全文 - 産学官の道しるべ

2016
9
Journal of Industry-Academia-Government Collaboration
Vol.12 No.9 2016
https://sangakukan.jp/journal/
筒井宣政 株式会社東海メディカルプロダクツ 会長
娘の心臓病治療のために起業し
初のIABPバルーンカテーテル
国産化を果たす
特集
防災×産学連携
■
水素発生方式 重さ9kgのポータブル燃料電池
■「産学公金連携」
で開発した非常用電源装置
■
地震の揺れから貯水槽を守る浮体式波動抑制装置「タンクセイバー・波平さん ®」
巻 頭 言
健康ビジネスは
「健康経営」
で新展開へ
吉田 康… ……… 3
娘の心臓病治療のために起業し
初のIABPバルーンカテーテル国産化を果たす
筒井宣政… ……… 4
特 集
防災×産学連携
CONTENTS
水素発生方式 重さ9kgのポータブル燃料電池
「産学公金連携」
で開発した非常用電源装置
地震の揺れから貯水槽を守る
浮体式波動抑制装置「タンクセイバー・波平さん ®」
インターネットで遠隔操作 遠心バレル研磨機
石坂 整… …… 12
鈴木啓介… …… 17
平野廣和… …… 20
齊藤雄也… …… 23
藤田保健衛生大学
分野の壁を乗り越えて誕生したリハビリロボット
… …… 26
富士ゼロックス×青山学院大学(青学ハイコン)
大学生が参加するIoT人材育成プログラム
東北メディカル・メガバンク計画
─ 健康復興から始める産学連携─
中小企業の付加価値生産性の向上と
成長産業参入を目指す「シティ信金PLUS事業」
… …… 29
長神風二 / 山本雅之… …… 33
日比野俊之… …… 37
オピニオン
イノベーションの種まきと育苗の科学技術政策を
研究者リレーエッセイ
医薬品の臨床研究と薬価
視点 / 編集後記
2
Vol.12 No.9 2016
成戸昌信… …… 42
和田 勝… …… 45
… …… 47
巻
頭
言
■健康ビジネスは「健康経営」
で
新展開へ
吉田 康
よしだ やすし
一般社団法人健康ビジネス協議会 代表理事 会長
新潟県健康ビジネス協議会は、
「健康ビジネス連峰政策」を「産学官医」で現実化させるため、泉
田裕彦新潟県知事の政策として、2009 年 10 月に 28 社でスタートさせた。県内の産業を「サービ
ス・交流部会」
「ものづくり部会」
「食部会」の三つのグループに分け、重複して所属可能な新しいマッ
チング進化型異業種交流の団体を目指した。その後、他道府県でも似た名前の団体が出来始めたの
で、当会は少し先行していたこともあり、広く会員数を増加させる目的で、2012 年 1 月に一般社
団法人化したときに名称から「新潟県」を外した。2016 年 7 月現在、会員社数は 178 社となった。
「サービス・交流部会」は、医療ツーリズムのような取り組みを行い、現在では地域とスポーツ
を関連付けたビジネスなどを検討中である。また
「ものづくり部会」
は、医療介護関連の各社のシー
ズを紹介した後、
「ロボットスーツ HAL®」の試作機を、筑波大学大学院システム情報工学研究科
の山海嘉之教授(サイバーダイン株式会社創業)と大和ハウス工業株式会社にデモンストレーショ
ンをしていただき、会員企業や病院、リハビリ現場で実証研究中である。組み立て工場は福島県と
なったが、装着関連品は新潟県内の会員企業が提供中である。現在は、将来を見据え 2030 年時点
の HAS(ハッピーエイジングシーン)を想定し、新ビジネスを創出しようと検討中である。
「食部
会」でも会員各社のシーズ紹介の後、災害食などの用途別に開発課題を整理しており、機能性食品
や食材について、先進的な取り組みを実践する北海道などの道府県と連携して検討を重ねている。
そのような中、2015 年 6 月から食品包材の水性印刷技術認証制度をスタートさせた。新しい視
点として、働く人の健康に役立つことは環境にも良く、ひいては国民全般に好影響が想定されるの
で、これを推奨する予定である。また災害食の中でも要配慮者向け食品を分かりやすくするための
制度や、高圧技術利用による健康増進成分増加認証制度なども検討している。
健康と経営とが結び付き、顧客だけでなく、関係する企業や自社の従業員の健康を計画的に自発
的に経営課題として競い合う姿勢が必要になると考えてきたのだが、想定よりも早く具体的な進展
が見られたことは大変喜ばしく思っている。
日本社会をより健全・健康にするということは、人口持続社会に転換させていくことが最優先で、
これに必要な新技術は、当会のマッチング課題とも整合していくものと思われる。
明日も新しい出会いが生まれ、考えやアイデアが進化していくことを楽しみに、これからも名刺
を配り、健康ビジネスを「産学官医」で現実化させていきたい。
Vol.12 No.9 2016
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娘の心臓病治療のために起業し
初のIABPバルーンカテーテル国産化を果たす
株式会社東海メディカルプロダクツ会長 筒井宣政氏に聞く
株式会社東海メディカルプロダクツは、心臓の働きが悪くなった
ときに心臓の働きを助ける IABP
( 大動脈内バルーンパンピング)
バルーンカテーテルを初めて国産化した。以来、関連する種々の
医療機器を開発・製品化し、高い評価を得ている。創業者の筒井
宣政氏は、IABP バルーンカテーテルの開発に夫婦で挑み、製品化
した。その業績を認められて、昨年、EY アントレプレナー・オブ・
ザ・イヤー・ジャパンで日本代表に選出され、この 6 月にモナコ
で開かれた EY アントレプレナー・オブ・ザ・イヤー 2016 世界大
会に出席した。この世界大会の感想と起業時の経験を伺った。
筒井 宣政(つつい のぶまさ)氏
■ EY アントレプレナー・オブ・ザ・イヤー
世界大会は交流の場
― 昨年、EY アントレプレナー・オブ・ザ・イヤー・ジャパンで日本代表に選出され、こ
とし、モナコで開かれた EY アントレプレナー・オブ・ザ・イヤー 2016 世界大会* 1
に出席されました。まずその感想を聞かせてください。
筒井 私の人生の集大成として貴重な経験の場をいただけたと感慨ひとしおで
す。7 月 1 日に名古屋で報告会を開いて皆様に報告させていただきました。
今回の表彰は、
「娘を救いたい」一心で、医療については門外漢であった私た
ち夫婦が国産初の IABP バルーンカテーテル* 2 の製品化(図 1、写真 1)を実
現したことと、「一人でも多くの生命を救いたい」という東海メディカルプロダ
クツ(以下「T.M.P.」)の創業の精神を実践し、品質最優先で、症例が少なく他
社が対応しない疾病にも向き合ってきたことが評価されたのだと思います。これ
も医師や医療機関、国や県などのさまざまな機関、協力企業、そして社員の方々
などの支援のたまものと感謝しています。
世界大会は、今年は 50 カ国ほどから、各国の代表が夫人と共に招待されて、
6 月 9 日から 12 日まで開かれました。1 位を誰にするかを決めるための事前審
査や、全員に一人ずつトロフィーを渡す授与式など、幾つものイベントが催され
ました。最終日の夜中の 12 時ごろに、ことしの 1 位が発表されましたが、1 位
の方* 3 が一言、二言、述べられると、幕がばっと閉まって終わりです。インタ
ビューもできない。だから、前もって、1 位になりそうだと思われる人に、マス
コミが取材してくるわけです。私もノミネートされていたらしくて、十何社から
テレビインタビューなどを受けました。
4
Vol.12 No.9 2016
* 1
EY Entrepreneur Of The
Year。 新 た な 事 業 領 域 に
挑戦する起業家の努力と功
績をたたえる国際的な表彰
制度で、世界的な会計事務
所アーンスト・アンド・ヤ
ング(EY)によって、活躍
する起業家をロールモデル
として紹介し、後に続くア
ントレプレナーの輩出を支
援するために設けられた。
* 2
Intra Aortic Balloon
Pumping(大動脈内バルー
ンパンピング)バルーンカ
テーテル。狭心症や心筋梗
塞などで心臓の働きが悪く
なったときに心臓の働きを
補助する医療器具。
* 3
2016 年の世界ナンバーワン
起業家として、オーストラ
リアの玩具メーカー「ムー
ス・ エ ン タ ー プ ラ イ ズ 社 」
の 会 長 兼 共 同 CEO で あ る
マ ニ ー・ ス タ ル(Manny
Stul)氏が選ばれた。
世界大会はそこに人が集まる
ことに注力しています。いろい
ろな業種の方、金融機関やベン
チャー支援機関などの方、また、
それを目当てにここへ来る方も
いらっしゃいます。人が集まる
場をつくって、和気あいあいと
会話しながら、情報交換したり、
交流を深めたりすることを大事
にしていると感じました。
図 1 IABP バルーンカテーテルの動作原理
■受け継いだ会社に多額の借金
― 東海高分子化学株式会社を受け継いだときに、連帯保証による借
金が判明して大変だったと伺いました。
筒井 そうなのです。年商の何倍もの借金でした。東海高分子
化学というのは、ストローとかパイプ、テープ、ホースなどの
プラスチック押出し成形加工を事業にしていました。当時、東
海高分子化学の売り上げは、年間 4,000 万~ 5,000 万円ほど
で、利益も、せいぜい 200 万円ぐらいでした。借金は、会社
写真 1 市販 IABP バルーンカテーテルの先端部
に利益を出して、税金を払った残りの金で返済していかなければならないわけで
す。単純な計算でいくと、返済に 72 年ほどかかるような借金でした。
そんなとき、商社に勤める知人から、アフリカの女性向けに塩化ビニル製の髪結
いひもをつくればものすごくもうかるよといわれました。早速、自社の樹脂加工技
術を使ってサンプルをつくり、商社などに持ち込んだのですが、どこも販売を引き
受けてくれません。そこで単身アフリカに渡って市場開拓をしました。いろいろな
ことがあったのですが、ともかく現地で引き受けてくれるところが見つかり、その
後はこの髪結いひもが爆発的に売れました。日本でつくって、つくって、アフリカ
で売って、売って、売りまくって、7 年でとにかく借金を返済しました。
― そのひもの原価は、どれぐらいだったのですか。
筒井 原価は日本円で 1 本数銭ほどです。アフリカでは、一人 1 本ではなくて、
一人が 10 本も 20 本も使うのです。それを現地のほとんどの女性が使いました
から、膨大な量です。一番大きいコンテナに入れて毎月それを 4 基ずつ船に載
せては向こうへ送り込みました。これによって年間 4,000 万~ 5,000 万円の売
り上げを、確か 1 億 2000 万円ぐらいまでに上げました。
■「娘を救う」ために人工心臓に挑む
― 借金を返済されたころに、人工心臓の開発に挑まれます。
筒井 借金が判明したころの 1968 年に次女(佳美さん)が生まれました。この
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子は先天性の心臓疾患だったのですが、小さ過ぎて 9 歳になるまで検査もでき
ませんでした。借金を返済したあと、2 年間ぐらい猛烈に貯金して二千数百万円
ほど貯め、手術をお願いしたのですけれども、不可能だといわれました。日本だ
けではなく、米国の大学にもトライしたのですが同じ結果でした。当時の医学水
準はまだ低く、手術中に亡くなるでしょうと言われました。万が一神業のような
手術で成功しても、人工血管とか人工弁とかを入れなければいけないし、そうし
ても 1、2 年ももたないだろう、このまま温存すれば 10 年はもちますと言われ
ました。痛い思いをして短命に終わらせることはないという結論になって、手術
を断念したのです。
何カ月かたって、妻(陽子さん)が、「お金は佳美のために貯めたのに、佳美
のために使えなかったじゃない。それだったら、そういう子供を治してくれる施
設とか、そういう研究をしてくれる施設にそのお金を寄附した方がいいんじゃな
いの」と言ったのです。すぐ格好よく「そうしろ」と言いたいところなのですが、
私は、膨大な借金を返済するために金の亡者になって仕事をやってきましたか
ら、せっかく貯めたお金を寄附するなんてことは考えられなかったので、生返事
しかしませんでした。2、3 カ月過ぎて、もう借金はなくなったし、自宅もあっ
て、仕事も順調にいっている、遊興ざんまいに使う金ではあるまいし、と考え、
「やはりおまえの言うとおりにしようよ」と話して寄附することにしました。
最初は名古屋大学に相談したのですが、制度の問題などがあって、私立大学の
方がいいと言われ、主治医の一人だった東京女子医科大学の先生に寄附の話をし
たのです。だけど、その先生も、その当時で二千数百万円のお金ですから、すぐ
には返事できませんということでした。何カ月かして電話があって、私と妻が一
緒に大学に行くと、人工心臓の研究をしませんかと言われました。毎年数百万円
ずつ使っても、10 年では使い切れないし、10 年も研究すれば、理想的な子ども
のための人工心臓ができるかもしれないという話でした。いい人工心臓をつくれ
ば娘を救える、と思い、妻と二人で研究を始めました。1978 年ごろの話です。
― 当時の日本では東京大学と国立循環器病センターが人工心臓研究の中心でしたね。
筒井 東京大学は医学部で研究ができたのですが、大阪大学は、厚生省(現 厚生
労働省)が国立循環器病センターを設置していたので、そこに研究部がありました。
でも、私は東京女子医科大学に行ったわけです。なぜかというと東京女子医科大学
に娘の主治医がいたこともありましたが、私立大学だったからです。国立大学は、
ある程度研究費が出ますが、東京女子医科大学には研究費が出ないので、日本一の
心臓疾患の施設でありながら、人工心臓の開発ができていなかったのです。
人工心臓の開発は一所懸命やりました。妻に手伝ってもらったり、いろいろしな
がら、毎週、東京女子医科大学と名古屋との行き来です。必要なときは、週に何日
も泊まり込みました。東京女子医科大学の指導を受けながら基本的なところは全部
自分で考えてやっていました。私から言うと、結果的には東大型よりも阪大型より
もいいものができたと思います。大型犬を使った最初の動物実験もうまくいきまし
た。だけど、そこまでで 8 億円使ってしまったのです。
動物実験は 100 頭ぐらいやらなければいけません。1 頭までは私どもの力で
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やれたのですが、本格的な動物実験に入るとなると、獣医と
か、医師とか、いろいろな先生を私が雇わなければいけない
わけです。だからそれをやると 100 億円ぐらいかかります。
人間による治験臨床をして厚生省の許可を取るということに
なると 1,000 億円ぐらいかかります。技術的なことはともか
くとして、家を売っても、私の力ではもうやれないわけです。
しかも仮に 1,000 億円を調達して出来上がったとしても、当
時、市場がなかったのです。だから、借りたお金を返せませ
ん。でも私は企業家ですから、借りっ放しにできません。だか
ら、そこで人工心臓はやめて、IABP バルーンカテーテル(以
下「IABP」)に切り替えようと考えました。
■ IABP の開発
― なぜ人工心臓から IABP に切り替えようと考えられたのですか。
筒井 IABP は心臓を助ける器具ですから、日本人工臓器学会などの論文誌に
IABP についての論文もいろいろと出ていました。それを読んでいたので、人工
心臓をやめて IABP に替えようと思ったのです。しかし、
「もう人工心臓をやめま
す」と発表すると、東京女子医科大学では大反対を食らいました。私に IABP な
んかできるわけがない、IABP のほうが人工心臓より難しいというわけです。そう
ですよね。バルーンは 50µm * 4 以下の、ものすごく薄いフィルムですし、抗血栓
性も要求されます。さらに東京女子医科大学の場合、私が人工心臓から撤退する
* 4
1µm( マ イ ク ロ メ ー ト ル )
= 10 -6m
と、女子医大型はそこでストップになりますから、やめては困るのです。けれど
も、まだ続けていくという場合は、私が 1,000 億円を自分で調達してこなければ
いけないわけです。押し問答の末、反対を押し切って IABP に変換しました。
― 開発されていた人工心臓と IABP は、材料は同じなんですか。
筒井 同じです。セグメント化ポリウレタンウレアというプラスチックです。だ
けど、成分などはちょっと違うのです。研究の末に出来上がった IABP は、世
界一機能がよくて、抗血栓性がよく、破れないし、人間サイズに合わせた形のカ
テーテルだという評価でした。どこの会社のものよりもいいものをつくったわけ
です(写真 2)
。それを論文としても出しました。それにより、後でカナダのト
ロントで開かれた第 5 回バイオモデル学会で学会賞をいただきました。
■ IABP バルーンカテーテルの販売で全国を行脚
― 販売も筒井さん自らがされたのですか。
筒井 製品化の次は販売でした。初めは全国の大学や病院を全部一人で回ってい
ました。北海道の札幌医科大学から、九州の済生会熊本病院までというように、
全国をずっと回っていましたね。1 カ所ずつ採用してくれる病院が増えて売れ始
めましたが、年に 800 ~ 1,000 本ぐらい売るまでは一人で営業していました。
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つくる方も一人でやっていましたし、経理から何から全部
やっていました。
― 大変ですね。
筒井 てんてこ舞いです。寝る暇もない。いやあ、もう、ベ
ンチャーなんてそんなものですよ。人に任せて、いいものだ
から売ってこいと言ったって、思いを込めて売ってこないと
売れないですしね。
― 今、IABP バルーンカテーテルというのは、年間何本ぐらい販
売されているのですか。
筒井 6,500 本ぐらいだと思います。日本だけでは、全部で
3,400 ~ 3,500 本ぐらいです。国内のシェアは 2 割ほどだ
と思います。
― 社員はいつごろから増え始めたのですか。
筒井 最初は売れたときに、一人でつくっていました。少し
写真 2 国産第 1 号の IABP バルーンカテーテル
売れるようになってからは、研究室を春日井市にある東海高
分子化学の工場の敷地内につくったので、近くでパートを募集し、教えたとおり
につくらせていました。
学卒を入れたのは 1989 年ごろからです。それからずっと学卒を入れていま
す。それまでは孤軍奮闘している会社に人は来てくれませんでした。売れるか売
れないか分からないような IABP をつくっているが来ないかと、いくら学校へ
募集を出しても、教授が信用しないし、受付のところでもう書類を持って帰って
くださいという感じでした。しかし、学会で発表したり、新聞紙上で取り上げら
れたり、いろいろな表彰をいただいたりすることによって、学校とか学生が調べ
て「あっ、ここの会社は大きさじゃない、確かにすごくいいことをやっている
し、こういう仕事を自分もしたい」という人が来るようになりました。今、学卒
とパート両方入れて社員は 200 人ぐらいです。
■補助金を得るために設立した
東海メディカルプロダクツ(T.M.P.)
