更新日:2016/9/8 調査部:竹原 美佳 中国:国内原油生産減少、地方製油所(ティーポット)の台頭で原油輸入、石油製品輸出 増加の勢いは今後も続くのか? 中国の 2016 年 1-6 月(上半期)の原油生産は前年同期比 4.8%減(約 20 万 b/d 減)の 405 万 b/d であった。一方、原油輸入量は前年同期比 14.2%増の 750 万 b/d と高い伸びを示し、輸入依存度 は 64%に上昇した。 低油価により Sinopec や PetroChina などの国有石油企業は大慶(Daqing)や勝利(Shengli)などの コスト割れの陸上成熟油田の生産を抑制している。 政府は 2015 年以降地方製油所(ティーポット)の輸入原油使用権、原油輸入ライセンスの付与を 拡大した。ティーポットは原油輸入を増加、輸入の 2 割を占める存在に成長した。 ティーポットは国内石油製品需要の伸びを上回るペースで精製処理量を増やし 2016 年上半期は 国内市況が軟化した。国有石油企業は市場シェアを奪われ、余剰の石油製品輸出が加速した。 2016 年通年の生産は前年比 5.8%減(25 万 b/d 減)の 406 万 b/d となる見通しである。2017 年以 降の国内原油生産は油価と政策による。政府は生産縮小が雇用(社会不安)につながるまで対策 を講じないと思われる。低油価が続く場合、国内生産の減少を補てんするため原油輸入は増加 する可能性がある。 2016 年下半期は大手国有石油企業2社(Sinopec・PetroChina)が精製処理量を若干減少させる方 針を示しており、ティーポットの稼働率も下降気味であることから原油輸入や石油製品の輸出は 上半期に比べ落ち着くと思われる。 政府はティーポットの取り締まりを強化する姿勢を示しており、また 2016 年末公示予定のガソリン・ 軽油の品質基準強化に伴う投資増で一部のティーポットは影響を受ける可能性がある。しかしテ ィーポットは今後も原油輸入・精製処理量において一定の存在感を示していくと思われる。 1.国内原油生産 ~低油価による生産抑制で5年来の低水準~ (1)2016 年上半期の中国原油生産 2016 年 8 月、中国政府(国家発展改革委員会)は上半期の原油生産は前年同期比 4.8%減(約 20 万 b/d 減)の 1 億 45 万t(405 万 b/d)と述べた。6 月に発表された BP 統計によると、中国は世界第 5 位の 産油国で 2015 年の中国の原油生産量は前年比 1.5%増(6 万 b/d 増)の 431 万 b/d で、世界の生産量の 4.9%を占めていた。BP 統計の 2015 年の石油(原油+NGL)生産量に比べると上半期の生産は 26 万 b/d –1– Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの 投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責 任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 の減少である。2010 年以降中国の原油生産は 400 万 b/d を超えていたが、今年に入り原油生産が 400 万 b/d を下回る月が出現した。5 月の生産量は前年比 7.4%の減少の 399 万 b/d 、7 月の原油生産量は 前年同月比 8%減の 394 万 b/d で、2011 年 10 月以来の低さであった。これを受けて同国の原油生産は ピークアウトし、今後輸入が増加するのではないかという見方が浮上している。 (2)国有石油企業 3 社の国内原油生産 国内原油生産は国有石油企業 3 社(PetroChina・Sinopec・CNOOC)が 9 割を占める(図1)。低油価の 下 3 社はコスト削減や投資抑制を進めている。3 社の 2016 年の探鉱・開発投資額(予算)合計は 2015 年 比 11%減(48 億ドル減)の 395 億ドルであった。2015 年は前年比 33%減(217 億ドル減)の 443 億ドルであ り過去 2 年で 4 割投資額が減少している(図 2)。この削減幅はメジャーとほぼ同様である。 