2 研究発表 ■ インターネットを活用した 新しいテレビ体験の実現を目指して 山村千草 Working Towards a New TV Experience Using the Internet Chigusa YAMAMURA 概 要 ABSTRACT インターネットの発展やスマートフォンの急速な普及に伴 With the development of the Internet and the widespread use of smartphones, the media environment surrounding us and our lifestyles is changing dramatically. In order for television to continue to live up to people's expectations as a familiar and reliable medium amid the diversification of information media, we believe it is necessary to redesign what TV ought to be in the Internet and mobile era. NHK STRL aims to expand the range of TV-linked experiences to include not just ones in front of the TV sets but also outdoors and in various other scenes of our daily lives by combining the use of mobile devices with "Hybridcast," which is a s e r v ice p la t fo r m fo r t he co nve rgence of broadcasting and telecommunications. This report describes the concept of a "new TV experience," which brings new discoveries and v a l u e s t o eve r yd a y l i fe by p r ov i d i n g T V programs and related information to mobile users depending on their situations. We also present two key technologies to realize the concept: One technology is "media unifying technology" that automatically selects the appropriate video viewing method according to user’s reception environment and available broadcast/Internet channels for the intended program. The other technology is "content matching technology for daily life" that offers users the topics and information provided in TV programs in connection with their daily life. い,人々を取り巻くメディア環境や生活スタイルは大きく変 化している。情報メディアが多様化する中,今後もテレビが 身近で信頼されるメディアとして期待に応えていくには, ネッ ト・モバイル時代におけるテレビの在り方を改めてデザイン していく必要があると考える。当所では,これまで研究開 発に取り組んできた放送通信連携システム“ハイブリッド キャスト”をベースにしながら,モバイル端末を活用し,テ レビ受信機の前だけでなく,屋外も含めたさまざまな生活 シーンの中でテレビ視聴とつながった体験を広げていくこと を目指している。本研究発表では,番組で提供された話題 や情報が,日常の行動と連動して生活の中に新たな気付き や価値をもたらす“新しいテレビ体験”のコンセプトについ て,これまでに検討したサービス例を交えながら説明する。 また,それを支える技術として,伝送路や視聴環境を意識 せずに最適な動画視聴を自動的に選択する「メディア統合 技術」と,番組で提供された話題や情報を日常の行動と連 動させて提供する「行動連携技術」を紹介する。 