― 人工心臓の開発を始められてから、しばらくして T.M.P. を設立され、その後いろいろ
な研究支援を受けて大学と共同研究されていますね。
筒 井 公 的 な 補 助 金 は 個 人 で は 申 請 で き な い の で、T.M.P. を 設 立 し て、
T.M.P. を通して申請しました。最初は財団法人研究開発型企業育成センター(現
一般財団法人ベンチャーエンタープライズセンター)の支援でした。その後、
T.M.P. のホームページにも一部を載せていますが* 5、いろいろな支援を受けま
した。それらは私共が頂いたり、お借りした公的融資もしくは補助金です。設立
間もないころ、こういうものが新しくできるというサンプルをつくってくれたら
8
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* 5
東海メディカルプロダク
ツ.
“沿革、助成金・補助金”.
http://www.tokaimedpro.
co.jp/company/history.
h t m l , ( a c c e s s e d 2 0 1 6 -
09-15).
5,000 万円出しますよという通商産業省(現 経済産業省)の補助金制度があって、
すぐ申請しました。それをつくったら、この後の新技術事業団(現 科学技術振
興機構、JST)の委託開発につながりました。
― リストを見ると、厚生省や通商産業省、それから JST の前身である新技術事業団や科
学技術振興事業団から途切れなく補助金を受けておられますね。
筒井 赤羽信久さんが理事長のときから、今の首相官邸のところにあったサイエ
ンスビルの新技術事業団に出入りしました。赤羽さんにもしょっちゅう相談しに
行って、
「それならこういうのに応募しなさい」とか、いろいろアドバイスして
もらいました。
― ベンチャーは、資金が大事です。
筒井 技術も大事だし、販売も大事ですが、資金調達も大事です。バランスシー
トも読めないと、無駄な税金をどんどん払ってしまって、いくら資金調達して
も、足りなくなってしまいますからね。脱税はいけませんが、節税は上手にやっ
ていかないと、うまく会社が回らないですね。経営、技術、販売、お金を借りる
こと、何でも考え続けなくてはいけません。
だけど、私は自分ですべてをやったけれども、米国流のやり方、要するに技術
でここまで来たら、それを売ってしまって、経営は、それを買ったプロがやると
いうのを見習うといいと思います。技術の得意な人は、大体経営は駄目なので
す。一方、経営の得意な人は、研究開発とか技術をやれないし、長続きしない人
が多いようです。
― 補助金などはどうやって得たのですか。
筒井 銀行系のような私的なところは、私共のようなことをやるところには、
危うくて金なんて出せないのです。でも国からは、趣旨を理解してもらって、や
るかということになると、お金は出してもらえるのです。そこのところを私は
知っていたものですから、国などには積極的に連携してきましたし、国の機関
のトップの人たちとのつながりを大切にしてきました。トップの人たちに話し、
トップが納得してくれたら、これはある程度決まります。JST の場合、新技術事
業団の赤羽理事長のときからずっと歴代の理事長とお付き合いさせていただいて
います。
― 東海高分子化学は、T.M.P. を立ち上げたときも利益を上げていたのですか。
筒井 上げていました。しかし、髪結いひもをつくる業務は、塩化ビニルは燃や
すと環境ホルモンのダイオキシンが出る、と悪者扱いされたときにやめました。
命を助ける器具を作っているときに塩化ビニルのひもをつくっていると、変なう
わさが立っては困るし、円高で輸出もうまくいかなくなってきたこともあって業
務をやめました。東海高分子化学は、名前は化学会社ですが、不動産会社として
そのまま残しました。
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9
■
「Yoshimi Memorial T.M.P. Grant」
で
研究者を支援
― ご息女の名を冠した「Yoshimi Memorial T.M.P. Grant」を設
けられました。
筒井 1991 年に娘が亡くなりました。IABP が 1,500 本ぐら
い売れて、それを見届けるように亡くなったのです。もともと
T.M.P. は娘のためにつくった会社でした。先ほども言ったよ
うに、会社組織でないと国から金が頂けないからです。開発目
標を人工心臓から IABP に替えたときに、私は娘に IABP に
替えたよ、とは言いにくかったのです。というのは、娘のため
に人工心臓の研究を妻と 2 人でやると言っていたからです。IABP では娘を助け
ることはできないのです。IABP は心筋梗塞とか狭心症で倒れた人を一時的に助
ける心臓救急救命具なのです。使用期間は 1 週間から 10 日、長くて 2、3 カ月
です。それ以上は、人工心臓でないと助けられないわけです。
言いづらかったのですが、それから半年ぐらいたって娘に IABP に替えたよと
言いましたら、娘が、
「お父さんとお母さんが自分の病気のために、人の命を救
うような器具をつくってくれたことを、佳美はすごくうれしい」と言ってくれた
のです。それからずっと人の命を助ける IABP をつくってきたわけです。IABP
の販売のために全国を回り、少しずつ売れるようになった 1990 ~ 91 年にかけ
て、娘はもう最後だったのです。そのころは病院に入っていました。私は出張
から帰ると、
「今度慶應義塾大学に売れたよ」
、
「また東北大学に売れたよ」と娘
に報告しました。私はやはり経営者ですから、売れたという意識が強いのです
が、娘は「ああ、お父さん、また一人の命を救うことができたのね」と言いまし
た。そういう子だったのです。IABP で助けられた患者さんよりも、うちの娘の
方が、はるかに重い心臓病なのですけれども、自分のことより人のことを思う子
だったのです。
そういうことで、私の経営姿勢が「金儲けのために働く金の亡者」から、
T.M.P. に関しては、
「いい製品をつくって、人の役に立つ」に変わりました。役
に立ったら、やはりそれが満足であるし、そういうことをすれば、相手もただで
助けてもらおうというのではなくて、ちゃんと後からお金を払ってくれるわけで
す。利益を頭で考えるのでなくて、いいものをつくることを先に考えて供給すれ
ば、後から利益が付いて回るよということを、暗に教えてくれていた子なんで
す。筒井家のすごい資産であり、幸せを運んでくれました。だからモナコへも行
けたわけです。
娘が亡くなった後、私が日本人工臓器学会の評議員をやっていたものです
から、何かやってもらえないかとお願いしたら、
「Yoshimi Memorial T.M.P.
Grant」をやってはどうだと言われました。審査に 3 ~ 4 年かかって、1996 年
に 1 回目が始まり、これまでに二十数回やっています。毎年、人工臓器でいい
論文なり、いい研究をされた方に、賞状と研究費(100 万円)を T.M.P. から差
し上げています。娘の永久的なメモリアルという格好で、私と妻が目の黒いうち
10
Vol.12 No.9 2016
はできる限りやろうと思っています。
先だって、名古屋大学に茶室を寄附しました。海外の賓客が名古屋大学を見学
されたときのおもてなしの場として、名古屋大学法政国際教育協力研究センター
(CALE)で新しく建てるアジア法交流館に茶室をつくりたい、と名古屋大学か
ら文部科学省に予算要求したのですが、却下されたそうです。それで、客員教授
をしている私に「筒井さん、協力してもらえないか」という話があり、ビルの
1 室に、庭付きの茶室を寄附させていただきました。そのとき、その茶室の名前
を「筒井さん、付けてくれ」ということだったので、娘はわれわれにものすごい
資産を残していった子ですから、娘の院号、白蓮院にちなんで白蓮庵と名付けさ
せてもらいました。茶室開きはテレビのニュースにもなりました。このほかに、
いろいろな大学などに寄附させていただいています。
― 起業家として起業で大切なことは何だとお考えですか。
筒井 技術も大事だし、販売も大事だし、資金調達も大事です。だけど、それの
もとになるのは、限りない好奇心、限りない情熱を示すこと、限りない努力をす
ること、限りないネットワークを築くことです。それは、先ほど言った赤羽さん
の時代から JST とお付き合いさせていただいているというのが一つの例なので
すが、通商産業省も、渡辺修さんが事務次官のときから、ずっと事務次官の方と
お付き合いさせていただいています。そういうネットワークも大事ですし、技術
関連のネットワークも大事です。それを築くためには、限りない好奇心を示さな
いといけないし、その好奇心を実行していくのには、限りない情熱を示さない
と、相手も乗ってくれませんし、情熱だけ示したら、やってくれるかといった
ら、自分自身は限りない努力をしないと、やはり相手はそれに乗ってきてくれま
せん。
限りないネットワークができて、不可能みたいなことが可能になるのではない
かと思います。そういうことをすべてやることが基本で、つらいからやめると
か、金が掛かるからやめるとか、難しいからやめるとかいうのは話にならないの
です。今の四つの言葉は、ものすごく大事なのではないかなという気がします。
その上で、実務的に、技術のことも、資金のことも、経営のことも、バランスよ
くやらないと、技術だけすぐれていても、日本の場合、そんなにはうまくいかな
いでしょう。技術がいい会社だからものすごく高く買ってくれるなんて、米国み
たいなことは日本にはないですから。
要するに、一所懸命通じさせようと思って、限りない好奇心と、限りない熱意
と、限りない努力をすれば、相手も分かってくれて、相手なりに一所懸命になっ
てくれます。限りない好奇心と、限りない情熱と、限りない努力と、限りない
ネットワークが大事だと思います。
(取材・構成:編集部 田井宏和)
Vol.12 No.9 2016
11
特集
防災×産学連携
水素発生方式
重さ9kgのポータブル燃料電池
アクアフェアリー株式会社(京都市西京区)は、小型燃料電池に特化して開発を
してきたベンチャー企業だ。創業から 10 年、新しい水素発生方式を作り出して、
コンパクトで軽く、持続発電可能な燃料電池型の電源装置を完成させ、2016 年
1 月からの販売開始にこぎ着けた。
■停電復旧後に届いた非常用電源
2016 年 4 月 14 日 21 時 26 分、熊本県でマグニチュード 6.5 の大地震が発生
した。そして、28 時間後の 4 月 16 日 1 時 25 分、再び地震が発生した。2 度目
は最初の地震を超えるマグニチュード 7.3 だった。本震が後から発生するとは想
定外のことである。
この地震による家屋や道路などの損壊は大きく、停電の復旧には 3 日を要し
たが、送電線が相当な被害を受けた上での復旧を成し遂げた電力会社へ敬意を払
いたい。
実は震災当時、京都にあるアクアフェアリー株式会社(以下「当社」
)から被
災地にポータブル燃料電池システム「AFEFE30H」
(写真 1)の輸送を試みた。無償
で使ってもらおうとしたのである。しか
し、交通網の遮断などから、到着したのは
2 度目の地震発生から 4 日後だった。つま
り、停電が復旧した後だったのだ。このと
き、地震が起こってからではすでに遅く、
災害用に使うなら、各所での備蓄が重要で
あることを思い知らされた。まさに「備え
あれば憂いなし」である。
写真 1 ポータブル燃料電池システム
AF-EFE30H
■エンジン発電機の弱点を克服
現在、ポータブル発電機といえば、ガソリンやガスを燃料として発電するタイ
プのエンジン発電機が定番だが、ガソリンエンジン発電機は燃料がガソリンであ
るため、取り扱いには十分注意が必要である。2013 年 8 月 15 日、京都府福知
山市の花火大会で、露天商が発電機に給油しようとした際、気化したガソリンに
引火して引き起こされた爆発事故は記憶に新しいのではないか。発電機のエンジ
ンを停止せず、運転したままで給油をしたことが原因で、死亡者 3 人、重軽傷
59 人の大惨事につながった。エンジン発電機としては、カセットガスを使える
12
Vol.12 No.9 2016
石坂 整
いしざか ひとし
アクアフェアリー株式会社
取締役副社長 CTO
特集
ものも登場し、ガソリンほどは危険性がないことが優位点だが、可燃性燃料であ
ることに変わりはない。
非常用電源として、ガソリンやガスなどを燃料としたエンジン発電機を装備し
ている企業や自治体は多いが、意外に知られていないのがメンテナンスである。
月に 1 度はエンジンを駆動させないと、いざというときに始動が困難になる恐
れがある。その他、騒音、臭気、有毒な排ガスなどが問題となる場合もある。特
に一酸化炭素を排出する点は、適切な使用をしないと死亡事故につながることも
あり、室内での使用は大変危険な行為であることを十分知っておく必要がある。
それでは、非常用電源として、災害時に備えるべき電源はどういったものが良
いのだろうか? 残念ながら、オールマイティーな電源は今のところ存在してい
ない。高出力を求めると「エンジン発電機」が候補に挙がる。室内利用を考える
とバッテリータイプの電源となる。バッテリータイプ、すなわち充電池を利用し
た電源は、容量が少ないため、災害時の停電が長引けば役に立たなくなる。充電
するための商用電源が停止しているからである。
しかし、当社の燃料電池を搭載したポータブル電源(発電機というべきか)は、
エンジン発電機やバッテリータイプの電源の弱点を克服した。その主な特長は以
下のとおりである。
①室内で使用可能
②静かである
③二酸化炭素や有毒な排気ガスを出さない
④小型で軽量である(写真 2)
⑤燃料を交換すれば継続して発電できる
⑥数時間は高出力で運転できる
⑦ 20 年以上保管しても燃料が劣化しない
⑧使用する水は、水道水、ミネラル水、河川水、雨水、海水と種類を問わない
写真 2 女性でも持ち運ぶことが
可能
■水素を貯めずに電気を作る
ガ ソ リ ン や ガ ス を 使 用 し な い 当 社 の ポ ー タ ブ ル 燃 料 電 池 シ ス テ ム「AFEFE30H」は、その場で水素を発生させるという、技術的に重要な革新が必要な
水素発生方式を採用している。
燃料電池の原理は、水の電気分解の逆で、水素と酸素の化学反応で電気が発生
する現象である。酸素は空気中に存在しているが、水素は地表にほとんど存在し
ないため、準備する必要がある。従来は、この水素をボンベやタンクに圧縮し、
高圧で貯めていた。しかし、高圧のため容器を頑丈にする必要があり、必然的に
重く大きな容器になってしまう。
当社は、水素を「貯める」のではなく、必要なときに必要な量だけ「作る」こ
とに着眼し、水素発生方式の燃料電池を開発した。候補として、これまで 20 種
類以上の水素発生材料を検討し、水と反応し水素を発生させる物質を探した。金
属粒子や水素化金属などで実験を重ねた結果、水素化カルシウムという水素化金
属の一種である物質に到達した。水素化カルシウムを選んだ理由は、コントロー
Vol.12 No.9 2016
13
ルできる方法を見つけたからである。
水素化カルシウムは、通常、水と接触すると激しく反応する。低温でも高温で
も瞬間的に水素を放出してしまうため、そのままでは燃料電池に適用することは
難しい。ほとんどの水素発生材料は、低温では穏やかに反応するが、高温では暴
走し反応が激しくなってしまい、環境温度に影響されずに水素を放出できる材料
はまれである。しかし、水素化カルシウムはいつでも激しい反応を引き起こすの
で、「抑制」することだけを考えれば良い。抑制方法は、単純に水素化カルシウ
