に行った。なお,解析に
なお,第1~5次調査結果(2012年度まで)は国立環境研
用いるデータは表2.1.2に示す月単位である。
究所地球環境研究センターにおける地球環境データベー
降水の捕集装置は降水時開放型であり,降雪地域にお
ス(http://db.cger.nies.go.jp/dataset/acidrain/ja/i
いては,移動式の蓋の形状変更や凍結防止用ヒーターの
ndex.html)にて公開されている。
装備などの対策をとることが望ましいが,ヒーターの使
用が無理な場合は,冬季間,バルク捕集となることも可
としている。また,ロート部および導管部の洗浄につい
表1.1.1
全国環境研協議会・酸性雨広域大気汚染調査研究部会による酸性雨全国調査の主な調査内容
第1次酸性雨全国調査
調査対象
調査
地点数
調査手法
降水成分
1991年度:158地点
1992年度:140地点
1993年度:140地点
第3次酸性雨全国調査
第2次酸性雨全国調査
降水成分
湿性沈着
1995年度:52地点
1996年度:58地点
1997年度:53地点
1999年度:47地点
2000年度:48地点
2001年度:52地点
乾性沈着
第4次酸性雨全国調査
湿性沈着
1999年度:25地点
2000年度:27地点
2001年度:29地点
2003年度:61地点
2004年度:61地点
2005年度:62地点
2006年度:57地点
2007年度:61地点
2008年度:60地点
ろ過式採取法(バルク採取)に バケット(バルク採取)による1日 降水時開放型捕集装置 フィルターパック法によ 降水時開放型捕集装置
よる原則1週間単位の試料採取 単位の試料採取
(ウェットオンリー採取) る原則1-2週間単位の (ウェットオンリー採取)
による原則1週間単位 試料採取
による原則1週間単位
の試料採取
の試料採取
乾性沈着
2003年度:32地点
2004年度:34地点
2005年度:35地点
2006年度:28地点
2007年度:28地点
2008年度:29地点
フィルターパック法によ
るガス及び粒子状成分
調査,原則1-2週間単
位の試料採取
2003年度:59地点
2004年度:61地点
2005年度:59地点
2006年度:39地点
2007年度:34地点
2008年度:37地点
パッシブサンプラー(O
式およびN式)によるガ
ス成分調査,月単位の
試料採取
調査期間
通年調査
夏季及び冬季の2週間調査
通年調査
データの
公表
国立環境研究所地球環境研究
センターホームページ
(http://db.cger.nies.go.jp/dat
aset/acidrain/ja/01/index.ht
ml)に掲載
全国公害研会誌 VOL.19,
NO.2, (平成4年度酸性雨全国
調査結果報告書)
全国公害研会誌 VOL.20,
NO.2, (酸性雨全国調査結果
報告書(平成3年度~平成5年
度))
国立環境研究所地球環境研究
センターホームページ
(http://db.cger.nies.go.jp/dat
aset/acidrain/ja/02/index.ht
ml)に掲載
全国公害研会誌 VOL.21,
NO.4, (第2次酸性雨全国調査
報告書(平成7年度))
全国公害研会誌 VOL.22,
NO.4, (第2次酸性雨全国調査
報告書(平成8年度))
全国公害研会誌 VOL.23,
NO.4, (第2次酸性雨全国調査
報告書(平成9年度))
国立環境研究所地球環境研究センターホーム 国立環境研究所地球環境研究センターホームページ
ページ
(http://db.cger.nies.go.jp/dataset/acidrain/ja/04/index.html)に掲載
(http://db.cger.nies.go.jp/dataset/acidrain/ja
/03/index.html)に掲載
報告書の
公表
〔 全国環境研会誌 〕Vol.41
全国環境研会誌 VOL.26, NO.2, (第3次酸性雨
全国調査報告書(平成11年度))
全国環境研会誌 VOL.27, NO.2, (第3次酸性雨
全国調査報告書(平成12年度))
全国環境研会誌 VOL.28, NO.3, (第3次酸性雨
全国調査報告書(平成11~13年度)
通年調査
全国環境研会誌 VOL.30, NO.2, (第4次酸性雨全国調査報告書(平成15
年度))
全国環境研会誌 VOL.31, NO.3, 4,(第4次酸性雨全国調査報告書(平成
16年度))
全国環境研会誌 VOL.32, NO.3, 4,(第4次酸性雨全国調査報告書(平成
17年度))
全国環境研会誌 VOL.33, NO.3, 4,(第4次酸性雨全国調査報告書(平成
18年度))
全国環境研会誌 VOL.34, NO.3, 4,(第4次酸性雨全国調査報告書(平成
19年度))
全国環境研会誌 VOL.35, NO.3, 4,(第4次酸性雨全国調査報告書(平成
20年度))
第5次酸性雨全国調査
湿性沈着
2009年度:72地点
2010年度:67地点
2011年度:66地点
2012年度:66地点
2013年度:67地点
2014年度:65地点
降水時開放型捕集装置
(ウェットオンリー採取)
による原則1週間単位
の試料採取
乾性沈着
2009年度:32地点
2010年度:35地点
2011年度:36地点
2012年度:34地点
2013年度:35地点
2014年度:33地点
フィルターパック法によ
るガス及び粒子状成分
調査,原則1-2週間単
位の試料採取
2009年度:42地点
2010年度:41地点
2011年度:38地点
2012年度:36地点
2013年度:30地点
2014年度:28地点
パッシブサンプラー(O
式)によるガス成分調
査,月単位の試料採取
通年調査
2009~2013年度のデータについては国立環境研究所地球環境研究セン
ターホームページ
(http://db.cger.nies.go.jp/dataset/acidrain/ja/05/index.html)に掲載
全国環境研会誌 VOL.36, NO.3, (第5次酸性雨全国調査報告書(平成21
年度))
全国環境研会誌 VOL.37, NO. 3, (第5次酸性雨全国調査報告書(平成
22年度))
全国環境研会誌 VOL.38, NO. 3, (第5次酸性雨全国調査報告書(平成
23年度))
全国環境研会誌 VOL. 39 , NO.3 , (第5次酸性雨全国調査報告書(平成
24年度))
全国環境研会誌 VOL. 40 , NO.3 , (第5次酸性雨全国調査報告書(平成
25年度))
No.3(2016)
3
<特集>
第5次酸性雨全国調査報告書(平成26年度)
表2.1.1
調査地点の属性及び調査内容
排出量注1) (t km-2 y-1)
支
都道府県名
部
北海道
地点名
SO2
岩手県
O式
自動
☆
○
☆
1.27
0.51
0.02
NJ
45.12
141.21
0.01
0.09
0.50
NJ
45.06
142.10
母子里
北海道立総合研究機構 環境科学研究センター
0.12
0.76
0.49
NJ
44.36
142.27
□
□
○
札幌北
北海道立総合研究機構 環境科学研究センター
5.18
25.61
1.07
NJ
43.08
141.33
☆
○
○
摩周
北海道立総合研究機構 環境科学研究センター
0.03
0.30
1.00
NJ
43.56
144.51
▲
▲
北海道立総合研究機構 環境科学研究センター
札幌市衛生研究所
◆
標高 海岸からの
(m)
距離(km)
土地利用など
40
0.8 地上高3m
70
30 地上高8m
未指定(森林)
40 地上高8m
未指定(森林)
287
☆
サンプラー設置位置
地上高
12
550
87
未指定(草、笹)
13 Wet:8m, FP・O式:9m
住居地域(市街地)
30 地上高1.5m
未指定(森林)
0.03
0.33
0.36
NJ
42.65
140.31
13 地上高5m
未指定(森林)
5.23
25.81
1.19
NJ
43.06
141.38
14
17 地上高14m
近接商業地域,市街地
3
0.7 地上高20m
住居地域(市街地)
30
0.4 地上高13m
都市計画未指定
青森東造道
青森県環境保健センター
1.18
3.59
0.44
NJ
40.83
140.79
○
鰺ヶ沢舞戸
青森県環境保健センター
0.20
1.15
0.51
NJ
40.78
140.24
○
盛岡
岩手県環境保健研究センター
1.21
5.94
1.33
NJ
39.68
141.14
○
131
70 地上高12m
準工業地域 市街地
八幡平
岩手県環境保健研究センター
0.47
1.99
1.15
NJ
39.82
140.94
○
830
89 地上高5m
森林地域
未指定(草、雑)
▲
涌谷
宮城県保健環境センター
1.83
5.75
2.45
NJ
38.55
141.18
○
174
19 地上高3m
秋田県
秋田千秋
秋田県健康環境センター
4.37
6.14
0.53
NJ
39.72
140.13
〇
16
5.5 地上高20m
山形県
鶴岡
0.12
0.71
0.38
NJ
38.55
139.87
○
220
26 地上高5m
未指定(森林)
○
941
84 地上高1.2m
田園
60 地上高10m
都市
新潟県
栃木県
郡山朝日
埼玉県
山形県環境科学研究センター
福島県環境センター
福島県環境センター
いわき市環境監視センター
0.61
1.32
1.22
6.08
1.37
EJ
37.41
140.36
○
13.81
16.92
0.99
EJ
36.96
140.89
○
0.50
EJ
37.25
140.04
242
○
○
3
2.5 Wet:5m, O式:1.5m
3.1 Wet:2.5m, FP:2.1m
新潟曽和
新潟県保健環境科学研究所
2.60
9.49
1.28
JS
37.85
138.94
○
○
2
長岡
新潟県保健環境科学研究所
1.87
4.94
0.62
JS
37.45
138.87
○
○
27
2.75
12.68
新潟大山
新潟市衛生環境研究所
1.74
JS
37.94
139.08
10
○
新潟坂井
新潟市衛生環境研究所
2.62
9.59
1.64
JS
37.89
138.98
新潟小新
新潟市衛生環境研究所
2.64
9.73
1.66
JS
37.87
138.99
○
○
○
19 地上高5m
商業地域
第一種住居地域
市街化調整区域
住居地域
1.2 地上高4m
住宅地域
0
1.5 地上高3m
住宅地域
0
1.7 地上高15m
住宅地域
日光注5)
栃木県保健環境センター
0.13
0.97
0.16
EJ
36.74
139.48
○
1300
95 地上高1m
宇都宮注6)
栃木県保健環境センター
2.88
10.93
2.79
EJ
36.60
139.94
○
140
65 地上高10m
住宅地
小山
栃木県保健環境センター
3.13
12.59
3.08
EJ
36.31
139.83
○
35
63 地上高6m
住宅地
3.51
EJ
36.09
139.56
○
13
55 地上高11m
5.19
EJ
35.86
139.65
○
15
35 地上高15m
商業地域
18
31 地上高1m
未指定(草地)
120
110 地上高20m
市街化調整区域
住居地域
注7)
加須
埼玉県環境科学国際センター
さいたま
さいたま市健康科学研究センター
2.49 1 8 . 2 4
7.46
48.21
○
▲
○
住宅地
農用地区域
茨城県
土浦
茨城県霞ケ浦環境科学センター
1.44
7.73
3.20
EJ
36.08
140.27
○
群馬県
前橋
群馬県衛生環境研究所
4.13
12.96
7.55
EJ
36.40
139.10
○
○
市川
千葉県環境研究センター
8.63
59.68
4.64
EJ
35.72
139.93
○
○
▲
5
6.1 地上高20m
市原
千葉県環境研究センター
13.96
44.28
3.14
EJ
35.53
140.07
○
○
▲
5
1.2 Wet・FP:5m, O式:10m
香取
千葉県環境研究センター
17.03
20.01
4.00
EJ
35.89
140.55
○
○
▲
40
銚子
千葉県環境研究センター
10.17
8.98
3.92
EJ
35.74
140.74
○
▲
50
一宮
千葉県環境研究センター
0.23
1.97
0.97
EJ
35.35
140.38
○
5
1 地上高3m
農業地域
58
4.7 地上高0m
農業地域
住居地域
千葉県
旭
神奈川県
長野県
静岡県
千葉県環境研究センター
7.68
8.66
4.12
EJ
35.73
140.72
○
○
▲
2.96
26.96
3.01
EJ
35.73
140.21
○
○
▲
25
19 地上高3m
0.16
1.14
0.92
EJ
35.16
140.16
○
360
4.5 地上高0m
未指定(森林)
宮野木
千葉市環境保健研究所
12.33
42.86
3.97
EJ
35.65
140.10
○
21
4.1 地上高3m
住居系
1.42 1 7 . 7 0
準工業地域
3.03
EJ
35.35
139.35
○
9
3.7 地上高22m
川崎注8)
川崎市環境総合研究所
16.98
74.45
3.11
EJ
35.54
139.75
○
4
3.2 地上高20m
長野
長野県環境保全研究所
1.35
4.76
0.61
CJ
36.64
138.18
○
平塚
静岡小黒
静岡北安東
神奈川県環境科学センター
○
静岡市環境保健研究所
3.29
10.23
1.42
CJ
34.97
138.40
○
静岡県環境衛生科学研究所
3.15
9.89
1.38
CJ
35.00
138.39
○
○
富山県環境科学センター
6.11
15.55
1.80
JS
36.70
137.10
○
○
石川県保健環境センター
2.74
6.93
1.12
JS
36.53
136.71
○
○
福井県
福井
福井県衛生環境研究センター
2.41
7.77
0.80
JS
36.07
136.26
○
○
岐阜県
伊自良湖
岐阜県保健環境研究所
2.00
5.52
1.54
CJ
35.57
136.70
☆
☆
愛知県環境調査センター東三河支所
2.36 1 0 . 8 1
4.18
CJ
34.74
137.38
○
○
豊橋
名古屋南
名古屋市環境科学調査センター
22
14 地上高14m
第2種住居専用地域
○
11
18 地上高9m
市街化調整区域
☆
140
○
20
0
35.10
136.92
○
34.99
136.49
○
190
15.1 地上高15m
CJ
35.03
135.87
○
87
53 地上高28m
住宅地
準工業地域(市街地)
奈良県景観・環境総合センター
和歌山県環境衛生研究センター
3.96
17.81
1.65
CJ
35.00
135.73
○
30.41
1.05
CJ
34.65
135.13
○
1.75 1 3 . 0 3
2.04
CJ
34.52
135.84
○
9.97
14.10
1.12
CJ
34.16
135.21
○
若桜
鳥取県衛生環境研究所
0.03
0.50
0.30
JS
35.35
134.49
○
鳥取県衛生環境研究所
0.25
1.30
0.86
JS
35.49
133.88
○
島根県保健環境科学研究所
広島市衛生研究所
○
○
○
○
○
26
47 地上高21m
15
0.8 地上高17m
72
36 地上高11m
○
3
▲
800
2
○
0.46
2.49
0.56
JS
35.47
133.01
○
5
3.35
12.32
1.04
WJ
34.46
132.41
○
80
13
山口
山口県環境保健センター
2.28
5.84
0.63
WJ
34.15
131.43
○
徳島
徳島県保健製薬環境センター
2.04
8.03
1.76
CJ
34.07
134.56
○
2
230
香北
高知県環境研究センター
0.04
0.46
0.18
WJ
33.71
133.86
○
○
太宰府
福岡県保健環境研究所
3.94
21.34
1.90
WJ
33.51
130.50
○
○
福岡
福岡市保健環境研究所
2.43 1 4 . 8 9
1.38
WJ
33.50
130.31
○
○
佐賀県
佐賀
佐賀県環境センター
2.50
1.63
WJ
33.27
130.27
○
長崎県
諫早
長崎県環境保健研究センター
5.88
7.58
1.30
WJ
32.86
130.04
○
阿蘇
熊本県保健環境科学研究所
0.30
1.33
1.72
WJ
32.97
131.05
○
宇土
熊本
大分県
熊本県保健環境科学研究所
2.07
6.92
8.38
1.47
WJ
32.67
130.65
○
熊本市環境総合センター
1.71
8.83
3.56
WJ
32.79
130.75
○
大分県衛生環境研究センター
2.07
8.38
1.47
WJ
33.04
131.25
○
○
30
193
4
23
▲
○
▲
○
481
20
40
○
560
大分
大分県衛生環境研究センター
15.09
19.72
1.30
WJ
33.16
131.61
○
○
90
宮崎県
宮崎
宮崎県衛生環境研究所
0.56
3.25
1.14
WJ
31.83
131.42
○
○
20
鹿児島県
鹿児島
鹿児島県環境保健センター
1.41
5.88
1.37
WJ
31.35
130.34
○
○
6.30
7.83
2.08
SW
26.19
127.75
○
○
0.00
0.05
0.35
SW
26.87
128.25
沖縄県
準工業地域
CJ
湯梨浜
大分久住
住居地域
CJ
徳島
熊本県
林地
6 地上高8m
3 地上高19.2m
1.34
10.20
▲
60 地上高4.3m
2.31
山口県
福岡県
8 Wet:0m, FP・O式:12.5m 第一種中高層住宅専用地域
120
4.70
(公財) ひょう ご環境創造協会 兵庫県環境研究センター
松江
住宅地域(市街地)
17.74
京都市衛生環境研究所
広島安佐南
7.1 地上高9.3m
17.71
神戸須磨
広島県
10
51.61
京都壬生
島根県
第一種住専
住宅地
3.92
兵庫県
海南
準工業用地
3.6 地上高14m
4.10
京都市
桜井
▲
○
52.5 Wet:15m, FP:3m
14
10.23
大津柳が崎
注10)
▲
363
三重県保健環境研究所
四日市桜
滋賀県
○
○
琵琶湖環境科学研究センター
三重県
高知県
農業地域
千葉県環境研究センター
金沢
鳥取県
4.5 Wet:5m, O式:0m
工業地域
調整地域
千葉県環境研究センター
射水注9)
和歌山県
15.0 地上高3m
佐倉
石川県
愛知県
○
清澄
富山県
奈良
九
州
・
沖
縄
☆
FP
北海道立総合研究機構 環境科学研究センター
小名浜
中
国
・
四
国
湿性注3)
北海道立総合研究機構 環境科学研究センター
福島天栄
近
畿
・
東
海
・
北
陸
分
経度
(度)
宮城県
福島県
関
東
・
甲
・
信
・
静
NH 3
緯度
(度)
利尻
黒松内
北
海
道
・
東
北
NOX
注2)
天塩FRS
札幌白石
青森県
乾性注4)
地域区
調査機関名
大里
沖縄県衛生環境研究所
辺戸岬
沖縄県衛生環境研究所
調査地点数
▲
1
109
▲
☆
☆
▲
☆
65
33
28
20
60
0.4 地上高12.5m
原野
準工業地域
近隣商業地域
商業
28.4 地上高2.5m
未指定
1.3 地上高11m
未指定
6 地上高1.2m
区域外
11 地上高10m
住居地域
13 地上高1m
住居
3 地上高18m
住居地域
21 地上高11.4m
区域外
18 Wet:16.4m, FP:1.5m
市街化調整区域
9.2 Wet:1m, FP:1.5m
11 地上高8.5m
4 地上高10m
46 地上高1m
2.7 地上高1m
12.9 Wet:9m, O式:10m
市街化調整区域
第1種住居地域(市街地)
住居地域(市街地)
未指定
未指定
住宅地域
35 地上高4.7m
未指定(牧草地)
11 地上高14.3m
住宅地
3.5 地上高14m
都市地域(準工業地域)
0.1 Wet:4.5m, FP:21m
準工業地
1.8 地上高8m
未指定
0.2 地上高4.5m
特別地域
注 1) SO 2, NOxお よ び NH 3排 出 量 斜 体 : 少 な い 地 域 太 字 : 多 い 地 域
注 2) NJ:: 北 部 , JS: 日 本 海 側 , EJ: 東 部 , CJ: 中 央 部 , WJ: 西 部 , SW: 南 西 諸 島
注 3) ☆ : 環 境 省 の 委 託 事 業 , □ : 北 大 と の 共 同 研 究 成 果 , ◆ : 国 環 研 ・ 地 球 環 境 研 究 セ ン タ ー , 北 大 と の 共 同 研 究 成 果 , ▲ : 一 部 実 施
注 4) FP: 4 段 ろ 紙 , O式 : パッシブ法 , 自 動 : 常 時 監 視 局
注 5) 旧 名 称 は 日 光 中 宮 注 6) 旧 名 称 は 河 内 注 7) 旧 名 称 は 騎 西 注 8) 2013/1/23か ら 測 定 地 点 変 更 注 9) 旧 名 称 は 小 杉 注 10) 旧 名 称 は 奈 良 2013/3/25か ら 測 定 地 点 変 更
ては,月単位の切れ目の日に実施することとし,洗浄後
湿性沈着モニタリング手引き書―第2版―(以下,手引き
にフィールドブランク試料を採取し,精度管理に用いて
書3))に従い,イオンバランス(R1)および電気伝導率バラ
いる。
ンス(R2)により,基準範囲を超える場合は,再分析を行
降水量は,貯水量を捕集面積で割って算出することと
しており,測定項目および分析方法,手順については,
〔 全国環境研会誌 〕Vol.41
うなどの精度管理を行っている。また,分析精度の確保
に関しては,環境省のモニタリングネットワーク(以下,
No.3(2016)
4
<特集>
第5次酸性雨全国調査報告書(平成26年度)
JADS)の測定局を対象に行われている分析機関間比較調
よび自動測定機による方法を採用した。フィルターパッ
査に本調査参加機関も多数参加し,全環研としても解析
ク法,パッシブ法における測定項目別の捕集ろ紙を表
を行うことにより,分析データの信頼性を確保している。
2.2.1に示す。
2.2.2.1
表2.1.2 調査期間の季節・月区分
季節
春
夏
秋
冬
春
月
4
5
6
7
8
9
10
11
12
1
2
3
2014年度
4月7日 ~
5月7日
5月7日 ~
6月2日
6月2日 ~
6月30日
6月30日 ~
7月28日
7月28日 ~
8月25日
8月25日 ~
10月6日
10月6日 ~
11月4日
11月4日 ~
12月1日
12月1日 ~ 12月26日
12月26日 ~
1月26日
1月26日 ~
2月23日
2月23日 ~
4月6日
フィルターパック法
フィルターパック法(以下,FP法)は,1段目で粒子状物
週
4
4
4
4
4
6
4
4
4
4
4
6
質を,2段目でHNO3などを,3段目でSO2, HClを,4段目で
NH3を捕集する4段ろ紙法4,5)を全環研として採用した。
調査地点は,可能な限り湿性沈着調査地点と同一地点
を選定することとなっており,通年調査で,採取単位は1
週間~2週間である。なお,解析に用いるデータは月単位
である。試料採取は,第3~4次調査4)と同様に表2.2.1に
示した4種のろ紙を装着し,毎分1~5Lの吸引速度で連続
採取を行い,積算流量計,あるいは平均流量から採気量
を求めている。
注)週単位の試料交換日は原則として月曜日とした。
なお,全環研のFP法に関するマニュアルは東アジア酸
性雨モニタリングネットワーク(以下,EANET)でも英訳さ
2.2.2
れて用いられており,詳細な手順などはこれまでの報告
乾性沈着
4)
乾性沈着調査はフィルターパック法,パッシブ法お
表2.1.3
全国環境研協議会・酸性雨広域大気汚染調査研究部会組織
部会役職
部会長
理事委員
支部委員
委 員
有識者
事務局
およびEANETの技術資料6)などを参照されたい。
工藤 真哉
藤井 幸三
飯塚 政範
濵田 洋彦
高嶋 司
多田 敬子
松本 利恵
菊谷 有希
川下 博之
川本 長雄
河野 明大
濱村 研吾
友寄 喜貴
担当
報告書等
年度
担当部分
2014
2015
2014
2015
2014
2015
D,6章
2014-2015 D,5.3章
2014
2015
D,4章
2014
2015
D,4章
2014
2015
D,1-3章
