学生と県民が一緒に学ぶ

第
32 回
学生と県民が一緒に学ぶ
-大学と県の連携による消費生活講座-
泉 日出男
Izumi Hideo
愛媛大学法文学部人文社会学科准教授
専門は経済法。大学では独占禁止法、知的財産法を担当。
NPO 法人えひめ消費者ネットの理事として適格認定に向け活動中。
このコーナーでは、消費者教育の実践事例を紹介します。
集の告知を行い、また各市町でチラシも配布し
地域に開かれた大学として
ています。
なお、2015 年度の受講者数は、学生が 56 人、
愛媛大学と愛媛県
(以下、県)
は、学生と一般
県民が 50 人でした。
県民
(以下、県民)
を対象に、2007 年度より消費
者教育のための「消費生活講座
(以下、講座)
」
を
最新の消費者問題を講義テーマに
連携して実施しています。
本講座を大学が県と連携して実施する理由で
消費者問題は多岐にわたりますので、消費生
すが、①学生が消費者トラブルに巻き込まれる
活に必要なさまざまな知識を専門的・体系的に
ことが増加している実態を踏まえ、
大学として、
習得できるよう、講義は大学の教員だけではな
学生に対する消費者教育の実施を通じて消費者
く、それぞれのテーマに関する分野を専門とす
としての自覚と自立を促すとともに、②地域に
る外部の講師が行う場合もあります。全 15 回の
開かれた大学として大学の授業を県民にも開放
講義のうち、2015 年度を例に挙げると、大学の
することにより、県民に対する消費者教育推進
教員が7回分、外部講師が8回分を担当しまし
の一端を担い、社会貢献活動に積極的に取り組
た
(表)
。なお外部講師の依頼については、県の
むこと、の2点が挙げられます。
担当職員が行っています。
本講座は、法文学部の開講科目
「法学特講」
を
回
「消費生活講座」
として、学生と県民が一緒に学
ぶというかたちで、毎年10月~2月の後学期に、
原則毎週1回、90 分の講義を全 15 回で行って
います。学生は、
出席した講座においてアンケー
トに回答し、最後にレポートを提出すれば2単
位が取得できます。県民については、①講座の
出席回数が 10 回以上であること、②出席した講
座においてアンケートにすべて回答することを
要件として、講座修了を認定する
「修了証書」
が
交付されます。この県民に対する修了証書の交
付が本講座の特徴の1つであるといえます。
県民の受講募集は県が行い、募集定員は 50 人
消費者問題の現状・改正景品表示法について
2
インターネット・スマホをめぐる消費者トラブル
*
3
消費生活相談の実態・クーリングオフの実務
*
4
消費者契約法
5
消費者契約法-消費者団体訴訟制度-
6
特定商取引法
7
成人年齢引下げと民法改正・奨学金返済問題
8
WTO の紛争解決手続・多角的国際フォーラム
9
ネズミ講・マルチ商法・刑事製造物責任
10
ライフプランと金融商品
*
11
ICT 分野における消費者行政の最近の動向
*
12
生命保険と契約
*
13
民事訴訟、少額訴訟、支払督促、民事調停の特徴と手続き等*
14
不動産賃貸借をめぐるトラブルの実態と解説
*
15
消費者行政の動向について
*
表
程度です。毎年8月に県のホームページ上で募
講義テーマ
1
2015年度消費生活講座の講義テーマ *:外部講師が担当
(注)青字の回は、2015 年度に新たに加わった講義。
2016.9
29
毎年開講している講座のため、特に気を使っ
で本講座では、
「消費者取引の法律」
に重点を置
ていることは講義テーマの選定です。毎年受講
いたテーマを毎年必ず取り上げています。具体
している県民にも興味を持ってもらえるよう
的には、
大学の民法や民事訴訟法の担当教員が、
に、最新の話題からテーマを選ぶなど、取り上
法改正の動向を踏まえつつ、消費者契約法、特定
げるテーマや講師を変える工夫を行っていま
商取引法、消費者団体訴訟制度の基礎知識につ
す。
いて講義しています
(講義テーマ4~6)
。受講後
例えば、2015 年度と 2014 年度の講義テーマ
のアンケートによれば、多くの受講生が
「消費者
の変更点は、インターネットやスマホに関する
契約法や消費者団体訴訟制度等についてさらに
消費者被害が増加している実情を踏まえ講義
理解を深めていきたい」
などと回答しており、受
テーマ2および同9を、成人年齢引き下げとの
講生の学習意欲を高める一定の効果を果たして
関連で同7を、TPP 交渉との関連で同8を、金
います。
融商品や保険商品についての正しい理解を促す
また、同様に毎年取り上げている
「消費生活
ために同 10 および同 12 を新たに加えたことで
相談の実態」
については、
県の消費生活センター
す
(表)
。そして、最終回
(同 15)
で板東久美子消
の消費生活相談員が、県内の消費者トラブルの
費者庁長官(当時)
による消費者行政の動向につ
事例を説明し、トラブルに巻き込まれた場合の
いての講義も盛り込みました
(写真)
。消費者庁
対処方法等について講義しています
(講義テー
長官による講義を受けたことは、受講生にとっ
マ3)
。受講後のアンケートでは、
「実際に契約
て生涯忘れられない貴重な経験となりました。
解除書面を書いてみてもっと活用すべきだと
思った」
「トラブルにあったら消費生活センター
に相談しようと思う」
などの回答があり、受講生
が実際に消費者トラブルに巻き込まれた場合の
対処方法や相談先を知ることに一定の効果を果
たしています。
今後も消費者教育の充実のために
毎年本講座を続けてきましたが、2016 年度
はちょうど 10 年目に当たります。県民について
は毎年 50 人程度が、学生についてはその年に
写真 板東久美子消費者庁長官
(当時)
による講義のようす
よって変動はありますが、平均して 110 人程度
が受講しており、
これまでの受講者数の合計は、
定番の講義テーマも
県民と学生合わせて 1,394 人になります。
このように本講座では取り上げるテーマにつ
今後も一人でも多くの受講生が消費者問題を
いて毎年工夫を凝らしていますが、開講以来継
理解し、消費者として生活するうえで必要なさ
続して取り上げている2つのテーマがあります。
まざまな知識を得て、今後の生活に生かしてい
それは「消費者取引の法律」と
「消費生活相談の
くことができる、自立した消費者となるよう、
実態」です。
大学と県が協力し、消費者教育を充実させてい
きたいと考えています。
消費者としての自覚と自立を促すためには消
費者を保護する法律の理解が不可欠です。そこ
2016.9
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