ムの粒子を熱硬化性樹脂で被覆することで実現した(図 1)
。水素化カルシウム
を樹脂でコーティングすることで、水との接触面積を小さくし、緩やかに反応さ
せることに成功したのである。コーティングといっても完全に覆っているわけで
はなく、多孔体になっているため、その穴から水が浸入できる。さらに水素化カ
ルシウムは、水と反応して水酸化カルシウムに化学変化するときに、膨張しなが
ら水素を放出する。このときの膨張が、材料にクラック(ひび割れ)を発生さ
せ、奥底までの導水路を確保するわけである。こうした現象により、樹脂コー
ティングされた水素化カルシウムは、最後まで反応することができる。すなわ
ち、100%の反応率を実現できる。このような水素発生方式を採用した燃料電池
は、とてもコンパクトで軽い。
図 1 水素発生剤の反応抑制方法
■総重量は約 9kg
ポータブル燃料電池システム「AF-EFE30H」は、本体の重量が 6.5kg、搭載
可能な燃料の電力容量は 1,200Wh である。燃料電池出力は 30W であるが、ハ
イブリッド電源として二次電池を内蔵しているため、最大出力は 100W が可能
である。つまり、持続的な発電は燃料電池が担い、瞬発力は内蔵二次電池が担当
する。原理は極めてシンプルである。水タンクから水を吸い上げて、燃料ボトル
に点滴のごとく少量ずつ注水する。水が接触した水素発生剤から水素が燃料電池
に送られ、発電を行う(図 2)。
燃料ボトルは 1 本 600Wh の容量を持ち、2 本搭載することができる。1 本ず
つ燃料を消費し、1 本目の燃料が終わると自動的に 2 本目から水素を取り出す仕
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特集
図 2 燃料電池システムの動作原理
組みである。2 本あるメリットは、1 本目の燃料が終わると 2 本目に自動的に切
り替わるが、その際に 1 本目を新しい燃料に交換すれば、発電を止めずに継続
して電力を得ることができる。燃料は 1 本当たり 800g 程度、必要な水の量は 1
リットルで 1,200Wh の電力を得ることができる。
燃料と水をフルで搭載したときの総重量は約 9kg となる。この容量で 10kg
を下回る電源は、今のところ類を見ない。例えばリチウムイオンバッテリーでは
20kg を超える。鉛蓄電池の場合は 30kg 以上となる。しかし、9kg であれば持
ち運ぶことも可能だ。
燃料ボトルは、出荷時はアルミパックが施されている。この状態であれば、保
管期間は 20 年以上。水素化カルシウムは常温で安定な材料のため、水との接触
を防止すれば半永久的に劣化しない。
■ 30W の消費電力機器で最短 40 時間、備蓄燃料で 2 週間
基本的な燃料電池の動作は、30W で出力し続けることである。外部に接続し
た負荷の大きさによって、内蔵二次電池の動作が決まる。例えば、外部負荷が
30W 以内の場合、燃料電池の出力が過剰になるため、余った電力は内蔵二次電
池に蓄電することになる。逆に 30W を超える場合には、燃料電池出力と内蔵二
次電池の放電出力を合わせて出力することになる。この場合は、内蔵二次電池の
電池残量は減っていくことになる。燃料電池の余剰電力を内蔵二次電池に充電し
続けると容量オーバーになってしまうので、その手前で給水を停止し、水素発生
にストップをかけ、燃料電池はスリープ状態になるように制御する。
逆に内蔵二次電池の容量が減り、設定された下限値に達すると、外部出力を停
止し、燃料電池の出力をすべて内蔵二次電池の充電に充てるようにする。そし
て、再開できる容量にまで充電が行われると外部出力を開始する。また、低消費
電力の負荷を接続した場合は、できるだけ内蔵二次電池だけで動作するように制
御し、燃料電池を動かすための電力をセーブするように動作する。このように内
蔵二次電池の容量を監視しながら、最適な出力方法を選択できる。
30W の消費電力の機器であれば、最短でも 40 時間駆動できる* 1。燃料を 15
本程度備蓄しておくことで 9kWh の電力を使うことができるため、災害時の電
* 1
燃料ボトルを 2 本装着した場
合の駆動時間
源として約 2 週間使用できることも心強い。
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15
■災害時以外の利用も
今回、開発したポータブル燃料電池システムは、災害時のための非常用電源の
側面が色濃く出ているが、前述した特長を再度見直してほしい。そこには、これ
までできなかったことを実現するためのヒントが隠されている。一例であるが、
屋外で計測を行う「地震計」の電源を考えてみる。地震計を設置する場所は、全
国各地さまざまな環境がある。高い山の中腹など、計器や電源を搬送するには難
しい場所も存在するだろう。これまで使われてきた鉛蓄電池では、重量が 30kg
にも達する。この重量物を、設置するときもバッテリー交換のときも、上り下り
ともに搬送しなければならない。しかし、ポータブル燃料電池システムの場合、
最初の設置には 9kg を搬送しなければならないが、燃料交換にはわずか 1.6kg の
荷物を運べばよいし、水は現地の沢から調達すればよい。帰りには、使用済みの
燃料 2kg( 使用すると消石灰になり少し重くなる ) を運んで、一般廃棄物として
処理すればよい。小型軽量を生かしたアプリケーションは屋外観測以外にも多く
ある。非常用だけではなく、常用でも多くの可能性を秘めた電源なのだ(図 3)
。
図 3 AF-EFE30H で使える機器の用途例
■エネルギーソリューションを目指して
燃料電池は、地球温暖化対策の「切り札」といわれている。家庭用燃料電池や
燃料電池自動車などが先行しているが、身近な電化製品を駆動する小型燃料電池
により、水素化社会が促進される。わが国は資源に乏しいため、エネルギー問題
の解決方法として、これからも水素利用を進める活動や水素を製造する技術開発
を続けていきたい。現在、京都大学の平尾研究室(平尾一之教授)と次世代水素
発生技術として、新しい固体水素源の取り組みを始めている。環境問題と資源問
題を解決する強力なリサイクル構造を持つ水素製造技術への挑戦である。
●参考文献
石坂整 , 永嶋浩二 , Heidy V. 受け継がれる革新技術! . 高圧タンクを必要とせず燃料電池が手軽に使える固体水
素源 . 京都科学技術イノベーション推進協議会 . 2016, p.6-8.
16
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特集
防災×産学連携
特集
「産学公金連携」で開発した非常用電源装置
東京都足立区の東京電源株式会社は 2014 年 11 月に東京ドームで開催された
「信金発!地域発見フェア」に小型の非常用電源装置を出展した。東京電源株式
会社と東京電機大学との産学連携の成果である。
■キャンパスの移転で
東京電源株式会社(代表取締役夏目孝之氏、写真 1)と東京電機大学(以下「本学」
)
との連携の始まりは 2012 年春にさかのぼる。同社は、1972 年設立の電源機器専
門メーカーで、電源の回路設計、製造を行ってきた。また、本学は東京神田キャン
パス(東京都千代田区)から東京千住キャンパス(東京都足立区)へ移転すること
鈴木 啓介
すずき けいすけ
東 京 電 機 大 学 CRC 産 官
学交流センター 産学連携
コーディネーター
が決まった 2009 年 9 月から、東京都足立区との「産学公連携」活動を開始した。
2012 年 4 月の東京千住キャンパスへの移転に前後して、パワーエレクトロニ
クスを専門とする、本学工学部電気電子工学科の枡川重男教授(写真 1)は、同
社の技術相談に乗り、以後、技術課題に対してその解決策を伝えるなどのサポー
トを行ってきた。また、本学が開催する講演会、技術勉強会、研究室見学会など
の催事に同社も参加していた。
足立区は 2012 年度から、区内中小企業などが大学などと共同研究をした場合
に、研究開発補助金で助成を行っている。足立成和信用金庫は、足立区に移転し
た本学を新たな核として、足立区と連携しながら地元産業の活性化を目指すた
め、2013 年 2 月に本学と産学連携に関する協定を締結した。信金の取引先が本
学と研究開発をした場合に、企業に補助金を支給している。
(左から)枡川教授、夏目代表取締役、新田技術課長
写真 1 非常用電源装置の開発者
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■開発計画を継続フォロー
本学は 2013 年に同社から非常用電源装置の開発について提案をいただき、同
年 8 月に共同研究契約を締結して、試作機の開発支援を始めた。同社は、足立
区の研究開発補助金および足立成和信用金庫の補助金を今回の試作機の開発に役
立てた。同社が試作機を開発するに当たり、枡川教授はその仕様決めと開発計画
に関わり、回路の設計、回路の動作確認を支援し、改良に立ち会い、同社が持っ
ていない知識や技術について継続してフォローしてきた。
開発した非常用電源装置は、非常時に電源を効率よく供給するためのインバー
ター装置である。電化製品は交流で動くものが多く、停電した際には、バッテ
リーなどから供給される直流を、交流に変換して利用することになる。従来の非
常用電源装置では、電化製品が動き出すまでに時間がかかったが、今回開発した
装置は瞬時に商用電源と同等の交流が供給される。また、回路の改良により、出
力段に変圧器が不要で、装置の小型軽量化を実現した。蓄電装置により、蓄えた
エネルギーを交流電源に効率よく変換できる。
■一般家庭でも
また、東日本大震災のような災害による停電が発生した際に、長時間使えてパ
ワーが大きく、かつ低価格で一般家庭でも使えるものを想定した。これに応える
ためには、バッテリーの電圧によるが、最大 10 数倍程度まで昇圧しなければな
らない。バッテリーなどの電源との感電を防ぐために、電源と負荷を絶縁するこ
とも求められた。そこで、入力した直流電圧を昇圧する DC-DC コンバーター
(直流 - 直流変換器)を組み込むことにした。しかし、DC-DC コンバーターは、
高周波スイッチング回路に高周波変圧器を用いるため、安定した回路動作や回路
損失の低減が課題となる。今回の開発では、これらの問題点の改善に取り組むこ
とで、非常用電源装置の開発に協力した(写真 2)
。
写真 2 開発した非常用電源装置
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Vol.12 No.9 2016
特集
震災などで停電した時の非常用電源として、また、電動車椅子のバッテリーへ
の充電など幅広い利用が可能である。蓄電された夜間電力を昼間の電力として利
用すれば、電力の有効利用に貢献できる。
■区や信金との産学交流会
本学が東京千住キャンパスに移転して 4 年が過ぎた。毎年、足立区と共催し
て講演会形式の「産学連携交流会 with 東京電機大学」や、夜間連続講座の技術
勉強会、本学研究室の見学会、および足立区内企業を訪問する工場見学会を複数
回行い、さらに足立成和信用金庫と共催した「産学公金交流展」を行ってきた。
また、特定の技術や経営課題に焦点を当てた産学連携セミナーも行っている。
一般に大学の持っている技術を企業などに移転する技術移転は、催事や大学の知
的財産の移転のほかに、個別の技術相談を介して行われている。本学の足立区で
の産学連携はコーディネーターが相談を受け、その内容に応じて教職員とコー
ディネーターが課題の解決に向けて知恵を絞る。教員は自分の研究内容をベース
に技術指導を行い、コーディネーターは、本学に専門の教員が見つからない場合
に、他の研究機関を案内したり、先行技術調査をしてコメントしている。企業か
らの技術相談は年々増加の傾向にある。技術相談から共同研究につながった一例
が、今回の東京電源株式会社との非常用電源装置の開発になる。技術相談は本学
に連絡を受けて行う受動型が多いが、金融機関の取引先を訪問し、技術課題をヒ
アリングして回る能動型も始めている。
■今後の取り組み
技術課題の解決には広く数理科学の視点を加えた指導も行って、相談者に発想
の転換を促すような、新しい解決策を提案できるようにしていきたい。自社の仕
事については相談者が一番よく知っている。専門教員から、さらにその分野の新
しい技術を伝えて相談に応じてきた。しかし、まったく別の視点に立った解決策
もあり得るのではないか。他の異分野の現象との類似についても興味を持ってい
ただけたらありがたい。
また、金融機関に技術の目利きができる人材がいると助かる。既に持っている
企業業績の目利き力に、個々の取引先企業の技術的立ち位置、優位性、特長を見
極められる技術の目利き力を重ねて、より確度の高い支援をお願いしたい。一般
に技術の目利きは、金融機関職員の得意としないところだと思う。初動では大学
側の専門職のサポートが欠かせない。
特許権を得ている技術は言うまでもなく、審査請求した結果拒絶査定となった
技術、審査請求せずに公開のみで終了とした技術、そして特許出願していない技
術も、それぞれの技術をノウハウも含めて技術移転することは可能であり、よい
研究成果は特許に限らずに価値があると思う。これからも、大学の研究は機会が
ある限り発信していきたい。
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特集
防災×産学連携
地震の揺れから貯水槽を守る
浮体式波動抑制装置
「タンクセイバー・波平さん ®」
■社会の要望に応えて
「タンクセイバー・波平さん ®」の研究・開発は、最近の地震災害発生の歴史
とともに歩んできたと言っても過言ではない。
わが国では 1995 年の阪神・淡路大震災のころから、おおむね 4 ~ 5 年ごと
に大きな被害をもたらす大地震が発生している。建築物や土木構造物本体は、阪
神・淡路大震災の教訓を生かして、耐震設計基準などの見直しにより耐震性向上
が図られてきた。しかし、地震発生ごとに災害調査を行う過程で、2016 年 4 月
に発生した熊本地震まで、毎回のように貯水槽の破損・破壊を見るに至っている。
貯水槽は、病院や学校など、いざというときに避難場所などになる施設に必ず設
平野 廣和
ひらの ひろかず
中央大学 総合政策学部
教授
置されており、ライフラインとして重要な構造物の一つである。水が使えなけれ
ば被災地域全体に大きな影響を及ぼすことになる。そこで、既存の貯水槽の耐震
性向上を図る一つの方法として、大学を中核として異業種間での産学連携を組織
し、制振装置の研究・開発を行ってきた。
容器内の液体が外部から比較的
長周期な振動によって揺動する
こと。
2003 年 9 月の北海道十勝沖地震(マグニチュード(M)8.0)により、苫小
牧地区ではやや長周期地震動
周期が 2 ~ 5 秒のゆっくりと
した揺れ。東日本大震災では震
源から遠く離れた首都圏でも長
時間続いた。
* 2
■地震被害を学びながら
*1
* 1
によりスロッシング現象
*2
が発生し、7 基の円
筒形石油貯蔵タンクの浮屋根が沈没し、2 基の石油タンクで全面火災となった。
この原因となったスロッシング現象の把握、さらには浮屋根にバッファーと呼ば
れるゴム製の制振装置の開発を、素材メーカーの株式会社十川ゴム
(大阪市西区)
と産学連携で始めたのが研究のスタートである** 1。
** 1
井田剛史 , 平野廣和 , 有田新平 ,
佐藤尚次 , 奥村哲夫 . スロッシ
ング発生時の貯槽浮屋根挙動の
一 考 察 - φ 4000 タ ン ク モ デ
ルでの振動実験- . 土木学会論
文集 A. 2007, vol. 63, no. 3,
p. 444-453.
