伝統工芸の漆器がもつ美しさを実現した 非食用植物原料のバイオ

伝統工芸の漆器がもつ美しさを実現した
非食用植物原料のバイオプラスチックの開発
(漆ブラック・バイオプラスチック)
2016.9.8
日本電気株式会社 IoTデバイス研究所
(担当 主席研究員 位地 正年、 主任 當山 清彦)
漆器調(漆ブラック)バイオプラスチックの開発
・日本の伝統工芸の漆器がもつ高度な装飾性を実現するバイオプラスチックを開発
・電子機器の他、装飾性と環境対応性を重視する高付加価値な製品に展開
⇒ 2020年に向け、『ジャパンブランド材』 としての展開を目指す。
最高級の漆工芸作品
漆ブラック・バイオプラスチック
(下出祐太郎氏作)
⾼級⾃動⾞(内装材)
非食用植物資源(木材・茎)を利用
したセルロース樹脂
断面
[ 断面 ]
顔料
⾼級建材(インテリア)
調色用の添加成分
断⾯
漆
基材
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試験板
の外観
下地層
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⾼級家電
漆ブラックを実現
(射出成形)
⾼級⽇⽤品
漆・漆器とは?
・漆とは、ウルシオール(フェノール系化合物)主体の複合物であり、日本で特に
発展した天然塗装材。このため英語名は japan, Japanese lacquer, Urushi。
・漆器は日本の誇る伝統工芸品であり、国際的に高い評価。ただし、高級品に
なるほど制作に手間がかかり(漆の下地・塗布・表面研磨の繰り返し)、量産化は困難。
漆の精製・漆器製造工程
天然漆
均一化、濾過、水分削減、
+ 添加剤(鉄粉等)の混合
塗布・硬化
精製・着色
断面
下地層
ウルシオール
+ 不純物
水分
ゴム(糖類)
タンパク質
漆層
木地
(基材)
ウルシオール鉄
表面研磨
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共同研究の漆芸家:下出祐太郎⽒
・わが国を代表する漆芸家。経済産業大臣認定伝統工芸士。学術博士。
下出蒔絵司所三代目・京都産業大学文化学部教授。
・国立京都迎賓館の蒔絵など数多く制作。特に近年、伏見城の遺構とされる
高台寺蒔絵を復元制作。
・第14回~第37回日展24回連続 入選(日展会友)、第5回日工会展曰工会大賞、第
45回全関西美術展 第1席、平成11年度伝統的工芸品産業功労者表彰通商
産業大臣奨励賞、2000京都美術工芸展準大賞 など多数受賞。
・海外の展示会や著名な博物館に招待展示・講演、国際的に活躍
「Shimode Black」の呼称もある。
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高台寺蒔絵の調査
セルロース系バイオプラスチックでの漆ブラックの実現
・最高レベルの漆器モデルの表面・断面分析、光学解析で目標レベル設定
・セルロース樹脂と特有な着色用添加剤との複合化で漆ブラックを実現
最高レベルの
漆器モデルの制作
(漆芸家:下出祐太郎氏)
漆ブラックの実現
漆器モデルの解析
断面分析
<100μm
漆層
色調:特に明度
水球
・セルロース樹脂中での黒色・
高屈折率成分の高分散化
・通常の成形工程で量産可能
断⾯
光
光沢度
漆を塗布・研磨
断面
透明樹脂板
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明度 L* ⾊度 a* b*
低明度・高光沢+αの追求
最高レベルの漆器モデル(下出モデル)の制作
・漆工芸作家の下出祐太郎氏が最高レベルの漆器モデルを制作。
・透明樹脂板への漆の塗布と表面研磨を何度も繰り返して、
最高級の漆器の外観 (究極の漆ブラック) を実現。
断面
漆層
(<100μm厚み)
透明樹脂板 (5mm厚み)
★漆器モデルの光学的特徴
・極めて低い明度(1レベル) =漆黒
・鏡面に匹敵する最高レベルの光沢度
(100レベル)
+α=
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漆特有の 深さ・温かさ
セルロース系バイオプラの低い明度(漆黒)の実現
表面処理した炭素微粒子の添加・混合(細かく分散化)で
低い明度(漆黒)を達成