36 NHK技研 R&D ■ No.158 2016.8 1 研究発表 ■ 1.まえがき が,それに加えて2015年10月,在京民放5局が連携して広 告付き無料見逃し番組配信サービスTVer5)を新たに立ち上 近年,メディアを取り巻く環境や人々の生活スタイルは大 げた。また,Hulu6)やdTV7)に加え,昨年にはNetflix8)や きく変化している。テレビや新聞,雑誌など従来型メディア Amazonプライム・ビデ オ9)など, 大 手OTT(Over The への接触が減少傾向にある一方で,インターネットメディア *1事業者の定額見放題VODサービスが日本で次々と Top) への接触は着実に増加している1)。特に,スマートフォンや 開始され,インターネット上には,数多くの高品質な動画コ タブレット端末などの急速な普及によって,モバイル端末か ンテンツが提供されている。 らのメディア接触は大幅に伸びており,いわゆる「モバイル これらのサービスは,テレビ,パソコン,スマートフォン シフト」の流れは顕著である2)。また,少子高齢化や共働き などでの利用を想定したマルチデバイス環境に対応してお 家庭の増加などの社会環境の変化を背景に,家族がそろっ り,ユーザーは自分の見たいコンテンツを,自分の好きなタ てリビングのテレビを楽しむ機会は減り,「お茶の間の家族 イミング,かつ,自分の好きな環境で楽しむことができる。 団らんの象徴」として親しまれてきたテレビは徐々に姿を変 時間や場所の制約を受けずに自分のペースでコンテンツを えつつある。 楽しむスタイルは,インターネット環境では広く定着してきて その一方で,今でもテレビから得られる情報には高い信 いる10)。 頼が寄せられている3)。また,「番組で紹介されたお店や商 また,モバイル端末を活用したコンテンツ接触により,例 品がはやる」 「番組で取り上げられた内容がインターネット上 えば,電車の中ではテキスト文で書かれた短めのニュースを で多く検索される」 「SNS(Social Networking Service)上 読み,キッチンでは料理の作り方を動画で視聴するといった で番組に関する話題が盛り上がる」といったように,テレビ ように,ユーザーは生活シーンに応じた適切なコンテンツや はマスメディアとして強い話題性を持ち,多くの視聴者(以 情報を求めるようになった。膨大なコンテンツから,いかに 下, ユーザー)の興味や関心を引き付けている。インターネッ 適切なコンテンツを発見できるかは大きな課題であり,各事 ト空間上ではコミュニティー化や集団分極化が進む中で 4), 業者ともレコメンドエンジン*2の開発などに注力している11) 。 マスメディアは共通の話題を提供し,人々の間につながり感 や安心感をもたらす一定の効果を生んでいると言える。テレ ビが今後も共通の話題の源泉として,身近で信頼できるメ ディアであり続けるためには,インターネットやモバイル端 末の利用が日常となった生活空間の中でテレビのサービス 3.ネット・モバイル時代における “新しいテレビ体験” 3. 1 テレビ受信機のIoT化 に触れられる機会を増やし,ユーザーにとって価値ある体 インターネット接続機能を活用したスマートテレビ12)13)の 験を提供していく必要がある。そこで当所では,放送通信 市場が拡大し,テレビ受信機のIoT(Internet of Things) 連携システム「ハイブリッドキャスト」をベースに,屋内のテ 化*3が進んでいる。テレビ受信機を安価にスマートテレビ レビ受信機の前だけではなく,屋外を含むさまざまな生活 化できるGoogle Chromecast14)の登場や,他の端末との シーンの中で,モバイル端末を用いて番組や関連の話題に 15) 連携を容易にするDIAL(Discovery And Launch) プロ 身近に接することができる“新しいテレビ体験”の実現を目指 トコルなどの広がりも影響し,テレビ画面上でインターネッ し,研究開発に取り組んでいる。 ト動画を視聴することは身近になった。また,放送と連携 本研究発表では,近年のコンテンツ接触スタイルの変化 した スマ ートテレビとして は, 欧 州 のHbbTV(Hybrid について触れるとともに,今回提案する“新しいテレビ体験” 16) Broadcast Broadband TV) があり,2015年12月時点で, のコンセプトを,それを支える2つの技術「メディア統合技 欧州の15か国において電子番組表や見逃し番組視聴を中心 術」と「行動連携技術」と併せて紹介する。最後に,今後 としたサービスが展開されている。 