Contact 2016年株主総会における CGコード対応と議決

EY Institute
08 September 2016
シリーズ:企業価値向上のためのコーポレートガバナンス
2016年株主総会における
CGコード対応と議決権行使の分析
∼TOPIX100構成銘柄に見る企業と投資家の変化∼
執 筆 者
EY総合研究所では、「シリーズ:企業価値向上のためのコーポレートガバナンス」
と題して、関連する情報を発信している。 本稿においては、2016 年 3月から6月に
実施された株主総会における、主要企業の取り組みと議決権行使結果について取り
上げる。
はじめに
2015 年 6月にコーポレートガバナンス・コード(以下、 CGコード) ※1が適用開始
藤島 裕三
EY 総合研究所株式会社
未来経営研究部長
主席研究員
となり、 3月決算の上場会社は同年12月下旬までの間で、新書式によるコーポレート
ガバナンス報告書を提出するという、いわゆるCGコードの初期対応を完了させた。
これを受けて2016 年 6月の総会シーズンは、上場会社においては情報開示など投資
家対応を進展させた例が、投資家においては議決権行使のスタンスに見直しを行った
例が、少なからず見聞きされた。
そこで本稿では、 TOPIX100 の構成銘柄をサンプルとして、企業による株主総会
<専門分野>
• コーポレートガバナンス
• 組織経営
前の取り組み(情報開示の充実、コーポレートガバナンスの強化)、および投資家に
よる議決権行使の賛否データを分析する。同サンプルは2016 年3 -6月に総会を開催
した98 社 ※2(以下、分析対象企業)としており、分析によっては過去データを比較
的容易に取得できる範囲に限定した。 なお、以降の考察については、特に断りのな
い限り、 6月に総会を開催した企業を想定したものとする。
Contact
EY 総合研究所株式会社
03 3503 2512
[email protected]
情報開示の充実(招集通知)
分析対象企業のうち93 社 ※3について、招集通知を発送前に東証ウェブサイト※4で開示した社数
の推移を追った<図1>※5。 CGコード(原案)の公表以前である2014 年に開示したのは10 社に
すぎなかったが、CGコードが適用開始された直後の2015 年は66 社と急激に増加、さらに初期対
応後の 2016 年においては88 社に達した。その結果、発送日に対する平均開示日は5 . 3日前となっ
ている。なお、総会開催日に対する平均発送日は22 . 2日なので、発送前開示によって合計で平均
27.5日の猶予を投資家に提供したことになる。
図 1 招集通知の開示日(発送日と比較)
40社
2014年(平均0.0日前)
2015年(平均3.6日前)
2016年(平均5.3日前)
30社
20社
10社
0社
-18日
-16日
-14日
-12日
-10日
-8日
-6日
-4日
-2日
+0日
+2日
+4日
出典:東証ウェブサイトよりEY総合研究所作成
次に同じく93社について、英文招集通知を東証ウェブサイトで開示した社数を比較した<図2>※6。
2014年で既に82社と9割弱あったが、さらに増え続けて2016年は88社にまで達している。少な
くとも(TOPIX100に採用されるような、以下同様)主要企業においては、招集通知の英訳は一般
化していると言えよう。
図 2 英文招集通知の開示状況
100%
無, 11社
6社
5社
有, 82社
87社
88社
2014
2015
2016
80%
60%
40%
20%
0%
出典:東証ウェブサイトよりEY総合研究所作成
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2
2016年株主総会におけるCGコード対応と議決権行使の分析
∼TOPIX100 構成銘柄に見る企業と投資家の変化∼
コーポレートガバナンスの強化
分析対象企業について、独立役員である社外取締役(以下、独立社外取締役)の選任状況を確
認した<図 3>※7。 独立社外取締役の平均人数は3 . 6 人と5 年間で1 . 6 倍、昨年と比較して0 . 5 人
の増加となった。 取締役会に占める割合は31 %に達しており、 3 分の 1をクリアした会社は46 社と
半数近くに上った。ここでも主要企業に限定する限り、 CGコードが期待する水準( 3 分の 1 )を充
足するケースは珍しくなくなっている
図 3 独立社外取締役の人数・割合
40%
4人
人数
割合
31%
3人
2人
1人
0人
20%
24%
21%
2.3
2.5
2.8
2012
2013
2014
30%
27%
3.6
3.1
20%
10%
2015
2016
0%
出典:日経ValueSearchよりEY総合研究所作成
次に指名委員会等設置会社を除く88 社について、指名・報酬に関する任意諮問委員会の設置状
況を見る※8。指名が57 社、報酬が58 社で設置されており、共に約7 割に達している。いずれも平
均人数は4 . 9 人で、過半数を社外取締役が占めている<図 4>。議長を社外取締役が務めている例
も、指名で32 社、報酬で36 社あり、社外取締役を活用する意識を見て取ることができる。
図 4 指名(左)/報酬(右)に関わる任意諮問委員会の人員構成
社外有識者,
0.04人
社外有識者,
0.1人
その他,
0.4人
任意指名委員会
(平均:4.9人)
社内取締役,
1.8人
社外取締役,
2.6人
その他,
