Sep23, 2016 No.2016-044 Economic Monitor 伊藤忠経済研究所 主席研究員 主任研究員 武田 須賀 淳 03-3497-3676 [email protected] 昭一 03-3497-3678 [email protected] 中国経済:在庫調整の進展により製造業を中心に景気は改善(8 月主要指標) 8 月の経済指標は、7 月に再減速の兆しを見せた中国経済が足元で改善していることを示した。 とりわけ、在庫調整の進展を背景とした製品需給の改善は、企業のデフレ圧力を緩和し、業績の 回復を期待させるものである。今後も過剰設備の削減は続くため、本格的な景気回復までは期待 できないが、今年の成長率目標を達成する可能性は高まったと言えよう。 景気は製造業を中心に改善 8 月の経済指標は、7 月に再減速の兆しを見せた中国経済が改 善していることを示した。まず、製造業の景況感について、 PMI(購買担当者指数)を見ると、8 月は 50.4 と、好不況の 境目である 50 を再び上回った(7 月 49.9)1。内訳を見ると、 PMI(担当者購買指数)の推移(中立=50) 60 58 製造業 非製造業 新規受注(製造業) 生産(製造業) 56 改善 54 新規受注が 51.3(7 月 50.4) 、生産が 52.6(7 月 52.1)と、 52 先月から上昇しており、製造業における受注の増加と生産の 50 拡大を示唆した2。 48 悪化 46 実際に、工業生産を見ると、8 月は前年同月比+6.3%と 7 月 2012 2013 2014 2015 2016 (出所)中国国家統計局 の+6.0%より伸びはやや高まった3。主な内訳を見ると、自 動車が+21.4%と 7 月(+22.9%)よりやや伸び率は低下し たものの 20%台の大幅増加となった4。その他、汎用機械(+ 3.6%→+5.7%)や電気機械(+8.2%→+8.6%)の伸びが高 まった。一方で、コンピューター・通信機器(+12.0%→+ 10.6%)や化学原料・製品(+8.8%→+5.9%)は伸びが低下 した。 工業生産の推移(前年同月比、%) 24 22 20 18 16 14 12 10 8 6 4 2 0 ▲2 2012 そうした中で、製品需給は一層の改善が続いている。製品需 給のバロメーターである生産者物価は、2016 年 1 月以来 8 ヵ 月連続でマイナス幅の縮小が続き、前年同月比▲0.8%(7 月 2013 2014 汎用機器 自動車 コンピューター・通信機器 2015 2016 特殊機器 電気機械 全体 (出所)中国国家統計局 (注)1、2月は月次データが公表されないため、累積値の前年同期比。 ▲1.7%)となった。内訳を見ると、生産財価格のマイナス幅縮小だけでなく、衣料品や日用品などの消費財が 7 月に続いて 2 ヵ月連続で+0.0%となった。 2016 年 3 月以降、50 以上が続いていたが、7 月は 5 ヵ月ぶりに 50 を下回った。 なお、非製造業の PMI は、7 月の 53.5 から 8 月は 53.9 へ 8 月はやや低下したものの、引き続き 50 を大きく上回る高い水準 を維持し、非製造業分野の景気が堅調に推移していることを示した。 3 7 月はエルニーニョ現象による大雨の影響で一部地域において生産停止した工場が、8 月に再稼働し生産を加速させた影響もあ ると考えられる。 4 2015 年 10 月に小型車の購入税率引下げ措置が導入されて以降の好調な自動車販売(後述)を反映して、自動車の生産も好調 な伸びが続いている。なお、7 月と 8 月に前年同月比が大きく高まったのは、前年の低い伸び率の反動と考えられる(2015 年 7 月▲0.5%、8 月+0.2%) 。 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、伊藤忠経済研 究所が信頼できると判断した情報に基づき作成しておりますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告 なく変更されることがあります。