野口 泉
2014-2015
山口
北村
家合
遠藤
横山
木戸
2014-2015 6章
2014
2014-2015
2014
2014-2015 6章
2014-2015 5.1-5.2章
所 属
青森県環境保健センター
熊本市環境総合センター
秋田県健康環境センター
宮崎県衛生環境研究所
秋田県健康環境センター
岩手県環境保健研究センター
埼玉県環境科学国際センター
奈良県景観・環境総合センター
福井県衛生環境研究センター
山口県環境保健センター
徳島県立保健製薬環境センター
福岡県保健環境研究所
沖縄県衛生環境研究所
地方独立行政法人 北海道立総合研究機構 環境・地質研
究本部 環境科学研究センター
〃
宮城県保健環境センター
新潟県保健環境科学研究所
〃
千葉県環境研究センター
富山県環境科学センター
公益財団法人 ひょうご環境創造協会 兵庫県環境研究セ
ンター
広島市衛生研究所
鳥取県衛生環境研究所
福岡県保健環境研究所
沖縄県衛生環境研究所
国立大学法人 東京農工大学 農学部
法政大学 生命科学部
国立研究開発法人 国立環境研究所 地球環境研究セン
ター
〃
一般財団法人 日本環境衛生センター アジア大気汚染研
究センター
〃
大気環境学会中国・四国支部
環境省
青森県環境保健センター
〃
〃
熊本市環境総合センター
〃
〃
氏 名
高志
洋子
浩明
朋美
新紀
瑞佳
堀江 洋佑
2014-2015 1-4章
福田
山添
濱村
岩崎
松田
村野
2014
2015
5.3章
2015
5.1-5.2章
2014-2015 1-4章
2014-2015
2014-2015
裕
良太
研吾
綾
和秀
健太郎
向井 人史
2014-2015
藍川 昌秀
2014-2015
大泉 毅
2014
箕浦
大原
小林
三浦
葛西
松倉
甲斐
濱野
吉田
2015
2014-2015
2014-2015
2014
2014
2014
2015
2015
2015
宏明
真由美
登茂子
誓也
正毅
祐介
勇
晃
芙美香
注)「報告書担当部分」におけるDはデータ収集,数字は報告書の章を表す。
〔 全国環境研会誌 〕Vol.41
No.3(2016)
5
<特集>
表2.2.1
項 目
粒子状成分
HNO3
F
SO2
P
HCl
NH3
NO2
パ NOx
ッ
NH3
シ
O
ブ 3
(SO2)*
第5次酸性雨全国調査報告書(平成26年度)
測定項目別の捕集ろ紙
を受け,メーカーからK2CO3含浸ろ紙が市販されるように
捕集ろ紙名
テフロン(PTFE)
なった。このことにより,従来のマニュアル7)に加えて,
ポリアミド
K2CO3+ポリアミド
K2CO3+ポリアミド
リン酸+ポリアミド
トリエタノールアミン(TEA)
TEA+PTIO
ニュアル補足版を作成した。
クエン酸
NaNO2
TEA もしくは K2CO3
マニュアルとは異なる点を含む全環研用パッシブ法のマ
2.2.2.3
自動測定機のデータ
自動測定機による測定値は,大気汚染常時監視測定局
データなどを月単位に集計し用いている。本データはFP
法およびパッシブ法による測定結果の精度確認のために
用いた。また,一部は乾性沈着量の評価にも用いている。
本データには高濃度地域に対応するための常時監視デー
タも含まれており,一部はFP法より精度が低い場合もあ
る。2014年度の自動測定機の調査地点は20地点である。
*第5次調査では測定対象外
2.2.3
2.2.2.2 パッシブ法
パッシブ法は,目的のガス成分を捕集するための試薬
が含浸されたろ紙,あるいは目的のガス成分と反応を起
こすための試薬が含浸されたろ紙を用い,捕集量あるい
は試薬成分変化量を測定し,濃度を求める方法である。
パッシブ法においては,そのまま試薬含浸ろ紙をさらす
方が捕集量は多くなるが,粒子状物質の沈着や風の強さ
などの影響を除くため,目的ガス成分がろ紙にたどり着
くまでの抵抗を設ける必要がある。本調査では抵抗方法
として,細孔を開けたサンプラーのカバーによる(拡散長
抵抗)方法である小川式パッシブ法(以下,パッシブ法)
を用いている。
2014年度のパッシブ法の調査地点は28地点である。調
査地点は大都市(例えば県庁所在地)・工業地域,中小都
市地域,田園地域,山林地域などからその目的に応じ1
地点以上選定する。可能ならば1地点はフィルターパッ
調査地点の属性および調査内容
広域的な環境調査データを解析する場合,目的に応じ
てデータおよび地点を選択することが有効である。
環境省の酸性雨モニタリング,EANETなどでは,モニタ
リングの目的,あるいは発生源(都市域)からの距離に応
じて調査地点を区分している。これは,モニタリングデ
ータを解析する場合に,この区分に応じて,近隣の発生
源の影響などを考慮し,対象地点を選択して解析するた
めである。
本調査では,Kannariら(2007)9)による2000年度ベース
のSO2,NOXおよびNH3排出量の情報を用いて,必要に応じ
て排出量別の解析を実施した。それぞれの排出量は3次メ
ッシュ(約1km四方)で得られており,調査地点周辺(半径
20km相当:対象範囲は,測定地点を中心とした半径20km
の円内に3次メッシュの中心点が存在するメッシュとし
た。)の排出量を算出した。
ク法(以下,FP法)又は自動測定機による測定を実施して
- 参 考 文 献 -
いる地点を選定することとなっている。調査は通年であ
り,採取単位は原則1ヶ月である。
1)
母子里のデータは,北大北方生物圏フィールド科学
センターとの共同研究による。
パッシブ法は,THE OGAWA SAMPLERとして欧米でもモニ
タリングに用いられている方法であり,測定方法として
2)
天塩FRSのデータは,国立環境研地球環境研究センタ
はFP法と同様に世界的にも良く知られている。本方法は,
ー,北大北方生物圏フィールド科学センターおよび北
拡散長抵抗方法が用いられ,濃度と捕集量の関係が理論
大工学研究科との共同研究による。
的に証明されており,他の方法と比較することなく濃度
3)
環境省環境保全対策課:湿性沈着モニタリング手引
の算出が可能である。また捕集効率が100%に近く,分子
き書(第2版),2001,http://www.env.go.jp/air/
拡散係数が得られれば,他の成分でも測定が可能である。
acidrain/man/wet_deposi/index.html
しかし,抵抗が大きく,ブランク値および分析の定量下
4)
全環研:第3次酸性雨全国調査報告書(平成11~13年
度のまとめ),全国環境研会誌,28,2-196,2003
限値の影響を受けやすい。特にSO2に関しては,都市部以
外の地域では精度の高い測定結果を得るのは困難である
5)
松本光弘,村野健太郎:インファレンシャル法によ
ため第5次調査では測定対象となっていない。しかし,従
る樹木等への乾性沈着量の評価と樹木衰退の一考察,
来のマニュアル7)で用いられていたトリエタノールアミ
日本化学会誌,1998(7),495-505,1998
ン(TEA)ではなく,K2CO3により改良された低濃度用ろ紙の
測定結果と,従来法との換算式も報告されている8)。これ
〔 全国環境研会誌 〕Vol.41
6)
Acid Deposition Monitoring Network in East Asia
:東アジアにおけるフィルターパック法に関する技術
No.3(2016)
6
<特集>
第5次酸性雨全国調査報告書(平成26年度)
資料,http://www.eanet.cc/jpn/docea_f.html
7)
平野耕一郎,斉藤勝美:短期暴露用拡散型サンプラ
た。3月は北日本ではかなり多かった。東日本日本海側と
西日本太平洋側では多く,東日本太平洋側と西日本日本
ーを用いた環境大気中のNO,NO2,SO2,O3およびNH3濃
海側では平年並だった。沖縄・奄美では少なかった。春
度の測定方法(改訂版),2010年8月, http://www.cit
の日照時間は,4月は北日本,東日本日本海側でかなり多
y.yokohama.lg.jp/kankyo/mamoru/kenkyu/shiryo/pub
く,東日本太平洋側と沖縄・奄美で多かった。西日本で
/d0001/d0001.pdf
は平年並だった。5月は東・西日本ではかなり多かった。
8)
恵花孝昭, 野口泉, 樋口慶郎, 2009. O式パッシブサ
北日本太平洋側では多く,北日本日本海側では平年並だ
ンプラー法におけるSO2捕集剤の検討(第2報). 第50回
った。また沖縄・奄美では,かなり少なかった。3月は北
大気環境学会年会講演要旨集, p.437
日本太平洋側では少なかった。一方,西日本日本海側で
9)
A. Kannari, Y. Tonooka, T. Baba, K. Murano:De
velopment of multiple-species 1 km × 1 km resol
ution hourly basis emissions inventory for Japan,
Atmos. Environ., 41, 3428-3439, 2007
はかなり多く,東日本と西日本太平洋側では多かった。
北日本日本海側と沖縄・奄美では平年並だった。
夏の平均気温は,北・東日本,沖縄・奄美で高かった。
一方,西日本では低かった。夏の降水量は,北日本,西
日本太平洋側ではかなり多く,東・西日本日本海側で多
3.
気象概況および大気汚染物質排出量の状況
かった。東日本太平洋側と沖縄・奄美では平年並だった。
降水量が多い場合,湿性沈着成分濃度は低下するが,
夏の日照時間は,西日本ではかなり少なく,東日本日本
沈着量は増加する。また気温および日射は乾性沈着成分
海側と沖縄・奄美で少なかった。一方,北日本日本海側
の生成や存在形態に影響すると考えられる。一方,SO2,
で多く,北・東日本太平洋側では平年並だった。
NOXおよびNH3排出量の状況も成分濃度や沈着量に反映さ
秋の平均気温は,沖縄・奄美でかなり高かった。北・
れると考えられる。これらのことから,ここでは気象概
東・西日本は平年並だった。秋の降水量は,北日本と沖
況および大気汚染物質排出量の状況を示す。
縄・奄美で少なかった。東・西日本は平年並だった。秋
3.1 2014年度の気象概況
2014年度の主な特徴は,西日本の冷夏や,8月の中国地
方をはじめとした記録的な豪雨等である。
西日本の夏の平均気温は,太平洋高気圧の西日本への
張り出しが弱かった等の影響で低く,2003年以来11年ぶ
りに冷夏となり,さらに日照時間もかなり少なかった。
特に,西日本太平洋側で1946年の統計開始以来,8月にお
ける月間日照時間の少ない記録と月降水量の多い記録を
更新した。7月30日から8月26日にかけては,台風第12号
が接近し,台風第11号が上陸するとともに,前線が日本
付近に停滞し,日本付近への暖かく非常に湿った空気が
継続して流れ込んだため,四国地方をはじめとして各地
で大雨となり,広島県広島市では集中豪雨による大規模
な土砂災害が発生した(「平成26年8月豪雨」と命名)。
春の平均気温は,4月は沖縄・奄美で平年より低かった
の日照時間は,北日本と東日本日本海側でかなり多く,
東日本太平洋側と沖縄・奄美で多かった。西日本では平
年並だった。
冬の平均気温は,北日本は高く,東・西日本と沖縄・
奄美で低かった。冬の降水量は,北・東・西日本で多く,
東日本日本海側ではかなり多かった。沖縄・奄美では少
なかった。冬の日照時間は,東・西日本日本海側と北日
本太平洋側でかなり少なく,北日本日本海側と西日本太
平洋側で少なかった。東日本太平洋側と沖縄・奄美は平
年並だった1)。
黄砂観測日数は前年度7日に対し,17日と増加した2)。
2014年度の各月における降水量,気温および日射(日照
時間)の概況を表3.1.1に示す。
3.2
SO2,NOXなどの排出量のトレンドと分布
北東アジアにおける人為起源のSO2およびNOX排出量は,
が,北日本から西日本にかけては平年並だった。5月は北
中国およびインド,極東ロシアが多い3)。また図3.2.1に
・東日本で高かった。西日本と沖縄・奄美は平年並だっ
示す中国のSO2,NOX排出量のトレンド4,5)は,図3.2.2に示
た。3月は北日本と東日本ではかなり高かった。西日本と
す中国,韓国および日本のエネルギー消費のトレンド6)
沖縄・奄美では平年並だった。春の降水量は,4月は北日
とも合致しており,90年代半ばから2000年頃まではやや
本日本海側と沖縄・奄美でかなり少なく,北日本太平洋
停滞したが,その後再び排出量が増加し,2007年以降,
側と東日本日本海側,西日本では少なかった。東日本太
SO2排出量が漸減したとの報告7)もあるが,その排出量は
平洋側では平年並だった。5月は沖縄・奄美で多かった。
多いままである。NOX排出量については,2010年度以降減
一方,東・西日本では少なかった。北日本は平年並だっ
少傾向にあるが,排出量は多いままである。
〔 全国環境研会誌 〕Vol.41
No.3(2016)
7
<特集>
表3.1.1
第5次酸性雨全国調査報告書(平成26年度)
気象概況(http://www.jma.go.jp/jma/press/tenko.html)
平均気温
4月 沖縄・奄美で平年より低かったが、北日本から西日本にかけては平年並だった。
北・東日本で高かった。函館(北海道)、むつ(青森県)、盛岡(岩手県)などの3地点では、5月の平均気温の高い方からの1位を更新した。西日本と沖
縄・奄美は平年並だった。
北日本でかなり高く、東日本で高かった。西日本と沖縄・奄美は平年並だった。羽幌、留萌(以上、北海道)、盛岡(岩手県)など7地点では6月の月平
6月 均気温の高い方からの1位を更新した。
7月 北日本でかなり高く、東日本と沖縄・奄美で高かった。西日本は平年並だった。
8月 西日本では、曇りや雨の日が多かったため、8月としては2009年以来5年ぶりに低温となった。一方、沖縄・奄美では高く、北・東日本で平年並だった。
東・西日本で低く、北日本は平年並だった。沖縄・奄美ではかなり高かった。与那国島、石垣島、宮古島(ともに沖縄県)など4地点では、9月の月平均
9月 気温の高い方からの1位を更新した。
10月 北日本で低く、東・西日本と沖縄・奄美で平年並だった。
11月 全国的に高かった。
12月 全国的に低かった。
1月 北・東・西日本で高かった。沖縄・奄美は平年並だった。
2月 北日本は高く、釧路、根室(以上、北海道)では、2月の月平均気温の高い方からの1位の値を更新した。東・西日本、沖縄・奄美では平年並だった。
北日本と東日本ではかなり高かった。稚内、旭川、札幌、釧路(以上、北海道)、八戸(青森県)など20地点では、3月の月平均気温の高い方からの1位
3月 の値を更新した。西日本と沖縄・奄美では平年並だった。
5月
降水量
北日本日本海側と沖縄・奄美でかなり少なく、北日本太平洋側と東日本日本海側、西日本では少なかった。東日本太平洋側では平年並だった。室
蘭、江差、苫小牧(以上、北海道)、秋田など6地点では、4月の月降水量が少ない方からの1位を更新した。
5月 沖縄・奄美で多かった。一方、東・西日本では少なかった。北日本は平年並だった。
北日本と関東甲信地方を中心とした東日本太平洋側で多かった。日光(栃木県)では6月の月降水量の多い方からの1位を更新した。一方、東・西日本
日本海側と東・西日本太平洋側の一部では少なかった。特に、近畿地方の月降水量は平年の39%と6月としては最も少ない値となった(統計開始は
6月 1946年)。飯田(長野県)、浜松(静岡県)、神戸(兵庫県)など8地点では、6月の月降水量の少ない方からの1位を更新した。西日本太平洋側、沖縄・
奄美は平年並だった。
沖縄・奄美で多かった。一方、東日本太平洋側では少なかった。北日本と東日本日本海側、西日本は平年並だった。台風第8号が7日から11日にかけ
7月 て日本に接近、上陸した。沖縄本島地方では記録的な大雨となったほか、台風周辺の湿った南風と梅雨前線の影響で、北日本から西日本にかけても
局地的に大雨となった所があった。
北日本、東日本日本海側、西日本でかなり多く、東日本太平洋側で多かった。台風第12号及び台風第11号が相次いで日本に接近、または上陸すると
ともに、前線が日本付近に停滞し、日本付近への暖かく非常に湿った空気の流れ込みが継続したため、各地で大雨となった(平成26年8月豪雨)。この
8月 ため、西日本太平洋側の月降水量は平年比301%となり、1946年の統計開始以来8月としては最も多くなった。和歌山、高知、徳島など17地点では、8
月の月降水量の多い方からの1位を更新した。一方、沖縄・奄美では少なかった。
北日本太平洋側でかなり少なく、北・東日本日本海側、東日本太平洋側、西日本および沖縄・奄美で少なかった。松江(島根県)、石垣島(沖縄県)で
9月 は、9月の月降水量の少ない方からの1位を更新した。
台風第18号と第19号の影響で、東日本でかなり多く、北日本太平洋側、西日本と沖縄・奄美で多かった。輪島(石川県)では月降水量の多い方からの
10月 1位の値を更新した。また、少雨が続く八重山地方の西表島(沖縄県)では月降水量の少ない方からの1位の値を更新した。一方、北日本日本海側は、
平年並だった。
11月 北日本日本海側でかなり少なく、東日本日本海側で少なかった。西日本日本海側と北・東・西日本太平洋側、沖縄・奄美では平年並だった。
北・東日本日本海側ではかなり多く、北・東日本太平洋側、西日本で多かった。北・東日本日本海側の降水量は、12月としては1946年の統計開始以
降で最も多い記録を更新した。倶知安(北海道)、伏木(富山県)、高山(岐阜県)など11地点では、12月の月降水量の多い方からの1位の値を更新し
12月 た。沖縄・奄美では平年並だった。
降雪の深さ月合計は、北・東日本、西日本日本海側で多く、小樽(北海道)では、降雪の深さ月合計の多い方から及び月最深積雪の大きい方からのそ
れぞれ1位の値を更新した。西日本太平洋側では、平年並だった。また、月最深積雪では、平年を上回ったところが多かった。
西日本太平洋側でかなり多く、東日本太平洋側と西日本日本海側で多かった。一方、沖縄・奄美はかなり少なく、北日本日本海側は少なかった。北見
枝幸(北海道)、沖永良部(鹿児島県)、名護、久米島(以上、沖縄県)では、1月の月降水量の少ない方からの1位の値を更新した。北日本太平洋側と
1月 東日本日本海側は平年並だった。
降雪の深さ月合計は、北日本日本海側でかなり少なく、北日本太平洋側と東・西日本日本海側で少なかった。一方、西日本太平洋側では多かった。
東日本太平洋側では、平年並だった。月最深積雪は、北日本日本海側と東日本の太平洋側の一部で平年を上回った所が多かった。
西日本日本海側はかなり少なく、北日本日本海側と西日本太平洋側および沖縄・奄美は少なかった。名瀬(鹿児島県奄美大島)、南大東島(沖縄県)
2月 では、2月の月降水量の少ない方からの1位の値を更新した。東日本は平年並だった。北日本太平洋側では多かった。
2月の降雪量は全国的に少なく、北日本日本海側では1961年の統計開始以降2月としては最も少なかった。
北日本ではかなり多かった。小樽、苫小牧(以上、北海道)、仙台(宮城県)など6地点では、3月の月降水量の多い方からの1位の値を更新した。東日
本日本海側と西日本太平洋側では多く、東日本太平洋側と西日本日本海側では平年並だった。沖縄・奄美では少なかった。
3月 降雪の深さ月合計は、北日本では少なく、東日本日本海側では平年並だった。月最深積雪は、北日本太平洋側の一部では平年を大幅に上回った
が、そのほかの多くの地点では平年を下回った。
4月
日照時間
北日本、東日本日本海側でかなり多く、東日本太平洋側と沖縄・奄美で多かった。西日本では平年並だった。苫小牧、浦河、倶知安(以上、北海道)、
秋田、新庄(山形県)など35地点では、4月の月間日照時間が多い方からの1位を更新した。
東・西日本ではかなり多かった。秩父(埼玉県)、尾鷲(三重県)、福岡など30地点で5月の日照時間の多い方からの一位を更新した。北日本太平洋側
5月 では多く、北日本日本海側では平年並だった。また沖縄・奄美では、かなり少なかった。
西日本と沖縄・奄美で少なかった。父島(東京都)では6月の月間日照時間の少ない方からの1位を更新した。一方、東日本では多く、北日本では平年
6月 並だった。
7月 北日本太平洋側でかなり多く、北日本日本海側と東日本太平洋側で多かった。東日本日本海側と西日本、沖縄・奄美は平年並だった。
東・西日本ではかなり少なく、北日本日本海側、沖縄・奄美で少なかった。境(鳥取県)、雲仙岳(長崎県)、阿蘇山(熊本県)など29地点では、8月の
8月 月間日照時間の少ない方からの1位を更新した。北日本太平洋側では平年並だった。
北日本、東日本および沖縄・奄美でかなり多かった。新庄(山形県)、盛岡(岩手県)、仙台(宮城県)など11地点では、9月の月間日照時間の多い方か
9月 らの1位を更新した。西日本は平年並だった。
10月 北日本と東日本日本海側で多く、東日本太平洋側、西日本と沖縄・奄美は平年並だった。
北日本日本海側でかなり多く、沖縄・奄美で多かった。一方、東日本太平洋側では少なかった。北日本太平洋側、東日本日本海側と西日本は平年並
11月 だった。
北・東・西日本日本海側、沖縄・奄美ではかなり少なく、北・西日本太平洋側で少なかった。寿都(北海道)、酒田(山形県)、輪島(石川県)では、月間
12月 日照時間の少ない方からの1位の値を更新した。東日本太平洋側では平年並だった。
1月 東日本日本海側でかなり少なく、北日本日本海側と北日本太平洋側で少なかった。東日本太平洋側と西日本、沖縄・奄美では平年並だった。
2月 北日本日本海側と沖縄・奄美は多く、東・西日本太平洋側は平年並、北日本太平洋側と東・西日本日本海側では少なかった。
北日本太平洋側は少なかった。広尾(北海道)では、3月の月間日照時間の少ない方からの1位の値を更新した。一方、西日本日本海側ではかなり多
3月 く、東日本と西日本太平洋側では多かった。北日本日本海側と沖縄・奄美では平年並だった。
4月
〔 全国環境研会誌 〕Vol.41
No.3(2016)
8
<特集>
第5次酸性雨全国調査報告書(平成26年度)
7th International Conference on Acidic Deposition,
国内における人為発生源由来のSO2,NOXおよびNH3排出
量では, SO2およびNOX排出量は関東から北九州にかけて
の工業地帯および高速道路などの幹線道路近傍の排出量
32, 2005
6)
8)
が多い 。またNH3排出量は酪農などを含む農業部門から
の排出も多い傾向がみられている。なお,1995年度の分
toukei/contents/, 2015
7)
布と比べると幹線道路近傍のSO2排出量は減少しており,
9)
軽油の硫黄分削減効果が認められている 。
環境省環境統計集,http://www.env.go.jp/doc/
大原利眞:東アジアにおける広域越境大気汚染モデ
リングの最新動向,水環境学会誌,35,6-9,2013
8)
A. Kannari, Y. Tonooka, T. Baba, K. Murano:
Development of multiple-species 1 km × 1 km
resolution hourly basis emissions inventory for
SO2
SO2
25
Japan, Atmos. Environ., 41, 3428-3439, 2007
NOx
NOx
9)
20
都市環境学教材編集委員会:都市環境学,森北出版,
2003
15
10
2012
2010
2008
2006
2004
2002
2000
1998
1996
0
1994
4.湿性沈着
湿性沈着調査では,日本全域における湿性沈着による
1992
5
1990
Emissions, Mt
30
Year
汚染実態を把握することが主目的である。ここでは,湿
性沈着調査における,2014年度のとりまとめについて報
告する。
2014年度の湿性沈着調査に対し,47機関65地点の参加
図3.2.1 中国におけるSO2およびNOx排出量
があった。ただし,4.1で示すとおりデータの精度が基準
を満たしていない地点については,参考値として扱い,
解析からは除外した。
なお,報告値の一部には,他の学術機関との共同研究
および国設局との共用データも含まれている(表2.1.1参
照)。
4.1
データの精度
地域別・季節別のイオン成分の挙動等について解析す
図3.2.2 中国,韓国および日本のエネルギー消費の
トレンド
る前に,各機関の測定データの精度について,以下の評
価を行った。
4.1.1
- 参 考 文 献 -
1)
気象庁報道発表資料,http://www.jma.go.jp/jma