0.4人
社内取締役,
1.8人
任意報酬委員会
(平均:4.9人)
社外取締役,
2.6人
出典:日経ValueSearchよりEY総合研究所作成
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2016年株主総会におけるCGコード対応と議決権行使の分析
∼TOPIX100 構成銘柄に見る企業と投資家の変化∼
議案別の議決権行使結果
2016 年 3 -6月の株主総会においては、分析対象企業(98 社)によって、1 , 333 の会社提案、
43の株主提案が上程された(役員選任議案は候補者ベース)。以下、主要議案別に平均賛成率を
見る<図5>。
図 5 議案別の議決権行使結果(2016 年 3 -6月株主総会)
議案
2016 年
社数
議案数
賛成率
社数
2015 年(参考)
議案数
賛成率
剰余金処分
71
71
96.9%
74
74
96.9%
取締役選任
96
1,008
95.5%
91
975
95.4%
4
18
94.4%
2
8
88.3%
監査役選任
63
128
95.0%
68
154
93.1%
定款変更
32
36
97.9%
49
51
97.6%
監査等委員専任
退職慰労金
0
0
-
1
1
89.7%
役員報酬額
9
12
97.7%
7
9
96.0%
賞与
21
21
95.9%
27
27
95.4%
新株予約権
15
21
91.0%
15
18
93.1%
株式信託
6
7
91.9%
4
4
95.8%
買収防衛策
4
4
67.9%
3
3
69.2%
組織再編
2
2
99.0%
0
0
-
会計監査人選任
3
3
98.5%
0
0
-
その他
2
2
99.1%
6
6
96.5%
会社提案
98
1,333
95.5%
98
1,330
95.2%
株主提案
6
43
11.6%
9
87
12.4%
出典:日経ValueSearchよりEY総合研究所作成
否決された会社提案はなく、大半のケースで95 % 前後の賛成率を獲得している。一方で買収防
衛策の継続議案は賛成率が70 % 未満と極端に低く、また新株予約権(ストックオプション)と株式
信託の賛成率が90 %を若干上回る程度に止まった。特に後者については、社外取締役や監査役に
インセンティブ報酬を付与する内容の議案に、反対票が集まったためと考えられる。なお例年多く
の反対票を集める退職慰労金関連の議案については、打ち切り支給を含め、上程する例が見られ
なかった。
株主提案が行われた分析対象企業は昨年より3 社減り、上程された議案数も約半分に減少した。
その中でも賛成率が48 %と最も投資家の支持を集めたのは、配当の株主提案権を排除する旨の定
款について変更を求める議案だった。その他には役員報酬の個別開示、および政策保有株式の議
決権行使に関わる定款変更議案が、30 % 近い賛成率を獲得するに至っている。 EY Institute
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2016年株主総会におけるCGコード対応と議決権行使の分析
∼TOPIX100 構成銘柄に見る企業と投資家の変化∼
経営トップの選任議案
取締役選任議案のうち経営トップについて、社外取締役の選任状況で分類して賛成率を比較した
<図6>。人数別では全くの無相関にしか見えない一方で、割合別には若干ながら右肩上がり傾向
が読み取れる。少なくとも分析対象企業においては既に、社外取締役がゼロないし1 人というケー
スが皆無なこともあり、人数から割合に評価軸がシフトした可能性が考えられる。もっとも当分析で
は1 人・10 %ごとと相当に小刻みな分類となっているため、各サンプルの個別要因(特に後述の
ROE)による影響を受けやすい点、留意する必要はある。
図 6 社外取締役の人数(左)/割合(右)の別による経営トップの平均賛成率
100%
100%
90%
90%
80%
80%
70%
70%
1人
2人
3人
4人
5人
6人
7人
8人
9人
<10% <20% <30% <40% <50% <60% <70% <80% <90%
出典:日経ValueSearchよりEY総合研究所作成
次に、過去 5 期平均および直近期の ROE(自己資本利益率)と経営トップの賛成率を比較したと
ころ、いずれも5 % 未満の場合には明らかに水準が低くなった<図 7>。資本市場においては「 ROE
=5 % 」が明確な判断基準になっていることが推定される。なお議決権行使助言サービスの最大手
ISS(Institutional Shareholder Services Inc.)は、過去5期平均かつ直近期のROEが
5%未満の場合、経営トップの再任に反対推奨するポリシーを公表している 。 同ポリシーに抵触す
る分析対象企業は7 社あり、経営トップの平均賛成率は83 . 5 %に止まった。
図 7 過去5 期平均(左)/直近期(右)のROE別による経営トップの平均賛成率
100%
100%
90%
90%
80%
80%
70%
<0%
<5%
<10%
<15%
<20%
<30%
<40%
70%
<0%
<5%
<10%
<15%
<20%
<30%
<40%
出典:日経ValueSearchよりEY総合研究所作成
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2016年株主総会におけるCGコード対応と議決権行使の分析
