注)本著作物は「都市計画318号」に掲載されたものであり、著作権は日本

注)本著作物は「都市計画318号」に掲載されたものであり、著作権は日本都市計画学会( http://www.cpij.or.jp/ )に帰属します。
注)本著作物は「都市計画318号」に掲載されたものであり、著作権は日本都市計画学会( http://www.cpij.or.jp/ )に帰属します。
特 集 防災・減災に向けた都市・地域づくり
既往災害と防災・減災に係る法制度・施策の系譜
Progress in Disaster Management Laws and Measures Related to Past Disasters
前川 裕介 (株)建設技術研究所 東京本社防災室 Yusuke MAEKAWA
ないことと,
「事後対策」を一部含む法制度等を掲載
1.災害への事前対策の系譜
することをご了承いただきたい(口絵a,
b)
。
日本国内は,都市部の地震・延焼火災,沿岸部の津
(1)市街地大火・治水対策の始動期:江戸時代∼明治
波・高潮災害,流域の洪水・内水害,中山間地域等の
江戸時代から明治期にかけて,都市部における市街
地震または風水害に伴う土砂災害,山間部・離島の火
地大火,流域における大規模水害,太平洋沿岸部の大
山噴火等,限られた居住地域において,多くの災害リ
規模地震津波,山間部の大規模な噴火等が発生した。
スクを抱えていることが特徴である(図 1)
。これらの
具体的な施策は,市街地大火については延焼抑止策
災害が大規模もしくは発生頻度が顕著であることか
が中心であり,風水害・土砂災害対策については,治
ら,国内の各都市・市街地・集落等において,防災・
山・治水の視点から旧河川法・森林法・砂防法(治水
減災に係るさまざまな対策が進められてきた。
三法)が制定された時期である。
防災・減災の分野では,平時から取り組む対策とし
(2)地震・津波対策の始動期:大正∼ 1950 年代
ての「事前対策」と,災害の予測段階から発災後の初
大正から 1950 年代にかけて,直下型では関東大震
動・応急復旧・復興時にかけて対応する「事後対策」
災(1923 年)や福井地震(1948 年)
,海溝型地震では
といった対応時期が区分されることが多い。
昭和三陸地震(1933 年)
,東南海地震(1944 年)
,南海
ここでは「事前対策」をテーマとした本特集の冒頭
地震(1946 年)といった大規模地震や地震津波の発生
レビューとして,主な災害と関連する法制度・施策等
により,市街地建築物法の改正(1924 年)
,建築基準
を災害種別に年表として整理した。なお,多災害の事
法の制定(1950 年)による耐震化対策,
「津波予防に
前対策に関連する主な法制度や関連施策を幅広く示す
関する注意書(当時の文部省・震災予防評議会・1933
ため,すべての災害や法令・計画・事業名を掲載でき
年)
」による津波の基本対策等が具体的に示された。
「多災害(マルチハザード)と複合災害(多重災害)」
日本国内の地形・地質・気象条件等より,国内の
多くの地域は,単一の災害リスクだけではなく,水害,
土砂災害,地震,津波,火山,雪害等,多様な災害
リスク「多災害(マルチハザード)」を抱えている。こ
れらの多様な災害は,発生箇所,発生頻度,被害規
模が地域により大きく異なり,各基礎自治体にお
いては,限られた財政事情の中,どの対象災害
や被災レベルを想定した事前対策を優先して取
り組むべきかの意思決定が難しい現状にある。
特に,風水害の発生頻度は他の災害に比べ非常に
高いことから,豪雨に伴う大規模土
砂災害,地震後の出水期における土
砂災害や地震による堤防被災後の
津波・洪水・高潮等,複合して起こ
りうる「複合災害(多重災害)
」を考
慮した大規模災害への対応が今後
の課題となっている(図1)。
8
都 市 計 画│318
図 1 多災害の分布と想定される複合災害
(※)
また,南海地震を踏まえた災害救助法(1947 年)
,
沿岸部から中山間地域にかけての各施設管理者別の対
消防法(1948 年)
,カスリーン台風を踏まえた水防法
