インドの金融政策枠組み変更の背景にあるもの

リサーチ TODAY
2016 年 8 月 30 日
インドの金融政策枠組み変更の背景にあるもの
常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創
アジア新興諸国で相次いで金融政策の枠組みが変更されている背景には、世界金融危機後の先進国に
おいて長引く金融緩和の下、金融政策の波及効果(トランスミッション)機能が低下したという共通の問題が
あった。新たな枠組みは金融政策のトランスミッションを高める方向に改善されている。インドでは、流動性問
題への対処に加えて即効性のある措置を併用したことで、金融政策の効果がより表れやすくなっている。み
ずほ総合研究所はインドを中心にアジアでの金融政策の枠組み変更に関するリポートを発表している1。
インド準備銀行(RBI)は4月5日に開催した金融政策会合において、下記の図表に示されるように、政策
金利であるレポレートを6.75%から6.50%へ引下げることを決定した。同時に、「流動性管理の枠組み」を
発表した。同制度は、銀行が流動性・定期性債務のうちRBIに義務的に積み立てる割合である現金準備率
(CRR)をこれまで通り4%に据え置く一方、当該積み期間である2週間の1日当たり平均準備率の下限を
95%から90%に引下げる等に枠組みを変更するものであった。今回の措置の背景には、銀行部門の流動
性不足などの要因から金融政策のトランスミッションが遅いというRBIの問題意識があった。
RBIは、2013年に米国が量的金融緩和策を巻き戻すという観測から、通貨ルピーが急落に見舞われた
際、通貨防衛のために利上げや流動性引き締め策を迫られた。
■図表 :インドの政策金利と銀行間金利の推移
12 (%)
レポレート
リバースレポレート
11
MSFレート
10
コールレート
9
8
7
6
5
(年/月)
4
12/01
12/07
13/01
13/07
14/01
14/07
(注)コールレートは後方 5 日移動平均値。
(資料)インド準備銀行、Bloomberg よりみずほ総合研究所作成
1
15/01
15/07
16/01
16/07
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2016 年 8 月 30 日
その後RBIは正常化を進め、2015年1月からは利下げに転じており、政策金利は累計で1.25%低下した
が、下記の図表に示されるように、主要銀行の平均貸出基準金利(ベースレート)の低下幅は0.70%程度
にとどまっていた。先述の「流動性管理の枠組み」の変更により銀行部門の流動性の不足が緩和され、貸
出金利の低下が促されると期待されている。
■図表 :インドの政策金利と貸出金利の推移
11
(%)
レポレート
貸出基準金利(ベースレート)
10
9
8
7
6
5
11
12
13
14
15
16
(年)
(注)貸出基準金利(ベースレート)はインド・ステート銀行による。
(資料)インド準備銀行、Bloomberg よりみずほ総合研究所作成
インドは今日、この金融面の改革に加えて、税制面で間接税改革を行おうとしている2。インドを中心に新
興国においては、未成熟な金融市場など枠組み以外にも金融政策のトランスミッションを阻害する要因が
あり、それらが解消されなければトランスミッション問題の解決は不十分である。インドにおいては不良債権
問題もトランスミッション上の制約になっている。これまで改革を重視してきたRBIのラジャン総裁が任期満
了で退任を表明する中、改革の姿勢をいかに市場に浸透できるかが今後のRBIの課題である。
昨年来、新興国問題がグローバルな市場で話題になっていたのは、新興国の債務問題と同時に、米国
が利上げに向かうという環境の下での、新興国通貨安への不安があった。それゆえ、通貨安のなかで通貨
防衛のために利上げを余儀なくされた新興国も多かった。こうした中、米国のドル高トレンドが2016年にな
って大きく転換したことは、新興国において懸念されていた通貨不安を和らげ、同時に国内で利下げを行
う環境を整えることとなった。インドも含めた新興国においては、今後の金融市場の安定に米国の金融為
替政策から受ける影響を考慮する必要も大きい。それだけに、米国FRBとしては国内要因だけでなく、新興
国を中心とした海外要因にも配慮することが必要となっている。先週のジャクソンホールでの会合以降、急
速に米国FRBの利上げ観測が生じているが、そう簡単に利上げは行えないだろう。
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多田出健太「アジア諸国で相次ぐ金融政策枠組み変更の背景とその狙い」 (みずほ総合研究所 『みずほインサイト』 2016 年
8 月 17 日)
小林公司「インド間接税改革が一歩前進」 (みずほ総合研究所 『みずほインサイト』 2016 年 8 月 17 日)
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