ベトナム~サービス業にも魅力的な投資先 事例紹介

ベト ナ ム 編
れはとりもなおさず良質な労働力が多いことを意味し、日本からの投資もこの労働力を活用する製造業の
るチャイナプラスワンの概念のもと、
は中国の人件費上昇を背景にいわゆ
拠点を設立、特に2010年前後から
企業もかなりの数がベトナムに製造
海外からの投資が進み、日本の中小
豊富、かつ安価な労働力を目指して
ベトナムでは1987年のドイモ
イ政策(経済開放政策)以降、良質で
て熱い視線を集めている。
称され、日本企業の新規投資先とし
おり、最 後の経 済フロンティアとも
挙げてテイラワ工業団地を建設して
る。特にミャンマーは日 本 が官民 を
として注目を集めるようになってい
諸国が労働集約産業の次なる移転先
ジア・ミャンマー等の他のCLMV
上の上昇となり、これに伴い、カンボ
がまた集まり始めているタイ、イン
だ整備途上である。最近になり注目
も限 られ、輸 送インフラ・電 力も未
合、新規に入居できる工業団地の数
さ れ て い る。一方、ミ ャン マ ー の 場
ており、また電力事情もかなり改善
カンボ ジアに比し、ずっと整備され
地からの輸送インフラはミャンマー・
しい交通 渋 滞はあるものの、工業団
業団 地がある。時間帯によっては激
アでの製造拠点を検討している日本
る。したがって、ベトナムは東南アジ
ムは依然優位性を保っていると言え
アでの人件費に比較すれば、ベトナ
思われる。一方で、タイ、インドネシ
ならないレベルに落ち着いてくると
他国との人件費の差も、さほど気に
トナムの労働力を考えればCLMV
げの動きが既に出ており、良質なベ
のCLMV諸国でも最低賃金の引上
番 高 くなっている が、ベトナム以 外
分野で活発であった。しかしベトナムの経済成長に伴い、この傾向にも変化が見え始めている。
中 国 か ら工場 を 移 転 す る 企 業 も 多
ドネシアでは工業団地の取得コスト
2014 年
2015 年
1,309
1,452
外務省・海外在留邦人調査統計より
1,578
最低賃金(製造業労働者)2016 年1月現在
US $/ 月(概算)
261
243
157
71
マニラ首都圏
半島部
ハノイ・ホーチミン
全国一律
している企業も多いようである。ベ
メンテナンス等の分野に進出を検討
盟を契機として順次規制が緩和され
あったが、世界貿易機関(WTO)加
ベトナムは、従来からサービス産
業 への 投 資 に 対 し て は 各 種 規 制 が
サービス産業に対する新たな動き
万人 が北部の首都ハ
レストラン・小売・教育産業・保守
ス 業 に 軸 足 が 移っている 感 が あ る。
的 も、最 近 は 製 造 業 よ り も、サ ー ビ
ベトナムにはハノイ市周辺、ホー
チミン市周辺を中心とし、多 数の工
依然魅力的なベトナムの投資環境
*1
く、ベトナム投資はブームの様相も
それでは今後、東南アジアでの製
造拠点立上げを検討する企業にとっ
呈していた。最近はどうであろうか。
の中小 企業にとっては、やはり検 討
2013 年
1,211
用地取得コストも納得感のある範囲
は ベト ナ ムの 倍 に な る 場 合 も あ る。
2012 年
1,081
向上に結び付き、9、
200万人の人
て、ベトナムはミャンマー 等の周 辺
2011年
981
にあるベトナムは製造業の立地場所
すべき第一候補と言えよう。
2010 年
948
口を背景とした消費市場への期待感
その意味で、インフラもそれなりに
2009 年
950
としては依然魅力的と言える。確か
国に比し、どのような優位性がある
128
231
バンコク周辺
ノイおよびハイフォン市を含む周辺
トラン、小売等のサービス業も外資
始め、現在では条件を満たせばレス
トナムは、約
地 域 に、約 1、2 0 0 万 人 が 南 部 の
%の 出 資 で も 可 能 と なっている。
は 2014 年 時 点 で 約 2、000 ド
る。ベト ナ ムの一人 当 た りのGDP