/press/tenko.html, 2015
2)
そこで,各機関から報告されたデータについて,全国環
境研協議会・酸性雨広域大気汚染調査研究部会(以下,全
環研)で指定した月区切りに基づいて,完全度(測定期間
G. Janssens-Maenhout, T. Fukui, K. Kawashima, and
の適合度を含む)の評価を行った。定義については,既報
1)
を参照頂きたい。
greenhouse gases over Asian regions during 2000–
完全度を基に,月間データの場合は60%未満,年間デー
2008: Regional Emission inventory in ASia (REAS)
タの場合は80%未満のデータについては解析対象から除
version 2,Atmos. Chem. Phys, 13, 11019-11058, 2013
外した。ただし,月間データの完全度は基準以下である
国家环境保护总局:http://zls.mep.gov.cn/hjtj/
がデータが存在する場合,年間データの集計には用いて
nb/2013tjnb/201411/t20141124_291867.htm,2014など
5)
タの完全度が高いことだけでなく,各データ間の測定(試
J. Kurokawa, T. Ohara, T. Morikawa, S. Hanayama,
H. Akimoto:Emissions of air pollutants and
4)
間データ同士を比較検討する場合,欠測を考慮したデー
料採取)期間のズレ(適合度)が小さいことも重要である。
気象庁:黄砂,http://www.data.jma.go.jp/gmd/
env/kosahp/kosa_table_1.html, 2015
3)
データの完全度
各機関から報告されたデータにおいて,月間または年
いる。
H. Tian, J. Hao, Y. Nie: Recent trends of NOX
2014年度は,月間データでは780個中57データ(7.3%)
Emissions from energy use in China, Proceeding of
が除外され,年間データでは65地点中2地点が除外された。
〔 全国環境研会誌 〕Vol.41
No.3(2016)
9
<特集>
第5次酸性雨全国調査報告書(平成26年度)
除外データは参考値として扱った。なお,装置の故障等
準偏差を表4.1.2に示す。フラグ数は,東アジア酸性雨モ
により,ある期間常時開放捕集となった地点については,
ニタリングネットワーク(EANET)の精度管理目標値(DQOs
原則としてその期間のデータを参考値扱いとした。
:Data Quality Objectives,分析の正確さ:±15%)を用
4.1.2
イオンバランス(R1)および電気伝導率
バランス(R2) と分析精度管理調査結果
い,DQOsの2倍まで(±15%~±30%)の測定値にはフラグE
を,DQOsの2倍(±30%)を超える測定値にはフラグXを付け
表4.1.1に示すように,「湿性沈着モニタリング手引き
て判定した。相対標準偏差を求める際には,分析精度管
書(第2版)」2)に従って,イオンバランス(以下,R1)およ
理調査結果報告書13)の方法に従い,平均値から標準偏差
び電気伝導率バランス(以下,R2)による2つの検定方法を
の3倍以上はずれている測定値は棄却した。
用い,測定値の信頼性を評価した。なお,各機関におけ
高濃度試料ではDQOsを満たすデータが96.5%,フラグE
る試料の採取および分析は,原則週単位で行われている
またはフラグXが付いたデータは,それぞれ2.0%および
ため,本来,R1およびR2は個々の試料ごとに評価すべきで
1.5%であった。また,低濃度試料では,DQOsを満たすデ
ある。しかし,全環研への報告値は月区切りを採用して
ータが92.0%,フラグEまたはフラグXが付いたデータは,
いるため,本報告では月単位の加重平均値を用いて,R1
それぞれ6.0%および2.0%であった。2013年度12に比較して,
およびR2を評価した。
高濃度試料,低濃度試料ともに,フラグ付与率が減少し
完全度の基準を満たした地点の月間データにおいて,
R1による評価では,全ての項目が測定された741個のデー
改善が見られた。フラグは陽イオンに多く,特に低濃度
試料における付与数が多かった。
タ中,R1 が許容範囲内にあったデータは713個(適合率
一方,国設局管理機関(18機関)が2014年度に行った精
96.2%)であった。同様に,R2による評価では,R2が許容範
度管理調査13では,高濃度試料ではDQOsを満たすデータが
囲内にあったデータは729個(適合率98.4%)であった。R1
97.8%,フラグEまたはフラグXが付いたデータは,それぞ
およびR2の分布を図4.1.1に示す。2003~2013年度におけ
れ2.2%および0.0%であった。低濃度試料では,DQOsを満
るR1およびR2の適合率は,R1: 92~97%, R2: 97~99%の
たすデータが96.7%,フラグEまたはフラグXが付いたデー
範囲にあり高いレベルで保たれている
1,3-12)
。
次に,分析精度管理調査について検討した。環境省が
タは,それぞれ3.3%および0.0%であった。フラグは全て
陽イオンの分析データに付与された。
国設大気環境・酸性雨測定所(以下,国設局)を有する自
次に,精度管理参加機関間でバラツキの大きな成分を
治体を対象に行っている酸性雨測定分析機関間比較調査
確認するため,各成分の測定結果の相対標準偏差を比較
は,全環研から環境省への要望により,国設局以外の希
した。高濃度試料については,陰イオンは5%以下で陽イ
望自治体についても分析精度管理調査(分析機関間比較
オンは10%以下,低濃度試料では陰イオンは8%以下で陽イ
調査)として実施されている。同調査は,模擬酸性雨試料
オンは13%以下であった。K+とMg2+のバラツキが大きかっ
(高濃度および低濃度の2種類)を各機関に配布し,その分
た。国設管理機関が2014年度に行った分析精度管理調査
析結果を解析することにより,分析機関に存在する問題
では,相対標準偏差は高濃度試料,低濃度試料とも7%以
点や測定の信頼性の評価を行っている。環境省の協力の
下であった。
もと,2014年度は全環研会員の自治体のうち国設局を管
以上の結果から,全環研報告機関と国設局管理機関の
理している機関(以下,国設局管理機関)18機関を除き40
フラグの付与率および相対標準偏差を比較すると,全環
機関(以下,精度管理参加機関)がこの調査に参加した。
研報告機関のほうがフラグ付与率および相対標準偏差と
このうち全環研に湿性沈着の結果を報告している機関
もに高かった。年々,分析精度の向上に努め,おおむね
(以下,全環研報告機関)は35機関であった。
精度よく測定が実施されているが,さらなる改善が望ま
精度管理機関による測定成分ごとのフラグ数と相対標
表4.1.1
ΣCi+ΣAi
れる。特に低濃度試料に関してはより一層の改善が必要
イオンバランス(R1)および電気伝導率バランス(R2)の許容範囲
R1(%)=
-1
Λobs
R2(%)=
-1
{(ΣCi-ΣAi)/(ΣCi+ΣAi)}×100
{(Λcal-Λobs)/(Λcal+Λobs)}×100
(mS m )
(μeq L )
<50
±30
<0.5
±20
50~100
±15
0.5~3.0
±13
>100
±8
>3.0
±9
ΣAi = [SO42-] + [NO3-] + [Cl-] 但し,等量濃度(μeq L-1)
ΣCi = [H+] + [NH4+] + [Na+] + [K+] + [Ca2+] + [Mg2+] 但し,等量濃度(μeq L-1)
Λcal : 測定対象イオンの等量濃度に極限等量電気伝導率を乗じた積算値
Λobs : 降水試料の電気伝導率測定値
〔 全国環境研会誌 〕Vol.41
No.3(2016)
10
<特集>
図4.1.1
第5次酸性雨全国調査報告書(平成26年度)
イオンバランス(R1)と総イオン濃度(ΣAi+ΣCi)および電気伝導率バランス(R2)と実測値との比較
である。
について調べた。定量下限値は,イオン成分分析用検量
表4.1.2に示すように,各機関の測定結果のバラツキが
線を作成する際の最低濃度標準液を5回以上の繰り返し
大きい成分は,高濃度,低濃度試料ともに陽イオンであ
測定したときの標準偏差(s)から求められる。検出下限値
り,また,陽イオンにフラグの付与数が多かった。これ
は3s (µmol L-1),定量下限値は10s (µmol L-1)として計
らの項目の分析精度のさらなる向上により,全体の精度
算される。このため,定量下限値は,イオン類測定の際
改善につながることが期待される。また,pHではフラグ
の定量値のバラツキ度合いとみなすことができる。イオ
+
付与数が0であり,バラツキも小さいが,H 濃度に換算す
ン成分の定量下限値が定量下限値に係るDQOsを満たして
ると,大きなバラツキが予想される。R1およびR2の計算過
いない機関数と,その機関のうち分析精度管理調査でフ
+
程ではH 濃度として効いてくること,実際の降水試料の
+
ラグが付与された機関数について表4.1.3に示す。定量下
評価ではH 沈着量としての評価も重要であることなどか
限値がDQOsを満たしていない機関数は,Cl-,K+およびCa2+
ら,pHについては,H+濃度として測定機関間のバラツキ
で4機関(10%)であり,他の成分では2機関(5.0%)であった。
がより小さくなるよう努力していく必要性が考えられる。
DQOsを満たしていない機関のうち,分析精度管理調査の
続いて,イオン成分の定量下限値とフラグ付与の関係
〔 全国環境研会誌 〕Vol.41
高濃度試料と低濃度試料でフラグが付与された機関数は,
No.3(2016)
11
<特集>
第5次酸性雨全国調査報告書(平成26年度)
Ca2+が3機関で最も多かった。Ca2+に関しては,定量下限
各機関にて捕集装置の洗浄確認等の自主管理が実行でき
値>DQOsの場合にフラグ付与数が多かったが,それ以外
るようにとの目的から,FB試料濃度の上限値(暫定)を提
の項目に関しては,定量下限値>DQOsの場合にフラグが
案した5)。
付与されるということではなく,また,フラグが付与さ
FB試料から高濃度が検出された場合や,鳥の糞,黄砂,
れたからといって定量下限値>DQOsであるということで
虫,植物片,種子などの汚染に気付いた際は,採取装置
はなかった。
の洗浄を徹底し,チューブの交換などを実施することで,
さらなる分析精度向上のためには,日常の実降水試料
流路からの汚染を低減化する必要があると考えられる。
測定においてのR1およびR2の管理だけにとどまらず,酸性
また, 現場においてはFB試料に濁りや不溶性のコンタミ
雨測定分析精度管理調査を積極的に活用し,配布される
ネーションがみられないかを確認することや,ポータブ
模擬酸性雨試料などを「標準参照試料」として利用した
ルの電気伝導率計により電気伝導率を測定することによ
日常的な分析精度の管理を実施していくことが望ましい
り,流路からの汚染が少なく保たれているかをチェック
と考える。
することが望ましい。各機関にてFB試験を実施し,捕集
4.1.3
装置の自主管理を実行することを推奨する。
フィールドブランク
フィールドブランク(以下,FB)試験を実施するごとに,
表4.1.2
2014年度分析精度管理調査におけるフラグ数と相対標準偏差
pH
高濃度試料
フラグE
フラグX
相対標準偏差
低濃度試料
フラグE
フラグX
相対標準偏差
表4.1.3
EC
SO 42-
NO 3-
Cl -
Na +
K+
Ca 2+
Mg 2+
NH 4+
0
0
0
2
0
1
4
0
1
0
0
0
0
0
0
0
2
1
3
0
1.2%
2.5%
3.0%
4.7%
3.8%
3.9%
9.3%
4.2%
9.3%
4.7%
(n=39) (n=40) (n=39) (n=39) (n=40) (n=39) (n=39) (n=39) (n=39) (n=40)
0
0
1
5
1
5
2
4
5
1
0
0
0
0
0
1
3
1
3
0
1.6%
3.4%
3.6%
7.3%
4.5%
8.6% 11.9%
8.0% 12.9%
5.2%
(n=40) (n=40) (n=39) (n=40) (n=39) (n=39) (n=39) (n=39) (n=39) (n=40)
定量下限値が精度管理目標値を満たしていない機関数,およびその機関のうち分析精度管理調査で
フラグが付与された機関数
n=40
定量下限値がDQOsを満たしていない機関数
上記機関のうち,低濃度試料のフラグがついた機関数
上記機関のうち,高濃度試料のフラグがついた機関数
-1
定量下限値に係るDQOs(μmol L )
SO 422
0
0
0.3
NO 32
0
0
0.5
Cl 4
0
0
0.5
Na +
2
0
0
0.3
K+
4
0
1
0.3
Ca 2+
4
1
3
0.2
Mg 2+
2
1
1
0.3
NH 4+
2
0
0
0.8
DQOs:精度管理目標値
〔 全国環境研会誌 〕Vol.41
No.3(2016)
12
<特集>
第5次酸性雨全国調査報告書(平成26年度)
図4.2.1
地域区分
4.2 pH,ECおよびイオン成分濃度
4.2.1
ここでは,2014年度の湿性沈着調査におけるpH,ECお
地域ごとの特徴を把握するために,全国に分布する調
よびイオン成分濃度について報告する。
降水量および酸性成分濃度による地域区分
査地点を,「北部(NJ:Northern Japan area)」「日本海
解析対象は,4.1.1で示したとおり,完全度(測定期間
側(JS:Japan Sea area)」
「東部(EJ:Eastern Japan area)」
の適合度を含む)が,月間データで60%以上,年間データ
「中央部(CJ:Central Japan area)」「西部(WJ:Western
で80%以上の地点のデータを有効とした。なお,試料採取
Japan area)」および「南西諸島(SW:Southwest Islands
時にオーバーフローがあり,降水量の算出ができない試
area)」の6つの地域区分に分類した。地点ごとの地域区
料については,近接の気象観測所等の降水量データを採
分を,図4.2.1および表4.2.1に示す。なお,地域区分の
用した。
設定方法等については,既報1)を参照頂きたい。
〔 全国環境研会誌 〕Vol.41
No.3(2016)
13
<特集>
第5次酸性雨全国調査報告書(平成26年度)
表4.2.1
地点名
地域
1)
区分
利尻
母子里
札幌北
青森東造道
鰺ヶ沢舞戸
涌谷
秋田千秋
郡山朝日
小名浜
土浦
前橋
宇都宮
小山
日光
加須
さいたま
市川
市原
香取
銚子
一宮
旭
佐倉
清澄
宮野木
川崎
平塚
新潟大山
新潟小新
新潟曽和
長岡
射水
金沢
福井
長野
伊自良湖
静岡北安東
静岡小黒
名古屋南
豊橋
四日市桜
大津柳が崎
京都壬生
神戸須磨
桜井
海南
若桜
湯梨浜
松江
広島安佐南
山口
香北
徳島
太宰府
福岡
佐賀
諫早
阿蘇
宇土
熊本
大分
宮崎
鹿児島
大里
辺戸岬
最 低 値
最 高 値
NJ
NJ
NJ
NJ
NJ
NJ
NJ
EJ
EJ
EJ
EJ
EJ
EJ
EJ
EJ
EJ
EJ
EJ
EJ
EJ
EJ
EJ
EJ
EJ
EJ
EJ
EJ
JS
JS
JS
JS
JS
JS
JS
CJ
CJ
CJ
CJ
CJ
CJ
CJ
CJ
CJ
CJ
CJ
CJ
JS
JS
JS
WJ
WJ
WJ
CJ
WJ
WJ
WJ
WJ
WJ
WJ
WJ
WJ
WJ
WJ
SW
SW
-2
排出量(t km
-1
y )
SO2
NOx
NH3
1.27
0.12
5.18
1.18
0.20
1.83
4.37
1.32
13.81
1.44
4.13
2.88
3.13
0.13
2.49
7.46
8.63
13.96
17.03
10.17
0.23
7.68
2.96
0.16
12.33
16.98
1.42
2.75
2.64
2.60
1.87
6.11
2.74
2.41
1.35
2.00
3.15
3.29
10.23
2.36
4.10
3.92
3.96
10.20
1.75
9.97
0.03
0.25
0.46
3.35
2.28
0.04
2.04
3.94
2.43
2.50
5.88
0.30
2.07
1.71
15.09
0.56
1.41
6.30
0.00
0.51
0.76
25.61
3.59
1.15
5.75
6.14
6.08
16.92
7.73
12.96
10.93
12.59
0.97
18.24
48.21
59.68
44.28
20.01
8.98
1.97
8.66
26.96
1.14
42.86
74.45
17.70
12.68
9.73
9.49
4.94
15.55
6.93
7.77
4.76
5.52
9.89
10.23
51.61
10.81
17.71
17.74
17.81
30.41
13.03
14.10
0.50
1.30
2.49
12.32
5.84
0.46
8.03
21.34
14.89
6.92
7.58
1.33
8.38
8.83
19.72
3.25
5.88
7.83
0.05
0.02
0.49
1.07
0.44
0.51
2.45
0.53
1.37
0.99
3.20
7.55
2.79
3.08
0.16
3.51
5.19
4.64
3.14
4.00
3.92
0.97
4.12
3.01
0.92
3.97
3.11
3.03
1.74
1.66
1.28
0.62
1.80
1.12
0.80
0.61
1.54
1.38
1.42
4.70
4.18
2.31
1.34
1.65
1.05
2.04
1.12
0.30
0.86
0.56
1.04
0.63
0.18
1.76
1.90
1.38
1.63
1.30
1.72
1.47
3.56
1.30
1.14
1.37
2.08
0.35
加重平均値※
降水量
(mm)
1130
1403
1214
1264
1235
1197
1535
1185
1514
1305
1176
1651
1367
2339
1299
1500
1739
1490
(1347)
1855
1880
1915
1435
2014
1418
1715
1394
2047
1809
1860
2901
2724
2988
2149
738
3085
1843
1876
1388
1838
2619
1547
1443
1064
1494
1576
2331
1932
1697
1278
1764
4322
2615
1732
2563
1996
2276
2340
1775
1607
2102
3316
2035
(1938)
2101
738
4322
1840
pH
EC
(mS m-1)
4.77
3.49
4.85
1.73
4.74
2.60
5.09
4.70
5.06
6.18
5.02
1.10
4.84
4.17
0.82
5.02
4.91
1.43
4.80
1.32
5.03
1.24
4.98
1.23
5.09
1.24
5.03
1.19
4.98
1.19
4.70
1.61
4.83
1.25
4.96
1.72
(5.12) (1.54)
5.35
2.34
4.95
2.02
6.06
2.36
4.89
1.04
5.20
2.23
5.02
1.07
4.89
1.64
5.14
1.50
4.84
4.16
4.72
4.39
4.66
4.01
4.69
4.59
4.61
4.18
4.57
4.16
4.52
4.20
4.83
1.18
4.69
1.57
4.69
2.55
4.91
2.19
4.97
1.38
4.80
1.61
4.51
1.91
4.67
1.46
4.76
1.43
4.60
2.61
4.91
1.10
4.73
1.42
4.60
2.32
4.52
4.43
4.57
4.03
4.39
2.39
4.55
2.35
4.83
0.95
4.86
1.68
4.68
1.72
4.63
2.14
4.69
1.17
4.65
1.70
4.27
3.38
4.62
1.71
4.69
1.43
4.52
1.92
4.71
2.08
4.34
3.78
(5.28) (7.99)
5.13
2.23
4.27
0.82
6.06
6.18
4.73
2.33
湿性イオン成分等の地点別年加重平均濃度
SO4220.1
12.6
16.3
31.5
35.6
9.5
25.7
9.8
13.1
13.6
11.5
12.6
16.5
16.7
11.0
13.3
13.5
23.3
(15.9)
16.9
14.2
16.5
10.8
20.3
12.9
16.0
12.8
28.0
26.9
24.1
28.6
26.4
26.3
26.9
11.4
11.9
19.3
13.6
11.8
13.4
15.9
12.8
12.3
18.5
13.0
13.0
18.4
27.9
27.2
19.9
20.0
8.0
11.7
17.5
17.1
11.1
15.3
23.6
16.2
16.0
17.7
17.5
31.8
(36.8)
12.7
8.0
35.6
17.8
2-
nss-SO4
10.3
9.2
9.9
17.4
14.4
8.2
14.1
9.2
11.3
12.3
11.2
12.0
15.8
16.0
10.6
12.4
12.2
20.7
(13.0)
9.6
8.7
10.4
9.8
14.4
10.0
14.1
10.2
16.7
15.0
14.1
16.4
16.6
17.1
18.7
11.1
10.9
16.1
9.1
10.6
11.4
14.5
12.1
11.7
14.0
12.2
11.5
14.8
16.7
18.9
18.4
17.2
7.3
8.3
16.0
14.1
10.1
13.7
22.8
15.4
15.4
16.5
13.9
27.7
(6.0)
NO39.6
10.9
9.2
19.9
15.1
10.5
17.1
12.8
11.4
18.6
25.4
18.9
27.5
22.7
22.2
22.8
16.0
16.6
(13.1)
10.0
9.9
12.1
11.7
12.4
10.6
13.8
17.2
18.1
18.4
17.6
18.7
22.9
21.7
25.1
16.8
16.3
23.5
11.0
14.8
16.3
17.1
17.6
14.3
16.4
17.0
9.5
17.3
21.5
27.5
20.0
19.9
Cl184.1
64.2
119.5
261.5
391.5
23.5
217.0
12.2
35.1
22.4
6.8
4.6
27.7
10.9
15.4
14.6
14.1
11.9
12.1
12.1
14.7
12.3
10.5
8.5
(8.2)
6.0
5.6
27.5
13.3
14.6
13.3
10.7
19.1
27.0
52.4
(58.4)
140.6
106.3
122.9
21.2
115.7
27.0
38.1
48.7
216.1
224.1
191.1
231.9
186.3
168.4
165.0
7.4
23.3
64.2
90.9
23.4
38.5
27.5
14.0
12.1
88.1
14.8
27.9
71.7
208.4
159.2
31.3
49.7
12.9
61.6
29.7
57.7
12.2
31.7
52.8
15.7
14.5
29.7
69.1
100.3
(588.1)
153.2
6.8
391.5
13.6
15.5
82.4
4.6
5.6
Na+
(μmol L-1)
12.3
162.7
12.3
56.1
12.5
105.0
22.8
232.6
18.7
348.2
13.3
20.4
26.1
190.9
13.8
9.5
12.6
28.8
26.3
20.5
35.2
4.9
23.1
10.9
36.7
11.4
25.3
10.8
20.3
7.0
26.2
16.2
16.8
21.1
23.5
42.2
(23.7)
(48.4)
24.9
119.1
10.7
91.3
61.0
100.5
12.4
16.2
13.4
95.9
11.9
24.1
21.5
31.8
23.8
43.6
24.4
187.6
19.3
196.1
17.3
163.5
18.8
200.9
21.2
160.5
22.0
152.6
21.9