国有石油企業は政府の圧力により人員削減はほとんど行わずにコスト削減努力を続けている。大慶 (Daqing)や勝利(Shengli)油田などコスト割れの陸上成熟油田の生産を抑制している模様である。 国有石油企業 3 社合計の上半期の国内原油生産量は中国全体の生産量の 89%を占め、前年同期比 4.5%減(17 万 b/d 減)の 361 万 b/d であった。PetroChina の上半期の原油生産量は 1.4%減の 260 万 b/d であり、このうち国内生産は 4.2%減(9 万 b/d 減)の 213 万 b/d であった。Sinopec は同 11.4%減の 85 万 b/d で、国内生産は同 12.9%減(11 万 b/d 減)の 71 万 b/d であった。CNOOC は同 1.0%増の 112 万 b/d で、国内生産は渤海や南シナ海東部(香港沖合)の油田生産開始により前年同期比 4%増(3 万 b/d 増) の 78 万 b/d であった。海洋の増産は陸上の減産を補うには至らなかった。 図 1:中国の原油・天然ガス国内生産(2015 年) 新華社 China OGP、BP 統計等に基づき作成 2 国有石油企業3社探鉱開発投資額推移 (2012~2016年予算、百万ドル) 80,000 -4% 18% 60,000 -33% -11% 40,000 20,000 0 2012年 2013年 2014年 2015年 2016年(予算) 図 2:国有石油企業 3 社探鉱開発投資額推移 各社年報にもとづき作成 表 1:2016 年上半期の中国国内原油生産量 (万 b/d) 20161H 20151H PetroChina Sinopec CNOOC 3社計 中国計 222 81 75 378 426 213 71 78 361 405 増減(%) 増減(万b/d) -4.2% -9 -12.9% -11 4.0% 3 -4.5% -17 -4.8% -21 各社年報ならびに国家発展改革委員会公表値に基づき作成 2.石油需要 (1)2016 年上半期の石油需要 中国政府(国家発展改革委員会)は 8 月に 2016 年上半期の石炭、電力、石油、天然ガス需給につい て公表しており(参考①参照)i、石油需給において次のように述べている。2016 年上半期の生産は概ね 安定的に推移しており、輸入は大幅に増加した。また需要と油価の低迷等複数の要因により石油開発・ 精製企業の収益が明確に分かれたと述べている。原油生産は前年同期比 4.8%減の 1 億 45 万t(405 万 b/d)であった。低油価の下、企業は自主的にピークカットを実施した。原油輸入は 14.2%増の 1.86 億t (750 万 b/d)と大幅に増加し、対外依存度は 64%に上昇した。石油消費は軽油を除き概ね安定的に推移 しており、主要石油製品(ガソリン・軽油・ジェット燃料・重油)の消費は前年同期比 4.4%増の 1.41 億トン 3 (580 万 b/d)であった。このうちガソリンの消費は 13.7%増加し、軽油は 3.1%減少した。 国家発展改革委員会が指摘するガソリン消費の増加は乗用車販売の伸びから窺うことができる。上半 期の乗用車販売台数は前年同期比約 9%増加(95 万台増加)の 1,104 万台であった(図 7)。セダンの販 売は前年同期比 4%減(22 万台減)の 557 万台と引き続き低迷しているが、SUV の販売が前年同期比 45% 増(119 万台増)の 385 万台と伸びており、201 年以降 SUV が乗用車販売、ひいてはガソリン消費をけん 引している状況が続いている。 ただし IEA や業界紙などは中国の石油需要の伸びはもっと低いと見ている。8 月の IEA の Oil Market Report によると 2016 年上半期の中国の石油需要は前年同期比 1.5%増(17 万 b/d 増)の 1,152 万 b/d で ある(2016 年通年では 1.7%増<20 万 b/d 増>の 1,164 万 b/d)。また Platts によると上半期の石油需要は 前年比 0.1%減であり、2016 年通年の石油需要の伸びは 1%未満にとどまるという見方がある ii。 