微粒子状もしくは膜状のリチウム複 合酸化物の高いCO2吸収能 中央大学 理工学部 応用化学科 教授 大石 克嘉 助教 小林 亮太 1 研究背景 近年,リチウム複合酸化物(Li2ZrO3,Li4SiO4,Li4TiO4) は,発電所,製鉄所から排出される炭酸ガス(CO2)の回 収・隔離用の高温型セラミックス(固体型)吸収材として期 待され,これまで重点的に研究がなされて来た。 しかしながら,高温型でのCO2吸収を目的に研究が行 なわれて来た関係上, それらリチウム複合酸化物のCO2吸収能に関する研究 は,500℃以上の高温に限られていた。 このため,低温領域(常温近傍を含む)でのCO2能につい ては,ほとんど知られていない。 2 研究背景 低温でリチウム複合酸化物のCO2吸収能が減少してしまうのは, 1)既存のリチウム複合酸化物のCO2吸収能がもともと小さい, 2)既存のリチウム複合酸化物の表面が活性ではない, 事に依存していると予想した。 本研究は,より低温でのCO2吸収能の向上を実現するために, 1)新規で高性能なリチウム複合酸化物の探索 2)既存・新規を問わず,リチウム複合酸化物の粒子表面を活性化さ せる, 事により,より低温でのCO2吸収能の向上を目指している。 3 新技術の基となる研究成果・技術 1) 新しいリチウム系複合酸化物を探索 するために, 従来のリチウム複合系CO2吸収酸化物 (Li4SiO4, Li4TiO4)について考えてみる。 4 リチウム複合系CO2吸収セラミックス Li4SiO4 550∼710℃ Li4SiO4(s) + CO2(g) ⇄ Li2CO3(s) + Li2SiO3(s) 710℃以上 質量変化率 / mass% 熱重量分析装置:CO2100 vol%雰囲気中,昇温速度 5℃/ minで 常温から1000℃まで連続的に昇温 最大CO2吸収率 36.7 mass% (Li4SiO4 1gあたり,0.367gのCO2を吸収できる) CO2吸収 CO2放出 温度 / ℃ M. Kato and N. Nakagawa, J. Ceram. Soc. Jpn., 109 [11] 911-914 (2001). 5 リチウム複合系CO2吸収セラミックス Li4TiO4 300∼856℃ Li4TiO4(s) + 1.5CO2(g) ⇄ LiTiOx(s) + 1.5Li2CO3(s) + (2.5-x) / 2O2(g) 856℃以上 質量変化率 / mass% 熱重量分析装置:CO2100 vol%雰囲気中,昇温速度 5℃/ minで 常温から1000℃まで連続的に昇温 最大CO2吸収率 42.1 mass% Li4TiO4 Li4SiO4 温度 / ℃ N. Togashi, et al., J. Ceram. Soc. Jpn., 115 [5] 324-328 6 Li4TiO4の問題点は, ・ 単一相のLi4TiO4を合成するのが困 難である → 合成が困難. ・ CO2の放出(脱炭酸)反応が起こりにくい ため,繰り返し利用に向かない. N. Togashi, et al., J. Ceram. Soc. Jpn., 115 [5] 324-328 (2007). 7 新規なリチウム複合酸化物である Li2CuO2の CO2吸収材としての可能性 Li2CuO2 Li2CuO2(s) + CO2(g) → Li2CO3(s) + CuO(s) 理論CO2吸収率 : 1×44.01(CO2の分子量) 1×109.43(Li2CuO2の分子量) ×100 % = 40.2 mass% (Li2CuO2 1gあたり,0.402gのCO2を吸収できる) Li4SiO4の最大CO2吸収率:36.7mass% Li4TiO4の最大CO2吸収率:42.1mass% 8 Li2CuO2のCO2吸収特性 質量変化率 / mass% 熱重量分析装置:CO2100 vol%雰囲気中,昇温速度 5℃/minで 常温から1000℃まで連続的に昇温 875℃ 最大CO2吸収率 40.2 mass% 700℃ 500℃ 温度 / ℃ Li2CuO2(s) + CO2(g) → Li2CO3(s) + CuO(s) 理論CO2吸収率 40.2mass% 9 Li2CuO2のCO2吸収特性 熱重量分析装置:CO2100 vol%雰囲気中,昇温速度 5℃/ minで 常温から1000℃まで連続的に昇温 CO2吸収率 / mass% 最大CO2吸収率 40.2 mass% 最大CO2吸収率 36.7 mass% Li2CuO2 Li4SiO4 Temperature / ℃ Li2CuO2(s) + CO2(g) → Li2CO3(s) + CuO(s) 理論CO2吸収率 40.2 mass% 10 CO2吸収率 / mass% 40.2 mass% CO2吸収率 / mass% 5 vol% 36.7 mass% Temperature / ℃ CO2吸収率 / mass% 雰囲気のCO2濃度を変化させた時のCO2吸収特性 50 vol% 100 vol% 39.1 mass% 25.0 mass% Temperature / ℃ Li2CuO2 (本研究) 