134.2
21.1
5.3
13.4
15.6
21.7
53.9
10.5
74.0
16.5
19.9
14.2
34.4
21.9
23.2
16.5
11.7
15.1
9.6
14.3
75.1
16.8
12.6
10.4
23.3
14.1
60.8
20.7
185.3
22.0
137.5
13.4
25.2
16.9
47.0
4.8
10.2
10.4
55.2
19.3
24.9
15.9
48.7
11.8
15.8
12.3
26.2
18.5
12.6
14.3
12.8
15.3
10.1
10.9
19.5
12.6
58.6
12.8
67.6
(27.8) (507.7)
7.0
133.4
4.8
4.9
61.0
348.2
NH4+
17.7
69.8
K+
4.2
3.0
2.7
6.9
9.1
1.0
6.1
0.8
3.8
2.6
0.7
1.0
1.1
1.2
1.3
0.9
0.8
2.2
(1.2)
2.1
1.7
1.8
Ca2+
2+
nss-Ca
6.1
5.1
4.5
10.5
10.9
2.4
8.1
3.6
2.5
4.9
3.4
5.0
6.0
6.3
6.6
3.9
4.0
11.4
(5.5)
6.4
5.4
4.6
2.6
8.0
5.0
5.1
4.6
9.0
7.2
6.5
7.7
6.8
7.0
6.7
3.1
2.9
7.7
3.3
3.7
5.2
1.9
3.2
3.6
7.5
4.2
4.0
6.3
8.6
8.7
3.0
5.0
2.5
3.8
2.1
5.3
3.1
2.0
3.8
3.4
1.8
4.5
3.3
4.8
5.8
6.0
6.4
3.5
3.5
10.4
(4.4)
3.8
3.4
2.5
2.3
5.8
3.9
4.4
3.7
4.8
2.8
2.8
3.2
3.2
3.5
3.7
3.0
2.6
6.4
1.9
3.2
4.4
1.3
3.0
3.4
5.8
3.9
3.5
4.9
4.4
5.6
2.4
4.0
Mg2+
18.5
7.0
12.0
26.6
42.1
2.4
21.8
1.7
3.0
2.4
1.1
5.2
1.2
2.2
1.4
5.5
5.8
4.0
5.1
4.5
4.7
4.0
1.2
0.7
1.7
1.9
1.0
1.1
1.0
0.8
1.0
1.4
1.0
1.1
3.7
6.1
3.8
1.2
2.4
0.9
2.0
1.1
1.9
1.0
1.4
1.8
1.0
1.4
1.4
1.7
1.9
(16.7)
3.3
0.4
9.1
1.5
1.3
3.9
4.9
2.9
2.1
2.5
7.6
2.8
4.3
2.4
3.0
10.4
(17.4)
4.5
1.5
11.4
2.6
4.3
1.9
1.8
1.9
7.4
2.6
4.1
2.0
1.7
8.9
(6.1)
1.5
1.3
10.4
1.9
2.2
2.1
1.5
2.3
3.7
5.1
(5.3)
9.5
9.7
6.9
2.9
11.8
3.8
4.5
4.8
22.1
22.7
18.8
23.3
18.4
17.7
16.7
1.4
2.1
6.6
9.4
2.4
4.1
1.9
1.9
1.5
8.7
1.6
2.6
8.8
21.6
16.4
3.6
5.6
2.1
6.3
3.5
5.9
1.5
3.7
3.4
1.8
2.1
2.5
7.0
7.9
(57.2)
15.3
1.1
42.1
2.4
5.2
3.6
8.3
0.4
H+
17.1
14.2
18.2
8.1
8.7
9.5
14.4
9.6
12.2
15.7
9.3
10.5
8.2
9.4
10.6
19.9
14.7
11.0
(7.6)
4.4
11.1
0.9
12.8
6.3
8.3
13.0
7.3
14.3
19.3
21.8
20.6
24.4
26.8
30.2
14.8
20.6
20.2
12.4
10.7
15.9
31.1
21.2
17.2
25.2
12.2
18.7
25.0
30.0
26.7
40.3
28.5
14.7
13.8
20.9
23.7
20.3
22.4
53.4
23.8
20.2
30.3
19.3
45.3
(5.2)
7.4
0.9
53.4
18.8
1)
地域区分 (NJ:北部、JS:日本海側、EJ:東部、CJ:中央部、WJ:西部、SW:南西諸島)
※
最大値: 白抜き
最小値: 斜体
降水量は、単純平均値
〔 全国環境研会誌 〕Vol.41
参考値:(括弧)
No.3(2016)
14
<特集>
第5次酸性雨全国調査報告書(平成26年度)
H + (µmol L-1)
precipitation (mm y-1)
5000
4000
3000
2000
50
最大値b
40
3/4位c
30
中央値c
20
平均値
10
1/4位c
0
0
JS
EJ
CJ
WJ
SW
最小値bc
NJ
JS
EJ
CJ
WJ
SW
NJ
JS
EJ
CJ
WJ
SW
NJ
JS
EJ
CJ
WJ
SW
30
30
NO3- (µmol L-1)
nss-SO42- (µmol L-1)
外れ値a
1000
NJ
25
20
15
10
25
20
15
10
5
5
0
0
NJ
JS
EJ
CJ
WJ
SW
70
60
nss-Ca2+ (µmol L-1)
NH4+ (µmol L-1)
60
50
40
30
20
10
12
10
8
6
4
2
0
0
NJ
JS
EJ
CJ
WJ
SW
※SWは2014年度の解析対象が1地点のみであった。
a:箱の端からの距離が箱の長さの1.5倍以上
b:外れ値を除いた最大値又は最小値
図4.2.2
4.2.2
主要イオン成分の年加重平均濃度の分布
pH,ECおよびイオン成分濃度の年加重平
均値
2014年度の年間データが有効となった地点(63地点)に
おける,降水量および湿性イオン成分濃度等の年加重平
均濃度を表4.2.1に示す。また,主要イオン成分濃度につ
いて,地域区分別に箱ひげ図を図4.2.2に示す。なお,
模な畜産施設があり,その影響を受けたと考えられる。
H+濃度としては,加重平均は18.8µmol L-1であり,日本海
側及び西部で高く,東部および南西諸島で低い傾向がみ
られた。
年間平均ECは,0.82(郡山朝日)~6.18mS m-1(鰺ヶ沢舞
戸)の範囲で,加重平均は2.33mS m-1であった。
“nss-”は「非海塩性(nss:non sea salt)」を表し,海
海塩粒子からの寄与を示す成分としてはNa+ が用いら
塩性イオン(Na+をすべて海塩由来として海塩組成比から
れる 。 年間 平均Na+ 濃 度 では ,4.9( 前橋 )~ 348.2µmol
算出)を差し引いた残りであることを示している。
L-1(鰺ヶ沢舞戸)の範囲で,加重平均は69.8µmol L-1であ
2014年度の年間降水量は,738(長野)~4,322mm(香北)
った。
の範囲にあり,単純平均は1,840mmであった。地域別では,
次に湿性沈着の汚染状況を把握するのに重要なイオン
日本海側で多く,北部,東部および中央部で少ない傾向
成分(nss-SO42-,NO3-,NH4+およびnss-Ca2+)について記す。
降水の酸性化の原因となる酸性成分については,次の
を示した。
年間平均pHは,4.27(阿蘇)~6.06(旭)の範囲で,加重
平均は4.73であった。最高値を観測した旭は周辺に大規
〔 全国環境研会誌 〕Vol.41
とおりであった。
年 間 平 均 nss-SO42- 濃 度 は , 4.6( 辺 戸 岬 ) ~
No.3(2016)
15
<特集>
第5次酸性雨全国調査報告書(平成26年度)
70
400
NJ
40
JS
30
EJ
CJ
20
CJ
WJ
10
WJ
JS
200
EJ
SW
0
4
5
6
7
8
9 10 11 12 1
2
60
50
NJ
300
100
H+ (μmol L-1)
Precipitation (mm)
500
SW
0
4
3
5
6
7
8
Month
2
3
70
60
50
NJ
40
JS
30
EJ
20
CJ
10
WJ
NO3- (μmol L-1)
nss-SO42- (μmol L-1)
70
SW
0
4
5
6
7
8
9 10 11 12 1
2
60
50
NJ
40
JS
30
EJ
20
CJ
10
WJ
SW
0
3
4
5
6
7
8
Month
9 10 11 12 1
2
3
Month
70
60
50
NJ
40
JS
30
EJ
20
CJ
10
WJ
SW
0
4
5
6
7
8
9 10 11 12 1
2
3
nss-Ca2+ (μmol L-1)
70
NH4+ (μmol L-1)
9 10 11 12 1
Month
60
50
NJ
40
JS
30
EJ
20
CJ
10
WJ
SW
0
4
Month
5
6
7
8
9 10 11 12 1
2
3
Month
図4.2.3
イオン成分濃度の地域別季節変動 (中央値)
27.7µmol L -1(鹿児島)の範囲で,加重平均は13.6µmol L-1
図4.2.3に示す。地域区分別の月間代表値としては,地域
であった。地域別では,日本海側および西部で高く,南
区分内での中央値を採用した。なお,中央値を採用した
西諸島で低い傾向を示した。
理由は,データ数が比較的少ないため,平均値を採用す
-
-1
年間平均NO3 濃度は,5.6(香北)~27.5µmol L (松江)
-1
の範囲で,加重平均は15.5µmol L であった。地域別で
は,日本海側で高く,南西諸島で低い傾向を示した。
ると1つの外れ値に引きずられて,代表性が乏しくなると
考えられるためである。
降水量は,北部,中央部,西部および南西諸島におい
降水中の塩基性成分については,次のとおりであった。
て,夏季に多かった。日本海側においては冬季に,東部
年間平均NH4+濃度は,4.8(香北)~61.0µmol L-1(旭)の
においては夏季および秋季に多い傾向を示した。
-1
範囲で,加重平均は17.7µmol L であった。地域別では,
日本海側で高く,南西諸島で低い傾向を示した。
H+濃度は,東部を除いて冬季に高い傾向が見られた。
東部においては夏季に高い傾向が見られた。
年間平均nss-Ca2+濃度は,1.3(香北)~10.4µmol L-1(市
nss-SO42-濃度およびNO3-濃度は,北部および東部は春季
原)の範囲で,加重平均は3.6µmol L-1であった。地域別
に,日本海側,中央部,西部および南西諸島では冬季に
では,日本海側で高く,南西諸島で低い傾向を示した。
高い傾向が見られた。
4.2.3
pHおよびイオン成分濃度の季節変動
湿性沈着による汚染実態を把握するのに重要と考えら
れる項目について,2014年度の季節変動を地域区分別に
〔 全国環境研会誌 〕Vol.41
NH4+濃度は北部,東部および南西諸島では春季に,日本
海側および西部では冬季に高い傾向が見られた。
nss-Ca2+濃度は, 他のイオン成分に比較して,年間を
No.3(2016)
16
<特集>
第5次酸性雨全国調査報告書(平成26年度)
通し,低い値で推移していたが,春季および冬季に高濃
表4.3.1
降水量と主要イオン成分の年間沈着量
項目
(単位)
中央値
最小値
最大値
降水量
(mm y-1)
1739
738
4322
(長野)
(香北)
nss-SO 42- (mmol m-2 y -1)
21.6
8.2
56.3
(長野)
(鹿児島)
NO 3-
(〃)
25.9
10.9
64.7
(利尻)
(金沢)
NH 4+
(〃)
28.9
13.9
116.8
(利尻)
(旭)
nss-Ca 2+
(〃)
5.8
2.2
18.2
H+
(〃)
26.8
1.7
124.9
度となる傾向が見られた。
濃度の季節変動において特徴的なことの一つは,日本
海側および西部では,春季および冬季に,H+,nss-SO42濃度が高い傾向がみられたことである。地理的要因や春
季および冬季の風向等を考慮すると,大陸からの汚染物
質の移流が示唆された。なお,2005年度までは,この大
陸からの越境大気汚染を示唆する傾向は,日本海側で顕
著であった1,3,4)が,2006年度にはその傾向が西部でも確
5)
認され ,2007~2014年度も引き続き同様の傾向がみられ
た。
4.3 イオン成分湿性沈着量
イオン成分の年間沈着量や月間沈着量の有効データ
(地点名)
(地点名)
(長野)
(鹿児島)
(旭)
(阿蘇)
(完全度を満たした測定値)を用いて,地点間や地域間の
比較を行った。
外れ値a
H+ (mmol m-2 y-1)
最大値b
3/4位c
中央値c
平均値
1/4位c
最小値bc
60
NO 3- (mmol m-2 y-1)
nss-SO42- (mmol m-2 y-1)
a:箱の端からの距離が箱の長さの1.5倍以上
b:外れ値を除いた最大値又は最小値
50
40
30
20
10
0
JS
EJ
CJ
WJ
140
120
100
80
60
40
20
0
NJ
JS
EJ
CJ
WJ
SW
NJ
JS
EJ
CJ
WJ
SW
NJ
JS
EJ
CJ
WJ
SW
NJ
JS
EJ
CJ
WJ
SW
70
60
50
40
30
20
10
0
SW
nss-Ca2+ (mmol m-2 y-1)
NH4+ (mmol m-2 y-1)
NJ
140
120
100
80
60
40
20
0
20
15
10
5
0
※SWは2014年度の解析対象が1地点のみであった。
図4.3.1
〔 全国環境研会誌 〕Vol.41
主要イオン成分年間沈着量および降水量の分布
No.3(2016)
17
<特集>
第5次酸性雨全国調査報告書(平成26年度)
12
Precipitation (mm)
500
10
NJ
300
JS
EJ
200
CJ
100
WJ
SW
0
4
5
6
7
8
2
2
WJ
EJ
4
CJ
2
WJ
8
9 10 11 12 1
6
7
8
9 10 11 12 1
2
JS
EJ
4
CJ
2
WJ
SW
0
4
5
6
7
8
EJ
4
CJ
WJ
2
2
3
m-2)
(mmol
6
nss-Ca2+
JS
9 10 11 12 1
Month
3
NJ
3
NJ
3
8
2
Month
6
Month
10
5
8
SW
7
SW
0
NO3- (mmol m-2)
JS
0
NH4+ (mmol m-2)
CJ
10
6
6
EJ
4
4
NJ
5
JS
6
3
8
4
NJ
8
Month
10
nss-SO42- (mmol m-2)
9 10 11 12 1
H + (mmol m-2)
400
NJ
2
JS
EJ
CJ
1
WJ
SW
SW
0
0
4
5
6
7
8
9 10 11 12 1
2
3
4
図4.3.2
4.3.1
5
6
7
8
9 10 11 12 1
2
3
Month
Month
イオン成分沈着量の地域別季節変動 (中央値)
nss-Ca2+沈着量は,他の非海塩成分と比較して沈着量が
年間沈着量
2014年度の年間データが有効となった63地点における
年間降水量および主要イオン成分の年間沈着量について,
1/4程度と少なく,中央値が3.8~9.1mmol m-2 y-1の間で
あった。
表4.3.1に要約した。また,主要イオン成分の沈着量につ
4.3.2
いて,地域区分別に箱ひげ図を示した(図4.3.1)。なお,
地域別の降水量(再掲)および主要イオン成分沈着量の
沈着量の季節変動
年間沈着量は,年平均濃度に年間降水量を掛け合わせる
季節変動を図4.3.2に示す。4.2.3と同様に,月間代表値
ことにより算出した。
としては中央値を採用した。
2-
+
nss-SO4 およびH 沈着量は日本海側,次いで西部で多
H+沈着量は,日本海側では1月に最も多く12月および3
く,日本海側における中央値はそれぞれ34.3および58.1
月にも多い傾向であり,3月に増加する傾向は西部および
mmol m-2 y-1であった。
中央部にもみられた。西部では8月および9月にも多かっ
NO3-沈着量は日本海側で多い傾向を示し,中央値は44.2
-2
mmol m
-1
y , そ れ 以 外 の 地 域 で は 中 央 値 が 15.3 ~
-2
-1
26.7mmol m y の間であった。
NH4+沈着量は日本海側で多く中央値は43.5 mmol m-2 y-1,
それ以外の地域では中央値が17.2~34.3mmol m-2 y-1の間
であった。
〔 全国環境研会誌 〕Vol.41
た。同様の傾向がnss-SO42-沈着量でみられた。
NO3-沈着量およびNH4+沈着量は,日本海側では12月~3
月に多い傾向であり,西部および中央部では3月に多かっ
た。東部では6月および9月に多い傾向であった。
nss-Ca2+沈着量は,日本海側で1~3月に多い傾向を示し,
その他の地域では年度を通して突出して多い月はなく,
No.3(2016)
18
<特集>
第5次酸性雨全国調査報告書(平成26年度)
1.0 mmol m-2以下であった。
(5.1に後述)で行ったため,特に国設局については環境省
が公表したデータ1)と異なる場合がある。また,成分名に
付してある(g)はガス状成分を,(p)は粒子状成分をそれ
- 参 考 文 献 -
1)
全国環境研協議会:第4次酸性雨全国調査報告書(平
成17年度),全国環境研会誌,32,78-152,2007
2)
環境省地球環境局環境保全対策課,酸性雨研究セン
ター:湿性沈着モニタリング手引き書(第2版),2001,
ぞれ表す。
5.1
データ確定
5.1.1
完全度および流量変動による判定
FP法の有効データ数を表5.1.1に示す。データ確定にお
http://www.env.go.jp/air/acidrain/man/wet_deposi
いては,完全度(測定期間の適合度を含む)を指標として,
/index.html
月データで60%以上,年データで80%以上の場合を有効デ
3)
全国環境研協議会:第4次酸性雨全国調査報告書(平
成15年度),全国環境研会誌,30,58-135,2005
4)
全国環境研協議会:第4次酸性雨全国調査報告書(平
成16年度),全国環境研会誌,31,118-186,2006
5)
全国環境研協議会:第4次酸性雨全国調査報告書(平
成18年度),全国環境研会誌,33,126-196,2008
6)
全国環境研協議会:第4次酸性雨全国調査報告書(平
成19年度),全国環境研会誌,34,193-223,2009
7)
全国環境研協議会:第4次酸性雨全国調査報告書(平
成20年度),全国環境研会誌,35,88-138,2010
8)
ータとし,それ以外を参考値として解析対象から除外し
た。ただし,月データの完全度が60%未満でも,年データ
が80%以上であれば,年平均値は解析対象とした。また,
サンプリングや測定に不具合があると考えられた場合や
実施要領に記載された方法に準拠していない場合も参考
値または欠測とした。
これまでの調査結果から,FP法は吸引流量の変動が大
きいと異常値になりやすいことがわかっている2)。そのた
め,設定流量の変更等の明確な理由がないにも関わらず
流量変動が大きかった場合(年間の平均流量と標準偏差
から算出した変動係数が30%以上)は年間を通して参考値
会:第5次酸性雨全国調査報告書(平成21年度),全国環
としている。2014年度は,流量変動を理由として解析対
境研会誌,36,106-146,2011
象から除外された調査地点はなかった。
9)
全国環境研協議会 酸性雨広域大気汚染調査研究部
全国環境研協議会 酸性雨広域大気汚染調査研究部
会:第5次酸性雨全国調査報告書(平成22年度),全国環
境研会誌,37,110-158,2012
10) 全国環境研協議会 酸性雨広域大気汚染調査研究部
会:第5次酸性雨全国調査報告書(平成23年度),全国環
境研会誌,38,84-126,2013
11) 全国環境研協議会 酸性雨広域大気汚染調査研究部
会:第5次酸性雨全国調査報告書(平成24年度),全国環
境研会誌,39,100-146,2014
定量下限値の設定
定量下限値は,EANET3) の基準値(粒子:0.01g m-3,ガ
ス:0.1ppb)を用いた。吸引流量は1L min-1を基準とし,X
L min-1の場合は1/X倍した値を定量下限値とした。
なお,定量下限値の判定は,月および年平均濃度に対
して行い,定量下限値未満の場合は解析対象から除外し
た。
5.1.3
非海塩成分の算出
SO4 (p)およびCa2+(p)については,試料中のNa+(p)濃度
2-
12) 全国環境研協議会 酸性雨広域大気汚染調査研究部
会:第5次酸性雨全国調査報告書(平成25年度),全国環
境研会誌,40,98-142,2015
13) 一般財団法人日本環境衛生センター
5.1.2
アジア大気汚
染研究センター:平成26年度酸性雨測定分析精度管理
調査結果報告書(国設酸性雨測定所),2015
と海水中でのモル濃度比とを用いて,以下の式により非
海塩(nss:non sea salt)由来成分濃度を算出した。
nss-SO42-(p)=SO42-(p)-0.0607×Na+(p)
nss-Ca2+(p)=Ca2+(p)-0.0224×Na+(p)
5.1.4
ガス・粒子間反応の測定結果への影響
サンプリング期間中,大気中と同様に,フィルター上
5.
乾性沈着(フィルターパック法)
ではガスと粒子の間で様々な可逆あるいは不可逆反応が
2014年度のフィルターパック法(以下,FP法)による乾
生じていると考えられるが,フィルターに捕集された後
性沈着調査地点および地域区分を図5.1.1に示す。2014
に生じるこれらの反応によるアーティファクトを分別し
年度は33地点で乾性沈着調査を実施した。地域区分は,
て評価することは困難である。そこで,前年度4) までと
湿性沈着と同じく,北部[NJ],日本海側[JS],東部[EJ],
同様に,平衡関係にあると考えられるガスと粒子につい
中央部[CJ],西部[WJ]および南西諸島[SW]の6地域とした。
ては,全硝酸(HNO3(g)+NO3-(p)),全アンモニア
なお,調査結果には国設局および他の学術機関との共
(NH3(g)+NH4+(p)),全塩化物(HCl(g)+Cl-(p))のようにガ
同研究データが含まれているが,データ確定を部会基準
ス状成分と粒子状成分の総計でも評価した。
〔 全国環境研会誌 〕Vol.41
No.3(2016)
19
<特集>
図5.1.1
第5次酸性雨全国調査報告書(平成26年度)
FP法の調査地点(地域区分は表2.1.1のとおり)
表5.1.1
FP法による調査結果の有効データ数
月平均濃度
成分
HNO3(g)
SO2(g)
HCl(g)
NH 3(g)
2SO4 (p)
NO3 (p)
-
Cl (p)
+
Na (p)
+
K (p)
2+
Ca (p)
2+
Mg (p)
+
NH 4 (p)
地点数 欠測数 データ数
33
33
33
33
33
33
33
33
33
33
33
33
15
15
15
16
15
15
15
15
15
15
15
16
381
381
381
380
381
381
381
381
381
381
381
380
〔 全国環境研会誌 〕Vol.41
年平均濃度
定量下限
完全度 その他
適合数
60%未満 参考値
値未満
17
17
17
18
17
17
17
17
17
17
17
17
12
12
12
12
12
12
12
12
12
12
12
12
352
352
352
350
352
352
352
352
352
352
352
351
49
1
6
0
0
0
8
0
0
0
1
0
有効データ
割合(%)
92
92
92
92
92
92
92
92
92
92
92
92
欠測数 データ数
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
33
33
33
33
33
33
33
33
33
33
33
33
定量下限 有効データ
完全度 その他
適合数
割合(%)
80%未満 参考値
値未満
6
6
6
6
6
6
6
6
6
6
6
6
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
26
26
26
26
26
26
26
26
26
26
26
26
2
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
79
79
79
79
79
79
79
79
79
79
79
79
No.3(2016)
20
<特集>
第5次酸性雨全国調査報告書(平成26年度)
表5.2.1
No.