中国の上半期乗用車販売増減(万台) 14年1H 15年1H 16年1H 140 120 100 80 60 40 20 0 -20 -40 -60 図 3:中国の乗用車販売台数増減、中国汽車工業協会に基づき作成 参考①2016 年上半期の石炭、電力、石油、天然ガス需給のポイント 1.石炭生産は減少、生産能力削減進展 ・石炭の生産量は前年同期比 9.7%減の 16.3 億トン、 価格は年初から 50 元/トン上昇、 消費は 5.1% 減の 18.2 億トン。 2.石油・天然ガスの生産は概ね安定、探鉱開発と精製企業の収益に明暗 ・原油生産は前年同期比 4.8%減の 1 億 45 万t(405 万 b/d)。低油価の下、企業は自主的にピー クカットを実施。原油輸入は 14.2%増の 1.86 億t(750 万 b/d)で対外依存度は 64%。 4 ・天然ガスの生産は前年同期比 2.9%増の 67.5BCM。輸入は同 21.2%増の 35.6BCM で対外依存 度は 35%。 ・石油消費は軽油を除き安定的に推移。主要製品の消費は前年同期比 4.4%増の 1.41 億t(576 万 b/d)。ガソリン消費は同 13.7%増、軽油は同 3.1%減。 ・2016 年 1~5 月の石油精製加工業の税引き前利益は前年同期比 2.5 倍の 721.1 億元、石油・天然 ガス採掘業の利益は前年同期の 497.1 億元に対し純損失 376.8 億元で採掘業の経営圧力が増加。 3.電力業界は非化石エネルギーの発電が伸び、石炭火力発電企業の利益に下方圧力 ・電力消費は前年同期比 2.7%増の 2.78TWh。第 3 次産業(同 9.2%増)と家庭(同 7.7%増)の消 費が伸長。 ・非化石エネルギーの発電量は前年同期比で水力が 15.3%、原子力が 25.6%、風力が 24.4%増加 ・火力発電の設備利用時間の減少傾向が続く。2015 年は 1969 年以来最低の 4329 時間であったが、 2016 年上半期は前年同期比 194 時間減少しており 2016 年通年は 4000 時間を下回る見通し。 4.運輸(貨物輸送)は概ね安定、鉄道輸送が好転、港湾の貨物取扱量も小幅な増加 ・貨物輸送量は前年同期比 3.1%増の 197.4 億トン ・鉄道輸送は石炭を除く、鉱石、コークス、鉄鋼、木材等の物資輸送が増加。小口貨物(快運)は 前年同期比 94%増、大口貨物(快運)は同 24.9%増、コンテナは同 40.3%増 ・港湾の貨物取扱量(一定規模以上)は前年同期比 2.2%増の 58 億トン 国家発展改革委員会「煤电油气运适应供需形势变化 有效保障经济社会发展需要」(2016 年 8 月 8 日)に基づき作成 http://zys.ndrc.gov.cn/xwfb/201608/t20160808_814154.html (2)ティーポットの台頭と原油輸入の増加 ①2016 年上半期の原油輸入増加の要因はティーポット 中国海関統計によると2016年上半期の原油純輸入量は前年同期比14%増(89万b/d 増)の 748万b/d と大幅に増加した。原油輸入増加の要因として国内原油生産の減少だけではなく、地方製油所(ティー ポット)による輸入の増加があげられる。地方製油所は Sinopec 等が操業する主要製油所の処理能力が 20 万b/d 以上、浙江省鎮海など大型の製油所が 40 万b/d 以上であるのに対し精製処理能力が 5 万b/d ~15 万 b/d と比較的小規模であるため英語で“teapot”と称されることが多い。ちなみに中国語では地方 煉廠(製油所)の略語である“地煉”と称されることが多い。 BP 統計や国有石油企業各社の年報によると、2015 年の中国の精製処理能力は 1,426 万 b/d、精製処 理量は 1,066 万 b/d である。国有石油企業 3 社(PetroChina・Sinopec・CNOOC)が精製処理能力と処理 量の約 7 割を占める。ティーポットは主に山東省に位置しており、新華社 China OGP によると 2016 年上 半期は原油輸入全体の 8.4%に相当する 63 万 b/diiiの原油を輸入した。 5 ②重油処理から輸入原油処理に転じたティーポット 中国の原油輸入、石油製品輸出はライセンス・割当制である(参考②、③参照)。