∼TOPIX100 構成銘柄に見る企業と投資家の変化∼
社外役員の選任議案
新任および再任の候補者として挙がった社外役員につき、社外取締役(監査等委員を除く、以
下同様)と社外監査等委員および社外監査役に分けた上で、属性別による構成を<図 8>に示す。
社外取締役は6 割超が「他の会社の出身者」(主に経営者と理解できる)で占められる一方で、監
査等委員と監査役は「弁護士」「会計士」「税理士」が過半数となっている。
図 8 属性別による社外取締役(左)/社外監査等委員と社外監査役(右)の構成比
公認会計士
税理士
その他
3%
1%
9%
その他
10%
他の会社の出身者
30%
弁護士
9%
公認会計士
候補者計
315人
学者
22%
候補者計
(※)
60人 17%
学者
7%
他の会社の出身者
弁護士
62%
30%
※補欠を除く
出典:日経ValueSearchよりEY総合研究所作成
上述した属性に従って平均賛成率を算出した<図 9>。社外取締役については大きな差異は認め
られなかった一方で、社外監査等委員と社外監査役は「他の会社の出身者」の賛成率が明らかに
低く、「弁護士」「公認会計士」についても若干見劣りする。「他の会社」には金融機関や大株主
が含まれること、「弁護士」「公認会計士」には契約関係が存在することなど、独立性につき社外
監査等委員と社外監査役は特に厳しく判断されていることが分かる。
図9 属性別による社外取締役(上)/社外監査等委員と社外監査役(下)の平均賛成率
100%
96%
96%
96%
97%
96%
他の会社の
出身者
学者
弁護士
公認会計士
税理士
95%
95%
97%
弁護士
公認会計士
税理士
90%
80%
70%
98%
100%
90%
91%
その他
98%
80%
70%
他の会社の
出身者
学者
その他
出典:日経ValueSearchよりEY総合研究所作成
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6
2016年株主総会におけるCGコード対応と議決権行使の分析
∼TOPIX100 構成銘柄に見る企業と投資家の変化∼
まとめ
2016 年 3 -6月に開催された株主総会に際する、主要企業の取り組みと議決権行使結果を対象と
した以上の分析から、次のことが指摘できる。
① 情報開示の充実やコーポレートガバナンスの強化といった取り組みは相当に進展している
② 経営トップの選任議案に対する賛否のポイントは、社外取締役の人数から割合、そして ROE
にシフトしている
③ 社外役員の独立性については、特に監査等委員および監査役に対して厳しく問われている
もっとも上記はTOPIX100 構成銘柄という、わが国を代表する大企業における傾向である点に
は留意する必要がある。より規模の小さい(≒機関投資家の株主比率が高くない)企業の場合、
これらの大企業と同様な認識の下で、対応や取り組みを進めるのは難しいかもしれない。それでも
CGコードを機に資本市場に対する感度を高めつつある企業、さらには自律的な経営改善に着手し
ている企業にとって、大いに有用な示唆となるだろう。
なお個別議案を丹念に見ていくと、取締役会の出席率が低くても賛成率が高かった社外取締役、
前回の更新時よりも大幅に賛成率が高まった買収防衛策など、従来のトレンドでは説明が難しい事
象が散見される。これらは積極的な情報開示あるいは対話(エンゲージメント)を通じて、投資家
のネガティブなスタンスを覆すことに成功したケースかもしれない。議決権行使におけるポイントが
形式から実質にシフトしつつある、ひとつの証左と考えられるのではないか。
以上
※1
http://www.jpx.co.jp/equities/listing/cg/tvdivq0000008jdy-att/code.pdf
※ 2 8月決算であるファーストリテイリング、統合後最初の株主総会が2017年6月に予定されているコンコルディア・フィナンシャル
グループを除く
※ 3 昨年、一昨年の発送日や英訳の状況について確認できなかった5社を除く
※4
http://www2.tse.or.jp/tseHpFront/JJK010010Action.do?Show=Show
※5
CGコード補充原則1-2②は招集通知の早期発送に加え、発送前のウェブ開示を求めている
※6
CGコード補充原則1-2④は招集通知の英訳を求めている
※7
CGコード原則4-8は独立社外取締役の人数について「少なくとも2人以上」とし、比率について自主的な判断としながらも「3分
という水準に言及している
の1」
※8
CGコード補充原則4-10①は指名・報酬に関する任意の諮問委員会の設置に言及している
※ 9 2016年版のISSポリシーについては以下、弊社レポートを参照。
http://eyi.eyjapan.jp/knowledge/future-business-management/2015-10-29.html
http://eyi.eyjapan.jp/knowledge/future-business-management/2016-01-13.html
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2016年株主総会におけるCGコード対応と議決権行使の分析
∼TOPIX100 構成銘柄に見る企業と投資家の変化∼
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