都道府県市
ガス状成分の年平均濃度(地点別)
地点名
SO2(g)
HNO3(g)
HCl(g)
NH3(g)
(nmol m-3)
利尻
(8.8)
(1.5)
(16.5)
(12.5)
母子里
12.0
4.0
9.0
23.4
札幌北
54.5
8.4
15.3
48.8
新潟曽和
13.4
12.0
23.8
63.6
長岡
15.2
14.6
15.6
84.0
新潟小新
19.5
12.8
24.9
69.3
前橋
16.4
20.1
13.5
371.5
加須
23.5
26.2
24.9
155.6
市川
(62.9)
(19.4)
(34.8)
(189.4)
市原
100.3
9.1
21.1
136.4
香取
(27.4)
(8.6)
(23.3)
(729.9)
3.2
10.0
3365.9
旭
17.3
佐倉
38.2
15.7
33.4
134.8
長野
19.6
19.6
20.1
110.9
静岡北安東
(92.7)
(91.3)
(79.7)
(278.2)
射水
(26.1)
(13.3)
(15.2)
(73.8)
金沢
19.4
8.9
15.6
33.0
福井
50.9
17.9
32.1
92.6
伊自良湖
(26.6)
(8.5)
(6.2)
(38.3)
豊橋
35.0
23.5
24.6
151.9
名古屋南
34.3
22.1
22.9
85.4
海南
44.7
23.2
27.5
82.3
神戸須磨
76.9
21.9
30.1
77.1
湯梨浜
13.6
4.9
21.9
83.0
香北
14.9
10.8
12.3
30.0
太宰府
60.6
26.5
26.8
126.8
福岡
28.0
14.4
19.1
42.2
大分久住
(99.0)
(12.3)
(20.7)
(45.9)
大分
75.5
20.8
18.9
54.7
宮崎
99.2
12.9
35.2
136.4
鹿児島
110.1
10.7
32.7
102.6
大里
24.7
8.6
47.7
462.9
辺戸岬
15.4
5.5
48.9
61.9
12.0
4.0
9.0
23.4
全国最低値
110.1
26.5
48.9
3365.9
全国最高値
26.4
14.4
23.3
84.7
全国中央値
39.7
15.0
24.1
238.0
全国平均値
注)全国最低値は網掛け,全国最高値は白抜き,定量下限値未満は斜字,参考値
は( )で示した。
注)定量下限値未満及び参考値は最低値,最高値,中央値,平均値から除外した。
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
32
33
5.2
北海道
北海道
北海道
新潟県
新潟県
新潟市
群馬県
埼玉県
千葉県
千葉県
千葉県
千葉県
千葉県
長野県
静岡県
富山県
石川県
福井県
岐阜県
愛知県
名古屋市
和歌山県
兵庫県
鳥取県
高知県
福岡県
福岡市
大分県
大分県
宮崎県
鹿児島県
沖縄県
沖縄県
均値39.7nmol m-3)であり,最高値は鹿児島,次いで市原,
大気中のガス状および粒子状成分濃度
5.2.1
最低値は母子里であった。SO2(g)は西部で高く,北部,
年平均濃度の地域特性
日本海側および南西諸島で低い傾向がみられた。
ガス状成分について,地点別年平均濃度を表5.2.1に,
HNO3(g)の年平均濃度の範囲は4.0~26.5nmol m-3(平均
地域区分別の年平均濃度の箱ひげ図を図5.2.1に示す。粒
値15.0nmol m-3)であり,最高値は太宰府,次いで加須,
子状成分について,地点別年平均濃度を表5.2.2に,地域
最低値は母子里であった。HNO3(g)は中央部で高く,北部
区分別の年平均濃度の箱ひげ図を図5.2.2に示す。ガス状
および南西諸島で低い傾向がみられた。
及び粒子状成分の総計について,地点別年平均濃度を表
HCl(g)の年平均濃度の範囲は9.0~48.9nmol m-3(平均
5.2.3に,地域区分別の年平均濃度の箱ひげ図を図5.2.3
値24.1nmol m-3)であり,最高値は辺戸岬,次いで大里,
に示す。箱ひげ図は,各地域区分の地点別年平均濃度の
最低値は母子里であった。HCl(g)は南西諸島で高く,北
25%点と75%点がボックスの両端で表され,そのボックス
部で低い傾向がみられた。
内の黒線は中央値を,赤線は平均値を表す。エラーバー
NH3(g)の年平均濃度の範囲は23.4~3365.9nmol m-3(平
は10%点と90%点を表し,10~90%点から外れる値は○で示
均値238.0nmol m-3)であり,最高値は旭,次いで大里,最
されている。
低値は母子里であった。NH3(g)濃度は東部の旭や南西諸
5.2.1.1 ガス状成分
島の大里のように畜産業の影響を受けていると考えられ
-3
SO2(g)の年平均濃度の範囲は12.0~110.1nmol m (平
〔 全国環境研会誌 〕Vol.41
る地点や都市部で高い傾向がみられた。
No.3(2016)
21
<特集>
図5.2.1
ガス状成分の年平均濃度の分布(地域区分別)
表5.2.2
No. 都道府県市
地点名
第5次酸性雨全国調査報告書(平成26年度)
SO 42-(p)
粒子状成分の年平均濃度(地点別)
nss-SO42-(p)
NO3-(p)
Cl-(p)
Na+(p)
K +(p)
Ca2+(p)
nss-Ca2+(p)
Mg2+(p)
NH4+(p)
(3.8)
2.4
5.8
6.2
5.8
8.6
12.3
9.9
(30.3)
42.0
(20.0)
18.9
10.9
4.9
(22.5)
(5.0)
5.6
10.3
(3.5)
9.6
11.6
12.1
20.3
7.5
4.6
16.4
5.6
(6.3)
6.7
10.1
10.7
17.9
12.4
2.4
42.0
10.0
11.1
(1.7)
2.0
5.0
5.0
5.1
6.3
12.0
9.4
(28.7)
40.2
(18.5)
16.4
10.1
4.7
(20.4)
(4.5)
4.9
9.1
(3.3)
8.6
10.9
11.3
18.9
6.1
4.3
15.2
5.1
(6.0)
6.3
8.4
9.4
13.9
7.3
2.0
40.2
8.5
9.8
(10.5)
2.3
4.0
6.8
3.9
12.4
3.0
3.3
(8.8)
10.9
(7.6)
12.9
4.7
1.9
(12.8)
(3.4)
4.7
7.0
(1.5)
5.5
4.1
5.2
8.1
9.3
2.4
8.1
3.4
(3.0)
3.5
8.3
7.7
21.7
26.1
1.9
26.1
5.3
7.4
(23.3)
32.6
59.8
49.4
56.3
48.6
61.7
80.4
(73.5)
60.5
(67.0)
100.3
65.1
70.3
(213.2)
(56.8)
50.7
74.1
(52.3)
88.2
71.6
66.3
88.9
75.1
54.0
117.5
89.4
(76.6)
89.5
163.6
90.6
70.0
42.8
32.6
163.6
70.2
73.7
-3
(nmol m )
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
32
33
利尻
(25.1)
(19.4)
(10.3)
(85.9)
23.3
22.2
6.9
8.1
母子里
札幌北
31.4
29.3
20.8
27.7
新潟曽和
37.4
34.0
21.6
40.0
35.0
33.2
21.1
20.5
長岡
新潟小新
40.5
34.2
29.3
94.5
27.9
27.1
37.5
9.7
前橋
32.5
31.2
44.6
16.1
加須
市川
(52.8)
(48.5)
(65.8)
(48.7)
49.7
44.8
56.1
79.6
市原
香取
(46.2)
(42.1)
(39.6)
(55.3)
旭
47.6
40.9
56.1
123.8
43.0
40.7
37.1
16.5
佐倉
長野
38.1
37.4
18.7
3.1
(136.6)
(130.7)
(71.1)
(28.5)
静岡北安東
(34.3)
(33.0)
(16.8)
(12.4)
射水
金沢
37.1
35.1
14.3
15.4
46.5
43.2
24.8
40.8
福井
伊自良湖
(34.7)
(34.1)
(6.5)
(1.6)
豊橋
47.2
44.6
45.3
21.5
40.2
38.5
35.7
16.4
名古屋南
海南
47.9
45.7
25.1
16.3
50.3
46.5
50.2
47.6
神戸須磨
45.3
41.5
21.9
44.5
湯梨浜
香北
47.0
46.2
6.5
1.9
68.8
65.5
54.4
35.9
太宰府
福岡
55.0
53.6
17.5
7.3
大分久住
(43.8)
(42.8)
(21.0)
(4.4)
55.1
53.9
20.6
3.7
大分
宮崎
87.8
83.4
48.3
45.9
55.1
51.3
31.1
45.6
鹿児島
73.4
62.6
42.0
141.1
大里
61.4
47.8
32.4
193.9
辺戸岬
23.3
22.2
6.5
1.9
全国最低値
87.8
83.4
56.1
193.9
全国最高値
46.7
42.3
30.2
24.6
全国中央値
全国平均値
47.1
43.6
31.5
43.0
注)全国最低値は網掛け,全国最高値は白抜き,参考値は( )で示した。
注)参考値は最低値,最高値,中央値,平均値から除外した。
北海道
北海道
北海道
新潟県
新潟県
新潟市
群馬県
埼玉県
千葉県
千葉県
千葉県
千葉県
千葉県
長野県
静岡県
富山県
石川県
福井県
岐阜県
愛知県
名古屋市
和歌山県
兵庫県
鳥取県
高知県
福岡県
福岡市
大分県
大分県
宮崎県
鹿児島県
沖縄県
沖縄県
〔 全国環境研会誌 〕Vol.41
(94.0)
17.9
35.1
55.0
30.7
104.2
13.9
20.9
(70.2)
82.0
(67.7)
110.2
37.4
12.2
(95.8)
(22.6)
32.3
54.6
(8.7)
42.1
28.9
37.2
62.3
62.9
14.0
53.8
23.5
(15.3)
19.6
72.8
61.0
178.4
224.1
12.2
224.1
39.7
57.2
(4.0)
2.6
3.5
4.2
3.6
5.4
3.6
3.8
(7.1)
5.4
(6.7)
7.7
4.5
3.5
(12.8)
(3.2)
4.2
5.0
(2.4)
4.1
3.6
4.0
2.6
5.3
3.3
6.3
3.4
(2.5)
3.5
5.8
4.0
7.4
7.2
2.6
7.7
4.1
4.5
No.3(2016)
22
<特集>
図5.2.2
第5次酸性雨全国調査報告書(平成26年度)
粒子状成分の年平均濃度の分布(地域区分別)
最低値は香北であった。Cl-(p)は南西諸島で高い傾向が
5.2.1.2 粒子状成分
SO42-(p)の年平均濃度の範囲は23.3~87.8nmol m-3(平
-3
2-
均値47.1nmol m ),nss-SO4 (p)は22.2~83.4nmol m
-3
みられた。
Na+(p)の年平均濃度の範囲は12.2~224.1nmol m-3(平
(平均値43.6nmol m-3)であり,最高値は宮崎,次いで大里
均値57.2nmol m-3)であり,最高値は辺戸岬,次いで大里,
(SO42-(p))と太宰府(nss-SO42-(p)),最低値は母子里であ
最低値は長野であった。Na+(p)は南西諸島で高い傾向が
った。nss-SO42-(p)は西部および南西諸島で高く,北部で
みられた。
2-
低い傾向がみられた。このようなnss-SO4 (p)の分布は,
Aikawaら(2008)5)
が指摘しているように,アジア大陸の
汚染大気の移流の影響を反映していると考えられる。
NO3-(p)の年平均濃度の範囲は6.5~56.1nmol m-3(平均
K+(p)の年平均濃度の範囲は2.6~7.7nmol m-3(平均値
4.5nmol m-3)であり,最高値は旭,次いで大里,最低値は
母子里と神戸須磨であった。K+(p)は南西諸島で高い傾向
がみられた。
値31.5nmol m )であり,最高値は市原と旭,次いで太宰
Ca2+(p)の年平均濃度の範囲は2.4~42.0nmol m-3(平均
府,最低値は香北であった。NO3-(p)は東部で高く,北部
値11.1nmol m-3),nss-Ca2+(p)は2.0~40.2nmol m-3(平均
および日本海側で低い傾向がみられた。
値9.8 nmol m-3)であり,最高値は市原,次いで神戸須磨,
-3
Cl-(p)の年平均濃度の範囲は1.9~193.9nmol m-3(平均
値43.0nmol m-3)であり,最高値は辺戸岬,次いで大里,
〔 全国環境研会誌 〕Vol.41
最低値は母子里であった。nss-Ca2+(p)は東部で高く,北
部および日本海側で低い傾向がみられた。
No.3(2016)
23
<特集>
表5.2.3
No.
都道府県市
第5次酸性雨全国調査報告書(平成26年度)
ガス状および粒子状成分の総計の年平均濃度(地点別)
地点名
全硫黄
全硝酸
全塩化物
全アンモニア
SO2(g)+nss-SO42-(p)
HNO3(g)+NO3-(p)
HCl(g)+Cl-(p)
NH3(g)+NH4+ (p)
(nmol m-3)
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
32
33
利尻
(28.2)
(11.8)
(102.4)
母子里
34.2
10.9
17.1
札幌北
83.8
29.3
43.0
新潟曽和
47.4
33.6
63.8
長岡
48.4
35.6
36.0
新潟小新
53.7
42.0
119.4
前橋
43.5
57.5
23.3
54.7
70.8
41.0
加須
市川
(111.4)
(85.2)
(83.4)
市原
145.0
65.2
100.6
香取
(69.6)
(48.2)
(78.6)
旭
58.2
59.3
133.8
佐倉
78.9
52.8
49.8
長野
57.0
38.3
23.2
静岡北安東
(223.4)
(162.5)
(108.2)
射水
(59.1)
(30.1)
(27.6)
金沢
54.5
23.2
31.0
福井
94.1
42.7
72.9
伊自良湖
(60.7)
(15.0)
(7.8)
豊橋
79.6
68.8
46.1
名古屋南
72.7
57.8
39.3
海南
90.3
48.3
43.8
神戸須磨
123.4
72.1
77.7
湯梨浜
55.1
26.8
66.4
香北
61.1
17.4
14.2
太宰府
126.1
80.9
62.7
81.7
31.9
26.4
福岡
大分久住
(141.9)
(33.3)
(25.0)
大分
129.4
41.4
22.6
宮崎
182.6
61.2
81.1
鹿児島
161.4
41.8
78.3
大里
87.3
50.6
188.8
63.1
38.0
242.8
辺戸岬
34.2
10.9
14.2
全国最低値
182.6
80.9
242.8
全国最高値
全国中央値
75.8
42.4
48.0
全国平均値
83.4
46.1
67.1
注)全国最低値は網掛け,全国最高値は白抜き,参考値は( )で示した。
注)参考値は最低値,最高値,中央値,平均値から除外した。
北海道
北海道
北海道
新潟県
新潟県
新潟市
群馬県
埼玉県
千葉県
千葉県
千葉県
千葉県
千葉県
長野県
静岡県
富山県
石川県
福井県
岐阜県
愛知県
名古屋市
和歌山県
兵庫県
鳥取県
高知県
福岡県
福岡市
大分県
大分県
宮崎県
鹿児島県
沖縄県
沖縄県
図5.2.3
(35.7)
55.9
108.6
113.0
140.3
117.9
433.2
235.9
(262.8)
196.9
(796.8)
3466.2
199.9
181.3
(491.4)
(130.5)
83.7
166.7
(90.6)
240.1
157.0
148.6
166.1
158.1
84.0
244.3
131.6
(122.5)
144.2
300.0
193.3
533.0
104.7
55.9
3466.2
162.1
311.7
ガス状および粒子状成分の総計の年平均濃度の分布(地域区分別)
〔 全国環境研会誌 〕Vol.41
No.3(2016)
24
<特集>
第5次酸性雨全国調査報告書(平成26年度)
Mg2+(p)の年平均濃度の範囲は1.9~26.1nmol m-3(平均
-3
値7.4nmol m )であり,最高値は辺戸岬,次いで大里,最
ンモニアは東部と南西諸島のように周辺の畜産業の影響
を受けている地点や都市部で高い傾向が見られた。
低値は長野であった。Mg2+(p)は南西諸島で高い傾向がみ
5.2.2
られた。
地点別月平均濃度を見ると,ほとんどの成分は6つの地
経月変化および地域特性
NH4+(p)の年平均濃度の範囲は32.6~163.6nmol m-3(平
域区分(北部,日本海側,東部,中央部,西部,南西諸島)
均値73.7nmol m-3)であり,最高値は宮崎,次いで太宰府,
ごとに濃度変動パターンが似ていた。ここでは,外れ値
最低値は母子里であった。NH4+(p)は西部で高く,北部で
の影響を小さくするため,地域区分別の中央値をもとに,
低い傾向がみられた。
月変化や包括的な地域特性を述べる。なお,気象庁の予
5.2.1.3
ガス状および粒子状成分濃度の総計
2-
非海塩由来の全硫黄(SO2(g)+nss-SO4 (p))の年平均濃
-3
-3
度の範囲は34.2~182.6nmol m (平均値83.4nmol m )で
報用語6) に従い,文中,春季(春)は3~5月,夏季(夏)は6
~8月,秋季(秋)は9~11月,冬季(冬)は12~2月のことを
それぞれ指す。
あり,最高値は宮崎,次いで鹿児島,最低値は母子里で
5.2.2.1 ガス状成分
あった。全硫黄は西部で高く,北部で低い傾向がみられ
地域区分別のガス状成分濃度の経月変化を図5.2.4に
た。
示す。SO2(g)濃度は,東部と中央部を除き,冬季から春
全硝酸(HNO3(g)+NO3-(p))の年平均濃度の範囲は10.9~
季に高くなる傾向がみられた。冬季のSO2(g)濃度の増加
80.9nmol m-3(平均値46.1nmol m-3)であり,最高値は太宰
は北部で顕著であり,冬季の暖房等の使用に伴う地域汚
府,次いで加須,最低値は母子里であった。全硝酸は東
染の影響が考えられる。SO2(g)濃度は6月を除いて西部で
部および中央部で高く,北部で低い傾向がみられた。
最も高かった。アジア大陸に近い西部では,大陸から排
全塩化物(HCl(g)+Cl-(p))の年平均濃度の範囲は14.2
出されるSO2(g)の影響を強く受けている可能性がある。
~242.8nmol m-3(平均値67.1nmol m-3)であり,最高値は
また,活発な噴火活動が継続する桜島や阿蘇山7) を起源
辺戸岬,次いで大里,最低値は香北であった。全塩化物
とする火山ガスの影響を受けていることも考えられる。
は南西諸島で高い傾向がみられた。
HNO3(g)濃度は春季から夏季にかけて高く,秋季から冬
全アンモニア(NH3(g)+NH4+(p))の年平均濃度の範囲は
季にかけて低くなる傾向がみられた。春季から夏季にか
55.9~3466.2nmol m-3(平均値311.7nmol m-3)であり,最
けての高濃度は中央部で特に顕著であった。春季から夏
高値は旭,次いで大里,最低値は母子里であった。全ア
季にHNO3(g)濃度が高くなる要因としては,気温の上昇に
図5.2.4
〔 全国環境研会誌 〕Vol.41
ガス状成分濃度の経月変化(地域区分別)
No.3(2016)
25
<特集>
第5次酸性雨全国調査報告書(平成26年度)
よって光化学反応が活発になり窒素酸化物からHNO3(g)
NO3-(p)濃度は全国的に,春季に高く夏季に低くなる傾
への酸化が促進されることや,揮発性粒子であるNH4NO3
向がみられた。夏季の低濃度は,NH3(g)濃度と同じく
などの解離が進むことなどが考えられる。
NH4NO3などの揮発性粒子の影響が考えられるが,南西諸島
HCl(g)濃度は南西諸島を除いて冬季に低くなる傾向が
みられた。HCl(g)の発生源としては,廃棄物焼却施設,
火山ガス,海塩粒子のクロリンロスなどが考えられる。
および西部では1月にピークがみられた。
NH4+(p)濃度は西部で高い傾向がみられた。NH4+(p)濃度
の変動は,nss-SO42-(p)濃度とよく似ていた。
NH3(g)濃度は,夏季に高く冬季に低くなる傾向がみら
nss-Ca2+(p) 濃 度 は 春 季 に 高 い 傾 向 が み ら れ た 。
れた。気温が上昇するとNH4NO3などの揮発性粒子が解離す
nss-Ca2+(p)濃度が高い月は黄砂の観測時期 8) とよく対
ることによりガス化し,逆に気温が低下すると粒子化す
応しており,nss-Ca2+(p)濃度は黄砂の飛来の影響を受け
ることによると考えられる。濃度の高い南西諸島および
て高くなったと考えられる。東部の高いnss-Ca2+(p)濃度
東部では地域汚染の影響が強いと考えられる。特に,東
は,黄砂以外に地域的発生源の影響が大きいと考えられ
部の旭では,周辺に養豚場,養鶏場および肥料工場が立
る。年平均Ca2+(p)濃度が最も高い市原では,近傍のセメ
地するため,ごく近傍の発生源の影響を強く受けて一年
ント工場や石灰工場の影響を受けている可能性が高い。
-3
中NH3(g)濃度が高い(月平均濃度:2350~4330 nmol m )。
K+(p)濃度は,南西諸島においてやや高い濃度がみられ
南西諸島では夏季の高濃度が顕著であるが,これは大里
たが,9月の東部を除いては,どの地域も1年を通して低
で極めて高い濃度を示したためである。大里も周辺の畜
い濃度で推移した。K+(p)濃度は,Na+(p)と同様に海塩粒
産業の影響を強く受けていると考えられる。
子の影響やバイオマス燃焼の影響が考えられる。
5.2.2.2 粒子状成分
Na+(p),Cl-(p)およびMg2+(p)は,1年を通して南西諸島
粒子状成分の地域別年平均当量濃度を図5.2.5に示す。
で濃度が高かった。南西諸島は海に近いため、海塩粒子
どの地域でも陰イオンと陽イオンは同量程度であり,分
の影響が大きいと考えられる。南西諸島の夏季から秋季
析した8成分でイオンバランスはおおむねとれていた。総
にかけての高濃度は,台風9)により大量に海塩粒子が巻き
当量濃度は,南西諸島で最も高く,北部で最も低かった。
上げられたためと考えられる。北部と日本海側では,秋
南西諸島を除く地域では,陰イオンはSO42-,陽イオンは
季から冬季にかけてNa+(p),Cl-(p)およびMg2+(p)濃度が
NH4+の占める割合が高かった。南西諸島ではNa+とCl-の占
高くなる傾向がみられた。北部と日本海側では北西季節
める割合が高く,海塩粒子の寄与が大きいと考えられる。
風の卓越する時期に海塩粒子が多く発生するため,この
-
東部および中央部では,他の地域と比べてNO3 の割合が高
かった。
時期にこれらの濃度が高くなると考えられる。
5.2.2.3
粒子状成分濃度の経月変化を図5.2.6に示す。
2-
ガス状および粒子状成分の総計
非 海 塩 由 来 の 全 硫 黄 (SO2(g)+nss-SO42-(p)) , 全 硝 酸
nss-SO4 (p)濃度は,南西諸島を除き,春季に高い傾向
(HNO3(g)+NO3-(p)),全塩化物(HCl(g)+Cl-(p)),全アンモ
がみられた。また,夏季を除いて南西諸島や西部で高く,
ニア(NH3(g)+NH4+(p))濃度の経月変化を図5.2.7に示す。
北部で低い傾向がみられた。
図5.2.5
〔 全国環境研会誌 〕Vol.41
粒子状成分の年平均当量濃度(地域区分別)
No.3(2016)
26
<特集>
図5.2.6
第5次酸性雨全国調査報告書(平成26年度)
粒子状成分濃度の経月変化(地域区分別)
非海塩由来の全硫黄(SO2(g)+nss-SO42-(p))濃度は全国
的に,冬季から春季にかけて高く,夏季から秋季にかけ
日本海側は北西の季節風に,10月の南西諸島は台風によ
る海塩粒子の巻き上げの影響が考えられる。
て低くなる傾向がみられた。地域別に見ると,火山ガス
全アンモニア(NH3(g)+NH4+(p))濃度は,春季から夏季に
や越境汚染の影響を受けやすいと考えられる西部で高か
高く,冬季に低い傾向がみられた。地域別に見ると,周
った。
辺の発生源からのアンモニアの寄与が大きいと考えられ
-
全硝酸 (HNO3(g)+NO3 (p)) 濃度も全国的に,春季に高
る東部や南西諸島で高く,北部や日本海側で低かった。
く夏季から秋季にかけて低くなる傾向がみられた。南西
諸島では冬季にもピークがみられた。
全塩化物 (HCl(g)+Cl-(p)) 濃度は,東部では秋季に,
- 参 考 文 献 -
1)
環境省:平成26年度酸性雨調査結果について,
日本海側では冬季に高い傾向がみられた。南西諸島では1
http://www.env.go.jp/air/acidrain/monitoring/
年を通して高濃度であり,特に10月に高かった。冬季の
h26/index.html
〔 全国環境研会誌 〕Vol.41
No.3(2016)
27
<特集>
図5.2.7
2)
全国環境研協議会
第5次酸性雨全国調査報告書(平成26年度)
ガス状および粒子状成分濃度の総計の経月変化(地域区分別)
酸性雨調査研究部会:第3次酸
性雨全国調査結果,全国環境研会誌,28,126-196,
度(Vd)を算出し,乾性沈着量を求める方法である1)。
このモデルは以下の式で表される。
2003
3)
F=Vd(z)×C
Acid Deposition Monitoring Network in East Asia
F:沈着面への沈着物質のフラックス(沈着量)
:東アジアにおけるフィルターパック法に関する技術
Vd(z): 基準高さzにおける沈着速度
資料,http://www.eanet.cc/jpn/docea_f. html
4)
5)
全国環境研協議会
したがって,Vdが決定されれば,大気中の物質濃度か
部会:第5次酸性雨全国調査報告書(平成25年度),全
ら乾性沈着量が求められる。Vdは沈着成分の輸送されや
国環境研会誌,40,98-142,2015
すさ,沈着しやすさによって変化し,風速や気温などの
M. Aikawa, T. Hiraki, M. Yamagami, M. Kitase, Y.
Nishikawa, I. Uno: Regionality and particularity
気象データ,また対象成分の溶解度や地表面の被覆状況
(土地利用状況)などから推定する。
of a survey site form the viewpoint of the SO2 and
Vdの算出には,野口らが表計算ソフト(MS Excel)のフ
SO42- concentrations in ambient air in a 250-km ×
ァイルとして開発した乾性沈着推計ファイルVer.4-2を
Atmos. Environ., 42,
用いた2)。このファイルは,北海道立総合研究機構環境
250-km region of Japan,
1389-1398, 2008
6)
科学研究センターのHPで公開されており3),ダウンロー
気 象 庁 : 予 報 用 語 , http://www.jma.go.jp/
jma/kishou/know/yougo_hp/mokuji.html
7)
C:沈着物質の大気中濃度
酸性雨広域大気汚染調査研究
気 象 庁 : 年 間 の 日 本 の 主 な 火 山 活 動 , http://
ドが可能である。ファイルの詳細についてはそちらを参
照していただきたい。
この乾性沈着推計ファイルは,現在も改良が続けられ
www.data.jma.go.jp/svd/vois/data/tokyo/STOCK/
ているため,今回用いたVer.4-2による計算は,過去に
monthly_v-act_doc/annual.htm
報告した計算結果と必ずしも一致しない。
8)
気象庁:[地球環境のデータバンク]黄砂,http://
www.data.jma.go.jp/gmd/env/kosahp/kosa_data_ind
ex.html
9)
go.jp/fcd/yoho/typhoon/statistics/index.html
乾性沈着量の推計
5.3.1
乾性沈着量の推計方法
た33地点について実施した。また,FP法調査地点のうち
気象庁:台風の統計資料,http://www.data.jma.
