5Gに向けたKDDIの展望 - ITU-AJ

特 集 第5世代移動通信システムの展望
5Gに向けたKDDIの展望
KDDI株式会社
技術開発本部
シニア・ディレクター
KDDI株式会社
次世代ネットワーク
準備室
マネージャ
まつなが
さか い
あきら
松永 彰
1.はじめに
せいいちろう
酒井 清一郎
KDDI株式会社
次世代ネットワーク
準備室
マネージャ
なり た
けん じ
成田 憲治
②あらゆるものが接続されるIoTの実現
第 5 世代移動通信システム(5G)については、現在、
IoTによりあらゆるものが接続されることによって、あ
ITU-Rや3GPPにおける標準化作業と平行して、数々の技
らゆるものをトラックし、大規模なビッグデータの活用によ
術開発や実証実験が実施されており、グローバルな規模
る解析が可能になる等、新たな付加価値を創造する可能
で2020年頃の実用化に向けた動きが着実に進行していると
性が生まれる。その価値の創造には、5Gを利用する様々な
ころである。
産業と手を携えて共にアプリケーションを創造し、その要
5Gでは、ネットワーク能力の飛躍的な拡張といった技術
件に応じた5Gネットワークを構築していく必要があろう。
面の進歩ばかりでなく、アプリケーションの多様性、社会
③社会基盤を支える役割、期待の飛躍的な増大
的に果たす役割、産業界との密接な関わり等、従来の移動
5Gは、2020年の社会基盤を支える役割を担い、様々な
体通信システムから大きな変革が期待される。
社会問題の解決に貢献し、社会にあって欠くべからざる不
本稿では、5Gに対する期待や5Gが実現する世界及びそ
動の存在になると想定される。
の実現に向けた技術を紹介する。
2.5Gを取り巻く環境と目指す世界
図1に示すように、5Gには、エンターテインメントに代表
されるワクワクする体験の提供、数々の産業振興、地方社
2.1 5Gに対する期待
会の活性化等の社会問題解決への貢献、安心安全の確保
5Gを特徴づける変革としては、以下のものが挙げられる。
等の社会基盤としての役割等、多くの環境変化への対応
①大幅な能力拡張と、多様な要件に対する柔軟かつ効率
が期待される。KDDIは5Gに向けて、ネットワーク能力を
的な対応
拡張し、様々な新たな利用シナリオを具現化して上記期待
5Gでは、モバイル・ブロードバンドの拡張、多接続マ
に応え、通信サービスを超えた付加価値を産業界と共に提
シン通信、超低遅延と高信頼性等の利用シナリオが提案
供し、快適なライフデザインの実現を目指す。
されており*、それに伴って、従来は実現が困難であった
様々な新たなアプリケーションや、4Gでは実現できない体
2.2 5Gで目指す世界
感の提供の可能性が生まれると期待される。一方、ネット
5Gの特性を活かして実現が期待されるユースケースを
ワークはその多様性を増す要件に対して柔軟かつ効率的
に対応する必要があろう。また、高速化や低遅延等の実
図2に示す。以下、幾つかの例を紹介する。
(1)VRとAR
現には、無線、コア、バックホール等の5Gを構成するネッ
拡張ブロードバンドや超低遅延を活用する例として、
トワーク要素間で、従来に比して、より緊密な連携が必要
バーチャルリアリティ(VR)や拡張現実(AR)を挙げる
となると想定される。
ことができる。VRの応用例として、スタジアム内の複数
カメラ映像をもとにユーザが指定する視点からの映像をリ
* IMT Vision –“Framework and overall objectives of the future development of IMT for 2020 and beyond”, ITU-R勧告
M.2083-0 2015年9月
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ITUジャーナル Vol. 46 No. 9(2016, 9)
■図1.2020年に向けた環境変化
■図2.5Gで目指す世界
アルタイムで合成したり、遠隔地からのイベント参加を可
生活環境に大きな変革をもたらすと考えられる。産業分野
能にする等、今までにない超臨場感の提供が可能になろう。
では、多様なセンサからのデータを網内のコンピューティ
(2)コネクテッドカー
ング・リソースにて最適に分析・処理することで、新たな
超低遅延、高信頼性を必要とするシナリオでは、
「コネ
価値創出が進むと想定される。また、個人の生活環境に
クテッドカー」や「無人農機の制御」など様々な分野での
おいても、屋内外センサやウェアラブルなデバイスからの
自動化や高度化と同時に、安心安全の確保への要求にも
データを活用し、いつでもどこでも人々の生活、健康、安
応えることが期待される。コネクテッドカーの例では、車
心安全に寄与することが期待される。
両診断、運転者健康モニタ、事故・故障時の緊急自動通
「パーソナルナビゲーション」の例では、行き先の混雑
報等が安心安全のためのサービス機能として求められてこ
状況、交通障害、天気などの膨大な情報を多数のセンサ
よう。
を通じてリアルタイムに収集し、予めネットワーク上に蓄
(3)IoT(多接続マシン通信)
積した情報と統合することにより、その日のスケジュール
あらゆるものをネットワークにつなげるIoTは、今後、
に合わせた最適な行動パターンをナビゲートすることが考