** 2
2007 年 7 月に発生した新潟県中越沖地震(M6.8)で、東京電力株式会社・
柏崎刈羽原子力発電所内の使用済み核燃料貯蔵プール水が、オペレーティングフ
ロア(管理区域)の全域にわたり溢れ出した。この原因を知るための基礎実験と
遠田豊 , 井田剛史 , 平野廣和 ,
佐藤尚次 . 矩形断面容器におい
て加振方向角を変化させた場合
のスロッシング現象 . 土木学会
論文集 A2(応用力学). 2012,
vol.68, no.2. p. I_637-I_644.
して、このプールを約 20 分の 1 に縮小したもの
に相当する矩形(長方形)断面容器を用いて、ス
ロッシングの振動実験を始めた(写真 1)
。スロッ
シング対策案として、金網を容器内中心部に設置
することで起振中の波高を抑制することができ、
かつ減衰も大幅に増大することを確認した** 2。
この研究の実施途中の 2011 年 3 月に東日本
大震災(M9.0)が発生した。写真 2 に示すよう
に、被災地域内の上水道配水施設で繊維強化プラ
20
Vol.12 No.9 2016
対策なし
制振対策あり
写真 1 矩形断面容器(プールの 1/20 の縮尺)
特集
スチック製(以下「FRP 製」
)
、ステンレス
パネル製(以下「SUS 製」
)の矩形貯水槽の
破損、破壊被害が多数報告されるに至った。
この原因も、容器内の液体が外部からのや
や長周期の地震動によって揺動するスロッ
シング現象と考えられている。なお、2016
年 4 月の熊本地震においても熊本市を中心
SUS 製貯水槽
FRP 製貯水槽
写真 2 東日本大震災での被害(宮城県名取市内)
として阿蘇市、別府市に至る地域で FRP 製、
SUS 製で同様な被害が多数発生している。
■偶然の出会いから研究進展
東日本大震災の被害調査は、使用済み核燃料貯蔵プールや石油貯蔵タンクなど
に主眼を置いて行っており、貯水槽に関しては調査対象外であった。そこに今ま
で面識のなかった鋼製一体型貯水槽メーカーの株式会社エヌ・ワイ・ケイ(東京
都中央区)から、「新聞記事** 3 を見た」とのことで初めて電話が入った。最新
の基準で設計・製作されていた FRP 製や SUS 製の貯水槽が各所で壊れているの
** 3
波や揺れをローテクで制御-中
央大、光るアイディア . 日刊工
業新聞,2011 年 9 月 30 日 .
で、今までの研究成果** 2 を貯水槽の耐震性向上に生かせるのではないかとの問
い合わせであった。さらに、補修工事用に予備として所有している実物の SUS
製タンク(3m × 3m × 3m)を振動実験用に提供してくれることになった。
なお、その後の仙台市内の公立小中学校に限定した調査では、196 校の 32%
に当たる 62 校で貯水槽の破損被害が発生し、そのうち 11 校では完全に破壊さ
れていた。
これを受けて、中央大学を中核として十川ゴム、エヌ・ワイ・ケイの異業種が
手を組んで産学連携研究グループを構成し、研究・開発に取り組むことになった。
既存の貯水槽の耐震性向上を目指し、素材メーカーの経済性と衛生面へのノウハ
ウ、貯水槽メーカーの施工に関するノウハウを融合させて、新たな制振装置の研
究・開発を行うことになった。
併せて「A-STEP(シーズ顕在化タイプ)
」* 3 に申請を行い 2012 年に採択、
また 2013 年には科学研究費助成事業(科研費)
*4
に採択されるに至った。
この研究資金を使い貯水槽破壊の原因の究明と今後の対応、既存の貯水槽の耐
震性向上のための制振装置開発プロジェクトを進めてきた。具体的には小型模型
から実物大の貯水槽を使って大型振動台での振動実験を行い、成果を社会に還元
するために制振装置の研究・開発を行った。
■それぞれの強みを生かし既存貯水槽の耐震性向上
各種の制振装置を考案して振動実験を繰り返し行った結果、既存の貯水槽の耐震
性の向上には、従来行われている外壁パネルの補強ではなく、貯水槽内部に 8 の字
形パネルを組み立てる方式での貯水槽用浮体式波動抑制装置「タンクセイバー・波
平さん ®」* 5 を設置することが最良の方法であることが明らかになった(写真 3)
。
* 3
独立行政法人科学技術振興機構
(JST)A-STEP(シーズ顕在化
タイプ)「スロッシングによる
矩形受水槽の被害メカニズム
の解明とその減衰対策の研究」
2012 年度。
* 4
独立行政法人日本学術振興会
科 研 費・ 基 盤 研 究(B)( 研 究
代表者:平野廣和)
:スロッシ
ングで被害を受けた貯水槽の原
因究明とその制振対策に関する
研究、課題番号:25289140、
2013 ~ 2015 年度。
* 5
スロッシング制振方法及び制振
装 置( 特 願 2012-174163)
。
平 野 廣 和、 井 田 剛 史、 連 重
俊、石川友樹、( 学 ) 中央大学、
( 株 ) 十川ゴム、( 株 ) エヌ・ワ
イ・ケイ。
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21
この制振メカニズムは、液体が制振装置のス
リットを通過するときに抵抗力が生じ、水の粘性
が見掛け上大きくなることを利用したものである
(図 1)。これにより減衰が付加され、流速を抑え
て波高を低減することができる。
この制振装置は、柔軟性のある耐塩素性を有
する特殊ポリエチレン樹脂で成型した板状のダン
パー部材と、8 の字を組むための接続部材で構成されている。これを 8 の字状に
曲げてステンレス製ボルトで接合し、現地で製作・設置する。これらを貯水槽外
部で組み立てた後、直径 600mm 程度の点検用のマンホールから水槽内部へ直接
入れる。これはこの材料の一つの特性である柔軟性ゆえにできることであり、水
槽内部での作業を極力なくす工夫がなされている。この施工方法の場合、30t ク
ラスのタンクでもダンパーパネルを内寸に応じて自在に曲げ、連結部位をボルト
写真 3 8 の字形パネルの浮体式波動
抑制装置「タンクセイバー・
波平さん ®」
で固定するだけなので、施工時間が 30 分程度と
短時間で完了する。
中央部で
流速最大
中央部の
流速を低減
この材料の比重は 0.9 で、水を入れると水面付
波高
近に浮揚する。これまでの研究で、スロッシング
現象は水面付近の流体運動が支配的となることが
分かっているので、スロッシングを効果的に抑制
し、かつ受水槽の水深変化にも対応可能となって
いる。なお、本制振装置は、現状の貯水槽設計基
準で考慮されていないバルジング現象* 6 にも効
果があることが分かっている。
波高
WL
波の動き
WL
動液圧
の増加
タンクが変形
(破損も?)
制振装置なし
波の動き
制振装置
液動を
抑制
タンクに発生する
荷重を低減
制振あり
図 1 制振装置の有無での違い
■命の水を守るために
*6
首都圏では、南海トラフで発生するかもしれない巨大地震の直接的影響を受け
タンクの側板が液体と接して
振動する、流体と構造の連成
振動。
ることは少ないと考えていないだろうか。しかし、長周期地震動の影響により、
遠くで発生した地震でも被害を受ける可能性は大である。また、直下型地震であ
る熊本地震でも熊本市を中心に阿蘇地方、別府に至るまで揺れが観測されている。
ライフラインとして重要な構造物の一つである貯水槽が
被害を受けて水が使えなくなれば、被災地域全体に大き
な影響を及ぼすことになる。そこで、既存の貯水槽にス
ロッシングやバルジング現象が発生しないような制振対
策を施すことが必要であり、これが命の水を守るための
「減災」につながることになる。
産学連携で生まれた本制振装置は、最大波高を 3 分
の 1 程度まで抑え、かつ地震によるタンクへの負荷を
半減することを可能とした。なお、本制振装置は 2014
年 8 月の初施工(写真 4)以来、全国で 40 カ所以上の
施工実績を既に有している。
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写真 4 初施工の貯水槽(2014 年 8 月 神奈川県横須賀市)
インターネットで遠隔操作
遠心バレル研磨機
バレル研磨とは、研磨したい物と研磨剤などを研磨槽(バレル)内に入れ、回転・
振動などにより研磨する方法だ。研磨機をインターネットにつなぐ技術のない宇
治電化学工業株式会社が、高知情報ビジネス&フード専門学校学生の協力により
新研磨機を開発した。
齊藤 雄也
■高性能乾式遠心研磨機開発の経緯
さいとう ゆうや
宇治電化学工業株式会社(以下「宇治電」)は、研磨材製造メーカーとして、
研磨材の活用方法や新たな研磨手法などのノウハウを得て、それを顧客の製品に
反映するために研磨機械などの開発に努め、新たな市場環境に適応してきた。
1950 年には、世界で初めて人造エメリー* 1 の製造に成功し、以来半世紀にわ
たり、国内外において「トサエメリーエキストラ」の名で広く使用されている。
この間、多様化する研磨ニーズに応えるべく、バレル研磨機、バレル研磨機用研
磨材などの製造・販売を行ってきた研磨総合メーカーである。
宇治電化学工業株式会社
製造部技術課
*1
アルミナ質鉱石を電気炉で
溶融還元し、凝固させた灰
黒色の塊を粉砕整粒したも
ので、コランダム結晶およ
びムライト結晶その他から
なる。
高速乾式遠心バレル研磨機は、さまざまな顧客の要望に
対応してきた結果、事業の柱の一つに成長し、一定の評価
を得られるようになった。加工部品のバリ取り(材料を
公転
バレル旋回方向
バレルの任意の頂点
旋回軌道
切ったり削ったりした際に材料の角にできる出っ張り「バ
旋回半径
リ」を取り除くこと)や表面仕上げは完成品に不可欠な工
自転
程であり、バレル研磨は自動車や航空産業・医療機器をは
じめとする多くの業種業界で導入されている(図 1)
。
近年、技術の先端化に対応する鏡面加工や難削材への対
応、競争環境の質的変化により、QCD * 2 全般でさまざまな
流動方向
難削材への対応、研磨時間短縮や 24 時間稼動といった要望
が顧客より寄せられ、それらの要望に応えるため、インター
ネットに接続した高性能遠心研磨システムの開発に至った。
図 1 高速遠心バレルの原理と内容物の状態
■未来を切り開くため、自ら考え行動する~夢と志~
搭載機能抽出については、同じ「夢」と「志」を持つ者同士で繰り返し議論を
重ね、さらに現状把握や分析を行い、どうすれば顧客に納得してもらえるかを検
*2
QCD と は、 ビ ジ ネ ス で 重
要な要素をあげた標語の一
つ で、“Quality”( 品 質 )、
“Cost”
(費用)、“Delivery”
(納期)の頭文字をつないだ
もの。
証し具現化していった。
開発ビジョンは、①研磨効率のアップ、研磨領域の拡大、②遠隔操作や遠隔
制御、③予防遠隔保全(研磨機の見える化)
、④デザイン性の向上、⑤インラ
イン化、そしてそれらを全て兼ね備えた自動研磨システムである(今回製作の
Smart CUBES では開発ビジョンの①~④までの一部のみ搭載)
。しかし、これ
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23
らを具現化していく上で幾つかの課題が浮き彫りとなった。
最も困難な課題は、研磨機をインターネットにつなぐ必要があり、宇治電には
情報通信分野のノウハウが無い。宇治電のものづくりの考え方は、
「自分たちの
手で作っていくことで技術領域の拡大につなげ、困難なことでも知恵と工夫で乗
り切る」というものであり、それこそが技術開発には欠かせない「人財育成」で
あるため、なんとか自分たちでできる解決方法を探すこととなった。
■産学官連携、高知情報ビジネス&フード専門学校生の実力
まず、高知県産学官民センター(ココプラ)などに協力依頼をし、
「IoT 化」が
重要というところまではたどり着いたが、それを具現化するには宇治電で保有す
る技術では対応できない。そこで、以前から取り入れていた「協働型のインター
ンシップ」を活用することで技術取得を狙うことになった。若い力の無限の可能
性、外部研究機関の専門性は非常に魅力的である。学生にとっても社会の実践体
験や進路の方向性確認もできる。さらに雇用も踏まえた技術の習得にもつながる
など県内での産業育成効果も期待でき、三方よしである。
インターンシップを公募した結果、高知県高知市の高知情報ビジネス&フード
専門学校と共同開発することとなった(写真 1)
。当初は、得られる結果に対し
て過大な期待はせず、
「きっかけになれば」という考えだった。しかし学生との
協働による研究は、開発スピード、解決力の素晴らしさを目の当たりにし、実現
の可能性を認識した。
開発は継続的に学生の協力を得、資金面では高知県のものづくり産業強化事業
費補助金制度の試作開発準備事業・試作開発事業に採択され、その補助金を利用
しながら、インターネット接続型高性能乾式遠心研磨試作機「Smart CUBES」
(写真 2)の開発の第 1 段に至った。
写真 1 インターンシップで開発中の高知情報ビジネス&フード専門学校生
■ IoT で一元管理、デザインにも凝った遠心バレル研磨機
「Smart CUBES」
蓄積した研磨ノウハウを進化させ、今まで困難だった難削材加工や、超平滑・
超鏡面処理が可能となった。また、パネルコンピューターを搭載し、インター
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ネット接続にも対応する。異常やメンテナンス時期の早期把握、稼働データの一
元管理を可能にし、生産性と安全性を向上させた新しいコンセプトマシンである。
高速可変式
・最高回転数が 2 倍
・バレル槽の公転と自転の組み合わせの幅を広げ、さらに自由に変速可能
パ ネ ル コ ン ピ ュ ー タ ー 搭 載・
制御による IoT 化
・センサー付属で「研磨機の
見える化」による、遠隔操
作、予防保全、遠隔保全、
安全の強化
・研 磨加工をもっと面白く、
楽しく、美しいものにする
ために、すべてにおいてデ
ザイン性を向上
写真 2 従来の研磨機(左)と「Smart CUBES」(右)
ターゲット
・自動車や航空・医療機器をはじめとする高精度な加工が必要とされる高付加
価値分野や成長分野
市場
・良質でムラの無い高度に安定した研磨仕上げを必要とする企業
・手仕上げや手磨きからバレル研磨に移行することで生産性の向上を検討して
いる企業
・合金や樹脂系など、従来の技術では研磨できなかった素材分野への新規開拓
・新素材を実用化、もしくは実用化予定をしている先進企業
・現在の使用しているバレルに不満や限界を感じている企業
■目指すところ
研磨の本場であるヨーロッパで、先進国を中心とする海外市場の開拓とシェ
ア獲得を目指し、ドイツの世界最大の研磨専門の国際見本市「GrindTec2018」
への出展を予定している。また「自動研磨システム」を目指し、今後の応用で多
様なソフトなどを組み込み、機械そのものの使い勝手や安全性、信頼性をさらに
高めたい。
今後も産学官の連携を強化し、IoT・IoE 拡充やシステム構築などを含めた研
磨機の価値向上に向け、さらに技術開発を進め、これからの研磨の可能性を磨き
追及することで地域・社会の発展に貢献していきたい。
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藤田保健衛生大学
分野の壁を乗り越えて誕生した
リハビリロボット
リハビリテーションロボットは、自立支援型、練習支援型、介護支援型、認知・
情緒支援型の 4 種類に大別すると分かりやすい。どれもリハビリ医療では重要分
野だ。藤田保健衛生大学(愛知県豊明市)では、医工連携プロジェクトとして、
2007 年からトヨタ自動車と共同で、自立・練習支援のためのリハビリロボを開
発してきた。開発議論の場では、医学と工学という異なる分野の壁が何度も立ち
はだかった。それを越えられたのは工学部出身医師らによる「通訳」と、双方の
たゆまぬ議論のキャッチボールだった。
■状態に合わせて加減する、歩行練習アシスト「GEAR(ギア)」
上下肢の運動麻痺(まひ)、いわゆる半身不随の状態にある脳卒中片(かた)
麻痺患者の歩行練習には、股関節から足先に装着する下肢装具を用いることが多
かった。一般的に装具と呼ばれるものには、モーターがついていないの
