欧州の難民問題、ドイツもつらい

リサーチ TODAY
2016 年 9 月 7 日
欧州の難民問題、ドイツもつらい
常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創
トルコ情勢の緊迫化により、欧州の難民問題が袋小路に入りつつある。今年3月、EUとトルコは難民問題
に協力して取り組むことに合意した。みずほ総合研究所は、欧州の難民問題に関するリポートを発表して
いる1。下記の図表は3月につくられたEUとトルコの難民問題に係る合意である。この合意では、トルコから
EUに渡る難民申請者がギリシャで検挙された場合、その申請者をトルコが引き取ることになっている。同時
に、EUはトルコに送還された難民申請者の数に応じ、トルコからシリア人をEUに受け入れている。また、ト
ルコのEU加盟交渉の加速とトルコ国民がシェンゲン協定加盟国に入国する際の査証免除などを、EUがト
ルコに約束していた。しかし、トルコ情勢の緊迫化を受けてこの合意が破棄される可能性が高まっている。
図表に示した査証免除は対テロ法の改正が前提であったが、エルドアン大統領の反体制派の粛清で実現
が困難となった。
■図表:難民問題に係るEU・トルコの合意(2016年3月)
(資料)欧州委員会よりみずほ総合研究所作成
合意が破棄される可能性が高まる中、難しい立場に置かれたのがドイツである。ドイツは今年9月に一部
州で地方選、そして来年に総選挙を控えている。政府の難民対策を巡る不安から与党であるキリスト教民
主同盟(CDU)への支持率が過去1年にわたって低下傾向にある。欧州ではBrexitで英国が不在となり、フ
ランスの影響力が低下し、ドイツの影響力が強まる状況にあるが、そのドイツも国内問題を抱えており、欧州
の盟主としてのリーダーシップを発揮する状況になりにくい。そもそも、欧州各国の利害のなかで政治的な
利害の分断状況が生じやすい環境が続いている。
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2016 年 9 月 7 日
■図表 :ドイツの主要政党支持率の推移
(%)
CDU/CSU
50
グリーン
SPD
FDP
AfD
45
40
35
30
25
20
15
10
5
0
(年/月)
(資料) INSA、YouGov よりみずほ総合研究所作成
下記の図表はドイツの有権者のトルコへの見方を示したものである。トルコのクーデター未遂後、ドイツで
はトルコに厳しい見方をする有権者が増している。その結果、CDUやメルケル首相に対する有権者の批判
は強まりやすい。最近になって、トルコはロシアに再び接近している。こうした動きもEUへのけん制の動きと
いえるため、欧州からみると中東地域は一層不安定化しやすいだろう。難民問題は日本にとっては遠い国
の問題でなかなか実感を持ちにくい問題であるが、今日、欧州のなかは中心にある重要な問題であること
を日本人は認識する必要がある。
■図表 :ドイツの有権者のトルコへの見方
トルコ政府の
行動に反対
ドイツ政府は
トルコ政府の
決定に反対すべき
トルコはEUに
加盟すべき
ではない
74
76
78
80
82
84
86
88
90
92
(%)
(注)調査時点は 8 月初旬。
(資料)ARD よりみずほ総合研究所作成
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『みずほ欧州経済情報』 (2016 年 8 月号 2016 年 8 月 25 日)
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