5.3
5.3.2
乾性沈着量の推計はFP法で大気濃度の測定を実施し
17地点はNO2,NOについても推計した。
Vdの算出において,乾性沈着推計ファイルに入力する
乾性沈着推計ファイル
インファレンシャル法による乾性沈着量の推計を行っ
た。インファレンシャル法は気象データなどから沈着速
〔 全国環境研会誌 〕Vol.41
自動測定機またはパッシブ法でNO2,NO測定を実施した
気象データ(風速,気温,湿度,日射量,雲量)は,調査
実施機関が指定する各調査地点に近い気象官署,アメダ
ス4),大気汚染常時監視測定局の1時間値を用いた。
No.3(2016)
28
<特集>
表5.3.1
SO42-(p)
市街地
森林地域
農地
草地
積雪
水面
0.076
0.53
0.14
0.17
0.11
0.088
第5次酸性雨全国調査報告書(平成26年度)
土地利用状況別の平均沈着速度(2014年度)
-
NO3 (p)
0.076
0.75
0.14
0.17
0.11
0.088
NH4+(p)
0.076
0.58
0.14
0.17
0.11
0.088
SO2(g) HNO3(g)
0.18
4.3
1.1
4
0.6
1.2
0.63
1.6
0.40
0.41
0.27
0.27
NH3(g)
0.048
0.51
0.37
0.33
0.45
0.29
(単位:cm s-1)
NO2(g)
NO(g)
0.031
5.3E-09
0.1
0.0023
0.14
0.0019
0.10
0.0019
0.0014
0.00027
0.0011
0.00022
注)各調査地点で、対象成分ごとに土地利用別に算出した日沈着速度Vd(cm s-1)の年間平均値
季節区分(春,夏,秋,冬(積雪なし),冬(積雪あり))
は,温量指数と季節区分指標を用いる方法とした。
Vdは表面の状況により異なるため,土地利用状況別に,
2-
-
FP法では粒子状物質とガス状物質の完全な分別捕集
は難しい。しかし,乾性沈着ではガス状物質と粒子状物
質の沈着速度が異なるため,FP法で得られたHNO3(g)と
+
粒子状物質(SO4 ,NO3 ,NH4 ,以後(p)をつけて表示)お
NO3-(p),NH3(g)とNH4+(p)濃度を用いて乾性沈着量を算出
よびガス状物質(SO2,HNO3,NH3,NO,NO2,以後(g)をつ
している。そのため,これらの乾性沈着量はFP法におけ
けて表示)のVdをそれぞれ算出した。各調査地点で対象
るアーティファクトの影響を受けている可能性がある。
-1
成分ごとに算出した土地利用状況別Vd(沈着速度,cm s )
の年平均値を参考として表5.3.1に示す。
乾性沈着量は,土地利用状況別Vdを調査地点周辺の土
地利用割合で加重平均し,大気濃度との積を求めた。環
境省の長期モニタリング報告書(平成15~19年度)5)では,
5.3. 3 乾性沈着量の推計結果
各地点の年間乾性沈着量の推計結果は表5.3.2のとお
り。乾性沈着量はFP法で測定した大気濃度の年平均値が
欠測または参考値となった調査地点を除いて評価した。
ガス状物質の乾性沈着量は,SO2(g)が1.9(母子里)~
測定局周辺約1kmの森林と草地の利用割合で計算されて
30.3(宮崎)(平均値8.3)mmol m-2 y-1,HNO3(g)が2.6
いるが,本報告書では,測定局周辺半径約20kmを推計対
(母子里)~30.9(豊橋)(平均値13.9)mmol m-2 y-1,NH3(g)
象として,土地利用の分類を市街地(建物用地,幹線交
が3.0(香北)~530.5(旭)(平均値31.3)mmol m-2 y-1だっ
通用地,その他),森林地域(森林),農地(田,その他の
た。
農用地),草地(ゴルフ場などの草地,荒地),水面(河川
粒子状物質の乾性沈着量は,nss-SO42-(p)が1.2(加須)
および湖沼,海浜)とした。土地利用状況によってVdが
~13.5(辺戸岬)(平均値3.9)mmol m-2 y-1,NO3-(p)が
大きく異なるため(表5.3.1),土地利用の割合は推計結
0.5(香北)~12.6(辺戸岬)(平均値3.6)mmol m-2 y-1,
果に大きな影響を及ぼす。市街地のVd推計のためのパラ
NH4+(p)が2.2(新潟小新)~20.8(宮崎)(平均値6.8)mmol
メーターについては十分に検証が行われていないなど
m-2 y-1だった。
不確実な部分が大きいが,本調査では市街地にある測定
ガス状物質と粒子状物質を合わせた乾性沈着量は,非
地点が多いことからこの条件設定とした。また,気象デ
海塩由来硫黄成分(SO2(g)+nss-SO42-(p))が3.8(前橋)
ータの測定点が,FP法の測定地点と異なる地点が多いこ
~39.8(宮崎)(平均値12.3)mmol m-2 y-1,NOx(=NO2+NO)
とから半径20kmとした。土地利用割合は国土地理院のデ
を含まない酸化態窒素成分(HNO3(g)+NO3-(p))が3.6(母
6)
ータ からFP法の測定地点周辺の海を除く半径20kmにか
子里)~38.4(豊橋)(平均値17.5)mmol m-2 y-1,還元態窒
かるメッシュ値を抽出して求めた。最多頻度の季節が冬
素成分(NH3(g)+NH4+(p))が6.3(香北)~538.1(旭)(平均
(積雪あり)となった月については,農地,草地のVdの代
値38.1)mmol m-2 y-1だった。
わりに,積雪のVdを推計に用いた。なお,これらの条件
NOx測定地点のNO(g)の乾性沈着量は0.002(辺戸岬)~
設定については,さらに検討が必要である。
0.059(福井)(平均値0.029)mmol m-2 y-1と少なく,NO2(g)
大気濃度はFP法で測定したnss-SO42-(p),NO3-(p),NH4+(p),
の乾性沈着量は0.5(母子里)~21.6(神戸須磨)(平均値
SO2(g),HNO3(g),NH3(g),自動測定機またはパッシブ法
7.9)mmol m-2 y-1だった。酸化態窒素成分にNOxを加えた
で測定したNO2,NOの月平均濃度を用いた。月ごとに乾
窒素酸化物成分は4.1(母子里)~58.6(神戸須磨)(平均
性沈着量を求め,それらを合計して年間乾性沈着量を算
値25.5)mmol m-2 y-1だった。
出した。
〔 全国環境研会誌 〕Vol.41
No.3(2016)
29
<特集>
第5次酸性雨全国調査報告書(平成26年度)
表5.3.2
No.
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
32
33
SO2
(g)
都道府県市
地点名
北海道
北海道
北海道
新潟県
新潟県
新潟市
群馬県
埼玉県
千葉県
千葉県
千葉県
千葉県
千葉県
長野県
静岡県
富山県
石川県
福井県
岐阜県
愛知県
名古屋市
和歌山県
兵庫県
鳥取県
高知県
福岡県
福岡市
大分県
大分県
宮崎県
鹿児島県
沖縄県
沖縄県
利尻
母子里
札幌北
新潟曽和
長岡
新潟小新
前橋
加須
市川
市原
香取
旭
佐倉
長野
静岡北安東
射水
金沢
福井
伊自良湖
豊橋
名古屋南
海南
神戸須磨
湯梨浜
香北
太宰府
福岡
大分久住
大分
宮崎
鹿児島
大里
辺戸岬
最低値
最高値
中央値
平均値
年間乾性沈着量(2014年度地点別)
HNO3
(g)
(2.0)
1.9
7.9
2.3
3.8
3.1
2.2
3.7
(3.8)
14.6
(5.0)
5.8
6.1
3.6
(17.2)
(4.5)
5.4
14.3
(2.4)
9.5
3.4
7.4
13.0
6.6
2.1
10.9
4.9
(14.9)
15.8
30.3
26.0
4.8
6.3
1.9
30.3
6.0
8.3
(1.0)
2.6
8.3
9.3
13.1
9.8
15.9
19.1
(12.7)
9.3
(4.0)
3.7
14.0
17.2
(72.0)
(8.9)
8.9
14.8
(1.4)
30.9
23.2
17.3
30.7
6.9
5.6
23.1
12.4
(7.5)
18.2
11.8
9.4
17.2
9.9
2.6
30.9
12.7
13.9
NH3
(g)
(2.3)
3.3
3.9
5.7
10.9
6.4
27.6
14.0
(4.7)
9.0
(57.4)
530.5
10.3
12.3
(27.3)
(6.9)
4.6
13.0
(2.6)
20.0
4.2
7.2
4.9
14.7
3.0
11.9
4.7
(3.7)
6.2
23.2
11.3
42.4
8.2
3.0
530.5
9.6
31.3
nss-SO42(p)
SO42(p)
mmol m -2
(2.1)
(2.7)
2.0
2.1
2.2
2.4
1.7
1.8
3.4
3.6
1.5
1.8
1.6
1.6
1.2
1.3
(1.2)
(1.3)
2.4
2.6
(2.0)
(2.2)
2.9
3.4
2.5
2.7
3.0
3.1
(9.3)
(9.7)
(1.7)
(1.8)
3.4
3.6
3.2
3.5
(0.6)
(0.6)
5.6
5.9
1.4
1.5
2.9
3.1
4.6
5.0
8.9
9.8
2.6
2.7
5.4
5.6
3.7
3.8
(3.0)
(3.1)
4.2
4.3
9.5
10.0
3.7
4.0
5.5
6.5
13.5
17.6
1.2
1.3
13.5
17.6
3.1
3.4
3.9
4.4
NO3(p)
(1.7)
1.0
1.9
1.2
3.0
1.4
2.6
1.7
(1.6)
3.5
(2.2)
5.2
2.6
1.8
(6.6)
(1.1)
1.8
2.6
(0.2)
7.5
1.4
2.0
6.3
7.0
0.5
5.8
1.6
(1.9)
2.0
8.0
3.0
4.5
12.6
0.5
12.6
2.6
3.6
NH4+
(p)
(2.9)
3.3
4.7
2.5
6.3
2.2
3.8
3.0
(1.8)
3.3
(3.2)
7.6
4.1
5.9
(16.1)
(3.1)
5.2
6.0
(1.0)
11.7
2.6
4.5
9.1
16.5
3.3
10.4
6.7
(5.7)
7.4
20.8
7.0
6.3
12.6
2.2
20.8
6.0
6.8
NO2
(g)
1.7
0.5
8.1
9.1
7.0
9.4
9.5
12.1
6.2
9.5
9.1
13.9
10.3
21.6
1.8
1.1
16.2
1.9
1.2
0.5
21.6
9.1
7.9
NO
(g)
0.018
0.011
0.020
0.017
0.031
0.008
0.024
0.037
0.047
0.059
0.045
0.028
0.044
0.057
0.007
0.053
0.008
0.002
0.002
0.059
0.026
0.029
注)全国最低値は網掛け,全国最高値は白抜きで示した。参考値は( )で示した。
5.3.4
乾性沈着量と湿性沈着量との比較
湿性沈着およびFP法による大気濃度の年平均値が全
て有効となった25地点について,湿性沈着(以後(wet)
をつけて表示)と乾性沈着を合わせた総沈着量を図
5.3.1に示す。ここで,総沈着量は,非海塩由来硫黄成
た酸化態窒素成分は19.4(母子里) ~82.3(豊橋) (平均
値54.2)mmol m-2 y-1だった。
総沈着量に占める乾性沈着量の比率(= 乾性沈着量 /
(乾性沈着量 + 湿性沈着量)×100(%))は,非海塩由来硫
黄成分が13%(香北)~67%(辺戸岬)(平均値32%),酸化態
分(SO2(g),nss-SO42-(p),nss-SO42-(wet)), 酸化態窒素
窒素成分が14%(金沢)~71%(神戸須磨)(平均値39%),還
成分(HNO3(g),NO3-(p),NO3-(wet))および還元態窒素成
元態窒素成分が13%(金沢)~82%(旭)(平均値38%)だった。
分(NH3(g),NH4+(p),NH4+(wet))に分類して考察した。ま
湿性沈着および大気濃度の年平均値が有効となった
た,NOxの乾性沈着量は、NO2(g)の乾性沈着量の年平均
25地点について,6つの地域区分別(北部(2地点),日本
値が有効となった16地点について酸化態窒素成分と合
わせて示した。
に年間総沈着量の中央値を図5.3.2に示す。NOxの乾性沈
総沈着量の年間値は,非海塩由来硫黄成分が14.8(長
野)~86.0(鹿児島)(平均値38.7)mmol m-2 y-1,酸化態窒
素成分が18.9(母子里)~75.4(金沢)(平均値45.4)mmol
m-2 y-1,還元態窒素成分が23.7(札幌北)~654.9(旭)(平
均値71.2)mmol m-2 y-1だった。NOxの乾性沈着量を含め
〔 全国環境研会誌 〕Vol.41
海側(6),東部(5),中央部(5),西部(6),南西諸島(1))
着量についても酸化態窒素成分に合わせて示した。
総沈着量は,いずれの成分についても日本海側で多く
なった。これは,日本海側の湿性沈着量が他の地域区分
に比べ多いためと考えられる。また,非海塩由来硫黄成
分では西部において湿性沈着量とSO2(g)の乾性沈着量
No.3(2016)
30
<特集>
図5.3.1
第5次酸性雨全国調査報告書(平成26年度)
調査地点の年沈着量(2014年度)
図5.3.2
注)湿性沈着およびフィルターパック法による対象測定項目の年間値がすべ
て有効となった調査地点
注)NOx(NO+NO2)は、自動測定器またはO式パッシブ法による測定地点のみ表
各地域区分別の年沈着量
(2014年度中央値)
注)総沈着量に占める乾性沈着量の比率 = 乾性沈着量 /
(乾性沈着量 + 湿性沈着量)、中央値より求めた。
示(図内*印)
が多くなり,総沈着量が多くなった。北部では,いずれ
5.3.6
の成分の総沈着量も他の地域区分に比べ少なかった。
土壌の酸性化や湖沼の富栄養化への観点から乾性沈
中央値から算出した総沈着量に乾性沈着量が占める
乾性沈着の全無機態窒素沈着量
着量を含む無機態窒素沈着量について検討を行った。た
割合は,いずれの成分についても中央と南西諸島で大き
だし,土壌の酸性化の指標である潜在水素イオン(Heff =
く,日本海側で小さかった。
H+ + 2NH4+)については,大気中のH+を測定していないた
大陸の影響を検討するために,非海塩由来硫黄成分の
め評価できない。そのため湖沼の富栄養化の指標である
総沈着量と経度を比較した(図5.3.3)。大陸に近い西部
全無機態窒素(ΣN = NO3- + NH4+)についてのみ検討す
の地点と,日本海側の地点で多くなる傾向がみられた。
ることとした。また,乾性沈着量についてはガス状成分
5.3.5
乾性沈着量の経年変化
のHNO3(g)とNH3(g)も湖沼に付加すると硝酸イオン,
FP法による大気濃度測定の調査を継続して実施して
いる地点のうち,札幌北,新潟曽和,加須,豊橋,神戸
須磨,太宰府,辺戸岬の7地点について,2003年度から
の乾性沈着量の経年推移を比較した(図5.3.4)。
粒子状成分の乾性沈着量は,豊橋,神戸須磨,太宰府,
辺戸岬で多く,札幌北,新潟曽和,加須では少ない傾向
がみられた。経年変化をみると,nss-SO42-(p)とNH4+(p)
は,豊橋と太宰府で2006~2007年まで増加し,それ以降
横ばいまたは減少に転じる傾向がみられた。NO3-(p)は,
豊橋,神戸須磨,太宰府,辺戸岬で増加傾向を示した。
ガス状成分の乾性沈着量の経年変化は,横ばいまたは
減少傾向を示す地点が多かった。
図5.3.3
地域区分別の非海塩由来硫黄成分の
総沈着量と経度の関係
〔 全国環境研会誌 〕Vol.41
No.3(2016)
31
<特集>
第5次酸性雨全国調査報告書(平成26年度)
新潟曽和
10
加須
豊橋
神戸須磨
5
太宰府
辺戸岬
SO2 (mmol m-2 year-1)
30
札幌北
札幌北
新潟曽和
20
加須
豊橋
神戸須磨
10
太宰府
辺戸岬
FY
2014
2013
2012
2011
2010
60
札幌北
新潟曽和
10
加須
豊橋
神戸須磨
5
太宰府
辺戸岬
HNO3 (mmol m-2 year-1)
新潟曽和
40
加須
豊橋
神戸須磨
20
太宰府
辺戸岬
FY
2014
2013
2012
2011
2010
2009
2008
2007
2006
2005
2003
2014
2013
2012
2011
2010
2009
2008
2007
2006
2005
2004
0
2003
0
札幌北
2004
FY
30
札幌北
新潟曽和
15
加須
豊橋
10
神戸須磨
太宰府
5
辺戸岬
札幌北
新潟曽和
20
加須
豊橋
神戸須磨
10
太宰府
辺戸岬
FY
図5.3.4
2014
2013
2012
2011
2010
2009
2007
2006
2005
2004
2003
2014
2013
2012
2011
2010
2009
2008
2007
2006
2005
2004
0
2003
0
NH3 (mmol m-2 year-1)
20
2008
NO3- (mmol m-2 year-1)
2009
FY
15
NH 4+ (mmol m-2 year-1)
2008
2007
2006
2005
2004
2003
2014
2013
2012
2011
2010
2009
2008
2007
2006
2005
0
2004
0
2003
nss-SO42- (mmol m-2 year-1)
15
FY
継続調査地点における乾性沈着量の経年変化
(2003~2014年度)
アンモニウムイオンとして寄与すると考えられるので,
は南西諸島で多く,北部で少なくなり,湿性沈着量の
粒子状成分(NO3-(p),NH4+(p))とガス状成分(HNO3(g),
ΣNとは異なる地域特性を示した。ΣN(p+g)は,湿性沈着
NH3(g))を含めた全無機態窒素(ΣN(p+g))を対象とした。
量も含めた全無機態窒素の2~6割を占め,特に中央部,
図5.3.5に湿性沈着およびFP法による大気濃度の年平
西部,南西諸島でその割合が高くなった。
均値が全て有効となった25地点について,湿性沈着量お
よび乾性沈着量の全無機態窒素の地域区分別年間中央
値を示す。
- 参 考 文 献 -
1)
EANET: Technical Manual on Dry Deposition Flux
湿性沈着量によるΣNは日本海側で多く,北部,中央
Estimation in East Asia,
部,南西諸島で少なかった。乾性沈着量によるΣN(p+g)
http://www.eanet.asia/product/manual/techacm.pdf
野口泉,松田和秀:乾性沈着ファイルの開発,北海
2)
道環境科学研究センター所報,30,23-28,2003
3)
全国環境研協議会:乾性沈着推計ファイルVer.4-1-1,
http://www.ies.hro.or.jp/seisakuka/acid_rain/kan
seichinchaku/kanseichinchaku.htm
4) (財)気象業務支援センター:気象観測月報2014年3月
– 2015年4月, (CD-ROM)
5)
環境省:長期モニタリング報告書(平成15~19年度),
2009
6)
図5.3.5
地域区分別の無機態窒素沈着量
(2014年度中央値)
〔 全国環境研会誌 〕Vol.41
国土交通省国土政策局国土情報課:国土数値情報ダ
ウンロードサービス,http://nlftp.mlit.go.jp/ksj/
index.html
No.3(2016)
32
<特集>
6.