ティーポットは 2015 年までは輸入原油使用権および原油輸入ライセンスを保有しておらず、輸入原油の使用は限定的で製 油所の稼働率も 3 割程度にとどまっていた。ティーポットは原油の調達が思うようにできないため、硫黄 分の高い重油を調達し、二次処理により軽油などを生産していたが、小規模な精製設備による非効率な 操業と環境負荷の高い製品の生産が問題となっていた。中国政府は国有石油企業の独占打破、環境負 荷の軽減、エネルギー利用効率の向上の観点から、2015 年に国家の基準に満たない 4 万b/d 以下の精 製設備の淘汰と、国家基準(国 5)に合致するガソリンや軽油を生産することなどを条件にティーポットに 対する輸入原油使用権および原油輸入ライセンスの付与を拡大した。2016 年 8 月までに 20 社が計 151 万 b/d の輸入原油使用権(うち 15 社、計 104 万 b/d は山東省)を取得している(表2)。また 20 社中少な くとも 13 社が原油輸入ライセンスを保有している。輸入原油使用権 150 万 b/d は 2015 年の原油輸入量 の 2 割に相当する。輸入原油使用権を取得したことによりティーポットの製油所の稼働率は 2016 年に入 りそれまでの 30%程度から 50%に上昇した。 参考②:中国の原油輸入、石油製品輸出(ライセンス・割当制) 2012 年に国有企業以外(非国家貿易)の原油輸入が認められ、割当量は 2002 年の 828 万トン(17 万 b/d)から 2015 年には 3,760 万トン(75 万 b/d)に増加した。割当は毎年 11 月に申請受付が行われる。 申請には輸入実績をもつか輸入原油使用権を持ち、5 万トン以上の原油輸入埠頭と 20 万 m3 の原油貯 蔵タンクを保有しているなどの条件を満たしている必要がある。 参考③:輸入原油使用権 国家発展改革委員会が 2015 年 2 月に発表した「輸入原油使用管理の問題に関する通知」ivにより、条 件を満たせば輸入原油の使用権を取得することが可能となった。基本的な条件は①単系列で 200 万t/ 年(4 万 b/d)以上の常圧蒸留装置<トッパー>を保有すること、②国家基準に合致したガソリン・軽油の生 産(国 5 基準:<ユーロⅤ相当、硫黄含有 10ppm 以下>が可能であること、③単系列で 4 万 b/d 未満ある いは環境基準に満たない小規模・老朽設備を廃棄することの 3 点である。 申請の流れは①必要書類を国家発展改革委員会(NDRC)に申請する。②中国石油化学工業協会 (CPCIF)が評価、現地調査。現地調査実施後 7 日以内に評価結果を公表する。③NDRC が輸入原油使 用割当量を付与する。④精製事業者は同割当量を上限として商務部に原油輸入ライセンスを申請、承 認を得る。 なお、その年の原油輸入割当量上限(quotas)は翌年に持ち越すことはできない。しかし翌年の割り当 て量が付与される前に原油の調達(予約)を行うことは可能である。割り当て付与前に原油が届いた場合 は保税倉庫に貯蔵する。 (「中国の石油産業と石油化学工業 2015 年版」東西貿易通信社他に基づき作成) 6 表 2:ティーポットに付与された輸入原油使用権と精製処理能力(2016 年 8 月 24 日現在) 企業 原油輸入使用 権* (万b/d) 精製処理能力 輸入原油使用 原油輸入ライセ 廃棄/再編義 権承認時期 ンスの有無 務処理能力(万 b/d) 1 遼寧 盤錦北方 (Panjin Beifang) 14 14 2015年6月 有 12 2 山東 東明石化 (Dongming) 15 15 2015年7月 有 12 3 山東 中化弘潤 (Sinochem Hongrun) 11 11 2015年7月 レーダーの 無(親会社国有ト 7 Sinochemが保有) 4 山東 墾利石化集団 (Kenli) 5 6 2015年7月 有 4 5 山東 利津石油化工廠 (Lijin) 7 7 2015年7月 有 5 6 山東 東営亜通石化 (Yatong) 7 7 2015年7月 有 1 7 寧夏 宝塔石化 (Baoda) 12 15 2015年8月 有 2 8 山東 匯豊石化 (Huifeng) 8 12 