ンナイ省、ビンズン省に集 中してい
になる等、日系 中小 企業にとっても
(ENT)も一定の条件のもとに不要
られていたエコミックニーズテスト
また小 売の多 店 舗展開の際に求め
留邦人が滞在、日本人学校もハノイ・
800人、合計15、
000人近い在
チ ミ ン を 中 心 と す る 南 部 に 約 7、
ホ ーチミン 市 お よ び その周 辺の ド
ルと言 われている が、JETROの
サービス産業に参入しやすい環境は
化しているのである。
を取り込もうとする事業展開が活発
とした現地ベトナム人の消費ニーズ
力上昇を背景に、2大経済圏を中心
ことは容易に想 像 がつく。この購買
での2大消費経済圏を形成している
なっており、この両 地 域 がベトナム
ホ ー チ ミン 市 で は 5、000 ド ル と
ノ イ 市 で は こ れ が 3、3 0 0 ド ル、
想外の資金負担が生じたケースもあ
も賃料の支払いを余儀なくされ、予
約を締結し、事業開始ができない間
めに事業認可取得前に店舗の賃貸契
う。店舗用の優良物件を押さえるた
あることは、念頭に置く必要 があろ
れなりに時間と労力が掛かる場合が
し か し、サ ー ビス 業の 場 合、事 業
認可を取得する際に、依然としてそ
整いつつある。
したがって、それぞれの事 業の特
性・地域の特徴を見極めな がら、ま
はかなり労力が必要と思われる。
合、この2大 経 済圏をカバーするの
小企業としてベトナムに進出する場
しかしながら、ベトナムの2大経
済圏は約1、
700㎞離れており、中
り不安は感じられない。
本人が家族帯同で生活する分には余
理店も増え、南北の2大経済圏で日
ホーチミンにそれぞれあり、日本料
ベトナムには、現在ハノイを中心
とする北中部に約7、
000人、ホー
の展開の第一歩であろう。
するのかを決定するのがベトナムへ
するのか、あるいはそれ以 外に立地
ず は、北 に 立 地 す るの か、南 に 立 地
るようだ。
は製造拠点として依然として真っ先
に検討すべき投資先であると同時に、
新たに消費市場としての魅力的な投
資検討先になってきたと言えよう。
快適になってきた住環境
以上のように、東 南ア ジアで ビジ
ネス展開 を考 える 際には、ベトナム
2 0 15 年
月の調 査によると、ハ
100
高まるミャンマーへの注目度
2008 年
820
が膨らんでおり、日系企業の進出目
整 い、立 地 場 所 の 選 択 肢 も 大 き く、
2007 年
730
に人件費はCLMV諸国の中では一
のであろうか。
中小企業基盤整備機構
シニアアドバイザー
【担当地域:アジア新
興国(ベトナム、ラオ
ス、スリランカ等)】
1973 年 に 総 合 商 社
に入社後、合計 22 年
間海外駐在。この間主
として鉄鋼製品の日本
からの輸出、三国間貿
易に携わると同時にマ
レ ー シ ア、ベ ト ナ ム、
南アフリカでは現地企
業等との合弁企業の立
ち上げおよびその経営
に参画、シンガポール
では三国間貿易の拠点
会社の撤退業務等を
経験。これらの知識・
経験に基づいた多面的
なアドバイスを行って
いる。
山本 恵
海外レポート
93
000㎞を飛行機で飛ぶとベトナムが見えてくる。インドシナ半島の東端に位置
日本から南西に約4、
するベトナムは、国土面積は日本の約 %の 万㎢、南北に長く、ちょうど日本と同じような形状の国土
33
を持つ。そこに日本の人口の %を若干上回る9、
200万人が住んでいる。識字率は ・4%と高く、こ
85
ベトナムでの人件 費の上昇は、と
りもなおさず所得の向上、購買力の
466 ペソ / 日
900
ベトナムでも中国を追う様に賃金
の上昇 は 始 まって おり、最 低 賃 金は
フィリピン
300 パーツ / 日
11
2006年の月額626、
000ドンか
2006 年
9
JFC 中小企業だより 2016.9
JFC 中小企業だより 2016.9
10
タイ
規定なし
111
208
ジャカルタ
カンボジア
ラオス
