多孔性結晶に応力を印加すること により生成する 高効率気体分離膜の設計 福井大学 学術研究院工学系部門 物理工学分野 准教授 玉井 良則 1 背景 CCS(二酸化炭素回収・貯留) Carbon dioxide Capture and Storage N2 工場,発電所 CO2を 分離・回収 CO2の分離・回収 現在は化学吸収法が主流 (アミン溶液に吸収させる) 課題 地中 CO2 遮へい層 貯留 エネルギーコストが高い 分離膜を用いた 省エネルギープロセス 2 従来技術の問題点 石炭火力発電所のCO2回収 出力60万kWの発電設備1基 1日あたり 11,000 トンのCO2を排出 500 m3/s CO2 12% N2 73% 化学吸収法では 発電エネルギー 約 30% ロス T. C. Merkel et al., J. Membr. Sci. 359, 126 (2010) 市販膜の10倍の性能の膜(CO2/N2 分離係数 50,CO2透過速度 1000 GPU) を使ったとしても,膜面積 1,300,000 m2 が必要(東京ドーム28個分) 3 新技術の特徴 基本的なアイデア 吸着 結晶内微小空間 脱離 外部応力 多孔性結晶に応力を印加 キャビティー構造を制御 多孔性結晶に応力を印加することにより,結晶内のキャビティー(空孔)の 大きさ,形,結合性を変化させ,物質の透過性をコントロールする。 4 計算機実験による設計-分子動力学法 Molecular Dynamics (MD) Simulation すべての原子間に働く相互作用(力)を計算 運動方程式を解き,原子の運動を追跡 現実の系を,原子レベルで再現 UN r N 1 k b b b0 bond 2 2 1 ka angle 2 12 4 i j ij 2 0 6 ij ij rij rij 1 Et 1 cos n torsion 2 qi q j i j 4 r 0 ij (参考) 「コンピュータシミュレーションの基礎(第2版): 分子のミクロな性質を解明するために」 岡崎 進,吉井範行,化学同人(2011) 等 0 1 Ei 1 cos n improper 2 0 分子設計 材料設計 蛋白質の機能解析 ドラッグデザイン = ( ) 京コンピュータでも,主力手法として用いられている 5 計算機実験による設計技術の特徴 • 高分子は単結晶を得ることが難しく,従来の 実験のみによる方法では,さまざまな条件で 性能を確かめることは困難であった。 • 計算機実験により,理想的な環境下における 結晶膜の性能を確認することが可能となった。 • ポリスチレン単結晶に応力を印加することに より,目標性能を達成するCO2分離膜が得ら れることが,本技術により予測された。 6 計算機実験の実例 シンジオタクチック ポリスチレン (s-PS) 出光興産 ザレック® 軽量エンプラ 比較的安価 結晶性(融点 240~270℃) 分子量 20万程度 複雑な結晶多形 a, b, g, d, e 型 各種溶媒との共結晶,メゾフェイズ 応力 分子レベルの空孔をもつ結晶(d, e 型) 印加 CO2分離に最適な 構造を探索 分離機能材料としての応用 7 結晶構造の再現性(s-PS多形体) 結晶型 密度 (g/cm3) dTl de e g 1.090 0.960 1.004 1.062 dTl de e g 1.11 0.977 0.98 1.07 (Å) (Å) シミュレーション(300 K) 17.48 13.45 17.40 11.70 16.17 21.42 19.41 8.52 実験(X線回折) 17.58 13.26 17.4 11.85 16.1 21.8 19.18 8.62 (Å) g (deg.) 7.79 7.81 7.96 7.93 122.2 114.9 90.0 83.4 7.71 7.70 7.9 121.2 117 90.0 8 応力印加による構造転移 e型 S-I 型 圧縮 実験で構造が決定されている 本手法(シミュレーション)で発見 Y. Tamai, ACS Macro Lett., 2, 834 (2013) 9 b軸方向に一軸圧縮 → 解放 80 a b c 40 =15 kJ/mol Å (約410 MPa)にお いて低密度のS-I型結晶に転移 応力解放過程においてヒステリシス = 0 において g型に転移 30 Y. Tamai, ACS Macro Lett., 2, 834 (2013) Edge Length (Å) 70 60 50 20 −10 0 10 20 30 Syy (kJ/molÅ) 40 50 応力解放過程における =10 kJ/mol Å (約180 MPa)の構造を以下の解析で用いる 10 構造転移に伴うキャビティーの変化 e型 S-I型 圧縮 有機溶媒透過に適した 太い管状チャネル 気体分離に適したサイズの ジグザグチャネル キャビティーに気体分子(H2, O2, N2, CO2, CH4)を挿入し, 長時間のMDシミュレーション 11 S-I型結晶中における気体の運動 CO2(24分子) a-b面 N2(24分子) a-b面 c軸方向の24本のチャネルそれぞれに、気体1分子を配置 各気体について、10 ns(1000万ステップ)のMDシミュレーション 異なる初期構造からのシミュレーションを3回実行し、平均 12 c軸方向のジャンプ拡散(早送り) CO2(24分子) a-c面 N2(24分子) a-c面 c軸方向にジグザグにジャンプを繰り返して、拡散する 13 拡散の特徴と分子種間の比較 初期座標からの変位 平均二乗変位(MSD) CO2 実質的にc軸方向の一次元拡散 (a-c方向のジグザグジャンプ) c軸方向の拡散係数を計算 Dc lim t 1 2 R i (t ) R i (0) 2t 14 気体透過係数の予測値 Gas ε S-I H2 O2 N2 CO2 CH4 H2 O2 N2 CO2 CH4 S×102 Dc cm3(STP)/cm3cm 2 cm /s Hg Gas in e form 2346 (163) 0.327 594 (122) 3.30 428 ( 84) 2.93 427 ( 98) 22.79 549 ( 89) 10.91 Gas in S-I form 48.7 (1.9) 0.333 1.39 (0.33) 2.89 0.58 (0.12) 0.88 5.64 (0.84) 18.13 0.07 (0.02) 2.76 ×106 a) Pc Barrer a) 76800 196000 125000 974000 599000 = 1620 403 51 10230 20 1 Barrer = 1×10-10 cm3(STP) cm/s cm2 cmHg 15 分離係数の予測値 結晶型 e form S-I form 分離係数 α CO2 / N2 CO2 / O2 CO2 / CH4 7.8 5.0 1.6 201 25.4 512 / = S-I型結晶では非常に高い分離係数を示す。 16 分離性能(既存膜との比較) CO2/N2分離 CO2/CH4分離 S-I型 分離係数 分離係数 S-I型 既存の高分子膜 CO2 透過係数 (Barrer) ・より精密に分離 ・より大量の気体を処理 CO2 透過係数 (Barrer) 既存膜のデータ: J. M. Robenson, J. Membr. Sci. 320, 390 (2008) 17 想定される用途 S-I型の予測性能 分離係数 約200 透過係数 約10,000 Barrer 透過速度 約500,000 GPU(膜厚20 nm) CCSに必要な性能要件を満たす • 石炭火力発電所 – CO2/N2分離 • ガス田、バイオマス – CO2/CH4分離 18 実用化に向けた課題 溶融状態からの結晶化 球晶 結晶化度が低い 希薄溶液からの結晶化 単結晶 ~20 nm ~1 mm バルクスケールの大きさの 単結晶を得ることは困難!! 新高分子化学序論, 東村敏延ら, 化学同人 (1995) 19 課題解決の方向性 • 高分子の配向単結晶を作成する技術の開発 – 精密合成(分子鎖長をそろえる) – 基板上での結晶成長技術(配向制御) • 微小な分離装置への応用 – 分離膜のマイクロチップ化 – Lab-on-a-Chip(微小反応装置) • 性能とコストのバランス – ナノ多層シートに挟み込む 20 本技術に関する知的財産権 • • • • 発明の名称 :気体分離膜の設計方法 公開番号 :特開2015-93207 出願人 :福井大学 発明者 :玉井良則 21 お問い合わせ先 福井大学 産学官連携本部 コーディネーター 佐治 栄治 TEL 0776-27 - 8956 e-mail [email protected] 22
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