第5次酸性雨全国調査報告書(平成26年度)
パッシブ法によるガス成分濃度
パッシブ法ではフィルターパック法(以下,FP法)のみ
では測定できないNO2,NOx,O3と,FP法と共通で測定でき
るNH3濃度の測定を行っている。
着量に対するNO,NO2の寄与率を評価することは可能と考
えられる。
O3は近年越境大気汚染の影響により,国内の大都市地
域以外の郊外や遠隔地でも高濃度が観測されている。こ
窒素酸化物(NO,NO2)では,排出量の少ない山間部や遠
のことから,パッシブサンプラーにより常時監視局の少
隔地では常時監視局が極めて少ないが,パッシブサンプ
ない郊外や遠隔地におけるO3濃度を把握することを目的
ラーにより濃度情報が得られる。パッシブサンプラーは
としている。
誤差や月平均濃度であるなどの課題はあるが,全窒素沈
図 6.1.1
〔 全国環境研会誌 〕Vol.41
NH3については,FP法ではNH3(g)とアンモニウム塩粒子
パッシブサンプラー測定地点および地域区分
No.3(2016)
33
<特集>
第5次酸性雨全国調査報告書(平成26年度)
(NH4+(p))を分離して測定している。しかしアーティファ
+
響が及んでいると考えられる。
クトによりNH4 (p)の一部がNH3(g)に変換されるため,特
6.2.2
に気温の高い夏季のガス/粒子の比率はアーティファク
最高年平均濃度は札幌北(6.8ppb),最低年平均濃度は
NO
トの影響を強く受けている1)。一方パッシブサンプラーは
利尻,母子里および八幡平(0.3ppb)だった(表6.1.2)。母
原理的にはNH3(g)のみを測定できるため,パッシブサン
子里では例年に比較して冬季に濃度が上昇せず,気象状
プラーとFPの結果と併せることで,より正確なガス/粒子
況が関係していると考えられる。季節変化はNO2と同様で
濃度を測定できる可能性がある。
冬季に高い傾向にある。特に都市部の測定で冬季に高く,
測定値について,いずれの項目も定量下限値として
EANETにおける定量下限値(0.1ppb)を用いた。データの有
気象条件に加えて暖房など人為的排出の影響が示唆され
る(図6.1.3)。
効判定はFP法と同様に,期間適合度60%以上を有効とした。
6.2.3
測定方法については第4次調査と同様とした2)。
最高年平均濃度は札幌北(19.9ppb),最低年平均濃度は
6.1
測定地点
NOx
天塩FRS(0.7ppb)であり,昨年度とほぼ同様の結果である
調査地点は大都市,工業地域,中小都市域,田園地域,
(表6.1.2)。地域別季節変動ではNO,NO2同様に冬季に高
森林地域から目的に応じ,1地点以上選定することとなっ
く夏季に低い傾向にある(図6.1.3)。今回,NOX年平均濃
ている。調査は通年で行い,試料捕集周期は1ヶ月(4週間
度が10ppbを越えたのは札幌北,小名浜,新潟坂井の3地
または6週間)とした。2014年度は15機関28地点で実施さ
点であった。前述のとおり,田園及び森林地域での測定
れた。測定地点図を図6.1.1に示す。なお地点により測定
が多くなっているためである。
項目は異なる。また全国を地域区分しての評価を行って
いるが地点数が少ない地域,土地利用の偏りがある地域
もあり,必ずしも地域を代表していない場合もある。NOx
25
定地点は少なくなっており,測定地点の多くは田園及び
森林地域に位置する。このため,地域平均濃度も都市部
よりは田園や森林地域の濃度をより強く反映している。
またこれは前述のとおり常時監視局のない地域の測定
が継続されていることを示し,電源を要しないパッシブ
サンプラーの特徴を活かしているとも言える。
6.2
NOx 年平均濃度(ppb)
とO3については,都市部のパッシブサンプラーによる測
札幌北
20
15
新潟坂井
小名浜
10
盛岡
5
測定結果
大里
年平均濃度と周辺排出量の相関を図6.1.2に,地域別季
0
0
節変動を図6.1.3に示す。また2014年度データの欠測数お
10
20
30
NOx排出量
(t km⁻² y⁻¹)
よび期間適合度(以下,完全度)60%以上の割合を表6.1.1
に示す。完全度の計算方法は,月ごとの完全度は「月ご
20
との観測期間/月ごとの予定された期間」,年の完全度は
「年の観測期間/年の予定された期間」として計算してい
6.2.1
NO2
最高年平均濃度は札幌北(19.9ppb),最低年平均濃度は
摩周(0.2ppb)と昨年度と同様である (表6.1.2)。経月変
化は全体的には例年と同様に,冬季(12~2月)に高く,夏
NH₃ 年平均濃度(ppb)
る。全地点の年平均濃度を表6.1.2に示す。
香取
銚子
15
10
大里
市原
5
0
1
2
3
4
5
NH₃排出量
(t km⁻² y⁻¹)
は冬季に顕著に濃度が高くなるがそれ以外の北海道内の
強いことを示唆する。一方田園地域でも八幡平では冬季
市川
0
的な減少の可能性がある。NJでは都市域の札幌と盛岡で
田園地域では明瞭な季節変化はなく,地域発生の影響が
豊橋
加須
熊本
佐倉
季(6~9月)に低い傾向であるが,SWは10月に特異的に高
い(図6.1.3)。SWの測定地点が大里のみであるため,地域
名古屋南
図 6.1.2
年平均 NOx 濃度(上)及び年平均 NH3 濃度(下,
旭は除く)と周辺排出量の散布図
の濃度が高い傾向にあるため,盛岡など都市域からの影
〔 全国環境研会誌 〕Vol.41
No.3(2016)
34
<特集>
7
第5次酸性雨全国調査報告書(平成26年度)
7
NO2
6
5
5
4
4
3
3
2
2
1
1
0
10
NJ
CJ
JS
WJ
EJ
SW
NO
6
0
4
5
6
7
8
9
10
11
12
1
2
4
3
5
6
7
8
9
10
11
12
1
2
3
9
10
11
12
1
2
3
9
10
11
12
1
2
3
70
NOx
濃度 (ppb)
8
60
O3
50
6
40
4
30
20
2
10
0
0
4
5
6
7
8
9
10
11
12
1
2
4
3
5
6
7
8
70
25
NH3
20
60
PO
50
15
40
30
10
20
5
0
10
0
4
5
6
7
8
9
10
11
12
1
2
4
3
5
6
7
8
Month
図 6.1.3 地域別季節変動
表 6.1.1
データ概況(平成 26 年度)
月別
項目
年間
地点数
欠測数
データ数
適合数 有効割合
<適合度
*
<DL値
欠測数
データ数
適合数 有効割合
<適合度
<DL値*
NO2
16
2
192
187
97%
3
5
0
16
16
100%
0
0
NO
16
2
190
185
97%
3
23
0
16
16
100%
0
0
NOx
16
2
190
185
97%
3
1
0
16
16
100%
0
0
O3
15
0
180
176
98%
4
0
0
15
15
100%
0
0
NH3
26
11
312
295
95%
6
10
0
26
26
100%
0
0
(*:<DL値はNDの数を示す)
6.2.4
PO(ポテンシャルオゾン)濃度は次式により算出した 。
O3およびPO
O3では最低年平均濃度は盛岡(26.9ppb),最高年平均濃
PO = O3 + NO2 - 0.1NOx
度は摩周(44.7ppb)であった(表6.1.2)。
NO2:二酸化窒素濃度
全体的な濃度変動は例年どおり冬~春季(2~5月)に高く,
NOx:窒素酸化物濃度
夏季まで減少を続け,秋季(9~11月)以降徐々に増加する
傾向が認められた(図6.1.3)。一般に本州の都市域では夏
季に地域での大気汚染物質から生成するO3により高濃度
前述のとおり,都市部の地点が少ないため地域ごとに
はPOはおおむねO3と同じ傾向である。
6.2.5
NH3
になるケースが多いが,パッシブサンプラーの設置地点
都市部と一部田園地域で濃度が高い傾向にあり,自動
は郊外が多いため,このような結果となったと考えられ
車排ガス由来と農業由来の影響と考えられる。最低年平
る。
均濃度は利尻と香北(0.2ppb)だった。また例年どおり千
〔 全国環境研会誌 〕Vol.41
No.3(2016)
35
<特集>
第5次酸性雨全国調査報告書(平成26年度)
葉県旭が突出して高い(99.3ppb) (表6.1.2)。なお,千葉
NH3年平均濃度と地点ごとの周辺排出量では(図6.1.2中),
県内の銚子,市川及び香取は1~3月が欠測であり,年平
大里を除くとおおむね昨年度と同様に,周辺排出量と関
均値を他年度と比較する場合などには注意が必要である。
係が認められる。
千葉県を除いた地点では年平均濃度は昨年同様に名古屋
南(8.0ppb)が最も高い。
6.2.6
- 参 考 文 献 -
1)
周辺排出量との関係
野口泉:ガス状および粒子状アンモニアの捕集測定
NOxの濃度と周辺排出量の散布図(図6.1.2上)では,特
方法(拡散デニューダ法,フィルターパック法および
に周辺排出量の高い札幌では濃度も高い結果となった。
パッシブ法),第 48 回大気環境学会講演要旨集,
-2 -1
周辺排出量がおおむね10 t km y 以下の地点では,郡山
244-245, 2007.
朝日,青森東造道など札幌と比較して周辺排出量は低い
2)
が濃度の高い地点があるなど,地形や気象要素の影響が
全国環境研協議会
酸性雨広域大気汚染調査研究
部会,全国環境研会誌,34,193-223,2009.
考えられる。
表 6.1.2
地域区分
自治体
地点
NJ
北海道
利尻
ガス状物質の地点別年平均濃度(ppb)
NO2
0.4
NO
0.3
NOx
O3
PO
NH₃
0.8
40.8
41.2
30.5
30.7
0.3
0.8
0.6
1.3
1.2
0.2
FPによるNH₃ (ppb)
0.3
NJ
北海道
天塩FRS
0.3
0.4
0.7
NJ
北海道
母子里
0.4
0.3
0.8
41.5
41.9
NJ
北海道
黒松内
2.1
1.4
3.5
28.3
30.1
NJ
北海道
札幌北
13.1
6.8
19.9
29.2
40.4
NJ
北海道
摩周
0.2
1.7
1.9
44.7
44.8
NJ
岩手県
盛岡
6.2
1.3
7.5
26.9
32.3
1.4
NJ
岩手県
八幡平
0.6
0.3
0.9
37.0
37.4
0.4
NJ
山形県
鶴岡
1.0
1.4
2.4
27.1
27.9
0.7
EJ
福島県
福島天栄
0.9
0.4
1.2
41.4
42.2
0.4
EJ
いわき市
小名浜
9.2
2.0
11.2
34.1
42.2
2.4
JS
新潟市
新潟坂井
8.1
2.7
10.7
35.1
42.1
1.5
EJ
埼玉県
加須
3.5
3.8
EJ
千葉県
市原
3.8
3.3
EJ
千葉県
銚子
15.0
EJ
千葉県
旭
99.3
82.3
EJ
千葉県
佐倉
3.1
3.3
EJ
千葉県
市川
4.7
4.6
EJ
千葉県
香取
16.3
17.8
JS
富山県
射水
1.3
1.8
CJ
愛知県
豊橋
5.8
3.7
CJ
名古屋市
名古屋南
8.0
2.1
JS
鳥取県
若桜
0.5
1.6
2.1
43.7
44.0
0.9
JS
鳥取県
湯梨浜
1.5
2.2
3.7
36.3
37.4
1.5
2.0
WJ
高知県
香北
0.9
0.4
1.3
29.1
29.9
0.2
0.7
WJ
熊本市
熊本
3.2
SW
沖縄県
辺戸岬
1.5
1.5
SW
沖縄県
大里
9.0
11.3
1.8
0.5
2.3
*全国最低値は網掛け,全国最高値は白抜きで示した。
〔 全国環境研会誌 〕Vol.41
No.3(2016)
36
<特集>
第5次酸性雨全国調査報告書(平成26年度)
7.まとめ
年平均値は,昨年度と同程度であった。季節変化や地域
2014年度酸性雨全国調査結果の概要は以下のとおりで
特性の解析結果から,経月変化にも地域性が反映されて
ある。
おり,地域によって異なる発生源の影響を受けていると
7.1
考えられた。
湿性沈着
2-
日本海側および西部では,冬季および春季に nss-SO4
7.3
乾性沈着量
および H+濃度が高い傾向を示しており,この傾向は,
FP法の測定結果から,乾性沈着推計ファイルを用いて
2005 年度までは日本海側で顕著であったが,2006 年度
インファレンシャル法による乾性沈着量の推計を行った。
には西部でも冬季に高濃度となる傾向が確認され,2014
乾性沈着量の全国平均値は,非海塩由来硫黄成分が12.3
年 度 ま で 引 き 続 き 同 様 の 傾 向 に あ っ た 。 H+ お よ び
mmol m-2 y-1,酸化態窒素成分17.5 mmol m-2 y-1,還元態
2-
nss-SO4 沈着量は日本海側,次いで西部で多い傾向を示
+
-
した。季節変動は H ,NO3 および nss-SO4 沈着量につい
て日本海側で冬季に多い傾向が顕著であり,西部および
中央部では 3 月に多い傾向があった。
7.2
窒素成分が38.1 mmol m-2 y-1だった。
2-
FP法によるガスおよびエアロゾル濃度
全国 33 地点で FP 法による乾性沈着調査を実施したと
7.4 ガス成分濃度(パッシブ法)
パッシブ法により NO2,NO,O3,および NH3 の測定を行っ
た。O3 は山岳部や海岸部の地点は内陸部より高く,NH3 は都
市部と酪農業の盛んな地域で高いなど,おおむね例年どお
りの結果が得られた。
ころ,2014 年度の大気中のガス状および粒子状成分の
〔 全国環境研会誌 〕Vol.41
No.3(2016)
37
<報文>
<報
近年の宍道湖におけるアオコの原因種Microcystis ichthyoblabeの塩分・水温耐性
文>
近年の宍道湖におけるアオコの原因種 Microcystis ichthyoblabe の
塩分・水温耐性*
神門利之**・大城
キーワード
等***・神谷
①アオコ ②ミクロキスティス
宏***・野尻由香里****・崎
③塩分耐性
要
④水温耐性
幸子***
⑤増殖
旨
宍道湖湖心表層水から得られたM.ichthyoblabeの単藻・クローン株を用いて水温・塩分耐性培養試験を行った。水温10℃
以下,塩化物イオン濃度10000mg/L以上,水温15℃以下かつ塩化物イオン濃度5500 mg/L以上の条件では増殖が見られなかっ
たが,これ以外の温度,塩化物イオン濃度では増殖が見られた。宍道湖の水温・塩分環境と比較すると,おおむね4月中旬か
ら11月初旬の期間は増殖が可能であることがわかった。また,M.ichthyoblabeを4℃の冷蔵庫で3ヶ月間保存したものを用い
て冷暗所保存後の再増殖試験を行った。冷暗所保存を行わなかった試料とほぼ同様の増殖結果が得られ,宍道湖の
M.ichthyoblabeは越冬後翌年に再増殖する可能性が示された。
1.はじめに
制される と 報告して い る。2010年 の宍道湖 に おける
宍道湖では1985年以降2014年までの20年間の夏季に
M.ichthyoblabe 等によるアオコ大発生時には,塩分が
11回アオコの発生が確認されており,景観及び水質上
上昇し水温が低下した秋から冬にかけてもアオコ は
の問題となっている。特に2010年から2012年には連続
消滅しなかったため,本種が高塩分・低水温にも適応
して3年間 ミクロキスティスイクチオブラーベ
できる可能性が考えられた。そこで,宍道湖より単離
(Microcystis ichthyoblabe) 及び Microcystis 属の1
し た M.ichthyoblabe に つ い て 塩 分 及 び 水 温 の 耐 性 試
種(未同定)によるアオコの大量発生が見られた
1)
。
験,及び越冬した M.ichthyoblabe が春以降に増殖する
Microcystis 属は植物プランクトンのうち藍藻(シア
可能性を確認するため,培養株の冷暗所保存後の再増
ノバクテリア)に分類され,細胞内にガス胞を作るた
殖試験を行った。
国内ではこれまでに5種類報告されており,このうち
2.方法
2.1 M.ichthyoblabe の単藻分離
ミクロキスティス エルギノーサ( M.aeruginosa )に
塩分・水温耐性試験に先立ち,2010年9月6日に採水
ついては詳細な研究が行われているが,宍道湖で見ら
し た 宍 道 湖 湖 心 表 層 水 か ら 得 ら れ た M.ichthyoblabe
れる M.ichthyoblabe については情報が少ない。
を以下の方法で単離培養し培養株として実験に供 し
め水面付近に集積しやすく,しばしばアオコとなる。
2)
伊 達 は M.aeruginosa に つ い て 13℃ か ら 30℃ ま で
た。
の間で増殖量がほぼ直線的に増加し,宍道湖や中海の
単離方法:ピペット洗浄法。
夏 場 の 水 温 は M.aeruginosa に と っ て 増 殖 に 適 し た 条
培地:IMK改変培地(孔径0.45µmのメンブランフィ
件となること,一方宍道湖の平均的な塩化物イオ ン
ルターでろ過した宍道湖湖水と蒸留水を等量混合し,
( 以 下 塩 分 ) 濃 度 で あ る 2000mg/L を 下 回 る 1000 ~
pH8.0に調整したもの)。
1500mg/Lで あ っ て も M.aeruginosa の 成 長 が 著 し く 抑
培養条件:20℃,約2000lux,1日1回程度 かくはん
*
Salinity and water temperature tolerance of the causative species Microcystis ichthyoblabe of
blue-green algae bloom (Aoko) in recent years of Lake Shinji
**
Toshiyuki GODO(島根県環境政策課) Division of Environment Management, Shimane Prefecture
***
Hitoshi O HSHIRO, Hiroshi KAMIYA, Yukiko SAKI(島根県保健環境科学研究所) Shimane Prefectural
Institute of Public Health and Environmental Science
****
Yukari NOJIRI(島根県廃棄物対策課) Division of Waste Control, Shimane prefecture
〔 全国環境研会誌 〕Vol.41
No.3(2016)
38
<報文>
近年の宍道湖におけるアオコの原因種Microcystis ichthyoblabeの塩分・水温耐性
明暗周期:12時間・明/12時間・暗
培養期間:2ヶ月
増殖状況の確認:生物顕微鏡の明視野及びG励起に
3.結果及び考察
3.1 塩分・水温耐性試験
図1 に各塩分濃度及び温度別の増殖曲線を,表1に
よる観察 。
2.2 塩分・水温耐性試験
2.2.1 培養条件
増殖がみられた試料の塩分・水温毎の成長曲線の係数
2.1により得られた培養株をMA培地に植え継ぎ,さら
増殖が見られなかったのは,水温10℃以下または塩分
に1週間増殖させた対数増殖期の培養株を用いて,塩
濃度10000mg/L以上の全試料及び水温15℃で塩分濃度
分については人工海水により塩分濃度をほぼ淡水 か
5500mg/L以上及び200mg/Lの試料であり,これ以外の
ら海水相当までの8段階に,水温については冬季から
試料では増殖がみられた。
を示す。係数が負であれば増殖しないことを意味する。
夏季の宍道湖の水温を考慮し5℃から33℃の間で7段
宍道湖の平均的な塩分濃度である2000mg/Lの場合,
階に設定し,塩分・水温耐性試験を行った。塩分,水
水温25℃から33℃で増殖が大きく,おおむね2日で3倍
温等の条件について以下に示す。
に増えた。20℃では係数は0.28で,温度が低くなるに
塩分濃度系列(mg/L):200,600,1100,2000,4000,
つれ係数は小さくなる傾向が見られた。また塩分濃度
が2000mg/L未満の条件下でも同様な傾向が見られた。
5500,10000,16000
水温(℃):5,10,15,20,25,30,33
塩分濃度5500mg/L,水温15℃ではほとんど増殖は見ら
培地及び接種細胞数:MA培地25mlに対して培養株を
れず,塩分濃度が10000mg/L以上では水温にかかわら
ず増殖は認められなかった。一方,塩分濃度が200か
約5000細胞/mlとなるよう接種
照度及び明暗周期:1900lux,14時間・明/10時間
ら 5500mg/Lの 範 囲 で は 水 温 が 10℃ を 下 回 る と 塩 分 濃
度にかかわらず増殖は見られなかった。
・暗の周期
宍道湖の水温が15℃を超えるのはおおむね4月中旬
培養期間:最長110日
実験は各条件につき3標本ずつ行った。試料ごとの違
から11月初旬の期間であり,M.ichthyoblabe が増殖す
る条件を満たすことになる。南條ら 3) は宍道湖同様汽
いは水温と塩分のみとなるよう配慮した。
水湖である湖山池において水温23℃以上かつ塩分 濃
2.2.2 増殖状況の評価
度1200mg/L以下でアオコを形成すると報告している。
蛍光光度法により数日ごとに蛍光量を測定し,実験
本 実 験 に 用 い た M.ichthyoblabe は 他 に 確 認 さ れ て い
終了日に作成した蛍光量-クロロフィルa量の検量線
る Microcystis 属と比べるとはるかに塩分耐性がある
からクロロフィルa量を算出し細胞密度の指標とした。
と考えられる。しかし,塩分濃度と水温が条件に適合
クロロフィルa量の測定は Strickland and Parsons の
するにもかかわらず大発生に至らない例も多く,栄養
方法によった。
塩類の濃度等,他の要因も考慮に入れる必要がある。
また,条件ごとの増殖特性を比較するため,培養日
本 間 ら 4) は 諏 訪 湖 に お い て , リ ン 酸 態 リ ン 濃 度 が
数を独立変数,クロロフィルa量を従属変数とし,成
10µg/L 以 上 に な る と M.aeruginosa と M.viridis が ,
長曲線近似(ln(Y) = Y切片 + B * X:ここで
Yはク
10µg/L 以下では M.ichthyoblabe が優占すると報告し
ロロフィルa量,Xは培養日数)を行い,非標準化係数
ている。宍道湖において,アオコの発生と栄養塩類の
Bを求めた。成長曲線近似には SPSS Statistics バー
関係についてはいまだ明らかにはなっていない。佐藤
ジョン23(IBM社)を用いた。
ら 5) は,宍道湖のアオコの発生とそれに先立つ月の水
温,栄養塩類濃度,日照時間等との関係を検討し,発
2.3 冷暗所保存後の再増殖試験
生があった年については発生月の1ヶ月前の水温と塩
試 料 には2010年10月14日に 宍 道 湖 ふれ あ い パ ーク
分濃度,及び2ヶ月前の塩分濃度を用いて,発生がな
(松江市玉湯町)付近の宍道湖で採取後,冷蔵庫内で
かった年では7月の水温と塩分濃度,及び6月の塩分濃
3ヶ月間保存したものを用いた。人工海水により宍道
度を用いて高精度に発生の有無を判別 できたと報告し
湖の平均的な塩分濃度(2000mg/L)に調整したMA培地
ている。その結 果から宍道湖におけるアオコの発生に
及び塩分をほとんど含まない(200mg/L)MA培地25ml
は水質,水温が一定期間発生に適した条件であること,
に試料をそれぞれ接種し,宍道湖湖底付近の冬季及び
及びアオコ発生の予測においては栄養塩類濃度が 判
宍道湖の夏季の水温に近くなるように冷蔵庫保存は4
定に有意な変数でないことを示唆した。しかし,これ
℃,その後の培養は25℃で行い,他の条件は塩分・水
はアオコの発生に栄養塩類が必要ないことを意味 す
温耐性試験と同様にし,3週間培養を行った。
るものではなく,観察期間中の湖水の栄養塩類がアオ
〔 全国環境研会誌 〕Vol.41
No.3(2016)
39
<報文>
近年の宍道湖におけるアオコの原因種Microcystis ichthyoblabeの塩分・水温耐性
塩化物イオン濃度200mg/L
塩化物イオン濃度600mg/L
100000
100000
10000
1000
15
100
20
10
25
30
1
0
5
10
15
20
25
30
5
1000
10
Chl‐a(μg/L)
Chl‐a(μg/L)
10000
水温(℃)
5
10
15
100
20
10
25
30
1
33
0
0.1
5
10
15
20
25
30
33
0.1
培養日数
0.01
0.01
塩化物イオン濃度1100mg/L
塩化物イオン濃度2000mg/L
100000
100000
10000
10000
5
15
100
20
10
25
30
1
0
5
10
15
20
25
30
5
1000
10
Chl‐a(μg/L)
Chl‐a(μg/L)
1000
10
15
100
20
10
25
30
1
33
0
0.1
0.1
0.01
0.01
塩化物イオン濃度4000mg/L
15
20
25
30
33
100000
10000
10000
5
1000
15
100
20
10
25
30
1
0
5
10
15
20
25
30
5
1000
10
Chl‐a(μg/L)
Chl‐a(μg/L)
10
塩化物イオン濃度5500mg/L
100000
10
15
100
20
10
25
30
1
33
0
0.1
0.1
0.01
0.01
塩化物イオン濃度10000mg/L
5
10
15
20
25
30
33
塩化物イオン濃度16000mg/L
100000
100000
10000
10000
5
1000
15
100
20
10
25
30
1
0
5
10
15
20
25
30
33
5
1000
10
Chl‐a(μg/L)
Chl‐a(μg/L)
5
10
15
100
20
10
25
30
1
0
0.1
0.1
0.01
0.01
5
10
15
20
25
30
33
図1 塩化物イオン濃度別・水温別増殖曲線 〔 全国環境研会誌 〕Vol.41
No.3(2016)
40
<報文>