ミャンマー
ベトナム
マレーシア
シンガポール
900リンギット/ 月 3,500,000ドン/ 月 3,600チャット/日 900,000キープ / 月
インドネシア
2,700,000ルビア/ 月
ホーチミン市イオンモールで売られている寿司パック
70
ら2016年1月の3、
500、
000
ベトナム日系企業拠点数推移(10 月1日現在)
ドンまでドンベースでは実に5倍以
JETRO・三菱東京 UFJ 銀行・NNA 資料から作成
(やまもと けい)
ベトナム~サービス業にも魅力的な投資先
海外レポート
*1 CLMV 諸国とはカンボジア・ラオス・ミャンマー・ベトナムの総称
「味噌文化」を世界へ
たのです が、これからは直営を多く
していくつもりで す。スピード感と
いう点で直営の方が動きやすいから
です 」と田所 社長は海 外出店につい
て語る。
2014年にベトナムに出店した
際 に も、直 営 方 式 を 採 用 し た。現 地
2003年に千葉県千葉市で創業し
株 式 会 社 ト ラ イ・ イ ン タ ー ナ
シ ョ ナ ル( 以 下、ト ラ イ と い う )は
あえて日本式を特色として前面に押
た。ベトナムでの店作りについては、
2016年には、ホーチミン市 内
にベトナムの2店舗目もオープンし
という。
おいて独資形態の企業はまだ珍しい
ば、ベトナムに進出した飲食業者に
会社設立が叶った。田所社長によれ
情も手伝い、比較的容易に独資での
に合わせなければならないという事
出 店。イオンのオープンに開 店を間
市に接するビンズン省に立地)内に
ともあり、イオンモール(ホーチミン
スト面も含 めてなかなか難しい。そ
ら中 東に直 接 輸 出するとなると、コ
合いが多くあります。ただし、日本か
実は、ドバイの展示 会などに出展
すると、中 華 麺 が欲しいという引き
たからです。
ベトナムは生産拠点として最適だっ
いました。世界展開を考えた場合に、
「イオンモールに出店した時点で、
ベトナムに工場を作ることも決めて
味噌などの製造を順次開始している。
き、生 中 華 麺・フ ラ イ ド オニ オ ン・
IZUNA工業団 地 」内に工場 を置
年、ロンアン省タムキン工業団地「K
にそれほど深いパイプがなかったこ
て以来、国内外に味噌ラーメン専門
し出した。
への足掛かりとして、ベトナムに目を
店 舗 を 構 え て い る。
億 円 で、その う ち、約
カ、タイ、カナダ、マカオ、そしてベ
8 億 円 が 海 外 だ( 店 舗 数、売 上 高 と
売上高は約
店 舗、国 内 に
店を展開してきた。現在は海外に
世界展開を見据えベトナムに工場
もにフランチャイズ含む)
。
ホーチミン市の店舗では来店客の
多くが在留邦人だが、イオンモール
付けたというわけです」(田所社長)
。
トナムに出店してきました。
海外出店の際は、自分の足で現地
を回って情報収集し、出店後も実際
に店を見に行ってフォローしていま
味噌作りという点でも、ベトナム
では大豆が採れることに加え、材料
とい う。日 本 式 の 店 作 り は、現 地で
も受け入れられている。
気候風土が日本と異なるため、まだ
して、ベトナム工場の操 業開 始のた
タンドバイ・クレジット制度を利用
に開設したほか、2016年にはス
し、飲食店が海外出店する際には当
EMを受託可能な規模の工場を建設
野に入れている。日系 企業な どのO
の農産物や水産物の加工・輸出も視
るのは富裕層で、 人に1人くらい
が安いことが大きなメリットとなる。
一方、ベトナムでは 店 舗 だけでは
なく、食品工場も設立した。2015
こで、世界、とりわけユーラシア大陸
「2008年、ブラジルに初めて海
外 店 舗 を 出 して 以 降、台 湾、ア メ リ
内の店舗はほぼ %がベトナム人だ
株式会社トライ・インターナショナル
(千葉県千葉市)
アジアは許認可の部分を含めて全般
身につけている洋服やサンダルの品
日系企業にはチャンスがあります」
協 定 )加 盟 国 で す か ら、その 点 で も
