口腔 歯 歯の構造

島根⼤大学医学部医学科 4年年次⽣生チュートリアル講義
オーラルメディシン
⼝口腔内科学
「オーラルメディシン」
:「⼝口腔内科学」ってなに?
「⻭歯科患者の⼝口腔だけに視点を向けず⼤大局的⽴立立場に⽴立立ち、
全⾝身的背景を考慮した⼝口腔疾患の診断と治療療を⽬目的とし
外科的なアプローチを主体とせずに⼝口腔の医療療にあたる
もの」
⻭歯科⼝口腔外科学講座 助教 吉野 綾綾
⼝口腔
上唇⼩小帯
硬⼝口蓋
軟⼝口蓋,⼝口蓋垂
⼝口蓋咽咽頭⼸弓
⼝口蓋扁桃,扁桃上窩
⼝口腔の解剖
⻭歯
⼝口蓋⾆舌⼸弓
後⾅臼⻭歯三⾓角
翼突下顎ヒダ
⾆舌背
⻭歯⾁肉
下唇⼩小帯
⻭歯の構造
⻭歯
唇,頬側⾯面
⼝口蓋,⾆舌側⾯面
1
唾液の分泌泌(3⼤大唾液腺)
⼝口腔粘膜
⼝口蓋
⼝口峡咽咽頭
⼝口腔前庭
⻭歯⾁肉
⾆舌
⾆舌下⾯面,⼝口底
頬粘膜
⻭歯を失う原因の⼆二⼤大疾患
う蝕 dental caries
う蝕の原因菌
Streptococcus mutans
う蝕と⻭歯周病
う蝕第1度度
う蝕第2度度
う蝕第3度度
う蝕第4度度
辺縁性⻭歯周炎 marginal periodontitis
⻭歯周病菌
Porphyromonas gingivalis
⻭歯周病第1度度
⻭歯を失う原因
⻭歯周病第2度度
⻭歯周病第3度度
⻭歯周病第4度度
⻭歯周病の病因
•  成⼈人の8割が罹罹患
•  嫌気性グラム陰性桿菌による感染症
•  ⽣生活習慣病
Prevotella intermedia の電顕像
Porphyromonas gingivaris
Prevotella intermedia
Bacteroides forsythus
Actinobacillus actinomycetemcomitans etc.
内毒素 ,各種組織破壊性酵素 etc..
8020推進財団 永久⻭歯の抜⻭歯原因調査(平成17年年度度)
Porphyromonas gingivarisの電顕像
・炎症の誘発
・破⾻骨細胞の分化誘導による⾻骨吸収
2
⻭歯周病
⻭歯垢(dental plaque)
⻭歯垢の付着した⻭歯と⻭歯⾁肉(左)・ブラッシング後の状態(右)
Biofilm (⽣生物膜) 多糖類やその他有機汚染物質でできたゲルの中のに細菌・真菌・藻等が⼊入り込ん
で複合体を形成し、何等かの表⾯面に付着した状態のもの
•  Biofilm感染症
齲蝕
⻭歯周病
中⽿耳炎
筋⾻骨格炎
壊死性筋膜炎
胆道感染症
⾻骨髄炎
細菌性前⽴立立腺炎
慢性気道感染症
カテーテル留留置後の感染症
⿐鼻粘膜 105/cm2
外⽿耳 104/cm2
デンタルプラーク 1011/g
唾液 108〜~109/ml
常在菌:唾液1ml に 1mg
⼝口腔内 200mg
約5時間に1回分裂裂
⽪皮膚 103/cm2
胃 0〜~103/ml
空腸 102〜~103/g
回腸 106〜~107/g
盲腸 109〜~1010/g
直腸 1010〜~1011/g
⻭歯⾁肉縁下プラーク
700種類以上にのぼる
細菌が⽣生息している
(Aas et al 2005)
尿尿道 0〜~103/ml
腟分泌泌液 109/ml
奥⽥田克爾:新⼝口腔感染症とアレルギー.⼀一世出版, 300⾴頁.