策に係る法制度等が一通り整備された時期でもある。
(1949 年)等,災害応急活動等の「事後対策」を位置づ
その後,伊勢湾台風(1959 年)を機に,災害対策全
ける関係法制度が整備された時期でもある。
般に係る災害対策基本法(1961 年)が制定され,災害
対策基本法に基づく法定防災計画として,国が防災基
本計画,指定行政機関等が防災業務計画,自治体が地
域防災計画を策定し,各計画の改定が継続的に行われ
るようになった。これらの計画は,風水害編から地
震・コンビナート火災・地震津波・原子力災害編へと,
その後のさまざまな大規模災害の経験を踏まえ,対象
1)
写真 南海地震
(左)
・カスリーン台風
(右)の被害状況 2)
災害・危機事象が順次追加されていくこととなる。
(3)経済成長期の多災害対応:1950 ∼ 60 年代前半
朝鮮戦争(1950 年)以降の経済成長に伴う都市部の
急激な市街化の流れに併せ,建築基準法(1950 年)
,
下水道法(1958 年)
,住宅地区改良法及び市街地改造
法の制定,消防法の改正(1960 年)をはじめとする市
街地の防災機能強化に係る関連法制度が充実した。
また,西日本豪雨及び台風 13 号(1953 年)を踏まえ
た沿岸部の海岸保全施設の整備に係る旧海岸法(1956
年)
,西九州地方における豪雨(1957 年)を踏まえた
治山・治水対策に係る地すべり等防止法(1958 年)や
写真 伊勢湾台風による名古屋市南区の浸水被害状況 3)
治山治水緊急措置法(1960 年)
,積雪寒冷地の道路交
(4)都市防災対策の強化期:1960 年代後半∼ 80 年代
通機能確保に係る積雪寒冷特別地域における道路交通
東京オリンピック(1964 年)以降のさらなる経済成
の確保に関する特別措置法(1956 年)
,火山観測等,
長に伴い,市街地の面的開発や都市部の高度利用が加
「法定防災計画と任意の防災計画」
「法定防災計画」の一つとして,災害対策基本法で定められた国及び指定公共機関が作成する「防災業務計画」や地方公共団体が作
成する「地域防災計画」等があげられる。
地域防災計画は,主に策定主体の発災後の対応手順に係る事務分掌業務を一般的な表現で整理しており,事前対策については限定
的な掲載にとどまる傾向がある。
一方,これらの法定防災計画では示しきれない,より具体的な事前対策や災害対応に係る詳細な実施手順等の内容を示した業務継続
計画[BCP]や地域継続計画[DCP]をはじめとする各種防災計画・マニュアル等は,
「任意の防災計画」として,公助を担う国,地方公
共団体,関係機関だけでなく,自助・共助の取組主体となる民間事業者や地域等においても各組織や地域の特性に対応した多様な形で
作成されている。
「地域防災計画と地区防災計画」
地方公共団体(都道府県・区市町村)で作成する「地域防災計画」は,
災害種別毎に予防計画(事前対策)と災害応急活動・復旧復興計画(事
後対策)について主に公助の取組が記載されている。地域防災計画の策
定主体は地方公共団体であり,防災会議等を通じて庁内組織や関係機関
協議により作成・更新される。
一方,
「地区防災計画」とは,地元の発意・協議検討を踏まえ,地域で
実施可能な自助・共助の取組を中心にとりまとめた計画であり,区市町村
の計画提案・承認を得て地域防災計画が地域防災計画に規定される(図2)
。
地区防災計画の対象範囲は,小学校区や町会・自治会区域等の取組主
体となる地区レベルの社会的圏域で策定されることから,対象災害のリス
クレベルや取組内容についても,地区特性をより具体的に反映したものと
図 2 計画提案の流れ 4)
することができる。
都 市 計 画│318
9
速し,地表被覆の拡大に伴う都市型水害の発生リスク
が高まるとともに,大規模・高層建築物の建設が進む
中,宿泊施設・百貨店等の火災等,大規模・高層建築
物の防火上の課題,さらには,宮城県沖地震(1978
年)を踏まえた建築物の耐震上の課題が顕在化した。
これらの課題を踏まえ,都市河川環境整備事業
(1969 年)等による総合治水対策の推進,建築基準法
における高層建築物の防火規定(1971 年)や耐震基準