記載内容は、伊藤忠商事ないしはその関連会社の投資方針と整合的であるとは限りません。 1 2 Economic Monitor 伊藤忠経済研究所 このように、価格の下落幅が縮小している背景には、鉱産物や原 材料などの資源価格の持ち直しのみならず、在庫調整の進展によ り5製品の需給環境が改善していることがある。企業間の取引価 格の下落に歯止めが掛かりつつあることは、企業にとってデフレ 圧力が緩和され業績の改善が期待できるという意味で、明るい材 生産者物価の推移(前年同月比、%) 10 8 工業製品 うち生産財 うち消費財 6 4 2 0 ▲2 料であろう。 ▲4 ▲6 個人消費は自動車販売を中心に底堅い動き ▲8 2011 2012 2013 2014 2015 (出所)中国国家統計局 受注動向の背景にある需要面について見ると、まず、個人消費の 代表的な指標である社会商品小売総額は、8 月に前年同月比+ 社会商品小売総額の推移(前年同期比、%) 10.6%(7 月+10.2%)、物価上昇を除いた実質値でも+10.2% 18 (7 月+9.8%)と伸びが高まった。7~8 月の水準で見ても、名 16 17 名目 実質 15 目で+10.4%(4~6 月期+10.2%) 、実質で+10.0%(+9.8%) と伸びを高めており、個人消費は底堅い。主な内訳を見ると、シ 14 13 12 ェアが最も高い自動車 が 7~8 月期+13.7%(4~6 月期+9.6%) 11 と大きく伸びが高まった。そのほか、衣料品+7.8%(+6.9%) 9 6 や家電音響機器+9.3%(+7.2%)も好調、2015 年 4~6 月期か ら前年同期比でマイナスの伸びが続いていた石油製品も資源価 2016 10 8 2011 2012 2013 2014 2015 2016 (出所)中国国家統計局 (注)最新期は7~8月期 格の持ち直しを背景に+0.5%(▲2.4%)とプラスに転じた7。 自動車販売を台数ベースで見ると、8 月は前年同月比+26.6%と 7 月(+26.5%)に続いて大幅に伸びが高まった。当研究所試算 の季節調整値(年率)で 7~8 月を均して見ても 2,450 万台と 4 ~6 月期の 2,246 万台より大きく増加しており、自動車販売は極 めて好調である。排気量別に見ると、特に乗用車販売台数の約 7 割(2015 年)を占める 1.6 リットル以下の乗用車の伸びが高ま っており(4~6 月期+20.1%→7 月+38.8%8) 、1.6 リットル以 自動車販売台数の推移(季節調整値、年率、万台) 2,900 2,800 2,700 2,600 2,500 2,400 2,300 2,200 2,100 2,000 1,900 1,800 1,700 1,600 1,500 1,400 1,300 1,200 自動車販売台数 うち乗用車 下の乗用車の購入税率引下げ措置が 2016 年末に終了することを 見越した駆け込み購入が 7 月以降始まっていることが考えられ (出所)中国汽車工業協会 (注)当社試算の季節調整値 る9。 製品在庫も 7 月は前年同月比▲1.8%と、引き続きマイナスの伸びが続くなど在庫調整は着実に進展している(6 月▲1.9%) 。 約 1 割程度(2015 年) 。 7 国家統計局は、自動車販売の大幅増加が社会商品小売総額の伸びに 0.5%ポイント程度寄与したと述べている。 8 8 月のデータは現時点で未発表。 9 8 月 18 日時点で、汽車流通協会は、自動車購入優遇措置が 9 月末に終了することや一部の都市において購入制限策が実施され ることを内容とした噂が広まったことも 7 月の売上げ増加に寄与したと分析している。 2 5 6 Economic Monitor 伊藤忠経済研究所 固定資産投資は減速傾向が続く 需要面のもうひとつの柱である固定資産投資も、8 月に前年同 固定資産投資の推移(前年同期比、%) 月比+8.2%と、7 月の+3.9%から伸びが高まった。