で、足の振り出しが困難なもの、膝折れの危険があるものなど、種類に
よってそれぞれ問題があった。
歩行練習アシスト「GEAR(ギア)」
(写真 1)は、長下肢部分の膝関
節モーターが、適切なタイミングで関節を曲げたり伸ばしたりしてくれ
る。脚部装着部分をつり上げる機能を備え、練習者に掛かるロボットの
重量負荷を低減し、回復の度合いに合わせて、ロボットからのアシスト
量の変更が可能だ。関節の角度などの歩行データをモニタリングし、歩
行の状態を音や画像で、練習者にリアルタイムで知らせることができる
ようになった。膝を曲げたり伸ばしたりする歩行練習では、膝を伸ばす
と、最初は 100% の力で支える。患者の膝を伸ばす状態が良くなれば
80、70% と、ロボットが支える力は落ちていく。最終的には、数%の
小さな支えで伸ばせるようにする。膝の伸展力の状態が向上すれば、そ
の分、ロボットは手を引き、難易度を規定し、より難しい課題に取り組
める。この調節機能が「GEAR」のすごいところだ。
写真 1 歩行練習アシスト「GEAR(ギア)」
■ゲームの点数が回復度の目安、
バランス練習アシスト「BEAR(ベア)」
高齢者などが転倒し骨折すると、悪くすれば要介護状態とな
る。バランス確保が不自由で、平衡障害のある人には、バラン
ス能力改善による転倒予防の意義は大きい。
バランス練習アシスト「BEAR(ベア)
」
(写真 2)は、立ち
乗りで、しかもゲーム感覚で飽きずに楽しくリハビリを継続で
きるように開発された。練習者の前後・左右の体重移動(体重
をかけた方向に移動)が、モニターに映るキャラクターと連動
し、ロボットの動きを通じて重心位置がフィードバックされ練
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写真 2 バランス練習アシスト「BEAR(ベア)」
習者の学習効果が高い。
これまで、バランス障害などのリハビリテーションでは、片
脚立位、継ぎ足歩行、バランスボードなどが行われてきたが、
簡単過ぎるか、難し過ぎるかの両極端で、適切なバランス練習
方法がなかった。動きが少なく、退屈でつまらないため継続し
にくいという問題もあった。
「BEAR」は、モニターに映し出されるゲームを見ながら練習
できるので、患者からは楽しく飽きないという意見が多い。搭
載されたゲーム(写真 3)は 3 種類。テニスは前後、スキーは左
右、ロデオは重心保持を目的とし、この 3 種類のゲームを併用
してレベル 1 から開始する。個々の状態に適合する自動調節機
能と、モチベーション維持機能が画期的で、患者のバランス能
力が向上すると、ゲームでは良い点数が取れるようになる。す
写真 3 「BEAR(ベア)」に搭載されたスキーゲームは、
左右のバランスを練習する
ると、自動的にゲームの難易度が上がり難しくなる。本人のバランス能力に見
合った難易度のゲームで練習を継続できる。
■パワーアシストで歩かせたい
脊髄損傷や脊髄の疾患によって、両下肢の運動麻痺で随意運動ができない状態
にある対麻痺(ついまひ)患者さんを何とか歩かせたい――藤田保健衛生大学医
学部リハビリテーション医学 I 講座の才藤栄一教授が、同大学に着任する前から
取り組んでいたテーマだった。 通常、下半身麻痺になると、移動手段は車椅子を使用する。練習としては装具
歩行が行われるが、起立と平地歩行を快適に実現する力源がなく、歩行時の上肢
負担が大きい。そこで、装具の股関節、膝関節、足関節にモーターを付けて動か
した方がいいのではないかという思いに至った。パワーアシストである。
他の大学の工学部と連携して検討を進めていたとき、自動車部品メーカーのア
スカ株式会社(愛知県刈谷市)と出会い、NEDO(国立研究開発法人新エネル
ギー・産業技術総合開発機構)から支援を受け開発を進めた。
開発初期では、装具に単にモーターを付けたような構成で、これは「WPAL
(ウーパル)」のプロトタイプとなった。そこから改良を重ね、装具部分も設計し
直し、現在の「WPAL」となった。
2013 年から、研究用として発売された「WPAL-G」は 6 代目に当たるが、
その実績を知ったトヨタ自動車株式会社(愛知県豊田市)から、藤田保健衛生大
学に連絡があった。そこから、歩行練習アシスト「GEAR(ギア)
」
、バランス練
習アシスト「BEAR(ベア)
」の開発が始まった。
■医学と工学、専門用語の壁
共同開発現場での議論の最初の難関は、言葉の壁だった。医学用語とエンジニ
ア用語が飛び交い、互いが理解できず、さっぱり合点がいかない。当然のこと
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ではあるが、トヨタ側は、製品化の可能性のある自社の技術や、ノ
ウハウを最優先で生かしたいなど、シーズ思考が根強くなる。それ
に対して大学側は、治療に必要な機能を追及するあまり、過剰だと
か、肝心な機能がないとか、無駄な機能だと思ってしまう。
「私たち
は、患者さんが使うものだから、患者さんに迷惑をかけられない。だ
から譲れない部分は多いわけです。患者さんがけがをするかもしれな
いとか、症状改善につながらないものは絶対に駄目なんです」と同
大学医学部リハビリテーション医学 I 講座の平野哲講師(写真 4)は
言う。関係者からは、「実現不可能ではないか」という声が出ること
もあった。互いが違うところにボールを投げ込むようなこともあっ
たが、繰り返し意見を交わすうち、徐々に双方の専門用語を理解す
るまでになり、歩み寄っていった。3 年がかりで、知恵を出し合った
結果「医療のものづくり」に対し、トヨタ側も患者に近い目線になっていった。
その影には、医療はもちろんのこと、デザイン制御工学にも詳しい才藤教授の
存在が大きい。また平野氏は、医学を志す以前に機械工学を学び、民間企業でエ
ンジニアの経験があった。同大学医療科学部リハビリテーション学科の田辺茂雄
准教授も、理学療法士免許を持ちながら、工学博士でもある。医学と工学の専門
用語を理解する二人によって、学内の意見をまとめ、共同開発相手のトヨタとの
間を取りまとめ、問題修正を実現できたといえる。工学を知らなければ、医療側
の要求だけを主張していたかもしれない。
■効果と課題と展望
障害状態が固定している人を楽に歩かせるための自立歩行支援(自立支援)の
ロボットでは、安全性に加え、装着性や防水性などの現実因子が重要である。ま
た、片麻痺患者と対麻痺患者では、必要とする補助が全く異なるため、ロボット
に求められる機能も異なる。
歩行練習を始めたばかりの人が使う歩行練習支援ロボットを使用する際には、患
者の障害に応じてロボットを選び、適切な練習課題を提供することが重要である。
ロボットはパラメーターが多く、設定が難しいことがあるため、今後は自動で
パラメーターを調整するなど、操作者を支援する機能が必要になるだろう。安
全性に加え、軽量性、防水性など、現実因子が高い実生活での利用を目指して
いく。
現在、全国 34 以上の病院やリハビリ施設で、40 セット以上が使用されて
いる。臨床研究モデルとして検証を行い、早期実用化に向けて開発を加速する構
えだ。
(取材・構成:本誌編集長 山口泰博)
藤田保健衛生大学病院(愛知県豊明市)
病床数 1,435 床(一般:1,384 床 精神:51 床)と 25 の診療科から成る巨大病院。院内敷地内には、
コンビニエンスストアや書店、郵便局、理容室なども。手術支援ロボット「ダヴィンチ」の導入や、経カ
テーテル大動脈弁留置術(TAVI)
、ふん便移植(FMT)など先端医療にも積極的。
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写真 4 平野哲講師
富士ゼロックス×青山学院大学(青学ハイコン)
大学生が参加する IoT 人材育成プログラム
■教育の質の向上を目指して
富士ゼロックス株式会社(以下「同社」)の産学連携は、社会課題からのバッ
クキャスト型の取り組みに力を入れている。世界的な競争力を持つ人材育成に
は、大学が限られたリソースで教育の質を上げ、その効果を高める必要がある。
このような課題に対し、山梨大学と同社が交差した結果、アクティブラーニング
を推進するために「反転授業」を使った共同研究が生まれた。
「反転授業」では、これまでの「教室で授業を行い、演習を宿題にする」学習法
とは反対に、学生が事前に授業内容を主体的に学習し、授業で演習を行う。この
「反転授業」を円滑に実施するために、同社が持つ「音声同期スクリーンキャプ
チャ」による、静止画と音声を組み合わせた紙芝居のようなコンテンツを簡単に
作成する技術を応用した。大きな機材もデータ容量も必要なく、インターネット
配信が可能で、教員はスライドに合わせて音声を吹き込むだけでいいので、教員
の負担も小さい。この授業にした結果、2012 年の後期で 4 科目あった講義数が、
2013 年には 8 科目に拡大。中間試験の平均点が 63.5 点から 86.4 点へと大幅に
上昇し、これらの成果を受けて、現在は全学展開を進めている。山梨大学では、
「反転授業」によって学生の理解度が高まり、大きな教育の革新につながった。
■プロデュースできる人材を育成
青山学院ヒューマン・イノベーション・コンサルティング株式会社(以下「青
学ハイコン」
)は、青山学院大学と教員有志の出資で共同設立された、次世代の
グローバルリーダー育成機関である。また、大学での産学官共同研究により蓄積
された人材開発に関わる技術やノウハウを基に、次世代経営や国際社会でのリー
ダーとして活躍できる人材開発や事業イノベーションの実現を目指し、産学官連
携や地域コミュニティーづくりに関する共同研究、共同事業の推進、それらを担
う人材育成など、さまざまな取り組みを実践する産学連携推進機関でもある。
青山学院大学経営学部教授で青学ハイコン代表取締役の玉木欽也氏(写真 1)
の下、日本の将来に向けて「製品ライフサイクルマネジメント(PLM:Product
Lifecycle Management)
」をプロデュースできる人
材を育成することを目的に、2014 年「グローバル
PLM 戦略研究会」
(以下「PLM 研究会」
)を立ち上
げ、 従 来 の MBA( 経 営 学 修 士 ) や MOT( 技 術 経
営)、さらに国際経営の学術領域を超えた人材育成プ
ログラムの研究開発など、産学連携活動に取り組んで
きた。2015 年からは、「モノ(製品)」中心の事業構
想・発想・構想から脱却し、日本の産業界では弱い
写真 1 玉木欽也教授
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とされるグローバル製品戦略、サービス戦略、ICT(情報通信技術)戦略をプロ
デュースできる人材育成「グローバル PSLM(Product and Service Lifecycle
Management)戦略研究」に変更し、グループ 1 をビジネスモデル、グループ
2 をマーケティングセンシング、グループ 3 を製品サービス開発、グループ 4
をスマートファクトリーなどとグループ編成した。
■ドライブレコーダーで IoT 人材育成プログラム
当時、富士ゼロックス株式会社の商品開発本部兼中
央営業事業部 BT 営業部に所属し、産学連携にも積極
的に取り組んでいた小野好之氏(現在は青葉電子株式
会社などのベンチャー企業で顧問をしている)
(写真 2)
は、青学ハイコンの「PLM 研究会」のテーマに関心が
あり、グループ 2 に所属し、研究に参加していた。そ
こで、日本の「モノづくり」を支える産学連携で教育
プログラムを作ることを目的に、全体を俯瞰(ふかん)
写真 2 小野好之氏
できるプロデュサー人材が必要だという意見をリー
ダーとして取りまとめ、製品サービスの開発やビジネスモデルを模索していた。
次世代のモノづくりで、マーケィングから技術まで分かるプロデュサーを育成
するにはどうしたらいいかをテーマにグループディスカッションを実施していた
ところ、単なる知識だけではなく、実務能力が必要ではないか、そのためにはア
クティブラーニングが必要だから、実際にやってみようということになった。そ
れが「IoT で人材育成プログラム」である。
そこで、IoT 人材育成のプロトタイプを実際に作ってみようと、玉木氏の協力
の下、
「青学」の学生に参加を呼び掛け、ドライブレコーダーを製作する体験学
習を行った。参加は無料なので、経費節約のため、機材は 5 人で 1 セット、仕
事柄、通信機器に詳しい小野氏が秋葉原で買い集めてきた教材を使用した。集
まったのは文系の学生だったが、身近なドライブレコーダーを自分たちで作る楽
しさを知り、評価も上々だったので、この試みをもっと広げていけないかと青学
ハイコンなどが主催するセミナーでも実施した。この面白い研究活動に対し、日
本電子専門学校から「うちでも実施してほしい」と依頼があり、IoT による人材
育成プログラムは広がりを見せていった。
「IoT のいいところは、ソフトとエレキとメカが全部体験でき、教材としては
いい。座学が半分、実際に作るが半分のプログラム。1 人で始めるには難しいか
ら、みんなでやってみる。すると学生は面白がってくれる」と小野氏。サーバー
やソフトを学ぶ日本電子専門学校の学生はコンデンサーなどに触れたことがない
からか、大きな反響があり、手応えを感じている。
プログラムの構成概要は次のとおりである。
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Vol.12 No.9 2016
プログラムの構成概要
超音波センサーで前方の障害物との
距離を測定する
①前半の座学で、IoT の全体像と意義を理解
加速度センサーで急ブレーキや急転
回といった異常な車の動きを検知する
②事例紹介で、関心と取り組み意欲を喚起
GPSを使って位置を計測する
③製作実習(図 1)で楽しさを実感
前方の映像もしく画像を撮影する
測定したデータ、画像•映像をログと
して記録する
【製作実習の流れ】
スマートフォンなどの外部機器から
ログデータがダウンロードできるよ
IoT ガジェット製作は料理と同じ
うにする
a. 材料と道具の説明(図 2、3)
図 1 製作実習の流れ
b. 調理場となる作業場作成(図 4)
c. L チカ(LED を点滅させる)にトライ
d. 温度センサーで温度測定
応用:ドライブレコーダー作成(写真 3、4)
①超音波センサーで前方の障害物との距離を測定
②加速センサーで急ブレーキや急転回などの異常
な車の動きを検知
③GPS で位置計測
図 2 使用する機材
④前方の映像や画像を撮影
⑤測定したデータや映像や画像をログとして記録
⑥スマートフォンなどの外部機器からログデータ
をダウンロード可能にする
⑦製作したドライブレコーダーを車に載せて走行
テスト
⑧GPS 計 測 デ ー タ を Google Map に プ ロ ッ ト
する
■アクティブラーニングの効果と期待
Arduino IDE
Arduinoのプログラム(スケッチと呼ぶ)
専用の統合開発環境
コーディング、コンパイル、アップロード
の作業がこれ一つでできる
HPから無償でダウンロードできる
プログラム言語はC++(一部方言あり)
IDLE
Rasberry PiのプログラミングにはPython
を使用する
PythonはGoogleでも使用している
IDLEはPythonの統合開発環境
PythonとIDLEはオープンソースで
Linux、Mac OSには標準装備
図 3 開発環境の説明
アクティブラーニングでは、教員による一方的な
講義形式とは異なり、学習者の能動的な参加を取り
入れる認知的能力、倫理的能力、社会的能力、教
養、知識、経験を含めた汎用(はんよう)的能力の
育成を行う。狙いは、興味や関心の喚起、体感、そ
して経験による知識習得、仕組み・からくりの理解
や達成感である。取り組みの大前提は、初心者でも
できること、グループワークと企業メンバーによる
Raspberry Piの開発環境
Arduinoの開発環境
メンタリングである。
「またやってみたい」とか、
モニターにはRaspberry Piの画面
ArduinoはUIを持っていない
が映し出されている
Mac上に見えているのはArduino