の強化(1980 年)が図られ,都市部の土地利用に対応
した防災対策が進められるようになった。
写真 東海豪雨における新川破堤点周辺の浸水被害 7)
(6)強靭な国土・地域づくり展開期: 2010 年代以降
東日本大震災(2011 年)や台風 12 号土砂災害(2011
年)
,平成 26 年 8 月豪雨土砂災害(2014 年)
,平成 27
年 9 月関東・東北豪雨(2015 年)等の教訓を踏まえ,
多様な大規模・広域災害に対応する時代を迎えた。
具体的には,土砂災害防止法改正(2011 年)による
大規模土砂災害対策への対応,津波防災地域づくりに
関する法律(2011 年)に基づく最大クラスの津波を想
写真 千日デパート火災における高層建築物の消火活動
5)
定した推進計画策定や津波災害警戒区域等の指定(図
3)
,国土強靭化基本法(2013 年)に基づく国土強靭化
(5)大規模災害対策の事業推進期:1990∼2000年初期
1990 ∼ 2000 年初期は,北海道南西沖地震(1993 年)
を踏まえた立地適正化計画制度(2014 年)の活用,下
による地震津波災害,阪神・淡路大震災(1995 年)に
水道法(2015 年)及び水防法改正(2015 年)を踏まえ
よる直下型地震災害,広島豪雨(1999 年)
・東海豪雨
た浸水被害対策区域制度(2015 年)の検討が進められ
(2000 年)
・新潟・福島豪雨(2008 年)等による水害,
10
地域計画の策定,都市再生特別措置法改正(2014 年)
ている。
新潟県中越地震(2004年)や岩手・宮城内陸地震(2008
地方公共団体においては,大規模な各種災害を想定
年)に伴う土砂災害等の各種大規模災害が発生した。
した対応策検討にあたり,被害想定範囲がより拡大さ
特に大規模地震については,地震防災対策特別措置法
れることにより,他の災害との重なり(多災害)や複
(1995 年)や,東南海・南海地震に係る地震防災対策
合災害(多重災害)の発生リスクを考慮した施策実施
の推進に関する特別措置法(2002 年)
,社会資本整備
レベルや実施時期等の総合調整が必要となってきた。
重点計画法(2003 年)等により,総合的かつ計画的に
一方,地域においても,地域継続の視点に基づく都
事業を推進し,進 管理していく体制が構築された。
市安全確保計画や地区防災計画等の策定を通じ,実態
一方,これらの大規模災害の発生に併せて,被災者生
として進められてきた地域の自助共助の取組を計画的
活再建支援法(1998年)が制定され,その後の順次改
に担保し,行政,施設管理者,地域(住民・事業者)
正により被災者支援の事後対策も強化されていった。
との役割分担を明確にできるようになった。
写真 阪神・淡路大震災における建物等の被害 6)
図 3 津波災害警戒区域等のイメージ図 8)
(静岡県)
都 市 計 画│318
2.都市における各災害の対策事例
(2)風水害(内水)を想定した施策・取組 ●愛知県岡崎市の雨水対策[中流域]
ここでは,前述のレビューで示した多災害の事前対
愛知県岡崎市では,都市計画マスタープランにおい
策の一例として,近年における代表的なハード・ソフ
て被害実績を踏まえた「浸水対策地区」等を位置づけ,
トの施策・取組例を紹介する。
内水(雨水)および洪水(河川氾濫)による浸水リスク
なお,都市・市街地・集落全体の都市施策として計
の高い地域の浸水対策を推進している(図 5)
。
画的に取り組んでいる事例,計画・事業の活用例とし
近年の平成 12 年(2000 年)の東海豪雨や,さらに甚
ては全国的にも限られた事例,また,行政・施設管理
大な被害があった平成 20 年 8 月末豪雨(2008 年)を踏
者による公助の施策だけでなく,地域の自助共助の取
まえ,市街化区域内を中心に内水及び洪水(大河川・
組事例等も掲載している。
中小河川)による浸水対策を重点的に進めている。
(1)風水害(洪水・高潮等)を想定した施策・取組 特に,内水に対しては,雨水管線やポンプ施設の整
●名古屋市の高潮危険区域指定[下流域・沿岸部]
備だけでなく,学校や公園施設等への貯留施設の敷設
