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明石市の障害者施策-差別を解消する条例づくりに学ぶ
伊藤久雄(認定NPO法人まちぽっと理事)
8 月 19 日に明石市を訪ねた。説明は福祉部福祉総務課障害者施策担当の金担当課長と青
木担当課長のお二人から受たが、後半には泉市長自ら熱心に質問に答えてくれた。金担当
課長も曽木担当課長も任期付き公務員として任用された方である(金さんはDPI出身、
青木さんは弁護士。なお明石市には弁護士の任期付き公務員 7 人を含め、10 人の専門職の
任期付き公務員がおられるとのこと)。
泉房雄明石市長は元衆議院議員だったが、2011 年 4 月に明石市長に初当選、現在 2 期目
である。市長は 4 歳下の弟さんが障害を持っておられ、弟さんの小学校入学時から国の政
策に強い憤りを持ってこられた由。障害者施策には信念というか、太い筋が通っているこ
とがお話の随所で伺われた。
お話を伺ったのは次の 3 つの条例と、施策の内容である。3 つ目の条例は、当日に行って
初めて知ったことであり、このような条例が自治体の信念さえあればできるのだというこ
とが、よく分かった次第である。
●
手話言語・障害者コミュニケーション条例(手話言語を確立するとともに要約筆記・
点字・音訳等障害者のコミュニケーション手段の利用を促進する条例
https://www.city.akashi.lg.jp/fukushi/fu_soumu_ka/syuwa/documents/shuwa_jour
ei_normal.pdf
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障害者配慮条例(障害者に対する配慮を促進し誰もが安心して暮らせる共生のまちづ
くり条例)
https://www.city.akashi.lg.jp/fukushi/fu_soumu_ka/sabetsu/documents/hairyo_j
oubun_normal.pdf
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明石市職員の平等な任用機会を確保し障害者の自立と社会参加を促進する条例
https://www.city.akashi.lg.jp/seisaku/kouhou_ka/shise/shicho/kaiken/document
s/20160217_shiryou6.pdf
1.手話言語・障害者コミュニケーション条例の施行と施策の実施
まず明石市は、次のような「わかりやすいパンフレット」を作成し、配布している。
○
わかりやすい版パンフレット
https://www.city.akashi.lg.jp/fukushi/fu_soumu_ka/syuwa/documents/pr4p.pdf
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<手話言語・障害者コミュニケーション条例の施行に伴う施策>
手話言語・障害者コミュニケーション条例の施行に伴う施策は以下のとおり。
◇
市内すべての小学校で手話教室を開催
◇
手話検定などを活用した職員手話研修の実施
◇
手話通訳士の資格を持った正規職員の採用
◇
市後援行事での手話通訳者・要約筆記者配置費用の助成
◇
タブレット端末を使った遠隔手話通訳サービスの実施
◇
その他の取組
・手話通訳者・要約筆記者派遣事業実施要綱の見直しによる対象範囲の拡大
・手話通訳者・要約筆記者派遣事業に係る報酬額の見直し
・視覚障害者用日常生活用具給付の拡大
・条例を含む市政情報の「わかりやすい版」パンフレットの作成
・視覚障害者向け点字対応の充実
・市立図書館における障害者サービスの拡充
・災害ハザードマップの音訳・点訳
2.全国初の合理的配慮の提供を支援する助成制度
明石市の障害者配慮条例の施行に伴う施策は、商業者などにも点字メニューの作井費用
や、コミュニケ―ションボードの購入費用、折りたたみ式スロープの購入費用などを助成
し、市民(利用者)や商業者双方が納得ずくの施策を行っている。合理的配慮の提供を支
援する助成制度は、全国初のものだ。
<障害者配慮条例の施行に伴う施策>
民間事業者や地域の団体が過重な負担を理由として合理的配慮の提供を断念することが
ないよう、提供に際して発生する経済的負担を助成し、主体的な取り組みを支援する制度
として、合理的配慮の提供を支援する助成制度を新たに設けた。
合理的配慮の提供を支援する助成制度
https://www.city.akashi.lg.jp/fukushi/fu_soumu_ka/sabetsu/joseikin.html
1:制度を利用できる団体
(1)商業者など民間の事業者
(2)自治会など地域の団体
(3)サークルなどの民間団体
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2:助成の対象になるもの
合理的配慮を提供しやすくするために環境整備にかかる費用で、次のもの。
・コミュニケーションツールの作成費(上限額 5 万円までは全額助成)
・点字メニューの作成費用、チラシ等の音訳にかかる費用、コミュニケーションボード
の作成費用 など
・物品の購入費(上限額 10 万円までは全額助成)
折りたたみ式スロープや筆談ボードなどの購入費用
・工事の施工費(上限額 20 万円までは全額助成)
簡易スロープや手すりなどの工事にかかる費用
3.障害者職員採用の取組み