LinuxのPCでPythonの開発をする
IDEのウィンドウ
のと基本的には同じ
コンパイル後、Arduinoにスケッ
「自分でもやってみよう」となれば成功といえる。
アクティブラーニングを IoT の教育現場へ導入
したところ、普段の講義や授業に比べ学生の集中度
が高く、初めての学生でもここまでできるとは想像
チをアップロードする
図 4 作業ツールの例
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31
写真 3 ドライブレコーダーを工作する学生
写真 4 作成したドライブレコーダーの前で
できないほどの効果を得ることができた。
大学の授業は専門化され過ぎているため、幅広い技術を実際に経験できるアク
ティブラーニングは多様なバックグラウンドを持つ学生の教育には特に効果が高
い。今後は、カリキュラムコンテンツのブラッシュアップ、単発セミナーを連続
化し、マーケティングにまで広げた問題解決型授業化で市場調査を行い、プロト
タイピングし、フィールドトライアルまで実施を目指している。
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(取材・構成:本誌編集長 山口泰博)
Vol.12 No.9 2016
東北メディカル・メガバンク計画
― 健康復興から始める産学連携 ―
東日本大震災の被害を受けて、地域医療の復旧や長期的な健康調査を行い、複合バ
イオバンク* 1 の構築を実践してきた東北メディカル・メガバンク機構。15 万人規
模のゲノムコホート形成とバイオバンク構築が完成目前となり、解析事業では株式
会社東芝と産学連携を成功させた。さらに創薬での産業利用に期待が掛かる。
■はじめに
長神 風二
ながみ ふうじ
東北メディカル・メガバンク計画(以下「当計画」
)は、2011 年 3 月に発生
した東日本大震災の被害を受け、東北大学大学院医学系研究科の発案により、個
別化医療・個別化予防を中心とした次世代型医療の実現を目標に掲げる国家プロ
ジェクトとして始まった。プロジェクト発足の経緯や詳細な目的については、本
東北大学東北メディカ
ル・メガバンク機構
特任教授
誌既刊** 1、2 をはじめ既に報告してきたので、本稿では概要のみとし、2016 年
6 月上旬現在の進捗を産学連携に関わる面に触れながら紹介する。
■ゲノムコホート調査の進捗
東北大学は当計画の進捗を目的に、東北メディカル・メガバンク機構(以下「当
機構」)を 2012 年 2 月に設立した。次いで岩手医科大学も、いわて東北メディ
カル・メガバンク機構を設立し、両機構は協働して 15 万人の参加を目指したコ
ホート調査* 2 を 2013 年 5 月に開始した。15 万人のうち 8 万人(宮城県 5 万
人、岩手県 3 万人)
は一般成人住民を対象とした地域住民コホート調査
(写真 1)
、
7 万人は妊婦とその家族をリクルートする三世代コホート調査による。
山本 雅之
やまもと まさゆき
東北大学東北メディカ
ル・メガバンク機構
機構長
当計画のコホート調査は、次世代医療の実現を目指しており、参加者のゲノム解
析を行うこと、また、提供を受けた生体試料をバイオバンクとして保管し、全国の
研究者の利活用に供す
ることを大きな特徴と
する。地域住民などの
対象者に対しては、こ
の主要な 2 点を含め、
*1
生 体 試 料 を 収 集・ 保 管 し、
研究利用のために提供を行
う。東北メディカル・メガ
バンク計画のバイオバンク
は、 生 体 試 料 の み な ら ず、
その解析情報も扱うことを
特徴とする。
*2
ある特定の人々の集団を一
定 期 間 に わ た っ て 追 跡 し、
生活習慣などの環境要因・
遺伝的要因などと疾病の関
係を解明するための調査。
本機構の目的を対面に
よる十分な説明(イン
フォームド・コンセン
ト)の上で、同意をい
ただいている。本稿執
筆 現 在、 地 域 住 民 コ
ホート調査について
は、 目 標 を 上 回 る 人
写真 1 地域住民コホート調査の風景。各自治体の会場に
伺って調査について丁寧に説明する。
Vol.12 No.9 2016
33
数の登録を得て新規募集を終了した。三世代コホート調査についても 5 万 5000
人を超える参加を得て、両コホート調査への参加者数は総計 14 万人超となり、
今年度内の登録目標達成が現実的なものとなってきた。
■解析事業の進捗とバイオバンクの構築
コホート調査で提供を受けた生体試料は、一部は直接検査に回されて参加者へ
の結果回付と調査のデータ蓄積用とされる。残りは東北大学に運ばれてバイオバ
ンク構築に供される。当計画のバイオバンクの特徴は、生体試料の保管のみな
らず、ゲノム解析など代表的な解析を自ら行ってそのデータを蓄積する点にあ
る(写真 2)。このシステムを複合バイオバンク(Integrated Biobank)と呼ぶ。
ここで得られた解析情報は、アンケートや各種解析結果、試料とともに、外部委
員を中心とする試料・情報分譲審査委員会* 3 の審査を通じて全国の研究機関・
研究者に利用される。当バイオバンクの試料・情報の外部利用(試料・情報分譲)
は 2015 年 8 月に開始
がアナウンスされ、既
に分譲実績を重ねつつ
ある。分譲は、研究目
*3 東北メディカル・メガバン
ク計画において、東北大学
と岩手医科大学によって設
けられた外部委員会。バイ
オバンクの試料・情報分譲
について、その計画・規則
や個別申請案件について審
査を行う。
的を原則とした上で、
企業の利用も認めてい
る点が当計画の特徴で
あり、日本におけるバ
イオバンクでは先駆的
である。
このように、当計画
における「ゲノム・オ
写真 2 生体試料を保管するバイオバンク設備。貴重な検体の
保管プロセスは可能な限り機械化されている。
ミックス解析」は、分
譲対象とし、広くデータシェアリングする目的で行っている。すなわち、多くの
研究機関が望む汎用(はんよう)性が高い解析は、当計画内で行われ、各機関は
試料・情報分譲を通じて解析データを利用できるようになる。
当 計 画 に お い て は、 東 北 大 学 に よ っ て ま ず 全 ゲ ノ ム 解 析 が 進 め ら れ、
2013 年 11 月に 1,070 人分の解読完了が発表され、2015 年 12 月には、得ら
れた全 SNV * 4 のアレル頻度情報などの公開がなされた** 3、* 5。さらに 2016
年 6 月には、全ゲノム解析の公開対象が 2,049 人分に拡大された* 6。また、東
北大学は網羅的なプロテオーム・メタボローム解析にも挑み、2015 年 8 月には
500 人分のデータを公開している
。一方、岩手医科大学いわて東北メディカ
** 4
ル・メガバンク機構は、2016 年 4 月にエピゲノム解析(メチル化解析)
、トラ
ンスクリプトーム解析、ゲノム解析の 3 層の「オミックス解析」の成果を公開
している** 5。
34
Vol.12 No.9 2016
* 4
Single Nucleotide Variant
の略。一塩基多様体。個人
間でゲノムの一塩基が異な
る状態、またその箇所。
* 5
“「全ゲノムリファレンスパ
ネル」のアレル頻度公開情
報を拡充しました”. 東北大
学東北メディカル・メガバ
ンク機構ウェブサイト .
http://www.megabank.
tohoku.ac.jp/news/
13358, (accessed 201609-15).
* 6
“日本人ヒト全ゲノム解析に
基づく高精度の住民ゲノム
参照パネル(2,049 人)か
ら 全 SNV 頻 度 情 報 等 を 公
開 し ま す ”. 東 北 大 学 東 北
メディカル・メガバンク機
構 ウ ェ ブ サ イ ト . http://
www.megabank.tohoku.
ac.jp/news/15894,
(accessed 2016-09-15).
■解析事業に関わる産学連携
前述の公開された解析データは、いずれも日本国内において最大規模で、かつ
高品質なものである。解析の進行と共に、データの利活用について、学術機関だ
けでなく企業からも注目を浴びている。
中でも東芝は、文部科学省と国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)によ
る「革新的イノベーション創出プログラム(COI STREAM)
」の拠点の一つで
ある「さりげないセンシングと日常人間ドックで実現する、理想自己と家族の絆
が導くモチベーション向上社会創生拠点」に、東北大学などと共に参加している
ことから、当機構と積極的に連携している。具体的には、同社は当機構が全ゲノ
ム解析結果を基に開発した日本人用 DNA アレイ「ジャポニカアレイ ®」のライ
センスを受けて、2014 年 12 月にゲノム解析サービスを開始した* 7。
「ジャポニ
カアレイ ®」は、全ゲノム解読で約 30 億塩基を読むのに対して、60 万カ所超の
場所を読むアレイだが、その場所は全 30 億塩基の構造を推定するのに最適とさ
れる位置が選ばれている** 6。2016 年までに万単位のオーダーでの利用を受け
ているとされており、基礎研究の産学連携例としては類例のないスピードでの事
業化成功例といえるだろう。
* 7
“日本人ゲノム解析ツール
「ジャポニカアレイ ®」を用
いたゲノム解析サービスを
開始”. 株式会社東芝 .
https://www.toshiba.
co.jp/about/press/
2014_12/pr_j0101.htm,
(accessed 2016-09-15).
また、その後も当機構が公開したデータを基にした種々の問い合わせを、研究
機関・企業含め多数いただいており、今後も産学連携の具体化が期待されている。
■試料・情報分譲による産学連携の可能性
前述の通り、当計画のバイオバンクでは、試料・情報分譲審査委員会による
審議を経て試料・情報の外部利用が行われる。従来、わが国のバイオバンクで
は、共同研究利用による試料などの利用が図られてきたが、当計画の分譲との大
きな違いは、知的財産の取り扱いである。すなわち、当計画の分譲を経て外部
機関によって得られた研究成果は、その外部機関に知的財産が帰属する。この仕
組みは、創薬などの分野におけるバイオバンクの産業利用を促進するものと考え
ている。
また、このような産業利用を見据えて、東北大学東北メディカル・メガバンク
機構ではバイオバンクの品質管理に留意し、品質管理についてバイオバンク室で
ISO9001 を取得するとともに、情報セキュリティについても関係する 3 室にお
いて ISO27001 を取得するなど、検体・情報処理プロセスを厳しい国際標準に
適合するようにしている。
現在、多数の企業などから、バイオバンクの試料・情報の利用について問い合
わせを受け、バイオバンク利活用に関する産学連携の実現が期待されている。
■ Add-on Study など今後の可能性
前項と前々項で、解析研究やバイオバンク利活用における産学連携について述
べたが、当計画におけるその可能性はそれにとどまらない。当計画のコホート調
Vol.12 No.9 2016
35
査では、参加者に対して 4 ~ 5 年置きに再調査をお願いする計画である。参加
当初に受けていただいた調査に相当する包括的な健康調査を再度行うことで、健
康状態の推移を調べるものである。その際に、一部調査については、最近の技術
革新などを反映して、検査機器や方法を新たにしたり、項目そのものを新たに付
け加えたりすることが計画されている。機器や測定方法の新規導入に当たって
は、開発・生産に携わる企業などと調査を行う大学側との間で相互に利益のある
連携を模索することができるのではないかと考えている。本稿が掲載されるころ
が、まさにそうした第二次調査の項目を決めていく時期に当たり、具体的な提案
を多方面から期待したい。
また、コホート調査参加者の一部に対して、より詳細な調査を提案する追加調
査(Add-on Study)も計画・実施されている。当計画では、成人の参加者の一
部を対象に、MRI 調査が行われており、また、三世代コホート調査の少数の参
加者を対象に日々の生活習慣や測定値を調査する企業との共同研究で行われてい
る(マタニティログ調査* 8)
。こうした Add-on Study は、測定データをその研
究終了後にバイオバンク収載情報とするなどの条件を満たせば、当計画をより豊
かなものにするものとして、外部からの提案が歓迎されるものである。
■おわりに
当計画は国の支援の下、地元住民の方々、各自治体、医療機関などさまざまな
方面からの多大な協力を得て進められ、国際的な成果を挙げ始めている。当計画
によるコホート調査、バイオバンク、解析事業は、いずれも主たる推進機関であ
る東北大学と岩手医科大学のみによって成し得るものではない。大学では思いも
よらないような提案をいただきながら、多くの協力を得ることで、より広く深い
成果を得られると考えている。
●参考文献
** 1 山本雅之 .“被災地の皆さまへ 次の世代のために新しい医療を創造”. 産学官連携ジャーナル 2012 年
9 月号 . https://sangakukan.jp/journal/journal_contents/2012/09/articles/1209-02-7/120902-7_article.html, (accessed 2016-09-15).
** 2 山 本雅之 .“大震災からの創造的復興と東北メディカル・メガバンク”. 産学官連携ジャーナル
2014 年 3 月号 . https://sangakukan.jp/journal/journal_contents/2014/03/articles/1403-01/
1403-01_article.html, (accessed 2016-09-15).
** 3 Nagasaki M et al.“Rare variant discovery by deep whole-genome sequencing of 1,070
Japanese individuals”. NATURE COMMUNICATIONS. 6, 8018, doi:10. 1038/ncomms9018.
http://www.nature.com/ncomms/2015/150821/ncomms9018/full/ncomms9018.html?WT.
ec_id=NCOMMS-20150826&spMailingID=49403992&spUserID=ODkwMTM2NjQyNgS2&s
pJobID=743954799&spReportId=NzQzOTU0Nzk5S0, (accessed 2016-09-15).
** 4 “Item Table”. jMorp(Japanese Multi Omics Reference Panel). https://jmorp.megabank.
tohoku.ac.jp/, (accessed 2016-09-15).
** 5 iMETHYL(integrative DNA methylation database), http://imethyl.iwate-megabank.org/,
(accessed 2016-09-15).
** 6 Kawai Y et al.“Japonica array: improved genotype imputation by designing a populationspecific SNP array with 1070 Japanese individuals”. Journal of Human Genetics. 2015
年 6 月 号 . http://www.nature.com/jhg/journal/v60/n10/full/jhg201568a.html, (accessed
2016-09-15).
36
Vol.12 No.9 2016
* 8
マタニティログ調査を開始
し ま し た ”. 東 北 大 学 東 北
メディカル・メガバンク機
構 ウ ェ ブ サ イ ト . http://
www.megabank.tohoku.
ac.jp/news/12545,
(accessed 2016-09-15).