愛知県名古屋市では,木曽三川下流域・沿岸部にお
等,総合的な雨水対策を進めている(図 6)
。
いて「高潮危険区域」指定し,沿岸部・ゼロメートル
市街地の土地利用の制限を行っている(図 4)
。
昭和 34 年(1959 年)の伊勢湾台風による甚大な被害
を踏まえ,名古屋市災害対策要綱における防災対策事
業の一環として昭和 36 年(1961 年)に施行された制度
である。その後,昭和 44,46 年に一部改正,平成 3
年には改正条例が施行された。市条例には罰則規定は
ないが,基準法上の是正措置と罰則は適用される。
街中には電柱等にN・P値が表示されており,確認
申請手続時は,確認申請書の附近見取図には計画敷地
地盤高の測定根拠となるN・P標示電柱又は水準点の
位置及び高さ,配置図にはN・P標示による計画敷地
地盤高を示すこととしている。
写真 N・P値の電柱表示 9)
11)
図 5 浸水実績図
(平成 20 年 8月末豪雨)の公表
(上)
と都市計画マ
12)
スタープランにおける
「浸水対策地区」の位置づけ
(下)
図 4 危険区域の指定範囲と区域別の建築制限内容 10)
図 6 学校施設を活用した流域貯留施設の整備イメージ 13)
都 市 計 画│318
11
(3)地震(直下型)を想定した施策・取組 (4)延焼火災を想定した施策・取組 ●東京都板橋区板橋三丁目防災街区整備事業
●京都府京都市東福寺周辺地区の地区防災計画検討
東京都板橋区三丁目地区では,平成 15 年に創設さ
京都府京都市東福寺周辺地区では,直下型地震に伴
れた防災街区整備事業制度を活用した再開発に取り組
う延焼火災発生を想定した自助共助による地元の防災
み,平成 22 年(2010 年)に都内では初,民間組合施行
対策として,地区防災計画の検討を行っている。
としては全国 2 番目の竣工となった。
当該地区(東福寺)は,昭和 44 年に整備した消火管
当該地区は,昭和 51 年に始まった市街地再開発事
を平成 3 年に見直し,消防水利施設の確保をはじめと
業の検討から約30年を経ており,地権者合意(関係権
する初期消火環境整備の取組を継続的に行ってきた。
利者 69 名・49 棟)
,周辺商店街との連続性確保,密集
東日本大震災を踏まえた平成 25 年(2014 年)6 月の
市街地における防災機能の確保等の課題をクリアし,
災害対策基本法の改正により,地域の自助共助の取組
実現に至った。
が強化され,平成 26 年(2015 年)4 月に施行された
当計画では,中山道(国道 17 号)と住宅密集市街地
「地区防災計画制度」を活用し,東福寺と周辺住民等
が広がる商店街(旧中山道)に面した防災街区の形成
による地区防災計画の検討が進められている。
と防災拠点の確保だけでなく,地元商店街の活性化と
計画検討に併せて,延焼シミュレーションや配水シ
の整合(区画道路新設による動線の変化や低層階床・
ミュレーション等を行い,老朽化が懸念される消防設
屋外空間の利用)も検討課題となっていた。
備の再配置計画の検討なども行っている。
防災拠点となる広場の計画・整備にあたっては,地
元商店会参加のワークショップ開催により,さまざま
な意見を集約・反映し,平時も災害時もフレキシブル
に利用可能な空間を確保することができた。
写真 従前街区
(左)・防災拠点となる広場整備
(右)14)
写真 東福寺境内に整備された消火設備 15)
(左上:高圧消火ポンプ・右上:ポンプ室外観
左下:放水銃・右下:竜吟庵ドレンチャー)
「被害想定・シミュレーションと地域危険度」
災害リスクの規模・様相や危険度を知る指標として,
「被害想定・
シミュレーション」や「地域危険度」等があげられる。
「被害想定・シミュレーション」は,外力の発生箇所・規模・被災
施設や地域の現況等の様々な前提条件(モデル・入力値)の組み合
わせにより被害量を算出したものであり,実際に発生する外力や地
域毎の個別の現況との差異があれば,被害想定結果も大きく異なる
可能性がある等,不確実性の要素も十分含んでいる。一般的に,防
災計画等で減災目標を設定する際には,
「被害想定・シミュレーショ
ン」の分析結果