33.8 mass% 3.6 mass% Temperature / ℃ Li4SiO4 (従来品) 熱重量分析装置:昇温速度 5℃/ minで 常温から1000℃まで連続的に昇温 11 雰囲気のCO2濃度を変化させた時のCO2吸収特性 雰囲気中のCO2濃度 : 100,75,50,5 vol% の4種類 (CO2とArの混合ガス気流:全圧0.1 MPa) 熱重量分析装置:各CO2濃度の雰囲気中,昇温速度 5℃/ minで 常温から1000℃まで連続的に昇温 最大CO2吸収率 / mass% 40.2 mass% 36.7 mass% Li2CuO2 (本研究) Li4SiO4 (従来品) 雰囲気中のCO2 濃度 / vol% 12 Li4SiO4とLi2CuO2の反応速度定数kの比較 k / s-1 MPa-1 反応速度定数 Li2CuO2 Li4SiO4 * 約3倍 Temperature / ℃ * T. Okumura, N. Togashi, K. Enomoto and K. Oh-ishi, J. Ceram. Soc. Jpn., 115 [8] 491-497 (2007). 13 合成方法の比較と原料コスト 2 Li2CO3 (s) + SiO2 (s) 反応条件 700℃, 20h, 大気中 合成が容易 2 Li2CO3 (s) + TiO2 (s) 反応条件 Li4TiO4 (s) + 2 CO2 (g) 1000℃, H2:Ar中 合成が難しい Li2CO3 (s) + CuO (s) 反応条件 Li4SiO4 (s) + 2 CO2 (g) Li2CuO2 (s) + CO2 (g) 685℃, 20h, 大気中 − 急冷 合成は容易 Li2CuO2 の場合、 合成原料である Li2CO3 が半分の量ですむ 原料コストの低下 14 従来技術とその問題点 Li2CuO2は,速度が速く,低いCO2濃度雰囲気でも CO2吸収能があまり低下しないという特徴から, 高性能なCO2吸収材となる可能性が高い。 しかしながら,以下の問題点がある。 リチウム複合系酸化物では,CO2吸収に伴う活性表面 の減少により,常温での吸収速度が極端に小さいとい う問題がある。 15 Li2CuO2やLi4SiO4などのリチウム複合酸化物CO2吸収材にも 以下の問題点がある。 「リチウム複合酸化物はCO2を吸収すると,粒子表面に反応生成物の層(Li2CO3やLi2SiO3, CuOな ど)が形成されるため(活性表面が減少するため), 常温を含む低い温度領域では,CO2との反応速度が極端に低下する。 対して,高温(700℃付近)では,反応生成物層が崩れるため, CO2との反応は速くなる。」 リチウム複合酸化物は高温でのCO2吸収の向いている。 活性表面の減少 活性表面の出現 16 新技術の特徴・従来技術との比較 リチウム複合酸化物に関して, 低温でCO2吸収能が著しく減少するという問題点を, 微粒子化もしくは薄膜化による表面活性化で解決出来 る可能性があると考えている。 17 新技術の特徴 Li2CuO2 Li4SiO4 粒子 微粒子化 活性表面の増大 Li2CuO2 CuO 表面状のリチウム複合酸化物 の作製により CuO 活性表面のみ生成 CuO Li4SiO4 SiO2 18 想定される用途 常温を含む比較的低温において CO2吸収能が向上する可能性を想定し, 電気自動車用「金属ー空気バッテリー (常温でCO2吸収する必要がある) のためのCO2吸収材としての応用をめざす。 19 想定される業界 • 自動車用バッテリー製造メーカー • 高速度で通過する低濃度のCO2含む排気 ガスから,CO2を分離・回収が必要な分野 20 実用化に向けた課題 • 現在,微粒子化によるCO2の常温吸収が 可能なところまで開発済みであるが,CO2 を吸収した後の処理については問題が多 く残っており,今後の研究が必要である。 • 今後,リチウム複合酸化物を薄膜状に作 製する実験を重ね,最終的に常温・高速 CO2吸収を実現するよう努力する。 21 企業への期待 • 膜状リチウム複合酸化物の作製については, 薄膜生成技術により克服できると考えている。 • セラミックスの微粒子化や表面形成・処理の 技術を持つ,企業との共同研究を希望。 22 本技術に関する知的財産権 • • • • 発明の名称:炭酸ガス吸収材、炭酸ガスの吸収放出方法及び吸収放出装置 出願番号 :特願2008-150961 (特開2009-291770) 出願人 :学校法人中央大学 発明者 :大石 克嘉、奥村 健、松倉 佑介 • 発明の名称:炭酸ガス吸収材、炭酸ガス吸収材の製造方法、炭酸ガス吸収方法、 および炭酸ガス吸収装置 出願番号 :PCT/JP2006/318423 (WO2007/032494)、USP登録済 出願人 :学校法人中央大学 発明者 :大石 克嘉、冨樫 伸明 • • • 23 お問い合わせ先 中央大学 研究支援室 渡部、加藤 TEL 03−3817 − 1603 FAX 03−3817 − 1677 e-mail [email protected] 24
© Copyright 2024 ExpyDoc