中小企業の付加価値生産性の向上と
成長産業参入を目指す
「シティ信金 PLUS 事業」
中小企業の技術情報を得るため、独自の調査項目、画像、資料をセットにして精
度の高いキーワード検索が可能なデータベースを構築。ひと手間かけた産学官金
連携による中小企業支援モデル「シティ信金 PLUS 事業」とは。
信用金庫とは信用金庫法に基づく会員の出資による、営利を目的としない協同
組織の地域金融機関であり、信金(しんきん)と略称されている。営業地域は一
定の地域に限定されており、中小企業ならびに個人のための専門金融機関であ
る。「地域で集めた資金を地域の中小企業と個人に還元することにより、地域社
会の発展に寄与する」という信用金庫の目的のためである。
日比野 俊之
ひびの としゆき
大阪シティ信用金庫 企業支援部 副部長
大阪シティ信用金庫(以下「当金庫」)は、大阪市中央区に本店を置き、大阪
市、東大阪市を中心とした中小企業、特に中小製造業に深く関わる。2016 年 3
月 31 日現在、総預金 2 兆 3265 億円(全国信用金庫中 9 位)で、貸出金 1 兆
2851 億円である。
「三者共栄」を経営理念とし「信頼で地域とつながる」のスローガンの下、地
域住民に密着した経営を積極的に展開する。ここでいう「三者共栄」とは、顧客・
当金庫・職員は三位一体であり、この三者の相互依存関係の上に発展と幸せを築
いていくという考え方である。
■求められている中小企業の付加価値生産性の向上と
成長産業への参入
関西経済に目を向けると、労働市場は完全雇用を通り越して深刻な人手不足状
態である。有効求人倍率はバブル期と同水準である。企業収益も、大手製造業で
頭打ち感が出てきたが、全体としては過去最高水準である。つまり、好景気なの
である。しかし、一部の中小企業を除いてその実感はない。これは、中小企業の
需要不足が原因ではない。本当の問題は、やるべきことをしていないという実力
不足にある。これからの中小企業は、付加価値生産性が高く、かつ新たな成長産
業へ参入するための構造変換が必要なのだ。
このような状況下において、当金庫では、中小企業が付加価値生産性の向上
と、新たな成長産業へ構造変換するための支援ビジネスモデルとして「シティ信
金 PLUS 事業」に取り組んでいる。
■コーディネート人材、ネットワークを独自に構築
当金庫は、来年、創立 90 周年を迎える。取引先中小企業との長年にわたる良好
なコミュニケーション(地盤)を構築してきた。この地盤は、取引先中小企業の
事業、技術、経営状況、課題などに関する過去からの情報蓄積につながっている。
Vol.12 No.9 2016
37
そこで当金庫の企業支援部では、この蓄積された情報を活用することこそ中小企
業を支援するために最も重要と考え、10 年前に「シティ信金 PLUS 事業」
(以下「当
事業」
)をスタートさせ、取引先中小企業の支援活動に必要なさまざまな資源(コー
ディネート人材、産学官公のネットワークなど)を独自に構築してきた。
■「シティ信金 PLUS 事業」で 900 件超の技術提案
最初に、中小企業の技術情報を得るシステム作りを行った。当金庫職員の各取
引先担当者が「技術を保有している」あるいは「変わったことを行っている」製
造業をピックアップし、企業支援部で訪問・企業調査・特許調査などを実施して
詳しい情報を得る。これを独自の調査項目、画像、資料をセットにして、精度の
高いキーワード検索が可能なデータベースを構築した。
次に、中小企業が継続的・安定的な発展ができるような事業支援をするために、
販路を確保するシステム作りを行った。企業支援部では関西に本社を置く電機、
住宅設備、自動車などの大手メーカーと協力体制を構築し、製品化を控えるテー
マや技術課題を大手メーカーから入手する仕組みを整えた。この仕組みは中小企
業にとっては自社技術のビジネス化を具体的に進めることができると同時に、大
手メーカーにとっても、当金庫からの紹介企業であれば技術レベルや経営力など
を検討する必要がなく、大きなメリットとなる。
これらを基に潜在的な技術を保有した中小企業を発掘しながら、ビジネス化が
可能なテーマの提供、ビジネスモデルの提案や、中小企業同士や大手メーカー、
行政の支援施策などとのマッチングや技術コーディネートを行う。その過程で大
学のシーズや知見を利用し、必要に応じて公的支援機関、行政、商工会議所など
の中小企業支援施策を活用し、また適切な資金を適切なタイミングで投入しなが
ら、テーマの解決と製品化に向けての実施と事業化をシームレスにサポートして
いる。中小企業の持つ技術を他の中小企業や大手メーカーと連携することによ
り、加速度的に大きな技術ビジネスとなるように発展する仕組みを構築し、中小
企業を成長軌道に乗せる。これを幅広く行うことで取引先中小企業全体の技術や
経営レベルの底上げを狙っている。
現在では、大手メーカーの製品化のための技術課題を入手し、その課題を解決
できる、もしくは共同で開発する取引先中小企業を技術コーディネートする事
業(spec1)
、ライセンス可能な特許やデバイスを活用した中小製造業の新事業
の創出を支援する事業(spec2、3)
、中小企業の開発した製品を大手メーカーに
OEM を供給する事業(spec4)の四つを行う。その結果、2016 年 6 月末では、
大手メーカー 5 社に対して、900 件超の技術提案がなされ、うち 500 件弱が共
同開発契約の商談となり事業化を進める中、50 件超が産学連携取引として実現
している。
本稿では当事業の spec2、spec3 である大学や大手メーカーの特許などを中
小企業に技術移転する「MoTTo PLUS 事業」に的を絞り紹介したい。
38
Vol.12 No.9 2016
■シティ信金 PLUS 事業の推進エンジン
当事業の推進には、幅広い経験や知識を有する人材を正社員として採用し、配
置している。その経歴は、ベンチャー企業の経営経験者、中小企業診断士、技術
系出身者(工学博士・修士)
、大学非常勤講師(経営)経験者、行政機関経験者、
プロパー職員など、多岐にわたる。外部経験者のそれぞれが中小企業とその他複
数の経験を持ち合い、活用することで当事業の強力なエンジンとなっている。
データベース化では、経営の視点と技術の視点の両面からの切り口で入力さ
れ、高い精度でのマッチングが可能になっている。また大手メーカーからの高度
な技術課題や大学の研究シーズの解釈においても、工学的知見からのアプローチ
でコーディネートを行っている。さらに、中小企業が事業を進める上での課題抽
出、方向性の検討、修正などは中小企業診断士やベンチャー企業の経験者が強力
なサポートを行っている。大手メーカー、行政、大学、各分野の専門家などとの
良質なネットワークもあわせて保有しているため、精度、幅、深さともに高度な
対応が可能となっている。
また、中小企業の技術は、一見しただけではそれがどのような価値があるのか
の判断は難しい。そこで、地元の技術経営(MOT)大学院、大手メーカーの技
術者や各分野の専門家を講師に招き、当金庫職員と取引先中小企業の経営者が受
講する技術経営講座を開催している。単なる講義にとどまらず、職員と幅広い分
野の方々とのディスカッションや自社技術のプレゼンテーションにより、中小企
業の経営者や職員が日ごろの活動の中で、優れた技術に「気付く」感性を養うこ
とを狙っている。
■ひと手間かけた、一歩踏み込んだ「MoTTo PLUS 事業」
「MoTTo PLUS 事業」は、当事業の spec2、spec3 の発展形である。事業開
始後、時間とともに成果、知名度ともに上がり、大手メーカー、大学などのシー
ズ提供からの連携依頼も増加していく中、大阪商工会議所会員中小企業向けに実
施されている勉強会「MoTTo OSAKA フォーラム」と新たに連携した。
その後、東大阪商工会議所、八尾商工会議所も加わり、大阪府内全域の中小企
業支援として拡大した。具体的な取り組みとして、大手メーカーのライセンス
可能な特許やデバイス、大学の研究シーズや特許などテーマ分野を決めて抽出
し、当金庫取引先、商工会議所会員向けに案内した後、興味を持った中小企業向
けに勉強会を行う(写真 1)。ここでは、大手メーカー、大学の責任者らが分か
りやすく、しかも一歩踏み込んだ特許の解説やデバイスの説明を行いながら、中
小企業と大学、大手メーカー責任者とが意見交換を行う。その後、工学的知識を
持ち、技術が分かる当金庫の担当者が個別に中小企業を訪問し、大学、大手メー
カーに個別にコーディネートする。それらの活動を通じて中小企業の付加価値生
産性が向上した事業の創出を狙う。
このように一歩踏み込み、ひと手間かけた活動を行うことで、当金庫は、新た
な取引先の獲得と、中小企業の新たなビジネス展開を通じた資金需要を創出する
Vol.12 No.9 2016
39
ことで本業につなげている。大阪府内の商工会議所は、当金庫という事業の推進
エンジンを手に入れたことによる会員向け新サービスを展開できる。互いの思惑
が合致したビジネスモデルとなっており、継続性が高く、実りある事業に育って
いる。現在では、1 事業あたり約半年かけて、年 2 回ペースで行い、成果を出し
ている。
写真 1 大和ハウス工業株式会社総合研究所にて開催した MoTTo PLUS 事業化勉強会(2016 年 1 月)
■「MoTTo PLUS 事業」の事例
某社は、高品質のアクチュエーター(電磁モーター)の製造を得意とする中小
企業である。クライアントからの用途に合わせて最適化したモーターや周辺機器
の設計・製作、電圧や電流の大きさを変えたり、交流電力と直流電力を相互に変
換したり、電力の流れをコントロールする基盤技術を保有している。それらの技
術は、屋外や特殊用途に適用されることが多い。ある業界専門書では「特殊モー
ターでナンバーワン企業」として掲載されている。また同業メーカーから秘密裏
に依頼が寄せられるなど、開発力には定評がある。
某社のモーターは屋外用途での利用が多い。例えば、海上でのアンカー(いか
り)ウインチ向け、農業で使用する機械などの無段変速機などに向けて供給して
いる。このような特殊用途への対応は某社の着想力、開発力があってこそのもの
である。
今回の「屋外用人工知能機能を持った自動搬送車」の開発も、この延長線上に
ある。もともと某社では、工場内の搬送台車の駆動用モーターのみを提供してい
た。しかし工場内の搬送車は幾つかの企業が量産しており市場が形成されている
が、屋外用搬送車は非常に少ない。これらの用途ではクライアントの要望も使用
する環境もそれぞれであり、オーダーメードでの開発が必要となるからである。
某社はこのようなオーダーメードの開発を得意としており、また、競合の企業
も非常に少ない。こうした用途に向けて特殊車を提供することができれば、とい
40
Vol.12 No.9 2016
う考えから「人工知能機能を持った自動搬送車」の開発に取り組んでいる。試作
機を作りテストを繰り返す中、姿勢制御機能の搭載やサスペンション機能の強化
などの技術が必要であるため「MoTTo PLUS 勉強会」に参加、大手メーカーや
大学のデバイス、工学的知見を開発に取り入れた。現在では開発に成功した
後、さらなる技術目標を定め、新たな市場向けの製品化に向けて開発に取り組ん
でいる。
ロボットの分野と他の市場とを見比べると、市場から提案されている技術課題
は汎用(はんよう)的なものは少なく、それどころか特殊な機能、構造を備えた
技術や使用方法が多い。つまり、それぞれの顧客に応じた開発が多い。このこと
は市場規模が小さく大手メーカーの参入の可能性が低いことを意味する。ゆえに
某社のように、保有し蓄積されているノウハウや技術、大学や大手メーカーが保
有する幅広い工学的知見や技術移転を受けながら、顧客の細かいオーダーに応じ
ていくことで新たな用途や市場を独自で切り開くことにつながっている。
■今後の展開
当金庫の企業支援部が考える中小企業の実効性ある支援とは、中小企業の保有
する潜在的な技術の発掘と、その技術を生かして付加価値のある販路を提供する
ことにある。世界にマーケットを持つ関西の大手メーカーと関西の中小企業を
結ぶことで、中小企業が成長機会の波に乗り「地域の価値を向上させる中小企
業」となるよう支援することである。これにより中小企業の極めて高いレベルで
の製品作りや経営、技術の創出、雇用の拡大、ひいては関西の中小企業のブラン
ド化や関西経済の発展につながると確信する。この支援には中小企業専門金融機
関である信用金庫がその情報量と質から最適である。もっと幅広い支援と事業の
底上げには金庫職員一人一人が中小企業の事業やすばらしい技術に 「気付く」 感
性を持ち、中小企業の潜在技術の発掘を継続的に行う必要がある。またこの事業
には金融だけでない幅広い知識、新しい着眼点を見つける能力、産学官のネット
ワークが不可欠である。当事業では、事例だけでなくさまざまな成果を創出して
いる。
今後、当事業やその関連事業により、事業機会を自ら創出し、永続的安定的な
支援を行い、取引先中小企業の発展とともに当金庫も成長するといった共創関係
を構築していくことが地域経済および信用金庫の業界の発展にとって必要不可欠
であると考えている。
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41
オピニオン
イノベーションの種まきと育苗の科学技術政策を
■戦略型、政策課題型の研究推進システムは整備されてきた
日本の科学技術政策の基本的な枠組みをつくることを目指して、1995 年に科
学技術基本法が制定され、以後 5 年ごとに科学技術基本計画が策定されてきた。
その中で大学の革新研究を核にした目に見える成果を目的に、思い切った選択と
集中により、特定の分野・領域、特定の研究室に大型の資金が投入されるように
なってきた。国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)を中心にした「戦略研究」
(戦略的創造研究推進事業、研究成果展開事業、戦略的国際科学技術研究推進事
業など)に加えて、
「要請研究」として国立研究開発法人新エネルギー・産業技
術総合開発機構(NEDO)、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)
成戸 昌信
なると まさのぶ
株式会社 東レ経営研究所
特別研究員
の事業や、総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)による「FIRST」
「SIP」
「ImPACT」のような国家課題対応型研究開発推進事業が計画・展開されてきた。
もちろんこのような資金投入が幾つかの輝かしい成果につながり、科学技術分野
での日本の地位を上げつつあることは事実である。
一方で大型の競争的資金は選択と集中により特定の分野、特定の研究者に投入
される傾向が続いており、成果主義、論文至上主義の行き過ぎで、不安定な身
分の研究者が増加し、科学界全体に一種の疲弊が生じているように感じる。こ
のような問題は米国の生命科学の領域でも起こっていることが B. Alberts、H.
Varmus らにより論じられている** 1、2。ここでは少し違った観点でわが国の基
礎的な研究の重要性について述べてみたい。
■目的が明確で重点化しても、よいテーマでなければ成功確率は低い
文部科学省作成の科学技術指標の国際比較を見ると、主要国の中で日本の研究
費総額は米国に次いで高いものの(2013 年 18.1 兆円)
、突出して民間負担が多
く約 8 割(14.5 兆円、cf. 政府負担は 3.5 兆円)を占めている** 3。民間企業の
研究開発は、ほとんどが新事業、新製品を目指した目的指向であるはずだが、何
をやってもそれなりに成功して成長につながった高度成長期と異なり、現在では
目的が明確な研究をしたからといって、イノベーションの中核技術が革新的で、
しかも成果への道筋の素性がよくないと成功確率は高くないのが現状である。言
い換えれば良いテーマでなければ企業の研究も、課題設定型の要請研究も大きな
成功(社会への貢献:売上/利益を伴う新製品、新事業)は難しいともいえる。
■テーマ予備軍を十分用意する必要がある
大きな木を育て、豊かな作物を収穫するためには、
「良い種」を選び、
「良い
苗」を育て準備する必要がある。既にある手近の種や苗に重点化して肥料をやる
42
Vol.12 No.9 2016
** 1
Bruce Alberts,Marc W.
Kirschner,Shirley Tilgh
man,Harold Varmus. Re
scuing US biomedical re
search from its systemic
flaws.PNAS.2014,vol.
111,no. 16,p. 57735777.
** 2
Bruce Alberts,Marc W.
Kirschner,Shirley Tilghm
an,Harold Varmus. Add
ressing systemic proble
ms in the biomedical res
earch enterprise. PNAS.
2015,vol. 112,no. 7,p.
1912-1913.
** 3
“競争的研究費改革に関する
検討会(第 8 回)配布資料”.
文部科学省.
http://www.mext.go.
jp/b_menu/shingi/cho
usa/shinkou/039/shir
yo/1358882.htm,(acc
essed2016-09-15).
(研究
費 国 際 比 較 :I-15、 科 研 費 :
Ⅱ -4、大学費用関係 :I-1 ~
I-3)
図 1 研究・開発のテーマ(矢印)と摩耗選別の概念図(筆者作成)
のは、種や苗の素性が良くないと苗が太るばかりで良い果実は実らない。
研究・開発テーマの選別と摩耗、国家研究支援の関係を図 1 に概念的に描いた。
研究の初期段階で大型テーマになり得るものを数多く用意し、厳選することで、
次の段階の成功確率が高まり、持続的な研究開発の流れができるはずである。そ
のためには「基礎的な研究」(図 1 の学術研究から戦略研究の初期段階のものを
含む)を充実させることが重要である。
新発見や革新的な研究成果は、必ずしも当初の目的や計画からでなく、セレ
ンディピティによって出てくることが多いといわれている。M. Meyers は近代
医学の進歩の多くが、セレンディピティによることの豊富な実例を成書(原題:
Happy Accidents)で興味深く解説している** 4。わが国でも、南方熊楠(みな
かたくまぐす)は図 2 に示した南方曼陀羅図** 5 を描き「萃点(すいてん)
」
、す
なわちいろいろな理(必然)や不思議(偶然)の集まる交点から物事の真の理を
知ることができるとした** 5、* 1。限られた必然だけでは新製品や新事業に結実す
** 4
モ ー ト ン・ マ イ ヤ ー ズ 著、
小林力訳.セレンディピティ
と 近 代 医 学 ― 独 創、 偶 然、
発見の 100 年―.中央公論
新社.2010,404p.