(被害規模)を事前対策の有無により比較することで,
事前対策の実施効果を算出している。
一方,
「地域危険度」は,相対的な危険度を地区∼地域単位で
比較し, 今後の事前対策の重点化が必要な地域や必要な取組内容
図 7 東京都第 7 回地域危険度測定調査における
「災害時活
動困難度を考慮した総合危険度」16)
(市街地整備や避難体制等)を把握するための指標である。
東京都では,地域危険度測定調査を定期的に実施し,住宅密集市街地等における避難路・主要生活道路の整備,老朽建物除却,
不燃化等の市街地整備の進捗状況をより具体的に反映した危険度評価となるよう,算出手法の見直しが継続的に行われている。
(図7)
12
都 市 計 画│318
(5)大規模地震津波を想定した施策・取組
を受けることが明らかになっている。
●和歌山県田辺市広域防災拠点施設等の整備
田辺市は紀南地域全体の中でも,紀勢線田辺ICや
和歌山県田辺市では,既存の三四六総合運動公園を
南紀白浜空港(白浜町)から近く,広域防災の観点か
改修し,広域防災拠点機能を担う施設整備が行われた。
らも,進出拠点として重要な立地環境にある。さら
田辺市は,紀伊半島南西部に位置し,三連動地震お
に,田辺市内には相互に診療部門を役割分担可能な災
よび南海トラフ巨大地震の被害想定(津波浸水シミュ
害拠点病院 2 施設(紀南病院・南和歌山医療センター)
レーション)の結果では,沿岸部市街地が甚大な被害
が高台に立地し,国道 42 号バイパスを介して連携し
ているなど,防災拠点施設機能が充実している。
また,紀の国わかやま国体(2015 年)の開催を契機
に,既往の総合運動公園の改修と併せて,広域防災拠
点機能を導入した。屋内施設には地域防災拠点(拠点
的避難所)としての機能,オープンスペースとなるグ
ランド等には物資集積拠点や関係機関の進出拠点機能
も含まれている(図 8)
。
(6)火山噴火・土砂災害を想定した施策・取組
●桜島火山噴火対策施設整備
図 8 広域防災拠点機能を有する田辺スポーツパーク 17)
鹿児島県鹿児島市では,桜島の火山噴火を想定した
島内の観光地や市街地における観光客・住民の避難環
境整備に取り組んでいる。
昭和 47 年(1972 年)の噴火を背景とした活動火山対
策特別措置法(1973 年)を踏まえ,
「桜島火山爆発防
災計画(1973 年)
」を策定し,桜島島内全域を避難施
設緊急整備地域に指定,昭和 53(1978)年 には垂水
市の一部が追加指定され,各種避難施設の緊急整備が
進められた。その後,国土庁の「火山噴火災害危険区
域予測図作成指針・平成 4 年(1992 年)
」を踏まえ,鹿
写真 SCU等の設置が想定されて
いる南紀白浜空港・旧南紀白浜空
(上)
港 18)
写真 高台の災害拠点病院
(南和
歌山医療センター)におけるヘリ
離発着陸場の設置 19)
(下)
児島県・鹿児島市・桜島町・垂水市が参加する協議会
にてハザードマップ(行政資料型・住民啓発型)が作
成された。近年では,予測される主な災害要因の影響
範囲等が推定されている「噴火災害危険区域予想図・
平成 18 年(2006 年)
」が作成されている。
「業務継続計画(BCP)と地域継続計画(DCP)」
「事前復興と復興準備計画」
大規模災害時において,行政組織(国・地方公共団体),関
「事前復興」の用語については,対応時期や復興の目標設定
係機関,施設管理者,民間企業等は,各主体が中枢機能を失
のとらえ方により様々な意味で用いられているが,一般的には,
うことなく,重要な通常業務や災害対応業務を継続的に遂行し,
平時から事前対策を進める「事前の復興準備」に係る取組とし
かつ,早期に本来業務を再開することが重要な対応課題となっ
て用いられている。
ている。これらの対応課題に対し,具体的な発災後の災害応急
事前の復興準備の取組例として,ハード施策では土木施設や
活動等の対応手順や復旧目標を設定し,さらには,これらの応
市街地整備による外力低減や被災リスクの回避,さらには各防
急活動・復旧目標を実現するための必要な事前対策を取りまと
災拠点施設の機能強化があげられる,ソフト施策では庁内や地
