統計的手法による主要躯体数量の予測モデルに関する研究(その2) 参 事 森本 文忠 1 研究の目的 本研究は「統計的手法による主要躯体数量の予測モデルに関する研究」(建築コスト研究年報 第7号 平成20年度)において提案した躯体数量予測モデルについて、その後に収集されたSIB Cデータを用いて、モデルの精度について検証を行ったものである。 2 SIBC 建築コスト情報システム:Searching system for Index of Building Cost(略称「SIBC」)とは、(一 財)建築コスト管理システム研究所が「営繕積算システム等開発利用協議会」の会員(国土交通省 官庁営繕部、都道府県及び政令指定都市で構成)から提供された建築コスト情報を会員用のデ ータベースとして整理・蓄積し、それを会員に利用しやすい形でフィードバックすることにより、公共 建築のコスト管理業務を支援することを目的として開発されたシステムである。 3 統計的手法による主要躯体数量の予測モデルに関する研究の概要 統計的手法による主要躯体数量の予測モデルに関する研究(以下「前研究」という)ではSIBC のデータを用いて主要な躯体数量の予測モデルの提案を行っている。モデルの提案にあたり躯体 数量は構造種別や地下階の有無が大きな要因となることから、鉄筋コンクリート造の地下階のない 施設を分析対象とした。前研究では、対象施設のデータについて重回帰分析を行い、表1のような 躯体数量の予測モデル式を提案した。 表1 主要躯体数量予測モデル式(前研究から引用) 名称 単位 予測モデル式 鉄筋・鉄骨量 t -3.767 + 0.090(延床面積) + 0.069(建築面積) - 12.709(地上階数) + 5.468(屋根高さ) - 0.196(1階周長) - 0.358(スパンX*Y) コンクリート量 ㎥ -15.225 + 0.582(延床面積) + 0.438(建築面積) - 2.681(スパンX*Y) + 17.393(屋根高さ) 型枠量 ㎡ 265.839 + 3.730(延床面積) + 11.130(1階周長) - 27.718(スパンX*Y) + 678.461(基礎深さ) 4 本研究の分析対象施設のデータの概要 1)分析対象施設データの抽出 SIBCには1,279施設(平成27年12月現在)のデータが蓄積されているが、予測モデル式を求め 81 た時の施設データの抽出条件との整合を図るため、以下のような条件に基づきデータの抽出を行 った。 ①構造種別がRC、RC一部S、及びRC一部SRCであること。 ②地下階がないこと。 ③前研究の分析対象以外のデータであること。 ④鉄筋、コンクリート及び型枠の数量のデータが記載されていること。 ⑤X、Y方向のスパン長さの記載があり、X*Y(スパン面積)が20㎡以上、150㎡以下であること。 ⑥特別な用途の施設ではないこと。 特別な用途とは、体育館、武道場、射撃場、野球場、屋外競技場、屋内運動場、プール、 ポンプ場、市場上屋及び処理場などをいう。 ⑦屋根高さ÷階数の値が2m以上10m以下であること。 ⑧延べ床面積が200㎡以上であること。 ①~⑧の条件に基づく抽出を行った結果、196施設を分析対象施設とした。 2)用途 用 途 分 類 は 図 1 に 示 す と お り で 、 教 育 文 化 が 90 件 (45.9%)、行政が74件(37.8%)で、以下、住宅、福祉 医療、産業と続いている。 図1 用途分類別件数 3)構造 構 造 分 類 は 図 2 に 示 す と お り で 、 R C 造 が 150 件 (76.5%)、RC一部S造が41件(20.9%)、RC一部SR C造が5件(2.6%)であった。 4)規模(延床面積) 図2 構造別件数 規模(延床面積)別の件数は図3に示すとおりで、2 ~5千㎡が57件であった。全施設の平均値は3,777㎡ であった。範囲は200~20,645㎡であった。 5)主要躯体数量の実績値 前研究から RC 造の施設の分析には一部S造・SR C造の施設の鉄骨の数量を鉄筋の数量に加えて分析 を行っており、本研究においてもそれを踏襲した。 SIBCではデータの入力を各発注者の協力に依存 しているため、データの誤入力が考えられる。一例とし 図3 規模(延床面積)別件数 て、今回の分析対象施設のデータでは、鉄筋・鉄骨量の㎡あたりの数量の最大値は1,036.6kg/㎡、 最小値は29.0kg/㎡となっている。これらのデータは入力の間違い等による異常値ではないかと想 定されるが、このようなデータの影響を少なくするため、㎡あたりの数量の上位・下位各10施設のデ ータについては分析対象からは除外することとした。 82 主要躯体の床面積当たりの数量のヒストグラムを図4に示す。 鉄筋・鉄骨の平均値は125.4Kg/㎡で、標準偏差は24.6Kg/㎡であった。コンクリートの平均値 は0.87㎥/㎡で、標準偏 差は0.15㎥/㎡であった。型枠量の平 均値は4.6㎡/㎡で、標準偏差は 0.90㎡/㎡であった。 鉄筋・鉄骨量(Kg/㎡) コンクリート量(㎥/㎡) 型枠量(㎡/㎡) 図4 主要躯体数量の実績値ヒストグラム 5 分析方法と分析結果 表1のモデル式により求められた数量を延べ床面積で除した値(以下「推計値」)と実績値の散 布図、及び誤差率(=(推計値-実績値)/実績値)のヒストグラムを作成するとともに、t検定(対応 のある母平均の差の検定)を行った。 ①鉄筋・鉄骨量 鉄筋・鉄骨量の誤差率のヒストグラムと実績値と推計値の散布図を図5に示す。誤差率の平均値 は -0.036であった。t検定の結果、実績値と推計値の母平均間に有意な差は認められなかった (t=3.31,df=175,p=0.01<0.05)。しかし、実績値と推計値の相関係数は0.176と低く、散布図からも 予測モデル式の精度は低いと思われる。 図5 鉄筋・鉄骨量の比較 ②コンクリート量 コンクリート量の誤差率のヒストグラムと実績値と推計値の散布図を図6に示す。誤差率の平均 値は-0.035であった。t検定の結果、実績値と推計値の母平均間に有意な差は認められなかった 83 (t=4.15,df=175,p<0.05)。しかし、実績値と推計値の相関係数は0.406と低く、散布図からも予測モ デル式の精度は低いと思われる。 図6 コンクリート量の比較 ③型枠量 型枠量の誤差率のヒストグラムと実績値と推計値の散布図を図7に示す。誤差率の平均値は 0 .0 3 6 で あ っ た 。 t 検 定 の 結 果 、 実 績 値 と 推 計 値 の 母 平 均 間 に は 有 意 な 差 が 認 め ら れ た (t=-0.544,df=162,P=0.587>0.05)。また、実績値と推計値の相関係数は0.500と低く、散布図から も予測モデル式の精度は低いと思われる。 図7 型枠量の比較 以上の分析結果から、前研究で提案した主要躯体数量の予測モデル式から算出した概算数量 は、誤差の平均値の差は小さいが、バラツキの程度が大きい(精度が低い)ことがわかった。 今後、概算数量の精度を高めるためにはモデル式の見直しが必要であると思われる。なお、精 度の向上のためには建物用途などその他の変動要因による差についても考慮することが必要であ り、そのためには正確なデータの蓄積が一層重要になっているのではないかと思われる。 84
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