訪日外客4,000万人時代の宿泊施設は

リサーチ TODAY
2016 年 9 月 8 日
訪日外客4,000万人時代の宿泊施設は
常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創
2016年に入ってからも訪日外国人の増勢は続いており、2020年目標の4,000万人が視野に入る勢いだ。
みずほ総合研究所は昨年8月にインバウンド観光と宿泊施設不足に関するリポートを発表した1。同リポート
では訪日客が2020年に2,500万人まで増えた場合を想定した議論を行い、幸いにも各方面からこのリポー
トに高い関心をいただいた。今年は、さらに新たな前提のもとでより詳細な分析を加え、訪日外国人が
4,000万人まで伸びる時代の宿泊施設不足を予測した2。その結果、客室不足数は4.4万室に達することが
わかった。今回のリポートでは、下記の図表のように、9つのシナリオを想定し2020年の宿泊施設不足を試
算したが、図表のシナリオ1、即ち最も標準的シナリオ(訪日外国人の宿泊行動パターンなどの想定を2015
年から変化なしのケース)では、延べ宿泊者数が5.5億人と2015年比から10%上昇し、2015年時点の稼働
可能な客室数に対し、全国で合計4.4万室が不足する試算結果となった。
■図表 試算結果概要
延べ宿泊者数
不足客室数
変化率
(万人)
2015年実績
2
0
2
0
年
2030
年
(%)
50,408
-
外国人
シェア
(%)
地方
シェア
(%)
(室)
不足
県数
(県)
-
-
MLD
-
13.0
63.4
0.307
日本人
外国人
シナリオ1
標準
標準
55,435
10.0
23.7
60.4
0.359
43,990
13
シナリオ2
標準
上振れ
58,128
15.3
27.3
59.4
0.379
72,984
15
シナリオ3
標準
分散
55,435
10.0
23.7
62.0
0.349
39,249
12
シナリオ4
上振れ
標準
57,909
14.9
22.7
60.7
0.354
54,131
14
シナリオ5
上振れ
上振れ
60,602
20.2
26.2
59.7
0.372
86,361
18
シナリオ6
上振れ
分散
57,909
14.9
22.7
62.2
0.345
48,957
13
シナリオ7
下振れ
標準
51,494
2.2
25.5
59.9
0.368
29,669
12
シナリオ8
下振れ
上振れ
54,187
7.5
29.3
58.8
0.389
56,745
13
シナリオ9
下振れ
分散
51,494
2.2
25.5
61.6
0.357
26,185
9
参考
標準
58,396
15.8
33.8
57.5
0.416
101,009
17
標準
(6千万人)
(注)1.不足客室数は 2015 年の稼働可能な客室数に対する不足数
2.地方は、三大都市圏(埼玉・千葉・東京・神奈川・愛知・京都・大阪・兵庫)以外の道県。
3.MLD は述べ宿泊者数の県別格差を表す指数
(資料)観光庁「宿泊旅行統計調査」等よりみずほ総合研究所試算
次ページの図表は2020年における地域別の宿泊施設の需給バランスを試算したものだ。先に示したシ
ナリオ1(最も標準的なシナリオ)の場合、東京と大阪で宿泊施設の不足が見込まれる結果となった。
1
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2016 年 9 月 8 日
■図表 2020年における需給バランス
(千室)
不足客室数(①)
オープン計画
需給バランス(①-②)
シナリオ1
シナリオ5
シナリオ9
②
シナリオ1
シナリオ5
シナリオ9
北海道
東北
関東(除く東京)
東京
甲信越・北陸
東海
近畿(除く大阪)
大阪
中国
四国
九州
沖縄
1.0
0.0
4.0
17.7
0.0
3.0
3.2
14.3
0.0
0.0
0.4
0.4
2.8
0.0
8.5
33.7
0.1
7.1
7.0
23.1
0.0
0.0
1.2
2.9
1.0
0.0
0.5
6.3
0.0
0.0
2.2
11.7
0.0
0.0
2.0
2.6
2.8
2.1
7.6
13.8
1.7
4.5
3.4
4.5
2.0
1.0
1.4
3.8
▲ 1.7
▲ 2.1
▲ 3.6
4.0
▲ 1.7
▲ 1.4
▲ 0.2
9.8
▲ 2.0
▲ 1.0
▲ 1.0
▲ 3.4
▲ 0.0
▲ 2.1
0.9
19.9
▲ 1.6
2.6
3.7
18.6
▲ 2.0
▲ 1.0
▲ 0.2
▲ 0.9
▲ 1.8
▲ 2.1
▲ 7.1
▲ 7.5
▲ 1.7
▲ 4.5
▲ 1.2
7.2
▲ 2.0
▲ 1.0
0.6
▲ 1.2
全国
44.0
86.4
26.2
48.5
▲ 4.5
37.9
▲ 22.3
(注)①の不足客室数は本稿試算値。②のオープン計画は『週刊ホテルレストラン』
(2015 年 6 月 5 日号、2016 年 6 月
3 日号)のデータを元に、2016 年 1.月~2020 年 12 月に開業予定のホテル客室数を集権したもの。
(資料)オータパブリケーションズ『週刊ホテルレストラン』等よりみずほ総合研究所作成
下記の図表は先の標準シナリオにおける不足客室数をヒートマップで示したものだ。図表から客室が不
足するのは大阪、東京等、一部に限られることが明らかである。この結果からは東京・大阪以外の地域への
訪問率を高める政策に重点を置く必要があるといえよう。
■図表 不足客室数ヒートマップ(標準シナリオ)
(注)2015 年稼働可能な客室数に対する不足数
(資料)みずほ総合研究所作成
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大和香織 「インバウンド観光と宿泊施設不足」(みずほ総合研究所 『みずほインサイト』 2015 年 8 月 10 日)
市川雄介 宮嶋貴之「訪日外国人 4,000 万人時代の宿泊施設不足」(みずほ総合研究所 『みずほリポート』 2016 年 8 月 26 日)
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