近年の宍道湖におけるアオコの原因種Microcystis ichthyoblabeの塩分・水温耐性
表1 塩分・水温別 成長曲線近似式のB(非標準化係数)
水温(℃)
33
30
25
20
15
10
5
200
0.352
0.514
0.475
0.357
-0.09
-0.065
-0.093
600
0.527
0.54
0.504
0.42
0.126
-0.053
-0.037
塩化物イオン濃度(mg/L)
1100
2000
4000
0.549
0.534
0.491
0.544
0.521
0.502
0.471
0.488
0.494
0.437
0.283
0.391
0.179
0.33
0.24
-0.04
-0.04
-0.015
-0.062
-0.061
-0.092
5500
0.321
0.418
0.352
0.083
0.005
-0.029
-0.08
10000
-0.011
-0.098
-0.038
-0.067
-0.059
-0.089
-0.1
16000
-0.117
-0.132
-0.116
-0.117
-0.05
-0.094
-0.102
表中の網掛け部分は分散分析によりB(非標準化係数)が有意でなかったもの
10000
Chl‐a(μg/L)
1000
塩化物 イオン濃度
100
200mg/L
2000mg/L
10
1
0
5
10
15
20
25
培養日数
図2 冷暗所保存後の資料の増殖曲線(水温25℃)
コの発生に必要な程度の量が常時存在し,その濃度の
変動が発生の有無には影響を与えていなかった可 能
4.引用文献
1)
島根県環境生活部環境生活課:宍道湖・中海にお
けるアオコ及び赤潮の発生状況,平成25年版島根県
性が考えられ,今後の研究が待たれるところである。
環境白書,2014
3.2 冷暗所保存後の再増殖試験
2)
伊達善夫:中海における水質汚濁機構の解析と水
図2に冷暗所保存後の試料の増殖曲線を示す。3ヶ月
質の将来予測(Ⅲ).中海・宍道湖の水質保全に関
間冷暗所で保存した試料については,ある程度経過し
す る 調 査 報 告 書 ( 第 4 報 ) ,1-23, 島 根 県 環 境 保 健
た後に一週間程度の期間急激に増殖し,以降は増殖速
部,1988
度が鈍化した。直線的に増加している期間が短いため
3)
南條吉之, 福田明彦, 矢木修身, 細井由彦:汽水
評価は難しいが,成長曲線を近似すると非標準化係数
湖沼にお け るアオコ 及 び赤潮発 生 の制御に 関 する
Bは 塩 分 濃 度 200mg/L及 び 2000mg/Lの 試 料 で そ れ ぞ れ
基礎的研究.水環境学会誌,21,530-535,1998
0.139,0.179,同温度・同塩化物濃度の塩分・水温耐
4)
本間隆満, 朴虎東:諏訪湖における Microcystis
性試験のそれの約1/3程度であった。この結果から類
種組成及び藍藻毒素microcystin濃度に及ぼす硝酸
推すると,M.ichthyoblabe が冬季の低温条件下を経て
態窒素・リン酸態リン濃度の影響.水環境学
翌春以降まで残存していた場合,条件が整えば,速度
会,28,373-378,2005
は遅いものの再び増殖する可能性があると考えら れ
る。
5)
佐藤紗知子,大城等,馬庭章,管原庄吾,神谷宏,
大谷修司:宍道湖におけるアオコ発生の環境要因と
その事前判別.陸水学雑誌,76,217-223,2015
〔 全国環境研会誌 〕Vol.41
No.3(2016)
41
<資料>
<資
川底表面底質中のダイオキシン類濃度測定を目的とした吸引式採泥装置の開発
料>
川底表面底質中のダイオキシン類濃度測定を目的とした
吸引式採泥装置の開発*
野尻喜好**・茂木
キーワード
守**・大塚宜寿**・蓑毛康太郎**・堀井勇一**
①底質採取 ②吸引ポンプ ③ダイオキシン類 ④表面底質
要
旨
河川感潮域でダイオキシン類の環境基準超過がみられる場合には,底質の影響が考えられる。しかし,川底のごく表面
に存在し,潮汐による水位変動で浮遊しやすい底質の採取および含まれるダイオキシン類測定は,容易ではなかった。本
研究では,試料採取用ポンプとニードルバルブ式圧力調整器を用いて採取時の最大試料吸引速度と最大吸引圧力を制御で
き,川底表面の底質を容易に効率的に採取する装置を開発した。感潮河川である古綾瀬川において川底表面の底質中ダイ
オキシン類を測定したところ,底質中に含まれるダイオキシン類の平均濃度は,水位変動による巻き上げに由来する古綾
瀬川河川水中のSS当たりのダイオキシン類濃度とおおむね同等であったことから,本採泥装置が河川の水位変動で巻き上
げに寄与する川底表面の底質採取に適用できることが示された。
1.はじめに
約10cmまでを採取するため,水位変動による巻き上げに
河川水中のダイオキシン類濃度は河川の流況に応じて
直接寄与すると推測される川底のごく表面の浮泥の試料
変化しており,特に感潮域においては水位変動による流
採取は困難である。また,柱状試料からの採取には特殊
速の変化で起こる河川底質の巻き上げの影響によって河
な柱状試料採泥器5)などの使用と柱状試料から川底表面
川水中のダイオキシン類濃度が上昇する河川が認められ
の浮遊する部分の判定などが必要である。しかも,試料
1,2)
。このような河川を調査する場合,河川水中
採取には多くの時間が必要となり多検体の採取には適し
濃度だけではなく,底質中の存在状況も把握することが
ていない。巻き上げが生じる川底の表面底質中に含まれ
重要である。更に,河川水中濃度への河川底質の寄与を
るダイオキシン類を測定,解析するためには,広範囲で
評価するには川底のごく表面に堆積していて巻き上げに
川底表面の底質を採取することが重要となる。また,本
より水中へ浮遊しやすい底質(以後,浮泥とする)に含
研究において調査対象とした河川の同一区間で,2003年
まれるダイオキシン類の存在状況を把握することが必要
にステンレス製の柄杓(エクマンバージ型採泥器に準ず
である。
る)を用いて採取した表面底質のダイオキシン類測定調
ている
底質中のダイオキシン類の測定をダイオキシン類対策
査がなされている6)。しかし,採取試料には砂質の混入
特別措置法の常時監視として行う場合,採取方法はエク
が見られ,巻き上げに寄与する河川表面底質を評価する
マンバージ型採泥器かこれに準ずる採泥器の使用が基本
ための試料を採取する目的には適していなかった。
となっている3)。また,底質に含まれる化学物質等の濃
そこで,本研究では簡便で迅速な川底の表面の浮泥を
度を把握することを目的とした調査に関しては,「底質
採取することを目的とした採泥装置の開発を行った。ま
4)
調査方法」
が一般的に利用されている。ここでも,エ
た,これを用いて河川底質の巻き上げの影響が認められ
クマンバージ型採泥器の使用が記載されており,さらに,
る古綾瀬川において採取を実施し,ダイオキシン類等を
深さ方向での調査が必要な場合には,柱状試料の採取が
測定して本装置の評価を行った。
示されている。エクマンバージ型採泥器は底質表面から
*
Development of suction sediment sampler for the measurement of dioxin concentrations in riverbed surface
bottom
**
Kiyoshi NOJIRI, Mamoru MOTEGI, Nobutoshi OHTSUKA, Kotaro MINOMO, Yuichi HORII(埼玉県環境科学国際センター)
Center for Environmental Science in Saitama
〔 全国環境研会誌 〕Vol.41
No.3(2016)
42
<資料>
川底表面底質中のダイオキシン類濃度測定を目的とした吸引式採泥装置の開発
A (採 泥 部 )
2.方法
2.1 採泥装置の概要と動作原理
吸引部へ
連結用コック( PFE)
内径10mm
装置の概略を図1,外観を図2に示す。採泥装置は,川
底表面へ沈める採泥部(図1 A)とボート等の上から吸引
するための吸引部(図1 B)より構成され,採泥部と吸引部
チューブ( PTFE)
外径10mm
内径7mm
つり下げ用ワイヤー( SUS)
はチューブ(PTFE製,内径7mm,外径10mm)で連結してい
る。採泥部の先端は口径90mmのステンレス製ロートを用
い,軟泥状態の川底へ沈み込まぬよう,目開き3.5mmのス
テンレス製のネット(縦190mm×横270mm)に固定した。
ステンレス製ネットは周囲をステンレス製金属板(厚さ
2mm 幅15mm)で補強し,川底へ垂直に下ろすためステン
ロート( SUS)
口径 90mm
脚部 外径10mm
内径8mm
沈込防止ネット( SUS)
目開き 3.5mm
縦190mm×横270mm
ネット補強部( SUS )
厚さ2mm 幅15mm
レスワイヤーを用い連結コックとステンレス製ネットの
四隅をつなげた。吸引部はマスフローセンサーにより吸
引流量の制御可能な大気試料採取用吸引ポンプ(柴田科
学
LV-W40BW)でバッテリーユニット(柴田科学
BU-24B)
B ( 吸 引 部)
開放孔
チューブ( PTFE)
外径10mm
内径7mm
減圧ビン
を電源として使用した。また,最大吸引圧力を制御する
ため試料採取ビンとポンプの間に,ニードルバルブ式調
圧器をつけた減圧ビンを連結した。各構成部品を接続し
吸引圧力調整用ニードルバルブ
吸引ポンプ( バッテリー駆動 )
( マスフローセンサー付 )
採泥部より
底質試料採取ビン
(2 L容 ねじ口ガラスビン )
て,吸引部をゴムボートなどの小型船から川底へ下ろし
ポンプを作動させ,解放孔を閉じると試料採取ビンが減
図1
吸引式採泥装置の概略
圧され河川水と川底の表面底質の混合物(以後,底質混
合物とする)が試料採取ビン(柴田科学 2Lねじ口ガラス
ビン)に流入する。本装置の試料の最大試料吸引速度と
最大吸引圧力はポンプの吸引速度の設定とニードルバル
ブの開度で調整し,採取部からの試料の吸引速度を制御
する。この吸引速度を制御することで,浮泥の採取が可
能となる。ここで用いた吸引による採泥法は,ベントス
採取のための装置7)や港湾などで行われるポンプ浚渫と
原理的には類似する。
2.2
底質の採取
2012年10月30日に古綾瀬川の環境基準点である綾瀬川
合流点前と上流の弁天橋の間で,本装置をゴムボート上
で操作し,川底表面の底質の採泥を実施した(図3)。試
図2
吸引式採泥装置の外観
図3
河川底質の調査地点
料採取地点は松江新橋上流500mから下流450mの間の18箇
所(採取地点番号1~18)とした。調査対象河川は川幅が
約20mで両岸とも護岸されている。ただし,弁天橋,松江
新橋,採取地点16近傍および採取地点18から下流で川幅
が約2m前後,狭くなっている。それぞれの採取地点の間
隔は松江新橋を基点として50m間隔としたが,河川護岸の
形状とボート係留の関係で調査地点18から下流では採取
は実施せず,また採取地点17と18の間隔は100mとした。
底質混合物は,各調査地点において河川右岸寄り5m付近,
中央,左岸寄り5mの3ヶ所で,吸引量を約600mLずつ同一
の試料容器に採取し,採取地点1ヶ所で約1800mLの底質混
合物を採取した。今回の調査では一定の吸引速度で試料
〔 全国環境研会誌 〕Vol.41
No.3(2016)
43
<資料>
川底表面底質中のダイオキシン類濃度測定を目的とした吸引式採泥装置の開発
表1
底質混合物のダイオキシン類等の測定結果
地点番号
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
採取位置 松江新橋上流(m)
500
450
400
350
300
250
200
150
100
50
採取開始時間
11:42
11:36
11:27
11:22
11:14
11:07
10:58
10:51
10:43
10:34
SS mg/L
218
1330
98
393
774
2620
2800
2170
1530
960
SS強熱減量 %
19
16
21
18
18
18
18
17
19
19
ダイオキシン類 pg-TEQ/g-ss
80
110
100
110
140
120
130
130
270
140
地点番号
11
12
13
14
15
16
17
18
採取位置 松江新橋下流(m)
50
100
150
200
250
300
350
450
採取開始時間
14:21
14:16
14:10
14:00
13:54
13:48
13:42
13:33
SS mg/L
327
645
1130
1880
567
62
368
93
SS強熱減量 %
17
18
18
18
18
15
20
17
ダイオキシン類 pg-TEQ/g-ss
110
120
170
120
220
74
99
85
SS強熱減量 % = (( SS - 強熱残留物) / SS ) ×100
を採取することを課題とし,ポンプの吸引速度は8L/分に
SS濃度が高い地点
設定,ニードルバルブ式調圧器の開度は吸引圧力
-65cmH2Oに調整した。
2.3 分析方法
採泥
底質混合物は2種のガラス繊維ろ紙(アドバンテック東
洋 φ90mm GA-100,GA-55)を重ね吸引ろ過した後,ろ過
残渣を風乾し,これを乾燥底質として,ダイオキシン類
に係る底質調査マニュアル3)に従って測定した。ダイオ
キシン類の検出には,高分解能ガスクロマトグラフ質量
SS濃度が低い地点
分析計(Agilent 7890A,日本電子 JMS-800D)を用いた。
毒性等量(TEQ)は,世界保健機関が2006年に定めた毒性
等価係数(WHO-TEF(2006))を用い算出した。
また,底質混合物の一部を分取し,懸濁物質(以後SS
採泥
濃度とする)と強熱残留物を,「工場排水試験方法(JIS
K 0102)」に基づいて測定した。底質混合物中のダイオ
キシン類濃度は,ダイオキシン類の測定に供した底質混
合物1L当たりに含まれるダイオキシン類量をSS濃度で除
吸引されやすい底質
吸引されにくい底質
して毒性等量(pg-TEQ/g-ss)として算出した。
図4
吸引式採泥装置での予想される採泥の状況
3.結果と考察
3.1 採泥装置の特性
が大きく,これは各採取地点において川底表面に存在し,
表1に各地点における採取開始時刻,底質混合物のSS
れ,本採取装置の使用により,巻き上げへの影響が大き
濃度,SS強熱減量(%)およびダイオキシン類濃度を示
いと推測される浮泥の存在量についての情報も得られる
した。ゴムボートを利用しての採取作業は,松江新橋上
ことが示された(図4)。SS強熱減量(%)は15%~21
流部で午前10時30分頃から午前12時で10地点,松江新橋
%(n=18, 標準偏差1.4%)と概してばらつきが小さかっ
下流部で午後1時30分頃から午後2時30頃で8地点が終了
た。底質の浮遊しやすさの因子の一つにその密度が関与
した。よって,ボートの移動時間を除くと1地点数分で採
する。また,採泥装置の採取部の吸引速度が一定であれ
取が可能であり,本装置による採取操作が極めて簡便に
ば,浮遊しやすさが同等な底質が採泥されると考えられ
吸引されやすい底質の堆積量の違いによるものと推察さ
行えることが確認できた。SS濃度は62~2800mg/Lと変動
〔 全国環境研会誌 〕Vol.41
No.3(2016)
44
<資料>
川底表面底質中のダイオキシン類濃度測定を目的とした吸引式採泥装置の開発
る。SS強熱減量(%)は底質混合物に含まれる懸濁物質
の底質混合物のダイオキシン類の平均濃度 130 pg-TEQ/
の有機物割合の指標であり,採取した底質混合物中の懸
g-ss とほぼ同等な結果であった。よって,本調査におけ
濁物質の密度もばらつきが小さいと推測される。よって,
る採泥装置が河川水中のダイオキシン類濃度に影響を及
本装置による各地点における底質混合物の吸引流速はお
ぼす可能性のある川底表面の浮遊しやすい底質の採取に
おむね一定に制御できていると考えられた。
有効であることが確認された。
3.2
表面底質のダイオキシン類濃度での評価
4.まとめ
底質混合物のダイオキシン類濃度の範囲は74 ~ 270
簡便で迅速に川底の表面底質を採取することを目的と
pg-TEQ/g-ss(n = 18,平均130 pg-TEQ/g-ss)であった
した採泥装置の開発を行った。これを用いた河川底質の
(表1)。2003年にステンレス製の柄杓を用いて採取され
採取を古綾瀬川で実施し,評価結果を以下に要約した。
た表面底質のダイオキシン類測定調査6)での測定結果と
(1) 1地点数分以内で採取が可能であり,本装置による
の比較を図5に示す。松江新橋上流部の地点番号5から10
操作が極めて簡便であった。
は,どちらの調査でも連続してダイオキシン類濃度が高
(2) 採取した混合底質のSS強熱減量(%)は15%~21
い傾向を示している。この区間は,表1に示した底質混合
%(n=18, 標準偏差1.4%)とばらつきは小さく,本装置
物中のSS濃度が連続して高めの傾向があり,ダイオキシ
の吸引速度は一定に制御できていると考えられた。
ン類を多く含んでいる浮泥が広範囲に堆積していると推
(3) 底質混合物のダイオキシン類濃度平均値は,河川
測される。そのため,採取方法の違いが測定結果にあま
底質からの巻き上げによると推測される河川水中のSS当
り影響を及ぼしていない。一方,概して本法で底質混合
たりのダイオキシン類濃度と同等であり,本装置が河川
物中のSS濃度が低い地点(地点番号1,18)では,2003
水中のダイオキシン類濃度に影響を及ぼす川底表面の浮
年の柄杓採取による調査結果において本法と比べ低い結
泥採取に有効となることが確認された。
果を示しており,柄杓による採取ではダイオキシン類濃
度が低いと考えられる砂質を多く含む部分を採取したと
5.引用文献
1)
考えられた。
野尻喜好,茂木
勇一,茂木
調査対象とした区間の最下流である綾瀬川合流点前で,
ン類濃度の測定調査
を行っている。2010年調査
1)
にお
いて,順流時に河川底質からの巻き上げの影響による河
亨,後藤政秀:潮位変動による古綾瀬川
河川水のダイオキシン類濃度の変動.全国環境研会誌,
2010年10月6日に潮位変動に伴う河川水中のダイオキシ
1)
守,大塚宜寿,蓑毛康太郎,堀井
40,58-62,2015
2)
関本順之,木原幸喜:干潮河川域での河川水中ダイ
川水中のダイオキシン類濃度とSS濃度の増加が認められ
オキシン類調査におけるサンプリング時期の検討.佐
た結果から,増加したSS当たりのダイオキシン類濃度を
賀県環境センター所報,18,50-52,2006
算出すると110~140 pg-TEQ/gとなった。これは,本調査
3)
環境省
水・大気環境局水環境課:ダイオキシン類
に係る底質調査測定マニュアル.2009
300
本法
松江新橋
含有濃度 pg‐TEQ/g
250
200
柄杓採取
環境省
水・大気環境局:底質調査方法.2012
5)
井澤博文,清木徹,伊達悦二:大口径パイプを用い
た簡易不攪乱柱状採泥器の試作.水質汚濁研究,13,
320-323,1990
150
6)
100
細野繁雄,大塚宜寿,蓑毛康太郎,王効挙,杉崎三
男:古綾瀬川における底質中ダイオキシン類の濃度分
50
布と汚染の特徴.環境化学,22,89-96,2012
0
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18
採取地点
図5
4)
古綾瀬川の同一調査範囲における本法と柄杓
荒川純平,柳澤豊重,塩田博一,黒田信郎,甲斐正
信,岡村康弘,岡本俊治:吸引式ベントス定量採集器
の開発について.愛知県水産試験場研究報告,15,1-7,
2009-10
採取との比較
〔 全国環境研会誌 〕Vol.41
7)
No.3(2016)
45
<支部だより>九州支部
<支部だより>
九州支部
平成27年度九州支部の活動状況について報告します。
(支部事務局:佐賀県環境センター)
② 平成26年度環境測定分析統一精度管理調査結果
について
西尾
1. 平成27年度全国環境研協議会九州支部総会
(担当機関:熊本県保健環境科学研究所)
(1) 期日:平成27年7月10日(金)
(2) 場所:熊本市国際交流会館(熊本市)
(3) 議事
高好
③ 環境測定分析における留意点及び精度管理につ
いて
吉永 淳
貴士
氏
(国立研究開発法人国立環境研究所
② 平成27年度事業計画及び収支予算(案)について
③ 各県市提出議題及び照会事項について
氏
(東京大学大学院新領域創成科学研究科)
山本
① 平成26年度事業報告及び収支決算報告について
氏((一財)日本環境衛生センター)
資源循環・廃棄物研究センター)
牧野
和夫
氏(環境省環境調査研修所)
④ 次期役員の選任について
年度の全国環境研協議会企画部会長は佐賀県が
3. 第42回九州衛生環境技術協議会
(担当機関:熊本県保健環境科学研究所)
務め,平成29年度の環境保全・公害防止研究発表
(1) 期日:平成27年10月8日(木),9日(金)
会は長崎県が担当することとなりました。
(2) 場所:熊本市国際交流会館(熊本市)
平成28年度の支部役員の選任の他,平成29・30
(3) 参加者:13機関
(4) 支部長表彰
調査・研究等の業務の推進に長年功績のあった次
の3名の方を表彰しました。
・田中
義人
・本多
隆
・山田
正人
氏(福岡県保健環境研究所)
(地方衛生研究所全国協議会九州支部を含む)
(4) 分科会
・衛生化学分科会
氏(長崎県環境保健研究センター)
・水質分科会
氏(鹿児島県環境保健センター)
・大気分科会
・細菌分科会
(5) 講演
「成分調査結果を活用したPM2.5汚染実態解明の試
み」
豊永
116名
・ウィルス分科会
(5) 特別講演
悟史
氏(熊本県保健環境科学研究所)
・「長崎県における入浴施設の新衛生管理方法の開
発と応用」
2. 平成27年度環境測定分析統一精度管理九州ブ
ロック会議
(担当機関:熊本県保健環境科学研究所)
(1) 期日:平成27年7月27日(月)
(2) 場所:桜の馬場
城彩苑(熊本市)
(3) 参加者:23名(環境省,検討委員,(一財)日本
環境衛生センター,会員機関)
田栗
利紹
氏(長崎県環境保健研究センター)
・「沖縄島における外来ハブ類の生息状況と駆除へ
の挑戦」
寺田
考紀
氏(沖縄県衛生環境研究所)
・「微細藻類が生産する有毒物質のモニタリング手
法に関する検討」
田中
義人
氏(福岡県保健環境研究所)
(4) 議事
① 環境測定分析統一精度管理調査について
服部
和彦
氏
(環境省水・大気環境局総務課環境管理技術室)
〔 全国環境研会誌 〕Vol.41
No.3(2016)
46
<編集後記>
編 集 後 記
早いもので,今年
でも,職員による優勝応援デーを設け,職員がカープの
度も半分が経とうと
ユニフォームやTシャツなどを着用し,職員一丸となっ
しています。
てカープの優勝を応援しました。日本一の奪還,常勝カ
皆様におかれまし
ープの復活を願っているところです。
ては,いかがお過ご
しでしょうか。
また,8月30日には,台風10号が観測史上初めて,東北
地方の太平洋側に上陸し,岩手県等では甚大な被害が発
リオ・オリンピッ
生しました。被害を受けられた方々にお見舞いを申し上
ク,甲子園,そして
げるとともに,被災地の一日も早い復旧・復興をお祈り
広島ではカープと,
申し上げます。
スポーツざんまいの夏が終わりました。毎日,夜更かし
を重ねられた方も多かったのではないでしょうか。
台風10号は,日本近海で発生し,いったん沖縄の方へ
と向かったのにUターンして東北地方に上陸しました。
リオ・オリンピックでは,日本選手は史上最大の41個
まさに,異常,想定外でした。このような現象は,どう
のメダルを獲得し,多くの感動と勇気を与えてくれまし
しても温暖化の影響と考えてしまいます。我々も何か温
た。
暖化対策に貢献できることはないか考えているところで
体操男子団体,レスリング女子,バドミントン女子ダ
ブルス,カヌー男子,陸上男子400mリレー,・・・,メ
す。皆様のところで,何か良いアイデアがあれば教えて
いただければ幸いです。
ダルを獲得された選手はもちろん,メダルに届かなかっ
た選手,関係者の方々,本当にご苦労さまでした。
最後になりましたが,巻頭言を執筆していただいた仙
一方で,開会式での緑の五輪マークなどの演出は,オ
台市衛生研究所長の大金様,特集の「第5次酸性雨全国調
リンピックで初めて環境保全の大切さを大きく世界に向
査報告書(平成26年度)」を担当していただいた酸性雨
けてアピールしたのではないでしょうか。
広域大気汚染調査研究部会の皆様,報文を投稿していた
次の東京オリンピックでは,更に,「もったいない」,
だいた皆様,「支部だより」を執筆いただいた佐賀県環
「3R」など環境保全に向けた行動の推進を世界に呼び
境センター様には,お忙しいところご協力いただき,あ
かけてもらいたいと思っています。小池・東京都知事は,
りがとうございました。会員の皆様におかれましては,
元環境大臣でもあられますので,環境というキーワード
今後とも会誌への積極的な投稿をお願いします。
を東京オリンピックに積極的に取り入れられることを期
待しています。
(広島市衛生研究所)
広島市では,広島東洋カープのセリーグ優勝で大いに
盛り上がりました。25年ぶりということで,カープファ
ンのみならず街中がカープ一色という感じでした。本市
平 成 28年 度
全国環境研協議会広報部会
< 部 会 長 >
<広報部会担当理事>
広島市衛生研究所長
山口県環境保健センター所長
季刊
全 国 環 境 研 会 誌 Vol.41 No.3(通 巻 140号 )
Journal of Environmental Laboratories Association
2016年 9月 25日 発 行
〔 全国環境研会誌 〕Vol.41
発行
全国環境研協議会
編集
全国環境研会誌
編集委員会
No.3(2016)
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