めたものが「業務(事業)継続計画(BCP:Business Continuity
域で行われる復興準備計画検討等があげられる。
Plan)
」である。
ハード施策については主に防災都市づくり計画,国土強靭化
一方,地域∼地区全体として,地域の生業や都市機能の継
地域計画,津波防災地域づくり防災推進計画,水害に強いま
続を図るために必要な事前・事後の対応策を示した「地域継続
ちづくり計画等,ソフト施策については主に復興マニュアル(市
計画(DCP:District Continuity Plan)」を作成する取り組みも進
街地・生活・産業)や業務継続計画(BCP)
・地域継続計画(DCP)
,
められている。近年の「地区防災計画」や「都市安全確保計画」の
地区防災計画等と連携しながら取組を推進していく必要がある。
策定等は,まさに地域継続の視点を取り入れた計画とも言える。
都 市 計 画│318
13
島内には宿泊施設が立地する県道沿道等に避難壕
融雪施設の整備,電柱位置の再配置や敷地内における
(32 箇所)
,県道から沿岸部への避難路のサイン,沿
雪堆積場所の確保等,雪に強い市街地整備に関する施
岸の避難港及び避難舎(22 港)が整備されており,航
策を取りまとめている。
路避難を含めた避難環境が整備されている(図 9)
。
写真 降雪前
(左)・降雪後
(右)の歩行者空間 23)
20)
写 真 近年の 4 大噴 火
(左) と退 避
壕
(右上),退 避舎・避難 港の整備
(右
下)21)
写真 流・融雪溝の整備
(整備前・後)24)
3.まとめ
主な災害と関連する法制度・施策等に関する年表に
ついては,既往災害の教訓から,シングルハザード
(単一の災害)からマルチハザード(多災害)
,さらに
図 9 災害予想区域と避難拠点を示したハザードマップ 22)
は,多重災害(複合災害)を含む大規模・広域災害へ
と,国内ではさまざまな法制度の整備や対応策が展開
(7)雪害(豪雪・冬季災害)を想定した施策・取組
されてきた経緯を整理した。
●青森市新雪対策基本計画
しかし,近年の新たな被害想定等の災害リスク情報
青森県青森市では,冬季のバリアフリー計画や雪計
のインフレに伴い,求められる減災目標のハードルが
画等の策定を通じ,豪雪・冬季災害を想定した市街地
高まり,自治体や施設管理者単位で取り組む施策だけ
整備に取り組んでいる。
では対応が困難な状況にある。
市全域特別豪雪地帯に指定されている青森市では,
このような状況に対し,広域∼都市∼地域∼地区の
雪対策に係る関連計画として,平成 3 年(1991 年)に
各レベルで,国と地方公共団体,複数の都市間,行政
「青森市雪総合対策指針」
,平成 8 年(1996 年)に「青
と地域,官民を含む各施設管理者間など,さまざまな
森市雪処理基本計画」を策定した。その後,平成12年
(2000 年)の交通バリアフリー法制定を受け,平成 13
年(2001 年)に「冬季バリアフリー計画」
,平成 15 年
(2003 年)に「青森市バリアフリー推進整備計画」を策
「防災」とは,
災害による被害を未然に防ぐ取組だけでなく,
発生しうる被害をできる限り軽減する「減災」の取組を含め
た幅広い意味を有する。特に,これまで想定外としてきた大
定した。さらに,
「青森市市民とともに進める雪処理
規模災害や新たな被害想定等に対しては,ハードを中心とし
に関する条例・平成 17 年(2004 年)
」の施行により,
た事前対策だけでは防ぎきれないことを踏まえ,人命確保に
平成 18 年に「雪対策基本計画」を策定した。平成 23
後の都市機能継続を図る「減災」の考え方が着目されている。
年には「青森市新雪対策基本計画」が策定され,定期
文部科学省の
「大都市大震災軽減化特別プロジェクト
(2002
的な計画更新と事業実施に取り組んでいる。
∼)」等の研究プロジェクト,東日本大震災を背景とした内閣
青森市新雪対策基本計画では,冬季の災害発生を想
定し,防災活動拠点施設を位置づけ,冬季の防災活動
拠点施設や輸送経路の機能確保を施策に掲げている。
また,流・融雪溝の整備や,合流下水道管を利用した
14