の課題と展望について述べる。 当所でもこれまで,インターネットを活用した豊かな放送 サービスを実現するための放送通信連携システム 「ハイブリッ 2.コンテンツ接触スタイルの変化 近年,インターネットによる動画配信ビジネスは急速に発 展してきている。これまでもNHKや各放送事業者は,見逃 し 番 組や 過 去 の 視 聴 要 望の高 い 番 組を提 供 するVOD (Video On Demand)サービスを事業者ごとに行ってきた *1 通信事業者やインターネットサービスプロバイダーとは無関係に,インター ネット回線を通じて,動画や音声などのコンテンツを提供するサービス,ま たそのサービスを行う事業者。 *2 ユーザーが興味を持つと思われる情報やコンテンツを提案する仕組み。 *3 さまざまなモノをインターネットに接続すること。 NHK技研 R&D ■ No.158 2016.8 37 放送 映像・音声・データ アプリ制御信号 アプリ ハイブリッドキャスト 受信機 アプリケーション ケーシ ョン 通信 ケ アプリ 動画 ネット ン・ ーショ アプリケーション 実行環境 ブラウザー ネット動画 再生機能 受信機機能API※ 端末連携機能 スマートフォン・ タブレット端末 サーバー ※ Application Programming Interface 1図 ハイブリッドキャストの概要 ドキャスト」 (1図)の研究開発および標準規格化に取り組ん 向上させることができる。現行の端末連携機能は,メーカー できた。2013年3月にはハイブリッドキャスト技術仕様1.0版 独自のプロトコルで実装されているため,受信機メーカーが がIPTVフォーラム*4で策定され17)18),ARIB(Association 配布する専用のアプリケーション (以下,コンパニオンアプリ) of Radio Industries and Businesses:電波産業会)での標 が必要となるが,現在,オープンなウェブ技術を用いた端 準規格の改定19)を経て,2013年9月に,NHKによるハイブ 末連携プロトコルの共通化が進められており,今後は1つの リッドキャストサービスが開始された20)。 コンパニオンアプリで各メーカーのテレビと連携することが ハイブリッドキャストは,HTML5(HyperText Markup 可能となる見込みである(2図)。 Language 5)をベースにした放送通信連携サービスであり, このように,ハイブリッドキャストはオープンな技術を採 高品質かつ高信頼なコンテンツを一斉に送り届けることがで 用したことで,インターネット上の膨大な資産を有効に活用 きる放送の特性と,ユーザーの個別の要求に応えることがで できるとともに,他の端末とも容易につながることが可能 きる通信の特性を生かして,表現力とインタラクティブ性を になった。これによって,テレビはさまざまなインターネット 兼ね備えた豊かなサービスを実現することができる。ハイブ サービスやユーザー行動とも深く連携できる端末へと進化 リッドキャスト対応受信機は,現在8社のメーカーから発売さ したと言える。 れている。2015年12月時点での累積出荷台数は340万台に上 3.2 ユーザー体験の重要性 り,今後も順調な出荷台数の推移が見込まれている21)。 近年,さまざまなサービス分野において,ユーザー体験 2014年 6 月 に は,MPEG-DASH(Dynamic Adaptive 25)やユーザー中心設 計(UCD: (UX:User Experience) *5による動画再生や,放送局以外 Streaming over HTTP) 26) User Centered Design) の重要性が注目されている。継 の事業者がサービスを提供できる放送外マネージドなどの 続的に利用されるサービスを目指すには,機能や性能面の 高度なサービスを実現するために,ハイブリッドキャスト技 技術の進展はもとより,ユーザーのうれしさや快適さ,満 術仕様2.0版が策定され22)23),現在,運用規定 24)に合わせ 足度を追求するサービスデザインが必要とされ,多くの企業 た段階的な実用化が進められている。 がユーザー体験をデザインすることに注力している。また, ハイブリッドキャストの特長の1つに,端末連携機能があ 「テレビで動画を視聴する」 「番組表などの画面を操作する」 る。端末連携機能は,家庭内のネットワーク上で,モバイル といった個別の動作の利便性や使いやすさを向上させるだ 端末をテレビに接続することにより,放送番組を視聴しなが ら手元のモバイル端末で番組の関連情報を閲覧することや, テレビ上で再生された動画をモバイル端末で制御することな どを可能にする。