しかしな 50 がら、7~8 月の水準を均して見ると前年同期比+6.0%となり、 40 4~6 月期の+8.1%より伸びは鈍化した。主な内訳を見ると、 30 投資抑制が続く製造業(+1.7%→+1.8%)は低い水準で横ば 20 い、インフラ投資も 8 月に前年同月比+21.3%(7 月+13.2%) 10 0 と 20%台を回復したものの、7~8 月で見ると 4~6 月期と比べ て伸びは低下した(+22.4%→+17.3%) 。以上のように、固定 固定資産投資全体 インフラ投資 製造業 不動産業 ▲ 10 2011 2012 2013 2014 2015 2016 (出所)中国国家統計局 (注)1.インフラ投資は、道路、鉄道、水利・環境・公的施設、電気・ガス・水道の合計。 2.固定資産投資全体のうち、インフラ投資は21.5%、製造業は32.7%、不動産業は 23.0%を占める(2015年)。 3.最新期は、7~8月期。不動産業のみ7月単月。 資産投資は、けん引役が不在の中で減速傾向が続いている。 輸出は人民元安によって下げ止まりの兆し 輸出は下げ止まりの兆しが見られる。通関統計を見ると、8 月の輸出金額(ドルベース)は前年同月比▲2.8% と 7 月の▲4.4%からマイナス幅が縮小した。当研究所試算の季節調整値でも、8 月は前月比+2.5%(7 月▲ 2.4%)とプラスに転じた。さらに、人民元ベースでは人民元安によって前年同期比でプラスの伸びが続いてい る(7 月前年同月比+1.7%→8 月+5.9%)ことに加えて、数量ベースでは 3 月以降、前年同月比でプラスを続 けている10。このように、人民元安が数量・価格の両面において輸出の下げ止まりに貢献しており、輸出企業 の業績改善が期待できる状況にある。なお、主な仕向地別に見ると、ASEAN 向けは横ばい圏での推移にとど まったものの、米国向けや日本向け、EU 向けは持ち直しの動きを見せた。 仕向地別の通関輸出の推移(季節調整値、百万ドル) 6,500 百 1,200 人民元相場の推移(元/米ドル) 6.90 人民元 安 6.80 1,000 6,000 6.70 800 5,500 6.60 600 5,000 400 4,500 6.50 日本 EU 輸出全体(右軸) 200 米国 アセアン 4,000 3,500 2011 2012 2013 2014 2015 6.30 6.20 6.10 0 (出所)中国海関総署 (注)当社試算の季節調整値。最新期は7~8月期。 6.40 2016 6.00 2010 人民元 高 2011 2012 2013 2014 2015 2016 (出所)中国銀行 景気の下押し圧力は依然として強いが、短期的には改善の動き 以上の通り、中国経済は、7 月に経済指標が悪化し減速が懸念されたが、8 月の指標は幅広く改善しており、 景気は一進一退ながらやや明るさが見られる状況にある。しかしながら、鉄鋼などの過剰生産分野では今後も 過剰設備の削減が続くため11、こうした改善の動きが景気の本格的な回復につながるとまでは期待できない。 7 月は前年同月比+4.9%(6 月+3.7%) 。 とりわけとりわけ過剰設備問題が深刻な鉄鋼と石炭については、上半期で今年の削減目標の 3 割程度しか削減が実現されてお らず、当局は危機感を持っている(7 月 25 日、工業信息化部 馮飛副部長の発言など) 。そのため、8 月 16 日の国務院常務会議 では、下半期はさらに削減を進めるとともに、進捗の遅い地方の政府責任者に対して罰則を設けることなどが決定された。 3 10 11 Economic Monitor 伊藤忠経済研究所 最近の景気改善は、中国経済が、政府が目標とする 6.5%から 7.0%の間の成長ペースにソフトランディングす る可能性を高める程度のものと考えておくべきであろう。 4
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