2015年12月 有 9 山東 天弘化学 (Tianhong) 9 10 2015年12月 有 7 10 山東 寿光魯清石化 (Shouguang) 5 6 2015年12月 有 4 11 山東 山東京博石油化工 (Jinbo/Chambroad ) 7 7 2015年12月 有 5 12 山東 東営斉潤化工 (Dongying Jirun) 4 4 2016年1月 有 4 13 陝西 陝西延長 7 35 2016年1月 無 7 14 山東 海右石化 (Haiyou) 6 7 2016年4月 有 5 15 河南 豊利石化 (Fengli) 6 7 2016年1月 無 1 16 河北 鑫海化工 (Xinhai) 7 7 2016年5月 無 1 5 5 2016年4月 無 4 17 山東 无棣鑫岳 (Wuli Xinyue) 18 山東 山東恒源 (Hengyuan) 7 7 2016年5月 無 8 19 山東 山東清源 (Qingyuan) 8 10 2016年8月 無 5 20 山東 山東神馳 (Shenchi) 5 5 2016年8月 無 4 151 192 合計 中国石油化学工業連合会、国家発展改革委員会、新華社 China OGP に基づき作成 7 94 (3)ティーポットによる供給過剰加速、記録的な石油製品輸出 ①2016 年上半期の石油製品純輸出、史上最高水準に 中国海関統計によると 2016 年上半期の石油製品純輸出量は前年同期のマイナス 100 万トン(4 万 b/d)から 698 万トン増加し 598 万トン(約 24 万 b/d)であった。石油製品の純輸出は 2014 年頃から断続 的に発生していたが 2015 年 7 月以降恒常化した(図 4)。 石油製品輸出入(2013年1月~2016年7月、万b/d) 80 純輸出が恒常化 60 40 20 -20 -40 -60 -80 7月 5月 3月 1月 11月 9月 7月 5月 3月 1月 11月 9月 7月 5月 3月 1月 11月 9月 7月 5月 3月 1月 -100 図 4:中国の石油製品輸出入(2013 年 1 月~2016 年 7 月)、海関統計に基づき作成 ②軽油の輸出は構造的な余剰 石油製品のうち、特に輸出が増えているのが軽油である。余剰の軽油輸出は 2015 年頃から増加して いたが 2015 年下期以降特に増加が顕著である(図 5)。経済減速により軽油消費の伸びが鈍化した一方 でガソリンとジェット燃料の消費が伸びており、軽油に余剰が生じたためだ。Sinopec などの製油所は 徐々にガソリンの生産比率を増やしている。「2014 国内外油気行業発展報告」(石油工業出版社)による と、ガソリンと軽油の消費比率は 2000 年の 1:1.94 から 2014 年の 1:1.64 に低下し、ガソリンと軽油の生産 比率は 2000 年の 1:1.71 から 2014 年の 1:1.61 に低下した。また Sinopec の 2016 年上半期実績によると ガソリンと軽油の生産比率は 2015 年上半期の 1.33 から 16 年上半期は 1.17 に低下した。ガソリンとジェ ット燃料の生産はそれぞれ前年同期比 3.7%、3.4%増加の一方で軽油の生産は 8.1%減少となっている。し かしそれでも余剰が生じてしまうため軽油の輸出を増加している。 8 1,600 1,400 千トン 1,200 1,000 800 600 400 200 1月 2月 3月 4月 2013年 5月 6月 2014年 7月 8月 2015年 9月 10月 11月 12月 2016年 図 5:軽油の輸出(2013 年 1 月~2016 年 6 月) 新華社 China OGP に基づき作成 ③ガソリンの輸出の増加はティーポットによる生産増加が一因 ガソリンの輸出は 2015 年後半から増加している(図 6)。ガソリン輸出増加の一因にティーポットによる ガソリン生産の増加があげられる。前述の通りティーポットは輸入原油使用権を得たことで重油の二次処 理ではなく原油を直接処理するようになった。Platts によると 2016 年 7 月の山東省ティーポットの輸入原 油処理量が原料(重油を含む)消費に占める割合は 73%で前年同月の 44%に比べ大幅に増加した。