2016/9/13 ESC 2016レポート|抗血栓療法トライアルデータベース ツイート 2016年8月27~31日,イタリア・ローマ 心房細動患者における全身性塞栓症の患者特性とその臨床経過―ROCKET AFより 2016.9.13 ESC 2016取材班 全身性塞栓症は,発症数は少なかったものの死亡率は高く,多くの患者が発症後30日以 内の死亡であった-8月28日,欧州心臓病学会学術集会(ESC 2016)にて,Ryan Orgel氏 (Duke Clinical Research Institute, Duke University School of Medicine,米国)が発表し た。 ●目的・方法 全身性塞栓症は心房細動の合併症として知られているが,発症率自体は低く,臨床転帰 の特性は明確ではない。ROCKET AF1)は,脳卒中の中~高リスク(CHADS2スコア≧2)の 非弁膜症性心房細動(NVAF)患者を対象に,45ヵ国,1,178施設で行われた無作為化二重 盲検試験である。ここでは,本試験における全身性塞栓症発症例の患者特性や発症部 位,その診断や治療,経過などを把握するため,intention-to-treat解析集団14,171例中 Ryan Orgel氏 全身性塞栓症を発症した47例について解析した。ちなみに,脳卒中と全身性塞栓症の複合は575件に発症した。 ●結果 1. 患者背景 全身性塞栓症発症例は非発症例(14,124例)にくらべ,年齢が高い傾向がみられ(中央値75歳,73歳,p=0.0559),女性の 割合が高かった(それぞれ51.1%,39.5%,p=0.0223)。心房細動の病型は同様であった(持続性83.0%,81.0%,発作性 17.0%,17.6%)。CHADS2スコアは全身性塞栓症発症例のほうが高かった(中央値4,3,p=0.0008)。また,クレアチニンク リアランス(55mL/分,67mL/分,p=0.0003),脳卒中/一過性脳虚血発作/全身性塞栓症既往(68.1%,54.8%,p= 0.0044),心筋梗塞既往(34.0%,17.2%,p<0.0001)にも差異がみられた。高血圧(91.5%,90.5%),糖尿病(29.8%, 39.9%)の合併率は同程度であった。 2. 診断・治療 全身性塞栓症の診断法は試験プロトコールで定められておらず,超音波(34%),CT/CT血管造影(21%),侵襲的血管造 影(17%),MRI/MRA(2%)などが用いられ,発症例は複数の方法で,または臨床的に診断されていた。塞栓部位は下肢 が61.7%ともっとも多く,他は腸間膜17%,上肢12.7%,腎臓4.3%,脾臓2.1%などであった。 全身性塞栓症発症例に対しては,担当医の判断や臨床的状況により,治療が行われなかった症例があった一方,複数の 治療をうけた症例もあった。治療介入が行われた合計53件の内訳は,外科的インターベンション47%,薬物治療28%,経 皮的インターベンション13%,その他11%であった。 3. 試験薬治療 試験薬別にみると,全身性塞栓症の発症はリバーロキサバン20例,ワルファリン群27例であった。47例中21例では試験薬 を恒久的に,2例では一時的に中止した後の発症であった。全身性塞栓症発症後は,14例では恒久的に,1例では一時的 http://att.ebmlibrary.jp/conferences/2016/esc/esc1605.html 1/2 2016/9/13 ESC 2016レポート|抗血栓療法トライアルデータベース に試験薬を中止した。試験期間中,試験薬を中止せず継続したのは7例のみであった。残る2例については,発症時の試 験薬使用について確認できなかった。 4. 転帰 全身性塞栓症発症例のうち,リバーロキサバン群6例,ワルファリン5例,計11例(23.4%)が死亡した。死亡時期をみると, 全身性塞栓症発症後30日以内が7例,30日~6ヵ月が2例,6ヵ月以上経過後が2例であった。塞栓部位別の内訳は,下肢5 例,腸間膜5例,上肢1例であった。 また,全身性塞栓症発症後,大出血が3例(6.4%)に発現した。このうち1例は全身性塞栓症発症と同日に,別の症例では 発症当日およびその後の複数回,大出血が発現した。 その他に全身性塞栓症に関連する転帰として,続発性脳卒中2例 (4.3%),切断術1例(2.1%)が認められた。 ●結論 ROCKET AFで発症した全血栓塞栓イベントのうち,全身性塞栓症は8.2%と少なかった。もっとも多い塞栓部位は下肢で, 大部分は外科的もしくは経皮的インターベンションが施行された。約半数の患者では,発症時に試験薬を服用していなか った。全身性塞栓症の発症数が少なかったため結論を導き出すことはできないが,発症数はリバーロキサバン群よりワル ファリン群のほうが数値的に多かった。 全身性塞栓症は,発症数は少なかったものの死亡率は高く,多くの患者が発症後30日以内に死亡していた。これらのデー タは,NVAF患者における全身性塞栓症の発症や管理に関する更なる研究のために有用であろう。 文献 1. Patel MR, et al; the ROCKET AF Investigators. Rivaroxaban versus warfarin in nonvalvular atrial fibrillation. N Engl J Med 2011; 365: 883-91. 抗血栓療法トライアルデータベース http://att.ebmlibrary.jp/conferences/2016/esc/esc1605.html 2/2
© Copyright 2025 ExpyDoc