28⻭歯すべてに5-‐‑‒6mmの⻭歯周ポケットを有した場合
⻭歯周病菌が⾎血液中に⼊入る
⻭歯周ポケット総⾯面積≒72 cm2
Biofilmと接触
Page RC (1998)
3
⻭歯周炎がリスクファクターとなる全⾝身疾患
⻭歯周病と全⾝身の関わり
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冠動脈疾患
脳⾎血管疾患
動脈硬化
誤嚥性肺炎
糖尿尿病
低体重児早産
⾻骨粗鬆症
掌蹠膿疱症
⾼高脂⾎血症
肥満
⻭歯周病と⾎血管系の病気
⻭歯周病と⼼心内膜炎
⻭歯周病と低体重児出産
⻭歯周病と糖尿尿病
4
嚥下性肺炎
⻭歯周病と誤嚥性肺炎
嚥下性肺疾患の発症には誤嚥が関与している。
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⾼高齢者においては知らない内に誤嚥を繰り返す不不顕性誤嚥
(microaspiration)が多い
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脳⾎血管障害を有する場合は嚥下機能障害が存在する
•  ⼝口腔内に⼤大量量に存在する嫌気性菌を考慮して
治療療に当たらなければならない。
•  ⼝口腔内が不不衛⽣生のままでは,根本的解決にならない。
⼝口腔ケアを⾏行行って極⼒力力菌数を減らす努⼒力力が必要。
誤嚥性肺炎の防⽌止には? ⼝口腔ケア
⼝口腔乾燥症と唾液について
⼭山⽥田 了了:細菌から体を守るプラークコン
トロール,永末書店,2001年年,40⾴頁より
引⽤用
宮⽥田 隆:ヘルス・プロモーションとオーラル・ヘルス,㈱HYO-‐‑‒RON,2002年年,71⾴頁より引⽤用
⼝口腔乾燥症
⾃自覚症状
・⼝口が乾く
・⼝口がねばつく
・⽔水をよく飲む
・話しづらい
・⾷食事しづらい
他覚症状
・明らかに⼝口が乾燥している
・⼤大唾液腺の開⼝口部から唾液が流流出しない
・唾液が泡状になったり、ねばついている
・⾆舌表⾯面の乳頭が消失し、つるっとしている
・おいしくない
・⾆舌の表⾯面が荒れている
・⾆舌が痛い
・カンジダ症がみられる
・⼝口臭が気になる
・寝ていると⼝口がからからになる
⼝口腔乾燥の評価
刺刺激時唾液分泌泌量量
ガムテスト 10分間ガムを嚙み, 分泌泌された唾液を容器に吐き出し計測
健常な⼈人は10mL(10cc)以上
サクソンテスト サクソンテストは2 分間ガーゼを⼀一定のリズムで咬み,
ガーゼに浸み込んだ唾液の重さを計測
健常な⼈人は2g 以上
安静時唾液分泌泌量量
リラックスした状態を15 分間保った後に, ⼝口の中にたまった唾液を容器
に吐き出し計測
健常な⼈人は1.5mL 以上 ・⼊入れ⻭歯が合わなくなる
・⼊入れ⻭歯で⼝口の中が傷つきやすい
・⾍虫⻭歯や⻭歯周病になったり、増悪する
5
⼝口腔乾燥を⽣生じる薬剤
⼝口腔乾燥の原因
・薬剤の副作⽤用
循環器⽤用薬
・糖尿尿病や腎臓疾患
・交感神経抑制薬
・膠原病(特にシェーグレン症候群)
・放射線治療療後
・中枢や末梢神経障害
・精神的ストレス
・筋⼒力力の低下
・降降圧利利尿尿薬
・⾎血管拡張作⽤用薬
・抗狭⼼心症薬
・昇圧薬・低⾎血圧症治療療薬
精神科⽤用薬
・催眠・鎮静薬
・抗不不安薬
・抗精神病薬
・抗うつ薬
・抗躁薬
・精神刺刺激薬
・抗めまい薬
・抗てんかん薬
・痙縮・筋緊張治療療薬
・抗パーキンソン薬
・⾃自律律神経系作⽤用薬
・⼝口呼吸
抗アレルギー薬
・抗ヒスタミン薬
呼吸器⽤用薬
・呼吸促進薬
・気管⽀支拡張・喘息治療療薬
・鎮咳薬
・去痰薬
解熱・鎮痛・抗炎症薬
消化器⽤用薬
・酸分泌泌抑制薬(制酸剤)
・健胃薬
・加齢
ドライマウスの臨臨床 医⻭歯薬出版
唾液の作⽤用
唾液分泌泌の⽇日内変動
化学的消化作⽤用
円滑滑作⽤用
溶媒作⽤用
保護・⽯石灰化作⽤用
洗浄作⽤用
殺菌と抗菌作⽤用
緩衝作⽤用と稀釈作⽤用
内分泌泌作⽤用
◆唾液の重炭酸系による緩衝作⽤用によりプラーク外の酸を中和させる
◆エナメル質表層での再⽯石灰化作⽤用をもつ
安静時の唾液分泌泌速度度の⽇日内リズムと23:00〜~7:00までの睡眠時の概念念的な影響(⾚赤破線で⽰示す)
(Dawes,1972);河野正司監訳:唾液 ⻭歯と⼝口腔の健康.医⻭歯薬出版株式会社,33⾴頁.