これにより,モバイル端末を放送通信連 携サービスのセカンドスクリーンとして,表現性や利便性を 38 NHK技研 R&D ■ No.158 2016.8 *4 ネットにテレビを接続して映画や番組を視聴するIPTVの国内規格を策定 している民間の標準化団体。 *5 ISO/IEC(International Organization for Standardization / InternationalElectrotechnicalCommission:国際標準化機構/国際 電気標準会議) で国際標準化された動画配信方式。 2 研究発表 ■ 現 状 端末連携プロトコルの共通化 ハイブリッドキャスト 受信機(A社) ハイブリッドキャスト 受信機(A社) A社 CA※ A社仕様 ハイブリッドキャスト 受信機(B社) ハイブリッドキャスト 受信機(B社) B社 CA 共通 CA B社仕様 ハイブリッドキャスト 受信機(C社) ハイブリッドキャスト 受信機(C社) C社 CA スマートフォン・ タブレット端末 端末連携 共通仕様 … … C社仕様 ※コンパニオンアプリ 2図 ハイブリッドキャスト端末連携プロトコルの共通化 テレビ(マスメディア)の価値 - 共通の話題によるつながり感 - 情報の信頼性 - 多岐にわたる情報や多様な価値観 放送 通信 生活に寄り添うテレビ 持ち出し テレビ受信機 モバイル端末 モバイル端末 (1) いつでもどこでも,簡単・快適なコンテンツ視聴 (2) 個人の行動や状況に合わせた話題や情報の提供 3図 “新しいテレビ体験”のコンセプト けではなく,その前後の行動も含めた一連の時間の流れの 欠となる。 中でどのような価値を提供できるのかが,ユーザーの心を 3.3 “新しいテレビ体験”のコンセプト つかむうえでポイントとなる27)。 インターネットやモバイル端末によるコンテンツ視聴環境が メディア環境が変化し,ユーザーのコンテンツ接触スタイ 整った今,我々は改めてユーザーの視点からテレビのサービ ルが変化する中で,今後もテレビが親しまれるメディアであ スを捉え直し,日常生活の中で価値の高い番組や情報に身 り続けるためには,テレビによるユーザー体験をより豊かな 近に接してもらえるテレビ体験を実現していく。 そのためには, ものとし,ユーザーの満足度を向上させることが必要不可 これまでリビングのテレビ受信機の前で果たしてきたテレビ NHK技研 R&D ■ No.158 2016.8 39 配信メディア ①高校野球が見たい! 放送 コンテンツ配信状況を 管理するサーバー 通信 番組リンク ⑥コンテンツ要求 番組リンク メディア 統合エンジン ⑤最適な配信 メディアを決定! ②高校野球の 配信状況を 問い合わせ ③ ④ 配信状況リスト (伝送路・配信形式など) 高校野球の配信状況 視聴環境 (信号品質・端末機能など) フルセグ(放送) 同時配信(通信) 4図 メディア統合技術の動作例 視聴環境 配信状況 フルセグで高画質! フルセグ(放送) 自宅でテレビ ネットでリアルタイム視聴! フルセグ(放送) 同時配信(通信) 自宅でタブレット ワンセグ(放送) 同時配信(通信) ワンセグで手軽に視聴! VOD(通信) ワンセグ(放送) VODではじめから! 外出先でスマートフォン VOD(通信) 5図 状況に応じた番組視聴の例 の役割を,屋外も含めたさまざまな生活シーンの中に拡張し もう1つは, 「多くの人と共有できる話題に接することがで ていく(3図)。当所では,“新しいテレビ体験”の実現に向 きる」というテレビの特性を,日常生活空間の中に広げてい けて取り組むべき課題として,2つのアプローチに着目した。 くアプローチである。テレビには,「社会や他者とつながる 1つは,テレビが本来持つ「電源をつけるだけの簡易な 感覚」を得られる効果があり,特に「住んでいる場所など 操作で,必ず番組が映る」という気楽さを,モバイル端末を 自分に関係すること」に対してはその効果が強いと報告され 含む多様な視聴環境にも拡張するアプローチである。現状 ている28)。ユーザーの日常の生活や行動に密着した共通の では,配信メディアや利用端末ごとにコンテンツ視聴のため 話題を提供することで,強い「つながり感」を生みだす体験 の操作が異なり,ユーザーにとって快適な視聴環境が実現 を提供していく。 できているとは言い難い。今後は,コンテンツの視聴環境が 次章では,上記の各アプローチから進めている2つの技 多様化する状況下においても,ユーザーが簡単かつ快適に 術「メディア統合技術」と「行動連携技術」について,より コンテンツを視聴できる環境を整えていかなければならない。 