原油 の直接処理が増加したことにより原料の軽質化が進み、ナフサやガソリン等の軽質製品の生産が増加し た v。これにより国内のガソリン市況が緩み、Sinopec などがガソリンの輸出を増加した模様である。 1,200 千トン 1,000 800 600 400 200 1月 2月 3月 4月 2013年 5月 6月 2014年 7月 2015年 8月 9月 10月 11月 12月 2016年 図 6:ガソリンの輸出(2013 年 1 月~2016 年 6 月) 新華社 China OGP に基づき作成 9 3.今後の見通し (1)国内原油生産 ①2016 年通年の国内原油生産の見通し 2016 年通年の原油生産減少は上半期よりも拡大する可能性がある。上半期の実績報告において PetroChina と Sinopec はそれぞれ 2016 年の原油生産目標を年初から下方修正した。PetroChina は前年 比 4.5%減、Sinopec は同 9.3%削減することを表明している。CNOOC は生産目標の見直しは行わなかっ たが、投資削減により生産量は前年比 2.2~5.2%減少する見通しである。NOC 各社の生産削減(減少) 方針をもとに計算すると中国全体の 2016 年の生産量は前年比 5.8%減(25 万 b/d 減)の 406 万 b/d とな る(表 3)。なお IEA は 8 月のオイルマーケットレポートにおいて 2016 年の中国の生産量を前年比 6%減 の 407 万 b/d と見ている。 表 3:2016 年の中国国内原油生産量推計 PetroChina Sinopec CNOOC その他 中国計 2016年 16年増減 16年増減 2015年 2014年 2013年 (推計) (推計%) (推計) 218 226 221 211 -4.5% (10) 85 85 90 82 -9.3% (8) 61 63 76 73 -4.1% (3) 49 46 43 40 -7.7% (3) 414 420 431 406 -5.8% (25) 各社年報ならびに国家発展改革委員会公表値に基づき作成(CNOOC は生産減少見通し中間値、そ の他は上半期の減少を基に算出) ②2017 年以降の国内原油生産の見通し 2017 年以降の生産は油価と政策による。これまで中国政府は石油の輸入比率が高まることはエネル ギー安全保障上問題があるとして国内の供給拡大を奨励していた。しかし現在国有石油企業が自主的 に行っている生産調整について政府は座視している。政府は生産縮小が油田の雇用を維持できなくな る規模に拡大し、社会不安の懸念が生じるまで対策を講じない可能性が高いという見方がある。当面は 国内生産の減少を補てんするため原油輸入が増加する可能性がある。 (2)精製処理量と原油輸入、石油製品の輸出 ①大手国有石油会社(Sinopec と PetroChina)の動向 Sinopec と PetroChina はいずれも 2016 年下半期の精製処理量を若干減少させる計画である。Sinopec は 下半期の国内市場はティーポットの精製処理量の増加で国内市場が過剰であり、精製処理量を前年同 10 期比 2.5%減の 120 百万トン(476 万 b/d)とする計画である。また PetroChina も下半期は雲南省の製油所 (26 万 b/d)が操業開始予定だが、精製処理量は前年比 2.2%減の 986.4 百万バレル(270 万 b/d)とする 計画である。したがって大手 2 社の原油輸入量は上半期ほど高くはないと思われる。 ②ティーポットの動向 ティーポットの原油輸入・精製処理量増加は2016年上半期の精製マージンが比較的高かったことも影 響しており下半期の原油輸入・精製処理量は上半期に比べ若干減速する可能性がある。Platts によると ティーポットの精製処理量は 2016 年 4 月をピークに少しずつ下がっており、1 月以降 50%超を維持して いた稼働率も 50%を下回ったという。また政府のティーポットへの取り締まりの強化により下期の原油輸入 に影響が生じる可能性がある。 