デバイス数の飛躍的な増大とユースケースの多様化によっ
えられる。
て、産業振興や社会基盤の発展に寄与し、産業や個人の
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3.5Gサービス実現のためのシステム・アーキテクチャ
と、「ユーザ・セントリック」コンセプトの実現
イスに加え、エッジがコンピューティングを担うことも5G
前述のように、5Gでは、大容量・高速化、多接続性等
性を加味してダイナミックかつ最適にコンピューティング
の能力拡張に伴って、様々な新たなアプリケーションの可
の役割を分担することが、ネットワーク・リソースを効率
能性が生まれ、その多様な要件に対してネットワークが柔
的に利用して5Gサービスに必要な要件を満たすために必
軟かつ効率的に対応する必要がある。従来のシステムにお
要となろう。ビッグデータ処理には、大量なデータを収集
いては、ユーザがシステムの能力に合わせなければならな
可能なクラウドが、リアルタイム処理や局所的な処理には
い場合も生じたのとは対照的に、5Gネットワークは、いつ
エッジやデバイスがそれぞれ適していると考えられる。
時代の特徴の一つであり、この三者間において、以下の特
でも、どこでも、ユーザが満足を感じることができる体感
・クラウド:全体最適・集約型・統合的
品質を実現することを目指す。
・エ ッ ジ:部分最適・分散型・協調的
ビッグデータや各種センサとネットワーク能力の拡張に
・デバイス:局所最適・自律的
より、新たな価値をユーザの要望に先回りして提案するこ
とも、新たな体験価値の創出につながると考えられる。
3.2 無線システムのエリア構築
5Gでは、このように、ユーザの要求に応える体感品質
大容量・高速化、多接続、低遅延等、様々なユースケー
を提供する「ユーザ・セントリック」コンセプトを実現す
スの多様な要件に応じ、具体的には下記の要素を勘案し
ることを目指し、そのためのシステム・アーキテクチャの
て、最適な無線エリアを構築する必要がある。
構築と以下のようなネットワーク技術の具現化が必要とな
・利用する周波数帯の特性、帯域幅(6GHz超、未満等)
ろう。
・無線方式、技術(変調・MA方式、Massive MIMO、
①階層間のダイナミックなコンピューティングの役割分担
②無線システムのエリア構築
Beamforming等)
・想定される利用ケース(モバイル・ブロードバンド、
③テクノロジーの違いを意識させないシームレス・ネッ
トワーク
IoT、低遅延等)
・要件(速度、セル径、屋内外、端末密度等)
・既存システムとの連携、インタワークの必要性
3.1 役割分担による最適なネットワーク利用
一例として、図4に示すように、今までにない超臨場感
5Gで実現が期待される低遅延化やリアルタイム性等の新
あるVR/ARサービスを提供するため、スタジアム等のサー
たな要件に加え、アプリケーションに応じた様々な要件を
ビス提供エリアに新RATを展開したり、イベント会場や駅
効率的に満たすためには、要件に応じて適切なネットワー
前広場等において密集するトラフィックを新RATに収容
ク・リソースを用いることが必要である。図3にコンピュー
することが考えられる。
ティング・リソースの階層構造例を示す。クラウドやデバ
■図3.最適リソース配分による付加価値提供
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■図4.5Gエリア構築例
■図5.柔軟なネットワーク構築と運用の高度化例
3.3 シームレス・ネットワークの実現
5Gでは、4G等の従来世代のシステムを含め、様々な無
・柔軟なネットワーク構築
NFV(Network Function Virtualization)
線方式との連携が必要であるが、ユーザに対して、インフ
SDN(Software Defined Network)
、サービスチェイ
ラの世代、プラットフォームやテクノロジーの違いを意識
ニング
させない形で「最適な」ネットワーク選択を行い、ユーザ
・ネットワーク構築の迅速化・運用の高度化
が満足を感じることができる体感品質をいつでもどこでも
NFV
提供するシームレス・ネットワークの実現が求められる。
NFV-MANO(Management & Orchestration)
シームレス・ネットワークにおいて、5Gアプリケーショ
ンの多様な要件に柔軟に対応し、産業界やバーティカル・
4.おわりに
プレーヤーとのパートナーシップを強化するネットワークの
本稿では、5Gを取り巻く環境と目指す世界、その実現
構築の一手法として、図5に示すように、ネットワークを
に必要となる5Gシステム・アーキテクチャを紹介した。今
仮想的に分割し、多様なサービス要件に効率的かつ柔軟に
後、5G実用化に向けて、標準仕様の策定や各種実証実験
応えるスライス・ネットワークが挙げられる。以下にその目
がさらに活発になると想定され、KDDIは5Gによるユーザ・
指すところと、各々を実現する技術を挙げる。
セントリックなサービスの実現を目指して、取組みを引き
・多様なネットワーク要求に対応
続き推進していく所存である。
スライス・ネットワーク
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