具体的に述べる。 40 NHK技研 R&D ■ No.158 2016.8 2 研究発表 ■ 放送局 Web API 番組 データ サービス事業者 各種 データ 行動や状況に合わせた データのマッチング Linked Data 提示・通知手法 行動 データ プライバシー保護 端末間認証連携 視聴 データ 行動連携 機能 ハイブリッドキャスト アプリ 端末連携 コンパニオンアプリを拡張 (モバイル端末) 6図 行動連携技術 屋内 屋外 端末連携 番組視聴 … 行動に合わせた情報や話題の提供 ハイブリッドキャスト受信機 ハイブリッド キャスト受信機 VOD 機能 近くの 美術展情報 ♪ モバイル端末 インターネット行動 (検索・SNS・購買など) この近くで, 番組で紹介されていた 美術展やっているんだ! モバイル端末 テレビ体験の持ち出し リアルな行動 (訪問・店舗での購買など) 番組視聴が屋外での実生活シーンで役立つ 行動をきっかけに価値のある番組と出会う 7図 番組視聴とリアルな行動とをつなぐ行動動線 4.“新しいテレビ体験”を支える2つの技術 技術の動作例を示す。 4. 1 メディア統合技術 ジンは,番 組コンテンツを示すURL(Uniform Resource 現在,番組コンテンツは,放送,インターネット同時配信, 4図において,受信端末上で動作するメディア統合エン Locator)形式で記述された「番組リンク」を基に,サーバー VODサービスなど多様な方法で視聴されているが,配信メ 上で管理されているコンテンツの配信状況(配信メディア,配 ディアや利用端末によってコンテンツを視聴するための操作 信形式,配信ビットレートなど)を参照し,ユーザーの視聴 が異なり,その使いづらさがユーザーのコンテンツ視聴機 環境(受信信号の品質,受信端末の機能など)に合わせた最 会を失う要因となっている。そこで,配信メディアや利用端 適な配信メディアを自動的に選択する。これによって,ユー 末に依存せず,ユーザーが視聴したいコンテンツを統一的 ザーは配信メディアや利用端末を特段意識することなく,番 な操作で選択し,利用状況に応じて最適な受信方法で視 組リンクをワンクリックするだけの簡易な操作で,視聴したい 聴するための技術を開発している29)。4図に,メディア統合 コンテンツを最適な条件で視聴できるようになる(5図)。 NHK技研 R&D ■ No.158 2016.8 41 4. 2 行動連携技術 供の価値を最大化していく。 番組の視聴データとユーザーの行動データ,番組に関連 そのためには,放送事業者だけではなく,さまざまなサー するデータと外部事業者のデータを連携させることで,テレ ビス事業者との連携が重要となる。今後,外部の事業者と ビの話題や情報をユーザーの行動や状況に合わせてマッチ も連携しながら,共通フレームワークの検討を進めるととも ングして提供する技術を開発している(6図)。 に,端末間の認証連携手法,行動に合わせたデータの構 番組に関連するさまざまなデータを人々の行動(例えば位 造化およびデータマッチング手法,事業者間でのデータ交 置情報など)に合わせて構造化しておき,ユーザーの外出 換手法,パーソナルデータの安全な管理手法など,個別の 先や購買などの行動に合わせた番組情報を提供することに 技術検討を進めていく。 より,日常生活の中で価値のある番組や情報との出会いを 創出できる30)。また,テレビのIoT化によって,テレビでの 番組視聴とその後のインターネット行動(検索やSNS共有な ど),実空間上のリアルな行動(訪問,購買など)が一連の 5.むすび 本研究発表では,インターネットやモバイル端末を活用し, ユーザー行動としてつながることで,ユーザーの行動動線を 日常生活の中でテレビの価値に身近に触れられる“新しいテ 意識したサービス提供が可能となる(7図)。ウェブの世界 レビ体験”のコンセプトを示し,それを支える2つの技術「メ では,インターネット上のユーザーの行動を分析して情報提 ディア統合技術」と「行動連携技術」について紹介した。 供の価値を高める研究が盛んに行われているが,我々はハ 今後は,“新しいテレビ体験”のコンセプトを具現化した イブリッドキャストと連携可能なモバイル端末上のコンパニ サービスについて,フィールド実験などの場を通して評価を オンアプリを用いることで,テレビの視聴からリアルな行動 得ながら,ユーザーである視聴者にとって価値の高いテレビ までを含めた一連のユーザー行動において,番組や情報提 体験の提供を目指して研究開発を行っていく。 