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セルロース系バイオプラの高度な光沢性の実現
特有な高屈折率の有機成分(芳香環化合物)の
添加・混合(細かく分散化)で光沢度を向上
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鏡⾯光沢度
20o
低い明度と高い光沢性の両立
・従来、明度と光沢性はトレードオフの課題あり⇒独自な添加剤の配合技術で突破
炭素微粒子の表面構造や高屈折率の有機成分の分子構造の最適化、さらに、これら
の高分散化によって、低い明度と高い光沢度を実現
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バイオプラスチックと漆器モデルの外観・光学特性の比較
・低明度・高光沢度、漆特有の+α(深さ、温かさ)を実現
(深さ、温かさにはセルロース樹脂自体の化学構造も影響している可能性あり)
セルロース系バイオプラスチック
成形体
着⾊剤
炭素微粒⼦
(粒径⼩・表⾯処理)
炭素微粒⼦
(粒径⼩・表⾯処理)
ウルシオール鉄
添加剤
中屈折率の
有機成分
⾼屈折率の
有機成分
-
明度 L*(SCE)
2
3
1
光沢度(20o)
78
92
100
光沢度(60o)
85
95
100
外観
鏡⾯⾦型の使⽤+成形条件の調整
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漆器モデル
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漆器調バイオプラスチックの他の特性
強度や流動性、表面硬度は、ある良好なレベルを実現。一層の向上を検討中。
(下記は現状の代表値であり、適用製品により調整)
漆器調
バイオプラスチック
⽯油系樹脂
(ABS)
曲げ強度
(MPa)
(~80)
78
曲げ弾性率
(GPa)
(~2.2)
2.7
曲げひずみ
(%)
(>10)
>10
Izod 衝撃強度
(kJ/m2)
(~6)
22
表⾯硬度
(鉛筆硬度)
(~HB)
2B
ガラス転移温度
(℃)
(>90)
102
(~400)
280
流動性:MFR
(g/10min) 200℃, 50kgf/cm2
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漆ブラック・バイオプラスチックの製造と成形
・非食用植物資源を利用したセルロース樹脂*に、特有な添加成分を混合し(加熱
溶融+混練で分散)、セルロ-ス樹脂複合材を製造 (*短鎖付加セルロース)。
・通常のプラスチックの射出成形(加熱溶融し金型中に射出)で成形体を作製
⇒様々な形の漆器調の製品の量産が可能
⽊・草・ワラ
セルロース樹脂+添加成分
の複合化(加熱溶融・混練)
断⾯
射出成形
セルロース樹脂複合材
樹脂
複合材
成形体取り出し
加熱溶融・
+射出
⾦型(鏡⾯加⼯)
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錠剤状に加⼯
ペレット
目指す利用領域
・高装飾性(漆器調)の実現により、より付加価値の高い製品へ適用
・2020年までに様々な製品での実用化を目指しパートナー連携を推進
高度な環境調和性+装飾性の
相乗効果による訴求性向上
社会インフラ機器
耐久性
先端電⼦機器
NECの
バイオプラス
チック
⾃動⾞
強度・耐熱
高装飾性
事務機器
内装材
高級家電
高級建材
高級日用品
⾼級⽂具・化粧品
ケース・時計など
他の機能
医療・福祉機器
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まとめ
 高級な漆器がもつ美しい漆黒(漆ブラック)を実現した
バイオプラスチックを開発。
・非食用植物原料の利用による環境調和性と高級漆器
の高度な装飾性を初めて両立。
・通常の射出成形によって、様々な形状の漆器調製品
の量産が可能。
・さらに、強度・成形性等の実用性や光学的特性を
一層強化。
 今後、2020年に向け、様々な製品での利用を目指し、
パートナー連携を進めていく予定。
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