唾液の働き
⼝口腔粘膜疾患
6
⼝口内炎とは
2カ所以上の解剖学的区分にわたって⾒見見られる
⼝口腔粘膜の炎症の総称
例例えば ⾆舌と頬粘膜,⼝口蓋と⻭歯⾁肉など
限局した場合は ⾆舌炎,⼝口唇炎,⼝口⾓角炎 etc..
主徴からみた⼝口内炎の分類
l  ⽩白斑を主徴とする病変
l  ⽔水疱を主徴とする病変
l  潰瘍を主徴とする病変
l  紅斑,糜爛爛を主徴とする病変
l  ⾊色素斑を主徴とする病変
診査・診断
アフタ aphta, aphtae
主徴候,病因から分類
⼝口腔粘膜に⽣生じる,周囲に光暈暈を伴い,偽膜に覆われた,直径2-‐‑‒10mm⼤大の
⼝口腔固有の疾患か全⾝身疾患の部分症かを判定
境界明瞭な類円形および楕円形を呈する潰瘍の症状名.
5-‐‑‒7⽇日で治癒傾向に向かい,10-‐‑‒14⽇日で瘢痕を残さず治癒する.
各種検査:⾎血液検査,細菌検査,⽣生検
診断
疱疹性⼝口内炎
帯状疱疹
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⽔水疱性病変
⼝口腔カンジダ症
天疱瘡
天疱瘡
天疱瘡
⼝口蓋の⽔水疱
平滑滑⾆舌
⿊黒⾊色病変
メラニン⾊色素沈沈着
悪性⿊黒⾊色腫
⼝口腔扁平苔癬
⿊黒⽑毛⾆舌
⾊色素性⺟母斑
褥瘡性潰瘍
下顎⻭歯⾁肉
〜~頬粘膜
頬粘膜
⾆舌
頬粘膜
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⽩白板症
癌性潰瘍
⽩白斑型
紅斑混在型
丘型
疣型
放射線性⼝口内炎
⼝口腔ケア
⼝口腔ケアとは
⼝口腔の疾病予防, 健康の保持増進, リハビリテーションによりQOLの向上を
⽬目指した科学であり技術.
⼝口腔ケアの⽬目的
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むし⻭歯、⻭歯周病の予防
⼝口臭の予防
味覚の改善
唾液分泌泌の促進
誤嚥性肺炎の予防
会話などのコミュニケーションの改善
⽣生活のリズムを整える
⼝口腔機能の維持・回復復につながる
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器質的⼝口腔ケアと機能的⼝口腔ケア�
⾆舌苔(tongue plaque)
⼝口腔ケアの観察ポイント
⼝口腔に停滞した痰
⾆舌苔:細菌+脱落落上⽪皮細胞+⾎血球
⾃自⼒力力での⼝口腔保清が困難な⼈人の⼝口腔
⾷食物残渣(⾷食渣)
介助の⼿手が加えられていない⼝口腔内の状況
(⾼高度度に進⾏行行した⻭歯周炎と多発性のう蝕)
咬合の状態は崩壊しつつある
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がん治療療による ⼝口腔合併症発症頻度度
•  化学療療法を受ける患者さんの40% 50%が強い⼝口腔粘膜炎を⽣生じ、
スケジュール や投与量量の変更更が必要となる
•  造⾎血幹細胞移植患者さんの80%
•  ⼝口腔領領域が照射野に⼊入る放射線治療療の頭頸
部癌患者さんの全て
粘膜炎のグレード
グレード1
• わずかな症状。摂⾷食に影響なし。
• ⽣生理理⾷食塩⽔水、ハチアズレによる含漱。
• ⻭歯ブラシは可能。
グレード2
• 症状あり、食べやすく加工した食事を摂取。嚥下ができる
• 含嗽を局所麻酔薬入りに変更
• 歯ブラシは徐々に困難となる。
グレード3
• 症状あり。⼗十分な栄養や⽔水分の経⼝口摂取ができない。
• 局所⿇麻酔⼊入りゼリーを患部に塗布し、ワンタフトにて⻭歯ブ
ラシ可能。ケア実施前30分、オプソ使⽤用することも。
グレード4
• ⽣生命を脅かす症状
「CTCAE:Common Terminology Criteria for Adverse Events」 ver.4.0
専⾨門的⼝口腔ケアと⽇日常的⼝口腔ケア
⼝口腔ケアグッズ
⻭歯ブラシ・補助⽤用具
清掃⽤用具・洗⼝口剤
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⼯工夫された義⻭歯⽤用ブラシ
保湿剤
保湿剤
保湿剤の使い⽅方
⼝口腔ケアに使⽤用する薬剤
⻭歯磨き法
⼝口腔ケアの体位
1.⻭歯ブラシを⽤用いた⽅方法
l  清掃効果は最も⾼高い.
l  ⻭歯⾁肉へのマッサージ効果も.
l  「快適さ」のための介護⼿手段.
l  握りやすくする⼯工夫.