42 NHK技研 R&D ■ No.158 2016.8 2 研究発表 ■ 参考文献 1) 木村,関根,行木:“テレビ視聴とメディア利用の現在~ 「日本人とテレビ・2015」調査から~, ” 放送研究と調査,2015年8月号, pp.18-47 (2015) 2) 博報堂DYメディアパートナーズ:“メディア定点調査2015, ” http://www.media-kankyo.jp/news/media/ (2015) 3) 総務省:“平成26年 情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査, ” http://www.soumu.go.jp/main_content/ 000357570.pdf (2015) 4) キャス・サンスティーン:インターネットは民主主義の敵か,毎日新聞社 (2003) 5) TVer,http://tver.jp/ 6) Hulu,http://www.hulu.jp/ 7) dTV,http://video.dmkt-sp.jp/ 8) Netflix,https://www.netflix.com/jp/ 9) Amazonプライム・ビデオ,https://www.amazon.co.jp/gp/video/primesignup/ 10) 電通総研:情報メディア白書,ダイヤモンド社 (2016) 11) 西田:ネットフリックスの時代 配信とスマホがテレビを変える,講談社 (2015) 12) AndroidTV,https://www.android.com/intl/ja_ jp/tv/ 13) Apple TV,http://www.apple.com/jp/tv/ 14) Chromecast,https://www.google.com/intl/ja_ jp/chromecast/ 15) DIAL,http://www.dial-multiscreen.org/dial-protocol-specification/ 16) HbbTV,http://www.hbbtv.org/ 17) IPTVFJ STD-0010:“IPTV規定放送通信連携システム仕様1.0版” (2013) 18) IPTVFJ STD-0011:“IPTV規定HTML5ブラウザ仕様1.0版” (2013) 19) 電波産業会:“デジタル放送におけるデータ放送符号化方式と伝送方式(5.8版)第四編, ” ARIB STD-B24 (2013) 20) NHK Hybridcast,http://www.nhk.or.jp/hybridcast/online/ 21) 電子情報技術産業協会CE部会:“AV&IT機器世界需要動向~2020年までの展望~ ” (2016) 22) IPTVFJ STD-0010:“IPTV規定放送通信連携システム仕様2.0版” (2014) 23) IPTVFJ STD-0011:“IPTV規定HTML5ブラウザ仕様2.0版” (2014) 24) IPTVFJ STD-0013:“ハイブリッドキャスト運用規定2.2版” (2016) 25) The Definition of User Experience,https://www.nngroup.com/articles/definition-user-experience/ 26) ISO9241-210:“Human-centred Design for Interactive Systems” 27) 朝岡:エクスペリエンス・ドリブン・マーケティング,ファーストプレス (2014) 28) 西,舟越:“人々は,テレビを見ながら何を共有しているのか~ 「つながり感覚とメディア調査」から~,” 放送研究と調査,2014 年6月号,pp.18-47 (2014) 29) 遠藤,大亦,松村,藤澤,加井:“放送通信統合型コンテンツ視聴プラットフォームの提案, ” FIT2015,M-021 (2015) 30) 山 村, 大 亦, 上 原:“屋 外 行 動 位 置を利 用した番 組 情 報 提 示システムの 提 案と試 作,” 信 学 技 報,Vol.115,No.295, LOIS2015-38,pp.53-58 (2015) やまむら ち ぐさ 山村 千草 2005年入 局。名古屋放 送 局を経て,2008年 から放 送技 術研究 所において,アイデンティ ティー管理,情報セキュリティー,放送通信連携 サービスの研究・開発に従事。現在,放送技術 研究所ネットサービス基盤研究部に所属。 NHK技研 R&D ■ No.158 2016.8 43
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