「防災と減災」
都 市 計 画│318
必要な避難体制等の強化や重要施設の被害を回避し,被災
年∼)」
,
「首都直下地震防災・減災特別プロジェクト(2007年
府中央防災会議の「大規模地震防災・減災対策大綱(2014
年)」等,大規模地震災害を対象とした研究開発,災害リス
ク評価や施策検討が進むにつれ,
「防災」と「減災」を併記
した表現が多く使われるようになった。
主体が連携体制を構築し,被害の低減や地域継続のた
めの事前対策を推進していくことで,より強靭な国
土・地域づくりが構築されていくことを期待したい。
4.おわりに
本特集の冒頭レビューとして,多災害を対象に,既
往災害と法制度の歴史について大枠の流れを整理した
が,主な既往災害と法制度・施策との関係に焦点をあ
て整理したため,紙幅の関係上,被災規模の掲載や関
連する計画・事業等のすべてを本文・年表に反映でき
なかったことをお詫びしたい。
<主要参考文献>
・内閣府 HP「災害史に学ぶ」−風水害・火災編/内陸直下地震
編/海溝型地震・津波編/火山編−中央防災会議『災害教訓
の継承に関する専門調査会』編
http://www.bousai.go.jp/kyoiku/kyokun/kyoukunnokeishou/
」
・内閣府 HP「日本の災害対策『我が国の国土と災害対策の歩み』
http://www.bousai.go.jp/1info/pdf/saigaipanf_e.pdf
・気象庁 HP「過去に発生した火山災害」
http://www.data.jma.go.jp/svd/vois/data/tokyo/STOCK/kaisetsu/
volcano_disaster.htm
・気象庁 HP「火山業務の沿革」
http://www.data.jma.go.jp/svd/vois/data/tokyo/STOCK/kaisetsu/
Page.htm
・栗島明康「砂防法制定の経緯及び意義について−明治中期に
おける国土保全法制の形成−」砂防学会誌(Vol66, No.5,2014
総説)
・国土交通省砂防部(監修)/ 全国地すべりがけ崩れ対策協議会
(発行)
「土砂災害防止法−土砂災害警戒区域における土砂災
害防止の推進に関する法律について−『土砂災害防止法のあ
ゆみ』
」
・岡本正男「特集:土砂災害対策の歴史的経緯と展望『砂防行
政の歩み』
」
(公益社団法人日本河川協会「河川」2014.6,第
815 号)
・高木勇夫「明治以前日本水害史年表」
(慶應義塾大学日吉紀要
刊行委員会)
・沓掛誠「特集:新河川法制定 50 年『これまでの河川法改正の
経緯について』
」
(公益社団法人日本河川協会「河川」2014.12.
第 821 号)
・公益社団法人日本消防協会 HP「消防の歴史」
http://www.nissho.or.jp/contents/static/syouboudan/rekishi.html
・国土交通省都市局都市安全課「防災都市づくり計画策定指針」
及び「防災都市づくり計画のモデル計画及び同解説」
(平成 25
年 5 月)
・都市防災推進協議会(編集・発行)/ 国土交通省都市局都市安
全課(協力)
「都市防災事業・全国の取り組み事例 100」
(平成
25 年 7 月)
・国土交通省 / 総務省 / 農林水産省「豪雪地帯対策基本計画」
(平成 24 年 12 月)
(平成 23 年度)
・国土交通省国土政策局「豪雪地帯対策について」
・国土交通省都市・地域整備局「豪雪地帯市町村における総合
的な雪計画の手引き 市町村雪対策計画策定マニュアル」
(平成
20 年 11 月)
・国土交通省水管理・国土保全局下水道部「新たな雨水管理計
画の策定手法 に関する調査報告書(案)∼調査フィールド:
岡崎市∼」
(平成 27 年 6 月)
・内閣府「地区防災計画ガイドライン」
・内閣府 HP「南海トラフ地震における具体的な応急対策活動に
関する計画(平成 27 年 3 月 30 日 中央防災会議幹事会)
」
http://www.bousai.go.jp/jishin/nankai/pdf/nankai_oukyu_keikaku02.