2016 年 8 月に輸入ライセンスを付与する国家発展委員会はティーポットを対象に調査を行い、規格外 の製油所を運転している、あるいは税務調査で脱税等が発見された場合輸入原油使用権を取り消すと 表明した。また政府は 2016 年 6 月にガソリン、軽油の排出制限値および測定に関する第 6 段階(国 6: Euro6 相当 vi)国家標準規格に関する「意見募集稿」を公示した。意見募集は 7 月 22 日までで、2019 年 1 月から全国に導入する見通しである。硫黄分含有の条件は 10ppm 以下で 2013 年に基準が公示され、 2018 年 1 月から全国に適用予定の国 5vii(Euro5 相当)と変わらないが、排出規制値が g/km から mg/ km になるなどより厳しくなり、企業規模の小さいティーポットにおいて新たな設備投資が負担となるかも しれない。 ティーポットの一部は影響を受ける可能性があるが、一方で地方政府が雇用や地方経済に貢献して いるティーポットを保護するため大勢に影響はないという見方もある。油価や精製マージンに左右される が、ティーポットの原油輸入・精製処理量は総体的には現在のトレンドが当面続くと思われる。 ③石油製品の輸出 大手国有石油企業 2 社(Sinopec・PetroChina)が精製処理量を若干減少させる方針を示しており、第 3 期(7~9 月)は石油製品輸出枠申請が前 2 期に比べ低いことから石油製品の輸出は上半期に比べ落ち 着くと思われる。 石油製品の輸出は 1 年毎の割り当て制である。2016 年 7 月までに第1~3 期(1~9 月)までの石油製 品輸出枠が公表されている(表4)。第1 期の石油製品輸出枠は 2,093 万トンで内訳はガソリンが 463 万ト ン(利用率 40%)、軽油が 805 万トン(利用率 34%)、ジェット燃料が 825 万トン(利用率 36%)であった。 第 2 期の石油製品輸出枠は 1,115 万トンで内訳はガソリンが 344 万トン(利用率 75%)、軽油が 571 万ト 11 ン(利用率 68%)、ジェット燃料が 535 万トン(利用率 53%)であった。第 1 期に比べ第 2 期の利用率が高 い。 7 月に第 3 期の石油製品輸出枠が発表された。第 3 期の製品輸出枠は 604 万トンで内訳はガソリンが 270 万トン、軽油が 210 万トン、ジェット燃料が 124 万トンである。第 2 期にナフサの輸出枠割り当てが 90 万トンあったが今回は申請がなかった。また政府は 2016 年以降独立系精製事業者(ティーポットリファイ ナリー)にも石油製品輸出枠を付与(第 1 期は 5 社計 430 万t、2 期は 7 社計 490 万t)した。しかし実際に 輸出を行ったのは 5 社のみである。また製品需要軟化を受けてティーポットによる第 3 期の輸出枠申請 は 4 社計 335 万tにとどまっている。 表 4:2016 年の石油製品輸出枠 (単位:千トン) 1期 輸出実績 利用率 2期 輸出実績 利用率 3期 ガソリン 4,630 1,864 40% 3,440 2,587 75% 2,695 軽油 8,050 2,771 34% 5,710 3,818 67% 2,100 ナフサ 25 90 - ジェット燃料 8,250 2,943 36% 5,350 2,809 53% 1,240 計 20,930 11,150 6,035 新華社 China OGP(2016/7/15)に基づき作成 i煤电油气运适应供需形势变化 ii iii 有效保障经济社会发展需要(国家発展改革委員会 2016 年 8 月 8 日) Platts 2016/8/1 China OGP 2016/8/1 iv国家发展改革委关于进口原油使用管理有关问题的通知 (国家発展改革委員会 2016 年 2 月 9 日) Platts 2016/8/1 Euro6(乗用車・小型商用車:mg/km):THC(全炭化水素)100、NMHC(メタン以外の炭化水素) 68、CO1000、NOx60、PM4.5 vii 国 5(乗用車:g/kg):THC0.1、NMHC0.068、NOx0.06、PM0.0045 v vi 12
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