2.電動⻭歯ブラシを⽤用いる⽅方法
l  使い慣れないと効果的な使⽤用は意外に難しい.
l  上⼿手に使いこなせれば, 療療養者の⾃自⽴立立度度が向上し, 介護者の負担軽減になる.
3.その他清掃補助具を⽤用いる⽅方法
l  ⻭歯間ブラシ, デンタルフロス, ⾆舌ブラシ, スポンジブラシ.
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⽣生活のリズムをつくるためにもできるだけ洗⾯面所で⾏行行うことが望ましい
ベッド上で⾏行行う場合は,起座位または半座位(ファーラ位)
起座位の場合は,誤嚥はしにくいが疲れやすいので注意が必要
上半⾝身を起こせない場合は,側臥位または仰臥位で,顔を横に向けて
⿇麻痺がある場合は,誤嚥を防ぐため健側を下側に
いずれの体位においても,頸部を前屈させた⽅方が誤嚥の危険は少ない
ベッド上で⾏行行う場合は,可能なら吸引装置を準備 12
多職種の役割
⻭歯ブラシの交換時期
化学療療法
移植
リハビリ管理理
嚥下機能評価、嚥下訓練
⾎血液内科
Dr.
⾔言語聴覚⼠士
副作⽤用に対応した⼝口腔ケア
⼝口腔外科
Dr.
リハビリ科
患者
⻭歯科衛⽣生⼠士
粘膜炎、⼝口腔乾燥
などへの対応、 義⻭歯調整
薬剤師
管理理栄養⼠士
看護師
薬剤管理理、指導
栄養管理理、副作⽤用に対応
した⾷食事提供
疼痛管理理、栄養管理理、⼝口腔ケア、嚥下訓練
粘膜炎などの副作⽤用に対応しながら治療療を進める必要があるため 多職種によるチームアプローチが重要
⻭歯ブラシの保管
摂⾷食・嚥下
⾷食塊形成
⾷食塊形成機能不不良良
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⾆舌接触補助床(PAP)
おいしく⾷食べる
マタニティ⻭歯科
智⻭歯周囲炎
妊娠性⻭歯⾁肉炎・エプーリス
妊娠と⻭歯周病
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低出⽣生体重児とは?
妊婦への⻭歯科治療療
2500g未満を「低出⽣生体重児」と呼び、さらにそのなか
で1500g未満を「極低出⽣生体重児」、1000g未満を「超低
出⽣生体重児」といいます。
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レントゲンの影響
⾚赤ちゃんの⻭歯
仰臥位低⾎血圧症候群
•  妊娠中期から後期 •  仰臥位で起きる急激な⾎血圧低下 •  左側臥位をとることで下⼤大静脈の圧迫が解除され、 症状が回復復する
エナメル質形成不不全
⻭歯が⾻骨の中で作られるエナメル質の形成時期または発育時期の障害によると
考えられている
<全⾝身的要因>
病気、ビタミン不不⾜足、栄養障害、ホルモン異異常やフッ素等の無機物の影響, 遺伝などにより, ⻭歯の成⻑⾧長が⼀一時的に阻害
<局所的要因>
乳⻭歯の重度度う蝕や外傷
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テトラサイクリン
テトラサイクリン系抗⽣生物質 クラミジア, リケッチア, マイコプラズマなどの感染症 肺炎、副⿐鼻腔炎、中⽿耳炎等 の治療療に使⽤用 1960年年代は頻繁に使⽤用されていたが、抗⽣生物質抵抗性菌の増加から、現在で
は以前ほど使⽤用されない
栄養
⻭歯の成⻑⾧長期に、 “テトラサイクリン”を服⽤用すると、永久⻭歯が暗褐⾊色の
⻭歯となる
⾍虫⻭歯はうつる
•  ⽣生まれてくる⾚赤ちゃんのお⼝口の中には⾍虫⻭歯菌はいない •  感染経路路のほとんどはお⺟母さん •  同じ⾷食器ではなく⾚赤ちゃん専⽤用の⾷食器を使う •  お⺟母さんも含め家族全員の⼝口腔内を清潔に保つ
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