pdf
・内閣府 HP「準備計画策定の推進に関する調査 報告書」
(平成
19 年 3 月 内閣府)
http://www.bousai.go.jp/kaigirep/houkokusho/hukkousesaku/pdf/
fukkoujunbi200703.pdf
・東京都 HP「東京都震災復興マニュアル」
(2003 年)
http://www.bousai.metro.tokyo.jp/taisaku/1000061/1000404.html
<写真・図出典等>
1)写真出典:高知市 HP「過去の南海地震写真」
https://www.city.kochi.kochi.jp/soshiki/12/old-photo.html
2)写真出典:関東地方整備局・渡良瀬川河川事務所HP「渡良
瀬川の歴史・カスリーン台風」
http://www.ktr.mlit.go.jp/watarase/watarase00003.html
3)写真出典:内閣府 HP「災害復興対策事例集・1959 年(昭和
34 年)伊勢湾台風(甚水化した市街地(名古屋市南区)
)
」
(平成 26 年 3 月)
4)図出典:内閣府「地区防災計画ガイドライン」
5)写真出典:大阪市 HP「5 月の教訓【1972 年(昭和 47 年)
】
・
千日デパート火災」
http://www.city.osaka.lg.jp/shobo/page/0000071306.html
6)写真出典:神戸市 HP・震災写真オープンデータサイト「震
災資料室−阪神・淡路大震災の記録
(長田区 _JR 新長田駅前)
」
http://kobe117shinsai.jp/
7)写真出典:内閣府防災 HP「災害復興対策事例集・2000 年(平
成 12 年)東海豪雨・名古屋市消防局防災部防災室『東海豪
雨水害に関する記録』平成 13 年 3 月」
http://www.bousai.go.jp/kaigirep/houkokusho/hukkousesaku/
saigaitaiou/output_html_1/case200003.html
8)静岡県交通基盤部河川砂防局河川企画課・パンフレット「津
波への備えを 一歩前へ 進めましょう−『津波災害警戒区域』
の指定のご案内−」
9,10)図・写真出典:名古屋市住宅都市局「名古屋市臨海部防
災区域建築条例の解説(平成 20 年 9 月)
」
11)図出典:岡崎市 HP「浸水実績図を作成しました∼平成 20
年 8 月末豪雨編・全体図面∼」
http://www.city.okazaki.lg.jp/1100/1113/1177/p007128_d/fil/2.
pdf
12)図出典:岡崎市「岡崎市都市計画マスタープラン(2010)
」
13)図出典:岡崎市 HP「流域貯留浸透施設整備事業」
http://www.city.okazaki.lg.jp/1500/1516/p001138_d/fil/file_8.pdf
14)写真出典:板橋区 HP「板橋三丁目地区防災街区整備事業」
http://www.city.itabashi.tokyo.jp/c_kurashi/043/043685.htm
15)
,19,21)写真出典:建設技術研究所撮影
16)図出典:東京都「地震に関する地域危険度測定調査(第 7 回)
『地震に関する地域危険度[災害時活動困難度を考慮した総
』
」
(2013 年)
合危険度]
17)図出典:田辺市 HP「田辺スポーツパーク施設紹介資料」
http://www.city.tanabe.lg.jp/sports/files/tspshoukai.pdf
(平成 24 年 4 月)
18)写真出典:和歌山県「広域防災拠点受援計画」
20)図出典:鹿児島市「わが家の安全安心ガイドブック」
22)図出典:鹿児島市桜島火山ハザードマップ
23)写真・図出典:青森市 HP「青森市冬季バリアフリー計画」
,
「写真資料」
https://www.city.aomori.aomori.jp/toshi-seisaku/shiseijouhou/
matidukuri/yuki-taisaku/toukibaria.html
24)写真出典:
「青森市新雪対策基本計画」
https://www.city.aomori.aomori.jp/toshi-seisaku/shiseijouhou/
matidukuri/yuki-taisaku/documents/shinyukitaisakukihonkeikaku.
pdf
都 市 計 画│318
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