** 5
鶴見和子.南方曼陀羅論.八
坂書房.1992,235p.
*1 京都府立医科大学大学院医
学研究科 酒井敏行教授より
示唆を受けた。
図 2 南方曼荼羅図と萃点(すいてん)南方熊楠(1867 ~ 1941)
(土宜法竜 宛 1903.7.18 書簡、参考文献 5 ** 5 より了解を得て転載)
Vol.12 No.9 2016
43
る確率は高まらず、無駄にも効用があり基礎的な研究で時に迷走しても、幾つか
の必然と交わるところで真のイノベーションが生まれると筆者は理解している。
■種まきと育苗のため、基礎的な研究にもっと資源を
iPS 細胞をはじめとするトップクラスの戦略研究に資金を投入するのはもちろ
ん大事なことだが、現在トップクラスの研究も 10 〜 20 年前には基礎的な研究
であったことを認識すべきではないか。1 件当たりが小型の基礎的な研究をより
広く支援し、次世代のトップクラスの種と苗を育てることは極めて重要だ。
しかしわが国では、基礎的な研究にかける費用が少ないのが現状だ。学術研究
を支援する科研費は近年頭打ちで 2,300 億円規模** 3、新規応募 10 万件のうち
採択は 3 万件、継続案件と合わせて 8 万件で分けている** 6。不採択研究室の研
費を除く研究費用)で極めて少ないのが実情である。大型研究費を獲得できない
各数字の引用は筆者の責任
である。米国の NIH や NSF
の研究費は一部が人件費や
大学の運営経費に充当され
正確な比較は難しい。誤解・
間違いなどあればご指摘い
ただきたい。
研究室も研究全体のバックグラウンドを形成し、研究を通じて大多数の学生を教
*3 究は大学運営費交付金で賄わざるを得ない。国立大学の 2013 年の研究経費支出
は総額 5,304 億円で、科研費などの競争的資金 3,516 億円、寄付金 667 億円を
含み** 3、大学運営費交付金からの研究経費支出は差し引き 1,121 億円* 2(人件
育しているが、資金面では困窮しているのが現状のようだ。
米国では科研費に相当する NSF * 3(国立科学財団)の予算は、70 億ドルを超
える規模である** 7、* 2。さらに生物医学の分野では NIH * 4(国立衛生研究所)
が、NIH グラント 165 億ドルを含め、契約研究、NIH 内研究所 / 研究センター
などを合わせ、計 277 億ドルの研究予算を持ち、NIH 研究予算の配分はトラ
ンスレーショナルリサーチ(初期の臨床研究)を含んだ応用研究に 36%、臨床
研究に 10%に対して、基礎研究 (Basic Research) に 54%となっている(2013
年)** 8、* 2。
基礎的な研究を強化するには、科研費や運営費交付金の研究費目的部分の増額
が望まれる。研究費の政府支出額(2013 年 3.5 兆円 対 GDP 比 0.73%** 3 の
うち、科学技術振興費 1.3 兆円)を増額し、米独並みの 0.86%に近づけること
を検討すべきではないだろうか(フランス並みの 0.8%にしても 3,000 億円余り
の増額)。また戦略研究の中でも JST の「さきがけ」などのような、基礎的な研
究に近い「小型」のプロジェクトを数多く支援することを検討すべきである。
一方、予算総額の枠の中で、基礎的な研究費を増加させるためには、トップダウ
ンの大型戦略研究や課題対応型研究開発推進事業(要請研究)の費用効率を高める
か、途中での評価を厳しくすることで資金を捻出することも検討すべきである。
要請研究や大型の戦略研究は推進しながらも、並行してボトムアップの基礎的
な研究を支援する施策を再検討・強化し、両輪をそろえることが、わが国の持続
可能な長期的成長戦略にとって重要であると考える。
44
*2 Vol.12 No.9 2016
National
Foundation
Science
*4 National Institute of
Health
** 6
山本智.
“科学研究費助成事
業(科研費)審査システム改
革 2018”
.文部科学省.
http://www.mext.go.jp/
component/a_menu/sc
ience/detail/__icsFiles/
afieldfile/2016/04/28/
1370488_01_1.pdf,
(acce
ssed2016-09-15)
.
** 7
“FY 2017 Budget Reque
st”.National Science Fou
ndation.
http://www.nsf.gov/
about/budget/fy2017/
i n d e x . j s p ,( a c c e s s
ed2016-09-15).
** 8
独立行政法人科学技術振興
機構研究開発戦略センター.
“調査検討報告書 NIH を中
心にみる米国のライフサイエ
ンス・臨床医学研究開発動
向”
.国立研究開発法人科学
技術振興機構.
https://www.jst.go.jp/
crds/pdf/2013/OR/CRDSFY2013-OR-01.pdf,
(acce
ssed2016-09-15)
.
研究者リレーエッセイ
医薬品の臨床研究と薬価
国民医療費は、高齢化や医療の高度化などに伴って毎年増加し、2014 年度に
40.8 兆円に達した。その中の国庫負担は各制度平均で 25.8%(2012 年度)を
占め、11.32 兆円(2016 年度)の巨額となり、一般歳出予算 57.8 兆円・社会
保障関係費 32.0 兆円の中で最大の歳出項目になっている(介護サービス費に対
する国庫負担は 2016 年度 2.81 兆円)。2017 年度は、社会保障目的税である消
費税の税率 10%引き上げ再延期、「道半ば」のアベノミクス、英国の欧州連合
(EU)離脱、中国経済の減速といった厳しい経済財政環境にある。さらに 2017
和田 勝
年度は診療報酬・薬価・介護報酬の通常改定がない年であること、補正予算で新
たに計上される介護人材の処遇改善費用の増加などを考えると、2016 年度以上
に厳しい財源不足の下で予算編成を強いられることは避けられない。
わだ まさる
国際医療福祉大学大学院
客員教授
現行制度では、国民医療費と介護サービス費が 1%増加すると、国庫負担はそ
れぞれ毎年 1,132 億円、281 億円多く必要となる。このところ国民医療費は 3%
程度、介護サービス費は 5%程度増加してきており、国庫負担はそれぞれ 3,400
億円、1,400 億円ほど多く当初予算に計上する必要がある。
他方、「骨太の方針 2015 年」では、医療・介護・年金などの社会保障費は 5,000
億円増の範囲にとどめることとされている。2017 年度予算概算要求では、社会
保障費は 6,400 億円増まで認められたが、9 月以降の予算編成過程において厳
しい査定が行われ、特に医療費・介護サービス費分野で、高額療養費の限度額引
き上げなど保険給付の縮小、介護の第 2 号保険料の総報酬割の導入など、国庫
負担の削減・保険料への転嫁といった方策のほかに、増大する薬剤費の節減策が
浮上してくることは避けられない。
薬剤費の国民医療費に占める割合は、1980 年ごろには 38%台と欧米と比べ
著しく高く、薬剤使用の適正化と薬剤費の適正化が課題となった。1981 年の
老人保健制度創設(医療費無料化の廃止、診療報酬の包括化など)
、定期的な薬
価の大幅引き下げ、1991 年の医薬品流通の近代化(薬価算定のバルクライン
方式の廃止と加重平均値方式の採用、値引補償制度の廃止)
、医薬分業の進展、
DPC * 1 の普及などによって、1999 年度には 19.6%にまで低下したが、その後、
22%前後と高めに推移し今日に至った。
昨年、これまで有効率が低く副作用も強かった C 型肝炎治療薬の分野に、ギ
リアド・サイエンシズ社のソバルディ(5 月)・ハーボニー(8 月)
、アッヴィ合
同会社のヴィキラックス(11 月)と、画期的新薬が相次いで収載・発売された。
これらの薬剤は、肝炎ウイルスをほぼ 100%除去し、副作用も少ない。また、
肝硬変や肝がんの発症が抑制され、患者の不安の解消も期待できるので、患者へ
の使用が急増した。
* 1
Diagnosis Procedure
Combination.
診療行為ごとの点数をもと
に計算する「出来高払い方
式」とは異なり、入院期間
中に治療した病気の中で最
も医療資源を投入した一疾
患について、厚生労働省が
定めた 1 日当たりの定額の
点数と、従来どおりの DPC
により包括されない出来高
評価部分(手術、胃カメラ、
リハビリ等)を組み合わせ
て計算する方式。
長期的に見ると医療費の節減につながり薬剤費用対効果も高いが、高価とい
うことも重なり、内服薬薬剤料総額の対前年同月比の動向は 6 月 81 億円、7 月
Vol.12 No.9 2016
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108 億 円、8 月 140 億 円、9 月 217 億 円、10 月 291 億 円、11 月 348 億 円、
12 月 430 億円と、抗ウイルス剤の使用が急増し薬剤料を押し上げた。その結果、
昨年末に突然浮上したのが、2016 年 4 月の薬価基準改定で実施された巨額販売
医薬品の薬価の特例的再算定である。薬価収載直後で、年間販売実績がいまだ判
明しておらず、また、事前に中央社会保険医療協議会(以下「中医協」
)などでの
論議が十分に行われない段階で、年末になっての特例引き下げ決定であった。
2015 年 12 月、患者の少ない悪性黒色腫治療薬のオプジーボ* 2 の効能・効果
に「切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌」が追加承認され、保険適用されるこ
ととなった。5 万人と推定される肺がん患者にとって大きな朗報であったが、そ
* 2
わが国で開発された免疫
チ ェ ッ ク ポ イ ン ト 阻 害 薬。
2014 年 7 月承認。
の際、対象患者数等が大幅に増加すると予想されたにもかかわらず、薬価基準価
格の見直しは行われず、また、有効率は 20 〜 30%程度であるが、副作用も少
なく単なる延命目的で漫然と広く使用される危惧もあった。患者全てにこの薬を
投与したとすると 1 兆 7500 億円(1 人の患者の治療に約 3,460 万円)もの薬剤
費が必要となり、国民皆保険体制を崩壊させると報道されて反響も大きく、治験
や開発に携わった医師の間からは戸惑いの声が上がった。
こうした超高額の新医薬品については、患者の視点や国民医療の質向上の観点
から、有効性と安全性の厳格な評価、投与すべき患者の適切な選定、効果や副作
用の評価に基づく投与中止の判断など、適切な対応が必要であり、臨床治験を担
う医師や医療機関にはこの分野でのご尽力をお願いしたい。
保険料や税(財政)の負担、国民皆保険体制の堅持の観点からは、費用対効果・
経済性の視点に立った薬価設定、
「医師・医療機関」と「保険者」の適切な関与
が必要である。そうした合意形成の場として、中医協における論議と判断が不可
欠であり、処方し投薬することのできる「医療施設」や「医師」についての要件
の設定、適切な投与の在り方についての適切な条件やルール(ガイドライン)の
設定が必要となる。
また、いまだに治療法が見つかっていない疾患に対する医療(アンメット・メ
ディカル・ニーズ)への対応、日本経済の再興・成長戦略の観点から、新薬開発
を担う製薬産業の育成は重要な課題であり、国民皆保険制度との両立を図る工夫
が一層必要な時代に入った。既存薬の有用性との比較・国際的な販売額予測・開
発コストの評価など薬価算定ルールの見直し、新薬開発促進に資する薬価制度や
研究開発税制の制度化、一定の販売額に達した新薬や効能追加時の薬価の再算定
の事前ルール化などは喫緊の課題である。大事なことは、製薬産業などにとって
予測可能な制度の枠組みを事前に設定することの重要性である。
2017 年度予算編成に向け、後発医薬品の使用促進は当然のこと、各患者のレ
セプト縦覧点検などの審査支払の厳格化、かかりつけ薬剤師機能の展開、上記ガ
イドラインに沿った審査支払などにより、重複投与、多剤投与の是正など薬剤
使用の適正化を図ることが課題となり、そのために ICT * 3 の活用が一層重要に
なってきた。医薬品その他の医療サービスの開発・価格の提供と利用は、医療保
険制度の持続性確保と密接に関連し相互に依存する関係があるだけに、今後の政
策展開を注視していきたい。
46
Vol.12 No.9 2016
* 3
インフォメーション・アン
ド・ コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン・
テクノロジーの略。
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視点
地方大学の産学官連携体制
「オープンイノベーション白書」を読んで
産学官連携コーディネーター、知的財産コーディ
ことし 7 月、オープンイノベーション協議会と国
ネーター、URA、ライセンスアソシエイト、これらは
立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
産学官連携従事者の名称である。産学官連携従事者の
(NEDO)から、わが国初の「オープンイノベーショ
多様化は、研究支援や研究成果の社会還元につながっ
ン白書」が取りまとめられた。早速、通読したところ、
ているが、特に地方大学においては、業務は細分化方
オープンイノベーション(以下「 OI 」
)の定義の変遷
向ではなく、よりボーダレスになっているように思う。
や各種の定量的なデータがまとめられているほか、OI
いまだ専門職化が進まず、人員縮小やポストの継続性
に取り組む先駆的な企業や、自治体の課題や成功要因
が確保されていないことが要因として考えられる。
が詳細に調査・分析されていた。白書のポイントは多々
第 3 期中期目標・中期計画がスタートし、地方大学
あるが、その一つは、わが国における OI への取り組
の多くが地域貢献の機能強化を選択した。大学ごとの
みの流れを、単に OI に取り組んでいる段階から、社
戦略に沿い地域を意識した取り組みを行うが、それに
外技術を導入するために効率的に活用する段階(how)
伴い、産学官連携活動はより地域活性化を目指したも
を経て、OI を活用して社会のニーズを的確に把握し、
のになるだろう。地方大学の産学官連携従事者には新
自社だけでは設定できなかった高次の課題(what)
たな業務や役割が負荷されるためボーダーレス化が加
を設定し、達成するという段階に進展してきたことを
速すると予測されるが、今、大学ごとの戦略に基づき
明らかにした点にあると思う。産学連携学会では、
「OI
人員配置や体制の見直しを行えば、その差は数年後に
は how から what へ」と題したシンポジウムを来年
大学色を左右する大差となるような気がしてならない。
早々に開催する予定としており、この点について深掘
大西 由香 静岡大学 イノベーション社会連携推進機構
知的財産管理室 室長、准教授
りした議論を今から楽しみにしている。
尾関 雄治 東レ株式会社 オートモーティブセンター 担当部長
編 集後記
防災の日は、政府や自治体をはじめ、国民が台風や津波、地震などの災害に認識を深め、対処する心構えを準備
する日である。毎年、9 月 1 日の防災の日を中心に、1 週間を防災週間として全国で催しが行われる。日本は、地震
や火山の噴火、台風などの自然災害が多く発生する地域に位置することから、地震・防災分野の研究を積極的に推進
してきた。特集でも紹介したように、電気や水は生活に欠かすことができず、ライフライン復旧までの間、どうしの
ぐかが被害拡大の抑制につながる。今後も多くの研究が防災に寄与することを願いつつ、熊本地震で被災された方々
へどのような応援ができるのか、次号以降で具体化していきたい。
産学官連携ジャーナル(月刊)
2016 年 9 月号
2016 年 9 月 15 日発行
PRINT ISSN 2186 - 2621
ONLINE ISSN 1880 - 4128
Copyright ©2016 JST. All Rights Reserved.
編集・発行
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本誌編集長 山口泰博
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Vol.12 No.9 2016
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