3 番目の条例(明石市職員の平等な任用機会を確保し障害者の自立と社会参加を促進する
条例)は、直接的には身体障害者以外の、精神や知的障害者を採用する取組である。今年
度に向けた採用は全国公募し、93 人の応募があったということである。
神戸新聞 NEXT(2016/2/17)
明石市、被後見人も受験可能に
独自の条例案提出へ
http://www.kobe-np.co.jp/news/shakai/201602/0008813888.shtml
面接は関係団体に委託して行ったということである。2 名程度の枠を用意したが実際に採
用したのは現業職として採用した 1 名ということだった。
4.私が考える明石市の障害者施策の特徴
以下、視察を踏まえた特徴について考えてみた。
市長の信念とリーダーシップ
1:泉市長の揺るぎのない信念とリーダーシップは、少なくとも障害者施策をすすめる全
国の自治体の中でも他に例をみないと思われる。その信念の一端は次の言葉に表れてい
ると思う。「手話によるコミュニケーションは、ろうあ者にとってだけのものではない。
健常者がろうあ者とコミュニケーションをとるためにも必要なことだ」。
2:専門家の短期付き任用による採用
職員の専門性を補うために、積極的に短期付き公務員制度雄を活用していることであ
る。これも他にあまり例をみあいのではないか。弁護士が 7 人もいることは驚きである
し、金担当課長はじめ福祉の専門職(3 人)も全国公募で採用されている。
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3:社会福祉の普遍主義
Yahoo!Japan ニュースのインタビュー記事の中で、市長は次のように述べている。
『貧困家庭の子どもたちだけをターゲットに施策を打っているつもりはない。明石市の
対象はあくまで「すべてのこどもたち」です。すべての子どもの発達と未来を保障しよ
うとすると、残念ながら漏れやすい、行政サービスが届きにくい、また不遇な状態で育
たざるを得ない子どもたちが出てくる。それを防ごうとすると、結果的に対象者が貧困
家庭の子どもとなることがある。そういうことです』。
この考え方は、社会福祉の普遍主義そのものだと思う。
4:商業者への協力の呼びかけ方
障害者施策、なかんずく「合理的配慮を提供」を商業者に求めるためには、行政から
の一方的な協力要請だけでは動かない。明石市の「合理的配慮の提供を支援する助成制
度」はまさに商業者に税金(明石市予算)で合理的配慮を提供してもらう仕組みである。
市長は「三方一両得」といっていたと思う。つまり、行政、障害者、商業者がそれぞ
れ利益になる施策だということである。
5.条例策定と施策展開が遅れている東京
東京都と都内自治体は手話言語条例、障害者差別解消条例とも取組みが遅れている。ま
ず、手話言語条例は別紙(図および表、明石市提供))のとおり、47 自治体が制定している
(36 市、5 町、6 件)。なお全日本ろうあ連盟の調査によれば制定自治体は 52 になる(こに
うち、明石市のような手話言語・情報コミュニケーション条例は、明石市のほか習志野市、
兵庫県小野足市の 3 自治体)。しかし、東京都をはじめ、都内自治体で制定した自治体はな
い。
なお、今年(2016 年)6 月 8 日に全国手話言語市長会設立総会&手話言語フォーラムが
開催され、泉明石市長が事務局長に就任したが、この全国手話言語市長には全国から 263
市区長が会員となったが、東京都からも 9 人の市区長が参加している。千代田区、港区、
文京区、世田谷区、練馬区、武蔵野市、府中市、小金井市、狛江市の各市区長である。願
わくば、これらの市区においてまず手話言語条例、できれば手話言語・情報コミュニケー
ション条例の制定を早急にすすめて欲しいと思う。
障害者差別解消条例は、障害者差別解消法の施行を踏まて、今年 4 月 1 日施行の条例が
急速に増加した(別紙のとおり、さらに、明石市提供)。明石市提供の資料に加えて、以下
の条例が施行されている。
・山形県障がいのある人もない人も共に生きる社会づくり条例(2016 年 4 月 1 日施行)
・和歌山市障害者差別解消推進条例(2016 年 4 月 1 日施行)
・大阪府障がいを理由とする差別の解消の推進に関する条例(2016 年 4 月 1 日施行)
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・障がいのある人もない人も暮らしやすい徳島づくり条例((2016 年 10 月 1 日施行、一
部交付日施行)
しかがって、差別解消法施行以前の 15 条例に加えて、現在 33 条例になる。また、次に
ように松江市が条例可決、10 月施行となっており、宝塚市が条例案のパブリックコメント
中ということになっている。
・松江市障がいのある人もない人も共に住みよいまちづくり条例 (2016 年 10 月 1 日施
行)
・宝塚市障害者差別解消に関する条例(案)
(2016 年 8 月 8 日から 9 月 7 日までパブリッ
クコメント)
都内自治体では別表にあるように、八王子市と国立市が条例を制定、施行している。東
京都をはじめ他の市区町村も条例制定を目指さなければならない。
<別表 PDF>
(いずれも明石市提供)
◇
手話言語条例
成立状況一覧(2016 年 5 月 25 日現在)
◇
障害者差別解消条例
一覧
(この一覧以降、4 条例施行、本文参照)
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