とともにTPP(環 太平 洋 経 済 連 携
し た 方 がいいで しょう。ま た、日 本
速度的なので、できるだけ早く進出
になっていくと思います。成長 が加
小 売 業にとっても、ものすごい商圏
を 作 れる 場 所 という だ けで は な く、
るのです。製 造 業にとって 安 くモノ
増えて確実に生活水準が向上してい
てい ま す。つま り、労 働 す る 場 所 が
で す が、それでも徐々に増えていっ
20
す。以 前はフランチャイ ズ が多 かっ
大きく、ビジネスがしやすい環境で
はないかと思います 」と田所 社長は
ベトナムにおけるビジネス展開の利
点を強調する。
なお、トライでは、2015年に公
庫の外貨貸付(米ドル)を活用し、ア
めの資金を現地の銀行から調達して
社製の麺を納入したい、と田所社長
一方、店舗展開の面でも、2016
年内に欧州初の店舗として、イタリ
いる。
スタンド バイ・クレ ジットは、為 替
アのミラノに出店する予定であるほ
は意気込む。
リスクが回避できるだけでなく、現
か、アメリカでも比較的日本人の少
「外貨での借入れは、為替リスクが
回避できるので便利でした。一方で、
地の銀行から借入れすることで現地
ない中西部に店舗網を広げていく計
諸国と比べ、ベトナムを含めた東南
的にスピードが速いという。
での信用 が得られたという点で、非
%程度まで伸ばしてい
画 を 進 めて お り、長 期 的 に は、海 外
売上比率を
くことを目論んでいるところだ。
最後に、ベトナムの魅力と可能性
について田所社長に語ってもらった。
「ベトナムの魅力は、人件費や材料
費の相対的な安さだけではありませ
現在、トライのベトナム工場では、
製造した生中華麺・味噌などをベト
質が良くなり、バイクがだいぶ綺麗
ん。2 年 前 か ら 比 べて、現 地の 人 が
ナム国外にも輸出していくことを目
になりました。イオンで買い物でき
日系企業のOEMも視野に
将来は地元の食品加工や輸出、
う説明する。
ぞれの借入れのメリットについてこ
感 じてい ま す 」と 田 所 社 長 は、そ れ
常にビジネスがやりやすくなったと
ている。
「 ホ ー チ ミン 市 の よ う な 都 市 部 で
は、日本語 が多少分かるベトナム人
を雇いやすいですし、ベトナム人従
業員からは、日本のことを勉強しよ
うという意欲、積極性 が強く伝わっ
てきます。
シューのトッピングが一番人気
14
メリカで6番目となる店舗をシカゴ
100
75
また、勤勉なベトナムの国民性も、
ビジネスを進める上でプラスに働い
税 関 な ど の 手 続 き 面 等、苦 労 は
多々あった が、アメリカな どの欧 米
ビジネスがやりやすい東南アジア
を目指し日々研究を重ねている。
栄養価の高い本来の発酵味噌の製造
試 作 段 階の 域 か ら 脱 していない が、
社:千葉県千葉市美浜区中瀬 2-6-1
WBG マリブイースト 19 階
代 表 者 名:代表取締役 田所 史之
資 本 金:600 万円
従 業 員:180 名(社員 58 名)
事 業 内 容:味噌ラーメン専門店の経営・フラン
チャイズ展開
自社工場での各種味噌・タレなど食
材製造・提供
その他飲食関連事業
会 社 設 立:平成 15 年(2003 年)
ホームページ:http://www.misoya.net/
世界各国の日本人街で日本人の存
在感が薄れる中、私の知る限りでは
50
いをさせていただける店でありたい」と語る田所史之社長
JFC 中小企業だより 2016.9
12
健康食
「味噌」
をベースに、炙りチャー
千葉県千葉市にある国内1号店
2016 年4月にオープンしたベトナム2号店
70
指 して お り、将 来 的 に は、ベト ナ ム
日本公庫のスタンドバイ・クレジット制度のスキーム図
本
ホーチミンの日本人街が世界で一番
「味噌を通じて半分予防医学のお手伝いを、そして半分商
急成長するベトナムを
足掛かりとした世界展開構想
海外レポート