児童虐待の疑いがある場合、どのような対応を取るべきでしょうか。

【相談 67】児童虐待の疑いがある場合、どのような対応を取るべきでしょうか。
キーワード:虐待、児童虐待防止法、守秘義務、児童相談所、医師の届出義務・通報義務、医師の守秘義務
耳鼻咽喉科の個人開業医です。
先日、母親に連れられて 3 歳の女児が来院しました。母親の話によりますと、耳掃除をしていたときに
急に泣き出したので慌てて来院したとのことです。 診察してみると、片耳の鼓膜が破れていました。母親
の言うように耳掃除が原因で鼓膜が破れることもあるのですが、それ以外の可能性、たとえば身体的な暴
力が原因の可能性も否定できません。とりわけ、この女児は、母親から何か言われる度におどおどとした
態度を取っていましたし、同年代の幼児と比較すると体がかなり小さいこと、体があまり清潔に保たれて
いないこと、従来、乳幼児健診を一度も受けさせていないことも気になりました。このような場合、医師
は、虐待の疑いありとしてなんらかの初期対応を取るべきなのでしょうか。また、一般に虐待については、
どの程度の疑いがある場合に、どのような対応を取るべきなのでしょうか。
【回答】
虐待の疑いがあると判断した場合には通告するべきと考えられ、基本的に守秘義務違反とはなりません。
まず、児童虐待防止法では、医師などに限らず、一般人も児童虐待を受けたと思われる児童を発見した
人は、速やかに通告しなければならないと定めています(第 6 条第 1 項)。通告先として、福祉事務所、児
童相談所、児童委員があります(同法第 6 条第 1 項)
。児童相談所全国共通ダイヤル 189(いちはやく)に
電話をかけると、近くの児童相談所につながります。
さらに、医師については、
「児童虐待を発見しやすい立場にあることを自覚し」
、児童虐待の早期発見
に努めなければなりません(同法第 5 条第 1 項)。
医師が通告すると、患者に関する情報を第三者に漏らす守秘義務違反になるという心配があるかもし
れません。しかし、児童虐待防止法では、通告義務を守る場合には、守秘義務に反しないと考えています(同
法第 6 条第 3 項)。厚生労働省による「子ども虐待対応の手引き」でも、法令による守秘義務に反せず、個
人情報保護法にも違反しないという考えが示されています。つまり、
「適切な」対応であるならば、秘密漏
示罪にもあたりません。また、患者やその親から守秘義務違反を理由とする損害賠償請求を受けることも
ありません。
どのような場合に虐待の疑いがあると判断し、どのような対応を取るべきかについて、法律に具体的に
は定められていません。そのため、例えば、日本小児科学会「子ども虐待診療手引き」などのガイドライ
ン、日本子ども虐待医学会の公認マニュアル、
「小児の脳死判定及び臓器提供等に関する調査研究」による
「小児脳死判定基準に関する検討」にあるチェックリストなどが参考となります。また、前述のように厚
生労働省も「子ども虐待対応の手引き」を公表しています。
(回答者:渡邉泰彦 京都産業大学教授)
(2016 年 8 月執筆)
*会員用ウェブサイトの「知恵袋(相談コーナー)」には、もう少し詳しい説明を掲載しております。
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Medical-Legal Network Newsletter Vol.68, 2016, Aug. Kyoto Comparative Law Center
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Medical-Legal Network Newsletter Vol.68, 2016, Aug. Kyoto Comparative Law Center